異世界迷宮へ行ったなら   作:三星織苑

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227 豪商

 

 

 

 

 

クーラタル郊外

アユムの家

 

 

 

 

 

 食事と歯磨き、そして洗い物を済ませてリビングへ移動し、ボーデの宮城での出来事について話すことにする。

 

 

 

「――というわけで、ハルツ公は俺たちの後ろ盾となると約束してくれた」

 

 一通り説明を終えたところで、正面に座っていたロクサーヌがローテーブルに置かれたワッペンに目を遣りながら、ドヤ顔で口を開く。

 

「ふふ。さすがは高位貴族。ご主人様の偉大さを理解しているのでしょう」

 

 こら。そんなこと絶対に外では口にするんじゃないぞ?

 

「公爵様が味方になってくれるのなら、何の心配もありませんね」

 

 左のソファに座るミリアもにこやかに笑みを浮かべ、尻尾をクネクネと動かしていた。

 

 だが、俺の脚の間に座り、振り返りながら見上げていたセリーの顔には渋い表情が浮かぶ。

 

「……エルフがただの善意で手を貸すはずがありません。きっとご主人様に恩を売り、都合よく操ろうとしているのです。お気を付けください」

 

 ……まったく。この娘は。

 

 セリーの言葉でロクサーヌの眉がわずかに動くが、否定も肯定もせず、ただこちらを見つめている。

 思うところはあるものの、俺の言葉に従うということだろう。

 一方のミリアは尻尾をしゅんと下げ、眉が下がった困り顔をセリーに向けていた。

 

 うーん……。俺たちは既に帝国解放会に入会している。

 いつまでもこのままじゃ駄目だよな。

 

「きゃっ」

 

 彼女の脇に手を入れ、クルリと体を回して正面から向き合う。

 

「セリー。確かにエルフの中には他種族を見下す者が多いという話だ。それによって嫌な思いをしている人もたくさんいるんだと思う。でもね? ハルツ公が一度でも俺たちのことを見下したり、ぞんざいに扱ったことがあった?」

 

 セリーは気まずそうに小さく首を横に振った。

 

「……いいえ」

 

 やり取りを見たロクサーヌが静かに口開く。

 

「そうですね。公爵様はむしろ誠実でした。ご主人様の言葉をきちんと受け止め、敬意をもって応えてくださっていると思います」

 

 そして、ミリアも心配そうに言葉を添える。

 

「えっと、私は話に聞いているだけであんまり詳しくは知らないんですけど、公爵様はご主人様のことを信頼してるんじゃないでしょうか……」

 

 そんなつもりはないが叱られたと感じたのだろうか? セリーの顔にはしょんぼりとした表情が浮かんでいた。

 本当にそういうつもりで言ったわけじゃない。

 

「君は頭が良いし優しいから、エルフの前でそんなことを口にするはずがないことは分かっている。だけど、帝国解放会では種族差別が禁じられていることは知ってるよね?」

「……はい」

 

 コクリと小さく頷いた。

 やはり落ち込んでいるようだ。

 

「それに俺たちのパーティーにはいずれエルフであるルティナが加入する。あの娘がそんな言葉を耳にしたら傷つくんじゃないかな」

 

 まあもっとも、カシアによればルティナも他種族への偏見を持っていたようだが。

 

 自分の考えを確実に伝えるため、しっかり目を合わせる。

 

「いけ好かない人がいるのはかまわない。誰とでも仲良くなれるはずなんてないからね。でも、まだ会ったことがない人や親切にしてくれた人に対して、種族というその人にはどうしようもないことで偏見を抱くのはやめておこう」

 

 セリーは沈んだ表情で呟きを漏らす。

 

「……はい。申し訳ありませんでした」

 

 悲しませるのは本意ではないので、彼女の体をぎゅっと抱きしめた。

 

「心配しての言葉だってことはよく分かっている。この世界の人から見れば、俺はどうしようもなく危機感に乏しいように見えるだろう。セリー、いつも用心深く周囲を警戒してくれてありがとう。本当に助かっているよ」

 

 その言葉を聞くと彼女も俺の体を抱きしめる。

 女性らしい柔らかさと、高めの体温が心地よく、それがとても愛おしい。

 

 

 

 抱きしめ合ったまま背中を撫でていると、落ち着きを取り戻したのかセリーが腕を解いて、再び目を合わせた。

 

「すぐに改められるか自信がありませんが、人と接する際はなるべく偏見を抱かないようにしたいと思います」

 

 まあ、聖人でもあるまいし、誰に対しても平等に接するなんてできるはずがない。心の中でならどんなことを考えようと自由だ。

 それに、生き馬の目を抜く仲買人たちや、履いて捨てるほどいる盗賊共。こいつらに対しては警戒するべきだし、別にセリーの考えが間違っているわけではない。

 ただ時と場合、それに相手を考えてくれってことさ。

 

 それを伝えると、愛らしい天使の笑みを浮かべながら答える。

 

「はい。ご主人様、お気遣いありがとうございます」

 

 あら、可愛い。

 

 

 

 セリーと見つめ合っていると、不意に強いプレッシャーに襲われた。

 そちらへ視線を移したところ、頬を膨らませたロクサーヌがこちらをジッと見つめている。

 

 あっ、すいません。えっと、ロクサーヌさんもどうですか?

 

 セリーの身体に回していた右手を離して横に広げると、彼女は表情を輝かせながら突撃してきた。

 

「あー! お姉ちゃんとセリーさんだけずるいです!」

 

 今度は左側から元気いっぱいの声が飛び込んでくる。

 勢いよく飛びついてきたミリアに左手をがっちりホールドされてしまった。

 頬に柔らかな毛並みの愛らしいネコミミがあたり、心地よい感触が広がる。

 

 右手はたわわに実ったロクサーヌの果実、左には弾力に富んだミリアのふくらみ、そして胸元にはセリーの温かさ。

 俺は間違いなく、世界一幸せな男だ……。

 

 

 

 

 

ハルバーの迷宮

三十七階層

 

 

 

 

 

 食休みが済むと、再びハルバーの迷宮三十七階層の探索を行う。

 

 例によって快調に探索を続けていたところ、不意にロクサーヌが立ち止まり、しきりに匂いを確認し始める。

 

 何かを嗅ぎ取った? まさか近くに人がいるのか?

 

 緊張しながら様子を見守っていると彼女は振り返り、落ち着いた口調で話し出す。

 

「ご主人様、この先に魔物部屋があるようです。そろそろお昼になりますので、ここを潰してクーラタルに戻りましょう」

 

 魔物部屋? マジで?

 

 思わず彼女たちの顔を見回すと、三人とも目を爛々と輝かせ、口元には好戦的な笑みを浮かべていた。

 

 あー。この娘たち、やる気満々だ。スルーしようと言っても聞き入れてはくれないだろう。

 まあ、俺にしたって回避する気なんてさらさらないわけだが。

 

「分かった。準備を整えてから挑むことにしよう」

 

 その言葉を発した瞬間、迷宮に歓声が響き渡る。

 

 

 

 小部屋の近くへ移動し、キャラクター再設定を開いて魔物部屋への準備を行う。

 

 おっと、その前に一応確認だ。

 

 雑魚狩り用で結晶化促進に振っていたポイントを外し、詠唱短縮を詠唱省略に、そして鑑定を付けた。

 

 んじゃ、鑑定っと。

 

田川 歩 男 18歳

遊び人Lv53 勇者Lv38 冒険者Lv48 魔道士Lv48 商人Lv50

装備 ひもろぎのカッカラ ダマスカス鋼の盾 ズケット 頑強のアルバ 身代わりの竜革グローブ オラクルビットローファー よりしろのイアリング

 

 おー! 商人が50に到達してる! それに魔道士のレベルも上がってるじゃないか!

 

 すぐにでも豪商の性能を確かめたいところだが、今は魔物部屋を潰すのが先だ。確認は昼食後の楽しみってことで。

 

 そのことを三人に伝え、一頻り喜び合ったところで、フィフスジョブの変更を行うことにする。

 とりあえず、予定通り盗賊でいいだ……。

 

 いや? 待てよ?

 

 魔物部屋ってことは、数十匹を同時に倒すわけだよな?

 レベルアップの仕様上、複数の魔物を同時に倒した場合、経験値の繰り越しはない。

 現在、盗賊のレベルは20だ。確実にオーバーフローが発生するだろう。

 ここは別のジョブにしておいた方がいいかもしれない。

 

 えーっと、オーバーフローしなさそうなジョブは何があったかなぁ。

 

 ジョブ設定を開いて確認してみる。

 レベル50以上のジョブを除外すると、38の戦士に30の賞金稼ぎあたりか……。

 

 うーん……。どっちの方がいいのかね?

 

 

 

「ご主人様、どうなさったのですか?」

 

 考え込んでいる俺に、ロクサーヌが不思議そうな顔を向けている。

 

 そうだな。自分だけでは判断が付かない。彼女たちに相談してみよう。

 

 一通り説明を聞いたところで、ミリアがコテンと首をかしげながら逆に問いかけてきた。

 

「経験値を増やすんじゃなくて、結晶化促進やドラウプニルじゃ駄目なんですか?」

 

 あっ。確かにそうだ。別に獲得経験値二十倍にこだわる必要はない。

 

 その言葉に頷きながらセリーも補足を加える。

 

「ミリアの言う通りです。魔物部屋では結晶化促進かドラウプニルが有効でしょう。今回の場合、遭遇する魔物はホワイトキャタピラー、コラージュコーラル、スパイススパイダーの三種類が多いはずです。どれもレアドロップがありませんので、ドラウプニルより結晶化促進六十四倍が妥当かと」

「そうですね。その方がいいでしょう」

 

 ロクサーヌもセリーの意見に同意を示した。

 

 オッケー。それじゃあ、結晶化促進で。

 

 

 

 フィフスジョブを盗賊に変更し、次にキャラクター再設定を開いた。

 獲得経験値上昇を段階的に下げつつ、反対に結晶化促進を上げていく。

 結局、六十四倍になった時点で獲得経験値は三倍まで低下してしまった。

 

 1ポイント余っているな。

 うーん……。何に振ればいいだろう……。

 

 ……まあいいや、時間もないことだし、メテオクラッシュにでも振っておくか。

 

 ……ん? あっ。

 

 メテオクラッシュを組み込めばトリプルスペルが可能になるよな?

 しかもこいつはボーナス魔法であり、通常の魔法とは威力が段違い。

 火と土両方の属性を持つため、それらに耐性があればダメージ量は減ってしまう。しかし、だとしてもオーバードライビングなしでワンターンキルが可能になるんじゃないのか?

 

 問題はMP消費だが、俺たちは既にデュランダルでの回復から万能丸による回復へ移行している。時間的なロスはほとんどないと言ってもいいだろう。

 派手なエフェクトについてもロクサーヌの鼻のおかげで人に見られる心配はない。それを言うなら普段使っているダブルスペルのエフェクトだって、人に見られれば面倒なことになる。リスクはたいして変わらない。

 

 ……オーバードライビングを使わなければ、ワンターンキルが可能かをすぐに確認することはできる。

 しかし、魔物部屋でそんな危ない実験をするわけにはいかない。

 これについては次の探索で検証することにして、まずは魔物部屋を確実に潰すことを優先しよう。

 

 考えがまとまったところで、最終確認だ。

 キャラクター再設定で1、フィフスジョブで15、詠唱短縮で1、必要経験値二十分の一で63、獲得経験値三倍で7、結晶化促進六十四倍で63、メテオクラッシュで1。合計151ポイント。

 オッケー。問題ナッシング。

 

 万能丸でMPを全快にしたら準備完了。

 勇者と魔道士のレベルも上がっており、MPはだいぶ盛られている。今回は倹約の硬革グローブは必要ないだろう。

 

 準備が整ったところで三人の顔を見回すと、輝くような笑みが返ってきた。

 

 めちゃくちゃワクワクしてんなぁ。

 ロクサーヌとミリアだけではなく、慎重派のセリーまでノリノリになってるぞ。

 まあ、ロクサーヌたちと比べて慎重なだけで、ビビりの俺とは根っこの部分が全然違うってことなんだろう。

 

「では、いくか」

 

 声を掛けると、通路に大きな返事が響き渡る。

 

 

 

 小部屋に踏み込むと、おびただしい数の魔物がひしめき合っていた。

 

 こいつらこんなんで身動きできんのかね?

 

 内心でそう呟いた瞬間、ロクサーヌとミリアが宙を駆ける。

 

 やばっ! 余計なことを考えている場合じゃない!

 

「オーバードライビング」

 

 ボーナスタイムを作り出し、即座に魔法名を口にする。

 

「メテオクラッシュ、バーンストーム、バーンストーム」

 

 その瞬間、フロア中から無数の火柱が上がり、さらに轟音を立てながら隕石が雨あられと降り注ぐ。

 

「くっ」

 

 だが、そんなことより大量のMPが抜けていったせいで、気分が一気に降下した。

 その感覚から逃れるため、大急ぎでアイテムボックスを開いて万能丸を飲み込み、それを二度、三度と繰り返す。

 

 落ち着きを取り戻し、目の前に顕現した地獄のような光景に視線を移したところ、フレンドリーファイアがないため避ける必要がない隕石をスローモーションでかわしている、ロクサーヌとミリアの姿が目に入る。

 

 おいおい。空中で回避行動をとってるよ。ほんと、信じられないようなことをするお嬢様たちだなぁ。

 

 

 

 やがてボーナスタイムが終了し、隕石の落下も止まる。

 そして、火柱と共に魔物の体が空気に溶けるように消えていった。

 

 よっしゃ。MP管理の甘さはあったものの、それほど大きな問題もなく片付けることができたぞ!

 

 余韻に浸っていると、ロクサーヌの弾んだ声が聞こえてくる。

 

「三十七階層の魔物部屋をこれほど容易に潰してしまうなんて、さすがご主人様です」

 

 さすごしゅ、ありがとさん。

 キラキラ輝く笑顔は女神そのものだ。

 セリーとミリアも嬉しそうに微笑みを浮かべていた。

 

 ほんと、めちゃくちゃ可愛い娘さんたちだなぁ。

 

 

 

 手分けしてドロップアイテムの回収をしたところ、その数なんと五十二個。

 そんな数の魔物に、ボーナス呪文も含めたトリプルスキルを放っていたのか……。そりゃ、MPも危なくなるわ。

 この教訓を活かし、次に魔物部屋で全体攻撃魔法を撃つときには、倹約の硬革グローブを身に着けるなり、連続で使用するのではなくMP回復をするなり、対策を講じることにしよう。

 

 念のためレベルを確認したものの、どのジョブも上がっていなかった。

 まあ、獲得経験値三倍だし当然か。

 

 そして、さらに念のため魔結晶の色も確認するが、こちらも黄色から変化は見られない。

 うん。別に期待なんかしてなかったし? フラグが立ったなんて思ってなかったし? 全然気にしてなかったし?

 

 自分に言い聞かせながら迷宮を出る準備にとりかかる。

 

 

 

 

 

クーラタル郊外

アユムの家

 

 

 

 

 

 昼食後にリビングへ移動し、幸せそうな表情で目を閉じているミリアを撫でながらジョブ設定を開く。

 

豪商Lv1

効果 知力中上昇 精神小上昇 器用微上昇

スキル ドロップアイテム鑑定 カルク

 

 うーん……。魔法を使うなら知力中上昇はアリなんだろうが、そのために豪商を設定するのもなぁ。

 スキルも戦闘向きではないようだし、カルクはともかくドロップアイテム鑑定ねぇ……。

 

 以前、武器鑑定や防具鑑定を試してみたときは、どちらも頭の中に名前が浮かぶだけだった。

 武器鑑定なら武器にしか使えず、防具鑑定も同様。しかもスキルや空きスロットの表示もなし。要は鑑定の下位互換だ。

 たぶんドロップアイテム鑑定もその名のとおり、ドロップアイテムにしか使えないのだろう。

 

 試しにフィフスジョブに豪商を設定し、履いているサンダルへ向けて念じてみる。

 

ドロップアイテム鑑定

 

 ……反応なしっと。

 

 次にアイテムボックスから万能丸を取り出し、視線を落として念じた。

 

ドロップアイテム鑑定

 

 ……無理みたいだな。やはり魔物からドロップしたものでないと鑑定できないらしい。

 スキル結晶はどうなんだろう? 魔物が残すものだけど鑑定できるのかね?

 全て自室に置いているため、これについては後で試すことにしよう。

 

「豪商のドロップアイテム鑑定を確認しているのですか?」

 

 次にドロップアイテムで試そうとしたところで、セリーが声を掛けてくる。

 気付けば三人はこちらを興味深そうに見つめていた。

 

 変な行動をとっていただろうし、気になるのも当然か。

 

「まあね。サンダルと万能丸で試してみたけど、やっぱり無理みたい」

 

 ロクサーヌが軽く頷き口を開く。

 

「ご主人様の鑑定とは違い、武器鑑定や防具鑑定、それにドロップアイテム鑑定はそれぞれ使用できるアイテムの種類が決まっています」

 

 ミリアがこちらを見上げながら尋ねた。

 

「物語には出てこなかったんですか?」

 

 ドロップアイテム鑑定は初耳だし、残りの二つはミチオが使用していないため、性能が同じなのか分からない。

 そもそも豪商のスキルや効果が原作と同じなのかも不明だ。勇者みたいに全然違う可能性だって考えられる。

 

 それを告げて三人が納得したところで、続きに戻る。

 

 アイテムボックスからドロップアイテムを取り出し、それに向かって念じたところ、頭に文字が浮かび上がった。

 

絹の糸

ドロップ元 ホワイトキャタピラー

 

「はあ!? なんだこれ!?」

 

 その文字を認識した瞬間、思わず声を上げてしまう。

 

 一体どういうことだ!? なんでドロップ元なんて表示がある!?

 

 動揺していると、心配そうにロクサーヌが問いかけてきた。

 

「ご主人様、なにかあったのですか?」

 

 セリーとミリアも驚きで目を丸くしている。

 

 いかん、いかん。気が動転してしまった。

 

「いや、鑑定結果にドロップ元という項目があって、どの魔物が残すのか分かるようになっていたんだ」

 

 俺の説明を聞いた三人は不思議そうにこちらを見つめている。

 

「あの、ドロップアイテム鑑定なのですから、当然のことだと思うのですが……」

 

 セリーがそう漏らすと、ロクサーヌとミリアも大きく頷いた。

 

 え? そうなん?

 彼女たちに目を遣ると、その表情はあたりまえ体操を始めそうなほどだ。

 

「これって常識?」

 

 問いかけたところ、三人はもう一度大きく頷いた。

 

 ……どうやら田川さんの世間知らずなところが顔を出していたらしい。

 

 

 

 俺が落ち着きを取り戻したところで、セリー先生のはちみつ授業が始まった。

 

「スキル結晶の確認は商人ギルドや豪商ギルドにあるギルド神殿でも行えます。ですが、ドロップアイテム鑑定を用いなければ、未知の魔物の名称が判明することはありません。もっとも、最後にそれが確認されたのは初代皇帝の時代までさかのぼるのでしょうが」

 

 つまり魔物の名称はこの世界の人々が決めているわけではなく、ドロップアイテム鑑定を使用し、設定された名前を読み取っているってわけか。

 この点においてはボーナススキルの鑑定すら上回っているだろう。

 

 そして、セリーの説明を聞いて今まで疑問に思っていたことについても合点がいく。

 

 なるほどな。この世界の人が決めた名前にしては妙だと思っていたんだ。

 例えば現在探索中のハルバーの迷宮三十七階層に出現するホワイトキャタピラー。ブラヒム語にも白や芋虫を表す言葉があるのに、ホワイトキャタピラーはホワイトキャタピラーだ。ロクサーヌたちだってそう口にしている。

 この世界の誰かが命名していた場合こうはならない。

 他にも魔法やスキル、ユニーク装備などの名称については、この世界のシステムを構築した何者かが設定したのだろう。

 

 ただし、銅の剣や皮の鎧といった名称は訳されており、レイピアはブラヒム語で細い剣を意味するものとなっている。

 親が子に付けた名前だって鑑定に表示されているわけだし、この辺はファジーな対応がされているのかもしれない。

 あっ、人の名前についてはインテリジェンスカード操作により登録されている可能性もあるか。

 

 

 

 ……でもまあ、こんなのは答えの出ないただの妄想だ。

 いつものように棚上げして、今はこの優雅なひと時を楽しもう。

 

 ソファーに背中を預け、目の前の愛らしいネコミミへそっと手を伸ばす。

 毛並みは絹糸みたいにしなやかで、触れるたびにミリアの頬がふにゃりと緩むのがなんとも愛らしい。

 

 

 

 彼女のうっとりした表情を眺めながら、ふと考えが浮かぶ。

 

 この前は清掃作業を頑張ってくれたし、この娘が喜ぶようなことをしてあげたい。

 ベスタが加入する前にどこかで休日を設けて、思う存分釣りをしてもらおう。

 ハルツ公の許しを得ているが、一度ハーフェンに下見に行った方がいいかもな。

 ロクサーヌとセリーにはやりたいことをやってもらうとして、俺も彼女と共にフィッシングと洒落込むか。

 

 つらつらと予定を考えながら、優雅な午後のひと時を満喫する。

 

 

 

 

 

田川 歩 男 18歳

遊び人Lv53 勇者Lv38 冒険者Lv48 魔道士Lv48 豪商Lv1

装備 サンダル 身代わりのミサンガ

 

BP振分 残BP:3

キャラクター再設定:1

フィフスジョブ:15

詠唱省略:3

必要経験値二十分の一:63

鑑定:1

ワープ:1

ジョブ設定:1

MP回復速度二十倍:63

 

所持金:3,053,600ナール

 

春の80日目

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