異世界迷宮へ行ったなら   作:三星織苑

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223 空中舞踏

 

 

 

 

 

クーラタル郊外

アユムの家

 

 

 

 

 

 セリーとミリアが近づいてくると、ロクサーヌは名残惜しそうに身を離した。

 全員と口づけを交わしたところで、各々元の場所へ腰を下ろす。

 唇や口内に残る感触を思い返しているのか、三人とも恍惚とした表情で余韻に浸っている。

 

 俺とのキスをこれほどまでに喜んでくれるなんて、本当に嬉しい限りだ。

 

 

 

 それにしても、ロクサーヌがあそこまで感激してくれるなんて、本当にセブンリーグブーツを落札することができてよかった。

 固定ガチャは現実的ではないようだし、固有名の付いた装備品なんてそうそう入手する機会はないだろう。

 今回落札できたのは色々な偶然が重なった幸運に過ぎない。

 マジで『バラダム家のみなさんのおかげです』だ。『バラダム家のハンマープライス』だ。『バラダム家の生でダラダラいかせて!!』だ。

 

 しかし、ルークによると固有名の付いた装……。全然関係ないが、いちいち長ったらしいなぁ。

 うーん……。よし、今後はユニーク装備とでも呼ぶことにしよう。

 

 まあそれはともかく、ルークの話ではユニーク装備が出品されるのは数十年に一度らしい。

 そうなると、これから先に新しいユニーク装備を入手する機会はないと思っていた方がいいだろう。

 

 だがたとえそうだとしても、希望がないわけじゃない。

 例えば敏捷五倍と移動力増強、それから跳躍力五倍と空中跳躍を組み合わせれば、歩雲履やセブンリーグブーツに匹敵する性能の装備品を作り出すことも可能だ。

 我がパーティーの頼れる匠の成長に期待しておこう。

 

 

 

 思索に耽っていると、落ち着きを取り戻したセリーが問いかけてきた。

 

「それにしても、どうやってスキルが五つ付いた固有名の付いた装備品を手に入れたのですか? 常識的に考えれば絶対に不可能だと思うのですが……」

 

 彼女だけではなく、ロクサーヌとミリアも揃って興味深そうにこちらを見つめている。

 

 ふふん。気になる? 気になっちゃう?

 

 あ、でもその前に。

 

「固有名の付いた装備品ってのは長いから、今後はユニーク装備って呼ぶことにしよう」

「なるほど。確かにその方が呼びやすいですね」

 

 ロクサーヌが納得したように頷くと、セリーとミリアも揃って同意を示す。

 

「そうですね。短い方が効率的です」

「ユニーク装備……。はい、分かりましたー」

 

 気を取りなおして、質問に答える。

 

「実はセブンリーグブーツは一千十万ナールで落札することができたんだ」

「一千十万ナール!? あり得ない価格ですよ!?」

 

 セリーの口から放たれた声が部屋に響き渡る。

 

「でも、どうしてそんなことができたんですか?」

「きっと他の者はご主人様の覇気に圧倒されて入札を控えたのでしょう。さすがご主人様です」

 

 小首をかしげ、頭の上からハテナを出していそうな表情で尋ねるミリアと、誇らしげにさすごしゅを決めるロクサーヌ。

 

 ロクサーヌさんや。いくらなんでもそんなはずないじゃないですか。俺はそんなもの持ち合わせていないです。

 

 ……この娘、これを本気で言ってるんだよなぁ。

 

 咳ばらいを一つして、話を続ける。

 

「実はセブンリーグブーツのスキルは四つだと思われていたんだ。出品したバラダム家、確認をした商人ギルド、そして会場に集まった参加者たち。誰一人としてそのことを疑っていなかった」

 

 それを聞いたセリーは可愛い顔にシニカルな笑みを浮かべ呟きを漏らした。

 

「……なるほど。そういうことでしたか」

 

 どういうことだってばよ?

 三人で彼女を見つめ続きを促すと、淡々と推論を語り出す。

 

「おそらくバラダム家もオークションで手に入れたのでしょうが、その際に確認されていたスキルの数が四つだったのだと思われます。その後は家宝として大切にしまい込み、一度も実戦で使わなかったのでしょう。もし迷宮で使用して全滅でもすれば取り返しがつきませんからね。簡単に試せるわけがありません」

 

 言われてみれば納得だ。

 普段からボーナス装備品を当たり前に使っているため、セブンリーグブーツを実用品としか見ていなかった。

 しかし、普通の感覚なら国宝や家宝を探索に持ち出すなんてありえない。

 そんなもん、天下五剣を戦場に携え、銃弾飛び交う中で振り回すようなものだ。

 

 そう考えると俺のやってることは、他人から見るとクレイジーに映るんだろうなぁ。

 

 そして、セリーの表情に渋いものが浮かぶ。

 

「スキルが四つだと思われていたのなら、たとえユニーク装備だったとしても一千十万ナールは高すぎます」

 

 そうなんだよなぁ。ルークもスキルが四つ以下の足装備では史上最高額だって言ってたし。

 

「方々で噂を流して期待を煽りに煽り、参加者たちの欲望を刺激して我を忘れさせたバラダム家の勝利ですね……」

 

 セリーがため息を吐きながらそう言うと、ミリアが首を横に振った。

 

「そんなことないですよー。実際にはスキルが五つのユニーク装備を手に入れたんです。しかもそれだけじゃなく、有用な物は全部ご主人様のものになりました。全然負けてなんかいません」

「ええ。ミリアの言う通りです。今回のオークションはご主人様の完全勝利と言えるでしょう」

 

 二人の言葉に、セリーの頬も綻ぶ。

 

「……そうですね。落札価格を抑えることができなかったのは残念ですが、トータルで考えると一千万ナール以上の資産を増やしたことになるでしょう。確かにご主人様の完全勝利です」

 

 一千万ナール以上の資産を増やした? つまりスキルが五つのユニーク装備は、たとえ足装備であっても二千万ナールを超える価値があるってことか。

 それを遥かに凌駕する、スキル六つの装備品を普段使いしている男がいるんですって。

 

 ……とんでもねぇイカレ野郎だなぁ。

 

 

 

 話がまとまったところでそれぞれの落札価格を告げる。

 

「――というわけで残金は三百万ナールにまで減ってしまった。でも安心して。資金が大幅に減って貧しくなってしまったけど、食費や君たちの給金を削るようなことは絶対にないから」

 

 どんな状況に陥ろうとも、この娘たちに金銭的な苦労を背負わせるわけにはいかない。

 これは自分自身に課した責務。どんなことがあっても貫いてみせる。

 

 決意を新たにしていると、呆れ顔のセリーが口を開く。

 

「ご主人様……。三百万ナールは大金です。一般人がそれだけのお金を貯めようと思ったら、何十年もかかるでしょう」

 

 あっ、言われてみれば確かに。

 一千二百万ナールを一気に使ったことと、金銭感覚が馬鹿になっているせいで貧しくなった気がしていたが、よくよく考えれば今でも世間一般から見れば十分大金持ちだ。

 

 ロクサーヌとミリアも、彼女の言葉に深く頷いている。

 

 そうだな。これだけあれば生活に困ることはない。今まで通りの暮らしを続けながら、また貯めていけばいいさ。

 

 

 

 一通り話が済むと、ロクサーヌが待ちきれないとばかりに身を乗り出してきた。

 

「ご主人様、オークションや話し合いがあったため、普段の時間をだいぶ過ぎています。このまま迷宮へ行って、新しい装備品を試すべきではないでしょうか!」

 

 この娘、めちゃくちゃ浮かれてるわ。痛快ウキウキ通りだわ。

 

 セリーも好奇心が抑えきれないようで、大きく頷いている。

 だが、ミリアの視線は羨ましそうにセブンリーグブーツへ向けられていた。

 

 いつも楽しそうに歩雲履で遊んでたし。やっぱ欲しいんだろうなぁ。

 しかし、これはロクサーヌ専用装備。ミリアに渡すというわけにはいかない。

 かといって歩雲履はボーナスポイントを63も消費するため、これを渡すのも不可能。

 となると……。

 

「ロクサーヌ、ちょっと待ってね。セリー、蜘蛛やカエル、それに鯉のスキル結晶は、別に足装備以外に融合しても問題ないんだよね?」

「え? はい、防具ならどれにでも融合することはできますが……」

 

 オッケー。それなら問題ナッシング。

 

「せっかくセブンリーグブーツが手に入ったんだ。さらに戦力を強化するため、スキルスロットが三つ付いた竜革のジャケットにこれらのスキル結晶を融合しよう。ミリア、いずれ跳躍力五倍や空中跳躍の付いた装備品を用意するから、しばらくはこれ――」

「ご主人様!」

 

 話の途中で、柔らかな感触が俺の体を包む。

 そして、唇が重ねられ、貪るように舌を吸われてしまった。

 

 ああ……。ざらざらとした舌の感触が気持ちいいんじゃぁ……。

 

 蕩けるような快感に身も心も持っていかれてしまう。

 

 

 

 ミリアだけではなく、ロクサーヌとも、そしてセリーともキスを交わし、再びソファーへ腰を下ろした。

 

「ご主人様! 私のためにありがとうございます!」

 

 ミリアは太陽のように眩しい笑みを浮かべ、興奮で潤んだ瞳をこちらへ向けている。

 

 なあに、いいってことよ。

 

 愛らしいネコミミ娘と目を合わせていると、セリーが控えめに口を開いた。

 

「ですが、それだと少し困ったことになります。いまミリアが身に着けている胴装備はオラクル竜革ジャケット。これを入れ替えた場合、魔法攻撃に弱くなってしまいます」

「それなら私の盾と交換しましょう。古代樹の盾には空きスロットが二つありますからね。これに魔法ダメージ削減のスキルを付ければ大丈夫です」

 

 セリーの懸念に対し、ロクサーヌが即座に解決案を提示する。

 

「なるほど。確かにそれなら問題ありません」

「お姉ちゃん! ありがとうございます!」

 

 納得したように笑みを浮かべるセリーに、大きな声で感謝を伝えているミリア。

 そして、優しい表情でそんな二人に頷きを返すロクサーヌ。

 

 今日も『いせはれ!』は大好評オンエアー中だ。

 

 

 

 それからセブンリーグブーツを所有していることや、大金を持っていると知られたことについて相談を行う。

 セリーによると、迷宮探索を生業とする者は白金貨や金貨、それに貴重なアイテムや装備品を全てアイテムボックスに入れて持ち運ぶため、空き巣に狙われることはまずないらしい。

 それに後をつけて人気のない場所や迷宮で盗賊が襲ってくる可能性も低いだろうとのことだった。

 一千万ナールを持っている冒険者となれば、確実に高階層で戦える者ということになる。なので、そんな奴に手を出すのは割に合わないと考えるらしい。

 確かに言われてみればその通りだ。盗賊が迷宮で網を張っているのは十二階層前後。俺を狙うくらいリスク計算ができない奴なら、もっと上の階層で盗賊稼業を行なっているわな。

 

 絶対に安全とは言い切れないものの、それほど問題はないらしい。よかった、よかった。

 

 

 

 話し合いが終わったところでお嬢様方の要望もあり、すぐ迷宮へ出ることにした。

 全員で二階へ上がり、俺は自室からスキル結晶を、ロクサーヌも自分たちの部屋から古代樹の盾を回収し、物置部屋へ移動する。

 

 そして、セリーがあっという間に超貴重な装備品を作り上げた。

 

迅速の竜革ジャケット 胴装備

スキル 敏捷二倍 跳躍力二倍 空中制動

 

オラクル古代樹盾 盾

スキル 魔法ダメージ削減 空き

 

 よっしゃ、オッケー。いいじゃない、いいじゃない。

 それじゃあ、装備を整えたら迷宮探索へレッツラゴー。

 

 

 

 

 

ハルバーの迷宮

三十六階層

 

 

 

 

 

 玄関から迷宮入口、そしてそこから三十六階層へ移動する。

 新装備の性能を確かめるため、一言断ってからロクサーヌとミリアが動き始めた。

 

 ロクサーヌは地面、壁、天井を足場に二段ジャンプを組み合わせて跳ね回る。

 その様子はまるでスーパーボール。目で追うのも難しいほどだ。

 

 一方、ミリアは二倍になった跳躍力でふわりと飛び上がり、空中で姿勢と落下の軌道をズラすという動作を繰り返す。

 それが済むと、今度は三角飛びで壁を蹴り、頂点へ到達する前に空中制動のスキルを用いて体勢を整え、天井を蹴って滑らかな身のこなしで着地を決めてみせた。

 

 二人ともまるで空中でダンスをしているみたいだぞ……。ほんと、とんでもない娘たちだなぁ。

 

 

 

 セリーと並んで呆気に取られていると、一頻り動いて満足したのか、弾むような足取りで二人が戻ってくる。

 

「ご主人様! セブンリーグブーツは本当にすごいです! これならもっともっとお役に立てます!」

「ご主人様! 思い描いた通りの動きをすることができました! 見てくれましたか!?」

 

 強い強い。圧が強いって。

 二人とも、興奮で瞳がキラッキラだ。

 

「ああ。ロクサーヌもミリアも本当に素晴らしい動きだった。この後の戦闘でも期待している」

「はい! お任せください!」

「ご主人様のお役に立ちますよー!」

 

 尻尾を嬉しそうに揺らし、無邪気な笑顔で良い子のお返事をする二人。

 

 うん。元気でよろしい。

 

 

 

 いつものようにロクサーヌを先頭に通路を進んでいると、程なくして声が響く。

 

「ご主人様! この先に敵です!」

 

 新しいおもちゃを試せるのが余程楽しみらしく、その声には隠し切れない喜びが混じっている。

 

「分かった。ロクサーヌ、ミリア。新しい装備を実戦で試してみてくれ」

「かしこまりました!」

「やっちゃいますよー!」

 

 テンションたっか! ほんと、浮かれてんなぁ。

 まあ、この娘たちなら油断してやられるなんてことはないだろう。

 

 そのまま通路を進むと、ぴょんぴょん跳ねながら迫るコラージュコーラルが三匹に、壁と天井に張り付きながら近づいてくるスパイススパイダーが三匹。

 

 魔物を視認した瞬間、ロクサーヌが風のように駆け出した。

 一足飛びにコラージュコーラルへ迫り、エストックを叩きこむ。

 そのまま跳躍し、魔物の背を踏み台にして天井の蜘蛛へ突きを繰り出すと、さらに二段ジャンプを駆使して壁際の蜘蛛へ襲いかかる。

 壁へ着地を決めると、逆サイドへ跳び移り続けざまにもう一匹の蜘蛛を貫き、今度は頭上から舞い降りるようにコラージュコーラルを強襲。立て続けに二匹へ剣を振るう。

 瞬く間に全てのヘイトを取り、信じがたい動きで敵を翻弄し始めた。

 

 あまりのことにその様子を呆然と見ていると、今度はミリアが動き出す。

 

 ロクサーヌと魔物の隙間を縫うように駆け、飛び上がって空中で軌道を変えると、そのままコラージュコーラルの背に着地。

 そこからさらに跳ね上がり、行き掛けの駄賃とばかりにスパイススパイダーに攻撃を加え、そのまま天井を蹴って、別のサンゴの背後へ降りるとレイピアを振るう。

 二人はまるで事前に打ち合わせでもしていたかのようにお互いの動きを把握しており、ぶつかる気配は一切ない。

 

 蜘蛛の脚が振り上げられた瞬間、ロクサーヌは逆にその脚を踏み台にして宙へ跳躍し、背後に回り込む。

 ミリアもまた、跳躍から三角飛びを連続させ、迷宮の壁と魔物の体を自在に組み合わせた即席の足場で飛び跳ねている。

 

 お互いに攻撃と援護を繰り返すその姿は、戦闘というよりもはや舞踏だ。

 

 ……ツインバードストライクとか、ランページゴーストを見てるみたいだなぁ。

 

 

 

「……すごすぎます」

 

 セリーの呟きでハッと我に返る。

 

 いかん、いかん。俺が攻撃しないと戦闘が終わらない。

 

 気を取り直してダブルスペルを叩きこんだ。

 

 

 

 全身を覆っていた炎が消え去ると、魔物は実体を失い空気に溶けていく。

 ロクサーヌとミリアは同時に軽やかな着地を決め、誇らしげにこちらへ振り返る。

 

「ご主人様! セブンリーグブーツはすごいです! これなら今すぐ五十階層に挑んでも問題ないでしょう!」

 

 ロクサーヌの言葉に続き、ミリアも口を開いた。

 

「お姉ちゃんの言う通りです! ドンドン進んでいきましょう!」

 

 こら、落ち着け。

 

 ドン引きしていたセリーと共に、イケイケゴーゴーになっている彼女たちを説得し、我がパーティーのモットーを改めて言い聞かせる。

 

 いのちだいじに、安全第一。

 

 不承不承頷いているケモミミっ娘たちを促し、待機部屋を目指しながら進軍を開始した。

 

 

 

「ご主人様、そろそろ夕方になります」

 

 ひたすら狩りを続けていると、ロクサーヌからいつもの声が聞こえてくる。

 

 待機部屋にはたどり着けなかったか。

 今日は午前中に武器屋と防具屋にも行ったし、オークションのために早めに切り上げている。

 それに午後もオークションと話し合いで探索開始が遅れてしまった。まあしょうがないな。

 

 レベルを確認すると、早朝に続き勇者、魔道士、商人が上がっていた。

 オッケー、オッケー。順調、順調。

 

 三人と喜びを分かち合い、迷宮を後にする。

 

 

 

 

 

クーラタル郊外

アユムの家

 

 

 

 

 

「ふぅ」

 

 歩雲履とセブンリーグブーツを装備したロクサーヌとミリアが、悟空とベジータばりのバトルを繰り広げる様子を見て思わずため息が漏れた。

 

 三人がかりで挑んだものの、とんでもないパワーアップを果たしたロクサーヌ師匠にまったく歯が立たず、俺たちはただただ地面を転がるばかり。

 修業ではセブンリーグブーツを封印しようと提案したものの、優しくも厳しい師匠はそれを聞き入れてはくださらなかった。

 曰く、『強敵を相手にする際の良い訓練になります』とのことだ。

 いくらなんでもスパルタ過ぎるでしょうよ……。

 

 さらに、オーバーホエルミングを用いた修業でも、ロクサーヌとミリアが圧倒的な機動力を手に入れたことで俺の動きについてこれるようになっていた。

 これまでのように策を練って追い詰めるのではなく、正攻法で攻撃を当ててくるのだ。

 

 オリハルコンの剣で素振りをしながら思索を巡らせる。

 

 オーバーホエルミングやオーバードライビングの対人最強神話は完全に崩れてしまった。

 もし歩雲履級の装備品を持つ手練れの盗賊に襲われたら、不味いことになる。

 そして、さらに危険なのは貴族と敵対した場合だ。それを所有している確率はこちらの方が高いだろう。

 

 どうしたもんかなぁ……。

 

 人に見られないことを前提に、ボーナスタイムと殺傷能力の高い魔法を組み合わせるか?

 

 ……駄目で元々。とりあえず試してみよう。

 

 剣をアイテムボックスに収め、ボーナスポイントとジョブを変更する。

 準備が整ったところでファイティングポーズを取りながら念じた。

 

オーバードライビング

 

 ボーナスタイムを作り出し、想像上の敵を相手にパンチとキックを叩き込む。

 コンビネーションを意識して途切れなく攻撃を続け、右手を大きく振りかぶった。

 

「Are you OK?」

 

 そのまま前に突き出し、左手を腕に添える。

 

バーンウォール

ウィンドウォール

ブリーズボール

 

「Buster Wolf!」

 

 轟音とともに火炎旋風が巻き上がり、それを纏った不可視の球が一直線に駆け抜けてイメージの敵を吹き飛ばした。

 炎の渦が目の前で燃え盛り、やがてボーナスタイムの終了とともにエフェクトも消えていく。

 

 ……うん。実戦でも使える気がするな。よし、次だ。

 

 

 

 立て続けに大蛇薙、覇王翔吼拳を放ったところで、三人が駆け寄ってくる。

 

「ご主人様! 今のは新しいスキルですか!?」

 

 興奮と好奇心で瞳をキラキラさせながら問いかけてくるロクサーヌに、同じ表情を浮かべているセリーとミリア。

 

 その誤解を解きつつ、懸念事項を相談してみることにした。

 

 

 

 話を聞き終えるとセリーがおずおずと口を開く。

 

「あの……、歩雲履級の装備品を身につけた手練れの盗賊なんて、絶対にいないと思いますよ?」

 

 そういうもん?

 

 尋ねたところ、ロクサーヌが頷きながら答えた。

 

「はい。そんな希少品を入手できるほどの者なら、盗賊に身をやつすことはありません」

 

 その言葉にミリアもコクコク頷いている。

 

 なるほど……。考えてみれば、ユニーク装備を入手できる者なんて限られている。

 富豪や貴族、皇族の下にあるそれを奪えるくらいの能力があれば、そこまで落ちぶれることはないのだろう。

 とにかく、盗賊については心配する必要はなさそうだ。

 そうなると問題は貴族に絡まれたときだよなぁ。

 

 思索に耽っていると、ドヤ顔のロクサーヌがこちらを向いて胸を張る。

 

 でっか! このすごいふくらみに触れることができるなんて、俺はなんて幸せな男なのだろう。

 

 ……いやいや、違う違う。今は煩悩に惑わされている場合じゃない。

 

「ご主人様はそう遠くないうちに貴族へ成り上がるお方。たとえ敵対する貴族が現れたとしても、何の問題もありません!」

 

 ……それはどうなんだろう?

 叙爵が認められる迷宮って、どのくらいの階層に成長しているんだ?

 おそらく一、二年で討伐できるようなレベルじゃないよな?

 

 考え込んでいると、セリーが補足するように告げる。

 

「ご主人様は始まりの五公爵であるハルツ公爵家とのつながりがあります。それに帝国解放会という重要な組織に所属していますから、たとえ敵対的な貴族がいても、そう簡単に手出しできないはずです」

 

 それもそうだな。成り上がるまではオヤビンにおんぶにだっこでいこう。

 

 セリーの言葉に乗っかって、ニコニコ顔のミリアが悪びれもせずに言い放った。

 

「そうですね。公爵様に助けてもらいましょう。コネがあるなら使った方が得ですよー」

 

 ……ほんと、肝の据わった娘さんだなぁ。

 

 

 

 

 

田川 歩 男 18歳

冒険者Lv47 勇者Lv37 遊び人Lv52 魔道士Lv47 魔法使いLv53

装備 竜革の帽子 頑強の竜革鎧 倹約の硬革グローブ 竜燐の靴 身代わりのミサンガ

 

BP振分 残BP:0

キャラクター再設定:1

フィフスジョブ:15

必要経験値二十分の一:63

詠唱省略:3

足装備六:63

 

所持金:3,037,420ナール

 

春の78日目

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