異世界迷宮へ行ったなら   作:三星織苑

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221 追撃

 

 

 

 

 

クーラタル

商人ギルド

 

 

 

 

 

 落札を告げる声が高らかに響いた瞬間、静まり返っていた会場が一転して怒号に包まれた。

 

 落札できなかったことへの悔しさや、一千万ナールを超えたことへの驚き、そして俺がいったいどこの手の者なのか探ろうとしてる声。

 目玉の競売は終わったというのに、会場の熱気は収まるどころかさらに激しくなっている。

 

 近づいてきたギルド職員から落札証明を受け取ったところで、胸の奥に溜め込んでいた息を大きく吐き出した。

 

 ……これでロクサーヌの戦闘能力が大きく向上する。

 ミリアが暗殺者を取得し、魔物を石化させることができるようになれば、比較的安全に魔物を狩ることも可能になるだろう。

 それが合わせれば二ターンキルにこだわらず、上に進んで獲得経験値が多い魔物を狩るという選択肢が生まれる。

 そして、さらなる戦力強化のため、フランベルジュと魔眼トロールのスキル結晶も手に入れておきたい。

 

 視線を巡らせれば、会場はいまだに熱気で満ちあふれ、席を立とうとする者は見当たらない。

 目当ての品が終わったら帰る奴がいるかと思っていたんだが、どうやらそれはなさそうだ。

 

 大きく資金を減らした俺とは異なり、少なくともルークは一千万ナール、ヨハンは九百万ナール、ヒルダも七百万ナールを残している。

 今の俺では三人に勝つことは不可能。

 願うのは、その二つより先に他の装備品が出品され、奴らの資金を削ってくれること。

 さらに、その金額はセブンリーグブーツ用で、他の出品物に対する上限が低く設定されること。それを祈るしかない。

 

 それにしても、気になるのはヨハンという豪商だ。

 ルークとヒルダは仲買人として依頼を受けて参加しているのだろう。しかしあのヨハンという男はどうなんだ?

 誰かの代理人なのか、それとも本人が欲して参加しているのか……。

 

 

 

 煩わしい視線を浴びつつ思索に耽っていたところ、奥に引っ込んでいた武器商人が再びワゴンを押してステージ上へ戻ってきた。

 

 おっしゃ! 滅竜の剣だ!

 俺は手を出さないんで、思う存分入札しまくるといいよ! 応援してるね!

 

 にやけそうになるのをグッと抑え込みながら様子を見ていると、司会の男が朗々と声を上げる。

 

「二番目の出品はこちら、滅竜の剣です。通常の攻撃力もさることながら、竜に対するダメージが増すという効果を有しております。ドライブドラゴンは空を自在に飛び回り、いつどこで襲い掛かってくるのかは誰にも予測ができません。そんなとき、これを携えていれば心強い味方となることでしょう。また、都市防衛においてもこれほど頼もしい武器はございません」

 

 でも、そいつにはスキルスロットがないから、スキル結晶による強化は不可能だぞ。

 

 ……まあ、そんなことを言うわけにはいかないんだけどさ。

 

「装備制限はございますが、それはすなわち高性能の証。商人ギルドにてドライブドラゴンを相手に威力を確かめたところ、いとも容易く切り伏せてしまいました。その性能は折り紙付き、自信を持ってお勧めできる逸品となっております」

 

 それは使った人のパラメーターも関係しているんじゃ……。

 

 内心でまぜっかえしていたものの、彼の口上により会場のボルテージはどんどん上がっていく。

 

 ナイス煽り! 大金をガッツリ放出させてやってくれ!

 

「こちらも同じく、最低落札価格は五十万ナールからです。それではどうぞ」

 

 彼の言葉ともに、ガンガン高値が更新されていく。

 先程の口上に当てられたのか、それともセブンリーグブーツを落札できなかった悔しさからか、参加者たちは大声で入札額を叫んでいた。

 

 

 

 やがて金額は三百万ナールを超え、場は再び三つ巴の戦いへ。

 

 セブンリーグブーツとほとんど変わらない勢いで上がってるぞ。対竜武器ってそんなに需要があるのか?

 スキルや空きスロットを確認できる俺にとっては、どうしても金を無駄にしているようにしか思えない。

 

 竜特効があるといっても腕力二倍と攻撃力二倍、それに防御力貫通を重ねた方がダメージが出る気がするんだけどなぁ。

 しかも、オリハルコンの剣とそれらが付くスキル結晶は手持ちにあるから、今すぐにでも作ることが可能ときた。

 

 まあ、他の人では到底不可能なことなんだけどさ。

 ほんと、キャラクター再設定はチートすぎる。

 

 

 

 益体もないことを考えている間に、入札額は五百万ナールに到達していた。

 そして、ここでヒルダが口をつぐむ。これ以上は付き合いきれなかったらしい。

 

 再び一騎打ちとなったところで、どちらも引くことができなくなっているのだろう。入札の応酬は激しさを増していく。

 

 

 

「六百十万ナール」

 

 ルークの発した言葉を聞き、ヨハンの顔に諦念が浮かんだ。

 だが、セブンリーグブーツのときとは違い、相手を睨む様子はない。

 

 まあ、性能も希少性も段違いだ。諦めもつくのだろう。

 

 沈黙が落ち、オークショニアが会場を見回して問いかける。

 

「六百十万ナール。現在の価格は六百十万ナールです。ほかにありませんか」

 

 その声に合わせ、ルークの視線がこちらへ向けられた。

 奴の顔には断固たる決意の色が浮かんでおり、絶対に譲らないという気迫が伝わってくる。

 

 いや、そんな目で見られても入札する気はないですし。おすし。

 

「六百十万ナールです。ほかにありませんか」

 

 もう一度問いかけて辺りを見回すと、司会の男は宣言を行う。

 

「……ありませんね。それでは六百十万ナールでの落札となります」

 

 その言葉が会場に響き渡ったところで、ルークの顔に安堵の表情が浮かんだ。

 

 お疲れさん。それにしても、これもハルツ公の依頼だったりするんだろうか?

 あの人には世話になっているし、人として好感も持っている。

 もしあれが彼の下へ行くのなら、スキル結晶の融合を試みることがないことを祈っておこう。

 

 

 

 それから竜燐の鎧、金羊毛の帽子、オリハルコンのガントレットと、まるで計算されているかのように、理想的な流れで出品が続く。

 

 しかし、セブンリーグブーツや滅竜の剣の件に比べ、入札額は控えめだ。

 竜燐の鎧は百六十三万ナールでヒルダの手に。

 オリハルコンのガントレットを百十七万ナールでヨハンが落札。

 そして、金羊毛の帽子を九十五万ナールで、冒険者の男が勝ち取っていった。

 

 落札価格の推移をみるに、俺とルークがゲットした物に比べ、性能的にも需要的にも大きな差があるのだろう。

 

 それにしてもバラダム家から依頼を受けた仲買人の策は見事としか言いようがない。

 セブンリーグブーツや滅竜の剣が後ろに控えていた場合、絶対に買い控えが起こり、これらの装備品の値段はだいぶ低くなっていただろう。

 そして、目玉を最初に持ってきて高騰を煽るという作戦にまんまとハマり、俺たちはかなり高めの価格で落札したに違いない。

 

 いま冷静に考えると、我を失っていたなぁ……。

 でも、あの性能を見た以上、入手できる機会があるのなら、手を伸ばさずにはいられなかった。

 しかも、未確定情報だがボーナス装備品には限定が施されている可能性がある。

 ギルド神殿を使用してこれを解除すれば、RPGのラスボスよろしく第二形態へパワーアップするかもしれないのだ。

 他の高性能装備品とはわけが違う。

 まあ、煽られて競り合いに乗せられてしまった悔しさはあるが、後悔は微塵もない。

 

 

 

 思索を巡らせていたところ、再び武器商人がステージに現れる。

 

 おっ!? フランベルジュだ!

 

 それを確認した瞬間、心臓がドクンと跳ねた。

 ここまでの競りで会場はようやく落ち着きを取り戻しつつあり、落札額も大幅に下がっている。

 ワンチャン百万ナールくらいで何とかならないだろうか?

 軍資金も三百万ナール以上残っていることだし、初手じゅうべぇ界王拳を叩き込んで、そのまま一気に突っ走ってやる。

 

 

 

「ほかにありませんか。……ありませんね。それでは、百六十三万ナールでの落札となります」

 

 想定よりだいぶ高くついたが、それでも無事に落札成功だ。

 セブンリーグブーツの件でプレッシャーを与えていたおかげか、他の奴らは序盤で戦意を喪失していき、最終的にはヒルダとの一騎打ちとなったがそれを制しての勝利。

 

 よっしゃー! ミリアの高性能装備品をゲットだぜ!

 

 まさか、彼女が欲しがっていた武器をこんなに早く手に入れることができるなんて、思いもよらなかった。

 バラダム家のみなさんに感謝、感謝。

 

 落札証明を受け取り、次なる戦いに備える。

 装備品はすべて出品されたし、ここからはスキル結晶ラッシュだ。

 魔眼トロールをはじめ、竜に鳥、サイクロプスやトロール、それにコボルト二つとどれも欲しいものばかり。

 資金は乏しくなってきたが、全部落とすつもりで挑んでやるぞ。

 

 

 

 スキル結晶の中で最初に出品された魔眼トロールを二十八万六千ナールで落札したのを皮切りに、片っ端から落としてく。

 オークションが進むにつれ、会場の空気は冷え冷えとなっていき、最後の方はまたこいつかという雰囲気に包まれていた。

 

 そして、白けた目で見られながら最後のコボルトのスキル結晶を落札し、落札証明を受け取ったところで、オークショニアが宣言する。

 

「これをもちまして、すべての出品が終了いたしました。このあとは引き換えを行いますので、落札なさった方はお手元に証明書をご用意の上、ステージ奥の別室へとご移動ください」

 

 その宣言を合図に、会場のあちこちから大きなため息がもれた。

 それと同時に、四方八方から突き刺さる視線。

 

 スネ夫も真っ青なくらい金に物を言わせちまったんだ。妬みや反感を買ってもおかしくはない。

 成金ムーブもほどほどにしておかないと面倒なことに巻き込まれてしまう。

 

 いや、反省は後だ。

 

 頭を振って余計な考えを払い、椅子から立ち上がる。

 

 だいぶ時間もかかったことだし、ちゃっちゃと終わらせてロクサーヌたちが待つ我が家へ帰るとしますかね。

 

 

 

 ステージ奥の部屋へ入ると、金羊毛の帽子を落札した冒険者が引き換えを行なっているところだった。

 

 その様子をなんとなく見ていると、苦いものが混じった笑みを浮かべながらルークが近づいてくる。

 

「今回は完敗です。まさか一千万ナールを超える資金を用意しておられたとは予想もできませんでした」

 

 まあそうだろうな。俺自身、春の七十八日目の段階でそんな大金を手に入れているとは思ってなかったもん。

 

「アユム様の落札価格である、一千十万ナール。この額はスキルが四つ以下の足装備としては、クーラタルのオークションにおいて史上最高額となっております」

 

 うそだろ? マジで?

 

 ルークの顔を見ると真剣な表情で頷きを返す。

 

「たとえ固有名の付いた装備品であっても、足装備でスキルが四つとなりますと、ここまで高騰することはございません」

 

 四つじゃなくて五つだけどな。

 

 それに他人事のように言っているけど、お前のせいでもあるやないか。

 バラダム家にのせられて熱くなった挙句、俺とも張り合ったじゃん。

 

 しかし、まいったなぁ。これは不味いことになったぞ。

 ただでさえ注目を集めていたのに、さらにもう一つ乗っちまった。

 大金を持っていると思われ、狙われる可能性があるだろう。早急に対策を考えなければ。

 

 ……金物屋に依頼して、金庫でも設置するか?

 中に入れるくらいの大きさの人力では絶対に動かせない金庫に遮蔽セメントを塗り込み、空気穴以外を全て塞いで密閉する。

 そうすればワープを持つ俺以外、中身を取り出すことは不可能。

 

 いや、逆にそんなものを設置すれば貴重な物を入れていると勘ぐられたりするか?

 

 

 

 うーん……。まあ、空き巣対策についてはあとで彼女たちに相談するとして、直接俺たちに絡んでくる奴らへの対策も必要か……。

 

 ……やはり迷宮討伐を成し遂げるしかない。

 貴族に成り上がり、その地位を以って抑止力とする。

 そうすれば、こちらを獲物と考える者たちも躊躇するはず。

 

 決意を新たにしたところで、ルークに尋ねてみた。

 

「ところで今回以上の高値が付いたという出品物はどんなものがあるんだ?」

「固有名を持つ装備品は総じて高額ですが、その中でも武器や盾、それに胴装備は別格です。これらが出品されれば、一千万ナールを超えるのは当たり前で、二千万ナールを超えることも珍しくありません」

 

 なるほど。普通に売られている装備品でもそれらには大きな価格差がある。需要が全然違うのだろう。

 

 納得していると、ルークはさらに言葉を続ける。

 

「装備品以外となりますとやはり奴隷ですね。百年以上前にある侯爵家が没落した際、そこの令嬢が奴隷としてオークションに出品されたことがあったそうです。高位貴族の血筋という希少性に加え、抜きんでた美貌を備え、さらに魔道士のジョブに就いていたといいます。その噂を聞きつけ、帝国内はもとより周辺諸国からも買い手が殺到し、最終的には一千万ナールをも超える値が付いたとの記録が残されています」

 

 へー。侯爵令嬢ねぇ。

 百年以上前ってんなら、当然もうこの世にはいないだろう。

 その人は幸せな人生を歩めたんだろうか?

 

 

 

 他の者が引き換えを行なっている間、そのままルークと雑談を続ける。

 

「今回バラダム家は仲買人への手数料を支払っても、二千万ナールを超える資金を得たことになります。これで事業を立て直すことができるでしょう」

 

 そうなんだよなぁ。奴らの出品した物を落札するってことは、そういうことになるんだよなぁ。

 

「以前の勢いを取り戻すと思うか?」

 

 そう問うと、ルークはゆるく首を振った。

 

「それは難しいでしょう。彼らはサボーの力を過信し、やりすぎました。借金の返済や買掛金の支払いをしたところでその恨みは消えません。また今回のオークションで財産のほとんどを売却しています。次に資金繰りが悪化した場合、それを凌ぐことは不可能でしょう。事業規模も縮小せざるを得ません」

 

 よし。それなら俺たちに復讐する余裕なんてないかもしれない。

 まあ、もし絡んでくるのならハルツ公爵家騎士団に出張ってもらおう。

 俺は虎の威を借ることに何の躊躇もないぞ。騎士団の裁定を無視したとオヤビンに言いつけてやる。コンコン!

 

 あっ、ハルツ公と言えば、もう一つ気になっていたことがあった。

 

「滅竜の剣も公爵閣下のご依頼だったのか?」

「ええ。今回、公爵様からは一千万ナールの範囲内で可能であれば両方を。それが難しいなら、まずはセブンリーグブーツ、次いで滅竜の剣を落札せよとのご依頼を受けておりました。優先はセブンリーグブーツでしたので、限界まで粘ってみたのですがアユム様に上をいかれてしまい、やむなく滅竜の剣で妥協することとなりました」

 

 そう言って彼は苦笑いを浮かべる。

 

 絶対に譲るわけにはいかなかったんだ。すまんね。

 

 

 

 そんなやり取りをしていると、不意に低い声が割り込んできた。

 

「まさか個人に出し抜かれるとは思わなかった。貴公は貴族や会頭ではないのだろう?」

 

 声の主はヨハンという豪商。

 

 え? いきなりなんだ?

 継嫡家名があるってことは貴族なんだろうが、初対面の俺がそれを知っているのはおかしいよな?

 これはどんな口調で返事をするべきなんだ?

 

 戸惑っているとルークが彼を紹介する。

 

「アユム様、ご紹介いたします。こちらはヨハン様。帝国西部に領地をお持ちのホーホヴァイデ子爵様の弟君にして、皇族方の御用商人も務めておられるお方でございます」

 

 ナイスルーク。これなら敬語を使っても不自然じゃない。

 

 ルークのナイスパスを受けて返事をしようとしたところ、ヨハンに機先を制される。

 

「買い被るな。私は兄上とは違い、領地を守る力を持たない落ちこぼれだ。たまたま商売が上手くいき、陛下にお声がけいただけたにすぎない」

 

 そんな謙遜を聞かされてどう答えればいいんですかねぇ。

 そうなんすね、とか言ったら不敬になるんだろ?

 

 返答に困っていると、ルークが今度は俺のことを紹介する。

 

「こちらはアユム・タガワ様。先ほどの件からもお分かりの通り、類まれな胆力をお持ちの上、圧倒的な戦闘能力も兼ね備え、その実力はハルツ公爵様もお認めになっているほどです」

 

 そうだぞ。俺のバックにはオヤビンがいるんだぞ。無体なことをしたら言いつけてやるからな。

 

「ほう? ハルツ公が?」

 

 こちらを見ながら呟きを漏らしたので、その機を逃さず挨拶を行う。

 

「はじめまして。冒険者のアユム・タガワと申します。皇帝陛下が能力のない者を御用商人に据えることはないでしょう。そのような重責を担っておられるお方にお目にかかることができ、大変光栄に存じます」

「なるほど。ただの冒険者ではないようだ」

 

 彼は俺の言葉を聞き、納得したように頷いた。

 

 何故そう思ったのかは不明だが、実際ただの冒険者じゃなく、チート能力を授かった冒険者なので間違いじゃない。

 

「いずれ顔を合わせる機会もあるかもしれんな。では、私はこれで失礼する」

 

 そう告げ、彼は連れの冒険者を従えて出口へと向かっていった。

 

 皇帝ガイウスが御用商人に据えたというのなら、本当にその機会が訪れるかもしれない。

 

 

 

 ヨハンが部屋から出るのを見送ったところで引き換えを終えたヒルダがやってくる。ルークは彼女と一声交わし、落札品の引き換えのためにこの場を離れた。

 

「アユム様、この度はおめでとうございます。私もコラレンブフト侯爵様の命を受け、全力を尽くして挑みましたが、セブンリーグブーツも、フランベルジュも、とてもアユム様には及びませんでした」

 

 へー、侯爵ねぇ。やはり彼女も代理人として参加してたんだな。

 

「そちらこそ、竜燐の鎧を手に入れていたな」

「ええ。セブンリーグブーツと滅竜の剣には手が届きませんでしたが、侯爵様が三番目にお望みになっていた品を何とか落札することができました。これで面目を保つことができそうです」

 

 ヒルダは安堵の色を浮かべてそう言った。

 

 落札できなかったとしても、それは設定金額が低いせいであって代理人のせいじゃないだろうに、そんなことを言うわけにもいかないんだろう。

 こいつらはこいつらで苦労があるのかもしれない。

 

 

 

 ヒルダと会話を交わしているうちに、ルークが戻る。

 

「アユム様、今回は大変勉強になりました。それでは私はこれで失礼いたします」

 

 ルークのその言葉を聞いてヒルダも頷いた。

 

「ええ、本当に。私もこれを教訓といたします。またお会いしましょう」

 

 仲買人二人と別れの挨拶を交わし、出品代行の武器商人の所へ移動する。

 

 九枚の落札証明を差し出すと、男は真剣な眼差しで一枚一枚確認をしていく。

 そして、全てのチェックを終えたところで、スキル結晶を確認するためにギルド神殿へ行こうと告げてきた。

 

 だが、鑑定で間違いないことは確認できているため、商人ギルドを信じていると告げてそれを回避する。

 

 その言葉に戸惑った様子だったものの、それならと納得してくれた。

 全部確認すると七百ナール。百ナール足すとキャミソールが買える額なのだ。もったいないお化けが出るわ。

 

 続いて支払額の確認が始まった。

 

「それでは金額の確認をお願いいたします。セブンリーグブーツが一千十万ナール、フランベルジュが百六十三万ナール、魔眼トロールのスキル結晶が二十八万六千ナール、竜のスキル結晶が一万五千五百ナール、鳥のスキル結晶が一万千二百ナール、サイクロプスのスキル結晶が九千九百ナール、トロールのスキル結晶が七千六百ナール、そしてコボルトのスキル結晶が五千五百と五千三百……」

 

 値引スキル先生、お願いします!

 

 心の中で必死に祈りながら耳をすます。

 

「合計千二百七万千ナールとなります」

 

 しかし、願いもむなしく例の口上は聞こえてこない。

 

 原作でベスタを購入するときには三割引が効いたから、もしかしたらと期待していたが、やはり駄目だったかぁ。

 たぶんベスタのときは所有者本人が出品していたから三割引が有効になったのだろう。

 今回は出品を代行しただけで、彼の所有物ではないため割引スキルが発動しなかったと考えられる。

 

 だが、そうなると世話役のオネスタに割引が効いたのは何故なんだ?

 もしかして、あの家は管理を委託されているわけではなく、彼女たちの所有している物件なのか?

 

 いや、そんなことを考えている場合じゃないな。

 

 なるべく白金貨を温存するために大量の銀貨と金貨を混ぜて支払いを行なったが、手元に残った白金貨はわずか二枚。

 

 レートが不明なのではっきりとしたことは分からないが、もしかしたら日本円に換算したら数億円、下手をすれば十億円以上の金を使ったのかもしれない。

 

 ……今になって足が震えてきた。

 

 あぶく銭を稼いでそれを一気に散財って、まるで両さんじゃないか。借金を背負わないよう、気を付けないと……。

 

 さっさと帰ってロクサーヌ、セリー、ミリアに癒してもらおう……。

 

 

 

 

 

田川 歩 男 18歳

冒険者Lv47 勇者Lv36 遊び人Lv52 商人Lv47

装備 竜燐の靴 身代わりのミサンガ

 

BP振分 残BP:5

キャラクター再設定:1

フォースジョブ:7

必要経験値二十分の一:63

詠唱省略:3

鑑定:1

ワープ:1

ジョブ設定:1

三十パーセント値引:63

 

所持金:3,002,308ナール

 

春の78日目




いつも拙作をお読みいただき本当にありがとうございます。

更新を続けていけるのは、お読みいただいた皆様と素晴らしい作品を生み出した原作者様のおかげです。
また、UA、お気に入り、感想、評価、ここすきといった反応が本当にモチベーションになっています。

今回の連続更新はここまでとなりますが、これからもマイペースに更新していきますのでお楽しみいただければ幸いです。
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