異世界迷宮へ行ったなら   作:三星織苑

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182 約束

 

 

 

 

 

ノルトセルム

宮城

 

 

 

 

 

 部屋に入ってきたのは公爵夫妻とゴスラー、それにクラウスだけだった。

 先ほどの案内人は一緒じゃないらしい。

 

 嬉しそうに自分の所に寄ってくるルティナにカシアが笑みを浮かべながら尋ねた。

 

「ルティナ、久しぶりですね。元気にしていましたか?」

「はい! 姉様もお変わりありませんか?」

「ええ。大過なく過ごしています。それにしても長いこと見ていないせいか、随分と大人びて見えます」

「ふふ。わたくしももうすぐ成人を迎えますので」

 

 とんでもない美少女と美女が話している光景に目を奪われずにはいられない。

 

 

 

 彼女たちのやり取りを眺めているとハルツ公がこちらに話しかけてくる。

 

「アユム殿、待たせてしまったな。許すがよい」

「いえ。何も問題ありません」

 

 問題しかなかったけどな。

 彼女に助言をしてしまったせいで、共に過ごす未来が閉ざされてしまったかもしれない。

 こんな機会なんかなければと思ってしまう……。

 

「であるか」

 

 彼は言葉を漏らすとローテーブルに置いてあるものへ目を留めた。

 

「これは?」

 

 その声に気が付いたルティナが嬉しそうに公爵に告げる。

 

「そちらはアユム様からいただいた、ひもろぎのスタッフと身代わりのミサンガです」

 

 ヤバい! 彼女に口止めをしていなかった!

 

 彼女の言葉を耳にしたハルツ公爵家一行は口々に驚きの声を上げ、二つの装備品を凝視している。

 

 

 

 しばらくそうしていたが、驚きから立ちなおった公爵は鋭い視線をこちらへ向けた。

 

「アユム殿。今の話はまことか?」

 

 くそっ、しくった。口止めをしておくんだった。

 こうなったらいつものように適当なことを言って丸め込むしかない。

 ルティナ、頼むから余計なことは言わないでくれよ。

 

「はい。本当です。領内の状況を憂い、戦う力のない自身について不甲斐なさを覚えていらっしゃったルティナ様へ、少しでもお力になれればと助言とともにお渡しいたしました」

 

 セルマー伯爵家の置かれている状況について話を振ったのは俺だったが、流れは概ねそんな感じだったし嘘はついていないぞ。

 

「わたくしの妹にこのような心遣いを……。アユム様、ありがとうございます」

 

 妹か……。

 そういえば原作では次のセルマー伯となる従弟のことも弟と呼んでいた。

 カシアが頭を下げるとハルツ公が呆れたように口を開く。

 

「ひもろぎのスタッフは魔法使いをパーティーに迎えたときのために作ったのであろう? コハクのネックレスを献上したのもそうだが、安いものではあるまいに……。まことアユム殿は気前がいい男よ」

 

 セーフか? これ以上つっこんでくれるなよ? あとルティナも何も言わないでね?

 

 

 

 そして、カシアはルティナに向きなおる。

 

「ルティナ、迷宮に入る気になったのですね。貴族の義務を果たしていないことがずっと気にかかっていたのです。本当に安心しました。アユム様のご厚意にお応えするためにも励むのですよ」

「はい! 当然です!」

 

 彼女は決意の火を灯した瞳で答えた。

 

 しかし、彼女たちの様子を見ているハルツ公の顔には物憂げな表情が浮かんでいる。

 

 ごめんなさい。余計なことをして本当にごめんなさい。

 でもほら、俺は何も知らされていないんだからしょうがなくない?

 これは事情を知らなかったがゆえに取った行動ってことでひとつ。

 

 彼に悪気はなかったんです! いたいけな少女の力になろうとしただけなんです! どうか広い心で許してやってください!

 

 

 

 ソファーに腰掛け雑談に興じていたところ、再び部屋にノックの音が響き渡った。

 

「伯爵閣下の準備が整いました。謁見室へご案内いたします」

 

 案内役だった騎士は部屋に入るなりそう告げる。

 

「うむ。では、参ろう」

 

 公爵がそう言って立ち上がると全員それに続く。

 

「アユム様」

 

 部屋を出ようとしたところで涼やかで愛らしい声に呼び止められたため、振り返ってそちらをうかがう。

 

「この度はご助言とご厚意を賜りましたこと、感謝の言葉も見つかりません。そのご恩にお応えするため、わたくしも努力を怠らないと約束いたします」

 

 どれだけ努力したとしてもこの娘のそれが報われることはないだろう。

 父親は殺され、一家はバラバラになり、彼女は奴隷に落ちる可能性が高い。

 

「素晴らしいお志です。ルティナ様、私はルティナ様が迷宮討伐を成し遂げる日が訪れることを願っています」

「はい! ありがとうございます!」

 

 俺の言葉を聞いて彼女は満面の笑みを浮かべている。

 

 だとしてもこの言葉は嘘じゃない。そうなってもらいたいと心から思える。

 たとえ俺と共に過ごすことがなかったとしても、彼女には幸せな人生を歩んでほしいと願わずにはいられない。

 

 ルティナは細い体との対比で大きく見えるひもろぎのスタッフを持ち、透明感のある笑みを浮かべながら俺たちを見送ってくれた。

 

 

 

 廊下を歩きながら、後悔が押し寄せてくる。

 

 あー。なんでこんなことになったんだろうなぁ。

 

 ルティナが奴隷に落ちる可能性が減じた上に、アドバイスをしたことがハルツ公に知られてしまったため、たとえ奴隷になったとしても譲ってもらえるか分からなくなった。

 しかも、彼女にも恨まれるだろうし、俺に譲るとなっても本人に拒否られる可能性も高い。

 

 それもこれも公爵が俺をおいて部屋を出ていったからだ。

 くそっ、誘ったんだからちゃんと一緒にいろよ。

 

 

 

 ……いや、これは逆恨みか。

 

 ルティナと二人きりになったとき、状況に流されず差し障りのない話をしておけばよかっただけだ。

 こうなったのは、何が起こるか分かっていながら、安っぽい正義感に酔って彼女に情けをかけた俺の過ちであり、誰にも責任を転嫁することはできない。

 

 

 

 懊悩を抱えながら廊下を歩いていると、大きな扉が目に入る。

 そのわきには警護を行っていると思しい二人の騎士が立っているため、ここが謁見室なのだろう。

 

「伯爵がお待ちです。中へお進みください」

 

 公爵は案内してくれた騎士の言葉に頷き、腰の物を外した。

 

「クラウスはここで待つがよい」

 

 そして、そう言うとオリハルコンの剣を彼に手渡す。

 ゴスラーも背負っていたひもろぎのスタッフを外し、同じように預けている。

 

 原作ではゴスラーは同行しておらず、公爵夫妻とミチオだけでセルマー伯と会っていた。

 俺の行動によっていろいろ違いが出てるなぁ。

 その最たるものがさっきのルティナとのやり取りか。はぁ……。

 

 

 

 ゴスラーが武器を預けたところで公爵が騎士に頷くと、彼は扉を開く。

 

 部屋の中はこじんまりとしているものの、豪華なシャンデリアに蝋燭が灯され、絵画や置物といった美術品が設置されていた。

 俺には価値がよく分からないが、何やら格調高い印象を受ける。

 ……いや、雰囲気に飲まれてそう感じるだけかもしれないけどさ。

 

 部屋の奥には刺繍のされた二枚の垂れ幕が下げられており、左側にはハルツ公爵家のエンブレムが。右側の見たことのない模様はセルマー伯爵家のものなのだろう。

 そして、右側の垂れ幕の前には豪華な椅子が設置され、そこにはぽっちゃり体形のイケメンが腰を下ろしていた。

 

 鑑定で確認したところ、年齢は四十歳でジョブは騎士レベル21。そして、セルマー伯爵……。

 彼のせいでルティナは奴隷に落ちるのか……。

 

 作法が分からないためすぐに視線を外す。

 ハルツ公が中に入っていくと、カシアとゴスラーに彼の後に続くよう促された。

 

 なんで俺が二番目なんですかねぇ。

 

 小学生のときにツベルクリン反応検査とBCG接種の順番で前の方に回されたことを思い出しながら歩く。

 そして、公爵の後ろに控え、自分の存在を隠すように頭を下げておいた。

 次にカシアが彼の隣に立ち、さらにゴスラーが俺の隣で同じように頭を下げている。

 

 最初にセルマー伯が歓迎の意を示し、ハルツ公がそれに答えたところで三人はたわいもない話を始めた。

 頭を下げながら寒々しい話を聞かされるという、罰ゲームのような状態がしばらく続いた後に、ようやくセルマー伯が本題を切り出す。

 

「して、我が領はどうであったかの」

 

 その言葉により周囲の雰囲気が一変した。

 いや、ハルツ公の放つ圧力により周囲の雰囲気が変わったというべきだろう。

 

「酷いものであった。盗賊共に好き放題に荒らされ、迷宮の討伐は一向に進まず、町の整備もろくにされておらぬ。民は皆怯えたように暮らしておった」

 

 すると、セルマー伯は慌てたように反論を試みる。

 

「い、いや。我が騎士団も盗賊の被害を受けておるのだ。手練れが何人もやられ、まったく手が足りておらぬ状態での」

「その割にこの城には多数の騎士団員が詰め、過剰に守られておるようだが?」

「ここはセルマー伯爵領統治の要となっておる。万が一にも陥落するわけにいかぬため、過剰なくらい守っておくのがちょうどいいのでの」

 

 なるほど。騎士団が迷宮攻略を行なっていない理由が分かった。

 城門が常に閉まっているのと同じ理由だ。

 ハインツ一味に襲われた恐怖を忘れられず、騎士たちが迷宮攻略に出て守りが薄くなることに耐えられないのだろう。

 つまり、セルマー伯爵領の迷宮討伐が進んでいない理由は、この人がびびって自分を守る人数を減らしたくないからなのか……。

 

 内心呆れているとカシアが口を開く。

 

「叔父上、でしたら我が公爵家へ支援を求めてはいかがです? セルマー伯爵家はわたくしの実家。その関係は兄弟のようなものではありませんか」

「それはならん。それではハルツ公爵家へ従属するも同然。セルマー伯爵家の体面を保てなくなるでの」

 

 びびりのくせに言ってる場合かよ。

 そのちっぽけなプライドを守るために今まで民を犠牲にしたのか?

 そんなことだから数十日後に自らの命を失い、娘を奴隷に落とすことになるんだ。

 仮に本心からセルマー伯爵家のことを思っての言葉だったとしても、やるべきことをやっていなかった彼が口にしていい言葉ではない。

 

 

 

 その後、どのように迷宮を討伐し領地を立て直していくのかを問われたものの、セルマー伯はのらりくらりとはぐらかし、答えようとはしなかった。

 

 そして、二人に責められるのが嫌になったのだろう。彼は唐突に話を変える。

 

「それより、その者がハインツ共を討ち取った者かの?」

 

 これ以上話しても意味はないと思ったのか、ため息を一つこぼしハルツ公がその問いに答えた。

 

「うむ。この者はアユム・タガワ。たった三名のパーティーでハインツ一味を壊滅せしめた豪傑じゃ」

「セルマー伯爵家もハインツ一味には煮え湯を飲まされていたのです。叔父上」

 

 得意気な声で語る公爵に続き、カシアがセルマー伯に感謝を告げるよう促す。

 

「うむ。たいしたものだの」

 

 えー。それ感謝の言葉じゃないんですけどー。ありがとうって言ってほしいんですけどー。

 

 すると、公爵からくつくつと声が漏れた。

 

「アユム殿は自由民。余の騎士団とは無関係じゃ。体面も傷つかぬゆえ、騎士団の手が足りぬなら助太刀を乞うてはいかがか」

「迷宮討伐は我が騎士団で成し遂げる。他者の助力は必要としておらぬの」

 

 駄目だこの人……。

 ハルツ公は本気で言ったわけではなかっただろうが、もし彼が正式に依頼した場合、それを妨げることはできなかっただろう。

 そして、俺の持つキャラクター再設定と彼女たちの力を合わせれば、その日がくるまでに迷宮を討伐することもそう難しいことではない。

 たった今、セルマー伯は垂らされた一筋の蜘蛛の糸を自ら断ち切ってしまった。

 

 彼の答えは想定していた通りなのだろう。公爵は意地の悪い声で話を続ける。

 

「であるか。おお、そういえば忘れておった。討伐されたハインツだが、奴は指輪をしておったそうじゃ。アユム殿よりそれを買い取り確認したところ決意の指輪であった。セルマー伯爵、心当たりはないか?」

「ぐっ……」

 

 謁見室内にうめき声が漏れたかと思うと、歯ぎしりのような音まで聞こえてきた。

 

 あー。これあの侍女から決意の指輪に攻撃力上昇だけではなく、対人強化のスキルも付いていたことを聞いてるわ。

 

 そして、しばらく葛藤したのちに絞り出すように答える。

 

「し、知らぬの……」

 

 はぁ。本当に駄目だ。この人。

 

 結納の品としてハルツ公が贈ったものだったのだ。自分の所から盗まれたものだと告白すれば、彼はそのまま返却せざるを得ない。

 

 結納の品を盗賊に盗まれ、それを自らの手で取り戻すことができず、あまつさえ送り主が取り返したそれを受け取る。

 確かにそんなことすればセルマー伯爵家の面目は丸潰れだ。貴族の世界では致命的な傷となるのかもしれない。

 

 しかし、対人強化の付いた装備品は盗賊退治において絶大な効果を発揮する。

 現在セルマー伯爵家がおかれている状況なら、絶対に必要となる品だ。

 それを知ってしまったからには、どんなことがあっても取り戻さなくてはならない物だった。

 

 そもそも盗賊にメタメタにやられ、迷宮討伐もまったく進んでいないため、セルマー伯爵家の評判は地に落ちている。

 彼が惚けたのは偏に自分自身のプライドを守りたいがためだ。

 

 確かに彼の境遇には同情できる点はいくつもある。

 だが、身を削って税金を納めている庶民にしてみれば、そんなことは一切関係ない。

 権利だけを貪り、義務を果たしていない悪徳領主そのもの。

 

 本当に領地のことを考えるのなら、今からだってハルツ公に頭を下げ、助力を乞えばいい。

 セルマー伯爵家の体面がどうなろうと庶民には一切関係ないし、なんなら別の貴族家が統治することになっても全然気にしないだろう。

 

 彼はルティナの父親だし、その境遇には同情するものの、事ここに至っては……。

 

 

 

 考え込んでいるとハルツ公が口を開く。

 

「ふむ。ならばあれはそのまま余が預かっておこう。どうしてもほしいという者がおれば売るのもやぶさかではないがな」

 

 だが、やられっぱなしでは腹の虫がおさまらなかったのだろう。

 セルマー伯が反撃の言葉を口にした。

 

「ところで、聞くところによるとハインツ一味を討伐した者は冒険者であったとか。まさかそこの者は冒険者ではあるまいの?」

 

 あーあ。やっぱこうなったか。

 

 彼の言葉に公爵は慌てて答える。

 

「い、いや。そのようなこ――」

「うむ。当然そのようなことがあるはずはない。しかし、万が一それが事実だった場合、これはセルマー伯爵領を攻めるという宣戦布告にほかならぬの」

 

 しかし、伯爵は言葉を遮って話を続けた。

 

「も、もちろん余がそのようなことをするはずがない」

 

 ハルツ公が何とかハッタリをかますも、セルマー伯はそれに気が付いているため、俺のインテリジェンスカードのチェックをチラつかせながら、彼の面目を潰そうとあの手この手で攻め立てている。

 

「叔父上、公爵はそのようなことをなさ――」

「分かっておるとも。ハルツ公爵家がそのようなことを考えているはずはないからの」

 

 伯爵は姪の言葉をも遮り、攻撃の手を緩めようとしない。

 

 さあて。あっしの出番ですかねぇ。

 

 頭を上げて伯爵を見据え口を開く。

 

「私のせいで公爵閣下や公爵夫人に恥をかかせるわけにはいきません。インテリジェンスカードのチェックをお願いいたします」

「ア、アユム殿?」

 

 それを聞いたゴスラーも顔を上げ、戸惑いの表情でこちらを見たため、彼にだけ伝わるよう小さな声を出す。

 

「今日、私がどこから来たのか思い出してください」

 

 すると、彼の顔に理解の色が浮かんだ。

 

「い、いや。アユム殿の手を煩わせる必要はないであろう」

「う、うむ。一言詫びてもらえればセルマー伯爵家も問題にするつもりはないのでの」

 

 俺の言葉を聞いた彼らは、絶妙なコンビネーションでそれをさせまいと翻意を促した。

 

 あんたら息ピッタリやないかい。いがみ合っていないで協力し合ったらどうだ?

 

 

 

「よろしいのではないでしょうか」

 

 ゴスラーがそう言うとハルツ公が叱責の声を上げる。

 

「ゴスラー!」

「閣下、アユム殿にお任せしましょう」

「しかし……」

 

 そのままでは埒が明かないので、俺たちの後ろに控えていた騎士の下へ行き、左手を差し出した。

 

「どうぞ。ご確認ください」

 

 騎士は困ったように俺の手とセルマー伯を交互に見ている。

 セルマー伯は無表情の公爵と不安げなカシアの表情を確認したところで、ハッタリだと判断したのだろう。騎士へ告げた。

 

「確認してみよ」

 

 彼は意を決したように差し出された手に、右手をかざし詠唱を開始する。

 

「滔々流るる霊の意思、脈々息づく知の調べ、インテリジェンスカード、オープン」

 

 そして、飛び出したインテリジェンスカードを見て絞り出すような声で読み上げた。

 

「……アユム・タガワ、さま。ジョブは、探索者、です」

 

 その言葉にセルマー伯の表情が愕然としたものに変わる。

 一方、公爵は一瞬驚いたものの、すぐに落ち着きを取り戻して言葉を発した。

 

「今回の視察はここまでとしよう。余らはこれで失礼させていただく」

 

 彼はずんずんと扉の方に向かって歩き出し、カシアとゴスラーもそれに続く。

 おいていかれてはたまらないので俺も急いで後を追いかける。

 

 扉を出たところでハルツ公とゴスラーは、そこに待機していたクラウスから武器を受け取りそのまま廊下を歩き出した。

 

 

 

 ハルツ公の刺々しい雰囲気に、誰も口を開くことができないまま歩き続け、先ほどの控室に近づいたところでそこにいた人物に目が留まった。

 

「あっ、姉様。もうお帰りなのですか?」

 

 カシアに会えた喜びと、もう帰るのかと残念がっている気持ちが混ざり合ったようなその表情を見て胸が痛む。

 

 近い将来、彼女は父親を失い家族もバラバラになる。

 そして、それを行うのはここにいる俺たちなのだ。

 

「ええ。わたくしたちはこれで失礼します。ルティナ、先ほどアユム様から賜ったご厚意にお応えするためにも、迷宮探索に励むのですよ」

「はい!」

 

 彼女は決意のこもった瞳で頷きを返し、それから俺の方へと顔を向ける。

 

「アユム様、ありがとうございました。アユム様から賜ったご恩は決して忘れません」

「はい。少しでもルティナ様のお役に立てたのであれば幸いです」

 

 そして、彼女は上目遣いでこちらを見つめながら言葉を続けた。

 

「いつかわたくしが魔法使いとして力を付けた際には、セルマー伯爵領の民を守るため、ともに領内の迷宮に入っていただけますか?」

 

 なんて健気でいじらしい言葉だろう。

 

 ルティナの頬は期待で朱に染まっている。

 

 彼女の仇になるであろう男が何を言えばいいのか分からない……。

 

 俺の情緒はぐちゃぐちゃだ。

 

 

 

「……もちろんです。ルティナ様が望んでくださるのでしたら、私は全力でその希望にお応えします」

「はい! 約束ですよ!」

 

 考えた末に口から出たのは最低で残酷な言葉だった。

 

 

 

 

 

田川 歩 男 18歳

探索者Lv50 英雄Lv43 魔法使いLv49 遊び人Lv40 戦士Lv37

装備 竜燐の靴

 

BP振分 残BP:0

キャラクター再設定:1

フィフスジョブ:15

必要経験値二十分の一:63

鑑定:1

MP回復速度二十倍:63

詠唱省略:3

 

所持金:4,346,295ナール

 

春の59日目

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