異世界迷宮へ行ったなら   作:三星織苑

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212 入会式

 

 

 

 

 

クーラタル郊外

アユムの家

 

 

 

 

 

 昨日の夕食を温め直し、手早く朝食を済ませる。

 すぐにロッジへ向かわなければならないため、食休みをとっている時間はない。

 

 歯磨きと後片付けを終えて玄関へ移動すると、見送りに来たロクサーヌが柔らかな笑みを浮かべながら口を開いた。

 

「ご主人様が戻られるまで、私たちは家の掃除をしていますね」

「はい。私とお姉ちゃんに任せてください」

 

 ミリアも両手をぎゅっと握りしめ、大きな瞳を輝かせながら気合い十分な様子で告げる。

 

 二人の可愛らしさに自然と口元が緩んでしまった。

 

「それじゃあ、お願いね。おそらく昼前には戻れると思うから、帰ったら食事にしよう」

 

 原作の描写をみるに、入会の儀式自体はそう長くかかるものではないはずだ。

 

 だが、自分の口にした言葉に引っかかりを覚える。

 

 そういえば、セリーの昼食はどうするんだ?

 

 彼女は今日、夕方までぶっ通しで調べものをする予定になっている。

 途中で水分補給や食事がいるよな?

 

 いや、待てよ? それを言うならミリアだって同じことが言える。

 堤の修復作業やドブさらい、植栽の植え付けといった重労働をこなすことになるわけだし、水分補給は必要だ。

 二人はパーティーのために労働をしてくれるわけだし、そのための費用は俺が負担するのが筋だろう。

 

 それに、ロクサーヌだって素材集めのために、ボスとの連戦をしてくれる。

 

 よし。三人におこづかいを渡しておこう。

 

 アイテムボックスから銀貨三十枚を取り出し、それぞれに渡そうとすると、皆一様に自分のお金があるから大丈夫だと遠慮の言葉を返してきた。

 だが、我がパーティーはホワイトを目指している。これは福利厚生の一環であり、彼女たちが健やかに活動していくための必要な費用だ。

 理由を話し、しっかりと納得してもらった上で、その手にしっかりと銀貨を握らせておく。

 

 三人が銀貨を大事そうにしまうのを確認し、改めて声を掛けた。

 

「それじゃあ、行ってくる」

 

 ロクサーヌとミリアが揃って美しい礼を執り、恭しく頭を下げる。

 その姿に見送られながら、俺とセリーはワープゲートへと足を踏み入れた。

 

 

 

 

帝都

帝国解放会ロッジ

 

 

 

 

 

 ワープゲートを抜けると、すぐにこちらに気が付いたセバスチャンと侍女服を纏った上品な女性が近寄ってくる。

 

「アユム様、セリー様。ようこそお越しくださいました」

 

 深々と頭を下げての出迎えにこちらも軽く会釈を返す。

 するとセバスチャンは恭しく姿勢を正し、静かに口を開いた。

 

「この者がセリー様を資料室へご案内いたします。セリー様、もし何か必要なものがございましたら、どうぞご遠慮なくお申し付けください。軽食やお飲み物、筆記用具もご用意できます」

 

 その言葉に呼応するように、隣の侍女も滑らかな所作で深く一礼をする。

 

 でも、お高いんでしょ?

 ここは帝宮の中にある施設なのだ。絶対に安いはずがない。

 

 そんな俺の胸中をよそに、セリーは待ちきれないといった様子で応じた。

 

「ありがとうございます。筆記用具は用意していますので、飲食が必要になったときにはお願いさせていただきます」

 

 そう言って彼女はこちらを見上げてくる。

 その顔にはパーティーのために情報収集を行う使命感と共に、隠し切れない期待が満ちていた。

 

 興奮しているのが一目瞭然だ。

 それがなんとも微笑ましく、見ているだけで胸の奥が温かくなってくる。

 

 ほんと、うちの娘たちは可愛いわぁ。

 

「ご主人様のお役に立てるよう、情報を調べてきます」

 

 セリーならきっと有用な情報を掴んでくれるに違いない。

 

「ああ。頼りにしている」

 

 短い言葉に込めた信頼をしっかり受け止めてくれたようで、彼女は嬉しそうに小さく頷いた。

 俺たちのやり取りを見届けた侍女が、柔らかい声色でセリーに声を掛ける。

 

「それでは、セリー様。ご案内いたします」

「はい。よろしくお願いします」

 

 簡潔なやり取りを交わし、セリーと侍女はこちらへ軽く頭を下げるとその場を後にした。

 

 

 

 彼女たちの姿を見送ったところで、心の中に不安が湧き上がる。

 

 これから執り行われる帝国解放会の入会式と、その後に行われる入会の儀式。

 

 問題は後者の方だ。

 新たに加わる会員は立会人たちの前で自らの性癖を告白しなければならないという、意味の分からない儀式が待ち受けている。

 しかも、ありきたりなものは全却下で、マニアックなカミングアウトが必須ときた。

 

 この田川歩、人様に引かれるような性癖は持ち合わせておらず、いたってノーマルでどこにでもいる凡人そのもの。

 はたして本当に入会できるんだろうか……。

 

 胸の内でため息をついていると、落ち着いた声が聞こえてきた。

 

「アユム様。それではあちらで入会式の参加者をお待ちしましょう」

 

 恭しく告げるセバスチャンに促され、長い廊下を進み、端にある重厚な扉の前へと向かう。

 

 

 

 扉の前に歩み寄ったその瞬間、まるで待ち構えていたかのように音を立てて外側へと開いた。

 

 そこから現れたのは帝国解放会の会長、エステル男爵。

 続いて、副会長を務める伯爵のブルーノ。

 

 鑑定の表示が男になっているということは人間族。

 鋭い目元に屈強な体つき。高階層で戦っている姿が容易に想像できる。

 立派な口ヒゲを蓄えているが、それと反比例した涼やかな頭髪にはシンパシーを感じてしまう。

 

 最後に姿を見せたのは、俺を推薦したハルツ公爵その人。

 

 迷宮攻略を目的とした組織という性質上そうなるのも当然なのだが、全員が爵位持ち。いやはや、緊張感がハンパない。

 まあ、原作の皇帝が混じっている状況よりはマシなんだけどね。

 

 そんな俺の内心など知る由もなく、エステルがこちらに気付き声を掛けてきた。

 

「おお。すでに来ていたのか。紹介しておこう、入会式の立会人を務めるブルーノだ」

 

 すると、いかつい男は一歩前へ出て、鋭い視線を真っ直ぐに突き刺してくる。

 

「ブルーノだ。ブロッケンから優秀だと聞いている。期待させてもらおう」

 

 うーん……。まあ、キャラクター再設定の下駄を履いた状態なら、優秀と言ってもいいかもしれない。

 

 それはともかく、エステルがタメ口で喋るように言っていたし、それに倣うべきだろう。

 

「アユムだ。こちらこそよろしく頼む」

 

 簡潔に返すと、ブルーノはわずかに顎を引いて応じる。

 そのやり取りを確認してから、エステルが話を進めた。

 

「詳しい話は後だ。さっそく部屋へ移動しよう」

 

 そう言うや否や、彼はすたすたと廊下を歩き始める。

 ブルーノも視線を一度こちらへ向けて、その背中を追った。

 

 残されたハルツ公は、楽しそうな表情を浮かべ朗らかな声音で口を開く。

 

「やはり余の見込んだ通り、問題なく合格したようだな。さすがアユム殿だ」

 

 そう言って、いつもの美形スマイルを発動させた。

 相変わらず神々しいほどの美しさで、嫉妬心すら湧かない。

 

「さあ、余らも参ろうではないか」

 

 悠然と歩みを進めるその背中を見ながら、心の中で小さく嘆息した。

 

 俺は原作知識があるおかげでこの後なにが行われるか知っているが、もう少し説明したらどうなんですかねぇ……。

 初見だったら不安になっているところだぞ。

 

 ツッコミをグッと飲み込み、セバスチャンに見送られながら彼らの後を追った。

 

 

 

 三階へと階段を上がり、人気のない静かな廊下を奥へ進む。

 突き当たりに構えられた扉の先には、白壁で大きな窓が設置された明るい部屋が見えた。

 

 しかし、窓以外は中央に置かれた一台のテーブルと、正面にあるもう一つの扉のみ。

 装飾と呼べるものは何一つなく、用途以外の無駄を徹底的に削ぎ落としたような空間だ。

 おそらく奥にある扉の先が入会式を行う場であり、ここはその控室といったところなのだろう。

 

 そのテーブルの上には、綺麗に畳まれた白い衣服が並べられている。

 視線を向けて鑑定を使用すると、頭の中に情報が浮かび上がった。

 

ダルマティカ 胴装備

 

 おお。これがダルマティカなのか。

 アルバより良い装備品らしいが、スロットが付いたものは一つもない。

 まあ、付いていたところで、帝国解放会の備品を譲ってくれるわけがないしな。

 

 そんなことを考えていると、エステルが一歩前に出て厳かな口調で話し出す。

 

「では、まずは入会式の規則に従い、会員三人以上の立会人が揃っていることを確認する。今回、立会人の一人を務めるエステルだ」

 

 続いて、他の二人が順に名乗りを上げる。

 

「ブルーノだ」

「ブロッケンだ」

 

 エステルは静かに頷くとテーブルに近づき、上に置かれたダルマティカを手に取った。

 

「うむ。立会人の人数を満たしていることが確認できた。これより、帝国解放会の入会式及び入会儀礼を執り行う」

 

 彼の声に重厚感があるせいで、妙な緊張感があるぞ。

 

「各自、このダルマティカを身に着けるのだ」

 

 促されるまま、俺たちもテーブルへ近づき、それぞれ衣服を手に取る。

 白を基調としたその服には、どこか品格のようなものが感じられた。

 

 儀礼用の服であり、魔道士が身に着けるランクの装備品だというバイアスのせいかもしれないけどさ。

 

「よし。では、隣の部屋へ移動しよう」

 

 エステルの言葉に従い、移動を開始する。

 

 

 

 隣室へと足を踏み入れると、すぐさま背後の扉が重々しく閉じられた。

 カチリと鍵がかかる音がして、反射的に振り返ってしまう。

 

 部屋の内部は薄暗く、壁の燭台に頼りない光を放つ蝋燭が二本揺れているのみ。

 窓はなく、外界とのつながりを断たれたような閉塞感。

 中央には白布をかけたテーブルがぽつんと据えられているだけで、他には何もない。

 秘密結社の儀式場そのものといった趣で、息苦しさすら覚える。

 

 そんな中、先にテーブルの奥側へと移動したエステルが静かに声をかけてきた。

 

「アユムは前に」

「はい」

 

 返事をして一歩進み、彼の正面に立つ。

 すると、ハルツ公も無言のままテーブルの側面へと歩を進めた。

 蝋燭の揺らめきが俺たちを照らし、その影が長く伸びる。

 

「これより、アユムの帝国解放会への入会式を執り行う。推薦人は推薦の辞を述べよ」

 

 重々しい口調で告げられると、ハルツ公は一歩前に出て朗々と語り始めた。

 

「帝国解放会会員である、わたくしブロッケンはアユムの類まれなる実力と確かな品性を認め、帝国解放会に相応しい人物であると強く推薦するものである。アユムとその仲間たちの力は、必ずや帝国内から迷宮や魔物を駆逐する原動力となるであろうことをここに断言する」

 

 言葉には一片の迷いもなく、その信頼の強さがひしひしと伝わってくる。

 誇張ではなく、本気で俺を買ってくれているのだろう。

 

 ぶっちゃけ、『俺なんかのどこを?』という思いがないわけでもないが、ロクサーヌたちは別として、生まれてこの方、他人にここまで信頼されたのが初めてなのでかなりグッときた。

 

 エステルは静かに頷くと改めて口を開く。

 

「アユムの実力はわたくしエステルが確かに確認した。この裁定に異議がある者は申し出よ」

 

 そう言って彼は場を見渡した。

 蝋燭の火がわずかに揺れるだけで、沈黙が流れる。

 

 まあ、ここまで来た段階でほとんど決まっており、この問いかけは形式的なものなのだろう。

 

「反対者がいないため、アユムの帝国解放会への入会を認める」

 

 よかった。まだデカいイベントが残っているものの、ここまでは順調だ。

 

「それでは、アユムは次の宣誓を復唱せよ」

「はい」

 

 その言葉を聞き、姿勢を正す。

 蝋燭の明かりが揺れるなか、エステルが荘厳な口調で言葉を紡ぐ。

 

「わたくしは帝国解放会会員として、努力と研鑽を怠らず、迷宮と魔物の駆除に邁進することを誓う」

「わたくしは帝国解放会会員として、努力と研鑽を怠らず、迷宮と魔物の駆除に邁進することを誓う」

「また、帝国解放会内部の情報を洩らさないことを誓う」

「また、帝国解放会内部の情報を洩らさないことを誓う」

 

 毎日迷宮へ入って魔物を狩りまくっているし、帝国解放会の情報どころか、自分の情報すら内密にしているのだ。

 宣誓するまでもなくどちらも実践しているし、今後もそれは変わらないだろう。

 

「入会式は以上だ。改めてアユムの帝国解放会への入会を歓迎する」

「ありがとうございます」

 

 短く礼を述べると、エステルは満足げに頷いてみせた。

 

「うむ。では、引き続き入会儀礼を執り行う」

 

 その言葉に思わず身構える。

 この後は原作でも印象的なエピソードである、例のアレだ。

 

「帝国解放会会員として生まれ変わるため、新会員には自らの性的な恥ずかしい秘密を懺悔してもらおう」

 

 ……ほら、きたよ。

 そもそも、会員として生まれ変わるのに、どうして性癖のカミングアウトが必要になるんですかねぇ……。

 

 何というか、ホモソーシャル的な匂いがプンプンするわ。

 こういう性的な秘密を共有して絆を深めよう、みたいなイベントって、男しかいない部活のノリだよな。

 

 あ、でも、女性が帝国解放会に入会した場合はどうなるんだ?

 女性にも性癖を語らせるのか? それともそのときは儀式はナシになる?

 

 いや、それ以前の問題として、そもそも女性会員って存在するのか?

 

 原作の描写でも、俺が実際に見た限りも、会員は男ばかりだ。

 そう考えると女人禁制の可能性は十分にある。

 

 もしそうだとするなら、帝国解放会は男だけの閉じた空間で築かれたホモソーシャル的な組織ってことになるぞ……。

 

 

 

 考え込んでいると、エステルが説明を続ける。

 

「なお、会員の情報を漏らすことは重大な規則違反となるため、ここで交わした会話が外部へ伝わることは絶対にない。安心して懺悔をするといい」

 

 それだと内部の人には伝わると言っている気がするんですが……。

 

「ああ。それから推薦人であるブロッケンについては、関係が近すぎて目の前では語り難いこともあるだろう。希望すれば席を外させることも可能だが、どうする?」

 

 うーん……。

 正直、ハルツ公が居ようが居まいが、さして違いはない。

 人に言えないような特殊過ぎる性癖を持っているわけじゃないし、問題ないだろう。

 

「公爵閣下が同席されていても、こちらは何も問題ない」

 

 そう口にした瞬間だった。

 

「アユム殿、待つがよい」

 

 公爵からちょっと待ったコールが飛んでくる。

 

「その方はすでに帝国解放会の正式な会員となったのだ。ならば、余のこともブロッケンと呼ぶのが筋であろう。ついでに言葉遣いもくだけたものに変えるがよい」

 

 ええ……。マジで?

 

 戸惑っていると、彼は笑みを浮かべながらこちらを見つめていた。

 

「どうした? 早く呼んでみよ」

 

 どうしてこの人、こんなにノリノリなんだろう……。

 

 しかし、いつまでも無視をするというわけにもいかないため、意を決して口を開く。

 

「分かった。ブロッケン、これまでなにかと世話になった。改めて、これからもよろしく頼む」

「うむ。アユム殿であればすぐにでも迷宮討伐を成し遂げるであろう。そのときは悪いようにはせぬゆえ、すべて余に任せるがよい」

 

 え? あ、はい。

 

 ……完全に俺を派閥に取り込むつもりだなぁ。

 

 いや、まあ、寄らば大樹の陰。

 高位貴族の公爵であり、話によると始まりの五公爵とかいう特殊な立場らしいし、傘下に入れてくれるってんなら、喜んで取り込まれてやるさ。

 

 オヤビン。これからもオヤビンのために身を粉にして働くでヤンスから、オイラを守ってほしいでヤンス。

 

 

 

 

 

田川 歩 男 18歳

冒険者Lv41 勇者Lv24 遊び人Lv50 英雄Lv50 魔道士LV39

装備 ダルマティカ オラクルビットローファー 身代わりのミサンガ

 

BP振分 残BP:26

キャラクター再設定:1

フィフスジョブ:15

必要経験値二十分の一:63

鑑定:1

ワープ:1

ジョブ設定:1

MP回復速度十倍:31

 

所持金:15,422,454ナール

 

春の71日目




いつも拙作をお読みいただき本当にありがとうございます。

毎回更新を続けていられるのは、お読みいただいている皆様と素晴らしい作品を生み出した原作者様のおかげです。
また、UA、お気に入り、感想、評価、ここすきといった反応が本当にモチベーションになっています。

そこで、八月も終わりに近づいていますが夏季の連続更新を行います。
お楽しみいただければ幸いです。
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