異世界迷宮へ行ったなら   作:三星織苑

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020 玄関

 

 

 

 

 

クーラタル

金物屋

 

 

 

 

 

 内見を終えそのまま騎士団でインテリジェンスカードの確認を済ませて金物屋へ戻る。

 

「家の改装についてはどうなのだ? 手を加えてもいいものなのか?」

「はい。前の住人も色々と手を入れていますのでどんな改装をしても問題ありません」

 

 まあ、改装するかどうかはわからないが一応言質は取っておかないとな。

 

 

 

「それではクーラタル六区七丁目百二十三番地の物件の賃貸借契約を行います。えー、文字の方は?」

「俺は文字を書くことができないから代筆だ」

 

 めちゃくちゃ情けないがロクサーヌの方を振り返りお願いする。

 

「ロクサーヌ、すまないが頼むな」

「はい。お任せください」

 

 この世界に骨を埋めるつもりなんだ。今後、文字も覚えていかなければならない。

 なあに、中学高校のときの英語とは違ってブラヒム語は最初から話せるんだ。どうとでもなる。

 ……いや、この自動翻訳がかえって邪魔になるか?

 まあ、彼女にお願いして勉強をしてみよう。

 ブラヒム語の読み書きでミリアに抜かれたらへこむこと間違いなしだ。

 

 

 

「では、こちらで記入をお願いいたします」

 

 二人でカウンターへ行くと世話役は一旦奥の方へ引っ込み書類を持って戻ってくる。

 クーラタル六区七丁目百二十三番か。これからはそこが俺の住所になるのか。

 さて、後はロクサーヌに任せて俺は購入するものを選んでおこう。

 

 っと。その前に確認だ。

 

「商品も購入するので家賃と一緒に精算してもらえるか?」

「ありがとうございます。もちろんまとめてお支払いいただいてかまいません」

 

 よっしゃ! 値引スキル先生出番です!

 

 

 

 店内を歩きながら必要そうなものを確認していく。

 

 とりあえずキッチン周りだよな。寸胴鍋、小鍋、フライパン、中華鍋、やかん、ボウル、調理バット、包丁代わりのナイフを大小一本ずつ、お玉、フライ返しは要るだろう。

 小物は鍋に入れておくか。

 あ、石鹸用に小鍋をもう一つ買っておかなくては。

 

 五徳はどうしよう? あの家のキッチンに一つは付属していたが、スープとおかずを並行して作ったりするだろうし二つある方が便利だよな。

 ロクサーヌと並んでキッチンに立ち一緒に料理をする。

 うん。めちゃくちゃ楽しそうだ。

 

 よし。買っておこう。

 

 カトラリーはスプーンの大と小、フォークの大と小、そしてナイフ。これを六セット鍋の中に入れる。

 ……まあ、いずれ必要になるだろうしな。

 

 他には何かあるだろうか?

 

 庭作業用の鎌と如雨露、それから鍬とスコップ、この辺は使うときでいいか。ハーブの種を貰いに来るときに買えばいい。

 

 

 

 しゃがみ込んで小物類を鍋に収めるために悪戦苦闘をしていると、ロクサーヌが記入している間に手が空いたのか世話役の女性がこちらに近づき、すぐ隣に腰を下ろした。

 

「まあ。こんなに購入していただけるのですか?」

 

 ちょ! 近いって! なんでこんなに顔を寄せてくるの!?

 この人距離感バグってる! 完全にガチ恋距離じゃん!

 俺みたいな童貞は女性とこんな近距離で接するとドキドキして上手く喋れなくなるんだぞ。

 

「あのー。この書類がちゃんと書けているか確認していただけますか?」

 

 笑みを浮かべているのに地の底から響いているかのような声色で俺と世話役の顔の間に書類をねじ込みインターセプトしてくる。

 おおう。ロクサーヌさん。可愛い笑顔なのになんか顔が怖いっすね。

 

 

 

 でも、やはり俺はロクサーヌに首ったけなのだろう。その嫉妬が本当に嬉しくてたまらない。

 俺なんかのどこを気に入ってくれたのかはわからないが、執着されていることでこの世界にいてもいいのだと肯定されているような気がする。

 これからもロクサーヌファーストで過ごしていくぞ。

 

 

 

 世話役が書類を受け取り二人でカウンターへ戻り確認を始めた。

 

「確認したところ特に問題はありませんでした。一部はそちらの控えとなりますので大切に保管していただきますようお願いします」

 

 世話役は書類を確認した後、一部を封筒にしまいロクサーヌに手渡す。

 彼女はそれを受け取ると俺の方に近づいてきた。

 

 

 

「お待たせしました。ご主人様」

「お疲れ様、ロクサーヌ。ありがとうな」

「これくらいなんでもありません」

 

 ロクサーヌから契約書を受け取りリュックの中へしまい込む。

 

「それじゃあ、一緒に買い物の続きをしよう。とりあえず必要そうなものを選んだんだが他に足りないものはあるか?」

「確認いたしますね」

 

 俺の言葉に頷くと腕が当たるほど近くにしゃがみ込み鍋の中を覗き込んだ。

 先ほどの世話役のとった行動に嫉妬しているのだろうか?

 この好意が本当にたまらない。

 

 

 

「ご主人様、燭台などは必要ないですか?」

 

 一頻り鍋の中を見たロクサーヌに確認される。

 ああ。確かに電灯なんてないんだ。必要になるか。

 

「確かにそれは要るな。各部屋とトイレに一つずつで八個あればいいか?」

「多すぎるのではないでしょうか。部屋を移動するときに燭台を持って移動しますからそこまでの数はいらないかと。ご主人様と私が別の場所で作業をするときのために二つあれば十分だと思います」

 

 そう言うとロクサーヌは持ち手の付いた燭台を指さした。

 なるほど。固定設置タイプじゃなければそんなに数はいらないか。

 でもなぁ。確かに二人だけで暮らすなら二つでいいんだろうがゆくゆくは人数が増える予定なんだよなぁ。

 うーん……。まあ、それは必要になったときでいいか。今はロクサーヌとの二人暮らしを楽しもう。

 人が増えたときに持ち歩けるタイプをさらに買い足せばいいや。

 

「それじゃあ燭台を二つ追加だな」

「あとはそうですね……。はさみと縫い針は必要になると思います」

「では、それも追加で」

 

 燭台を二つとはさみ、それから五本セットになっている縫い針を鍋に入れ再度ロクサーヌに尋ねる。

 

「他にもあるか?」

「いえ。他には思いつきません」

「よし。それじゃあこの小物が入った鍋類をカウンターに持っていこう」

「はい。お任せください」

 

 

 

 購入商品を入れた鍋類をカウンターの方に持っていく。

 

「本当にたくさんご購入いただきありがとうございます。では、確認いたしますね」

 

 そう言うと世話役はそれぞれの鍋の中身を一つ一つ検め始める。

 

 

 

「はい。確認いたしました。これほどたくさんご購入いただくのです。家賃と合わせて三万七千百三十五ナールとさせていただきます」

「ありがとうな、助かる」

 

 イェス! 値引スキル先生ありがとうございます!

 

 ここで銀貨も大放出だ。金貨を一枚崩したがリュックの中の銀貨がなくなりアイテムボックスに全て収まった。

 これで少し身軽になったな。

 

 会計を終えると世話役は紐を掛けて持ちやすいようにしてくれる。

 さすが一等地に店を構えているだけあり心憎いサービスだ。

 

「ご契約いただき誠にありがとうございます。今後は六区の住民として清掃作業等お願いすることもあるでしょうが、その際にはよろしくお願いいたします」

「ああ。こちらも初めての土地で迷惑をかけてしまうこともあるだろうが、よろしく頼む」

 

 言葉を交わすと世話役は鍵を差し出してきた。

 それを受け取りリュックの中に入れ、ロクサーヌと二人で荷物を抱えて店を出る。

 

 

 

 

 

クーラタル

 

 

 

 

 

 店の外まで出て見送ってくれた女性にもう一度礼を言い歩き出す。

 

「ロクサーヌ、まずは荷物をあの家に置いてこよう。人目がないところで移動するから案内を頼む」

「はい。おまかせください」

 

 彼女の案内に従い人気のない路地裏からワープを行う。

 

 

 

 

 

クーラタル郊外

アユムの家

 

 

 

 

 

 ワープゲートを潜り抜けると先ほど自宅となった家の中へ出る。

 そして、扉の横に荷物を下ろした。

 

 今後。家の中への移動はここ限定だな。

 それにしても、ここは玄関でいいんだろうか? 日本人がイメージする玄関じゃないんだよなぁ。

 履物を脱ぐために一段低くなっているスペースがない上に、扉が内開きなせいで靴の脱ぎ履きがし難いだろう。

 とりあえず、家具屋でラックを購入しよう。それから、ドアマットも敷いて靴を履き替えられるスペースも作らないとな。

 彼女にもちゃんと伝えておくか。

 

「ロクサーヌ、俺の故郷では靴のまま家に入るという行為はタブーだったのだ。外の汚れを家の中に持ち込むのは不潔だし掃除も大変になる。それに、靴についた石や砂で床を傷つけてしまうこともあるだろう。最初は慣れないだろうが暮らしていくうちにその利点がわかってもらえるはずだ。悪いが家に入る時には靴を脱いでもらえないか?」

「大丈夫です。昨日おっしゃっていた綺麗好きというのはそういった風習のおかげなのですね」

「そうだな。故郷では綺麗好きな方ではなかったが、このあたりだと信じられないくらいの綺麗好きに見られてしまうだろうな」

 

 様子を見るに嫌々従っているということもなさそうだ。

 よかった。納得してもらえたのは本当にありがたい。

 

「明日一緒に家中の床を拭き掃除しよう。大変だろうがよろしく頼む」

「はい。お任せください。ご主人様と一緒に住む場所の準備をするのが楽しみです」

「確かにそうだな。ロクサーヌとの新居を整えていくのは楽しいな」

「ご主人様……」

 

 ロクサーヌも嬉しそうに微笑んでいた。

 

「それじゃあ二階に上がって部屋を確認してみるか」

「はい」

 

 

 

 二階に上がり一番広い部屋に入る。

 

 窓からの光で結構明るく感じるな。

 しかし、内見に来た時から気になっていたんだが、この家の窓は二重窓になっていてガラス窓とその外側に木窓が設置されている。しかし、どうして木窓が開けられているのだろう?

 毎日開け閉めをしに来ているはずはないしなぁ……。

 

 ……まあ、考えてもわからない。これから生活するにあたって夜は閉めればいいか。

 

「この部屋にベッドを置いて寝室にしよう」

 

 俺の言葉を聞いたロクサーヌは照れたような笑みを浮かべながら口を開く。

 

「広々していて良い部屋ですね。ご主人様、これからこの部屋でたくさん可愛がっていただけますか?」

 

 なんてことを言うの!

 そんなこと言われたら今からでもしたくなっちゃうじゃないか!

 

「もちろんだ。これからずっと可愛がるから生涯一緒にいてくれ」

「はい! どうか末永くおそばにおいてくださいね」

 

 我慢できずロクサーヌを思いっきり抱きしめて唇を合わせた。

 

 

 

 

 

 程なくしてどちらともなく体を離し会話を再開する。

 

「あー。あれだ。改めてこれからもよろしくな」

「はい。私の方こそよろしくお願いします」

 

 そのまま抱き合っていたいが仕切り直して他の部屋を見ていこう。

 

 次の部屋を開け確認する。

 うん。ここでいいな。

 

「ここを俺の部屋にしようと思う。リュックの中に入っている故郷から持ってきた大切なものを置くから少し待っていてもらえるか?」

「はい」

 

 リュックの中からタオルに包まれた荷物を出していく。

 これでやっと十キロ以上の荷物を持って歩き回るという苦行から解放された。

 このあと家具屋で鍵のかかるクローゼットを買っておこう。

 自室に置いていて盗難に遭うならどんな対策をしたところで無駄だ。

 そのときは潔くあきらめるしかない。

 

 さて、次だ。

 次の部屋を開け中に入って彼女に告げる。

 

「ここをロクサーヌの部屋にしよう。服や小物なんかの私物を置いたり、身だしなみを整えたり自由に使ってくれ」

「部屋をいただけるのですか!?」

「ああ。女性なのだ。男には分からないことも色々あるだろう。絶対必要になるはずだ」

「ありがとうございます! ご主人様!」

 

 顔には満面の笑みが浮かび尻尾はブンブン揺れていた。

 めちゃくちゃ嬉しそうにしているな。

 だが、すまん。ゆくゆくは五人での共有になるんだ。

 だがまあ、今説明することではないよな。

 

 ……明日だな。

 色々準備が終わり時間に余裕ができたら話をしよう。

 

 

 

 さあ、最後の部屋だ。扉を開いて中に入る。

 

「この部屋は物置だな。すぐには使わない装備品等を置いておこう」

「はい」

 

 アイテムボックスから銅の槍と盗賊のバンダナを取り出し部屋に置く。

 今後もこのまま床に直置きというわけにはいかない。家具屋でクローゼットをそれぞれの部屋に一つとこの部屋に三つくらい買っておこう。

 うーん……。他にはセリー以降のメンバー用に皮のジャケットと皮の靴も残すか?

 でも、ぶっちゃけ今の状況だと使うことなくもっと良い装備品になりそうな気がするんだよな。

 まあ、いいや。売ったところでたいした金額にはならないだろうから置いておこう。

 

 皮のジャケット二個と皮の靴四個を取り出し床に置く。

 よし。これでアイテムボックスの空きも増えた。

 リュックから昨日の夜に狩ったニードルウッドのブランチを出しアイテムボックスへ移しておく。

 

「それじゃあ一旦ベイルに戻って他の荷物もこの家に持ってこよう」

「はい」

 

 昨日も盗難に遭っていないから問題ないのかもしれないが憂いは取り除いていたほうがいいからな。

 

 キャラクター再設定を開き三十パーセント値引を外しデュランダルを取り出す。

 そして、念のためアイテムボックスから強壮丸を取り出しロクサーヌに預けた。

 

「ベイルの迷宮にワープしてMP回復を図るがもし俺がMP不足により苦しみだしたらそれを飲ませてくれ」

「分かりました。お任せください」

 

 まあ、大丈夫だと思うけど念のためな。俺はミチオほど精神的に強くないんだ。こういった対策は必要だろう。

 

 ベイルの迷宮一階層を思い浮かべてワープゲートを展開する。

 

 

 

 

 

ベイルの迷宮

一階層

 

 

 

 

 

 くっ!

 ゲートを抜けるとやはりガツンとMPが抜ける感覚に襲われる。

 多少気分が下降したような感じがあるものの、落ち込んで何もする気が起きないというほどではない。

 ロクサーヌから強壮丸を返してもらいアイテムボックスに戻して魔物の場所へ案内してもらう。

 

 

 

 念のため三匹倒しMPの回復を済ませたところでデュランダルをMP回復速度二十倍に変更しベイル亭へ戻る。

 

 

 

 

 

ベイル亭五階

ダブルルーム五一七号室

 

 

 

 

 

 部屋に戻り荷物を確認したがなくなっている物は何もない。

 まあ、そうそう盗難なんて起きないだろう。

 取り越し苦労で一安心だ。

 

 さて、荷造りを済ませてクーラタルの我が家へ戻るか。

 

 

 

 

 

田川 歩 男 18歳

探索者Lv18 英雄Lv16 魔法使いLv19 戦士Lv13 僧侶Lv6

装備 シミター 皮の帽子 皮の鎧 皮のグローブ 皮の靴

 

BP振分 残BP:0

キャラクター再設定:1

フィフスジョブ:15

鑑定:1

必要経験値十分の一:31

詠唱省略:3

ワープ:1

ジョブ設定:1

MP回復速度二十倍:63

 

所持金:437,361ナール

 

春の3日目

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