ドブローの冒険者ギルドへ移動し、絨毯の購入できるところを教えてもらう。
なんでも貴族や富豪が贔屓にしているような店へ納品している工房らしい。
「いらっしゃい」
店内に入ると威勢のいい声で出迎えられた。
そちらに目を遣るとヒゲの生えた男が人好きのする笑顔で見つめている。
残念。村人だ。
落胆したものの、部屋に敷く絨毯を購入しに来たと告げて商品を確認させてもらうことにした。
店内を見渡してみると、展示品として垂らされている物や、円柱形に巻かれた絨毯が所狭しと並んでいる。
書斎に置くものだし柄や色は落ち着いたものがいいよな?
センスやこだわりなんてないし、ベージュ地で淡いグリーンの縁取りがされているものをサクッと選び、店員も商人ではなかったため、三割引を使用することなく二千ナールを支払う。
そして、壁に掛けられている絨毯を使わせてもらい、フィールドウォークで自宅へ戻った。
絨毯を自宅玄関に置き、今度は帝都へ飛ぶ。
美術品の売っている場所が分からないため、まずは高級服屋だ。
「いらっしゃいませ。お待ちしておりました」
俺に気が付くなり紳士風店員が近づいてくる。
あー。ドレスの受け取りに来たと思われてんな。
「今日はうちの娘たちと別行動をとっているのだ。申し訳ないがドレスの引き取りは明々後日で頼む」
「はい。もちろん問題ございません。それでは本日はどういったご用向きでしょうか」
「うむ。自室に美術品を飾ろうと思うのだが、なにぶんそういった品物に縁がなかったため扱っている店の見当がつかなくてな。こちらに飾られていたのを思い出し、どこで購入したのか教えてもらえないかと思ったのだ」
ラグジュアリーな空間を演出するためか、絵画や彫刻品などが飾られている。
きっと贔屓にしている店があるだろう。
「そうでしたか。当店の展示品はすべて帝都で一番の美術店から購入しております。そちらにはきっとお客様にもご満足いただける品物があることでしょう。紹介状を用意いたしますので、少々お待ちください」
紹介状!? そんなもんが必要なところなの!?
それに、俺みたいな訳の分からない奴に紹介状を預けて大丈夫なのか?
その旨を尋ねると彼は笑みを浮かべながら答える。
「お客様には様々なご注文をいただいているだけではなく、今までにない新しい肌着のアイデアをお譲りいただいています。何も問題ございません」
あー、まあそうか。
あちらさんからすれば大儲けできるアイデアをポンと譲り渡し、三十六万ナールと三十万ナールのドレスをまとめて購入するようなお大尽だ。
紹介しても大丈夫だと確信しているのだろう。
俺の方にしたって、問題を起こすつもりはないわけだしな。
程なくして戻ってきた紳士店員から紹介状を受け取り店を後にした。
教えてもらった場所へ近づくと、大きな建物が見えてきた。
あれか? 予想以上の規模で気後れするんだが……。
意を決して中へ入ったところ、警備員と思しい男たちが一斉にこちらへ視線を向ける。
そして、身なりの良い人々が熱心に展示されている物を確認していた。
なんかスゲーな……。
美術店っていうより美術館じゃん。
店内を見回すと美術品だけではなく、画材なども取り扱っているらしい。
「いらっしゃいませ。何かお探しですか」
カウンターに腰掛けていたカイゼルヒゲの男が立ち上がる。
アンリ・コルバート 男 57歳
豪商Lv23
装備 身代わりのミサンガ
おお! 豪商だ! 初めて見た!
「紹介状があるのだが、確認してもらえるか」
「拝見いたします」
彼は差し出したそれを受け取ると、目を通し始める。
その間に改めて店内を見回した。
絵画や彫刻、色々な小物。それからよく分からないオブジェ。他にも画板や紙、筆や顔料、彫刻に使うのであろうノミや刃物なんかも置いてあった。
色々あるが、とりあえず今回は絵画にしておこう。
色々な絵に目を遣っていると、紹介状を読み終わった男が顔を上げた。
「お部屋に飾る美術品をお探しだそうで」
「うむ。展示されている絵を確認してもいいだろうか」
「はい。ごゆっくりご覧ください」
許可を得たので警備員にマークされながら広い店内を見て回る。
海や山、湖といった風光明媚な景色。
建物や街の風景といった人々の営み。
それから様々な種族の人が描かれた肖像画。
写真と見紛うほどの写実的な物から、よく分からないタッチで描かれている物と画風もまちまちだ。
そして、安いものなら五千ナールくらいから、高いものだと三百万ナールを超えるものまで、値段にも大きな隔たりがある。
三百万ナールって……。そりゃ警備員もいるわけだ。
写実的な二つの肖像画。
俺には違いがよく分からないが、一方にはエルフの美人さんが描かれていて一万五千ナール。
そして、ヒゲの生えた人間族であろうおっさんが描かれているものが八十三万ナール。
マジで? おかしくね?
部屋に飾るのなら、普通はこっちの美人さんを選ぶ気がするんだけど……。
まあ、絵画というよりポスターやタペストリーといった、アニメグッズを選んでいるような感性だからかもしれないが。
実際、日本にいた頃の部屋には、ロクサーヌのポスターやタペストリーが飾ってあったわけだし。
ん? あっ、そうか。
どうせ部屋に飾るならロクサーヌやセリーの絵を飾る方がいいわ。
これらの絵を描いた画家たちにオーダーすることはできるのだろうか?
その場合、金額はどのくらいになるんだろう?
あと制作期間は? モデルとして長期間拘束されるのは厳しいよなぁ。
うーん……。とりあえず確認してみよう。
カウンターへ戻り、おヒゲの紳士に問いかける。
「少し教えてもらいたい。肖像画を依頼することは可能だろうか?」
「はい。もちろん承っております。当店と専属契約を結んでいる画家が真心を込めて描きますので、お客様にも必ずやご満足いただけることでしょう」
へー。専属契約とかあるのか。
「制作期間はどのくらいになるのだ?」
「画家によって異なりますが、概ね三十日ほどになるかと。そのあたりは制作依頼の契約を行う際に詳しく決めていくことになります」
三十日……。結構長いな。
いや、肖像画の完成までにどのくらいかかるのか見当もつかないし、日本で依頼した場合でもこれが普通だったりするのかもしれない。
「その間ずっとモデルをする必要があるのか?」
「いえいえ。当店で契約している者はすべて、芸術家や創作者のジョブに就いております。視野記憶のスキルを使用するため一度は顔を合わせる必要がありますが、その後はモデルを行う必要はありません」
芸術家に創作者!? そんなジョブがあんの!? それに視野記憶のスキルって何!?
彼の言葉に色々と疑問が湧いてくるものの、一般常識だったら不味いので質問したい気持ちをグッと堪える。
あとでセリーに聞いてみよう。
それはとにかくその視野記憶? とかいうスキルがあれば長期間拘束される必要はないわけか。依頼しても問題なさそうだ。
「依頼を行いたいのだが、絵の引き渡しまではどのような流れになるのだ?」
豪商の男は一つ頷き説明を行う。
「はい。まずはお客様に制作者を選んでいただきます。それが決まれば日程を調整して契約を交わし、お支払いをお願いすることになります」
いたって普通の契約だな。
「お支払いが確認できましたら、当店の一室で制作者が視野記憶のスキルを使用し、契約で定められた期日までに制作、納品。そして、お受取日にご来店いただいたお客様へお引渡しとなります」
特に問題なさそうだし依頼してみよう。
おっと、その前に。
「金額はどのくらいになるのだろうか?」
注文が取れると思ったのか彼の表情が引き締まる。
「依頼料は画家によって大きく異なりますので一概に申し上げることはできません」
あー。そりゃそうだ。
「おすすめの画家を聞いても?」
その言葉で彼の瞳に炎が宿った。
「あちらをご覧ください。創作者のジョブに就き、数々の作品を世に送り出すことで帝国中にその名が轟くエルノー卿の作品です。ありがたくも当店と契約していただいているため、ご依頼いただくことも可能となっております」
へー。あれねぇ。
貴族だろうか? ドレスを着た女性が描かれている。
うーん……。やっぱり他の絵との違いがよく分からん。
その絵を見ていると美術商が話を続けた。
「エルノー卿へ依頼した場合は百万ナールからとなり、条件によっては割増料金が必要となることもあります」
アホかお前! 出せるわけないだろ!
いや、今の資産的に問題ないが白金貨は駄目だって。
他の絵との差なんてさっぱりだし、絶対にありえない。
ぶっちゃけ、絵そのものじゃなくて誰が描いたかで値段が決まっている気がするぞ。
「その画家へ依頼するには俺の器量が足りないようだ。他の者はいないのか?」
それからいろいろな画家を紹介されるも、金額が折り合わなかったり、絵のタッチが気に入らなかったりで、なかなかこれという者がいない。
「そうですね……。では、こちらなどいかがでしょう」
見せられた絵には男の子が描かれており、まるで写真のようにそのままの風景を写し取っている。
絵のタッチはアリだな。ロクサーヌのそのままを描いてくれそうだ。
「制作者はドニ。まだまだ駆け出しの上、貴族や自由民ではなく庶民の出。それにいまだ独り立ちをしておらず弟子の身分。そのため依頼料は三万ナールと比較的お求めになりやすいかと存じます」
やっす!
あ、いや。三万ナールは結構な金額だけど、他の奴らに比べればめちゃくちゃ安いぞ。
そして、やっぱ絵のクオリティではなく、誰が描いたかで値段が決まってるっぽい。
「うむ。それではそのドニという画家にお願いしよう」
俺の言葉に一瞬だけ残念そうな表情を浮かべたものの、すぐに笑顔を作る。
「ありがとうございます。それでは彼と日程調整を行いますのでお客様のご都合の良い日時を教えていただけますか?」
それなら次の買い物のときがいいか。
当日にドレスを受け取っているだろうし、その姿で何だっけ? 視野記憶? ってやつをしてもらえばいい。
それから、装飾品についてはコハクのネックレス、装備品の首飾り、そしてボーナス装備のブリーシンガメンの中から彼女たちに好きな物を選んでもらおう。
あと、ミリアも合流しているはずだが、彼女についてはドレスを購入してからってことで。
思索を打ち切り、日時を伝える。
「では春の六十七日目。時間は今と同じくらいでお願いしたい」
「かしこまりました。では、春の六十七日目で調整いたします」
「それと、描いてもらうのは二名で頼む」
人数を告げると彼の顔に困ったような表情が浮かぶ。
「申し訳ありません。芸術家の視野記憶で覚えておける風景は一つだけとなっております。お一人分の引き渡し後にもう一度ご注文していただくか、別の画家を紹介することも可能となりますが……」
そうなん? 一つしか覚えてられないの?
金額や絵のタッチの問題があるんだから他の人に頼むのはナシだ。
まずはロクサーヌの絵をお願いして、それが終わったらセリーの絵を頼もう。
「大丈夫だ。一人ずつで問題ない」
「かしこまりました」
予定が決まったところで美術商と握手を交わす。
さて、絵画については決まったし、それ以外の美術品を探してみるか。
彼にその旨を告げてもう一度店内を見て回ることにした。
うーん……。壺だの、皿だの、タペストリーだのを飾ってもなぁ。
正直、俺には良さが分からんのよ。
彫刻か……。等身大でめちゃくちゃデカいぞ。
陰部だけを布で隠した美しい女性をかたどっている。これならさすがの俺も良さが分かる。
だが、こんなもんを部屋に置くわけにはいかない。
大きさもそうだが、ロクサーヌは嫉妬をするだろうし、セリーは冷たい視線を向けてくるだろう。
スルー安定ですわ。
店内を歩きながら見て回っていると、小物類が置かれているエリアで気になる物を発見した。
それぞれいろいろなモチーフが描かれた複数のカード。
展示されている見本とは別に、束でまとめられたものがいくつか置いてある。
これってカードゲームの札か? それともタロットカードのように占いに使う物だったりする?
カウンターに戻り美術商に確認してみると、やはりゲームの札らしい。
「実用品ではありますが、画家が制作しておりますので我々の領分となります」
「実際に手に取って確認することは可能だろうか」
「少々お待ちください」
尋ねたところ、見本のカードを持って戻ってくる。
「どうぞ、お確かめください」
どうやら他の美術品とは違い、手で触れても問題ないようだ。
まあ、実用品って言ってたしな。
手に取ってパラパラ確認していくと、それぞれまったく異なるモチーフが描かれており、枚数は全部で二十枚。カードゲームにしては少ない気がする。
これってどう遊ぶんだ? まったく想像がつかないんだが……。
遊び方を聞いてみると、トレーディングカードゲームのようにそれぞれでデッキを用意した上で、盤面に配置して攻防を行うようだ。
ただし、種類は完全に決まっているため、デッキによる有利不利はないらしい。
うーん……。あんまり惹かれない。
それよりオリジナルのカードを作ってもらうことはできないだろうか?
トランプの絵柄ならこんなに複雑じゃないし、簡単に作ってもらえそうだよな?
それを伝えたところ、絵柄を見たいと言われ紙とペンが用意された。
実際の図柄は曲線的で描きにくいため、直線だけで済むように簡素化しよう。それにジャック、クイーン、キングはナシにして、普通に11、12、13で。
その上で剣、槌、宝石、そして盾を描いていく。
ジョーカーはどうしよう?
うーん……。考えるのも面倒だし四つの図柄全部が一枚に描かれているってことで。
描き終えた絵を見せながらオーダーを伝えていく。
「真ん中にこの図柄を入れてくれ。色については剣と槌は黒。宝石と盾は赤」
美術商はそれに目を遣ると困惑したような表情を浮かべる。
「こんなに簡素な絵でよろしいのですか?」
「うむ。色も単色で頼む」
どうやら彼の困惑はますます深くなったようだ。
「そして、それぞれの図柄ごとに左上と右下の隅に一から十三までの数字を記入してもらいたい。さらに全部の絵柄を入れたものを二枚。これには数字を入れる必要はない。すべて合わせて五十四枚だ」
ヒゲの男はオーダーを聞いて考え込んでいたが程なくして口を引く。
「可能だと思います。また図柄も簡素で使用する色も二色だけですと、制作時間もそれほどかからないでしょう」
よっしゃ! これでロクサーヌたちとトランプで遊ぶことができる!
あっ。実際に遊ぶとなると、もう一点重要なことがあったわ。
「すまない、追加したいことがある。裏面はすべて同一にして表の図柄が分からないようにしてくれ」
「問題ありません。当店で取り扱っているカードはすべてそのようになっております」
あ、そうなの? それなら問題ナッシング。
「金額はどのくらいになるだろうか」
「そうですね……。普段受注しているカードについては二十枚で二万ナールなのですが……」
一枚当たり千ナール。けっこうするなぁ。キャミソールより高いぞ。
全然関係ないが、何かの値段を把握しようとしたとき、キャミソールで考える癖がついてるわ。
でも他に適当な物が思い浮かばないですし。
しばらく悩んでいたが、考えがまとまったのか彼は顔を上げる。
「通常に比べて枚数が倍以上。しかし、図柄が簡素で色も二色だけとなっています。それを加味しまして、二万二千ナールではいかがでしょう」
えーっと、一枚当たりいくらだ?
ザックリ計算するとして、二万割る五十で四百ナールくらい?
だいたい二枚でキャミソール一枚分か……。
あっ。またキャミソールで考えてた。
それはさておき、これくらいなら問題ないだろう。
制作を頼み、三割引を有効にするために使いもしない筆を一緒に購入して支払いを済ませる。
「お渡しは二十日後、春の八十四日となります」
オッケー。ってことはベスタより先にトランプが加入することになるわけか。
ほんと、俺の異世界生活は明後日の方向に突っ走ってんなぁ。
思索を振り払い、明々後日の来店を約束して店を後にする。
外に出たところでふと気が付いた。
躊躇することなく二万二千ナールを娯楽品に使っちまったぞ……。
しかも、肖像画でも一枚当たり三万ナールが飛んでいく。
マジで金銭感覚が壊れてしまったようだ。
帝都での用件を済ませて自宅へ戻ると雨はさらに強くなっており、バケツをひっくり返したようなと表現できるほどになっている。
今までちょこちょこ雨は降っていたものの、ここまですごいのはこの世界にきてから初めてだ。
気にはなるものの、とりあえず置きっぱなしだった絨毯を部屋へ運ぶことにする。
自室へ移動し壁へ立てかけておく。
部屋に絨毯を敷くためにはデスクセットを移動しないといけないため、彼女たちが戻ってきたら手伝ってもらうか。
デスクチェアーに腰を下ろして考えを巡らせる。
蝋燭を使わないといけないほどの分厚い雲がかかっているせいで、太陽の位置が確認できない。今が何時なのかさっぱりだ。
それに一人で昼食の準備をするのも面倒だし、ベイル亭で食べることにしよう。
食事を済ませて自宅に戻るが、やはり雨が続いている。
うーん……。ワンチャンこの雨で人が少ないかもしれないし、クーラタルの迷宮に並ぶか?
隙間時間で三十三階層のブクマ登録をしておけば、時間を無駄にしなくて済む。
帰りは直接バスルームに移動して風呂に入ればいい。
よし。そうと決まれば着替えの準備だ。
外套を羽織り、着替えをバスルーム前のかごに入れて玄関へ移動する。
ビットローファーや竜燐の靴を雨で濡らすのは嫌なので、売却予定のスロなし竜革の靴に履き替えた。
そんじゃ、いってみようやってみよう。
ほとんど利用することのない探索者ギルドへ移動したところ、明らかに人が少ない。
外へ出て正面の迷宮を見ると、普段では考えられないほど行列が短かった。
いや、短いというか、六人しか並んでいない。
一パーティーなんだろうし、行列じゃないわ。
六人が中に入ると、入口には案内役である探索者と入場券を受け取る騎士だけがたたずんでいる。
よし。待たされることなく入れそうだ。
詰め所で入場券を購入して入口へ進み、騎士に入場券を、探索者へ銀貨を手渡す。
「三十三階層まで頼む」
「では、パーティーに加えていただけますか」
「うむ」
田川 歩 男 18歳
魔法使いLv51 英雄Lv46 遊び人Lv43 冒険者Lv32 探索者Lv50
装備 竜革の靴 身代わりのミサンガ
BP振分 残BP:1
キャラクター再設定:1
フィフスジョブ:15
詠唱省略:3
必要経験値二十分の一:63
鑑定:1
ワープ:1
ジョブ設定:1
三十パーセント値引:63
所持金:8,903,507ナール
春の64日目