異世界迷宮へ行ったなら   作:三星織苑

186 / 300
184 ハンカチ

 

 

 

 

 

クーラタル郊外

アユムの家

 

 

 

 

 

 徒歩でボーデの冒険者ギルドまで移動し、そこからフィールドウォーク便を利用しクーラタルの冒険者ギルドへ飛ぶ。そこからさらに歩いて自宅へ戻った。

 

「はぁ」

 

 鍵を開け、中に入ったところで口からため息がこぼれる。

 

 日々迷宮で歩きまくっているため、面倒くさくはあってもこの程度では疲れない。

 これは精神的なものが大きいだろう。

 

 このままベッドやソファーで休みたくなるが、もう結構な時間だ。

 時差があるためペルマスクは夕方になっている可能性がある。

 それに今はすぐにでもロクサーヌとセリーの顔が見たい。

 

 玄関のカギを内側から閉め、キャラクター再設定を開く。

 

 毘盧帽を使用するため、ファーストジョブはそのまま探索者だ。

 MP回復速度二十倍を頭装備六に、鑑定をワープへ変更する。

 

 デュランダルを使いザビルの迷宮で回復を行う気分じゃない。

 今回は万能丸でMP回復を図ろう。

 

 キャラクター再設定画面を閉じ、玄関の扉へワープゲートを展開した。

 

 

 

 

 

ペルマスク

冒険者ギルド

 

 

 

 

 

 ザビルの迷宮を経由してペルマスクの冒険者ギルドへたどり着くと、窓から見える景色はオレンジに染まっている。

 

 二人はもう終わったのかな?

 

 周囲を見回したものの、女神のような女性と妖精のような女性を発見することはできなかった。

 展示受注会が盛り上がっているのかもしれない。

 

 例によって飲み物の注文を済ませ、席へ着く。

 

 ハーブティーが運ばれてきたものの口を付ける気にはなれず、頭の中では延々と今日起こった出来事が駆け巡っていた。

 

 

 

「お待たせいたしました」

「ご主人様、セリーのおかげで万事上手くいきましたよ」

 

 今後、どうやってリカバリーをするべきか頭を悩ませていたところ、愛しい娘たちの明るい声が聞こえてくる。

 

「うむ。二人ともよくやった。とりあえず、詳しい話は後にしてクーラタルへ戻ろう」

 

 しかし、俺の様子を見た彼女たちの顔に心配そうな表情が浮かぶ。

 

「あの、何かあったのですか?」

「まあ色々あったが、それは帰ってからな」

 

 気遣うように問いかけてきたロクサーヌに答え、ワープゲートを展開した。

 

 

 

 

 

クーラタル郊外

アユムの家

 

 

 

 

 

 買い物を済ませて自宅へ戻り、食材をキッチンにしまったら二人にリビングで待つように伝え、二階へ上がる。

 物置からスロットが四つ付いたスタッフとスロット付きのミサンガを。

 自室からはコボルトとヤギ、それから芋虫のスキル結晶を回収して一階へ下りた。

 

 

 

 リビングへ入ったらソファーへ腰を下ろし、彼女たちにも座るよう促す。

 

「まず、俺の方から今日あった出来事について話そうと思う」

「かしこまりました」

「はい」

「本当にいろいろあったから、二人も驚くんじゃないかな」

 

 二人の顔にこちらへの気遣いと好奇心が混じり合ったような表情が浮かぶ。

 

 めちゃくちゃ可愛いわぁ。

 

 この娘たちを見ているだけで、心の靄が晴れていく。

 本当に彼女たちは俺のトランキライザーだ。

 

 んじゃ、話していくとしますかね。

 

 

 

 明日の模擬戦については最後に回すとして、まずは探索者ギルドで聞いたセルマー伯爵領における迷宮の現状。街の景色や領民の雰囲気、そして居城の様子についても伝えていった。

 

「迷宮の攻略状況からある程度推測していましたが、そこまでの状況だったのですか……」

 

 セリーの言葉にロクサーヌも続く。

 

「迷宮や盗賊から領民を守っていないというのに、その領民が納めている税で贅沢三昧。物語で聞いていた状況よりさらに酷いです。たとえ私たちの仲間になる者の親だとしても、セルマー伯爵を許すことはできません」

 

 その顔には怒りの色が浮かんでいた。

 税金が払えなくて奴隷に落ちたのだ。彼女が憤るのも当然だろう。

 

 

 

 ロクサーヌが落ち着きを取り戻したところで話を再開する。

 

「そして、控室で一時間ほど待つことになったんだけど、そこで思ってもいなかったことが起きた」

「思ってもいなかったことですか?」

 

 セリーの相槌に頷き、続きを口にした。

 

「そう。ハルツ公爵家の人たちが挨拶に行ってしまってね。俺一人で待つことになったんだ。そして、そこにルティナが現れた」

 

 その言葉に彼女たちから大きな声が上がり、目を大きく見開いている。

 

 まったく予想していなかったことだ。そりゃ驚きもするだろう。

 

「生まれたときから奴隷身分のベスタはともかく、セリー、ミリア、ルティナについては俺が忠告をすれば奴隷にならずに済む可能性がある」

 

 真剣な表情でこちらをうかがう二人へ話を続けた。

 

「なので、セリーが加入する前にそのことについてロクサーヌと検討をしていた」

 

 それを聞いたロクサーヌが頷きながら口を開く。

 

「ただ、セリーとミリアのいる場所が分からず、ルティナについては不敬罪に問われる可能性があったため、その案は見送ることになりましたね」

 

 そして、セリーも頷きながら話す。

 

「はい。私が初めてこの家に来たとき、そのことについてご主人様に頭を下げられて少し驚きました。まあ、もっとすごいことを聞かされたせいで、その驚きはそこまで大きいものではありませんでしたが」

 

 そりゃ異世界転移や原作知識の方がインパクトはデカいわな。

 

 そして、セリーの表情が徐々に変わっていく。

 

「あの……。まさかご主人様……」

 

 それを聞いてロクサーヌも気が付いたようで、おそるおそる問いかけてきた。

 

「もしかして、ルティナに忠告をしたのですか?」

 

 二人の顔は驚きで強張っている。

 

 セルマー伯爵領の迷宮の状況について忠告するってことは、この封建社会で絶対的な権力を持つ貴族に、あんたのところは領地をまともに管理できていないと言っているようなものだ。

 というかド直球でそう言っちまった。

 この世界の庶民では想像もできないような蛮行だろう。

 

 でも、やっちゃったんだよなぁ……。

 

「うん。色々な意味で危険なことだと分かってはいても、彼女が奴隷にならなくて済むチャンスを見過ごすことができなかった。我ながら本当に馬鹿だと思うよ」

 

 その言葉を聞いたロクサーヌが大きな声を上げた。

 

「そんなことはありません! ご主人様は危険を冒してまでルティナのことを守ろうとしたのですよね? 優しい上に勇気のある行動をとったご主人様を馬鹿だなんて思うはずがありません!」

「ロクサーヌさんの言う通りです! 貴族に目を付けられる可能性があるのに彼女を助けようとしたご主人様は本当に素晴らしいお方です」

「はい。私たちはそんなご主人様を誇りに思っています」

 

 彼女たちは笑みを浮かべながらこちらを見つめている。

 

 それを見ているうちに、ルティナが仲間にならないかもしれないという後悔や、危険を伴う迷宮探索へ促した申し訳なさといったものが、小さくなっていく。

 もちろんそれが完全に消えるということはない。

 彼女が奴隷にならなかったり、別の者の下へといったときにはこれまでの人生で一番の後悔に襲われるだろう。

 それに、もし迷宮であの娘に万が一のことがあった場合は、悔やんでも悔やみきれない。

 

 だが、どちらについても現段階ではどうなるか分からないんだ。

 それなら、今は余計なことをグダグダ悩むより、これからのことを考えよう。

 

 二人の笑顔のおかげで前向きになれた。本当にいつもいつも助けられてばかりだな。

 

「ロクサーヌ、セリー。ありがとう。馬鹿なことをしたと落ち込んでいたんだけど、君たちのおかげで心が楽になったよ」

 

 感謝の気持ちを伝えると、彼女たちの笑みがさらに輝きを増した。

 

 

 

 落ち着いたところでロクサーヌが問いかけてくる。

 

「それで、どうなったのですか?」

 

 その言葉に一つ頷き、話を始めることにした。

 

「怒り出す可能性もあったんだけど、まずセルマー伯爵領の現状がいかに不味いかを伝えてみた。でもね、あの娘は怒るどころか申し訳なさそうにしていたんだ」

 

 ロクサーヌは複雑な表情で呟く。

 

「そうなのですね……」

 

 罪悪感を持っていようが迷宮に入っていないのは事実であり、領民を守るために迷宮で戦う義務を負った貴族としては失格だ。

 しかし、迷宮に入らないのは親であるセルマー伯の指示で彼女にはどうすることもできない。

 何と言ったらいいか分からないよなぁ。

 

「そこでルティナが迷宮で戦えるように助言をさせてもらった」

「助言ですか?」

 

 セリーの相槌に頷き、パワーレベリングにより魔法使いのジョブを取得し、その後は自身でも迷宮に入るよう助言したことを伝える。

 

「魔法使いになれることを喜んでいたし、迷宮に入る気概は持っていたものの、彼女はとても不安そうだった」

「あの娘は迷宮に入ったことも戦ったこともないのですよね? そうなるのも当然のことでしょう」

 

 頷いているセリーに対し、ロクサーヌはあまり納得いっていないようだ。

 

「そうですか? たとえ初めてであろうと相手の動きをよく見て攻撃を受けなければ、何も恐れることはないと思うのですが」

 

 それは特殊能力を持っている人だから言えるセリフなんです……。

 きっと、この娘さんは初陣でも相手の動きがバッチリ見えていて全然問題なかったんだろうなぁ。

 

 

 

 思索を振り払い、話を続ける。

 

「そのあまりにも不安そうな様子を見ていられなかったし、彼女を俺たちのパーティーに入れてフォローするというわけにもいかない。そこで、ひもろぎのスタッフと身代わりのミサンガをルティナへ贈ることにした」

「えー!」

「ひもろぎのスタッフを!?」

 

 ロクサーヌとセリーは驚愕の表情でこちらを見つめていたが、すぐに落ち着きを取り戻す。

 

「私たちも身分不相応な装備品を与えられています。ルティナに対してもそうだということですね」

 

 セリーの言葉に、ロクサーヌもドヤ顔で頷いた。

 

「世界一のご主人様なのです。当然のことでしょう」

 

 ロクサーヌさんや。めちゃくちゃ可愛いけどその顔はやめとこうね。

 

 

 

 話の途中だが、アイテムボックスからスタッフとミサンガ、それから各スキル結晶を取り出す。

 

「というわけで、ひもろぎのスタッフと身代わりのミサンガがなくなってしまった。セリー、融合を頼める?」

 

 お願いすると、彼女は少し考え口を開く。

 

「スタッフに知力二倍をつけるのですか?」

 

 うん?

 

「どういうこと?」

「よりしろのイアリングにはスキルスロットが一つ余っていますよね? そちらにつけてもよいのではないでしょうか」

 

 なるほど。それならスタッフより強力な杖を手に入れた場合でも、新たにスキル結晶を融合する必要はない。

 しかもヤギのスキル結晶はもう一つあるため、融合して聖槍と交換することも可能。

 確かにこれがベストだな。

 

「さすがセリー、頼りになるね。それじゃあ、そっちに変更しよう」

「ふふ。ご主人様のお役に立てましたね。セリーはすごいです」

 

 彼女は俺たちの言葉にはにかんだような笑みを浮かべていた。

 

 

 

 サクッと融合が済んだよりしろのイアリングをアイテムボックスにしまい、身代わりのミサンガを左足に巻く。

 そして、話の続きに戻る。

 

「戻ってきたハルツ公爵家の人たちとセルマー伯との会談に臨んだんだけど、流れは以前話した物語の通りかな」

「ご主人様のことを冒険者だと思い込み、非難しようとしたのですね」

 

 悪い笑みを浮かべているセリーに続き、ロクサーヌもドヤ顔で口を開いた。

 

「ふふ。ご主人様はそのようなことなどすべてお見通しです。所詮は迷宮探索を厭う臆病者の浅知恵でしかありません」

 

 こら。そんなことを言うんじゃありません。もし他所でそんな言葉を聞かれたら大変なことになるでしょ。

 

 それにこれは俺の手柄じゃなく原作知識のおかげだし。

 

 

 

 気持ちを切り替えて話を続ける。

 

「物別れのような感じで会談が終わり、帰るために廊下を歩いていると控室の前でルティナが待っていた。そして、彼女からいつか魔法使いとして力を付けたときに、一緒に迷宮へ入ってほしいと言われたんだ」

 

 すると、二人は驚いたように顔を見合わせていた。

 

「あの娘が奴隷に落ちて俺たちの仲間になる可能性は低くなった。それに、親身になってアドバイスをしたはずの人が、自分の家を滅ぼすために乗り込んでくる。そのときがきたら彼女に恨まれてしまうだろう。きっと魔法使いとして力を付けたとしても一緒に迷宮へ入ることはない。でも、それでも、彼女の願いを拒否することはできなかった」

 

 ロクサーヌとセリーは何か言いたげにこちらを見つめていたが、ポケットからルティナに貰ったハンカチを取り出す。

 

「そして、アドバイスのお礼と一緒に迷宮に入る約束の証として、ルティナからこれを受け取ったんだ……」

 

 それを見た彼女たちは再び顔を見合わせた後、ロクサーヌが問いかけてきた。

 

「そのハンカチはあの娘から直接受け取った物なのですよね?」

 

 え? 直接も間接も関係ないと思うんだが。

 

「そうだね。彼女から直接手渡されたものだ」

 

 俺の言葉に二人は頷き、今度はセリーが口を開く。

 

「ご主人様。貴族女性が男性に直接ハンカチを渡す意味をご存知ですか?」

 

 意味? 意味なんてあるのか?

 

「いや、君たちも知っての通り俺は違う世界から来たため、そういった風習が全然分からない。どういう意味なの?」

 

 尋ねたところ、セリーが答えてくれる。

 

「あなたのことを誰よりも信頼していますという意味になります。夫や婚約者に渡すことすら稀で、それほど重い意味を持っているのです」

 

 そうか……。あの短時間のアドバイスと贈り物に対して、そこまで真剣に向き合ってくれていたのか……。

 

「俺はそこまで信頼してくれたルティナのことを裏切ることになるんだな……。あの娘はどれほど傷つくことだろう……」

 

 彼女の気持ちを考えるだけで胸が苦しくなってくる。

 

 落ち込んでいると、ロクサーヌがかぶりを振って告げた。

 

「そうではありません。先ほどセリーが言ったように、あの娘はご主人様のことを誰よりも信頼していると示したのです。親兄弟やおそらくいるであろう婚約者よりもです」

 

 その言葉に続きセリーも口を開く。

 

「はい。それに迷宮探索を行い、町の様子を見ることでセルマー伯爵領のおかれている危機的な状況や、それを打開するための方法についても理解することでしょう」

「セリーの言う通りです。おそらくルティナがご主人様のことを恨むことはありません」

 

 そう簡単に割り切れるとは思えないが、もしあの娘が俺のことを恨んでいないのなら、たとえ仲間にならなくても手助けができるはずだ。

 その場合は全力でバックアップをしよう。

 

 恨まれていた場合は顔も合わせてもらえないだろう。そのときはセルマー伯爵領の迷宮に対して八つ当たりだな。一つ残らず、ぶっ潰してやる。

 

 

 

 思索を振り払い、侍女がセルマー伯に情報を流していたことをカシアに謝罪された件。

 ハルツ公がセルマー伯を排除しようとしていることに気が付いていることを、彼に悟られてしまったこと。

 そのままセ二号作戦に参加するよう依頼されたこと。

 そして、セルマー伯爵領の迷宮を討伐した場合、その功績を譲ってほしいと言われたこと。

 

 起こった出来事について伝えたところ、セリーが懸念を示す。

 

「もしかしたら不味いことが起こるかもしれません」

「不味いこと? それはルティナについて?」

「はい。物語では戦ったことも迷宮に入ったこともなかったため、何の抵抗もできず捕まったのでしょう。ですが、魔法使いとなり抵抗が可能になってしまえば……」

 

 あっ。確かにそうだ。

 乗り込んできたハルツ公爵家の騎士に抵抗した場合、彼らも本気で取り押さえようとするだろう。

 しかも、ひもろぎのスタッフまで持っているため抵抗は激しいものになる。

 そうなれば何が起こるか分からない……。

 

 くそっ。本当に俺は余計なことをしている。

 

 自分の迂闊な行動を悔やんでいると、ロクサーヌが告げた。

 

「それなら私たちも作戦に参加してはいかがでしょう? 公爵家の騎士団より先にルティナを見つけ出せばよいのです」

 

 と言われてもなぁ。

 

「物語には彼女の部屋についての描写がないし、人数が違うからこちらが先に見つけるというのは難しいと思う」

 

 俺の言葉を聞いた彼女は自信たっぷりな笑みを浮かべる。

 

「大丈夫です。そのハンカチでルティナの匂いは覚えました。問題なく彼女のいる場所へ案内してみせます」

 

 うそー! マジで!?

 

「これだけで匂いが分かったってこと? それに長いこと覚えていられるものなの?」

「はい。鼻の良さにかけては自信がありますし、匂いを覚えておくことなど造作もありません。私にお任せください」

 

 美人で可愛くスタイル抜群でその上、とんでもない鼻と記憶力まで持ってるなんて、本当に頼りになるー!

 さすがロクサーヌ。さすロクだ。

 

「ありがとう、ロクサーヌ。それじゃあ、そのときがきたら俺たちも作戦に参加することにしよう」

 

 その言葉に二人は頷きながら返事をしてくれた。

 

 最後に直近の予定について話すことにする。

 

「最後に、予定よりだいぶ早いんだけど、明日ハルツ公爵家騎士団との模擬戦を行うことになった」

 

 それを聞いたセリーは戸惑った様子を隠せない。

 だが、ロクサーヌは好戦的な笑みを浮かべながらこちらを見つめていた。

 

「相手は騎士団で一番の腕利きとのことだ。ロクサーヌ、お願いね」

「はい。望むところです。ご主人様による薫陶の成果を見せるいい機会となるでしょう」

 

 それは私によるものじゃないと思うんですよねぇ……。

 

 そして、ロクサーヌは何かに気が付いたようで、こちらへ問いかけてくる。

 

「ご主人様、バラダム家との決闘はハルツ公爵家で行うのですよね?」

「そうだね。物語と同じならゴスラー殿が立会人を務めると思う」

「なるほど……。私たちは騎士団長の前で決闘を……」

 

 そう呟くと彼女は何やら考え込んでいた。

 

 この娘さん何を考えているんだろう?

 

 疑問を覚えながら話を締めくくる。

 

「俺の方で起こったことについてはこんなところかな」

 

 すると、ロクサーヌがパッと表情を輝かせながら声を上げた。

 

「ご主人様! セルマー伯爵の件が済んだら、伯爵領の迷宮討伐を行うのですよね!」

 

 あー。そこに食いつくのかぁ。

 

 その言葉にセリーも続く。

 

「ご主人様とロクサーヌさんの能力をもってすれば、まったく問題とならないでしょう。いえ、おそらく今すぐにでも可能だと思います」

 

 セリーまでとんでもないことを言ってるぞ……。

 

 いや、でもそうだな。

 セルマー伯爵領の迷宮討伐はするつもりだし、二人には黙っていたがチャンスがあれば、ゴスラーの横取りでハルバーの迷宮を討伐する予定だったんだ。

 こうなった以上、今後について情報共有をしておくべきだろう。

 

 それについて話していると彼女たちの表情が輝きを増していく。

 しかし、話がハルバーの迷宮に及んだところで、戸惑った様子でセリーが告げた。

 

「あの、ハルバーの迷宮は若い迷宮なので最上階は五十階層でしょう。そうなると四十六階層以降については、階層を上げてもその情報を報告することはないはずです」

 

 そうなんだよなぁ。昨日ギルドで情報を調べたときに気が付いたが、横取りはできないっぽいんだよなぁ。

 

「うん。昨日迷宮の情報を調べたときにそれに気が付いた。ゴスラー殿がハルバーの迷宮を討伐するのは夏の四十日以降。それまでにレベルを上げて装備を整え、チャンスがあれば狙うことにしよう」

「はい! ご主人様なら間違いなく達成できることでしょう!」

「私も製造や融合でお役に立てるよう、頑張ります!」

 

 二人ともめちゃくちゃ良い笑顔だ。

 うん。実に可愛い。

 

 

 

 俺の話が終わったところで、今度は彼女たちの話を聞くことにする。

 

「今回で最後ですからね。今までと同じような価格だと、せっかくの機会を逃してしまうかもしれません。なので、大幅に価格を抑えておきました」

 

 四万ナールの指輪を二十万ナール。三万五千ナールのブレスレットを十八万ナール。三万八千ナールのペンダントを二十万ナール。一万九千ナールのブローチを十万ナールで販売することにしたようだ。

 

 いったいどこらへんが抑えられているんですかねぇ……。

 

 にしてもネックレスは販売しないんだろうか?

 

 問いかけてみるとセリーが残念そうに答える。

 

「ネックレスは最も高価な品となるため扱いたかったのですが、先に買った奥さんたちへ特別に販売したということになっているため、扱うわけにはいかなかったのです」

 

 あー。そんなことを言っておいて安売りしたとなれば、奥さんたちも良い気持ちはしないわな。

 

 納得しているとロクサーヌが嬉しそうに告げる。

 

「ご主人様、セリーは今日も本当にすごかったのですよ」

 

 ロクサーヌによると、商談用に用意されていた部屋にはひっきりなしに客が訪れ、セリーはその人たちへ口八丁手八丁で営業をかけて注文を取りまくっていたらしい。

 

 ほんま恐ろしい娘やで……。

 

 恐れ慄いていたところ、セリーはパピルスを取り出して受注した商品を読み上げる。

 

「注文は指輪が七つ、ブレスレットが五つ、ペンダントが三つ、ブローチが八つとなります。引き渡しは五日後の春の六十四日目となっているのですが、問題ないでしょうか?」

 

 おいおい。めちゃくちゃ注文を取ってるじゃないか。コハク商に在庫はあるのか?

 それに仕入高と売上高はいくらになるんだ?

 

 それを確認してみると彼女は微笑みながら答えた。

 

「見本の品を購入するときにどのくらい注文を受けてもいいのか確認してあるので、問題ありません」

 

 ほんと、そつがない娘さんだこと。

 

「それじゃあ、春の六十二日目に武器屋や防具屋を回る際、コハク商の所にもいくことにしよう」

「はい。よろしくお願いします」

 

 セリーの返事に頷きを返したところで、金額の確認を行うことにした。

 フォースジョブを商人に替え、もう一度金額と注文数を読み上げてもらう。

 

 売上高は指輪が七個で百四十万ナール、ブレスレットが五個で五十四万ナール、ペンダントが三個で六十万ナール、ブローチが八個で八十万ナール、合計三百三十四万ナール。

 

 一方仕入は、それぞれ一個ずつ見本で購入している分があるので、追加で購入する額は指輪が六個で二十四万ナール、ブレスレットが四個で十四万ナール、ペンダントが二個で七万六千ナール、ブローチが七個で十三万三千ナール。

 春の六十二日目に支払う額は、合計五十八万九千ナールのところを三割引で四十一万二千三百ナール。

 そして、仕入高の合計は五十万四千七百ナールっと……。

 

 他にもペルマスクへの入市税などで多少の費用は掛かっているものの、ほぼゼロみたいなもんだから、利益は二百八十三万五千三百ナールか……。

 

 とんでもないことになってんなぁ……。

 

 

 

 

 

田川 歩 男 18歳

冒険者Lv23 英雄Lv43 遊び人Lv40 商人Lv30 料理人Lv9

装備 サンダル 身代わりのミサンガ

 

BP振分 残BP:6

キャラクター再設定:1

フィフスジョブ:15

詠唱省略:3

必要経験値二十分の一:63

鑑定:1

ワープ:1

ジョブ設定:1

MP回復速度十倍:31

 

所持金:4,345,763ナール

 

春の59日目

  1. 目次
  2. 小説情報
  3. 縦書き
  4. しおりを挟む
  5. お気に入り登録
  6. 評価
  7. 感想
  8. ここすき
  9. 誤字
  10. よみあげ
  11. 閲覧設定

▲ページの一番上に飛ぶ
X(Twitter)で読了報告
感想を書く ※感想一覧
内容
0文字 10~5000文字
感想を書き込む前に 感想を投稿する際のガイドライン に違反していないか確認して下さい。
※展開予想はネタ潰しになるだけですので、感想欄ではご遠慮ください。