再び奴隷商館を訪ねるとすぐに商談室へ通された。
魔法使いの奴隷を買い取ることができるからか、アランが手ぐすね引いて待ち構えている。
普段と変わらずポーカーフェイスなのに気合が伝わってくるようだ。
ソファーに腰を下ろすよう促され、すぐにお茶が用意された。
「この度は当家をご利用いただき、まことにありがとうございます」
「うむ。アラン殿は俺の知るなかで最も信頼のおける奴隷商人だからな」
「そう言っていただけると奴隷商人冥利に尽きます」
そして、軽い挨拶を交わすと彼にしては珍しく、雑談をせずに本題に入る。
「それでは、これよりお持ちになった奴隷の買取を行いたく存じます。それに際しまして、まずはアユム様のインテリジェンスカードの確認をさせていただきたく」
えっ!? 前に奴隷を売却したときにはそんなのなかったじゃん!?
内心焦り散らかしながらも、時間稼ぎのために話を振った。
「以前奴隷を売却したときにはなかったようだが?」
「前回はソマーラ村長の代理として委任状をお持ちでしたので」
「なるほど。俺はあくまでも代理人で、奴隷売却の当事者ではなかったということか」
「はい。売却金は全てアユム様へお渡しすることとなってはいましたが、それでも当家に奴隷を売却したのはソマーラ村長となります」
会話をしつつ、大急ぎでキャラクター再設定を開き、三割アップを外してファーストジョブの魔法使いを冒険者に入れ替える。
「分かった。では頼む」
左手を差し出すとアランは呪文の詠唱を開始した。
そして、飛び出したそれを確認し少しだけ目を見開く。
「冒険者となられたのですね。おめでとうございます」
「いや、以前から冒険者だったのだ。だが、少人数で迷宮探索を行うには探索者の方が何かと都合がよかったのでな」
ということにしておこう。
「なるほど。確かにそうかもしれません」
そうかぁ? 自分で言ってても割と違和感がある理由だぞ?
まあ、気にしてないならいいけどさ。
そんなことより商談を進めたいのか、彼はそのまま話を続ける。
「もう一点確認したいことがございます。彼らはバラダム家の者ですね?」
あー。そりゃ気が付くよな。
原作ではバラダム家から売りに出された魔法使いの奴隷を引き受けていたのだ。
ミチオも推測していたが、なにがしかの付き合いがあるのだろう。
視線でロクサーヌを示す。
「彼女のことで奴らに絡まれてしまってな。行きがかり上、決闘で決着をつけることになった」
「決闘でございますか?」
「うむ。だが、俺がサボーという男を倒したのを見て怖気づき、あの四人は奴隷に落ちることを条件に降伏を申し込んできたのだ」
「なんと。サボー・バラダムを倒したのですか?」
無表情が常の彼には珍しく、驚きの表情が浮かんでいる。
「ああ。聞くところによると、バラダム家は奴の力を盾に随分あくどいことをしてきたようだが、これからはそうもいかないだろう」
アランは息を吐き出すとロクサーヌの方に視線を向け、感慨深げに声を漏らす。
「なるほど。そういうことでしたか……」
あの女はロクサーヌに付けられていた条件を把握していた。
つまり、バラダム家はロクサーヌがここにいたとき、購入に訪れているということだ。
しかし、アランは狼人族に売らないという条件があると言って、それを突っぱねたのだろう。
本当に彼とロクサーヌの叔父さんには感謝してもしきれない。
ガチでアランは俺の人生において一番の恩人だと言える。
恩返しの一環だ。これから売却する四人で大儲けをしてくださいな。
……まあ、それはそれとして。
ファーストジョブを魔法使いに替え、三割アップにチェックを入れた。
いや、ほら。ここに売却しなければ儲けを得ることもできないわけで、これはいわば手数料のようなものだと考えていただければ……。
内心で言い訳をしているとアランは商談を開始する。
「先ほど四人の奴隷を確認させていただきましたところ、健康状態、年齢ともに問題なく、ジョブも魔法使い、巫女、冒険者、レベル66の探索者と申し分ございません」
よしよし。高額買取が期待できそうだ。
ん? あっ。
我ながらとんでもないことを考えてんなぁ。マジで倫理観が終わってるぞ。
現代人として人身売買の是非について考えていると、アランが話を続ける。
「また、巫女については十八歳で処女でございましたので、評価が高くなります」
へー。あれだけの美人なのに処女だったのか。
まあ、婚約者がいるような家だったんだし、身持ちは堅かったのかもしれない。
「そうですね。魔法使いが二十五万ナール、巫女が十四万ナール、冒険者が十万ナール、探索者が八万ナールではいかがでしょう」
「うむ。それでかまわない」
提示された金額を承諾すると例の口上が始まった。
「ありがとうございます。それでは合計五十七万ナールとなりますが、魔法使いをはじめ貴重な奴隷を売却していただけるのです。今回は七十四万一千ナールをお支払いいたします」
七十四万かぁ。さっき白金貨二枚を見ているだけに少なく感じてしまうぞ。
俺の金銭感覚は完全にぶっ壊れちまったなぁ。
交渉が成立したところで彼に一つ頼む。
「アラン殿、彼らを連れてくるためにミリアをパーティーから外してしまったのだ。申し訳ないが、再びパーティーに加えるため彼女を呼んでもらえないだろうか」
「ええ。もちろん問題ございません。買取金を用意する際に声を掛けてまいりますので、そのままこちらでお待ちください」
彼は快く引き受けると部屋から出て行った。
三日後には合流するわけだが経験値を無駄にするのは何とも惜しい。鶏肋鶏肋。
程なくしてトレーに硬貨を載せたアランとミリアが部屋に入ってきた。
受け取ったお金をアイテムボックスにしまい、ミリアをサクッとパーティーに加える。
ブラヒム語はもうすっかりペラペラだが、彼女は残り少ない期間でもっと上手く話せるように努力すると言ってくれた。
ミリアの健気な言葉に癒されながら商館を後にする。
自宅へ戻ると靴を履き替え、そのままバスルームに直行だ。
「戦利品の仕分けがあるし、決闘の興奮が残っているだろうから午前中の探索はナシにしよう」
ロクサーヌが頷きながら答える。
「はい。これだけの量ですからね」
「そうですね。時間がかかるでしょう」
二人とも賛成してくれたし、仕分けを開始しますかね。
さて、まずは武器からだ。
催眠のエストック、催眠のオリハルコン剣、スロットが四つのエストック、スロットが五つの聖槍、そしてひもろぎのカッカラ。
このうち催眠のエストックと催眠のオリハルコン剣については俺たちのスタイルに合わないため売却だ。
とはいってもどこに売るべきだろう……。
武器屋だと買い叩かれるし、オークションは面倒くさい。
ケヴィンたちのスタイルとも合わないので購入することはないはず。
そうなるとルークか……。
あっ。そういえば帝国解放会に入会したら利用できるようになるロッジに、装備品を扱っている店があったな。
あそこで売っている商品は高性能なものばかりだが、商品を購入するためにポイントが必要になる。
そして、そのポイントは高性能な装備品を売却することでしか手に入れることが出来ない。
よし。これは帝国解放会の店で売却するってことで。
次はスロ四のエストックだが、まあこれはミリア用で確定だ。
ただし、魔物のスキルを潰す必要があるため、暗殺者になるまでは強権のレイピアを使ってもらう。
こいつに詠唱中断を付けるのは彼女が暗殺者になった後、石化添加や麻痺添加と一緒にだ。
なるべくコボルトのスキル結晶を温存しておきたいからな。
聖槍を手に取り二人へ示す。
「ロクサーヌさん、セリーさん。これは何だと思います?」
「え? 槍であることは分かるのですが何かまでは……」
ロクサーヌは俺のテンションに面食らっている様子だが、セリーがおずおずと質問してきた。
「それは聖槍ですよね? あの、もしかして――」
「スキルスロットが五つ付いているのですか!?」
セリーの言葉の途中で気が付き、それを遮ってロクサーヌが大声を上げる。
「ピンポンピンポーン。大正解。これにはスキルスロットが五つ付いています」
「さすがご主人様! すごいです!」
別にご主人様がすごいわけじゃないんだが……。
無理のあるさすごしゅに戸惑っていると、セリーが口を開く。
「あの、それを確認してもよろしいでしょうか?」
うん? まあ別に問題ないけど。
彼女はそれを受け取り、俺たちから距離をとってブンブン振り始めた。
普段から槍で戦っているだけあって、なかなかどうして堂に入ったものである。
しばらくそれを続けたところで満足したのか、動きを止めてこちらへ戻ってきた。
そして、聖槍を返却しながら告げる。
「ご主人様、聖槍だというのに問題なく扱うことができました。やはりこれには限定が施されているようです」
ああ。何かと思ったらそういうことね。
ということはギルド神殿さえあれば解除も可能なわけか……。
まあ、だとしてもしばらくはこのままにしておこう。
さて、今度はこいつだ。
「セリー、これはカッカラという杖なんだけど、聞き覚えはある?」
「はい。スタッフより高性能なワンド系の杖です。ただ、これにも装備制限があるため実力のある魔法使いでなければ使いこなすことはできません」
装備制限……。
でも、そうなるとちょっと気になることがあるぞ。
制限がかかっているランクの装備品ならスロットの最大数は五以上だと思われる。
ひもろぎのカッカラ 杖
スキル 知力二倍 MP吸収 詠唱中断
しかし、鑑定で確認してもスキルは三つしか付いていない。
おそらくこれはルークが言っていた、固定で出した人がオークションに出品したという物のはず。
固定で出た装備品なのに、付与されているスキルが最大数じゃないなんてあり得るのか?
……いや、俺やミチオが特殊なだけで、これが普通なのかもしれない。
そうなると、以前検討していた固定ガチャの難易度がさらに上がる。
超高性能な装備品を引き当てられる確率は、それこそ宝くじの一等を狙うような非現実的なものになるだろう。
うーん……。やっぱり固定ガチャはなしだな。
あと、よりしろのイアリングと知力二倍が被っているのはいただけない。
こんなことになると分かっていたらスタッフに付けたんだが……。
まあ、こんなもんが手に入るなんて予想できるはずもないし、あまり気にしないようにしよう。
思索を打ち切り、カッカラに付いているスキルや、以前オークションで三百万ナール近い金額で落札されたであろうことを彼女たちに伝えると、すごいすごいの大合唱だ。
本当にな。間違いなく魔法の威力が高まるぞ。
「午後の探索ではこれの威力を試してみよう」
「ご主人様の力を理解できない愚か者たちでしたが役に立ちましたね!」
ロクサーヌさん。可愛い顔ですごいことを言うじゃないですか。
続いて防具だ。
いま装備している物の更新を考えていこう。
まずはロクサーヌから。
剛健のダマスカス鋼盾、オラクルティアラ、頑強の竜革ジャケット、剛腕の古代樹手甲に置き換え、駿馬の竜革靴と身代わりのミサンガはそのままで。
きっとティアラがめちゃくちゃ似合うはず。
続いてセリー。
剛腕のミスリル鉄鋼は装備制限に引っかかり装備できず、他の物はいま装備しているダマスカス鋼製の装備品より防御力に劣るとのことだった。
結局、頭装備をロクサーヌのお下がりである耐風のダマスカス鋼額金に変更しただけに終わる。
そのうちスキル結晶の融合をして補おう。
次はミリア。
ロクサーヌのお下がりである、スロットが一つのダマスカス鋼の盾とオラクル竜革ジャケット。
それからスロットが四つのダマスカス鋼の額金。
防御力に劣るらしいが武器が扱いやすいそうなので、竜革のグローブではなくスロットが一つの竜革の手甲を。
そして、駿馬の竜革靴だ。
さらにベスタ。
制限があるのですぐに装備できるわけではないが、頑強のオリハルコンプレートメイルと剛腕のミスリル手甲は彼女用で。
あとは身代わりのミサンガだな。
きっと俺たちの下へ来ると信じ、ルティナの装備も用意しておく。
スロット五の聖槍とスロットが一つの竜革の帽子、スロット三つの竜革のジャケットに同じくスロット三つの古代樹の手甲、そしてスロット一つの竜革の靴。
身代わりのミサンガは渡してあるので大丈夫だろう。
これはルティナの装備品だ。何としても彼女に使ってもらいたい……。
さあ、気を取り直して最後に俺だ。
気になる装備品はズケットとアルバ、それからビットローファー。
セリー先生によると、どれも魔法の威力を底上げしてくれるらしい。
しかし、よりしろのイアリングを装備する関係上、身代わりの硬革帽子を外すわけにはいかないのでズケットは不可。
同じくスキルとの兼ね合いで倹約の硬革グローブも変更できないため、頑強の竜革鎧をアルバに、竜燐の靴をビットローファーに替えてしまえば防御力が紙になるはず。正直それはかなり怖い。
戦闘中に攻撃を受け、痛みで動けなくなったら全滅する可能性だってある。
それに魔法職や回復職向けの装備品を身に着けているところを知り合いに見られた場合、違和感を抱かれるだろう。
……いや。ミチオは俺よりレベルが低い段階で、俺より上の階層を探索していた。
そして、そのときアルバ以外に身に着けていたのは、スキルの付いていない硬革製や竜革製の防具だ。
スロットが付いている竜革の帽子に芋虫のスキル結晶を融合して、身代わりの硬革帽子と入れ替えれば、アルバやビットローファーでも問題ないはず。
ただ、アルバを身に着けている違和感に関してはどうしたもんか……。
三人寄れば文殊の知恵。彼女たちにその旨を相談してみたところ、セリーが意見を出してくれる。
「アルバとビットローファーに物理ダメージ削減と魔法ダメージ削減のスキルを付けてはいかがでしょうか。それらを装備していることについて尋ねられたら、融合に成功したから使用していると説明できます」
「なるほど。ご主人様の守りも固くなるので、ちょうどいいですね」
それらのスキルが付いているとなれば、防御力アップのために装備していると納得してもらえるはずだ。
そして、魔法ダメージ削減のスキルを得ることにより、実際に受けるダメージも減少する。
確かに二人の言う通り、一石二鳥のナイスアイデアかもしれない。
「それから以前とは違い、MP回復をデュランダルではなく万能丸で行っています。それなら倹約の硬革グローブを装備する必要はないはずです。芋虫のスキル結晶は竜革のグローブに付け、頭装備をズケットにするのはいかがでしょう? これなら人に遭遇しそうになってもすぐに外してアイテムボックスに入れることができます」
あー。確かにデュランダルを用いたMP回復の回数を減らすために消費MP削減の付いた防具を身に着けていたが、薬で回復しているとなるとその意味も薄れる。
それにすぐに外せるというのも大きなメリットだろう。
しかし、致命的なダメージを負ったときに武器を持っている腕装備が壊れるのは不味いんじゃないのか?
それについて確認したところ、ロクサーヌの顔に怖いくらい真剣な表情が浮かぶ。
「ご主人様の身代わりスキルが発動することのないよう、私がお守りいたします」
同じような表情でセリーも言葉を発した。
「万が一、身代わりスキルが発動しようとも、私たちが武器を拾ったり、身代わり装備を身に付ける時間を稼ぎます」
……そうだな。この娘たちなら絶対にそうしてくれると信じられる。
「ロクサーヌ、セリー。ありがとう。それじゃあ、そうしようか」
「信頼していただきありがとうございます! ご主人様のことは私とセリーでお守りします!」
「はい! 私たちにお任せください!」
本当に良い娘たちだなぁ。
俺の新装備が確定したところで部屋からスキル結晶を取ってくると、セリーがサクッと融合してくれた。
頑強のアルバ 胴装備
スキル 物理ダメージ削減 空き
身代わりの竜革グローブ 腕装備
スキル 身代わり
オラクルビットローファー 足装備
スキル 魔法ダメージ削減
オッケー、オッケー。いいじゃん、いいじゃん。
一応何があるか分からないため、身代わりの硬革帽子、頑強の竜革鎧、倹約の硬革グローブ、竜燐の靴は常にアイテムボックスに入れておこう。
残りについてはスロット付きがスキルを付けての売却用。スロットなしは売り払うってことで。
「装備品の割り振りはこんなところかな。それじゃあ、次は硬貨に取り掛かろう」
「お待ちください」
すると、ロクサーヌからちょっと待ったコールが。
「ご主人様の装備品には物理ダメージ削減と魔法ダメージ削減が。セリーの装備品には魔法ダメージ削減と体力二倍のスキルが。そして、私の装備品には物理ダメージ削減と魔法ダメージ削減、それから体力二倍と三つのスキルが付いています」
せやな。
「ですが、ミリアの装備品には魔法ダメージ削減しかついていません。私と彼女の装備品のどれかを交換したほうがいいのではないでしょうか」
あー。まあそうか。
装備品はロクサーヌを優先する方針は変わらないが、このケースだとバランスを取った方がいいかもしれない。
だが、ミリアが合流するまではこのままでいこう。
彼女が戻ってきたときに改めて考えればいい。
それを伝えると、二人とも納得してくれた。
……でもティアラはロクサーヌに装備してほしいなぁ。絶対似合うと思うんだ。
話がまとまったところで、ロクサーヌはおもむろに装備品の手入れを始める。
えっと、物を大切にすることはいいことだと思います。はい。
気を取り直して俺は硬貨を数えることにした。
数も数なので少し時間がかかったが、白金貨が二枚、金貨が五十八枚、銀貨が二百六十五枚、銅貨が五百九十九枚で合計二百六十万七千九十九ナール……。
とんでもないことになってんなぁ。
俺の金銭感覚はさらに壊れたことだろう……。
田川 歩 男 18歳
魔法使いLv50 英雄Lv46 遊び人Lv43 冒険者Lv31 探索者Lv50
装備 身代わりのミサンガ
BP振分 残BP:0
キャラクター再設定:1
フィフススジョブ:15
詠唱省略:3
必要経験値二十分の一:63
鑑定:1
ワープ:1
ジョブ設定:1
MP回復速度二十倍:63
所持金:7,300,064ナール
春の63日目