異世界迷宮へ行ったなら   作:三星織苑

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218 芸術家

 クーラタルの武器屋と防具屋に立ち寄り、バラダム家から放出品があったかを尋ねてみたが、特にそういったことはないらしい。

 むしろ逆に、「そんな話があるのですか!」と、期待のこもったトーンで聞き返されてしまったほどだ。

 

 そこで、バラダム家の状況を簡単に伝え、駄目元で毎日顔を出すから売却された品を最初に確認させてほしいと頼みこむ。

 五日ごとに装備品を売却している実績を評価していたのか、武器屋も防具屋も快く応じてくれた。

 これもひとえに、毎日こつこつと装備品を製造してくれるセリーのおかげだろう。

 

 日々のルーティーンに新たな項目を増やしてしまったが、昼食の食材を買うついでに立ち寄ればいいだけだ。たいした手間ではない。

 

 

 

 

 

帝都

高級服屋

 

 

 

 

 

 帝都へ移動し、高級服屋に足を踏み入れたところ、広々とした店内にロクサーヌたちの姿は見当たらなかった。

 商人ギルドと武器屋、防具屋で思った以上に時間がかかったというのに、それでもまだ注文が続いているらしい。

 

 椅子に腰を下ろして彼女たちを待っていると、程なくして奥の扉が開く。

 姿を現したミリアがこちらに気付くなりパッと表情を輝かせ、タタタと駆け寄ってきた。

 

「ご主人様! みんなのおかげで素敵なドレスを注文することができました! 見ていただけるのが今から楽しみです!」

 

 まるで太陽そのもののような笑みを浮かべるミリア。

 その純粋な輝きに、こちらも自然と口元が緩む。

 

「そうだな。俺もドレスを身に纏うミリアを早く見てみたい」

「うっふふー。楽しみにしていてくださいねー」

 

 いたずらっぽく目を細めながら答えると、彼女は軽やかな足取りでロクサーヌとセリーのもとへ戻っていき、三人でキャミソールを選び始める。

 時間が限られているのを理解しているのだろう。あれこれ迷うことなくサクッと決めてくれた。

 

 紳士然とした店員に会計をお願いすると、例によって値引スキル先生が働いてくださる。

 

「ありがとうございます。それではご確認をお願いいたします。ご注文いただいたドレスが三十二万ナール。そして、こちらの寝間着が一つ八百ナールで合計三十二万八百ナールとなります。ですが、お客様には何かとお世話になっておりますので、今回は二十二万四千五百六十ナールとさせていたします」

 

 三割引の威力は絶大だが、それでもドレスの値段はエグイ。

 毎日の食事や雑貨とは桁がまるで違う。

 もっとも、日本にだって五百円のTシャツもあれば、数千万をかけてオーダーする服だってある。

 まあ、そういうものなのかもしれない。

 

 

 

 支払いを済ませると、受け取りは二十日後、夏の二日目になると告げられた。

 

 あれ? おかしくない?

 途中で夏の休日が挟まるから、二十日後は夏の一日目な気がするんだが……。

 それとも季節代わりの休日は営業日に含めないという、商慣習でもあるんだろうか?

 

 少しばかり疑問を覚えたものの、もし一般常識だった場合、もの知らずだと思われてしまう。

 実際その通りなのだが、侮られたり、勘繰られたりしても面倒だ。

 ひとまずスルーして店を後にする。

 

 

 

 

 

帝都

 

 

 

 

 

 通りを歩きながら先ほど気になったことをセリーに尋ねてみた。

 

 やはり季節変わりの休日は営業日としてカウントしないのが通例らしい。

 食料品を扱う店などは普通に営業しているが、それ以外の店や各ギルドの窓口はほとんどが休業するそうだ。

 さらに仕立屋や針子、それに服飾以外の職人たちも休みを取る者が多く、その日を含めてしまうと納期に無理が生じてしまうため、自然と休日を含めないという慣習が根付いたのだという。

 

 なるほどな。そういうことだったのか。

 

 俺が頷いていると、セリーはさらに言葉を添えた。

 

「ベイルのように五日に一度市が立つ場合も同じく休日は含みません。ですので、春の八十七日目の次の市は夏の二日目となります」

 

 へー。八十七日目に買い物をし損ねたら、次のチャンスは六日後になるわけか。

 少し間が空くが、一日程度ならたいして問題にならないだろう。

 それに俺たちは常設の店舗があるクーラタルに拠点を構えている。市の有無で困ることはないはずだ。

 

 

 

 

 

ボーデ

コハク商の店

 

 

 

 

 

 ボーデにあるコハク商店へと足を運び、ミリアの分のネックレスを購入したいと告げる。

 すると、店主は同じ猫人族だからと言って、とっておきを奥から取り出してきた。

 

 大粒のコハクを黄色、ピンク、赤とグラデーションにつなげた、見事な存在感を放つ逸品。

 

 それを首元へあてたミリアに対し、ロクサーヌとセリーは似合う似合うの大合唱。

 その後、ロクサーヌとセリーもあてて、はしゃいでいる。

 

 ほんと、可愛い娘たちだなぁ。

 

 あまりの愛らしさに見とれていると、俺も感想を求められた。

 だが、そんなの似合うとしか言いようがない。

 だって、本当に似合っているんですもの。

 

 太っ腹の店主は本来七万四千ナールのところを七万ナールに値引してくれた。

 だというのに俺用の安物のブローチを購入して、五万一千百ナールを支払うことに……。

 

 ごめん! もっと金持ちになったらこんな真似は絶対にしないから! 本当だから!

 

 心の中で不義理を詫びつつ、店を後にした。

 

 

 

 

 

クーラタル郊外

アユムの家

 

 

 

 

 

 クーラタルに戻り、昼食の食材を買い込んでから自宅へ戻る。

 

 三人が食事の支度をしている間に俺は自室へ引っ込み、お絵描きタイムだ。

 あと少しで完成だからな。気合を入れていくべ。

 

 

 

 集中して筆を進めていくと、ようやく満足のいく仕上がりになった。

 

 キャンバスに映し出されたのは自室から見える日常の風景。

 絵を描くなんて高校の選択授業以来だが、思った以上に形になっている。

 

 もちろん目の肥えた者が見れば、粗はいくらでも見つかるだろう。

 だが、二十五年以上もブランクがあることを考えれば、悪くない出来映えだ。

 

 自画自賛しながら筆を置き、ジョブ設定を開く。

 すると、期待通りの表示が頭に浮かぶ。

 

芸術家Lv1

効果 器用小上昇 知力微上昇 精神微上昇

スキル 視野記憶 旋律記憶

 

 ぶっちゃけ効果に関しては目を引くものはない。

 だが、スキルについては以前から気になっていたのだ。

 

 キャラクター再設定を開き、三十パーセント値引を外してフィフスジョブを付け、そこに芸術家のジョブを設定する。

 

 よし。さっそく試してみよう。

 

視野記憶

 

 窓の外を見つめながら念じると、頭の中にその景色がしっかり焼き付いた。

 普段、景色を思い浮かべようとした時とは異なり、細部までクッキリ鮮明に思い浮かべることができる。

 

 感覚としては、キャラクター再設定やジョブ設定を開いたときに表示されるウインドウ。あれが文字ではなく写真になったような感じだ。

 

 今度はソファーを見ながら念じたところ、窓の外の景色は映像として思い出すことができなくなり、替わりにソファーの映像が頭にくっきり映し出された。

 美術商の言葉通り、やはり一つしか覚えておけないらしい。

 

 残念。ロクサーヌたちの脳内写真集を作るという夢は潰えた。

 

 

 

 続いて旋律記憶を試してみる。

 

旋律記憶

 

 念じた瞬間、音を取り込んでいる感覚が頭の奥に広がる。

 

 そのままじっと待っていても、記録が止まる気配はない。

 不審に思い、止めようと考えたところ、記録が止まったことが直感で分かった。

 

 記憶した音を思い出そうと思った瞬間、頭の中に小鳥のさえずりが鮮やかに響いてくる。

 

 ……外からも同じものが聞こえてくるせいで、めっちゃ分かり難いんだが。

 

 うーん……。歌でも歌ってみるか?

 

 というわけで、アユムリサイタル開幕である。

 

 

 

 アニソンを何曲も高らかに歌い上げていき、CHA-LA HEAD-CHA-LAのサビに差し掛かったところで、ノックの音が耳に届いた。

 

「入っていいよ」

 

 入室を促すと、優しい笑みを浮かべたロクサーヌが姿を現す。

 

「ご主人様、昼食の用意が整いました」

「分かった。片付けたらすぐに行こう」

 

 返事をすると彼女は慈しむようなまなざしをこちらへ向ける。

 

「とても素晴らしい歌声でしたね。ご主人様、何か良いことでもあったのですか?」

 

 いやー! 聴かれてたー! 恥ずかしー!

 

 頬が熱くなっているのを自覚しつつ、ロクサーヌと一緒に片付けを済ませて一階へ降りた。

 

 

 

 食事と歯磨き、それから洗い物を済ませてリビングへ移動する。

 俺の脚の間にちょこんと腰を下ろしたミリアを抱きしめつつ、情報共有の時間だ。

 

 ハチのスキル結晶に買い注文を出したこと。

 バラダム家からオークションに装備品やスキル結晶が出品されるかもしれないこと。

 そして、出品があった際には予定通り、知らせてもらえる段取りになっていること。

 さらに、クーラタルの武器屋と防具屋にも顔を出し、放出品があれば最初に確認させてもらえるよう頼み、それが了承されたことを伝える。

 

 ひと通り聞き終えたところで、セリーが忌々しげに口を開いた。

 

「仲買人がわざわざ自分のライバルを増やすような真似をするのか疑問ですね……。しかし、それでも彼を頼るしかないのが本当に業腹です」

 

 ロクサーヌは優しい口調でそんなセリーを宥めるように諭す。

 

「ルーク氏は先日、ご主人様のおかげで大金を得ています。それに、バラダム家との件でご主人様の強さを理解したはずです。また、公爵様との関係も承知しているでしょう。確かに信用のおけない人物ですが、裏切る心配はありません」

 

 まあ、そうだな。あいつは俺を怒らせるとヤバいことになると理解している。

 その状況でわざわざ身を滅ぼすような真似をするとは考えにくい。

 信用はできなくとも、ことさらに疑う必要もないだろう。

 

 ロクサーヌの言葉にセリーはシニカルな笑みを浮かべた。

 

「確かにロクサーヌさんの言う通りです。仲買人のことなど気にするだけ損ですね」

 

 この娘の言い方よ。棘がありすぎるぞ。

 

 そんなやり取りに苦笑していると、ミリアが振り返りながらこちらを見上げる。

 

「ご主人様、武器屋や防具屋で良い装備品が見つかるといいですねー」

 

 マジでそれな。

 制限付きの装備が店舗に売却されることはないだろうが、竜革やダマスカス鋼製の装備品はきっと入荷するはず。

 原作でもそうだったように、その中にはスロット付きもあるだろう。

 資金は十分だし、有用なものは片っ端から購入しておきたい。

 

 

 

 バラダム家の放出品についての話題がまとまったところで、今度は入手したスキル結晶の融合について相談を行う。

 

 三人掛りでご主人様の守りを固めるべきだと言われたものの、現状俺のレベルは魔物のそれをはるかに上回っているので、レベル補正が働いている。

 しかも、物理ダメージ削減と魔法ダメージ削減の付いた装備品を身に着けているため、急いでアップデートする必要はない。

 これに関してはロクサーヌも同じなので、彼女の防具についても見送ることにした。

 

 コボルトと一緒に融合するのはマストとして、現在手元にある防御系のスキル結晶は、ダメージ削減が付くスライムと魔法ダメージ削減が付く貝。そして魔法ダメージや状態異常耐性に関わる精神二倍の付く牛人。

 このうち、魔法ダメージ削減は四人全員の装備品についているので、スルーでオッケー。

 

 セリーとミリアへどのようにスキルを割り振るべきかで頭を悩ませていたところ、ロクサーヌが口を開く。

 

「種族やジョブの関係で防御力が高いのはセリーでしょう。物理ダメージ削減はミリアの装備品に付けた方がいいと思います」

 

 彼女の言葉を聞いてセリーも頷いた。

 

「そうですね。他にもミリアのダマスカス鋼の額金にはスキルスロットが四つ付いています。ちょうど火、水、風、土、それぞれに対応したスキル結晶が揃っているので、これらを融合してもいいかもしれません」

 

 なるほど……。

 確かにそれはありかもしれない。

 

 納得していると、彼女はさらに付け加えた。

 

「それから、やはり牛人についてはご主人様のアルバに融合するべきだと思います。私たちのパーティーは攻撃の全てをご主人様に依存しています。それを考えたら誰を守るべきなのかは明白でしょう」

 

 先ほどそのアイデアは却下したばかりだというのに、再び議題に上げてしまう。

 

「そうですよね! やはりそうするべきですよね!」

 

 セリーの提案にロクサーヌは我が意を得たりとばかりに追随していた。

 

「はい。ご主人様の身の安全が何より大切ですからね」

 

 ミリアもそう言ってコクコク頷いている。

 

 結局、彼女たちの勢いに押し切られてしまい、今回はミリアのダマスカス鋼の額金に火耐性、水耐性、風耐性、土耐性を。竜革の手甲に物理ダメージ削減を。そして俺のアルバに精神二倍を付けることになってしまった。

 

 

 

 二階からスキル結晶とミリアの装備品を取ってくると、セリーはサクサクッと融合を済ませる。

 

頑強のアルバ

スキル 物理ダメージ削減 精神二倍

 

耐火のダマスカス鋼額金

スキル 火耐性 水耐性 風耐性 土耐性

 

頑強の竜革手甲

スキル 物理ダメージ削減

 

 オッケー。問題なし。

 

 鑑定で確認し、ミリアの分も含めてアイテムボックスへしまい込んだ。

 

 今後、誰の装備品にどんなスキルを付けるべきかの話し合いを行う。

 

 全員のアクセサリーに攻撃力二倍と腕力二倍、それからダメージ逓増。

 これがあれば武器を持ち替えても対応可能だし、セリーによると竜騎士のスキルである二刀流で左右それぞれに武器を持っていても、両方にスキルの効果が乗るそうだ。

 

 また、詠唱中断と防御力貫通、HP吸収を全員の武器に付けておいた方がいい。

 さらに、ロクサーヌとルティナについてはMP吸収もだな。

 

 そして、なんといっても状態異常攻撃に対する備えが必要だ。

 毒、睡眠、麻痺、石化それぞれの耐性に加え、ハーブのスキル結晶で全体に対する耐性を上げる。

 五十階層へ行く頃にはこれを全員分揃えておいた方がいい。

 次の機会にでもルークへ買い注文を出しておかなければ。

 

 

 

 打ち合わせが終わり、のんびり過ごしているとミリアがこちらを見つめる。

 

「ご主人様、先ほどは楽しそうに歌を歌っていましたね。今まで聞いたことのないようなメロディーでワクワクしました」

「はい。私もあのような歌を聞いたのは初めてです。歌詞の意味はまったく理解できませんでしたが、とても印象的な旋律でした。ご主人様の故郷の歌なのですか?」

 

 セリーが興味深そうに尋ねてきた。

 

 歌詞は自動翻訳されてないのか?

 

 疑問を抱いたので、一頻り日本の曲について説明してから実験をしてみる。

 

 

 

 何曲か歌ってみたところ自動翻訳は働いておらず、日本語そのままの音が口から出ていた。

 もしかしたら同じ意味の単語でも音の数が違い、譜割りがはまらないため翻訳されないのかもしれない。

 

「とても素敵な歌声でしたが、どうして急に歌を歌っていたのですか?」

 

 思索を巡らせているとロクサーヌが先ほどと同じことを問いかけてくる。

 

 あ、そういえば芸術家のジョブを得たことを伝えてないわ。

 

 それを話して、さすごしゅをいただいたところで、まだ旋律記憶が続いていることに気が付いた。

 

 これいつまで続くんだ? もう数十分は経ってるよな?

 

 疑問を覚えたものの、そのままのんびり過ごして食休みを終え、午後の探索の準備を整える。

 そして玄関へ移動し、ポイントの振り分けとジョブの設定をする段になってもまだ続いていた。

 

 そのまま試したかったが、迷宮探索があるためジョブの入れ替えを行う。

 すると、旋律記憶が途切れた。

 

 ジョブを外した場合の挙動が気になったため、再び芸術家を付けて覚えていたはずの風景を思い出そうとするも、普段と同じように曖昧模糊としており、旋律記憶に関しても記憶したはずの音が流れてこない。

 どうやらジョブを外すと記憶は保持されないらしい。

 まあ、そりゃそうだ。

 

 気を取り直して準備をしていると、三人が二階から下りてきた。

 

 よし。それじゃあ、午後も頑張りマッスル。

 

 

 

 

 

田川 歩 男 18歳

遊び人Lv50 勇者Lv25 冒険者Lv41 魔道士LV40 商人Lv31

装備 頑強のアルバ 身代わりの竜革グローブ オラクルビットローファー よりしろのイアリング

 

BP振分 残BP:0

キャラクター再設定:1

フィフスジョブ:15

詠唱省略:3

必要経験値二十分の一:63

鑑定:1

ワープ:1

結晶化促進二倍:1

獲得経験値二十倍:63

 

所持金:15,046,712ナール

 

春の72日目

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