異世界迷宮へ行ったなら   作:三星織苑

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204 代理人

 

 

 

 

 

クーラタル郊外

アユムの家

 

 

 

 

 

 装備品を身に付けたら玄関へ移動し、ロクサーヌが来る前にボーナスポイントとジョブの変更を行う。

 

 うーん……。このまま迷宮へ行くわけだし、とりあえずMP回復速度十倍にでも振っておくか。それとジョブ設定と詠唱省略だな。

 

 次はジョブの設定だ。

 疾風剣とかいう、魔法攻撃系だと思われるスキルを使用するらしいので、知力を大幅に強化するパーティー効果を持った、魔法使い、魔道士、英雄を設定するのは不味い。

 いつもより威力が上がることで、不信感を抱くだろう。

 

 ファーストジョブを冒険者にして、遊び人、戦士、剣士、僧侶の布陣でいこう。

 万が一に備え、遊び人のスキルはオーバーホエルミング、効果は腕力中上昇で。

 

 それじゃあ、鑑定っと。

 

田川 歩 男 18歳

冒険者Lv36 遊び人Lv46 戦士Lv37 剣士Lv12 僧侶Lv15

装備 貫通のオリハルコン剣 竜革の帽子 頑強の竜革鎧 倹約の硬革グローブ 竜燐の靴 身代わりのミサンガ

 

 ズケットやアルバ、それにビットローファーを装備していると説明が面倒なので、以前の装備品に戻している。

 それに、身代わりスキルがダブるので、頭装備はルティナの物としてとっておいた竜革の帽子だ。

 

 よし。オッケー。

 

 

 

「ご主人様、お待たせいたしました」

 

 程なくして装備品を身に着けたロクサーヌが二階から下りてくる。

 

「大丈夫、全然待ってないよ。じゃあ商人ギルドへ行こうか」

 

 彼女が靴を履き替えたら出発だ。

 

 

 

 

 

クーラタル

商人ギルド

 

 

 

 

 

「アユム様、お待ちしておりました。それでは先ほどの部屋へ戻りましょう」

 

 ワープゲートを出ると、防具を身に着けたルークが待ち構えていた。

 

 めっちゃ気合入ってるやん。

 

 ルークは内心の高揚を隠しきれないようで、廊下を進むその足取りはまるで踊っているかのように軽やかだ。

 

 こいつ、めちゃくちゃ浮かれてんぞ。

 

 まさかさっきの男と結託して俺のことをハメようとしてないよな?

 

 ……いや。普段の言動が言動だから完全に信頼するのは無理だが、そんな真似をしたら決闘を吹っ掛けられると思っているはず。

 サボーを殺っていると聞いたことで、俺の強さにリアリティーが増しているだろうし、そんなことをたくらむとは思えない。

 

 単純に手数料に対する期待で浮かれているのだろう。

 

 

 

 部屋へ戻ると三人の男が待っていた。

 鑑定で確認したところ、商人と冒険者となっている。

 

 それにしても、ルークもそうだが全員一丁前の装備品を身に着けてんなぁ。

 やはり羽振りがいいんだろうか?

 

 ……まあ、そんなことはどうでもいいか。

 

 互いに同行者を紹介し合い、簡単な挨拶を交わす。

 どうやら商人はギルド職員、冒険者はギルドと契約している者らしい。

 

 そして、ロクサーヌを紹介すると、彼らの視線は顔とたわわに実った果実を何度も往復していた。

 

 彼女を見た男は大体こんなリアクションをするんだよなぁ。

 少しばかりムカついてしまうが、それをグッと堪える。

 だが、常にこういう視線にさらされているせいで慣れているのか、ロクサーヌは一切気にした様子がなかった。

 

 

 

 紹介が終わったところで、俺と仲買人二名がソファーへ腰を下ろす。

 同行者であるロクサーヌと二人の男はその後ろに控えている。

 

「それでは拝見させていただけますか?」

「うむ」

 

 彼の求めに応じ、詠唱中断のチェックを外してアイテムボックスからひもろぎのスタッフを取り出した。

 武器商人はそれを受け取ると、一言断ってから詠唱を開始する。

 

「武器に宿りし魂よ、その力を解き放て、武器鑑定」

 

 じっと杖に視線を注いでいたが、やがて頬が緩み、笑みが浮かぶ。

 

「間違いありません。ひもろぎのスタッフです」

 

 うん。ついさっきセリーが融合したばかりの出来立てホヤホヤだからね。

 

 すると、アルカイックスマイルのルークが口を開いた。

 

「では、疑念を避けるため、ひもろぎのスタッフはアイテムボックスに戻すことなく、このまま私がお預かりいたします」

 

 それが妥当なのかもしれないけど、お前が信用できるのかという致命的な問題が発生するんですが……。

 

 まあいい。すり替えようものならその場で決闘を申し込んでやるさ。

 

 

 

 ルークはひもろぎのスタッフをぎゅっと握ったまま話を続ける。

 

「次はMP吸収の確認ですね。アユム様、パーティー編成をお願いいたします」

 

 彼の言葉に頷きを返し、セリーとミリアをパーティーから外して、彼ら四人をパーティーに加えていく。

 

 

 

 六人パーティーになったところで、武器商人が問いかけてきた。

 

「どちらの迷宮へ向かわれるのですか?」

 

 どちら? うーん……。ここからだとベイルよりボーデの方が近いか?

 

「ハルツ公爵領のボーデにしよう」

「それがいいでしょう」

 

 ルークが頷きながら賛同を示し、他の者も特に異議はないらしい。

 

「よし。それではいこう」

 

 ソファーから立ち上がり、部屋を後にした。

 

 

 

 

 

ボーデの迷宮

一階層

 

 

 

 

 

 商人ギルドの壁からボーデの迷宮入口近くの木へ移動し、そのまま迷宮へ入る。

 詠唱省略を付けなおしていると、武器商人がアイテムボックスから槍を取り出した。

 

 チェックだチェック。

 

はやてのダマスカス鋼槍 槍

スキル 疾風剣

 

 これが言っていた、疾風剣のスキルが付いた武器か。

 

「魔物と遭遇したらこれで魔法を放ちますので、攻撃を控えていただくようお願いいたします」

「分かった。ロクサーヌ、魔物の下へ案内してもらえるか」

「はい。お任せください」

 

 彼女はいつものようにスンスンと匂いを確認し、通路を歩き出す。

 

 すると、それほど間を置くことなくロクサーヌが声を上げる。

 

「この先に魔物がいます。私が引きつけておくので、その間に攻撃をしてください」

 

 そう言うと通路の奥から姿を現した、巨大な緑色の芋虫へ駆け出した。

 

 ロクサーヌが慣れた様子でグリーンキャタピラーの攻撃をいなし始めたところで、通路に詠唱が響く。

 

「荒ぶる神の御息吹の、禍をはらみてめぐりゆく、招来、疾風剣」

 

 その瞬間、風が唸りを上げ、魔物の巨体は突風に煽られたかのように体勢を崩した。

 

 おー。なかなかすごいぞ。

 

 原作でミチオが発動させたほむらのレイピアは、炎が武器を覆うという描写だったはずだが、こいつはブリーズボールと同じ魔法に見える。

 もしかしたら、コボルトのスキル結晶と一緒に融合したらこうなるのかもしれない。

 

 しかし、グリーンキャタピラーはまだまだ元気いっぱいといった様子で、ロクサーヌに向かって再び攻撃を繰り出した。

 

 魔法職ではない上に魔法攻撃力がアップする装備品も身に着けておらず、知力が上がるパーティー効果もロクサーヌの巫女が持つ知力微上昇のみ。この結果も当然か。

 

 武器商人はリキャストタイムが明けると再び呪文を唱え、魔法を放つ。

 

 それを食らった芋虫は体を維持できなくなり、サラサラと流されていった。

 

 

 

「どうぞ」

 

 ドロップアイテムの糸を拾い、こちらへ戻ってきたロクサーヌは倒した男にそれを差し出す。

 

「あ、いえ。魔物を探し出すのに加え、攻撃まで引き受けていただいているのです。ドロップアイテムはそちらでお納めください」

「よろしいのですか? ありがとうございます。ご主人様、どうぞ」

 

 微笑みながら感謝を告げると、今度は俺の方へ差し出した。

 一方、仲買人である武器商人はポーっと彼女に見惚れている。

 

 あー。この男、ロクサーヌの微笑みにすっかり魅了されちゃってるよ。

 まったく。本当に罪な女性だこと。

 

 詠唱してアイテムボックスを開くのも面倒なので、受け取ったそれを彼女の背負っているリュックへ入れておく。

 

 それにしても、安いアイテムである糸だから譲ったのだろうが、スキル結晶がドロップしたらどうするんだろう? それでも譲るのかね?

 

 妙なフラグを立てた気がしないでもないが、そのまま次の獲物を探して移動を開始した。

 

 

 

 それから二匹の芋虫を片付けたところで、武器商人がはやてのダマスカス鋼槍をアイテムボックスにしまう。

 

「十分にMPを消費いたしましたので、本来の目的であるそちらの杖の確認に移りましょう。ルーク、それを貸してもらえるか?」

「ええ。どうぞご確認ください」

 

 乞われたルークは口元に穏やかな笑みを浮かべつつ、それを手渡す。

 

 おい。何でお前のみたいになってんねん。それは俺のやぞ。

 ……いや、いいけどさ。

 

 

 

 再びロクサーヌの案内で通路を進み、程なくしてグリーンキャタピラーを発見する。

 

 先ほどと同じように彼女が正面を受け持っていると、男は背後からスタッフを叩きつけた。

 そして、彼の顔に歓喜の表情が浮かぶ。

 

「回復してる! 間違いない! この量はMP吸収だ!」

 

 目の前では笑い声を上げながら魔物をどつき回す男という、なんともアレな光景が繰り広げられていた。

 

 うわぁ……。ヤバい人がいるぞ……。

 

 

 

 物理攻撃系のスキルが付いていない武器による攻撃では、倒すまでにどれほどかかるか分からない。

 このまま見守ってるのも時間の無駄だ。チャッチャと片付けよう。

 

 腰に差してあるオリハルコンの剣を抜き放ち、声を掛けた。

 

「俺が始末する。離れていてくれ」

 

 その言葉を聞いて正気を取り戻したのか、テンションアゲアゲだった男が魔物から離れる。

 

 オッケー。それじゃあ、いきますかね。

 

 ロクサーヌとじゃれているグリーンキャタピラーに近づき念じた。

 

ラッシュ

 

 鋭さを増した攻撃をぶちかますと、奴の体は空気に溶けるように消えていく。

 

 

 

「一階層の魔物とはいえ、一撃ですか。さすがアユム様です」

 

 すると、ルークが胡散臭い笑みをこちらへ向けた。

 

 はいはい。さすアユありがとさん。

 

「なるほど。あのサボー・バラダムを倒したという話にも合点がいきます」

 

 あちら側の三人も感心したように頷いている。

 

「ご主人様にかかれば、低階層の魔物など物の数ではありません」

 

 そして、うちの娘さんはドヤ顔をしながらこちらへ近づいてきた。

 

 こらこら。可愛いけどその表情はやめておきなさい。

 

 

 

 ロクサーヌのリュックに糸をしまっていると、武器商人が告げる。

 

「こちらのひもろぎのスタッフには間違いなくMP吸収のスキルが付いておりました。クーラタルの商人ギルドへ戻り、取引をお願いいたします」

 

 その言葉に反応して、ルークの瞳が妖しい光を帯び始めた。

 

 価格を釣り上げてくれよ? 頼むぜ、ルーク。

 

 

 

 確認が終わったため、出口へ向かい歩き出す。

 

 

 

 

 

クーラタル

商人ギルド

 

 

 

 

 

 商人ギルドへ戻ると、冒険者の男が口を開いた。

 

「それでは俺たちはこれで失礼する。今回は良い物を見せてもらったよ」

 

 その言葉に頷きながら商人もそれに続く。

 

「ええ。貴重な情報も得られましたし、実りの多いひとときとなりました」

 

 ああ。バラダム家のおかれている状況を確認できたんだ。そりゃ実りが多かっただろうよ。

 

 彼らは武器商人と軽く言葉を交わし、そのまま立ち去っていった。

 

 ……今後、バラダム家が苦しい立場になったことが知れ渡るかもしれない。

 売却できる装備品も少なくなっている上に、魔法使いの売却も不可能。

 

 もしかしたら奴らは春を越せないことも考えられる……。

 

 思索に耽っていたところ、待ちきれないといった様子の二人の仲買人に促され、商談室へ向かうことにした。

 

 

 

 俺と武器商人がソファーへ座ると、ルークはひもろぎのスタッフをローテーブルの上に置き、俺の隣に腰を下ろす。

 ロクサーヌはいつものように後ろで控えている。

 

「さて、こちらの杖が、MP吸収のスキルが付いたひもろぎのスタッフであることはご確認いただけましたね」

「ああ。間違いない。確かにその通りだった」

 

 その返答に軽くうなずくと、ルークは話し始めた。

 

「今回の交渉については、アユム様より一任されております。ですので、私が窓口を務めさせていただきます」

「問題ない」

 

 彼らの目には、まるで静かに燃え盛る冷たい炎が宿っているかのようだ。

 

「MP吸収の付いたひもろぎのスタッフ。言うまでもなく、破格の価値を持った逸品だ。この機会を逃すつもりはないので、私が出せる限界を提示するつもりでいる」

 

 初手からぶっ込んできた男の言葉に、ルークは笑みを浮かべたまま問い返す。

 

「おいくらでしょうか?」

「百五十万ナール」

 

 間髪容れずに告げられた金額に、背後から息を呑む音が聞こえてきた。

 ロクサーヌが驚くのも無理はない。武器商人が提示した額はかなりのものだ。

 

「あいにくですが、当方の希望価格は三百万ナール。どうやら、そちらとの間に少々認識の相違があるようですね」

 

 少々だと!? アホかこいつ! 三百万ナールはないだろ! 三百万ナールは!

 

 あまりの金額に武器商人が目を丸くする。

 

「三百万ナール? いくらなんでも強気すぎではないか? たとえその二つのスキルが付いていたとしても、そこまでの値が付くとは思えない。以前オークションに出品された、MP吸収の付いたひもろぎのカッカラでも三百万ナールには届かなかったのだ。相場というものがあるだろう」

 

 うん。俺もそう思う。

 

 しかし、ルークは憎たらしい笑みを浮かべたまま、動じる様子もなく続けた。

 

「物の価格は需要によって変動するものです。どうしても手に入れたいという者がいれば、際限なく上がっていくもの。仲買人であれば承知のはずですが?」

 

 こいつ鬼やな……。まるでセリーやないか……。

 

「いや、それにしたって、限度というものがあるだろう。三百万ナールはさすがに無茶だ。二百万ナールではどうだ?」

 

 おいおい。百五十万ナールが限界とか言っていたのに、五十万ナールも上げやがったぞ?

 こいつもこいつでかなりの曲者だ。

 

「申し訳ありませんが、その価格では私の面目が立ちません。仮にそれで譲ってしまえば、アユム様は二度と私に商談を任せてくださらないでしょう」

 

 いや、まあ、うーん……。

 今後もこいつに任せていいのかはさておき、それなりに説得力がある気はする。

 

 

 

 その後、まるで陣取り合戦のように、互いの希望額を削り合っていった。

 

 やがて、武器商人が諦めたように大きく息を吐き出す。

 

「分かった……。二百五十万ナール。本当にこれがギリギリだ。これ以上なら、そちらがオークションに出品するのを待つことにする」

「承知いたしました。二百五十万ナールでお譲りいたしましょう」

 

 ルークはそう言うと静かに頭を下げた。

 

 こいつスゲーなぁ。色々とやらかしちゃいるが、仲間になるとめちゃくちゃ頼もしいわ。

 

 

 

 バチバチのバトルを終えたルークは顔をこちらへ向ける。

 

「アユム様、売却額は二百五十万ナールとなりましたが、異存はございませんか?」

「ああ。問題ない」

 

 武器商人とも視線を合わせると、彼も頷きを返した。

 

「この度は貴重な装備品をお譲りいただき、誠にありがとうございます」

「うむ。こちらこそ感謝する。しかし、代金の受け取りについて少々相談があるのだが、よいだろうか?」

「相談でございますか?」

 

 彼は頭の上から大きなハテナマークが飛び出したような表情を浮かべている。

 ルークも、『何を言い出すんだ』という目をこちらへ向けていた。

 

「装備品やスキル結晶を譲ってもらえるのであれば、その分は相場に応じて代金から差し引こうと思うのだが、どうだ?」

「よろしいのですか!? ありがとうございます! 本当に助かります!」

 

 俺の提案を聞いた武器商人は破顔一笑、お礼の言葉を口にする。

 

「何でもかんでも買い取るつもりはないので確認してからとなるが、こちらとしても助かる」

「とんでもない。それでも十分ありがたいです」

 

 なあに。いいってことよ。気にするねい。

 

 

 

 よほど硬貨の消費を抑えたいのか、彼はアイテムボックスを開き、次から次へと武器を取り出していく。

 

 鋼鉄の剣、スロットなし。エストック、スロットなし。ミセリコルデ、スロットなし。オリハルコンの剣、スロットなし。スタッフ、スロットなし。

 おっ。ダマスカス鋼のステッキに一つスロットが付いている。こいつは貰っておこう。

 

 うーん……。武器はこれだけか。これといったものがないわ。

 

 テンションが落ちている俺をよそに、今度は防具に移る。

 

 鋼鉄の盾、スロットなし。竜革の靴、スロットなし。

 おー! ティアラだ! ああ……。スロットなしか……。

 

 よし! アルバにスロットが一つ付いている!

 ゲットだゲット!

 

 きた! 初見の装備品!

 

オペラグローブ 腕装備

スキル 空き 空き

 

 こいつも確保しておこう!

 

 そして、彼が少し手間取りながら取り出したものを確認し、思考が一瞬フリーズした。

 

エナメルのハイヒールブーツ 足装備

スキル 空き 空き 空き

 

「キター! エナメルのハイヒールブーツキター! ヤバい! マジでヤバいって!」

 

 三つ! スキルスロットが三つだぞ!

 

 あまりの興奮で、無意識に声を上げてしまう。

 

 書籍版以降では出てきていないが、ウェブ版では帝国解放会のロッジでスロットが一つ付いたものと、五つ付いているものが登場している。

 そのうち、スロット一つの方を、皇帝ガイウスがミチオへ下賜していた。

 

 あの世界では、皇帝から装備品を賜った場合、モンスターカード、この世界でいうスキル結晶の融合を一度だけ試みることが許されるらしい。

 それは受領から十日以内に行わなければならないと決まっていて、もし融合に成功した場合は献上することが認められるとのことだ。

 その場合は見返りとして、献上品の倍に相当する価値の品が再び下賜されるという。

 

 そのため、不正を防ぐための監視も徹底されている。

 同じ装備を複数入手していないか、あらかじめスキルが付いたものを購入していないかなど、細かく確認されるのだ。

 結局、セリーは立会人の前で融合を試みていたもんなぁ。

 

 そして、献上した後もミチオがそれを手に入れることは叶わなかったし、皇帝がどちらを選ぼうとも、入手する機会はないだろう。

 

 となると、こいつは絶対に手に入れておきたい……。

 

 

 

 ん? あっ。

 

 ふと視線を感じて頭を上げると、仲買人の二人がこちらをじっと見つめている。

 

 まずっ!

 

「すまん。うちのロクサーヌに似合うだろうと以前から購入を検討していたのだ。それが目の前に現れたため、驚きを抑えられなかった」

 

 とっさに、それっぽい理由をそれらしく伝えておいた。

 

「なるほど。それほど美しい女性なのです。きっとよくお似合いでしょう。それでは、このまま続けてもよろしいですか?」

「うむ。頼む」

 

 彼が品物を取り出すのを眺めながら、再び思考を巡らせる。

 

 ティアラ、オペラグローブ、エナメルのハイヒールブーツ。彼によるとどれも女性用の装備品らしい。

 もしかしたら、本家に迎えるという公女のために用意している装備品なのだろうか?

 

 その女性は魔法使いという話だし、同じく魔法使いのカシアもティアラを身に着けている。

 アルバとエナメルのハイヒールブーツは魔法攻撃力が上がるという話だが、ティアラとオペラグローブにもその効果があるのかもしれない。

 そうなると、スロットが付いていなくても見逃すのは惜しい……。

 

 考えているうちに防具の取り出しが終わった。

 

 とりあえず、ティアラ、アルバ、オペラグローブ、エナメルのハイヒールブーツはおさえておこう。

 

 

 

「最後にスキル結晶です」

 

 彼の言葉に頷き、こちらの提案を切り出す。

 

「スキル結晶は種類を問わず引き取るので、できればすべて出してもらえるとありがたい」

「それは非常にありがたいお申し出です。心より感謝申し上げます」

 

 言ったな? ガチで全部出してくれよ? 頼むからな?

 

 彼の取り出すスキル結晶に一つ一つ鑑定をかけていく。

 

 コボルト、コボルト、コボルト、蝶、人魚、スライム、トカゲ、ゴーレム。

 

 それらをローテーブルの上に置き、武器商人は口を開いた。

 

「以上でございます。何かお気に召したものはございましたか?」

 

 どうやらこれで打ち止めか。

 迷宮で装備していた物は出すつもりがないらしい。

 

「うむ。先ほど告げた通り、スキル結晶についてはすべて引き取らせてもらおう。装備品についてはダマスカス鋼のステッキ、ティアラ、アルバ、オペラグローブ、エナメルのハイヒールブーツを頼む」

「ありがとうございます。それでは装備品の鑑定と、ギルド神殿でのスキル結晶の確認をいたしましょう」

 

 装備品については見れば分かると押し切って納得させたものの、スキル結晶についてはそうもいかず、ギルド神殿で確認をすることになってしまった。

 

 くっ。八百ナール……。キャミソール一着分の金が無駄に……。

 

 

 

 確認が終わると防具商人が締めに入る。

 

「それでは確認を行います。ひもろぎのスタッフの二百五十万ナール。そして、アユム様にお引き取りいただく品がダマスカス鋼のステッキ、ティアラ、アルバ、オペラグローブ、エナメルのハイヒールブーツ。さらに、コボルトのスキル結晶が三つに、牛、蝶、人魚、トカゲ、ゴーレムのスキル結晶。これらの合計は六十七万六千八百ナールとなりますので、差し引き、百八十二万三千二百ナールをお支払いいたします」

 

 あ、うん。

 

 ……えっ? どういうことだ?

 

 うん? あっ! やっちまった! 三割アップを付けてない!

 

 クソっ。最悪だ。途中でカルクを挟んだこの状況なら絶対に有効になったはずだったのに!

 

 ああもう、マジかよ。俺はなんて馬鹿なんだ……。

 

 

 

 ……いや。落ち込んでもしょうがない。金を受け取ろう。

 

 白金貨二枚でも構わないかと問われたので、問題ない旨を伝えてそれを受け取り、代わりに金貨十七枚と銀貨六十八枚をおつりとして手渡した。

 

 彼は硬貨をアイテムボックスへしまい、ルークからひもろぎのスタッフを受け取っている。

 

「この度は誠にありがとうございました。おかげさまで、大変良いお取引となりました。今後ともご縁がありましたら、どうぞよろしくお願いいたします」

 

 そして、それもアイテムボックスへ入れ、もう一度頭を下げると軽やかなステップで部屋を後にする。

 

 

 

「アユム様、私の交渉はご期待に沿えましたでしょうか?」

 

 彼を見送ったところで、胡散臭い笑みを浮かべルークが問いかけてきた。

 

 早く手数料をよこせってことですね? 分かっていますとも。

 

「ああ。素晴らしい交渉だった。さすがルークだ。感謝する」

 

 礼を述べて支払いを行うことにする。

 

「この度はありがとうございました。また機会がございましたら、お声がけいただければ幸いです」

 

 金貨二十五枚を受け取ったルークも、まるでミュージカルのような足取りでこの場を去っていった。

 

 一番得をしたのは俺のはずなのに、とんでもないチョンボをしたせいで、一人負けをした気分になるなぁ……。

 

 くそっ。ほんと、俺はどうしようもない馬鹿野郎だ。

 

 例の口上がなかったことと、俺がへこんでいることから状況を察したのだろう。

 ロクサーヌは穏やかな微笑みを浮かべながらそっと近づき、慰めるように優しく囁いた。

 

「ご主人様、資金には十分すぎるほどの余裕がありますし、今日だって大金を得ています。それに、追加の利益を得られなかっただけで、損をしたわけではありませんので、どうかご自分を責めないでください」

 

 ロクサーヌ! 好き! 大好き!

 

 ……そうだよな。彼女の言う通り、得をしなかっただけで、別に損をしたわけじゃない。

 反省はしないといけないが、あまり気にしないようにしよう。

 

 

 

 テンションが回復したところで部屋を出てロビーに向かっていると、ロクサーヌが話しかけてきた。

 

「ルーク氏の交渉には本当にすごかったですね。あの迫力と押しの強さは、まるでセリーを見ているようでした」

 

 君もそう思っとったんかい。

 

 

 

 

 

田川 歩 男 18歳

冒険者Lv36 遊び人Lv46 戦士Lv37 剣士Lv12 僧侶Lv15

装備 竜革の帽子 頑強の竜革鎧 倹約の硬革グローブ 竜燐の靴 身代わりのミサンガ

 

BP振分 残BP:21

キャラクター再設定:1

フィフスジョブ:15

必要経験値二十分の一:63

鑑定:1

ワープ:1

MP回復速度十倍:31

ジョブ設定:1

 

所持金:14,137,464ナール

 

春の67日目

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