異世界迷宮へ行ったなら   作:三星織苑

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216 戦力強化

 

 

 

 

 

クーラタル郊外

アユムの家

 

 

 

 

 

 目を覚まして身支度を整えると、いつものようにリビングで段取りを確認だ。

 

 まずは給金を支給し、この五日間の働きを労う。

 昨日のバイト代でセリーの所持金が一万ナールを超えていたらしく、金貨に両替しておいた。

 

 さて、今日は予定が盛りだくさん。

 まずはスリープウールを十個集め、それが済み次第、いよいよ三十五階層の探索を開始する。

 本格的にレベルを上げる必要も出てきたし、二ターンキルができるといいのだが……。

 

 そしてもう一つ。昨日、検討していた遊び人の上位ジョブを目指す計画について、彼女たちに相談しよう。

 

「ゴスラー殿のパーティーがハルバーの迷宮を討伐するのは、夏の十日目前後だと思われる。何が何でも彼より先に討伐したいわけじゃないけど、チャンスがあるなら狙ってみたい」

 

 三人は真剣な表情で耳を傾けている。

 

「ただ、残された期間は三十日ほど。今のままではレベル上げが間に合わないだろう」

 

 ロクサーヌが反論しようと身じろぎをしたが、手のひらを向けて制し、考えていたアイデアを告げた。

 

 

 

 一通り説明を終えると、ロクサーヌは怖いくらいに真剣な表情で呟きを漏らす。

 

「遊び人の上位ジョブですか……。ただでさえ圧倒的な能力を誇るのです。その上位となれば、一体どれほど強力なのか想像もつきません」

 

 セリーは瞳を好奇心で輝かせながらそれに続く。

 

「そうですね。遊び人と同じスキルを持っていた場合、魔法を四発同時に放ったり、攻撃スキルを四つ重ねることができる可能性もあります」

 

 ほんまそれよ。ワシもそれを期待しとるんよ。

 

 無邪気な笑みを浮かべたミリアが、問いかけてくる。

 

「なんだかすごいですねー。ご主人様はどこまで強くなっちゃうんですか?」

 

 さあ? システム次第かなぁ。

 

 

 

 遊び人の上位ジョブ談義が一段落すると、ロクサーヌが改めて口を開いた。

 

「戦士や剣士の上位ジョブである武者や剣豪には強力な攻撃スキルがあると聞きます。そのスキルでトリプルアタックを放てば、高階層のボスでさえご主人様の敵ではなくなるでしょう」

 

 確かに攻撃倍率次第ではとんでも火力を叩き出しそうだ。

 

 頷きながらセリーも提案を行う。

 

「それに加え、薬草採取士のレベルも早めにあげておきたいですね。滋養錠や強壮錠、それに万金丹が作れるのは大きいです。さらに、薬師になればエリクシールや自爆玉、ドープ薬の生成も可能となりますから」

 

 そうだな。自前で高価な薬を用意できるのは、圧倒的なアドバンテージとなるだろう。

 

「ご主人様、どのジョブのレベルから上げていくんですか?」

 

 ミリアがコテンと首を傾げ、大きな瞳でこちらを見つめながら問いかけてきた。

 ほんと、あざと可愛い娘だなぁ。

 

「現状、ポイントに余裕がないからフィフスジョブまでしか付けられない。そして、冒険者、勇者、遊び人、魔道士を外すわけにはいかないから、外すなら英雄ということになる。でもそれだと魔法の威力が大きく下がる」

 

 その言葉に三人が揃って頷きを返す。

 

「だから、知力小上昇を持ち、レベルが30になっている商人を付けようと思う」

「なるほど。英雄を外すとなると、それしかありませんね」

 

 ロクサーヌが納得したように頷いた。

 

「うん。商人のレベルが50になれば、別の知力が上がるジョブを順次上げていこう。ファーストジョブに設定しているもののレベルが上がっていけば、いずれ六つのジョブを設定できるようになるはずだ」

 

 方針が定まったところで再び一日の予定へと話を戻す。

 

 早朝の探索を終えたらハルツ公に呼ばれているため、三人が朝食を整えている間にボーデの宮城へ顔を出さねばならない。

 食事と食休みをとったら武器屋と防具屋を巡って掘り出し物を探す。

 その後は帝都の高級服屋でミリアのドレスを仕立てよう。

 きっと長丁場になるだろうから、俺はその間にクーラタルの商人ギルドでスキル結晶の受け取りだ。

 そして、注文が済んだらボーデのコハク商でネックレスを購入し、昼近くに皆で食事。午後はいつも通りの探索っと。

 

 よし。今日も一日がんばろー。バンガロー。

 

 

 

 玄関へ三人を待ちながら、今度はボーナスポイントの振り分けとジョブの変更を行うことにした。

 

 最初はスリープシープ集めなので遊び人、勇者、冒険者、戦士、剣士の布陣で臨むことにする。

 昨日のうちで遊び人のスキルと効果はラッシュと腕力大上昇に変えているため、再設定時間を気にすることなく、雑魚狩り用に変えることが可能。

 実にナイスな段取りだ。我ながら感心しちゃうね。

 

 次はポイントの振り分けに移る。

 ジョブ設定と結晶化促進を入れ替えると、キャラクター再設定で1、フィフスジョブで15、詠唱省略で3、必要経験値二十分の一で63、鑑定で1、ワープで1、MP回復速度二十倍で63、そして結晶化促進二倍で1、合計148

 よし、ピッタリ。ホールインワン賞で世界一周旅行のプレゼントだ。

 これなら待機部屋でMP回復速度二十倍をアクセサリー六に変えるだけで済む。

 

 手際の良さに自画自賛していると、ロクサーヌ、セリー、ミリアも二階から下りてきた。

 

「ご主人様、お待たせいたしました」

「大丈夫。全然待ってないよ」

 

 ロクサーヌの言葉に返事をして、彼女たちが靴を履き替えたら準備完了。

 

 オーシ! 出ッ発すっぞ!

 

 

 

 

 

ハルバーの迷宮三十四階層

ボス部屋

 

 

 

 

 

 おっ。二つ残ったか。

 

 スリープシープを倒したところでドロップアイテムを確認すると、床にスリープウールが二つ転がっている。

 九個集まっていたから、これで十一個。

 昨日とは違いオーバーホエルミングを使用しているため、俺の体感はともかく、短時間で集めることができた。うん、実に順調。

 

 それじゃあ、雑魚狩りの用意だな。

 

 まずはジョブを遊び人、勇者、冒険者、魔道士、商人に入れ替え、アクセサリー六と獲得経験値二十倍に変更。

 さらに、遊び人のスキルを中級水魔法、効果を知力大上昇に設定しておく。

 二階層下のハーフハーブより、三十五階層から出現するスパイススパイダーの方がエンカウントする確率が高いはず。

 それなら、スパイススパイダーの弱点である水魔法のダブルアタックを撃てるようにしておいた方がいい。

 

 そして、貫通のオリハルコン剣をアイテムボックスに納め、ひもろぎのカッカラとダマスカス鋼の盾、そしてよりしろのイアリングを装備した。

 

 よし、それじゃあブリーフィングといこう。

 

「セリー、スパイススパイダーについて教えてくれ」

「かしこまりました」

 

 彼女は一つ頷き、説明を始める。

 

「スパイススパイダーは人の体より大きな蜘蛛で、壁や天井を縦横無尽に移動します。また、糸を吐き出して相手を封じるほか、その糸を利用して立体的な動きを行うことも可能です」

 

 マジ? 今までペッパーを手に入れるためにスパイススパイダーを狩っていたが、そんな動きをしているのを見たことがないぞ?

 

 ん? ああ、そうか。

 いつも初手オーバーホエルミングからのラッシュで瞬殺してるもんな。

 そりゃ、まともに動くところを見てないはずだ。

 

 納得している間にもセリーの説明は続いていく。

 

「攻撃方法は先ほど言った糸を用いる搦め手に加え、鋭く尖った脚から繰り出される叩きつけやひっかき、鋏角による噛みつきといった物理攻撃です。いずれも当たれば毒を受ける可能性があります。そして、所有スキルはハイド。これが発動すると体色が背景に溶け込み、視覚による捕捉はほとんど不可能だそうです。素早く動き回るため、たとえ猫人族であっても、目で追うのは難しいのだとか」

 

 ヤバいスキルを持ってんなぁ。

 姿が消えるなんて、どう対応せいっちゅうねん。

 

 思わず眉をひそめていると、ロクサーヌが自信に満ちた表情で口を開いた。

 

「たとえ姿を消そうとも匂いまでは誤魔化せないでしょう。それならいくらでも打つ手はあります」

 

 女神のように微笑みながら、こちらを見つめている。

 

 この娘ならガチでなんとかしそうだよなぁ。ほんと、頼もしいわ。

 

 ロクサーヌの頼もしさにドキがムネムネしていたところ、セリーも柔らかな笑みを浮かべつつ補足を入れた。

 

「ご安心ください。スパイススパイダーが攻撃を行うか、反対にこちらが攻撃を当てることでハイドは解除されます。ですので、全体攻撃魔法を放てば問題はありません」

 

 マジ? めちゃくちゃ簡単に解除できるやん。

 それならなんとかなりそうだ。

 

「でも、魔法使いのいないパーティーだと大変そうですよね……」

 

 心配そうな表情を浮かべているミリアの言葉に、セリーが頷く。

 

「ええ。低階層のボスとして出現するときは一匹だけで、スキルを使用する頻度も低いため、魔法使いがいなくてもそれほど苦戦することはありません。ですが、中階層の雑魚として出現した場合、複数で出現する上にスキルをバンバン使用します。ロクサーヌさんのような人がいない限り、一撃食らうことを覚悟する必要があるでしょう」

 

 うわぁ……。毒持ちの攻撃を食らう覚悟とか、想像するだけで胃がシクシクする。

 

「残すアイテムは我が家でも頻繁に使用するペッパー。これについては説明不要ですね」

 

 まあ、日々使っているからな。

 

 さて、ブリーフィングも済んだことだし、そろそろ探索に取り掛かるとしよう。

 

 

 

 

 

ハルバーの迷宮

三十五階層

 

 

 

 

 

 三十五階層へ移動し、右手法に従い迷宮を進んでいく。

 

 先頭を歩くロクサーヌの尻尾は左右にユラユラと揺れ、隠しきれない高揚を示していた。

 

 ……まるで心待ちにしていたゲームの発売日に、ウキウキしながらお店へ向かう子供のようだ。

 

 

 

 程なくして、警戒を促す声が通路に響く。

 

「ご主人様、この先に魔物がいます」

 

 俺たちは互いに目を合わせて頷き、それぞれの武器を手に取った。

 慎重に先へ進むと、床だけではなく、壁や天井に張り付いている魔物の姿が目に映る。

 

 鑑定で確認すると、スパイススパイダーが四匹、ビープシープが二匹。

 

 三人が駆け出すと同時に魔法名を念じる。

 

アクアストーム

アクアストーム

 

 瞬間、激流のごとき水が魔物たちを包み込み、そのまま意思でも宿しているかのように体表に纏わりついている。

 

 ロクサーヌは壁に張りついた蜘蛛へ斬撃を浴びせ、床を進む個体には鋭い突きを叩き込む。

 そのまま敵の体を足場にして宙へと跳び、天井の魔物に斬りかかり、軽やかに着地した。

 たちまち敵の意識を一身に集め、ピョンピョンとバネでも仕込んでいるかのように跳躍しながら攻撃と回避を繰り返す。

 

 この戦女神様マジでヤベー! 身体能力とバランス感覚どうなってんだ!

 

 セリーとミリアもすぐに加勢し、ロクサーヌが引きつける魔物へ攻撃を重ねる。

 彼女からヘイトが剥がれても二人が素早く攻撃を入れ、自分に注意を向けていた。

 

 ほんと、うちの娘たちは美人で可愛い上に有能だわ。

 

 心の中で呟きつつ、リキャスト明けを待って再びダブルスペルをぶっ放す。

 

 

 

 三人を振り切ってこちらへ向かってきたヒツジに対し、カッカラを振るって迎撃していると、その体が唐突に崩れ、魔法のエフェクトと共に空気へ溶けていった。

 視線を巡らせれば、ロクサーヌたちにあしらわれていた他の魔物も次々に姿を失っていく。

 

「ふぅ」

 

 思わず大きく息を吐き出した。

 

 二ターンで片付いたな。しかも被弾なしの完封勝利。

 三十五階層でのレベル上げも問題なさそうだ。

 

「さすがご主人様! やはり三十五階層の魔物などまったく相手になりませんでした!」

「お姉ちゃんの言う通りです! ご主人様は本当にすごいです!」

 

 ロクサーヌとミリアは笑みを浮かべ、尻尾を揺らしながら称えてくれたが、セリーは何やら思案している様子だ。

 

 そして、彼女はこちらをジッと見据えて問いかけてくる。

 

「……水属性が弱点ではないビープシープも倒れたのです。これなら三十六階層へ上がっても問題ないのではないでしょうか? この階層のボスを倒したら一度試してみませんか?」

 

 確かにそうなんだよなぁ。もし倒せるのなら先へ進むのもアリだ。

 

 チラリと様子をうかがうと、頑是ないお嬢様方は期待で瞳をキラキラ輝かせながらこちらを見つめている。

 

 うーん……。まあ、やるだけやってみるか。

 

「分かった。セリーの言う通り、一度試してみよう」

 

 俺の言葉を聞き、彼女たちの顔に大輪の花が咲き誇る。

 いい笑顔です。

 

 

 

 その後は待機部屋を探しながらひたすら魔物を狩っていく。

 

 ロクサーヌが鬼神のような立ち回りを見せるものの、壁や天井を移動する敵を全て押さえこめるわけもなく、ヘイトが剥がれた魔物によって攻撃を食らうことも多い。

 もっとも、前衛として矢面に立っている本人は、まったく攻撃を受けることがないのが驚異的だ。

 それに、彼女は回避タンクではなく、回避タンク兼ヒーラー。

 誰かがダメージを負えば回復魔法を飛ばし、即座に立て直す。

 本当に替えの利かないスペシャルな存在。さすがロクサーヌ、さすロクだ。

 

 一方、ミリアは遊撃として魔物の挙動を見切り、攻撃を妨害し、スキルの発動を阻止している。

 セリーも槍を巧みに操り、敵を牽制しながら俺の護衛に徹し、ときに的確な一撃で魔物のスキルを中断させていた。

 

 スパイススパイダーの攻撃により毒を受けても、お互いにフォローをしあってスムーズに毒消し丸を服用できている。

 

 三十五階層での探索は、驚くほど順調そのものだった。

 

 

 

 魔物が崩れ落ち、光の粒になって消え去ると、あたりに静けさが戻る。

 そんな静寂の中、いつもの言葉が聞こえてきた。

 

「ご主人様、そろそろパン屋が開く時間です」

 

 ロクサーヌに頷きを返し告げる。

 

「分かった。早朝の探索はここまでにしておこう」

 

 ドロップアイテムをしまい、レベルの確認を行うと、勇者のレベルは25、魔道士のレベルは40、そして商人のレベルも31。

 さすが経験値効率四百倍は伊達じゃない。

 

 三人のレベルは上がっていなかったものの、俺のレベルアップを報告すると嬉しそうに微笑み、喜びを共に分かち合ってくれた。

 温かな空気に包まれながら、帰り支度を整え迷宮を後にする。

 

 

 

 

 

田川 歩 男 18歳

冒険者Lv41 勇者Lv25 遊び人Lv50 魔道士LV40 商人Lv31

装備 頑強のアルバ 身代わりの竜革グローブ オラクルビットローファー よりしろのイアリング

 

BP振分 残BP:26

キャラクター再設定:1

フィフスジョブ:15

必要経験値二十分の一:63

鑑定:1

ワープ:1

ジョブ設定:1

MP回復速度十倍:31

 

所持金:15,421,716ナール

 

春の72日目




致命的なミスをしていたため、話を差し替えました。

また、ストックについても差し替えが必要になるため、明日以降連続更新ができない可能性があります。

ご迷惑をおかけして、本当に申し訳ありません。
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