異世界迷宮へ行ったなら   作:三星織苑

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207 予行演習

 

 

 

 

 

クーラタルの迷宮三十三階層

ボス待機部屋

 

 

 

 

 

 待機部屋に入ったところで、まずはブリーフィングだ。

 

「セリー、ボスの情報を教えてくれ」

 

 質問したところ、彼女は軽く頷いて話し始める。

 

「かしこまりました。クーラタルの迷宮三十三階層のボスはランドドラゴン。四属性全てに耐性を持ち、動きが素早く、物理防御力も高いです。ただし、空を飛ぶことはないので、ドライブドラゴンに比べれば攻撃を当てやすくなっているかと」

 

 ふむ。空を飛ぶ相手はそれだけで難易度が一段上がるからな。

 

「主な攻撃手段は噛みつきとひっかき、それに突進による体当たり。そして、四つの属性の魔法を放ってきます。また、その歯には毒があり、噛みつかれると毒を受けることがあります。誰かが毒を受けたらすぐに毒消し丸を使ってフォローしましょう」

 

 毒持ち!? ランドドラゴンって毒持ちなの!?

 

 マジかよ……。原作ではあっさり片付けていたのに、結構な難敵だ。

 

 ……まあ、あれはミリアの石化攻撃がチートすぎるせいか。

 そりゃ苦労しないはずだ。うちのパーティーでも早いところ暗殺者を取得してもらおう。

 

 内心で考えを巡らせていると、セリーは説明を進める。

 

「スキル攻撃は威力を増した噛みつきです。防御力が低い者が食らった場合、噛みつかれた箇所がそのまま食いちぎられてしまいます。それが首から上なら……。確実に死に至るでしょう」

 

 その言葉に思わず背筋がゾッとした。

 

 こえー! ヤバい、ヤバい! 超ヤバイ!

 俺以外はランドドラゴンよりレベルが低いため、レベル補正が働かない。これは絶対に不味いって!

 

「低階層における最強のボスというからには、そのくらいの攻撃は持っているのが当然でしょう。相手にとって不足はありません」

 

 不敵な笑みを浮かべながらそう言ったロクサーヌの言葉にミリアも頷いた。

 

「はい。スキル攻撃を確実に潰せばいいだけですもんね。ボスとお伴を合わせて三匹しか出ないなら、お姉ちゃんが確実に対処してくれます」

 

 この娘たち、度胸据わってんなぁ。

 

 でもまあ、彼女たちの言う通りではある。

 それに、ボス戦は本番でも見られる心配はいらないため、出し惜しみせず挑むことが可能だ。

 オーバーホエルミングやトリプルアタックを使って、速攻で片付けてやるさ。

 

 二人の言葉に満足そうな笑みを浮かべ、セリーが話を続ける。

 

「ドロップアイテムは竜肉。そのまま食べることもできますが、スープなどに入れると竜皮よりさらに良い出汁が取れます。そして、レアドロップは竜革。こちらはご存じの通り、装備品の素材ですね」

 

 ついに竜革シリーズの素材を入手できる段階へたどり着いた。

 

「竜革が手に入ったら、装備品を製造することはできるのか?」

 

 質問をすると、セリーはかぶりを振って答える。

 

「一つ手に入れただけでは無理です」

 

 そうなの? 皮は一枚で、帽子やミトン、靴なんかを作れたのに?

 

 俺の疑問を察したのだろう。彼女が解説してくれる。

 

「装備品は性能が上がるごとに必要とする素材が増えていき、消耗素材も必要となります。竜革の場合は、一番簡単な帽子や靴でも十個。そして、カナリアカメリアが稀に残す、椿の樹皮も五個必要となります」

 

 うそー! そんなことになってんの!? 原作ではそんな描写なかったじゃん!

 

 あ、いや。原作のセリーは順番に装備品の製造をしていたせいで、その段階まで進んでなかった。

 

「分かった。素材が残ったら大切に保管しておこう」

 

 セリーはその言葉に頷きながら答える。

 

「はい。それがいいでしょう。ランドドラゴンの情報は以上となります」

 

 オッケー。それじゃあ、準備に取り掛かるとしますかね。

 

 おっと。その前にレベルの確認だ。

 

田川 歩 男 18歳

英雄Lv48 遊び人Lv46 冒険者Lv37 戦士Lv38 盗賊Lv20

装備 貫通のオリハルコン剣 竜革の帽子 頑強のアルバ 身代わりの竜革グローブ オラクルビットローファー よりしろのイアリング

 

 冒険者と戦士のレベルが1上がり。盗賊は20か……。

 そして、彼女たちのレベルに変動はない。

 正直、期待したほどは上がっていないが、一エンカごとの戦闘時間がだいぶ長くなっているため、狩った魔物の数が少ない。

 まあ、しょうがないだろう。

 

 さて、ボス戦では出し惜しみをするつもりはないが、そこまでの流れは本番を想定して挑むことにする。

 当日は試験官に見守られているため、待機部屋でデュランダルやドラウプニルを出すことはできない。

 となれば準備だけを済ませておいて、装備の入れ替えはボス部屋内で行うことになるだろう。

 

 ジョブの入れ替えを済ませて、63ポイントをフリーにしたところで二択を迫られた。

 

 デュランダルとドラウプニルはどっちを選べばいいんだ?

 

 ダメージ効率だけを考えるならデュランダル一択だ。

 しかし、レアドロップである竜革集めを考えた場合、ドラウプニルに軍配が上がるだろう。

 さて、どちらにしたものか……。

 

 

 

 うーん……。俺一人じゃ答えが出ない。

 

 考え込んだ末に、三人にそのことを伝えると、最初にロクサーヌが口を開く。

 

「現状、私たちはボスに苦戦をしたことはありません。ですので、ドラウプニルでいいのではないでしょうか」

 

 その顔には自信がみなぎっており、本心から問題ないと思っていることがうかがえる。

 

「ロクサーヌさんの言う通りです。三十四階層のボスだって難なく倒しているのですから、何も問題ないでしょう」

 

 セリーも理路整然とした口調で意見を述べる。

 

 ふむ。二人はドラウプニルか。

 

 次にミリアに視線を向けると、彼女はにこりと笑い返してきた。

 

「私はよく分からないので、どっちでもいいです」

 

 そりゃそうだ。加入したばっかりだもんな。

 戦闘においてのデュランダルとドラウプニルの違いだって、まだ実感がないだろう。

 

 それにしても、この場面でロクサーヌやセリーの意見に流されず、分からないからどっちでもいいと言うなんて、ミリアやるじゃん。

 

 まあ、オーバーホエルミングとトリプルアタックがあればなんとでもなるか。

 

「では、ドラウプニルで挑むことにする。戦闘時間が長引くが、よろしく頼む」

 

 彼女たちが頷くのを確認し、扉へ近づく。

 

 

 

 

 

クーラタルの迷宮三十三階層

ボス部屋

 

 

 

 

 

 フロアに足を踏み入れた瞬間、中央に煙が集まり始めた。

 それを見たロクサーヌたちは、迷いなく一斉に駆け出す。

 魔物が出現する前に、できるだけ距離を詰めておくのがセオリーだからな。

 

 俺はというと、その場で素早く準備に取りかかる。

 

 まず、耳からよりしろのイアリングを外し、アイテムボックスへ放り込んだ。

 すぐさまキャラクター再設定を開き、大急ぎでアクセサリー六にポイントを振り、出現したドラウプニルを装着する。

 

 オッケー。準備完了。

 

 その間に魔物は姿を現しており、既に戦闘が始まっていた。

 

 急いで攻撃を開始しないと!

 

オーバーホエルミング

 

 引き延ばされた時間の中、腰に差した貫通のオリハルコン剣を抜いて駆け出す。

 

 まず狙うのは手前のノンレムゴーレム。

 セリーが正面を抑えてくれているので、俺は背後へと回り込む。

 

ラッシュ

ラッシュ

スラッシュ。

 

 三つのスキルが重なった剣を叩きつける。

 剣身がノンレムゴーレムの体を滑らかに通り抜けると、奴の身体が密度を失い、実体を保てなくなった。

 

 オッケー! 次!

 

 その勢いのまま、今度はミリアと戯れているドライブドラゴンに接近する。

 そして、トリプルアタックが乗った一撃が決まり、同じように竜の輪郭があいまいになっていく。

 

 おっしゃ! 次は本命だ!

 

 ロクサーヌにあしらわれているランドドラゴンに狙いを定め、再び駆け出す。

 

 

 

 近づいて確認すると、そこにいたのは、地面に這いつくばっているような巨大トカゲ。

 ミチオはコモドドラゴンと言っていたが、まさにそんな感じだ。

 

 厚い鱗に覆われた身体は、濃い緑色にくすんだ茶色が混じり合ったような色をしている。

 ずんぐりとした胴体に、短く太い四肢。爪は鋭く湾曲していて、地面をがりがりと掻いていた。

 何かを探るように細長い舌をチロチロと出している様子は、妙に生々しくて怖気が走る。

 

 しかし、スローモーションのロクサーヌは、その怖気を催すような相手に、一切の躊躇いもなく、心底楽しんでいるかのような表情で攻撃を叩き込んでいた。

 

 ほんと、すごい娘さんだわ。俺も負けてはいられない。

 

 おっしゃー! トリプルアタックをぶちかましたらぁ!

 

 

 

「ふぅ」

 

 大きく息を吐き出し、剣を鞘へ納める。

 

 耐久性自体はハルバー三十四階層のボスだったスリープシープほどではなく、被弾なしの完封勝利だ。

 オーバーホエルミングとダブルアタックやトリプルアタックがあるおかげで、やはり雑魚戦よりボス戦の方が安定している。

 

 とりあえず、これで入会試験の目途は立ったな。

 魔法とデュランダル、それにオーバーホエルミングがなくてもドライブドラゴンとの戦闘は問題なかったし、ランドドラゴンも完封できた。

 そうなると、明日明後日も予行演習をするというのは、少しもったいない気がする……。

 どうしたもんかなぁ……。

 

 

 

「ご主人様!」

「ああ!」

 

 考え込んでいると、フロアに大きな声が響き渡った。

 慌ててそちらに目を向けると、ロクサーヌとセリーが地面を指差している。

 

 うん? なんだ?

 

 指先をたどるように視線を落とすと、そこには淡い光を放つ結晶体が。

 

 スキル結晶!? マジかよ!?

 

 慌てて駆け寄り、すぐさま鑑定をかけた。

 

スキル結晶 竜

 

「きたー! 竜のスキル結晶きたー!」

 

 マジか。このタイミングでくるのかよ。

 

「さすがご主人様! すごいです!」

「竜のスキル結晶が手に入ったのは大きいです! ドラウプニルを装備して正解でしたね!」

 

 ロクサーヌとセリーは目を輝かせながら声を上げ、ミリアも興味津々で結晶を覗き込んでいる。

 

 セリーの言う通り、ドラウプニルを装備していなければゲットできなかっただろう。

 ドラウプニルをプッシュしてくれた彼女たちに感謝だ。

 

 喜びを分かち合いつつ、他のドロップアイテムを確認する。

 バレーボール程の岩に、手のひらサイズの革が転がっていた。

 

 岩をアイテムボックスへしまい、革を拾って手のひらにのせる。

 

竜革

 

 表面には鱗状の模様が浮かんでいて、深い深緑に茶色を混ぜたようなくすんだ色合い。

 そして、グローブ越しでも、ザラリとした質感と厚みを感じられた。

 

 なるほど。これが竜革。

 

 それにしても、竜のスキル結晶はランドドラゴンじゃなくてドライブドラゴンからドロップしていたんだな。

 

 再度ドラウプニルの有用性に驚かされつつ、ポイントの振り分けとジョブの変更を済ませ、次の階層へと進んでから迷宮を後にした。

 

 

 

 

 

クーラタル郊外

アユムの家

 

 

 

 

 

 ドロップアイテムの売却と夕食の買出し、それから武器屋へ警策を持ち込んでから自宅へ戻る。

 修業と風呂焚きを済ませたら、夕食の支度は彼女たちに任せ、自分の部屋へ移動した。

 芸術家のジョブを得るため、これからしばらくは食事の支度は免除してもらい、絵を描かせてもらおう。

 

 だが、今日はその前にやっておかないといけないことが。

 

 鍵のかかるチェストを開け、日本から持ち込んだリュックを取り出す。

 まとめwikiが綴られているパイプファイルをパラパラめくり、時系列が載っているページを探り当てた。

 

 はっきりとした時期は不明だが、ハルバーの迷宮が討伐されたのは、夏の四十一日目から、四十四日目の間。

 今日からだいたい六十五日後に起こるはず。

 ミリアの暗殺者取得と、ベスタのレベル上げを考えても十分な準備期間がある。

 

 おそらく、そこまでズレていないだろうが、念のために書籍版の確認もしておこう。

 

 

 

 八巻を手に取り、ベスタが加わるところまでページをめくる。

 

 ん。八巻は夏の休日で終わってるな。

 

 九巻に持ち替え、日付を確認しながら続きを確認していく。

 

 あれ? ハルバーの迷宮が討伐されたぞ?

 はっきりした日付は分からないが、作中の描写だとおそらく夏の十五日目にはなっていない。

 いや。下手をすると十日目にもなっていない可能性だってある。

 

 嘘だろ? ウェブ版と書籍版でこんなに時系列の違いがあったのか?

 あまり意識していなかったせいで、全然気が付いてなかった……。

 

 ということは、書籍版準拠だった場合、あと三十五日前後で討伐されるということになる。

 正直、横取りはかなり厳しくなったと言わざるを得ないだろう。

 

 ……いや。でも対策がないわけでもない。

 現在、英雄のレベルは48。あと2つ上がると勇者が取得できる。

 圧倒的なパーティー効果とスキルを持つ、ぶっ壊れジョブだ。

 そのパーティー効果を遊び人に設定することで大幅に戦力強化ができるだろう。

 それに、ミリアが暗殺者を取得すれば戦闘が格段に安定する。

 

 とにかく今はレベル上げに励むしかない……。

 

 

 

 風呂に浸かりながら先ほど部屋で考えていた話を伝えると、俺の左側にいるセリーが静かに口を開く。

 

「ドライブドラゴンやランドドラゴンとも問題なく戦うことができましたので、明日からはレベル上げに集中してもいいと思います」

 

 俺の脚の間に座っていたミリアもくるりと振り返り、目を輝かせながら宣言した。

 

「私も暗殺者を目指して頑張ります!」

 

 そして、右隣のロクサーヌも尻尾をピクピク動かしながら告げる。

 

「ご主人様なら今の状態でも迷宮討伐を達成できると思いますが、魔物を倒して経験を得るのも大切です。中階層の魔物をたくさん倒しましょう」

 

 君の言葉には、別の意図が含まれてる気がするなぁ……。

 

 ……まあいいや。とりあえず全員の方針が一致したってことで、明日からもレベル上げに勤しもう。

 

 

 

 

 

ハルバーの迷宮

三十四階層

 

 

 

 

 

 翌日からはハルバーの三十四階層でひたすら魔物を狩ることになる。

 クーラタルの三十四階層も候補に挙がったのだが、ロクサーヌ師匠曰く、『クーラタルは人が多いですし、コボルトケンプファー相手では温すぎます』とのことだ。

 まあ実際、人が多いと効率が落ちるだろうし、師匠のおっしゃることに否やはない。

 

 午前中にソファーの搬入があったが、幸いにも食休みを取っているときに持ってきてもらえたので、狩りの時間が短くなることはなかった。

 

 

 

 その翌日も同じように早朝から狩りに勤しむ。

 朝食後に家具屋に足を運び、マットレスを作るのに必要なスリープウールの数を確認した。

 店員によると、春の八十日目までに百七十五個を持ってきてもらえれば、問題なく製作できるらしい。

 しかし、店員はかなり無茶を言っていると思っている様子で、無理そうなら自分の方でも伝手をたどってかき集めると言ってくれた。

 正直、そこまで大変そうな気はしないのだが、普通は無理な数なのだろう。

 本当に大丈夫なのかと何度も念を押されたものの、問題ないと言っておいた。

 

 今日からは、探索の前にスリープウールが十個集まるまでボス戦を繰り返し、集まったところでレベル上げを開始することにする。

 ドラウプニルのおかげでドロップ率は高く、さらに奴らは眠った状態で現れるので速攻で片付けることが可能。

 十個なら飽きずに集めることができるし、毎日続けて期限間際にそれなりの数になったところで、一気にスパートをかければいい。

 

 

 

 スリープウールを十個集めたところで、魔物を狩りまくる。

 

 戦闘が終了したところでMPが心もとなくなってきたので、万能丸を取り出し口に入れた。

 

 ついでにレベルも確認しておくか。

 

 自分に向けて鑑定を使用する。

 

「あっ」

 

 その表示を見た瞬間、思わず口から声が漏れた。

 

 

 

 

 

田川 歩 男 18歳

魔法使いLv53 英雄Lv50 遊び人Lv47 冒険者Lv39 魔道士LV37

装備 ひもろぎのカッカラ ダマスカス鋼の盾 ズケット 頑強のアルバ 身代わりの竜革グローブ オラクルビットローファー よりしろのイアリング

 

BP振分 残BP:0

キャラクター再設定:1

フィフスジョブ:15

詠唱省略:3

必要経験値二十分の一:63

鑑定:1

ワープ:1

ジョブ設定:1

獲得経験値二十倍:63

結晶化促進四倍:3

 

所持金:14,155,482ナール

 

春の69日目

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