柔らかな温もりに包まれながら、意識が少しずつ浮上していく。
ああ……。昨夜は本当に濃密な時間を過ごした。
新しい装備がよっぽど嬉しかったのか、ロクサーヌとミリアはまるでサキュバスのような艶めかしさで激しく求めてくれ、セリーもサポートするように、的確な愛撫で俺たち三人の性感を巧みに導いてくれた。
何度も身体を重ね合わせ、数えきれないほど精を吐き出し、彼女たちと共に何度も絶頂に酔いしれたものだ。
彼女たちの身体を感じたまま、永遠のまどろみの中で寄り添っていたい。
思わずそんなことを考えてしまうほど、幸せに満ちた夜だった。
「ご主人様、おはようございます」
「おはようございます。ご主人様があまりにもすごかったので、いつの間にか意識を失っていたようです」
「本当にすごかったですからねー。あっ、おはようございます!」
馬鹿な妄想をしていると、清涼感のある美しい声に、特徴的で癖のあるキュートな声、それから天真爛漫で愛らしい声が次々と耳に届く。
「ロクサーヌ、セリー、ミリア。おはよう。今日も一日よろしく」
三人の返事を聞きながら、ベッドから起き上がり朝の準備を始める。
身だしなみを整えたところで、いつものように彼女たちと唇を重ねた。
うん。こっちの方が幸せだな。
世界で五本の指に入る美貌と能力を兼ね備えた女性たちと、毎朝こうして口づけを交わすことができる。
これ以上の幸福がこの世に存在するだろうか。
甘美な夢の中で永劫に過ごすなんてのは、うちはマダラかゼーレにでも任せておけばいい。
俺は迷宮探索者、田川歩。今日もまたスリリングでエキサイティングな日常の始まりだ。
リビングへ移動したら打ち合わせを行う。
昨日に引き続き三十六階層の待機部屋を目指して探索を行う予定だが、その前に片付けておかなければならないことがある。
明日は春の八十日目で、スリープウールの納品期限だ。
納品数が百七十五個に対し、現在手元にある数は百三十五個。
突発的なことが起こると怖いため、残り四十は今日で集めることにしよう。
そう説明すると、彼女たちも同意してくれた。
「何度も繰り返し魔物を狩ることになると、ご主人様の寿命に影響を及ぼすかもしれません。以前と同じくオーバードライビングは使用しないことにしませんか?」
ロクサーヌの言葉に頷きながらセリーも口を開く。
「ボスとして現れるスリープシープは比較的安全に倒すことが可能です。それなら余計なリスクを負うべきではありません」
「そうです。少しでも長くご主人様と一緒に過ごしたいですからねー」
ニコニコ笑顔でミリアがそう付け加えた。
こんなに想われているなんて、本当に幸せだよなぁ。
「分かった。時間はかかるけどオーバードライビングはナシにしよう。ロクサーヌ、セリー、ミリア。俺のことを考えてくれてありがとう。その気持ちが何より嬉しいよ」
それを聞いた三人の顔にも柔らかな笑みが浮かんでいた。
彼女たちのその表情を見ているだけで、胸の奥がじんわりと温かくなる。
ボス部屋に乗り込むと、いつものようにフロア中央に靄が渦を巻き、やがて二頭の眠れるヒツジが姿を現す。
全然関係ないが、眠れる獅子の強敵感に比べて、眠れるヒツジってメルヘン感満載やな。
手前側のスリープウールを取り囲み、彼女たちと視線を合わせて頷きを交わす。
それじゃあ、やりますかね。
ラッシュ
ラッシュ
スラッシュ
三つのスキルを重ねた剣撃が凄まじい勢いで羊の巨体へ突き刺さる。
その刹那、野太い悲鳴がフロアに木霊した。
自分に攻撃をした者へ体を向けようとしたものの、頼もしいパーティーメンバーがそれを許さない。
三人とも俺へ向いたヘイトを剥がすべく、少しずつ位置を変えながらガンガン攻撃を入れている。
こちらも奴の真後ろをキープしつつ、トリプルアタックを何度もぶちかましていく。
そして、数分後。
「ふぅ」
二匹目のスリープシープが靄となって消えたところで口から息が漏れた。
普段は時間が引き延ばされている上に攻撃力も引き上げられているため、一匹当たりにかかる時間も短い。
そのせいで全然意識していなかったが、取り囲んでフルボッコってのは、はた目にはかなり酷い光景だろう。
どうみてもリンチって感じで、ちょっとあれだよな……。
でもまあ、安全には代えられない。命あっての物種だし、このまま突っ走ってやるさ。
受け取ったドロップアイテムをしまい込み、再戦のためにワープゲートを展開する。
朝食を挟みつつ、ボス部屋への出入りを繰り返し、ヒツジさんをリンチするという作業を繰り返す。
魔物の体が消えていったところで、ロクサーヌとミリアがドロップアイテムを拾い、こちらへ差し出した。
おっ。両方スリープウールじゃん。
受け取ったそれをアイテムボックスに収め、表示されている数を確認してみる。
五十個が三スタックに、二十一個が一スタック。合計百七十一個……。
納品数は百七十五個だが、予備も含めて多めに集めておきたい。
プラス二十個で百九十五個くらいかな?
その旨を彼女たちに告げ、再びヒツジ狩りに戻る。
スリープシープが消え、残ったアイテムを鑑定したところで、無事目標を達成したことが確認できた。
オッケー。これでボスマラソンは終了だ。
受け取ったアイテムをしまい込んだところで安堵の息が漏れる。
このハルバーの迷宮を横取りするためにはレベル上げが急務だというのに、嗜好品のためにかなり時間をロスしてしまった。
これは心の贅肉って奴だろうか?
いやでも、人生の三分の一は睡眠だ。その質を高めることは重要なことだろう。
睡眠は迷宮探索におけるパフォーマンスにも直結するため、必要なことなのだ。何の問題もない。
それに無理をしてまでこの迷宮を攻略する必要もないし、ネトゲ廃人みたいな動きを続けていればそのうち破綻してしまうだろう。
俺はエンジョイ勢として、のんびりマイペースに生きていこう。
……もっとも、危機が迫ったときには持てるチート能力を全開にして対応するけどな。
そんな取り留めのないことを考えていると、ロクサーヌが声を掛けてきた。
「これでスリープウール集めは終了ですね。まだだいぶ早いですが、このまま昼食にして午後の探索を早めに始めませんか?」
視線を向けると、セリーとミリアも期待に満ちた目でこちらを見つめている。
うーん……。そうだな。
このまま探索を開始するより、午後の時間を長くした方がいいかもしれない。
「分かった。それじゃあ、昼食に戻ろう」
支度を整えて迷宮を後にする。
食材を買いに行く前に、まずはスリープウールの納品を済ませることにした。
店に入ると注文の対応をしてくれた女性がこちらに気付き、笑顔で声を掛けてくる。
「いらっしゃいませ。スリープウールの納品でしょうか?」
「ああ。無事に用意できたのでな」
「それはようございました。お客様は随分と広い伝手をお持ちなのですね」
どうやら伝手をたどって搔き集めたものだと思っているらしい。
わざわざ自分たちで集めたなんて訂正して、余計な疑念を抱かせるのも面倒だ。このままスルーしておこう。
「おかげさまでな。それで、物はどこに出せばいい?」
「あ、私一人では確認が難しいので、人を呼んでまいります。少々お待ちくださいませ」
そう言って頭を下げ、彼女は店の奥に入っていった。
程なくして男二人を伴い店内に戻ってくる。
おっ、見覚えのある顔だ。毎回、家具を運んできてくれる連中じゃないか。
「おお! あなたでしたか! 毎度ありがとうございます!」
「いやー。そちらに配達に行った日はこいつと一緒に一杯やらせてもらっています」
どうやら心づけを喜んでもらえたようだ。
「こちらこそ世話になった。ベッドのオーダーをしているから、そのうちまた配達してもらうことになるだろう。よろしく頼むな」
すると、彼らは嬉しそうな表情で答える。
「ええ。もちろんです」
「しっかり配達させてもらいますよ」
またチップをもらって一杯やれると思っているらしい。
……まあ、銀貨二枚でしっかり仕事をしてもらえるなら安いもんさ。
話が終わったところで、俺たちのやり取りを見守っていた女性が促す。
「それでは、こちらのカウンターへ十個ずつ出していただけますか」
「分かった。十個ずつだな」
そこからは完全に流れ作業だ。
俺がアイテムボックスから十個取り出してカウンターに並べ、女性がそれを数える。数え終わったら男たちが奥へ運んでいき、空いたタイミングでまた十個。
最初のうちは俺の作業が早く、カウンターの上で渋滞を起こしていたため、カウントが終わって持っていった直後に出すようにした。
「八百千五百のお宝を、収めし蔵の掛け金の、アイテムボックス、オープン」
十個出してカウンターに置くと、女性店員のカウントが始まる。
「一、二、三、四、五、六、七、八、九、六十。持っていって」
「あいよ」
数え終わったそれを男が持っていったところで、入れ替わりにもう一人が戻ってくる。
それをひたすら繰り返す。
「全部で百九十五個……。二十個多いようですが、余った分はどうなさいますか?」
予備ってことで多めに用意したが、不良品はなかったようだ。
いや、そもそもドロップアイテムに不良品なんてあるわけないか。
うーん……。どうしよう? 残りは売却するか?
ん?
考え込んでいると、袖をクイクイと引っ張られる。
そちらに目を向けたところ、瞳をキラキラ輝かせているネコミミ娘の姿が。
「ご主人様! 聞くところによるとスリープウール製の枕はとても素晴らしい寝心地だそうです! 余った分は枕にするのが一番だと思います!」
期待全開の表情が可愛すぎるわぁ。反則級だわぁ。
ロクサーヌとセリーの方を見遣ると、二人もにこやかに頷いている。
オッケー。それじゃあ、枕を作ってもらうってことで。
もし材料が足りないようなら再度ボスマラソンだな。
「聞いての通りだ。余った分は枕にしてもらいたい。オーダーしたベッドは六人で使用するので、それに合わせたものを頼む」
「六人分……。それは六人で使える大きな枕を一つですか? それとも一人用を六つでしょうか?」
いくら長くたって六人が一つの枕を使うのは、さすがになぁ。
うん。一人一個でいいだろう。
「では、一人用を――」
「ご主人様! 二人用が一つと一人用が四つでいかがでしょう!」
言いかけたところで、横からすかさず割り込まれる。
その声の方に目を遣ると、我が最愛の女性が女神のような笑みを浮かべこちらを見つめていた。
「二人用が一つ?」
問いかけると笑顔のまま大きく頷く。
「はい! 私はいつもご主人様の隣で眠ることになるので、一つで十分だと思います」
すると、特徴的で愛らしい声が耳に届いた。
「ロクサーヌさんだけ同じ枕で寝るのはずるいです」
そして、快活で明るい声が店内に響き渡る。
「そうです。それは不公平なので、六人用を一つにしましょう!」
えーっと、まあ、うん。それじゃあ、そうしようか……。
結局、六人用の巨大な枕を一つ注文することに決まった。
だが、これを作ってもスリープウールはかなりの量が余るらしい。
枕の制作費を相殺することにしたのだが、それでも素材の買取分が上回るとのことだ。
女性店員は差額を現金で支払おうとしたものの、こちらの無理を聞いてもらった手数料ということにしておいた。
出来上がり次第、連絡を入れてもらうよう確認し、店を後にする。
買い物を終えて自宅へ戻ると、扉にパピルスが挟まっていた。
おいおい……。誰がどんなメッセージを送ってきたのか何となく想像がつくんだが……。
後ろに立つ彼女たちも同じことを察したのか、美しくも愛らしい顔に少し困ったような色を浮かべている。
ロクサーヌが静かに歩み出てパピルスを手に取り、視線を落とした。
「……ルーク氏からの伝言です。ハルツ公爵様がご主人様にお会いになりたいそうです。近日中に、いつもの時間にボーデの宮城を訪れるようにとのことでした」
やっぱりかぁ……。
おそらく滅竜の剣を引き渡したときに、ルークが何か余計な報告をしたに違いない。
もっとも、ハルツ公は間違ってもセブンリーグブーツを差し出せなどと言うような人物ではない。
その点については心配していないが、一体どういった用件なんだろう? 少し不安になるんですけど……。
……まあいい。いつもの時間ってんなら今日はもう無理だ。明日にでも顔を出してみよう。
思考を切り替え、家の中に入る。
田川 歩 男 18歳
冒険者Lv47 勇者Lv37 遊び人Lv52 魔道士Lv47
装備 頑強のアルバ 身代わりの竜革グローブ オラクルビットローファー よりしろのイアリング
BP振分 残BP:5
キャラクター再設定:1
フォースジョブ:7
必要経験値二十分の一:63
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鑑定:1
ワープ:1
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所持金:3,036,976ナール
春の79日目