異世界迷宮へ行ったなら   作:三星織苑

212 / 300
210 ロッジ

 

 

 

 

 

帝都

帝国解放会ロッジ

 

 

 

 

 

 ラルフが展開したフィールドウォークを抜けたところで彼に促され、俺たち四人の武器をアイテムボックスにしまい込む。

 そうしているうちに一人の紳士が歩み寄ってきた。

 

「ラルフ様、お待ちしておりました」

 

 落ち着いた低音の声に微かな笑み、黒いフォーマルなスーツがビシッと決まっている。

 鑑定で確認したところ、五十代の冒険者で名前はセバスチャン。

 

 おー! 帝国解放会の総書記様だ。

 全然関係ないけど、総書記って役職名はものすごいインパクトだよな。

 自動翻訳くん? 本当にこの訳で合ってんの?

 

「ご一緒にお越しになったということは、合格ということでよろしいのでしょうか?」

 

 格式を感じさせる所作で彼が尋ねると、ラルフは短く頷き答えた。

 

「ええ。これから他のパーティーメンバーを迎えに行ってまいりますので、詳細についてはエステル様からお聞きください。それまでの間、彼らのことをお願いします」

「かしこまりました」

 

 セバスチャンは一切の余計な言葉を挟まず恭しく一礼する。

 

 余計な口を挟まず、指示を即座に受け入れるその様子。

 帝国解放会の総書記とは別に、帝宮内で侍従として別の職を持っていそうだ。

 

 思索を巡らせていると、ラルフに促されたためパーティーから外す。

 そして、彼はフィールドウォークを展開して移動していった。

 

 

 

 ラルフの姿がゲートの向こうへと消えたのを見届けたところで、セバスチャンが一歩前へ出て穏やかな口調で話し始める。

 

「このたびは合格おめでとうございます。当会は新たな仲間を心より歓迎いたします」

 

 そう言って一礼すると、問いかけてきた。

 

「それでは、まずお名前をお聞かせ願えますでしょうか。当会では世俗的な役職や家格といったものは一切考慮いたしませんので、爵位や継承家名などは省いていただき、お名前と苗字のみで結構でございます」

 

 爵位も継嫡家名も持ち合わせてないんで、何も問題ない。

 

 それにしても、こういう風に名前を尋ねられたとき、ついつい『ルイズ・フランソワーズ・ル・ブラン・ド・ラ・ヴァリエール』とか、ビチグソ丸のフルネームを答えたくなるのは、オタクのサガってやつなのかね?

 

 そんなアホな考えを横へうっちゃり、真面目な顔で名を告げる。

 

「アユム・タガワだ」

「アユム様でございますね」

 

 総書記様は柔らかな表情で一つ頷くと、今度はロクサーヌの方へと視線を向けた。

 

「そちらのお嬢様は?」

「ロクサーヌです」

「ロクサーヌ様でございますね」

 

 所作に一切のよどみがなく、流れるように次はセリーへ、そしてミリアへと順に確認を行なっていく。

 

 あらかじめ帝国解放会の規則について説明していたため、彼女たちは丁寧な扱いをされても戸惑う様子はみられない。

 

 

 

 名前を確認したセバスチャンは、どこか感心したように眉を軽く上げ、穏やかな声音で口を開く。

 

「帝国解放会に入会されたばかりの方が初めてロッジを訪れる際には、緊張や戸惑いを隠しきれないことがほとんどなのですが……」

 

 視線をゆっくりと俺たちへと巡らせながら続ける。

 

「アユム様ご一行は、皆さま非常に落ち着いておられるご様子。……なるほど、ブロッケン様が熱心にお誘いになったというのも、頷けることでございます」

 

 ごめんなさい。あらかじめ流れを知っていたおかげっす。

 ほんと、カンニングをして申し訳ないっす。

 

 

 

 いつものように曖昧な笑みを浮かべてやり過ごしていると、不意にフィールドウォークのゲートが開く。

 そこから姿を現したエステルが、頭を下げて出迎えているセバスチャンへ告げた。

 

「ラルフから話は聞いていると思うが、アユムたちは合格だ。これから会についての説明を行なうので、部屋の用意とハーブティーの手配を頼む」

「かしこまりました。それでは、こちらへどうぞ」

 

 セバスチャンは深々と一礼しながら返事をすると、優雅な手つきで進行方向を示し、俺たちを案内するようにゆっくりと歩き出す。

 その所作には一切の無駄がなく、まるで儀礼の流れの一部であるかのように、自然で洗練された動きだ。

 

 めちゃくちゃ決まってんなぁ……。

 

 

 

 俺たちを部屋の前まで案内し終えると、セバスチャンは一礼し、その場を辞した。

 きっと飲み物の手配に向かったのだろう。

 いや。彼はセバスチャンの名を持つ男。もしかしたら、既に段取りを整えており、ただ取りに行っただけかもしれない。

 

 部屋の中へ入ると、磨かれた大理石の床に厚手のカーペットが敷かれ、壁には高そうな絵画がかかっている。

 中央には存在感のある長方形のテーブルが置かれており、六脚の椅子が等間隔で並ぶ。

 

 エステルは奥側の中央の席に腰を下ろして、俺たちにも座るよう促してきた。

 彼の正面に俺。その右隣にはロクサーヌで、左隣にはセリーが座り、さらにロクサーヌの右にミリアが腰を下ろした。

 

 あちらさんのパーティーは彼の後ろに控えている。

 

 エステルは飲み物がきてから本題に入るつもりなのか、俺たちが普段はどこの迷宮を探索しているのかや、どのような戦闘をしているのかについて話を振ってきた。

 間違っても魔法を使って戦っているなんて口にするわけにはいかないので、適当にそれっぽい話を並べて誤魔化しておこう。

 

 

 

 いつものようにのらりくらりとはぐらかしていたところで扉が開く。

 入ってきたのはセバスチャン。そしてその後ろには、メイド服っぽい衣装に身を包んだ若い女性がワゴンを押して従っていた。

 

 ……あの服、ロクサーヌたちのメイド服とよく似ている。

 

 あれを用意したアランは、帝宮の侍女服を模したものだと言っていた。

 ここ、帝国解放会のロッジは、おそらく帝宮の中にあるのだと思われる。

 だとすれば、目の前にいるこの女性の服こそが、本家本元なのかもしれない。

 

 そんなことをぼんやり考えていると、セバスチャンがワゴンの上に手を伸ばした。

 装飾の施されたティーポットとティーカップを手に取り、そのままスッとポットを高く掲げる。

 彼の頭上にあるポットから注がれた液体は弧を描き、寸分の狂いもなくカップの中央へ吸い込まれていく。

 

 いささかも姿勢を乱すことなく、そして一滴もこぼすことなく注ぎ終えると、女性が持っているトレーへカップを移す。

 

 すごいパフォーマンスだなぁ。

 

 右京さんばりの妙技に感心したものの、頭の片隅に疑問がよぎる。

 

 ……でも実際、この注ぎ方って何か意味はあるのかね?

 

 

 

 野暮な指摘はせずに見守っていると、配膳を終えたセバスチャンとメイドさんは壁の方へ移動し、そこで控えている。

 

 全員が飲み物に手を伸ばし口をつけたところで、エステルが話し始めた。

 

「では、アユムたちの総評を行う。結論から言えば合格だ。ブロッケンがあれだけ熱心に入会を推したのも納得できる。おそらく通常会員として入会試験を受けていたとしても何の問題もなかっただろう」

 

 問題あるっちゅうねん。四十四階層なんて危険が危ないやないか。

 我がパーティーのモットーは、安全第一、いのちだいじに、だ。

 今の段階でそんな危険地帯に足を踏み入れるわけにはいかない。

 

 隣に座っているお嬢様の表情をうかがうと、口角が上がり好戦的な笑みを浮かべていた。

 

 ほらー。余計なことを言うから寝た子を起こしたじゃん。

 

 こちらの心中など意に介さず、エステルは話を続ける。

 

「もっとも、懸念点がないわけでもない。まず、パーティー人数が不足している点。それから、攻撃をほぼアユム一人が行なっている点。そして、その攻撃も装備品に大きく依存しているように見える点。こういった不安要素も見受けられる」

 

 パーティー人数の不足はそのうち解消する予定だ。

 アタッカーの数が足りない問題も、いずれ全員の装備品に腕力二倍と攻撃力二倍、それから防御力貫通を付与して対応するつもりだし、ルティナが加入したら彼女の魔法も強化する。

 

 んで、装備品の力に頼りすぎているって話だけど、それについてはまったく改めるつもりはない。

 なにせ俺はスキルスロットの有無を見極められるという、唯一無二のアドバンテージを持っている。

 それを活かして何が悪い。

 今後も装備品の力でゴリ押し無双じゃーい。

 

「まあ、指摘したことについては時間が解決してくれることばかり。心配するほどのことはないだろう。我らはアユムの入会を心より歓迎する」

 

 エステルの言葉と共に、場の空気がふっと和らいだ。

 

 我が愛しのパーティーメンバーたちも嬉しそうに笑みをこぼしている。

 

 よし。これで成り上がりの準備は整った。

 未開地域や放棄地域の迷宮を討伐すれば、きっとスムーズに叙爵されることだろう。

 

 

 

 香り高いハーブティーを各々が傾けているなか、エステルの話は続く。

 

「帝国解放会では入会に際して入会式と入会儀礼を行う慣わしがある。アユムの都合さえよければ明日の午前中に執り行いたいと考えているのだが、どうだ?」

 

 はあ? 明日? 急すぎん?

 確か原作では数日後とかだったよな?

 

 あっ。それはウェブ版か。書籍版では翌日だったような気もする。

 

 

 

 ……明日の午前中なら特に問題はないし、まあいいか。

 

「うむ。大丈夫だ」

 

 そう答えるとエステルは軽く頷き、入会後の注意事項や会員としての振る舞いについてレクチャーをしてくれた。

 とはいっても、会では身分による上下はないだとか、種族差別は許さないとか、会員の権利や義務といった、原作を読んで知っていることばかり。

 

 一通り説明を終えたところで、エステルがこちらをジッと見据え問いかけてくる。

 

「最後に確認しておきたいことがある。新会員が加わった際には宴会を催し、盛大に迎え入れることが慣例となっているのだが、問題はないか? 本人が望まない場合は簡易的に乾杯をするだけで済ませることもできるが、どうする?」

 

 あー。俺の嫌いなやつだわ。

 歓送迎会、忘年会、飲み会。まともな思い出が一つもない。

 酒は一人で静かに飲むに限る。

 

 それに、酒に酔ってしまえばキャラクター再設定のチェックを外してしまう危険性が拭えない。

 たとえ僅かな量であってもそのリスクは決して無視できないため、この世界では一滴たりともアルコールを摂取するつもりはない。

 ここは適当なことを言って断っておこう。

 

「申し訳ないが辞退させてもらう。俺は酒がまったく駄目でな。たとえ一杯でも意識を失ってぶっ倒れる。しかも目が覚めたあとも数日は頭痛に悩まされるんだ。できればその簡易版の乾杯についても、酒は遠慮させてもらいたい」

 

 それを聞いたエステルの顔に残念そうな表情が浮かんだ。

 

 宴会がしたかったのかな? 酒好きだったりする?

 

「そうなのか? 事情は理解したが、今後のために酒に強くなっておくのも悪くないぞ? 毎日晩酌を続ければ自然と鍛えられるだろう」

 

 いやいや。そんなの無理だから。

 俺の場合は嘘だけど、実際のところアルコール耐性は鍛えられるようなものじゃない。

 アルコールが体内で分解されるときに生じるアセトアルデヒドを処理する酵素、ALDH2の活性は遺伝で決まっていて、低活性型ならどうしようもないのだ。

 

 まったく。こういうやつが飲めば強くなるとか言って、部下に一気飲みを強要して病院送りにするのだ。

 完全にアルハラだぞ。コンプラ違反だぞ。

 まあ、コンプラ意識なんてなさそうな世界だけどさ。

 

 

 

 すべての説明を終えたようで、エステルが締めに入る。

 

「こんなところだな。このロッジに関しては総書記であるセバスチャンに尋ねてくれ。セバスチャン、後は頼む」

「かしこまりました」

 

 呼びかけに応じ、総書記様が静かに近寄ってくる。

 その歩みには一切の無駄がなく、まるで舞踏のように優雅そのものだ。

 

 エステルは椅子から立ち上がりラルフに声をかけて、アイテムボックスから銀貨三枚を取り出させ、それをセバスチャンに差し出す。

 

「ハーブティーは一杯五十ナールだったな。つりはいらん。活動費に入れておけ」

「ありがとうございます。そういたします」

 

 さすが貴族であり、会長でもある男。なんかかっこいいことを言ってるぞ。

 

 そして、彼はこちらに顔を向け、忠告の言葉を口にする。

 

「聞いての通りだ。高階層で稼げるようになるまでは、ロッジでの飲食は負担となるだろう。アユムも気を付けるといい」

「ああ。忠告感謝する」

 

 そう返したものの、普段もこの世界の水準では考えられないような額の食費をつぎ込んでいる俺だ。その忠告は全然響かない。

 エステルもまさか、目の前の人物が一千四百万ナール以上の資産を持っているとは思うまい。

 

「ああ、そうだ。念のため伝えておこう。入会式が終わるまでは推薦者とは顔を合わせない方がいいだろう。ブロッケンにはこちらから合格を伝えておく。アユムのほうで連絡を取る必要はないからな。それでは、明日の朝に会おう」

 

 そう言い残し、エステルはパーティーメンバーと共に部屋を後にした。

 

 

 

 それにしても、推薦者には会わない方がいい、ってのはどういう理屈なんだろう?

 

 裏で何か手を回したと疑われる可能性があるってことか?

 あるいは、そういった余計な憶測を呼ばないように、あらかじめ距離を置いておくための形式的な措置かもしれない。

 

 ……まあ、考えても答えなんか出ない。いつものように棚上げだ。

 

 エステルたちがいなくなったところでセバスチャンが口を開く。

 

「これより、ロッジのご利用に関する説明をいたします。どうぞ、そのままハーブティーを召し上がりながらお聞きください」

「よろしく頼む」

 

 相槌を打つと彼は静かな口調で語り出した。

 

 このロッジの場所は非公開となっており、会員とそのパーティーメンバー以外を伴って訪れることは禁止されているとのこと。

 もしそれを破った場合、脱退だけでは済まず、厳しいペナルティーを科せられるそうだ。

 

 それから、今いるような応接室は他にも複数用意されており、会員同士の打ち合わせや親睦会など、自由に使用することができるらしい。

 ただし、部屋の使用料はかからないものの、飲食物の注文が必須となる。

 会員とそのパーティー以外はロッジそのものに立ち入ることができないため、外部の人間との会合などには使用できないみたいだ。

 

 まあ、他の会員と打ち合わせをしたり、親睦を深める機会なんてないだろう。

 自分たちだけで使うなら、ぶっちゃけ自宅で十分間に合っている。

 会員以外と使用できないのなら、ここを利用する機会はないんじゃないかな。

 

 俺たちがハーブティーを飲み終えたのを見計らったように、セバスチャンが柔らかく声をかけてくる。

 

「それでは、次は当ロッジの施設をご案内いたします。ご足労をおかけしますが、どうぞこちらへ」

 

 その言葉を合図に俺たちは自然と立ち上がり、部屋に椅子の脚が床を擦る音が響いた。

 

 

 

 

 

田川 歩 男 18歳

冒険者Lv40 勇者Lv22 遊び人Lv48 英雄Lv50 戦士Lv38 魔道士LV38

装備 竜革の帽子 頑強のアルバ 身代わりの竜革グローブ オラクルビットローファー よりしろのイアリング 

 

ロクサーヌ ♀ 16歳

巫女Lv23

装備 オラクルティアラ 頑強の竜革ジャケット 剛腕の古代樹手甲 駿馬の竜革靴 身代わりのミサンガ

 

セリー ♀ 16歳

鍛冶師Lv25

装備 風のダマスカス鋼額金 ダマスカス鋼のチェインメイル ダマスカス鋼のガントレット オラクルダマスカス鋼グリーヴ 身代わりのミサンガ

 

ミリア ♀ 15歳

戦士Lv25

装備 ダマスカス鋼の額金 オラクル竜革ジャケット 竜革の手甲 駿馬の竜革靴 身代わりのミサンガ

 

BP振分 残BP:2

キャラクター再設定:1

シックススジョブ:31

必要経験値二十分の一:63

鑑定:1

ワープ:1

ジョブ設定:1

結晶化促進八倍:7

MP回復速度十倍:31

 

所持金:14,168,710ナール

 

春の70日目

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