異世界迷宮へ行ったなら   作:三星織苑

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220 オークション

 昼食の買い物を済ませ、普段は歩いて帰るところを、今回はワープを使って三人を自宅へ送り届けた。

 そして、俺はそのまま商人ギルドへと飛ぶ。

 

 

 

 

 

クーラタル

商人ギルド

 

 

 

 

 

 ワープゲートを抜けると、そこは熱気と喧騒に満ちた空間だった。

 ロビーは人であふれかえっており、どいつもこいつも視線をギラつかせ、探り合うような会話を交わしている。

 それが幾重にも重なったざわめきのせいだろう、まるで空気に欲望が混じって肌に纏わりついてくるかのようだった。

 

 どうやらバラダム家の宣伝は上手くいったらしい。

 ここにいる連中は全力で入札に参加することだろう。

 もちろん俺にしたって負けるつもりはない。貴重な装備品やスキル結晶が出品されたら全力でいってやる。

 

 

 

 落ち着きを取り戻すために一つ息を吐き出し、受付へ向かおうとした矢先、顔に胡散臭い笑みを貼り付けた男がスルスルと近づいてきた。

 

「アユム様、お待ちしておりました」

 

 どうやらロビーで待ち構えていたらしい。

 

「随分と賑わっているようだな」

 

 声を掛けると彼は楽しげに口を開く。

 

「ええ。貴重な装備品やスキル結晶がこれほどの数で出品されることは滅多にございません。ましてや、固有名を持つ装備品まで並ぶとなれば、数十年に一度のことです。この熱気も当然でしょう」

 

 うそだろ!?

 

「固有名の付いた装備品も出品されているのか!?」

 

 思わず声を張り上げると奴は口角を吊り上げて頷いた。

 

「ええ。バラダム家が家宝として所有していた足装備、セブンリーグブーツ。これを履いた者は常識では考えられないような動きが可能になるのだとか。ギルド職員により複数のスキルが付いていることが確認されています」

 

 セブンリーグブーツ? おやゆびこぞうのあれ? どんな性能を持っているんだ?

 

 ……いや、性能なんて関係ない。固有名の付いたボーナス装備品だというのなら、何が何でも手に入れなくては。

 

 胸の奥で強く決意を固めたところへ、ルークはさらに追い打ちをかけるように告げる。

 

「バラダム家が必死に宣伝した甲斐あって、富豪や貴族のみならず、皇族まで代理人を差し向けております。それに、買い控えを警戒して他の出品者たちはすべて取り下げてしまいましたので、入札が集中することでしょう。今回のオークションは白熱するに違いありません」

 

 うそだろ? 皇族まで参戦してんの?

 そんなの落札価格がどこまで上がるのか分かったもんじゃない。

 

 動揺している俺を見て、奴はさらなる爆弾を投下した。

 

「かく言う私もハルツ公爵様の命を受け、今回のオークションに参加する予定です」

 

 はあ!? ハルツ公まで狙ってんのかよ!?

 

 本当に落札価格はどのくらいまで上がるんだ?

 こいつも入札に参加するってことは、予想価格を聞きだすこともできない。

 予備知識がないせいでどのくらいの額になるのか見当もつかんぞ。

 

 くそー。入手できる可能性がめちゃくちゃ下がってしまった……。

 

「アユム様、それでは会場へ参りましょう」

 

 ウキウキした様子のルークに促され歩きはじめる。

 

 どうでもいいが、めちゃくちゃ浮かれてんな。

 数十年に一度の機会だと言っていたし、商人ギルドや仲買人にとっては一大イベントなのかもしれない。

 

 まあ、そんなことはどうでもいいか。

 

 雑念を振り払い、足を進めた。

 

 

 

 二階へ上がり、開け放たれている扉を潜ってオークション会場へ入る。

 

 その途端、熱気の奔流が押し寄せてきた。

 煌びやかな衣装を纏った継嫡家名を持つ者たちとその背後に控える従者や護衛。

 高そうな装飾品を身につけた商人に豪商、武器商人や防具商人。

 そして、迷宮で戦うことを生業としてそうな体格を持つ冒険者や探索者。

 会場は人で埋め尽くされ、ざわめきは渦となって空気を震わせている。

 

 まるで人気アーティストのライブ会場みたいだ。

 この状況はさしずめ、公演が始まる前の物販ブースってところか。

 

 その様子に圧倒されていたところ、隣のルークが声を掛けてくる。

 

「ここからはライバルとなるため、別行動といたしましょう。アユム様の幸運をお祈りしています」

 

 どうやら呉越同舟とはいかないらしい。

 

「ああ。そちらも狙ったものを落札できることを祈っている」

 

 軽く頭を下げるとルークは人波に紛れすぐに姿を消した。

 

 ……ハルツ公には悪いがセブンリーグブーツは俺がいただく。

 たとえ貴族や皇族が相手でも全力でいったんぞ。

 

 

 

 一人になったところで広い会場を見回してみると、すぐに人だかりができている一角が目に入った。

 

 あそこにセブンリーグブーツが展示されているのか。

 

 めちゃくちゃ気になるところだが、あの群衆に突っ込むのは無謀だ。人波が落ち着くまでは他の出品物を確認するとしよう。

 

 入口近くに設置されているテーブルに足を向けると、そこにはいくつかのスキル結晶が載っていた。

 それぞれの横に札が置いてあり、何のスキル結晶か分かるようにしてある。

 テーブル脇ではギルド職員らしい男が参加者に説明を行なっていた。

 

 文字を読むより鑑定で確認したほうが早いため、それらに使用していく。

 

 おお! 竜に鳥、サイクロプスにトロール、それにコボルトも二つあるぞ!

 バラダム家の連中め。スキル結晶も貯めてやがったんだな。ナイスだ!

 

 さらに視線を移すと、高級そうな木箱に収められたスキル結晶が目に入る。

 

 なんかすごそうだぞ。よし、こいつも確認だ。

 

スキル結晶 魔眼トロール

 

「あっ」

 

 その表示を見た瞬間、無意識に口から声が漏れていた。

 

 これってトロールの最上位種のスキル結晶だよな?

 ということは融合すれば腕力五倍が付くはず。

 

 ヤバいヤバい。これはヤバい。なにがヤバいって他の奴が競り落とした場合だ。

 融合に失敗すれば、この希少なスキル結晶は跡形もなく消えてしまう。

 そして、スロット付きの装備品は少ないため、その確率の方が高い。

 

 そんなん、もったいないお化けが現れるぞ!

 こいつはどんなことがあっても俺が落札しなくては!

 

 使命感に燃えていたところ、ギルド職員の男が声を掛けてきた。

 

「こちらにご興味がおありですか? 落札価格はかなりの額となるでしょうが、もし融合に成功すれば腕力五倍という、破格の力を秘めた武器が手に入ります。隻眼に伝手がおありでしたら、是非入札にご参加ください」

 

 おいおい。俺の場合は確実に成功するから問題ないが、他の奴らにとっては失敗の確率の方が高いんだぞ? とんでもないギャンブルを勧めやがる。

 

 曖昧な笑みでやり過ごしその場を離れたが、今度は別の者へ悪魔の囁きを行なっていた。

 

 ……とにかくあれは俺が手に入れる。

 

 

 

 他のテーブルには一つにつき一つずつ装備品が並べられているようだった。

 さっそく隣のテーブルに載っている剣へ鑑定をかける。

 

滅竜の剣 両手剣

 

 ん? 滅竜の剣? スキルが付いてそうな名前なのにスキルがないぞ?

 

 気になって見つめていると、テーブルの向こう側にいる男が話しかけてきた。

 

「そちらは滅竜の剣。竜系の魔物に大きなダメージを与えられる武器です。ドライブドラゴンは空を飛んで移動しますので、迷宮外ではいつどこで襲われるか分かりません。そのため、大きな町ではこのような対竜装備が備えられていることが多く、今回も防衛目的で入札に加わる方がいるでしょう」

 

 へー。ドラゴン用の装備品って、スキルが付いているわけじゃなく、武器そのものが竜への特効を持っているのか。

 でもまあ、スロットが付いていないのなら用なしだ。

 

 

 

 その後もテーブルを順に回り、装備品を見ていく。

 金羊毛の帽子、竜燐の鎧、オリハルコンのガントレット。

 歩きながら確認しているものの、どれにもスロットは付いておらず俺にとってはハズレばかり。

 

 しかし、周囲の反応はまったく違う。

 鑑定を持たない人にとっては、滅多に入手機会がない希少な装備品。

 どのテーブルも複数の人が取り囲み、目を血走らせながら職員へ矢継ぎ早に質問を浴びせていた。

 

 まあ、スキル結晶の融合をしなければ問題ないし、これらを落札するつもりならセブンリーグブーツへ手を出すことはないはず。

 どうせなら思う存分高額で競り合ってくれたまえ。

 

 内心で呟きながら次のテーブルへ移動する。

 

 おっ。この剣、どっかで見た気がするな。どれどれ……。

 

フランベルジュ 片手剣

スキル 空き 空き 空き 空き 空き

 

「うおっ! 五個かよ!」

 

 思わず声を上げてしまったため、それに反応してギルド職員らしい女性が訝しげな表情でこちらを見る。

 

「はい? 五個ですか?」

 

 あ、やばっ。五個とか言っちまった。

 

「いや、貴重な装備品が五個も出品されるのかと驚いていたんだ」

 

 いつものようにでまかせを口にすると、彼女は納得したような表情で話し出す。

 

「ああ。そういうことでしたか。ですが今回出品されている装備品は五個ではなく六個です。滅竜の剣、金羊毛の帽子、竜燐の鎧、オリハルコンのガントレット、フランベルジュの他にセブンリーグブーツもありますので」

 

 先ほどの言葉を追及されないよう、その言葉に頷きつつ適当な言葉を口にする。

 

「なるほど。それにしても、このフランベルジュもなかなかの代物だな」

「はい。これを出品した家の者によると、娘が経験を重ねて成長した時のために、当主が大金をかけて用意したのだそうです。しかし、不幸にもその娘は殺されてしまったため、泣く泣く手放すことを決めたのだとか……」

 

 なに? 娘が殺されただと? それは気の毒な話だ。

 よし、俺に任せろ。絶対に犯人を見つけ出してみせる。

 

 田川勝彦(ジッチャン)の名にかけて!!

 

 そうだな……。その娘の死因はエストックによる喉への一突き。

 動機は逆恨みされて家を困窮させられた上に奴隷へ落とされたことによる怨恨。

 そしてその犯人は、美人で可愛くスタイル抜群でそのうえ声と性格まで最高な世界一の女性だ。

 

 謎はすべて解けた! 犯人は俺のパーティーの中にいる!

 

 

 

 くだらない妄想をしていたところ、ふと気づく。

 

 自分たちの手で命を奪った相手の話を聞いて、こんなふざけたことを考えられるなんて、我ながら完全に倫理観がバグってる。

 どうやら順調にこの世界へ馴染んできているらしい。

 

 ……いや、転移直後に大量殺人をしでかしているし、元々の性格か。

 

 思索を振り払い会場を見渡すと、セブンリーグブーツが展示されているであろう一角の人混みが少しだけ引いていた。

 

 おっしゃ。んじゃ本命の確認といきますかね。

 

 

 

 人垣のわずかな隙間を見つけ、身を滑り込ませる。

 ようやく視線をテーブルの上へと通すと、そこにあったのは赤茶けた、一見すればどこにでもありそうなブーツ。高級品という印象はまるでない。

 

 だが、鑑定を使用した瞬間、度肝を抜かれた。

 

セブンリーグブーツ 足装備

スキル 敏捷五倍 跳躍力五倍 移動力増強 空中跳躍 風抵抗

 

 エグイエグイ! なんだこれ! 歩雲履レベルじゃねーか!

 

 スキルは五個で歩雲履より一つ少ない。

 しかし、最重要である跳躍力五倍と空中跳躍を備えている上に、敏捷五倍と移動力増強も揃っている。

 回避力五倍と速度低下無効が付いていないこと、それから五つ目が風抵抗なのは残念だが、それを補って余りある神性能。

 これをロクサーヌが装備したらとんでもないことになるぞ。

 

 是が非でも手に入れたいところではあるが、俺の資金は千五百万ナール。

 ベスタが出品される季節代わりのオークションまであと十日余りなので、ある程度の資金は手元に残しておかなくてはならない。

 

 原作では同じオークションに出品される、魔法使いやお嬢様っぽい美人、それから親子連れより前だったため、買い控えが起こって六十四万ナールで落札されていた。

 しかし、俺はアランにバラダム家の奴らを売却してしまっている。

 そいつらが出品されてしまえば順番が変わってしまう可能性が高い。落札価格は大きく変動するだろう。

 

 たとえ固有名の付いた装備品であっても、ベスタと比べられるものじゃない。

 安全マージンを考え、少なくとも倍の百二十万ナールは残しておくべきだ。

 さらにルークへ依頼しているスキル結晶の購入資金だってある。合計二百万ナールには手を付けないでおこう。

 そうなると軍資金は差引千三百万ナール……。

 

 これはどうなんだ? 多いのか? それとも少ないのか?

 いまだに物価がつかめていないため、よく分からない。

 

 

 

 考え込んでいると、会場にベルが鳴り響いた。

 並んでいた出品物がテーブルと共にステージの奥へ次々と運び込まれていく。

 そして、それと入れ替わるように、ギルド職員たちが手際よく椅子を並べはじめる。

 その様子を見た参加者たちは、我先に席を確保しようと殺到していた。

 

 出遅れるわけにはいかない。俺も急いで空いてる椅子へ腰を下ろす。

 

 やがて全員が着席し終えると、舞台中央にスーツをビシッと決めた男が姿を現した。

 オークションの司会、いわゆるオークショニアというやつだろう。なんというか、実にそれらしい雰囲気を備えている。

 

 感心していると、男は重厚感がありながらも聞き取りやすく、耳に心地よい声を発した。

 

「本日は多数のご参加を賜り、まことにありがとうございます。ただいまより、春の七十八日目のオークションを開始いたします。なお、今回の出品物はすべて同一の出品者によるものであり、そのため順番も出品者の希望に沿ったものとなっていることを、あらかじめご了承ください」

 

 司会の言葉に会場からざわめきが上がるなか、俺の前の席に座っていた年配の男が呟きを漏らす。

 

「そういうことか」

 

 すると、その連れらしい若い男が怪訝そうに問いかけた。

 

「どういうことですか?」

 

 ほんとだよ。どういうことだってばよ?

 

 そいつだけではなく、俺や周りの者たちも耳をそばだてる。

 

「通常なら順番は抽選で決まるため、最後になってしまえば参加者たちの予算が尽き、競り合いが起こらないことがあるのだ。おそらく今回は目玉であるセブンリーグブーツを最初にもってきて、高騰を狙うつもりなのだろう」

 

 その言葉を聞き、舌打ちが出そうになる。

 実際、聞いていた者のなかに舌打ちをしている奴が何人もいた。

 

 しかし、若い男はまだ腑に落ちない様子でさらに問いかける。

 

「最初に出品した場合、様子見で高値が付かない可能性もあるのでは?」

「いや、今回の目玉は数十年に一度という桁違いの品。ここにいる者のほとんどがそれを目当てに足を運んでいる。そのため、様子見などということは起こるはずがなく、最初から全力の競り合いが発生するだろう。しかも、参加者はこのために大金を用意してきている。落札できなかった者たちは、その資金を残りの出品物につぎ込むに違いない」

「ですが、最初は最低入札価格で入札するのがマナーなのですよね?」

「それも今回ばかりは無視されるだろう。どの仲買人も重大な依頼を背負っている。礼儀どころではなく、容赦なく入札するはずだ」

 

 若い男はようやく納得したように頷き、静かに口を閉じた。

 どうやらこいつは競売に参加する気はなさそうだ。だからこそ冷静でいられるのだろう。

 

 一方、その会話を盗み聞きしていた周囲の連中は苛立ちを隠せていない。

 かくいう俺の心中も大荒れだ。

 

 安く手に入れることは不可能か。

 くそが、上手いこと考えてやがる。

 

 司会の言葉はさらに続く。

 

「また、今回は出品者が一名のみのため、特別ルールを設けさせていただきます。通常であれば落札者が決まった後、すぐにステージ裏で取引を行いますが、進行の妨げとなるため本日はそれを省略いたします。落札者には証明書をお渡しし、オークション終了後に引き換えを行なっていただきます」

 

 マジ!? 複数落札すればワンチャン三割引が有効になるんじゃないか!?

 よっしゃ! 駄目で元々、このまま三割引を付けたままにして、絶対複数の品を落としてやるぞ!

 

 

 

 周囲の熱気が肌を焼くように伝わり、俺自身のテンションもすでにレッドゾーンに突入している。

 そして、ステージ上にブーツの載ったワゴンを押した武器商人が姿を現した。

 彼がバラダム家の依頼を受けた仲買人なのだろう。

 

 ブーツに鑑定をかけてみたところ、やはりセブンリーグブーツ。

 先ほどの男が言った通り、初っ端から目玉を投入するらしい。

 

 それを見た者たちが口々に声を漏らし、会場のボルテージがさらに一段上がる。

 鑑定もないというのに、ほとんどの者があれをセブンリーグブーツだと把握していた。

 どうやら、どいつもこいつも下見はバッチリのようだ。

 

 そんななか、司会の男が説明を始める。

 

「本日最初の出品はこちら、セブンリーグブーツ。固定により賜った、固有名を持つ装備品です。商人ギルドによる確認の結果、敏捷と跳躍力、それから移動力が上がることに加え、空中制動に類するスキルを持っていることが判明しております」

 

 おっしゃ! スキルの増加率までは把握できていない上に、空中跳躍についてもよく分かっていないらしい。それに風抵抗については完全に見落としている。

 他の奴らはこのブーツの価値を理解していない! これはワンチャンあるんじゃないか!?

 

「さらに、固有名を持つ装備品は通常の高性能品とは異なり、装備制限がございません。どなた様でも装備可能な逸品となっております」

 

 その言葉に会場がどよめいた。

 ボーナス装備のこの仕様はあまり知られていないんだろうか?

 

 くそー。だとすると知らないままにしておいてほしかった。

 

「最低落札価格は五十万ナールからです。それではどうぞ」

 

 開始の合図と同時に、武器商人が深々と頭を下げる。

 

「六十万ナール」

 

 その瞬間、会場に声が響き渡った。

 

「七十万ナール」

 

 間髪容れずに別の声が重なり、その後も激しく入札が繰り返されている。

 

 どうやら本当に今回のオークションは、マナー無用の殴り合いだ。

 入札できる最高額は最低落札価格の十倍までという暗黙の了解こそ守られているものの、すごい勢いで高値が更新されていく。

 ギルド職員は会場を駆け巡り、入札証明となるパピルスを配布している。

 めちゃくちゃ大変そうだなぁ……。

 

 

 

 白熱した戦いの様子をジッと眺めながら機をうかがっていると、三百万ナールを超えたあたりから徐々に脱落していく者が現れ始めた。

 だが、仲買人と思しい者たちは、勢いを落とすことなくアクセル全開で突っ走っていく。

 きっと依頼主からの上限は相当高く設定されているのだろう。

 

 

 

「五百万ナール」

 

 声の主に視線を送ると、イカしたベレー帽が目に入る。

 どうやらハルツ公も相当気合を入れた金額を設定しているようだ。

 

 多くの者が振り落とされているものの、入札額はうなぎ登りに上がっていき、留まる気配を見せない。

 

「五百五十万ナール」

「五百六十万ナール」

「五百七十万ナール」

 

 すでに、入札を行なっている者は三人だけ。

 いつも世話になっている胡散臭い防具商人、ルーク・アシッド。

 激情のオリハルコン剣をガストンへ売却するときに顔を合わせた武器商人の女性、ヒルダ・ウェイン。

 そして、煌びやかな服を着こんだ中年男性。

 

ヨハン・ハングバッハ・ツィーゲンアルム 男 42歳

豪商Lv31

装備 身代わりのミサンガ

 

 継嫡家名がある? 貴族なのか?

 

 鑑定結果に疑問を覚えている間も、激しい三つ巴の戦いが繰り広げられていた。

 

 三人とも一切引く気配はなく、ついに六百万ナールを突破する。

 

 クソっ、全然止まらねー! どこまで上げるつもりだよ!

 

 とにかく機をみて入札をしてやる。全ツッパというわけにはいかないが、一千三百万までならいったんぞ!

 

 そして、入札額は七百万ナールを超える。

 しかし、ここでヒルダの声が止まった。

 彼女の方へ目を遣ると、悔しそうな表情を浮かべながら入札を続けている二人を見つめている。

 

 あとはルークとヨハンという男の一騎打ち。

 

 激しくかぶせてくる豪商に対し、普段のアルカイックスマイルをかなぐり捨てて、ルークも大きな声でさらに重ねていく。

 

 八百万ナールを超えても、激しい競り合いが繰り返される。

 

「八百八十万ナール」

「八百九十万ナール」

「九百万ナール」

 

 しかし、ここでついにヨハンの声が途切れた。

 射殺さんばかりにルークを睨みつけているが、彼の口からは声が上がらない。

 

「九百万ナール。現在の価格は九百万ナールです」

 

 オークショニアは会場を見渡し確認を行っている。

 

「ほかにありませんか。九百万ナールです」

 

 静まり返った会場に響くその声に、ルークは安堵の表情を浮かべた。

 

 いま勝ったと思ったな? あめーよ!

 

「ほかにありませんね、それで――」

「九百十万ナール」

 

 その瞬間、奴の顔が固まったのが分かった。

 

「きゅ、九百二十万ナール」

「九百三十万ナール」

 

 ギルド職員から入札証明を受け取りつつ、ルークの入札にかぶせていくと、ついに大台を突破する。

 

「一千万ナール」

 

 その声に対し、即座にかぶせた。

 

「一千十万ナール」

 

 俺の告げた額を聞き、ルークは悔しそうに唇を嚙む。

 どうやらハルツ公が提示した上限は一千万ナールだったらしい。

 

 彼から入札がないのを確認し、司会の男が声を張り上げる。

 

「一千十万ナール、ただいまの価格は一千十万ナールです。ほかにありませんか」

 

 オークショニアは再び会場を見渡した。

 

 上をいかれるわけにはいかないため、ヤンキー漫画の登場人物になりきって、四方八方へメンチを切る。

 

「一千十万ナールです。ほかにありませんか」

 

 静まり返った会場に男の声だけが響く。

 

「……ありませんね。それでは、一千十万ナールでの落札となります」

 

 勝ったッ! 第3部完!

 

 

 

 

 

田川 歩 男 18歳

冒険者Lv47 勇者Lv36 遊び人Lv52 商人Lv47

装備 竜燐の靴 身代わりのミサンガ

 

ロクサーヌ ♀ 16歳

巫女Lv27

装備 サンダル 身代わりのミサンガ

 

セリー ♀ 16歳

鍛冶師Lv27

装備 サンダル 身代わりのミサンガ

 

ミリア ♀ 15歳

戦士Lv28

装備 サンダル 身代わりのミサンガ

 

BP振分 残BP:5

キャラクター再設定:1

フォースジョブ:7

必要経験値二十分の一:63

詠唱省略:3

鑑定:1

ワープ:1

ジョブ設定:1

三十パーセント値引:63

 

所持金:15,110,408ナール

 

春の78日目

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