異世界迷宮へ行ったなら   作:三星織苑

213 / 300
211 売店

 

 

 

 

 

帝都

帝国解放会ロッジ

 

 

 

 

 

 一階と二階にある各会議室、そして二階の一番奥に設けられた広い大会議室をひと通り確認してから、さらに上階へと足を運ぶ。

 三階に上がると、ひときわ重厚な扉が目に入った。

 装飾こそ控えめだが、その閉ざされた扉には独特の緊張感が漂っている。

 

 その扉の前まで移動すると、セバスチャンが説明を始めた。

 

「こちらは資料室でございます。会員ご本人に加え、委任を受けたパーティーメンバーも利用可能となっておりますので、どうぞ積極的にご活用の上、迷宮討伐にお役立てください」

 

 その言葉を聞いた途端、隣にいたセリーの表情が明るくなる。

 彼女は瞳をキラキラと輝かせながら、こちらを見上げた。

 

 君、帝国解放会の資料室にめちゃくちゃ期待していたもんねぇ。

 

「ただし、当会で秘匿している情報も数多くございます。情報漏洩などが発覚した場合は厳しい処分が下されますので、取り扱いには十分ご注意ください」

 

 原作では秘密結社のような組織だと言われていたし、ハチのスキル結晶の有用性といった、ここでしか知られていない情報も数多く存在していた。

 でもまあ、隠さなくてはいけないことが山のようにある俺たちのパーティーにとっては今更な話だ。

 

 セリーは警告などまったく意に介した様子はなく、前のめりで質問を投げかける。

 

「私たちはいつから利用できるでしょうか?」

「他の施設につきましては本日から利用可能ですが、こちらの資料室は秘匿性を鑑み、入会日となる明日からとさせていただきます」

「分かりました。ありがとうございます」

 

 彼女は丁寧に頭を下げたあと、期待の籠った瞳で再びこちらを見上げてきた。

 

 はいはい。明日の午後はじっくりここで資料を漁りたいってことね。

 目は口程に物を言うとはよく言ったもんだ。

 

 明日の午後はミリアがドブの修繕へ参加するので、俺たち三人はスリープシープを狩って、マットレスの素材となるスリープウールを集めるつもりだった。

 しかし、スリープシープは眠った状態で出現するため、俺とロクサーヌだけでも十分対応は可能だろう。

 

 ロクサーヌの方に目を遣ると、こちらも輝くような笑みを浮かべ頷きを返した。

 

 おいおい、ロクサーヌさんや。あなたが何を考えたのか分かっちゃいましたよ?

 

 きっと二人きりですごせることを喜んでいるのだろう。

 ほんと、その気持ちが嬉しいよなぁ。

 

 

 

 セバスチャンによると、入会式の際にセリーも同行して調べ物をしてもいいらしいので、明日は二人で訪れることにした。

 

 確か原作でも同じことをしており、話の流れでめちゃくちゃきつい酒である、ドワーフ殺しをセリーが飲むことになる。

 ミチオの分だけではなく、同日に入会した皇帝ガイウスとそのお付きの分を合わせて、壺三つ分を飲み干すのだ。

 これにはさすがのセリーも酔っぱらってしまい、ミチオに可愛く甘えるという、レアな姿を見せていた。

 

 まあ、俺のセリーは酔ってなくても可愛く甘えてくれるんですけどね。ふふん。

 

 

 

 資料室の説明がひと通り終わると、セバスチャンの案内で俺たちは再び階段を降り、一階の奥まった部屋へと足を運ぶ。

 

「こちらは、帝国解放会の会員のみが利用できる店舗でございます。数はそう多くありませんが、貴重な装備品なども取り扱っておりますので、アユム様も是非ご利用くださいませ」

 

 扉の先はそれほど広くはないものの、ホコリ一つなく手入れが行き届いていた。

 壁際に並ぶ棚と陳列台には明らかに高性能だと分かる武具が並び、それらには風格のようなものが漂っている気さえする。

 それとも、原作知識で高性能な品だと分かっているせいでそう感じてしまうのだろうか?

 

 セバスチャンが店のシステム、装備品の購入にはポイントが必要になるという説明を始めたのを耳に入れながら、展示されている装備品に目を走らせる。

 

 あー! すごいものがあるじゃないか!

 

オリハルコンの槍 槍

スキル 空き 空き 空き

 

 ヤバい! これはヤバい!

 

 オリハルコン製でスロット付きというだけでも購入は決定だが、それが三つも付いているため拡張性もバッチリだ。

 有用なスキルを付ければセリーの武器として長く使えるだろう。

 これは絶対に確保しておかないと!

 

 決意を固めながら鑑定を続けていくと、もう一つ気になる表示が現れた。

 

ミスリルのグリーヴ 足装備

スキル 空き 空き

 

 キター! こいつにもスロットが二つ付いている! 確保だー!

 

 表に出したつもりはないものの、俺のテンションが爆上がりしていることに気が付いたのか、三人の顔にも笑みが浮かぶ。

 

 彼女たちに目配せを送ったところで、セバスチャンに声を掛けた。

 

「あのオリハルコンの槍とミスリルのグリーヴを購入するには、どのくらいポイントが必要になるのだ?」

 

 俺の言葉を聞き、セバスチャンは感心したように頷きながら応じる。

 

「一目でお分かりになるとは、大変お目が高くていらっしゃいます」

 

 まあ、ことアイテムや装備品の目利きに関しては、俺以上の者はいないと断言できる。

 

「アユム様がお目に留められた二点につきましては、オリハルコンの槍が三ポイントが必要で金額が百三十万ナール。ミスリルのグリーヴが二ポイントで六十五万ナールとなっております」

 

 合計五ポイントに百九十五万ナールか……。

 高い。正直、二百万ナール近い金額はかなりのものだ。

 さすがに気軽に購入できるような品ではないということだろう。

 

 だが、思い返してみれば、ガストンのオリハルコンの剣と聖銀の兜を買い取ったときに、セリーが教えてくれたオークションでのおおよその相場。

 それによれば、オリハルコンの剣が百万ナール以上、聖銀の兜が五十万ナール以上という話だった。

 おそらく、このオリハルコンの槍とミスリルのグリーヴもそのくらいの額になるのではないだろうか?

 

 それを踏まえればこの価格はほぼ仕入れ値で、ほとんど儲けが乗っていないと推測できる。

 きっと迷宮討伐の相互扶助精神に基づく、会員支援の一環なのだろう。

 それならスルーするのはもったいない。

 

 それに、金については少しアテもあるしな。

 

 胸の内でそう呟きながら、その考えをセバスチャンへと告げた。

 

「実は少し前に、ひょんなことから催眠のオリハルコン剣と催眠のエストックを手に入れたのだが、この二つを売却することは可能だろうか?」

 

 それを聞いたセバスチャンの表情が引き締まる。

 

「催眠のスキルが付いた武器でございますか……。催眠のオリハルコン剣は獣戦士や百獣王のいるパーティーでは重宝することでしょう。また、催眠のエストックは装備制限がなく、修業中の者でも扱うことが可能なため、需要の高い武器となります。どちらも当ロッジで扱うのにふさわしい逸品です」

 

 オッケー、オッケー。いいじゃない、いいじゃない。

 

「では、どのくらいのポイントと金額になるのだ?」

 

 問いかけたところ、彼は頷きながら答える。

 

「武器商人が確認してからとはなりますが、催眠のオリハルコン剣は二百八十万ナールと六ポイント。催眠のエストックが四十万ナールと二ポイントでお引き受けいたします」

 

 おっしゃ! 三百二十万ナール!

 

 まるで新しく車を購入するときに今まで乗っていた車を下取りに出したら、その査定額が購入金額を上回って、車を買ったのにお金がもらえた、みたいな感じだ。

 

 ……まあ、俺はボロボロの軽を限界まで乗り倒していたせいで、鉄クズとしての値段しかつかないか、下手をすれば処分費用を取られていたため、そんな経験をしたことはないんだけどさ。

 

 

 

 その後、セバスチャンの手配で武器商人が呼ばれ、催眠のオリハルコン剣と催眠のエストックの鑑定が行われた。

 それらに問題がないことを確認したところで、オリハルコンの槍とミスリルのグリーヴを受け取り精算を行う。

 

「それでは、差し引き百二十五万ナールをお支払いいたします。また、残りの三ポイントにつきましては当ロッジで記録しておきますので、次回商品を購入する際にご使用ください」

 

 いやー。装備品を買って百二十五万ナールが手に入っちゃったよ。

 

 これもすべてバラダム家のおかげだな。奴らには足を向けて寝れねーわ。

 

 

 

 

 

クーラタル

 

 

 

 

 

 セバスチャンによるロッジの案内が終わったころには、すでに日も高くなっていた。

 ロクサーヌの腹時計によると、もう昼前だということなので、クーラタルに戻って食材の買出しを行うことにする。

 

 冒険者ギルドから出て中心街へ向かっていると、ロクサーヌが小声で尋ねてきた。

 

「ご主人様、先ほどのオリハルコンの槍とミスリルのグリーヴには、あれがいくつ付いていたのですか?」

 

 うんうん。気になるよね。聞きたいよね。その気持ちはよーく分かる。

 

「オリハルコンの槍には三つ。ミスリルのグリーヴには二つ付いていた」

「おー。すごいですねー」

 

 ミリアが両手を胸の前で握りしめて、満面の笑顔で声を弾ませる。

 ロクサーヌも柔らかな微笑みを浮かべ、嬉しそうに頷いていた。

 

 しかし、セリーだけは微妙な表情でこちらを見つめている。

 

「ミスリルのグリーヴですか……」

 

 なんだ、なんだ? ミスリルのグリーヴは駄目だった?

 

 俺とロクサーヌとミリアで見つめると、彼女は小さくため息を漏らして目を細める。

 

「オリハルコンの剣が二本と聖銀の兜。それから、頑強のオリハルコンプレートメイルに剛腕のミスリル手甲。そして、今回のミスリルのグリーヴで、ベスタの分は制限付きの高性能装備品がすべて揃いましたね……」

 

 えっ? あ、本当だ。

 

 なにこれ? なんで彼女の装備品ばっかり、こんなに充実するんだ?

 

 セリーの言葉に驚いていると、ミリアが頭の上にハテナマークが出現していそうな表情を浮かべる。

 そして、ロクサーヌがふくれっ面を隠そうともせず、口を開いた。

 

「また、ベスタの装備品なんですね……」

 

 いやいやいや! 違うから! 俺が狙ったわけじゃないからね? 本当に贔屓をしてるとかじゃないからね?

 

 キョトンとした表情のミリアに見守られながら、ロクサーヌとセリーの機嫌を取りつつ、通りを進む。

 

 

 

 

 

クーラタル郊外

アユムの家

 

 

 

 

 

 家へ戻りキッチンに食材を置いてから、二階へ上がる。

 物置部屋へ入り、アイテムボックスからオリハルコンの槍を取り出すと、窓からの光を反射し鈍く輝いていた。

 

「今後、これの管理はセリーに任せるね。ロクサーヌがミセリコルデを試しているみたいに、定期的に装備可能かどうか確認してみて」

「かしこまりました」

 

 彼女の顔には責任を果たそうという、強い決意が浮かんでいる。

 

 恭しく槍を受け取ったものの、装備制限に引っかかっているため、石突を杖のように突きながらクローゼットにしまい込んでいた。

 

 その間にロクサーヌも自分のミセリコルデを取り出し試していたが、相当な重さを感じているっぽい。

 

 うーん……。まだまだ先は長そうですな。

 

 

 

 次にベスタの装備品を入れてあるクローゼットを開き、そこにミスリルのグリーヴを追加する。

 

 あらためて見るとすごいもんだなぁ。

 

 先ほどセリーも言っていたが、スロ四とスロ三のオリハルコンの剣にスロ三の聖銀の兜。頑強のオリハルコンプレートメイルと剛腕のミスリル手甲。そして今回手に入れたスロ二のミスリルのグリーヴ。

 スロットも多数で拡張性も抜群。スキルをマシマシにすることだって出来る。

 おそらく、世界トップクラスのパーティーが身に着けているレベルの装備品だろう。

 

 ベスタは前衛として魔物の攻撃を受けることになる。

 痛い思いをしたり、理不尽だと感じることもあるかもしれない。

 だが、きっとこれらの装備品が彼女の身を守ってくれることだろう。

 

 

 

 

 

ハルバーの迷宮

三十四階層

 

 

 

 

 

 昼食と食休みを済ませたら、ハルバーの迷宮三十四階層でレベル上げだ。

 入会試験の目途はたったものの、ハルバーの迷宮を横取りで討伐するにはまだまだレベルが心もとないため、気合を入れてレベル上げに勤しもう。

 

 

 

 

 

 明けて翌日、春の七十一日目も帝国解放会の入会式前に、早朝の探索を行うことにした。

 午前中には入会式が。午後からはそれぞれやるべきことがある。

 

 俺とロクサーヌはスリープウール集めのためにボス狩りだ。

 セリーは帝国解放会の資料室で情報収集を。

 そして、ミリアにはドブの堤の補修作業が待っている。

 なので、早朝のうちにしっかり魔物を狩って、経験値を稼いでおかなくては。

 

 

 

「ご主人様、そろそろパン屋が開く時間です」

 

 時間を忘れて狩りに没頭していると、ロクサーヌのいつもの言葉が聞こえてきたため、杖と盾、それからズケットをアイテムボックスにしまい、自分に対して鑑定をかける。

 

田川 歩 男 18歳

英雄Lv50 勇者Lv24 遊び人Lv50 冒険者Lv41 魔道士LV39

装備 頑強のアルバ 身代わりの竜革グローブ オラクルビットローファー よりしろのイアリング

 

 昨日の午後と今日の早朝で勇者と遊び人が2。そして、冒険者と魔道士が1ずつ上がっていた。

 

 だが、遊び人のレベルが50に到達したというのに、上位ジョブが解放されていない。

 おそらく、獲得条件を満たしていないのだろう。

 

 うーん……。まあ、いま考察することじゃないか。

 

 思索を打ち切り、三人のレベルを確認したところ、ロクサーヌの巫女が24になっていた。

 オッケー、オッケー。順調、順調。

 

 そのことを伝え、四人で喜びを分かち合う。

 そして、それが済むとセリーが真剣な面持ちで提案を口にした。

 

「ご主人様、勇者、遊び人、魔道士のレベルが上がったのです。きっと、魔法攻撃力が大きく上昇したことでしょう。ハルバーの迷宮三十五階層から出現するスパイススパイダーは水魔法が弱点で、どの属性にも耐性はありません。一度そちらで戦ってみませんか?」

 

 へー。三十五階層はスパイススパイダーなのか。

 

「セリー、とても良い考えですね!」

 

 ロクサーヌは弾んだ声で同意を示し、尻尾をパタパタ振りながら俺の方へ視線を向けてくる。

 

「ご主人様、是非そうするべきではないでしょうか!」

 

 ロクサーヌのその言葉に、セリーとミリアも期待で瞳を輝かせながらこちらを見つめている。

 

 ……いまは英雄のジョブを外すため、そしてミリアが暗殺者を得るために、一刻も早くレベルを上げたい状況だ。

 それなら獲得経験値が増す、上の階層に進むというのはアリだろう。

 二ターンキルができない場合、時間当たりの経験値効率が落ちるのでこの階層に戻ることになるが、試すだけ試しておいた方がいいかもしれない。

 

 その旨を伝えたところ、三人から歓声が上がった。

 

 あのー、君たち? 二ターンキルが無理なら三十四階層に戻るんだよ?

 

「三十五階層の魔物ごとき、ご主人様の相手ではありません!」

 

 ロクサーヌの言葉にセリーとミリアも同意を示す。

 

「はい。きっと何の問題もないでしょう」

「ご主人様の魔法はすごいですからねー」

 

 俺の不安をよそに、お嬢様方のテンションはフルマックスだ。

 

 本当に分かってる? 駄目なら撤退だからね? ね?

 

 不安を抱きつつ、迷宮を出るための準備を始める。

 

 

 

 

 

田川 歩 男 18歳

冒険者Lv41 勇者Lv24 遊び人Lv50 英雄Lv50 魔道士LV39

装備 頑強のアルバ 身代わりの竜革グローブ オラクルビットローファー よりしろのイアリング

 

BP振分 残BP:26

キャラクター再設定:1

フィフスジョブ:15

必要経験値二十分の一:63

鑑定:1

ワープ:1

ジョブ設定:1

MP回復速度十倍:31

 

所持金:15,422,454ナール

 

春の71日目

  1. 目次
  2. 小説情報
  3. 縦書き
  4. しおりを挟む
  5. お気に入り登録
  6. 評価
  7. 感想
  8. ここすき
  9. 誤字
  10. よみあげ
  11. 閲覧設定

▲ページの一番上に飛ぶ
X(Twitter)で読了報告
感想を書く ※感想一覧
内容
0文字 10~5000文字
感想を書き込む前に 感想を投稿する際のガイドライン に違反していないか確認して下さい。
※展開予想はネタ潰しになるだけですので、感想欄ではご遠慮ください。