その女性を見た瞬間から心臓が早鐘のように打ち鳴らされ、目には彼女しか映らなくなってしまう。
金糸のように輝く長い髪に、そこから横に伸びたエルフの代名詞である細長く神秘的な耳。
空を加工して作ったのかと思うほど青く澄んだ大きな瞳。
顔のパーツは整っているだけではなく、すべてが絶妙な位置に配置されており、神の御業を想像させる。
細長い手脚に華奢な体つきはどこか幼さを感じさせ、庇護欲を刺激してやまない。
カシアによく似ているものの、彼女と会ったときとは比べ物にならない感動に襲われた。
ロクサーヌやセリー、ミリアを見たときと同じ、魂に訴えかけてくるような情動だ。
あっ。鑑定を使わないと。
思いがけず彼女に出会った衝撃で、大切なことを忘れていたことに気が付き急いで使用する。
ルティナ・ノルトシュヴァルツ ♀ 14歳
村人Lv1
え? あ、そうか。ルティナはこの時点ではまだ十四歳なのか……。
ベスタと同じくオークションの日、季節の切り替わりである夏の休日に十五歳となるのだろう。
まだ成人を迎えていないため継嫡家名はないが、ノルトシュヴァルツという苗字が存在している。
さらに、村人のレベルは1。
他の娘と違い、彼女だけはウェブ版と書籍版で大きく異なる点がある。
家を攻め滅ぼされた上に奴隷へ落とされ、それに協力した者に譲渡されたという事情があるため仕方がないが、ウェブ版ではロクサーヌとセリーに分からせられるまで、問題のある態度をとっていた。
それに、実家が迷宮討伐を怠っていたことについての反省が見られず、諸侯会議で活躍することしか頭になかった印象だ。
ただハルツ公曰く、気を張っているだけで本当は優しい良い娘らしい。
そして、幼い頃に多少のパワーレベリングを受けていたため村人のレベルは2となっている。
対して、書籍版のルティナは自らの怠惰を反省した上で、パーティーメンバーと協力して迷宮に挑むことを誓う。
ウェブ版に比べて性格もだいぶマイルドだ。
諸侯会議についても憧れを抱いているようではあったが、それだけに拘泥している様子は見られない。
パワーレベリングは行われておらず、村人のレベルは初期値のままだ。
どちらの彼女も大好きだったが、セルマー伯爵領のおかれている状況を見てしまった今となっては、反省をする女性であってほしい……。
「あ、あの。カシア姉様はいらっしゃらないのですか?」
俺がガン見していたせいだろう。彼女は戸惑ったようにそう尋ねた。
「え、ええ。時間がかかるということでしたので、カシア様はお知り合いの所へご挨拶に赴かれております」
「そうですか……」
その美しいかんばせに残念そうな表情が浮かぶ。
「で、では失礼します」
すると、不味いと思ったのかタチアナが一礼して逃げるように部屋を去っていった。
俺にはどうすることも出来ないが、まあ幸運を祈ってるよ。
彼女を見送ったところでルティナが口を開く。
「姉様が戻るまで、ここで待っていてもよろしいでしょうか?」
えっ!? マジ!?
「もちろんです。あっ。申し訳ありません。座ったままで失礼いたしました」
大急ぎで立ち上がると、彼女は神が作りたもうたであろう顔に笑みを浮かべ答えた。
「問題ありません。どうぞそのままで」
ルティナの雰囲気はウェブ版どころか、書籍版と比べても随分と柔らかな印象を受ける。
まだ父親が健在で一家離散もしておらず、自身も奴隷に落ちていないからなのだろう。
彼女がソファーに座ったところで、こちらもその正面に腰を下ろした。
「わたくしはセルマー伯爵の長子、ルティナ・ノルトシュヴァルツです。あなたのお名前をおうかがいしてもよろしいでしょうか」
「セルマー伯爵閣下のご息女でしたか。これは失礼いたしました。私はハルツ公爵閣下の視察に同行させていただいております、アユム・タガワと申します」
「まあ。公爵様が同行を許すとは、アユム様は優秀でいらっしゃるのですね」
彼女はそう言うと笑みを浮かべる。
俺の名前に反応を示さず、同行している理由を察した様子もない。
おそらくハインツ一味が討伐されたことを知らされていないのだ。
このあどけない笑みを浮かべている娘の今後を思うと胸が苦しくなってしまう。
父親から迷宮に入る必要はないと言われ、罪悪感を覚えているのかもしれないが、親の言うことだからとそれに従っている。
このままではいけないと考えていたとしても、セルマー伯爵家の置かれている状況の危うさについて考えが及んでいない。
民の守護者たる貴族としての義務感や使命感に欠けており、そして致命的に危機感が足りない。
……俺は今、余計なことを考えているな。
頭の中の冷静な部分が馬鹿な真似をするなと諭している。
彼女を手に入れたいという欲望もやめろと叫んでいる。
ちっぽけな良心さえも俺以外の奴隷になった場合、彼女が不幸になると訴えかけている。
ロクサーヌは俺が転移した時点で既に奴隷になっており、セリーとミリアについては助言できるチャンスなどなく、ベスタは生まれながらの奴隷身分だ。
しかし、ルティナについてはその機会に巡り合ってしまった。
何を言ったところで彼女の運命は変わらないかもしれない。
それがハルツ公に伝われば不興を買うかもしれない。
もしこの部屋が監視されていた場合、セルマー伯爵家に不敬を働いたと責められるかもしれない。
ここまで積み上げてきた流れが壊れるかもしれない。
この娘に嫌われるかもしれない。
そして、ルティナが俺の下に来ることがなくなるかもしれない。それが何より恐ろしくてたまらない。
だが、それでも彼女に選択肢を与えてやりたい。
俺は一生、この行動を後悔するかもな……。
意を決して口を開く。
「セルマー伯爵令嬢。失礼なことを申し上げるかもしれませんが、お許しいただけますか?」
「え? はい。かまいません」
ルティナはきょとんとした顔でこちらを見つめている。
「セルマー伯爵領が現在直面している問題についてはご存じですか?」
俺の質問を聞き、彼女の顔が曇った。
「盗賊が領内を荒らしまわっていることでしょうか……」
……迷宮の状況どころか、ハインツ一味が移動したことすら知らされていないらしい。
「そうではありません。ハインツ一味は他領へ移動し、そこで討たれております」
「そうなのですか! ハインツ一味はセルマー伯爵家の者を何人も殺めているのです。ようやくその報いを受けたのですね……。残された者が少しでも心穏やかに過ごせるとよいのですが……」
一瞬、大きな声を上げたものの、すぐにしんみりとした口調に変わる。
そして、何かに気が付き尋ねた。
「盗賊の件ではないとなると、どういったことでしょう?」
震えそうになる唇をぎゅっと結び、一拍おいてから声を出す。
「セルマー伯爵領では迷宮の討伐がまったく進んでおらず、騎士団による攻略もほとんど行われていません」
「えっ」
ルティナは呆気にとられたような表情でこちらを見つめている。
「迷宮討伐は貴族に課せられた義務です。これを果たし、民を守護するからこそ、徴税の権利を与えられ、庶民には味わうことのできない贅沢が許されています。セルマー伯爵令嬢、あなた様は迷宮に入っていらっしゃいますか?」
自分でも言ってて何様だと思う。
四十五年生きてきて命の危険を感じたこともなければ、不潔な場所で寝起きしたこともなく、そして食べるものにも一切困ったことはない。
身の回りには娯楽であふれ、帝国皇帝ですら体験したことのない豊かな生活を送ってきたはず。
この世界に来てからだって、キャラクター再設定と原作知識のおかげで迷宮探索は順調そのものだ。
そんな奴が他者に対し危険に立ち向かえと言おうとしている。こんなに酷い話はないだろう。
だが、言わなくてはならない。
見つめていると、ルティナは申し訳なさそうに顔を伏せた。
やはり彼女自身、セルマー伯爵領の現状が良くないものだという自覚はあったのか……。
「差し出がましいこととは存じますが、助言を行いますので、もしよろしければ試してはいただけませんか?」
すると、顔を上げて尋ねる。
「助言ですか?」
「はい。セルマー伯爵令嬢が迷宮で戦う力を得られるよう、余計なお世話を焼かせていただきたいのです」
それを聞き、清楚でありながら艶やかさも備えた口元が綻ぶ。
「ふふ。余計なお世話を焼くのですか? アユム様は変わったお方なのですね」
よかった。気分を害した様子はない。
無礼者とか言われなくて助かったぞ。
「そうですね。私はこの世界で一番の変わり者かもしれません」
その言葉にルティナはころころと笑い声を漏らしている。
冗談だと思っているみたいだけど、これに関してはガチなんだよなぁ。
落ち着きを取り戻したところで、表情を引き締め彼女が口を開く。
「迷宮討伐が進んでいないことについては、以前から一族の長にお小言をいただいておりました。それに迷宮へ入っていないことについても、いけないことだと思っていたのです」
そうか……。原作によればカッサンドラ婆さんはルティナにうるさく言っていたみたいだしな。
「アユム様。わたくしにご助言いただけますか?」
「かしこまりました。よろしくお願いいたします」
「ふふ。それはわたくしの言葉です」
ルティナはそう言って笑みを浮かべる。
あら、可愛い。
「それでは、私が考える今後セルマー伯爵令嬢が取るべき行動についてお話しさせていただきます」
「お待ちください。教えを乞うのです。わたくしのことはルティナとお呼びください」
マジで!? 本当にいいの!?
驚きを抑え込み確認を行う。
「よろしいのですか?」
「ええ。問題ありません」
問題しかない気がするが、俺的にもそっちの方がしっくりくるし、彼女の言葉に甘えることにしよう。
「それではルティナ様とお呼びいたします」
「はい」
名前を呼ぶと彼女ははにかんだような表情を浮かべていた。
めちゃくちゃ可愛いな、おい。
そのいたいけな様子にノックアウトされそうになったものの、気合を入れなおし説明を行う。
「まず、貴族の子女はそのほとんどが幼少のみぎりに自爆玉を使用しており、魔法使いになるための条件を満たしています。伯爵家のご令嬢であるルティナ様も間違いなくそれに当てはまるでしょう」
「はい。亡き母からそのようなことを聞かされております」
「それは重畳。では、ルティナ様が最初になさるべきことは、伯爵家騎士団の中で迷宮攻略に長けた者を十人集めることです。そして、二組に分けた上で半日ずつ迷宮攻略を行ってもらってください」
彼女はそれを聞くと納得したように頷く。
「なるほど。英才教育を行うということですか。わたくしはその者たちが迷宮へ赴く際、パーティーに加入するのですね」
英才教育? パワーレベリングのことをそう呼んでいるのか? 英才教育じゃなくて寄生と呼ぶべきだと思うんだが……。
……いや、今は気にしないでおこう。
「探索する階層が二十六階層以降で、両方のパーティーに魔法使いがいた場合、遅くとも十日ほどで魔法使いへのジョブ変更が認められるでしょう」
「わたくしが姉様と同じ魔法使いに!」
ルティナの表情が輝き、興奮で頬が紅潮していた。
今の言葉を聞くに、彼女はカシアへ憧れているのだろう。
……それがあんなことになるわけか。
思索を振り払い、話を続ける。
「はい。間違いなく達成可能です。ただし、迷宮に入る騎士がしっかり魔物を倒していた場合はですが」
すると、彼女の目つきが鋭いものへと変わった。
「アユム様は当家の騎士たちが魔物を倒さないとおっしゃるのですか?」
自分の家の騎士団を侮られたと思ったんだ。そりゃそうなるよなぁ。
魔法使いへのジョブを獲得する条件である村人レベル5なら、それだけの期間があれば獲得経験値二十倍がなくても十分達成可能だ。
だが、もしそれで達成できなかった場合、迷宮に入っている騎士団員がサボったとしか考えられない。
彼女に嫌われたとしてもこれを伝える必要がある。
「はい。そう申し上げています。現在、セルマー伯爵領にある迷宮は騎士による攻略がほとんど行われていません」
「ですがそれは……」
俺の言葉に反論を試みるが、ルティナは言葉を詰まらせた。
おそらく騎士たちに迷宮攻略の任務が与えられていないと言いたかったのだろう。
だが、それはそのまま伯爵が迷宮討伐の義務を果たす気がないという意味になる。
自分の父親がそんな奴だとは口が裂けても言えるわけがない。
「なので、ルティナ様は実力があり信頼できる騎士を見つける必要があります。そして、伯爵閣下の許しを得なければなりません」
ダマで出来ることじゃないからな。
許可なくそんなことをすれば絶対問題となるはずだ。
「父に……。認めてくださるでしょうか……」
ハルツ公やカシアが言ったところで聞く耳を持たないだろう。
俺が言った場合、不敬罪でずんばらりんの可能性が拭えない。
しかし、彼女がお願いした場合、パワーレベリングで危険もないため、ワンチャンある。
ルティナには父親の説得を頑張ってもらおう。
カッサンドラ婆さん。悪いがあんたを利用させてもらうぞ。
「他家の関係者の助言となると伯爵閣下も気分を害されるかもしれません。私のことは伝えない方がよいでしょう。先ほどおっしゃっていた一族の長? そのお方の言葉だとお伝えしてはいかがでしょうか?」
「おばば様の……。それなら……」
それでも不安の色が拭えない様子を見て、励ましの言葉をかけることにした。
「これだけ可愛らしい娘がお願いするのです。私が父親なら首を縦に振ることしかできません。その魅力を存分に発揮なさいませ」
その言葉に一瞬キョトンとしたものの、すぐに笑顔へと変わる。
「ふふ。おじ様のようなことをおっしゃるのですね。それとも、種族が違うためお若く見えますが、本当はおじ様なのでしょうか。アユム様はおいくつなのですか?」
おじ様! いい! めっちゃいい!
可愛いお姫様におじ様と呼ばれるのは、ある種の憧れだもんな!
私も連れてって! 迷宮探索はまだできないけどきっと覚えます!
とか言ってくれないだろうか。
にやけそうになる顔を必死に引き締めながら答えた。
「体は十八歳の若造ですが、心は四十五歳のおじさんです」
サラッとガチのやつをぶっこんだところ、彼女は肩を揺らしクスクス笑っている。
「本当にアユム様は変わったお方です」
そうです。私が変なおじさんです。
彼女は一頻り笑うと決意の火が灯った瞳をこちらへ向けた。
「分かりました。必ず父を説得いたします」
うん。頑張れ、ルティナ。
「騎士たちが迷宮へ入り始めて十日が経ったところで、魔法使いギルドへ行きジョブ変更を試みてください」
「はい」
彼女はその言葉にしっかり頷く。
「無事にジョブ変更が叶いましたら、そこからはルティナ様にも迷宮へ入っていただきます。日中は騎士たちと共にノルトセルムの迷宮へ一階層から順番に挑んでください。一日の探索が終わるとそれまでと同じく、別のパーティーの経験を共有します」
「わたくしが迷宮探索を……」
ルティナの顔が不安で曇った。
しかし、迷宮探索を行わなければ奴隷落ち待ったなし。
いや、名前に継嫡家名が表れたら、探索を行っていたからといってそれを免れることはないかもしれない。
だが、それでも可能性は生まれるだろう。
奴隷落ち以外に継嫡家名を外す方法があるかもしれないし、どこかの家が養子としてくれる可能性も考えられる。
他にも貴族籍を抜けて自由民として生きる道だってあるかもしれない。
思索を振り払い、話を続ける。
「それから、探索を行う際にはフィールドウォークで迷宮付近に移動するのではなく、少しでも領民を安心させるため、城から徒歩で移動して迷宮探索に挑む姿を見せてください」
「……はい」
不安そうではあるものの、彼女はハッキリ頷いた。
迷宮に入る姿を見せておかなければセルマー伯爵領の領民に恨まれたままだ。
父親の意向に逆らってまで必死に迷宮探索を行っている彼女の姿を見れば、絶対にそれに絆される民が出てくるだろう。
同情する者が多くなれば、許すことは出来なくても積極的に害そうという者への牽制となる。
もし、市井で生きることになったなら、それは絶対に役立つはずだ。
……だが、奴隷にならなかった場合、ルティナが俺の下に来ることはない。
それに、奴隷落ちをした場合でも、これがハルツ公に伝わってしまえば不信感を抱かれ、彼女を別の者へ譲るかもしれない。
ほんと、テンションに身を任せて馬鹿な真似をしているわ……。
ネガティブなことだけが頭の中を駆け巡り、自分自身の行動に後悔をしていると、不安に苛まれているルティナが目に映る。
そうだよなぁ。怖いよなぁ。
チート能力により比較的安全に探索できる俺とは違い、他の人たちは自分の命を危険に晒すことになる。
これまで魔物と戦ったことがまったくなかったんだ。彼女が不安になるのも当然だろう。
悪い想像を振り払い、暗い表情をしているルティナに声を掛けた。
「見苦しいものをお見せしますが、お許しいただけますか?」
「え? あ、はい。どうぞ」
断りを入れると彼女は顔を上げ、不思議そうに頷きながら許可を出す。
承諾が取れたため左側のズボンの裾を捲り上げ、そこに巻いていた紐を解いた。
それをローテーブルの上に載せ、戸惑った表情を浮かべているルティナに、もう一度許可を求める。
「アイテムボックスを開いてもよろしいですか?」
「え、ええ」
わけ分からん行動だよなぁ。
俺だって自分がどうしてこんなことをしているのかさっぱり分からないもん。
ほんと、何してんだろ……。
詠唱省略を外して詠唱を開始する。
「八百千五百のお宝を、収めし蔵の掛け金の、アイテムボックス、オープン」
アイテムボックスを開き、その中から装備品を取り出してそちらもローテーブルへ置いた。
どちらも普段使っている物なので入れ替わっている可能性はないが、念のため詠唱省略を戻して鑑定をかける。
ひもろぎのスタッフ 杖
スキル 知力二倍 空き 空き
身代わりのミサンガ アクセサリー
スキル 身代わり
うん。問題なし。
そして、突然の行動に面食らっている彼女へ告げる。
「こちらはひもろぎのスタッフと身代わりのミサンガです。ルティナ様が探索を行う際、大いに役立つことでしょう。どうぞお納めください」
俺の言葉を聞いて大きく目を見開いていたが、すぐに声を張り上げた。
「えっ!? ひもろぎのスタッフと身代わりのミサンガ!? いけません! セルマー伯爵家にはそのようなものを受け取る理由がありません!」
違う。違うんだよ、ルティナ。
「これはセルマー伯爵家への献上品ではなく、私からルティナ様への個人的な贈り物です。そして、その意味をご理解ください」
もしこれを誰かに渡し、その人に義務を押し付けるようなことがあれば、俺は彼女に失望してしまうだろう。
どうかそんなことはしないでほしい。
じっとその目を見つめていると、ルティナの表情が引き締まり視線が絡み合う。
「……ありがとうございます。アユム様のご厚意にお応えするためにも、迷宮探索に励みます」
よかった。正しく意味を読み取ってもらえている。
覚悟の決まった彼女の顔は非常に凛々しく、まるで白いアルストロメリアのように凛々しく高潔な魅力であふれていた。
うん。きっとこの娘なら大丈夫だ。
「はい。ルティナ様のご活躍を期待しています」
そして、彼女はそのまま言葉を続ける。
「アユム様、お願いがあります」
「はい。なんでしょうか」
「わたくしも民を守るため、迷宮に入ることを決意いたしました。しかし、わたくしには力が足りません。どうかセルマー伯爵領に住む人々を守るため、迷宮討伐にご協力いただけないでしょうか?」
あー。そうきたかぁ。
いや、そうくるのが当然だわな。
しかし、これを行うとハルツ公の不興を買うのは間違いない。
なんせ、原作ではカシアが頼んだノルトセルムの迷宮の探索を行わないよう、ミチオに告げていたほどだ。
そして、俺自身セルマー伯は排除されるべきだと思っている。
それが済むまでは手出ししない方がいい。
……セルマー伯討伐か。
自分に希望を与えた人物が家を滅ぼすための尖兵として乗り込んでくる。
彼女からすれば裏切られたような気持ちになるだろう。
そして、間違いなく恨まれるはずだ。
本当に何をやっているんだ。俺は……。
不安そうにこちらをうかがう彼女の視線に気が付き思索を打ち切った。
「私にも攻略中の迷宮があるためすぐにとは申し上げられません。ですが、ルティナ様のご依頼なのです。いずれセルマー伯爵領の迷宮討伐にご協力させていただきます」
そのとき君がそばにいなかったり、恨まれていたとしても、この約束だけは絶対に果たす。どんなことがあってもだ。
「アユム様、ありがとうございます。頼りにしています」
安心したように笑みを浮かべている彼女を見て、心がきしむように痛んだ。
その後、ルティナから迷宮についての質問を受けていたところ、ノックの音と共にハルツ公爵家の一行が戻ってくる。
「ルティナ、ここにいたのですね」
「姉様!」
そちらを向いた彼女の表情がパッと輝いてソファーから立ち上がり、それにつられて俺も腰を上げた。
田川 歩 男 18歳
探索者Lv50 英雄Lv43 魔法使いLv49 遊び人Lv40 戦士Lv37
装備 竜燐の靴
BP振分 残BP:0
キャラクター再設定:1
フィフスジョブ:15
必要経験値二十分の一:63
鑑定:1
MP回復速度二十倍:63
詠唱省略:3
所持金:4,346,295ナール
春の59日目