いつものように朝の準備を整えたら、リビングで今日の予定を確認だ。
早朝の探索、朝食とミリアへの差し入れの準備。
朝食を済ませたら食休みはなしでそのままベイルの商館へ。
それが終わると武器屋と防具屋巡り。
そのあとは帝都の高級服屋で注文していたミリアの下着やエプロンを受け取って、彼女たちのドレスの進捗状況を確認する。
二人は今回も買い物には行かないとのことだった。
そして、なんといっても重要となるのがボーデのコハク商。
二百八十万ナール以上の利益を叩き出してくれる大切な仕入だ。気合を入れて事に当たるぞ。
予定が詰まっているため探索を行う時間はないはず。
彼女たちが昼食の支度をしている間、俺はルークのところへ顔を出してスキル結晶を受け取ってこよう。
んで、午後からはいつも通りっと。
予定を確認した後は給与の支給だ。
ロクサーヌとセリーのおかげでとんでもない額を稼いでいるし、コハクの販売でさらなる大金が手に入る予定となっている。
次回からはミリアへの支給もあるので、給与額の見直しをしておくべきだろう。
現在、ロクサーヌが千二百ナール、セリーが八百ナールで、年収にするとそれぞれ、えっと……。
助けてー! 商人えもんー!
しょうがないなー、アユ太くんは。
遊び人を商人に入れ替え、計算を再開する。
支給は五日ごとだから、三百六十五割る五で七十三。年間支給回数は七十三回。
今の支給額を一年続けた場合、ロクサーヌの年収は千二百掛ける七十三で八万七千六百ナール。
セリーの年収が八百掛ける七十三で五万八千四百ナール。
クーラタルで暮らす庶民の年収はどのくらいなんだろう?
ザックリ概算額を出してみるか。
ええっと、人頭税が年三万ナールで、家賃が四万ナール。
食事や消耗品などが六万ナールくらいとして、貯蓄に回す分は五万ナールほど。
合計十八万ナールくらい?
まあ、探せばもっと家賃の安いところがあるだろうし、持ち家があれば家賃はかからない。しかも、人頭税以外の税金もないため固定資産税の心配もなし。
それに俺基準なので、食費や消耗品なんかはだいぶ多めに見積もっているだろう。
あとは庶民がそれだけ貯蓄できるのかも不明だが、まあ概ねこんなもんってことで。
んで、十八万割る七十三で約二千四百六十五ナール。
銅貨で支給するのは面倒だから切り上げて二千五百ナール。
今後、我がパーティーにおける給与額の最低ラインはこれにしよう。
五人に支給したとしても年間で白金貨まではいかないわけか。
これを安いと考えてしまうあたり、俺の金銭感覚は取り返しがつかないレベルでぶっ壊れている。
だって、簡単に稼げてしまう上に、高性能な装備品の価格が異次元すぎるんですもの。そうなるのもしょうがないじゃない。
それじゃあ、今回の改定額はロクサーヌが二千七百ナール。そしてセリーが二千六百ナールとしておこう。
支給額が決まったところで二人にそれを告げる。
「ロクサーヌ、セリー。君たちのおかげで何の問題もなく迷宮探索を行えているよ。いつもありがとう」
その言葉にロクサーヌの美しい顔が綻んだ。
「こちらこそありがとうございます。私もご主人様のおかげで幸せな毎日を過ごしています」
俺もー! ロクサーヌと過ごせて超幸せだから!
すると、ニコニコ笑顔でセリーも口を開く。
「私も同じです。ご主人様やロクサーヌさんのおかげで本当に毎日が楽しいです」
好きー! セリーも大好き!
三人の間でほっこりとした空気が流れ、自分たちの幸せをかみしめる。
おっと。いかんいかん。昇給の話だった。
「次回の支給日にはミリアも加わることだし、いい機会だから君たちの給与を増額しようと思います」
「奴隷でありながら身に余る額の給金をいただけているだけでもありがたいというのに、さらに増額していただけるだなんて……。ご主人様、ありがとうございます……」
セリーは感動したように瞳を潤ませている。
「こんなに恵まれた奴隷は世界中探しても見つからないでしょう。私たちは本当に幸せです」
ロクサーヌも幸せそうに微笑を浮かべていた。
うんうん。これだけ喜んでもらえたんなら昇給をした甲斐があるってもんだ。
「今回からロクサーヌは二千七百ナール。セリーは二千六百ナールにしよう。これからもよろしくね」
すると、二人は何を言われたのか分からないというような感じで、呆然とこちらを見つめている。
どうやらキャパオーバーだったらしい。
しばらく惚けていたが、再起動したロクサーヌが大きな声を上げた。
「二千七百ナールですか!? 五日間でそれだけ稼げるのは一部の人だけですよ!?」
「そうです! 迷宮でそのくらい稼ごうと思ったら三十四階層より上で戦う必要があります!」
逆に言うとさらに上の方で戦っている者はそれ以上に稼ぐってことか。
四十五階層以上で戦っていたという話だったアンドレアやガストンは白金貨をポンと出していたし、奴らは大金持ちなのかもしれない。
まあ、今は二十六階層だから足踏み状態なのだろうが。
「大丈夫。二人のおかげで十分な収入があるし、貯蓄だってできているから安心して受け取ってね」
そう告げたところ、彼女たちは飛びかかるような勢いでこちらに抱き着き、感謝を告げていた。
ロクサーヌとセリーの背中をゆっくり撫でる。
落ち着きを取り戻したところで給与を支給すると、二人は恭しくそれを受け取っていた。
まあまあ、そうかしこまらずに。気楽に行こうぜ。気楽に。
そして、ロクサーヌの銀貨が百枚を超えたとのことだったので、金貨と交換しておいた。
彼女は受け取ったピカピカと光り輝く硬貨を感慨深げに見つめている。
金貨三枚の人頭税が払えなくて奴隷に落ちたんだ。いろいろ思うところがあるのだろう。
さあ、そろそろ準備を整えて迷宮へ出発だ。
迷宮へ移動するとロクサーヌの表情に苦いものが浮かぶ。
そして、匂いを確認するとますますそれが濃くなった。
「昨日よりも明らかに人が増えています。今までのように案内できるのはこれがギリギリでしょう。さらに増えた場合、人に見られないように案内することは出来ても、倒せる魔物の数が相当少なくなると思います」
マジかぁ……。
まいったなぁ。美味しい狩場だったんだけどなぁ。
「分かった。今までと同じように狩りができるうちはここに入ろう。ロクサーヌ、いつものように頼む」
「かしこまりました」
匂いを確認しながら歩き出した彼女に続き探索を開始する。
ボーナスステージの終了が近いため、無心で魔物を焼き払っていたところ、ロクサーヌがいつもの言葉を口にした。
「ご主人様、そろそろパン屋が開く時間です」
オッケー。早朝の探索はここまでだな。
「では、クーラタルへ戻ろう」
ボーナスポイントの振り分けを行い、ワープゲートを展開する。
今日の朝食はトロの角煮だ。
生姜とコボルトスクラロースはともかく、醤油を魚醬、調理酒を白ワインで代用している上にみりんを使っていないのだが、めちゃくちゃ美味い。
やはり迷宮産は違うということか。
きっとミリアも喜んでくれるはずだ。
食事が済んだところで、準備を整えベイルへ出発進行。
ミリアは匂いで我慢ができなくなっているのだろう。アランが部屋を去ると、角煮を持っているロクサーヌをロックオンしていた。
困った様子でこちらをうかがう彼女へ告げる。
「我慢させるのも可哀そうだ。渡してやってくれ」
すると、話し掛けたロクサーヌではなく、ミリアが声を上げた。
「ありがとうございます!」
えっと、うん。まあ喜んでいるならそれでいいや。
彼女はロクサーヌから受け取ったそれを見て声を上げる。
「ああ、トロ。まさかこんなところで出会えるなんて!」
瞳を潤ませ、頬を朱に染め、神々しさすら感じさせる表情で角煮を見つめていた。
そんな運命の存在と邂逅したかのようなリアクションをされても……。
それに、見ただけでトロだって分かるもんなんだな。
内心で戸惑っていると彼女はこちらを見つめる。
「ご主人様! トロをありがとうございます!」
「う、うむ。冷めないうちに食べるといい」
「はい!」
ミリアは良い子のお返事をすると、角煮を口へ運ぶ。
咀嚼をして飲み込み、はじけるような笑みを浮かべた。
「こんなにおいしいもの食べることができて幸せです! ご主人様にこうにゅうしていただけて、よかったです」
えっと、うん。それはなにより。
それはそれとして、もうブラヒム語もペラペラだなぁ。
感慨を抱きながら食事をしているミリアに鑑定をかけ、レベルを確認する。
ミリア ♀ 15歳
戦士Lv21
装備 皮の靴
オッケー、オッケー。ちゃんと上がっているぞ。
あと9で暗殺者と騎士のジョブを得られるので、合流したらすぐに槍と毒針で魔物を倒してもらおう。
あっ。どうせならソマーラの村の奥にある森でスローラビットを相手にするか。
そのときに村の人へ寄生ワームを売却することにしよう。
思索に耽っている間にミリアは食事を終え、三人で楽しそうに話をしていた。
少したどたどしいところはあるが意思の疎通にはまったく問題がない。
いや。そのたどたどしさにしても、言われなければ気にならないほどだ。
アランが部屋に戻ってタイムアップとなったため、四日後に迎えに来ることを告げて商館を後にした。
その後、ベイル、クーラタル、帝都の武器屋と防具屋を回ったものの、全て空振りに終わり、セリーの作った装備品の売却だけを済ませる。
帝都の高級服屋でドレスの進捗状況を確認してミリアの下着とエプロンを受け取り、ボーデのコハク商のところへ顔を出す。
本当に申し訳ないが値引きをしてくれた額へさらに割引スキルを使用してコハクの装飾品を購入させてもらった。
絶対に恩返しをするから、今は勘弁してつかーさい。
彼女たちが昼食の支度をしている間に自室へ戻り、鍵のかかるチェストへコハクの装飾品が入った箱を並べていく。
こいつらが三百万ナール以上に化けるのか。
現在の手持ちと合わせると七百万ナールオーバー……。
まだ夏にもなっていないというのにマジですごい。
セリーの営業力はまさに鬼だな。
思索を打ち切り、チェストに鍵をかけた。
さて、商人ギルドへ行くとしますかね。
恙なくスキル結晶の受け取りを済ませ、二人が作ってくれた美味しい昼食をいただき、ロクサーヌの柔らかで温かな重みに癒される。
なんと優雅で心安らぐ時間だろう。幸せだなぁ。
その後は残り少なくなっているボーナスステージでの狩りに全力を注ぐ。
適度な休憩をとりつつ、足早に通路を移動しサーチアンドデストロイで魔物を焼いていった。
そして、翌日。
ドレスの引き渡し日となっていたがボーナスステージの終了が間近なので、受け取りは次回の買い物の際に回すことになった。
しかし、早朝の狩りを行なっていると遂にそのときが訪れる。
ドロップアイテムを拾い、次の魔物を探すために匂いを確認していたロクサーヌの表情が曇った。
「ご主人様、さらに人が多くなってしまいました。今までのように案内することは難しいと思います。もうすぐパン屋の開く時間になりますので、今回はここまでにしてはいかがでしょうか」
あちゃー。戦いたがりのロクサーヌがそう言うってことは、ガチで無理なんだろう。
ボーナスステージはこれで終了かぁ。
しゃーない。ベイルの二十六階層での探索はここまでだ。
食休みのときにでも、次の狩場について打ち合わせをしよう。
それを二人に伝えて、ボーナスポイントとジョブの変更……。
っと。その前にレベルの確認をしておかないと。
田川 歩 男 18歳
魔法使いLv50 英雄Lv46 遊び人Lv43 冒険者Lv31 魔道士LV29
装備 スタッフ ダマスカス鋼の盾 身代わりの硬革帽子 頑強の竜革鎧 倹約の硬革グローブ 竜燐の靴 よりしろのイアリング
戦士と剣士、それから薬草採取士のレベルを50にする予定だったのに全然駄目だったなぁ。
それに、英雄のレベルを47にするのも間に合わなかった。
まさか、こんなに早く人が集まってくるとは……。
次はロクサーヌ。
ロクサーヌ ♀ 16歳
巫女Lv19
装備 強権のエストック ダマスカス鋼の盾 耐風のダマスカス鋼額金 オラクル竜革ジャケット 古代樹の手甲 駿馬の竜革靴 身代わりのミサンガ
19か。巫女に関してはそれほど急いでいるわけではないので、この調子で頑張ってもらおう。
んで、セリーっと。
セリー ♀ 16歳
鍛冶師Lv23
装備 強権のダマスカス鋼槍 竜革の帽子 ダマスカス鋼のチェインメイル ダマスカス鋼のガントレット オラクルダマスカス鋼グリーヴ 身代わりのミサンガ
うーん……。やっぱりレベルアップが遅い。
今後はさらに経験値が必要になるだろうし、隻眼へ至るにはどのくらいかかるのだろう?
まあ、焦ってもしょうがない。のんびりゆっくりいこうじゃないの。
レベルの確認を済ませたら、ボーナスポイントとジョブを変更して迷宮を後にする。
朝食の後は食休みを取りながら、次の狩場についての話し合いだ。
「ベイルの二十六階層に入る人が多くなり、今後は大幅に効率が低下してしまう。それで狩場を変更しようと思うんだけど、二人は希望の迷宮と階層はある?」
尋ねたところ、二人はそれぞれ考え始めた。
そして、程なくしてセリーが口を開く。
「ご主人様が魔道士になっていますので、二十七階層から順番に、トリプルスペル二回で倒せる階層を探っていきませんか?」
確かにそれがいいかもしれない。
ワンターンキルにこだわった場合、階層を落とすことになり経験値効率が著しく低下するだろう。
かといって、一足飛びに階層を上げるのはいくらなんでも危険すぎ。
そうなるとこれがベストということになる。
「二十七階層から挑むとして、戦いやすいのはどこの迷宮だと思う?」
問いかけてみると、ロクサーヌが答えた。
「私たちが移動できる迷宮のうち、最高到達階層が二十七階層以上なのは、クーラタルの迷宮で二十七階層がシザーリザード、二十六階層がケープカープ、二十五階層がブラックフロッグ。同じ順番でベイルの迷宮がタルタートル、ハーフハーブ、グミスライム。ハルバーの迷宮はモノタウルス、ケープカープ、グミスライムですね」
よくそんなにスラスラ出てくるなぁ。
ほんと、この娘さんの戦闘関連のスペックはとんでもないわ。
感心していると、セリーが補足を行う。
「シザーリザードとモノタウルスは火に耐性がありますので、この中だとベイルの迷宮が戦いやすいと思います。ですが、階層が上がってしまえば魔物の組み合わせも変わるため、最善を求めた場合、階層が上がるたびに迷宮を移らなくてはならなくなります」
あー。確かに言われてみればその通りだ。
それに属性関係なしの雷魔法もあるし、戦いやすさについては考えないことにしよう。
となると、入るべきは要請のあったハルツ公爵領の迷宮。
その中で二十七階層に至っているのはハルバーだけ。決まりだな。
「じゃあ、次からはハルバーの迷宮に入るってことで」
俺の言葉にロクサーヌさんが攻撃的な笑みを浮かべる。
「はい! 一刻も早く上へ進めるよう、私も全力を尽くします!」
あの、お手柔らかにお願いします……。
最愛の人のやる気を見て少しだけ不安を覚えたものの、打ち合わせが終わったことでセリーが抱きついてきたので、その感触を楽しみながら心と体を休める。
ワープゲートを通り抜けた先は以前来たことがある薄暗い森の中だった。
その直後、ロクサーヌは険しい表情で匂いの確認を始める。
うん? どうしたんだ? なにかあるのか?
その様子が気になったものの、入口の横に立っている探索者へ話し掛ける。
「どこまで進んでいるんだ?」
「四十三階層となっております」
以前、彼女たちがギルドで調べたときの情報と変わらずか。
ロクサーヌとセリーも毎日確認していたが、階層が上がったという話は聞いていない。
まあ、四十四階層になっていたとしても、まだまだ行くつもりはないんですけどね。
んじゃ、二十七階層へレッツラゴー。
探索者に案内を頼むためアイテムボックスからお金を取り出そうとしたところ、ロクサーヌが鋭い声を発した。
「ご主人様! バラダム家の者たちがこちらへ向かってきています!」
はあ!?
田川 歩 男 18歳
魔法使いLv50 英雄Lv46 遊び人Lv43 冒険者Lv31 魔道士LV29
装備 身代わりの硬革帽子 頑強の竜革鎧 倹約の硬革グローブ 竜燐の靴 よりしろのイアリング
BP振分 残BP:29
キャラクター再設定:1
フィフスジョブ:15
詠唱省略:3
必要経験値二十分の一:63
鑑定:1
ワープ:1
ジョブ設定:1
結晶化促進四倍:3
獲得経験値十倍:31
所持金:3,952,131ナール
春の63日目
いつも拙作をお読みいただき本当にありがとうございます。
特別篇があるため話数とズレていますが、今回でエピソード数が191となりました。
ここまで更新を続けてこれたのは、お読みいただいている皆様と素晴らしい作品を生み出した原作者様のおかげです。
また、UA、お気に入り、感想、評価、ここすきといった反応が本当にモチベーションになっています。
そこで、200エピソードまで連続更新を行いますので、お楽しみいただければ幸いです。