異世界迷宮へ行ったなら   作:三星織苑

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213 入会儀礼

 

 

 

 

 

帝都

帝国解放会ロッジ

 

 

 

 

 

 俺とハルツ公のやり取りが済むと、エステルが話を進める。

 

「では、このまま懺悔を行なってもらおう。立会人は決して茶化したりせず、誠意をもって拝聴するように。ただし、懺悔の内容が不十分だと判断した場合は容赦なく追及するといい。では、始めよ」

 

 と言われてもなぁ。

 俺はいたってノーマルな性癖しか持ち合わせていない、どこにでもいる凡人だぞ?

 果たして彼らが納得するような懺悔ができるのかどうか……。

 

「えーっと、あらかじめ断っておくが、俺に特殊な性癖はない」

 

 その瞬間、三人の顔に落胆の色が広がった。

 期待外れだと言わんばかりの、あからさまな拍子抜けした表情だ。

 

 そしてエステルが、授業中に当てたのに答えられずモジモジしている生徒を見下ろす教師のような目で見つめながら、促してくる。

 

「それでは話にならん。まずは普段行なっている性的な行為から語ってみよ」

 

 普段のプレイ? 本当に普通のことしかしていないんだが……。

 

「分かった。えーっと、俺はとにかくキスが好きだ。どのくらい好きかと言うと、できることなら、一日中でもパーティーメンバーと唇を重ねながら過ごしていたいくらい好きだ。あの娘たちと舌を絡め合っている時間は、自分が世界で一番幸せな男だと実感できる」

 

 キスの気持ち良さを知らずに生きてきた四十五年分の損失を取り戻す勢いで、キスしまくってるもんなぁ。

 我ながら完全に箍が外れている。

 

「それから前戯はしっかり時間をかける主義だ。俺は『かわいそうなのは抜けない党』の『イチャラブ派』に属している。自分だけ気持ちよければいい、なんてのは流儀に反するからな。挿入はトロットロに蕩かせてからがセオリー」

 

 経験が少ないせいで拙いテクニックだが、彼女たちにも喜んでもらいたい。

 

「最近特にお気に入りなのは、寝そべった状態で左右から二人に耳を舐められたり、熱い吐息を吹きかけられたり、言葉責めをされたりしながら手で乳首をイジってもらい、下の方ではパイズリをしてもらうというプレイだ。あれは極上の快楽で本当に頭がおかしくなってしまいそうになる。それから、好きな体位は相手をダイレクトに感じられる対面座位と、自分のすべてを委ねることのできる騎乗位。いや、もちろん正常位やバックのような他の体位も好きだぞ? あくまでも特に好きな体位ということだ」

 

 自分で言っておいてなんだが、なんともインパクトに欠ける内容である。

 きっと温いと思われているだろう。

 

「ああ、そうそう。俺は昔からイメクラに憧れがあってな。もちろんソープやヘルスにも行ってみたいと思っていたが、やはりイメクラに対する憧れは強かった。まだやったことはないんだが、いつかお願いしようと思い、時間を見つけては台本を書いている」

 

 それを叶えるため、服屋に頼んで衣装を用意しなくては!

 

「いくつかあるんだが、まずはオーソドックスなパターン。俺が怪我をして寝込んでいるところを看病してもらうというシチュエーション。体を拭いてもらっているときに逸物を大きくしてしまい、『アユムさん、こんなになってしまって……。自分で処理することができないですものね……。私がお手伝いいたしましょうか?』と問いかけられて、お願いすると恥じらいながら面倒をみてくれるってやつ」

 

 やはりナースは鉄板だろう。

 

「それから、おねショタ系で、何も知らない無垢な少年である俺に、家庭教師のお姉さんが色々なことを教えてくれるシチュエーション。さらに一歩進んで、赤ちゃんである俺の面倒をみてもらうというパターン。このとき絶対にやってほしいのが授乳手コキ。これはすべての男が憧れていると言っても過言ではないだろう」

 

 他にもいくつかのアイデアを話していく。

 

 魔法少女の魔力を回復するために性交をお願いされるシチュエーション。

 遠洋漁業の漁師として長らく家を空けており、久しぶりに家へ戻って激しく求めあうパターン。

 それから、くたびれた中年教師をからかう女子高生に、おっさんを馬鹿にするメスガキ。婚約者がいて結婚間近の俺を誘惑する会社の後輩なんてのもある。

 逆に、サッカー部のエースである俺が、彼氏のいるマネージャーの身も心も奪うパターンや、体育教師になって野球部のエースの幼馴染である女の子に手を出し、必死に練習している最中に体育倉庫で堕とすシチュエーション。イケメンチャラ男になって人妻をナンパするやつ。

 

「あ、誤解しないでもらいたいのだが、寝取りや寝取られ、寝取らせといった性癖は持ち合わせていない。あくまでもプレイとしてのシチュエーションであり、現実ではないからこその楽しみだ。あの娘たちに手を出そうとする者は、誰であろうと容赦はしない」

 

 男、田川。大切な女性へ手を出そうとする者は、誰であっても容赦はせぬ。

 

 寝取られ。ダメ。ゼッタイ。

 

 

 

 他にはそうだなぁ……。

 

「一応、ほんの少しだけSっ気があって、愛撫をしながら言葉責めをするのが好きだったり、指に付着した愛液を相手と一緒に舐めるのが好きだったりする。だが、愛する女性に苦痛を与えたり、辱めたりすることはできそうもないし、本当にほんの少しだけだ」

 

 恥ずかしがりながら一緒に指を舐めてくれるのがたまんないんだな、これが。

 

「それと、Mっ気があることを否定するのは難しいと思わなくもないかもしれない。とは言っても、言葉責めや足コキ、乳首責めや顔面騎乗、顔に唾を垂らしていただいたり、飲ませていただけるのが好きなくらいで、あくまでも通常のプレイの範囲内であり、しいて言うならというレベルだし、最大限譲歩してもノーマル寄りのソフトMだろう」

 

 えーっと、あとは何かあったか?

 

「一応言っておくが、スカトロ系はムリムリムリムリかたつむりだぞ? 小水を浴びるくらいならやぶさかではないが、飲んだり、ましてや大きい方を用いるのは絶対NGで」

 

 うーん……。やっぱり俺は凡人だ。

 AVでいうならデビューしたての単体清純派女優がやるようなプレイしかしていない。

 

 

 

「なん……だと……」

 

 どうしたら彼らを納得させられるかと思い悩んでいると、不意に、空気を揺らすような低い声が耳に届く。

 

 その声が聞こえてきた方に視線を遣ると、ブルーノが大きく目を見開き、硬直したような表情でこちらを凝視していた。

 

 ……いや、怖いって。

 

 ブルーノだけではなく、二人も驚愕の様子で見つめている。

 そして、エステルが恐る恐る尋ねてきた。

 

「その方の相手とは、試験に同行していた三名だろう? あれほど美しい女性たちとそのような行為をしているのか?」

「ん? ああ。まあ、そうだな」

 

 それを聞いたブルーノは、しっとマスクに変身しそうな表情で隣のハルツ公に問いかける。

 

「……そんなに美しいのか?」

「うむ。余の妻室であるカシアには及ばぬが、帝国でも指折りの美しさであろう」

 

 ちょっと待て。その言葉は聞き捨てならない。

 カシアも確かに美しいが、俺の妻たちの方が上だから。

 しかも、彼女たちは美しいだけではなく、愛嬌があって、能力もあって、性格も良くて、声も最高なんですけど?

 

「くっ!」

 

 内心で言い返していると、ブルーノが声を発する。

 

「ぐ、ぎぎぎ……。まだだ! この程度では、まだ認めるわけにはいかぬ!」

 

 えぇ……。なんかこの人、判定に私情が混じっている気がするんですが……。

 

 帝国解放会の副会長という要職に就けるくらい有能なんだし、きっとモテるはず。

 それに貴族の中でも上位の爵位である伯爵ともなれば、跡継ぎをこさえなければならないだろう。

 それなのに、どうしてこんなに童貞っぽいリアクションを取るんだ?

 

 ……いや、まさかとは思うけど、本当に未経験だったりする?

 

 その可能性が頭をよぎった瞬間、哀愁のある頭部の件も含めて、胸の奥から言い知れぬ感情が湧き上がってくる。

 

もしかしたらブルーノ……。

お前とオレが……。

逆だったかもしれねェ……。

 

 

 

 自分と彼の人生に想いを馳せていると、エステルが場を仕切り直すように口を開いた。

 

「我は十分だと思うのだが、立会人の一人が納得していない様子だ。他に何かないのか?」

 

 十分? 特殊性癖の告白はしてないぞ?

 

 疑問を覚えたものの、今は深く考えないことにする。問題はこの状況をどう切り抜けるかだ。

 

 ネタ、ネタ……。

 何かいいネタはないもんか……。

 

 

 

 ……あっ。そうだ。

 

 考え込んでいると、良いことを思いついた。

 

 よし。ちょうどいい機会だ。ここは将来のために布石を打っておこう。

 

 そう考え、立会人の三人をゆっくりと見渡してから口を開く。

 

「人間族の種族固有ジョブである色魔については広く知られているだろう。だが、その上位ジョブについて、何か知っているか?」

 

 突然の話題転換に三人は怪訝な表情を浮かべていたが、ハルツ公が問いに答えた。

 

「性豪であろう。欲望を蓄積し、それを濃縮した上で放つ断欲攻撃は高階層のボスにも大きなダメージを与えると聞く」

 

 へー。色魔の上位ジョブは性豪っていうのか。

 それに、欲望を濃縮して放つ断欲攻撃ねぇ。

 

 だが、こんな風に知られているということは、この性豪ってジョブに他種族との間に子供ができるようなスキルはないのだろう。

 一般に知られているジョブに、もしそんなスキルがあるのなら、種族が異なれば絶対に子供ができない、という話にはなっていないはず。

 

「うむ。では、そのさらに上位のジョブについては?」

 

 再び問いを投げかけると、三人の目が揃って大きく見開かれる。

 ブルーノが思わずといった様子で低く呟いた。

 

「性豪よりさらに上のジョブがあるというのか? そのような話は聞いたことがないぞ……」

 

 おそらく過去にそのジョブへ到達した者が存在しないのだろう。

 だからこそ、その未踏の領域に可能性を見出せる。俺とロクサーヌの、いやあの娘たちとの間に子供ができるかもしれない可能性が。

 

 だが、もしそうなった場合、絶対に彼女たちの不貞を疑われてしまう。

 それを回避するためにも、ここで布石を打っておかなければ。

 

「ジョブの名称は失われているのだが、俺の故郷では性豪のさらに上のジョブには、他種族との間に子を成すことのできるスキルがあると知られていた」

「なんだと!? それは本当なのか!?」

 

 それを聞いたブルーノから大きな声が上がった。

 その声色には興奮と驚愕がない交ぜになっている。

 

 彼の視線を受け止め、静かにうなずく。

 

 ただの予想にすぎないが、絶対にそうだと信じている。嘘を吐いているわけではない。

 

「ああ。そしてここからが本題だ」

 

 そう告げると、誰かが唾を飲む音が響いた。

 

「俺には夢がある。大切な女性たちと家庭を築き、子を授かり、共に笑って過ごすという小さな、そしてとても大きな夢が。それを叶えるため、俺はどんなことがあっても性豪の先へ至ってみせる」

 

 その宣言が暗い空間へと染み込み、場にしばしの沈黙が降りる。

 

 やがて、その静けさを破ったのは、ブルーノの低く絞り出すような呟きだった。

 

「なんという男だ……。これが、これこそが本物の男というものなのか……」

 

 その目には、先ほどまでの嫉妬心や猜疑心は見当たらない。

 あるのは、ただ、敬意。圧倒的、敬意。

 

 俺の矜持に心を揺さぶられた、同じ男としての純粋な感情。

 

「分かった……。アユムの入会を認めよう」

 

 その言葉が静かに、しかし確かに場へ刻まれた。

 

 どうやら魂から湧き出た言葉は、しっかり彼の心へ届いたらしい。

 

 

 

 感動に打ち震えているブルーノとは対照的に、エステルとハルツ公の顔には白けたような表情が浮かんでいる。

 

 まあ、無理もない。

 彼らは狼人族とエルフ。人間族の種族固有ジョブである色魔や、その最上位ジョブの話をされたところで反応に困るだろう。

 

 場の空気を引き締め直すように軽く咳払いをすると二人と頷き合い、エステルは改まった口調で宣言を下した。

 

「よく分からん話も多数あったが、まあよしとしておこう。立会人三名の全会一致により、アユムの帝国解放会への入会は承認された。これからの活躍を心より期待している」

 

 これで正真正銘、帝国解放会の会員となったわけか。

 重要なイベントを乗り越えたという実感と共に、胸の奥からじんわりと達成感が湧き上がってくる。

 

「それから、改めて挨拶しておこう。帝国解放会会長のエステルだ」

 

 視線で促されたブルーノも口を開く。

 

「副会長のブルーノだ。何かあれば俺に言うといい。そのときは力になろう」

 

 おお。ありがとう、心の友よ。

 

 俺たちが頷きを交わし合っていると、エステルは厳かに説明を始めた。

 

「三十三階層の試験による合格のため、アユムは第一位階の会員となる。ただし、この位階は正規会員ではなく、仮入会のようなものだ。二十年以内に四十四階層を突破できなければ会員資格を剥奪されるので、十分に注意せよ」

 

 まあ、夏の間に迷宮を撃破しようと思っていたので、その条件なら何の問題もない。

 

「次に、四十四階層を突破し、四十五階層での戦闘が可能であると判断されれば、第二位階へ昇格する。ここからは正規会員として扱われ、規約違反による処分を除けば、原則として会員資格を失うことはない」

 

 へー。つまり、四十五階層でどれだけ足踏みしようが、ずっと会員でいられるのか。

 

「そして、迷宮討伐を達成した者は第三位階に昇格だ。これが最上位の位階となり、それに伴い権利と義務も生じる。たとえば会員候補の推薦が可能になるほか、帝国解放会の運営にも関われるようになるといった権利だな」

 

 それって権利と言えるのかね? 仕事を押し付けられそうで微妙なところだぞ。

 

「また、義務の方は毎年冬に行われる会員総会への出席や、入会試験の試験官を担当したり、入会式の立会人を務めるなどが挙げられる」

 

 なるほど……。第三位階はプレイヤーではなく、マネージャー。もしくは、プレイングマネージャーとしての働きを求められるってことか。

 

 

 

 その後、帝国解放会の会員同士が互いを見分けるためのハンドサインを教わった。

 身体の前で手を交差し、左手の手のひらを右の二の腕の裏に当てる動き。

 外部の者には意味が分からない簡潔な合図だ。

 これさえ覚えておけば、会員同士はすぐに仲間だと理解でき、迷宮内や緊急時であっても帰属意識から何らかの配慮を受けられるだろう。

 それに俺だっていずれは自分の派閥を作るため、有望そうな者を勧誘することがあるかもしれない。

 柄ではないが、彼女たちを守るため立場を強固なものにする必要がある。

 その場合、このハンドサインは単なる合図以上の価値を持つ。

 ただし、みだりに使うことはまかりならんと釘を刺されてしまった。おそらく誰でも彼でも使用していたら、そのしぐさに何らかの意味があるとバレてしまうのだろう。

 

 また、会員総会が毎年冬に開かれること、その開催時期や場所についての説明を受けた。

 第一位階と第二位階の会員には出席義務こそないが、できる限り顔を出してほしいとのことだ。

 日本にいたころの俺なら、間違いなくバックレてるだろう。

 しかし、出席することは人脈作りにも直結するし、そこで得られる情報も少なくないはず。

 それに冬までに迷宮を撃破し、第三位階に至っている可能性が高いため、強制参加な気がするぞ。

 

 さらに、攻略予定の迷宮があれば会へ報告しておくのが望ましいと教えられた。

 そうしておけば、いざ討伐を果たした際に、叙爵の申請や承認といった手続きがスムーズに運ぶのだという。

 

 ふと、疑問が浮かぶ。

 これ、バッティングした場合はどうなるのかね?

 たとえば、原作でエルフが総力を挙げて攻略しようとしていたネスコの迷宮。

 あそこを俺も狙っていると告げたら、それは認められて早い者勝ちになったりするのか?

 

 ……いや。おそらくは会員同士の力関係によって調整されるんだろう。

 その場合、きっと俺の方が別の迷宮を勧められるに違いない。

 

 

 

「帝国解放会の説明については以上だ。何か質問はあるか?」

 

 ひと通りの説明を終えたエステルは、こちらをジッと見据えてそう問いかけてきた。

 

 質問か……。何かあったかなぁ……。

 

 あっ、そうだ。気になっていたことがあった。せっかくだし、この機会に聞いておこう。

 

「全然関係ないことかもしれないが、質問してもいいか?」

「ああ。かまわない」

 

 頷きを返すエステルに向かって疑問をぶつける。

 

「先ほどの儀式についてなのだが、あれは女性が入会する場合でも同じことをやらせるのか? それとも女性会員自体がいないのか?」

 

 一瞬、彼の顔に虚を突かれたような表情が浮ぶ。

 しかし、すぐにすぐに平静を取り戻し、落ち着いた口調で答えた。

 

「いや。この男性部会とは別に女性部会も存在しており、女性会員の勧誘や儀式はそちらで行われている。今後、このロッジや総会の際に顔を合わせる機会もあるだろう」

 

 へー。男女で部会が分かれているのか。

 あ、でも、それだとロクサーヌたちはどう扱われるんだ?

 

「男女混成のパーティーの場合、それぞれ別の部会に所属することになるのか?」

「いや。その場合、代表者の性別によって所属する部会が決定される。我のパーティーも男女混成ではあるが、女性メンバーもすべて男性部会所属となっている」

 

 なるほど。ボーカルの性別によって組み分けが決まる、紅白歌合戦方式ってことね。

 

 納得していると、再度問いかけてきた。

 

「他に何かあるか?」

「いや、特にない」

「うむ。これをもって入会式及び入会儀礼は終了となる。それでは隣の部屋で乾杯を執り行おう」

 

 隣の部屋? 会議室じゃないのか……。

 

 疑問を覚えていると重厚な扉が静かに開かれ、外から柔らかな光が差し込んできた。

 眩しさに抗うため、暗がりに慣れていた目を細めてしまう。

 視界が徐々に明瞭さを取り戻したところで、そのまま足を進め隣室へと移動する。

 

 そこでは既にセバスチャンと侍女が控えており、まるで舞台役者のように完璧な姿勢を披露していた。

 

「アユム様。帝国解放会へのご入会、誠におめでとうございます。心より歓迎申し上げます」

 

 歓迎の言葉をもらいつつ、各々が身に着けていたダルマティカをメイド服の女性が回収して回る。

 そして、彼女が部屋を出たところでテーブルに近づくよう促された。

 彼ら三人と俺で向き合うように立つと、セバスチャンがそれぞれの前に高級そうな壺を配置する。

 俺の前に二つ。彼らの前にはそれぞれ一つずつだ。

 

「新会員にはドワーフ殺しかシュタルクセルツァーを選ばせるのだが、アユムは酒が飲めないということなのでシュタルクセルツァーだ。ドワーフ殺しは持ち帰り、酒が好きな者に渡すといい」

 

 エステルがそう言うと、三人は目の前の壺を手に取った。

 

 ドワーフ殺しか……。

 三度も蒸留している酒を水として飲むほどの酒豪である、あのセリーが酔うほどの強烈な酒精だ。俺なら一口でアウトだろう。

 間違えないように気を付けなければ。

 

 対して、シュタルクセルツァーは炭酸水だったよな。

 こいつがあればサイダーやレモンスカッシュ、それにコーラだって作れるようになる。あとで購入先を教えてもらおう。

 

 セバスチャンに確認しながらシュタルクセルツァーの壺を手に取ったところで、ハルツ公がニヤリと笑みを浮かべながら声を掛けてきた。

 

「アユム殿、入会祝いの乾杯では、飲む前に壺を力いっぱい振るのが正式な作法だ。それに従うようにな」

 

 すると、ブルーノもそれに乗っかってくる。

 

「うむ。それと一気に飲み干すのも伝統となっている。こちらも忘れないように」

 

 こいつら鬼かよ……。

 せんせー。このクラスにはいじめがありまーす。

 

 三対の視線がじっと俺に注がれている。

 こうなっては、やらないわけにはいかない。

 覚悟を決め、両手で壺を握りしめ、上下左右へと勢いよく振り回す。

 

 これ絶対吹き出しますやん……。

 いっそ口を奴らの方へ向けてやろうか。

 

 俺の動きを確認した会長様が満足げにうなずき、乾杯の音頭をとる。

 

「では、アユムの入会とこれからの活躍を願って、乾杯」

 

 掛け声と同時に、全員が一斉にコルク栓を引き抜く。

 次の瞬間、予想通り俺の壺から勢いよく液体が噴き出した。

 

「うおっ!」

 

 慌てて口をつけ、あふれる炭酸水を可能な限り飲み込んでいく。

 やがて噴き出す勢いが収まり、そこからはラッパ飲みで残りを処理する。

 

 結構強めの炭酸だ。しかし、炭酸飲料に慣れた現代人にとっては、この程度の刺激はなんでもない。

 むしろ気になるのは、温くて味がまったくしないことだ。

 

 

 

 飲み終えて壺をテーブルに戻すと、三人は期待外れだと言いたげな表情を浮かべている。

 

「なんだ、アユムはシュタルクセルツァーを知っていたのか」

 

 エステルのつまらなそうな顔に対し、軽く肩をすくめて答えた。

 

「まあな。俺の故郷にも同じものがあって懐かしさを覚えた。ところで、これはどこで入手できるのだ?」

 

 うちの娘たちにも是非炭酸飲料を飲んでもらいたい。

 

 問いかけると、セバスチャンが一歩前に出て、落ち着いた声で答える。

 

「当ロッジでも取り扱っております。お求めであればお声掛けください」

 

 きっとこのロッジで購入した場合、かなりのマージンが乗っているはず。

 でもまあ、他を探すのも手間だし、割高でもここで購入させてもらおう。

 

 テーブルの向こう側にいた三人も壺をテーブルに戻し、こちらへ声を掛けた。

 

「では、我らはこれで失礼する。繰り返しになるが、アユムの活躍を期待している」

 

 エステルの言葉に頷きながら、ブルーノも口を開く。

 

「うむ。その方の野望についても期待しているぞ。是非伝説を目撃させてくれ」

「ああ。もちろんだ。どれだけ時間がかかっても、必ず夢を実現させるとここに宣言しておこう」

 

 ロクサーヌたちとの間に子供ができたら、この男はきっと味方になってくれる。

 男と男の約束を絶対に果たしてやるとも。

 

 二人が部屋を後にすると、ハルツ公が告げる。

 

「やはり、余の目に狂いはなかった。アユム殿はすぐにでも第三位階へと至るであろう」

「それもこれも閣下のおかげです。勧誘いただき感謝いたします」

「いや。余にも利益があってのことゆえ、気にする必要はない」

 

 まあ、俺を派閥に取り込むつもりなんだから、そりゃそうだ。

 

「それと、関係者だけの場では先ほどの口調で話すがよい。帝国解放会の会員たるもの、身分の壁に囚われてはならぬぞ」

 

 普段から面倒な口調の切り替えをやっているというのに、さらに追加されるわけか……。

 

「分かった。今後は気を付けよう」

「うむ。それでよい」

 

 彼は満足げに頷くと、さらに話を続ける。

 

「無事、帝国解放会への入会を果たしたのだ。明日はいつもの時間に顔を出してもらえるか?」

 

 うん? どういうことだ?

 

 原作では帝国解放会の翌日に祝宴を開くので、日が暮れたらボーデの宮城に来るように言われていた。

 そして、時間通りに訪れると、セ二号作戦が発動してセルマー伯爵家への襲撃が開始される。

 

 だが、いつもの時間ってことは朝だし、襲撃には不向きだろう。

 それに、この短期間で帝国側や全エルフ最高代表者会議への根回しが終わっているとも思えない。

 

 ……セ二号作戦の進捗状況を伝えるつもりなのかね?

 

 まあいい。とりあえず、返事をしておこう。

 

「承知した。いつもの時間にうかがおう」

「うむ。では、よろしく頼む」

 

 そう言い残し、ハルツ公は優雅な足取りで部屋を後にした。

 

 明日になれば分かることだ。あまり気にしないでおこう。

 

 

 

 

 

田川 歩 男 18歳

冒険者Lv41 勇者Lv24 遊び人Lv50 英雄Lv50 魔道士LV39

装備 オラクルビットローファー 身代わりのミサンガ

 

BP振分 残BP:26

キャラクター再設定:1

フィフスジョブ:15

必要経験値二十分の一:63

鑑定:1

ワープ:1

ジョブ設定:1

MP回復速度十倍:31

 

所持金:15,422,454ナール

 

春の71日目

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