「少々お待ちください」
ルティナは俺が約束をしたのがよほど嬉しかったのか、弾んだ声でそう言うとスカートのプリーツへ手を入れた。
そして、縁にレースのあしらわれた水色のハンカチを取り出す。
「アユム様。こんなものしかお渡しできませんが、いただいたご厚意に対する感謝の気持ちと、いつか共に迷宮探索を行うという約束の証です。受け取っていただけますか?」
はにかんだような笑みを浮かべ、彼女はハンカチを差し出した。
「ルティナ、それは……」
その行動をみたカシアから声が漏れる。
「姉様。何も問題ありません」
すると、彼女へ顔を向けてはっきりそう言って、再び俺の方を見つめた。
ルティナの青く美しい瞳には俺への信頼が宿っており、抱いた罪悪感がさらに大きくなる。
「よろしいのですか?」
「はい。アユム様に受け取っていただきたいのです」
「ありがとうございます。生涯大切にいたします」
「ふふ。アユム様は大げさですね」
俺の言葉に彼女はころころと笑い声をこぼす。
大げさじゃない。
君とこんな風に笑えるのはこれが最後かもしれないんだ。全然大げさじゃない。
一緒に迷宮探索をできる日を楽しみにしているというルティナの表情に胸を締め付けられながら、別れのあいさつを交わし、その場を後にする。
間違いなくあの娘の努力は実を結ばない。
俺のやったことは、まやかしの希望を見せただけだ。
セルマー伯爵討伐は確実に起きるし、彼女の継承権は剥奪される。
そして、そのときにルティナが受ける精神的な傷は、原作とは比べ物にならないほど深いものになるだろう。
何をやってるんだ、俺は……。
誰もが口を開くことができず無言で歩き続け、フィールドウォークの発着場へ戻る。
そこで待っていたフィーネは物々しい雰囲気に戸惑いを隠せない。
「フィーネ。すぐに戻ります。フィールドウォークを」
「は、はい」
カシアの言葉を聞き、彼女はすぐに詠唱を開始した。
ゲートを抜け出し、見慣れた景色が目に入ったことで、少しだけ気持ちが落ち着いていくのを感じる。
クラウス、フィーネとはそこで別れ、俺たち四人はいつもの執務室へ歩き出した。
部屋に入ったところで公爵夫妻はソファーに腰を下ろし、ゴスラーはその横に控えている。
俺も座るよう促され彼らの向かいに腰を下ろす。
すると、カシアは開口一番、謝罪を始めた。
「申し訳ありません。アユム様が冒険者だという情報はわたくしの侍女が伝えたのでしょう。それに、叔父上は決意の指輪に対人強化のスキルが付いていることもご存知だった様子。そのことを知っているのは防具鑑定を行った者を除けば、ここにいる四人と彼女たちだけ。すべてわたくしの責任です」
「まあ、待て」
悲痛な表情を浮かべている彼女に公爵が声を掛ける。
「カシアの責任ではない。よもや冒険者を城に入れさせぬなどという、カビの生えたような慣習を持ち出すほどセルマー伯爵が愚かだったとは誰にも想像がつくまい。責任はその愚かさに気が付かずアユム殿を誘った余にある。アユム殿、申し訳なかった」
そう言って彼は頭を下げた。
そして、カシアもそれに続く。
「アユム様、本当に申し訳ありませんでした」
ちょっと! こんなことされる方が困るんだけど!
「お二人のせいではありません! どうか頭をお上げください!」
軽いパニックに陥りながら必死に頼みこむと、ようやく彼らは頭を上げた。
「本当にお二人のせいではないのでどうかお気になさらず。それに対策もしておりましたので」
「それよ」
俺の言葉に公爵は疑問を覚えたようだ。
「アユム殿はこのようなことになるとあらかじめ予想しておったのか? それにゴスラー、御身も慌てた様子がなかったようだが」
問いかけられたゴスラーは答える。
「実は本日、アユム殿はフィールドウォークではなく、歩いてこちらへいらしていたのです。なぜそんなことをしているのか問いかけたところ、念のためとおっしゃっていました。そのときはよく理解できていなかったのですが……」
「なんと、そのようなことが」
夫妻が声を漏らすと、彼は自分もそうだったと言いたげな表情で話を続けた。
「ですが、セルマー伯があのような行動に及んだときに、アユム殿より今朝どこから現れたか思い出すように伝えられ、それでジョブ変更をしていたことに気が付いたのです」
「なるほど。それで落ち着いておったのか。それにしても、このような事態を想定していたとは。さすがアユム殿だ」
「はい。わたくしたちはアユム様のおかげで救われました」
感心したようにこちらを見つめる三対の目がなんとも気まずい。
実際のところ原作知識を使ったカンニングだしなぁ。
「あくまでも万が一に備えてのことでしたので、まさか本当にこのようなことが起こるとは思いもよりませんでした」
「いや、為政者はその万が一に備えることこそ重要な資質となる。今後がますます楽しみだな」
どうやら彼の中では、俺が迷宮討伐を果たして貴族になるのは既定路線らしい。
三人から一頻り感心され、それが落ち着くとカシアが居住まいを正した。
「アユム様。折り入ってお願いがございます」
「はい。何でしょうか」
セルマー伯爵領の状況を見聞きしたのだ、ある程度予想は付く。
彼女は凛とした表情で依頼内容を告げる。
「セルマー伯爵領を蝕んでいる迷宮の討伐に、お力添えいただけませんか?」
……当然そうなるよな。
その言葉に公爵とゴスラーの体がわずかに動いた。
「実はルティナ様からも同じご依頼をいただいておりました」
カシアは驚いたように目を見開く。
「そうですか……。あの娘が……。共に迷宮へ入るというだけではなく、そのようなことまでお願いしていたのですね……」
「はい。ルティナ様は現在のセルマー伯爵領の状況を大変憂いておられます。私のようなものへ助力を乞うほどにです。その想いに絆され、あれこれと差し出がましいことをしてしまいました」
言葉は足りないが、領地について憂いていたのは本当だし、俺に協力を依頼したのも嘘じゃない。
彼女の未来が少しでも明るいものになるよう、何とか印象を良くしておかなければ。
「では!」
カシアの顔に安堵の表情が浮かんだものの、首を振ってそれを否定する。
「いいえ。私の方にも予定があるため、すぐにあちらの迷宮へ入ることはできません」
「そう、ですか……」
「ですが、いずれ準備が整えばセルマー伯爵領の迷宮討伐にご協力する旨をルティナ様とお約束いたしました。私は絶対にこの約束を違えません。何があろうともです」
胸を焦がすような愛しさを覚えた女性との約束だ。
たとえ彼女に嫌われようとも、絶対にそれは成し遂げる。
カシアだけではなく、ハルツ公とゴスラーも驚いたようにこちらを見つめていた。
「よろしくお願いいたします」
彼女が頭を下げて感謝の言葉を述べると、公爵もその後に続く。
「さすがはアユム殿、実に心強い。その折にはよろしく頼む。では時間もないことだし、明日の件について打ち合わせをしておこう」
え? なんかいきなり話を変えたぞ。
そして、公爵はカシアの方へ顔を向ける。
「事は騎士団の手合わせに関わるゆえ、余人が混じるとあらぬ疑いをかけられるやもしれぬ。カシアは外してもらえぬか」
は? 疑い? どういうこと?
「そうなのですか?」
「うむ。すまんが頼む」
そして、ハルツ公は不思議そうにしている彼女を部屋から追い出した。
……これはカシアに聞かれたくない話があるってことか。
ゴスラーが扉に鍵を掛けると彼に告げる。
「ゴスラー、御身も座れ」
「はっ」
彼がカシアの据わっていた場所へ腰を下ろしたところで、公爵は話を切り出した。
「アユム殿。セルマー伯爵領の迷宮に入るのはいつ頃を予定しておるのだ?」
いつ頃……。
セルマー伯討伐が終わってからになるよな。
「まだはっきりとは決まっていませんが、夏が終わってからになるでしょう」
「ほう。その頃には片が付いていると申すか」
は? いま何って言った?
公爵の顔を見ると恐ろしさを感じるような笑み浮かべてこちらを見つめている。
「その方、どこまで把握しておる?」
ヤバい! この人、俺が気付いていることに気付いている!
どうする!? どうやって誤魔化せばいい!?
内心焦りまくるものの、ハルツ公の様子からは絶対に言い逃れを許すつもりがないことがうかがえる。
……腹を括るしかないか。
「近いうちにセルマー伯爵が代替わりすることくらいでしょうか」
それを口にした瞬間、部屋の温度が一気に下がったような寒気に襲われた。
「ほう。面白い。なぜそう思う?」
威圧的な笑みを浮かべながら尋ねる公爵と、無表情でこちらをじっと見つめる騎士団長。
普通のサラリーマンには恐怖しかない状況だが、俺にはオーバーホエルミングがついている。
いざとなれば暴力で解決できると自分に言い聞かせ、なんとか心を奮い立たせながらその問いに答えた。
「最初に疑問を覚えたのは、公爵閣下が伯爵の領地を視察する目的です。どうしてそのようなことを行うのだろうと考え、セルマー伯爵領について調べたのです。すると、あちらでは長きにわたり、迷宮が討伐されていないどころか、騎士団による攻略すらろくに行われていないことが分かりました」
「なるほど。余が誘ったときにそのようなことを考えておったのか」
いやまあ、その辺は原作知識とノルトセルムの迷宮のことを調べていろいろなことを教えてくれたセリーのおかげなんですけどね。
「そして、本日ギルドで実際の迷宮の状況を知り、町の景色を確認し、城の様子を見ました」
「どうであった?」
「閣下がセルマー伯爵におっしゃっていた通り酷いものでした。領内の迷宮が討伐されずどんどん強さを増していくため、領民の顔は暗く町も荒れ放題。それなのにもかかわらず、城の庭は色とりどりの花が咲き乱れ、大金がつぎ込まれていることがうかがえました」
「確かにそうであったな」
「このままではノルトセルムの迷宮は五十六階層へ到達し、領都を放棄することになるでしょう。いえ、ノルトセルムだけではなく、セルマー伯爵領そのものが迷宮に飲まれます」
その言葉を聞いたハルツ公はさらに問いかけてきた。
「ではどうすればよい?」
「頭をすげ替えた上で他領に協力を仰ぎ、一番階層の高い迷宮を撃破するしかありません」
その瞬間、二人の鋭い視線が突き刺さる。
「その方はセルマー伯爵を討つべきだと申すのか?」
「私だけではありません。公爵閣下もゴスラー殿もそうお考えのはずです」
ハルツ公はじっとこちらを見つめていたが、やがて大きく息を吐き出した。
「何かを感じ取るとは思っていたが、よもやすべてを見通すとはな……」
すいません。カンニングなんです……。
彼はもう一度表情を引き締め告げた。
「ここからの話は他言無用だ。決して漏らすでないぞ」
「閣下」
ハルツ公の言葉にゴスラーが反応する。
「よい。アユム殿なら問題なかろう」
「ですが……」
「余らの考えをここまで察しておるのだ。今更隠したところで何の意味もない」
それを聞いたゴスラーは少し考え口を開く。
「……分かりました」
それに頷きを返し、公爵が話し始めた。
「その方の懸念通り、このままいけばセルマー伯爵領は民と領土、そして爵位ごと迷宮に飲まれる。現在エルフの押さえている高位貴族の爵位は一公爵一侯爵二伯爵。しかし、そう遠くないうちにその一つが失われよう。それだけは何があっても防がなければならぬ」
失うときはあっさり失うのだろうが、新たに成り上がるのはそう簡単ではないはず。
というか、何をすれば高位貴族になれるんだろうか? 迷宮をたくさん倒せばいいのかね?
「これは別に他種族に対し差別意識を持っているとか、逆に差別を受けているといった意味ではない。アユム殿なら分かっていただけようか」
「はい。もちろん理解しております」
俺の答えに満足そうに頷き話を続ける。
「既に帝国側も動き出しており、事は急を要する。全エルフ最高代表者会議の承認を取り付け、帝国側への根回しが済み次第、セルマー伯爵を討つ。おそらく、その方が想定しておった夏となろう。そこでだ」
彼は言葉を止め、鋭い視線でこちらをじっと見据えた。
「アユム殿の力を借りたい」
「私の力ですか?」
「うむ。その方は先ほどセルマー伯の謁見室で当家のエンブレムが入った垂れ幕を目にしておるな?」
「はい」
その問いかけに頷きを返すと公爵は話を続ける。
「あれは、どちらかの家が道を誤るようなことが起これば、そこから攻め入り元凶を取り除くことで正道に戻すために設置しておる。いわば両家の友好と信頼の証そのもの。そして、現在のセルマー伯爵の行いはまさに道を過っていると言えよう」
確かにな。
領土が減る帝国。政治力が低下する全エルフ最高代表者会議。そしてなにより、現在進行形で生活が脅かされている領民。
誰の目から見ても彼の行動は道を過ったとしか映らない。
「セルマー伯爵は自分の身を守ることにかけては頭が回る男。城門は出入りする者がなければ開かぬし、城内は全て遮蔽セメントが塗られ、フィールドウォークで移動できる場所が制限されている上に、そこには常時見張りの者が詰めておる」
城門はともかく、あなたのところもそうじゃないですか。
というかフィールドウォークなんてものが存在する世界だと、そうせざるを得ないのだろう。
「しかし、アユム殿がアレを目撃したことで条件が変わった。決行の際には手を貸してはもらえぬか?」
こちらを見据える彼の視線は重力を感じるほど重苦しく、押しつぶされそうになるほどだ。
「はい。その際には是非お声がけください」
依頼を承諾したところで、公爵の表情の変化と共にプレッシャーが霧散していく。
「そうか。引き受けてくれるか」
公爵の言葉にゴスラーも安堵の息を漏らした。
「これ以降、本件をセ二号作戦と呼称する。決行が近づけばその方を城へ招くゆえ、それまではこの件を一切口にするでないぞ」
図らずも作戦名は原作と同じになったか。
それにしてもセ二号作戦ってのは何からきてるんだ?
おそらくセはセルマー伯爵だろうが、二号ってのがよく分からない。
同時進行でセ一号作戦も走っているのだろうか?
思索を振り払い答える。
「かしこまりました」
そうは言ってもロクサーヌとセリーには伝えるけどな。
というか、もともと彼女たちには話をしていたのでノーカンってことで。
部屋の雰囲気が和らいだところでハルツ公は申し訳なさそうな表情を浮かべた。
「アユム殿にはもう一つ頼みたいことがある」
これ以外に頼みたいこと? 何だろう? 心当たりがないんだが。
「セルマー伯爵の代替わりが済むと、その方はセルマー伯爵領の迷宮へ入るのであろう?」
「はい。ルティナ様とお約束しましたので」
公爵は一つ頷くと話を続ける。
「領内を早急にまとめるため、代替わりしたばかりの新たなセルマー伯爵には功績が必要となる。心苦しいのだが、もしアユム殿が迷宮を討伐した場合、それを譲ってもらうわけにはいかぬか?」
あー。なるほど。
原作でも似たようなことがあったわ。
カッサンドラ婆さんがネスコの迷宮を紹介したとき、一族が総力を挙げて攻略をしている迷宮のため、ミチオが討伐しても爵位を譲るわけにはいかないと言っていた。
この話も似たような感じか。
新しい伯爵の地盤を固めるため、先代では成し遂げられなかった迷宮討伐を果たしたという功績が必要になるのだろう。
まあ、セルマー伯爵領の迷宮をいくら攻略しても爵位は得られないし、そもそも俺がそこの迷宮に挑むのはルティナとの約束を果たすためだ。
別に功績の一つや二つ、譲ったところで問題ない。
いや、ハルツ公に貸しを作れる分、こっちの方がいいまである。
「先ほども申し上げましたが、私がセルマー伯爵領の迷宮に入るのはルティナ様とのお約束があるからです。その約束が果たせるのでしたら、討伐の功績など些細なこと。何も問題ありません」
その言葉に彼らの表情が緩む。
「余らの都合でその方には迷惑をかける」
色々世話になってるしな。このくらいなんでもない。
おっと。そうだそうだ。譲れないものもあったわ。
「ただし、ギルド神殿をお譲りするわけにはまいりません」
「うむ。それは当然であろう。余らも貴重なギルド神殿を召し上げるつもりはない」
オッケー。なら問題ない。
「そうであれば、私に否やはございません」
「アユム殿、その方に感謝を」
今度こそ安心したのか、彼らの顔に笑みが浮かぶ。
しかし、ハルツ公の表情は何かに気が付いたようなものへと変わり、問いかけてきた。
「その方は随分とセルマー伯爵の娘御のことを気に入っているようだが、その父を討伐することに対し思うところはないのか?」
思いがけない質問を耳にして、一瞬思考が停止する。
どうなんだろうな……。
物語を読んでいたときは、領内の統治を疎かにし、庶民の血税で淫蕩に耽る彼は排除されるべき人物だと考えていた。
いや、その考え自体は今も変わっていない。
しかし、ルティナと出会い、彼女の父親だと思ってセルマー伯爵を見た場合、ほんの少しだけ躊躇う気持ちがあるのも事実だ。
だからといって彼を救うわけにはいかない。
彼が領内統治を疎かにしたことで、多数の領民が犠牲になったことだろう。
そんな事態を引き起こした男を、大切な娘の父親だからと救いの手を差し伸べるのか?
やはりそれは何かが違う気がするのだ。
あっさりと盗賊を殺すことができたのもそうだったが、これについても心の中はセルマー伯爵討伐で固まっている。
俺という男は、つくづく心根の冷たい人間なのかもしれない……。
ハルツ公の目を見据え口を開く。
「このままでは多くの領民が犠牲になるでしょう。セルマー伯がその地位に拘泥するというのなら、彼を排除しなければなりません」
彼はそれを聞くと気遣うようにもう一度尋ねた。
「そうか……。当代のセルマー伯爵家が没落すれば、その娘である彼女もただでは済まぬぞ」
「はい。承知しております。セルマー伯爵の首をすげ替えるとなれば、ルティナ様の継嫡家名が邪魔になるはずです。となれば良くて市井の者として生きることになるか、悪ければ奴隷身分へ落とされる。そして最悪は命を失うことも考えられるでしょう」
「アユム殿はそれでもよいのか?」
いいわけないだろ!
「私は少しでもルティナ様が助かる可能性が上がるよう、助言とともに贈り物をいたしました。あのお方が助言通りの行動を起こせば、きっと道は開かれるはずです。ですが……」
全身全霊を込めてハルツ公の目を見据える。
「それが無駄だったとしても、諦めるつもりはありません。間違いなく私は父親の仇と恨まれるでしょう。ですが、あの健気で愛らしいご令嬢はどんなことがあってもお救いします」
この世界に来た第一の目的はロクサーヌに会いたいからで、彼女が世界で一番大切な存在だ。それは絶対に揺るがない。
しかし、セリー、ミリア、ベスタ、ルティナのことも愛おしく思う心を止めることはできない。
彼女たちのことだって幸せにしてみせる。
救いようのないクズ野郎だが、それは紛れもない本心だ。
たとえ俺の下へ来ることがなかったとしても、それが彼女を助けない理由にはならない。
二人は俺の言葉に面食らっている。
まあ、そうだよな。
一度会っただけの女性にここまで入れあげているのだ。ヤバいストーカーにしか見えないだろう。
「であるか……。しかし、案ずることはない。彼女についてはそう悪いことにはならぬであろう」
「そうなのですか!?」
「うむ。断言はできぬが十中八九、問題はあるまい」
ほんとだね? 聞いたからね? 言質取ったからね?
もし駄目だったときは絶対許さないからね?
「それにアユム殿はあの娘御からハンカチを受け取っておる。恨まれるようなこともないであろう」
それはどうだろうなぁ。
原作通りなら恨まれることもなかったんだろうが、状況が大きく異なってしまっている。
……とにかく覚悟だけはしておこう。
その後、明日の模擬戦について打ち合わせを行う。
といってもいつもと同じ時間に来るよう言われただけなのだが。
そして、騎士団所属の冒険者にクーラタルまで送らせると言われたものの、それを固辞した。
念のため往路と同じように自宅へ戻り、そこからペルマスクへ飛ぼう。
それならたとえ尾行されていたとしても、家にいた冒険者と一緒に帝都へ行き、エレーヌの神殿でジョブ変更をしてペルマスクへ行ったという理屈がつけられる。
「はぁ」
城門を出たところで口からため息が漏れた。
頭がいっぱいいっぱいだ。
早くロクサーヌとセリーの顔が見たい……。
田川 歩 男 18歳
探索者Lv50 英雄Lv43 魔法使いLv49 遊び人Lv40 戦士Lv37
装備 竜燐の靴
BP振分 残BP:0
キャラクター再設定:1
フィフスジョブ:15
必要経験値二十分の一:63
鑑定:1
MP回復速度二十倍:63
詠唱省略:3
所持金:4,346,295ナール
春の59日目
いつも拙作をお読みいただき本当にありがとうございます。
更新を続けていけるのは、お読みいただいた皆様と素晴らしい作品を生み出した原作者様のおかげです。
また、UA、お気に入り、感想、評価、ここすきといった反応が本当にモチベーションになっています。
今回の連続更新はここまでとなりますが、これからもマイペースに更新していきますので、これからもお楽しみいただければ幸いです。