異世界迷宮へ行ったなら   作:三星織苑

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023 修業

 

 

 

 

 

ベイルの迷宮

一階層

 

 

 

 

 

 昨日、探索を終えた場所へ移動しそこから続きを行う。

 

 迷宮内は似たような風景ばかりだ。時間が経ってしまっているため移動先を思い出せないのではないかと不安だったが、ワープを使おうとするとその場所を鮮明に思い描くことができた。

 おそらく移動魔法には移動先を思い浮かべられるよう、この世界を構成するゲーム的なシステムのアシストが入るのだろう。

 

 

 

 よし。三十パーセント値引を獲得経験値二十倍に付け替えてシミターからロッドに持ち替えた。

 さあ、昨日の続きから探索再開といこう。

 

「では、ロクサーヌ。昨日と同じように魔法とデュランダルで戦うので、近くに人がいない魔物のところへ案内を頼む」

「あの、ご主人様の魔法は魔物を一撃で倒していました。上の階に進んだ方がいいと思うのですが」

 

 うーん……。戦闘狂の気があるロクサーヌの意見だということを差し引いても、確かにその通りではあるんだよなぁ。

 もっと上の魔物をワンパンできるならその方が断然経験値効率がいい。

 一撃で倒れなかった場合、攻撃を食らう可能性が出てくるから俺が戦いに慣れるまでは魔法一発で倒れる敵のみを狙うが、早めのレベルアップを目指すなら1確できる魔物の上限ギリギリを探るべきだろう。

 

 安全マージンを確保しつつも、その範囲内ではある程度の冒険はしておこう。

 

 

 

「確かに君の言う通りだな。それじゃあ今日は上の階を目指すために待機部屋を探そう」

「はい! ご主人様!」

 

 このお嬢さん、めっちゃ嬉しそうなんですけど。

 さすが、戦いたがりのロクサーヌさんだ。

 

「ただし、戦い方を見られるわけにはいかないので人のいないところを中心に探索していく。そのあたりはロクサーヌに任せる」

「かしこまりました」

 

 

 

 彼女の案内で迷宮を進み出会ったそばからニードルウッドを焼いていく。

 1確できるため安全を確保しながら流れ作業のようにガンガン先を急ぐ。

 

 

 

 帝都からこのベイルの迷宮までワープで移動してきたというのに、気分が下向いたと感じたのは二十七匹目を狩ったところだった。

 やはりレベルアップの恩恵は大きい。MP満タンだったら間違いなく三十匹以上を倒すことが出来ただろう。

 

「ロクサーヌ。MP回復のためにデュランダルに切り替えるから少し待ってくれ」

「はい」

 

 キャラクター再設定を開きデュランダルを出しついでに自分へ鑑定をかける。

 

田川 歩 男 18歳

探索者Lv20 英雄Lv17 魔法使いLv20 戦士Lv17 僧侶Lv15

装備 ロッド 皮の帽子 皮の鎧 皮のグローブ 皮の靴

 

 お。ついに探索者と魔法使いのレベルが並んだか。

 やはりジョブごとに経験値テーブルが異なっているのだろう。

 レベルアップが早いということは、イコールそれだけボーナスポイントの増える速度が早いということだ。

 当面の間、ファーストジョブは探索者で固定にしておこう。

 

 あとはMP回復のために狩る敵の数が気になるんだよなぁ。

 MPの数値を見ることができないため満タンになっているかどうかは俺のアバウトな感覚のみ。

 なんとなくまだかなぁとか、たぶん全回復したはずとか、なんとも頼りない。

 まあ、確認方法がない以上、今後もこれを続けていくしかないんだが。

 

 

 

 デュランダルでニードルウッドを三匹切り捨てたがまだ満タンになった気がしない。

 

「ロクサーヌ、まだ全回復していないようだからもう一匹案内を頼む」

「おまかせください。ご主人様、こちらです」

 

 彼女の案内で通路の突き当り付近にたたずんでいた魔物を片付ける。

 

 うん。たぶんMPは満タンになったはず。たぶん……。

 武器六と獲得経験値二十倍を付け替えアイテムボックスからロッドを取り出していると、ロクサーヌが気になることを告げた。

 

「ご主人様、この壁の向こうから大量の魔物の臭いが漏れています」

「そうなのか?」

「はい。この迷宮はまだ一階層すら探索終了宣言が出されていませんので間違いないかと」

 

 原作であった魔物が溜まった小部屋か。ゲームでよくあるモンスターハウスというやつだな……。

 

 どうするべきだ?

 

 身の安全を考えるならスルー安定だ。

 しかし、数十匹分の経験値を見逃すのはなんとも惜しい。ましてや俺には魔法による全体攻撃の手段があるのだ。

 

 そして、何よりロクサーヌが引かないよなぁ。

 なにせ原作だと魔物が湧く部屋くらいでビビっているようでは迷宮探索はできないと言っていた。間違いなく行くことになるだろう。

 

 とりあえず対策だけはしっかりするか。

 アイテムボックスから強壮丸を三つ取り出し彼女に手渡す。

 

「小部屋に入ったらすぐに全体攻撃魔法を使う。ファイヤーボールより威力があるから魔物は間違いなく一撃で倒れるだろう。だが、俺がMP切れで苦しんでいたらこれを飲ませてもらえるか?」

「わかりました。お任せください、ご主人様」

 

 ついでだ。比較的安全に経験値稼ぎができるこの状況を利用して遊び人のジョブ獲得を早めるため、派生が多い商人を一気にレベルアップさせておくか。

 

 フィフスジョブを僧侶から商人に入れ替え準備完了だ。

 

 

 

 突き当りまできたところでガラガラ音を立てて壁が下がり、その向こうには大量の樹木が蠢いた。

 

 急いで小部屋の中に入りすぐさま念じる。

 

ファイヤーストーム

 

 念じた瞬間、自分の体の中から大切なものがごっそり抜けていく感覚に襲われた。

 

 アアアァァァ……。

 

 俺はなんてことをしてしまったんだ。

 調子に乗って身の丈に合わないことをしでかした。

 俺のような者が魔法を使おうなどと考えたことが間違いだったんだ。

 いや、そもそも貧弱なクズが迷宮探索をしようとすること自体が間違いだった。

 こんな間抜けなことをしでかした俺には生きていく価値なんてない。

 いっそこのまま死を待つべきだろう。

 

「ご主人様! 大丈夫ですか!?」

 

 ロクサーヌの狼狽した声が聞こえる。

 ロクサーヌ。すまなかった。

 君のような強く美しく気高い娘を手に入れようとして本当に申し訳ない。

 ああ。ロクサーヌ。俺みたいなクソ虫のことでそんな辛そうな顔をしないでくれ。

 こんな間抜けな男なんて放っておくんだ。

 

「今、お助けします!」

 

 やめてくれ。こんなゴキブリ野郎に薬を飲ませる必要はない。このまま見捨ててくれ。

 

「ご主人様、失礼いたします」

 

 俺の唇に彼女の唇が触れそのまま口の中に舌が侵入してきた。

 

 ああ。ロクサーヌの舌だ。

 

 この絶望の中にあって、ただ一つ頼りになりそうなものを見つけ無我夢中でそれに吸い付いているとその拍子に何かを飲み下した。

 

 

 

「はぁ、はぁ」

 

 我を取り戻し縋りついていたロクサーヌの体と呼吸も忘れて絡めていた舌を離す。

 

 

 

 ヤバかった。本当にヤバかった。完全に死ぬかと思った。

 これまで四十五年間生きてきて味わった苦しみの中で、精神的なものとしてはぶっちぎりの一位だ。

 あれに比べれば会社での理不尽な扱いなんて屁でもない。

 

 おそらくMPはゼロか、もしくは限りなくゼロに近かったのだろう。

 スローラビット狩りのMP不足のときとは桁違いだった。

 MP管理にはこれまで以上に注意を払わなければいけない。

 そして、等量交換は封印決定だ。

 戦闘中、パーティーメンバーにMPを回復してもらえない状況で先ほどの状態になったら全滅する可能性すらある。

 

 あれを耐えて自力でMP回復ができるミチオはヤバすぎるだろ。

 化け物じみたメンタルの強さだ。いくらなんでも超人すぎるぞ。

 

 

 

「ご主人様、大丈夫ですか?」

 

 心配そうな表情を浮かべたロクサーヌに尋ねられる。

 

「迷惑をかけてすまなかった。それから、本当にありがとう。ロクサーヌのおかげで命拾いをした」

「いいえ。ご主人様がご無事で本当に安心しました」

 

 俺のことを安心させるように柔らかく微笑んだ。

 

 

 

 魔物を作業のようにワンパンで倒せることで完全に調子に乗り、そのまま大量の魔物にファイヤーストームを使ってしまった。

 なんて浅はかな行動だったのだろう。

 

 ボール系よりストーム系の方が消費MPは多い。

 そして、普通のRPGの全体魔法とは違いストーム系の魔法は魔物の数に比例し消費MPが増加していく。

 そんなことは原作を読んで知っていたはずなのに深く考えずそのまま使ってしまった。

 それに、今までストーム系の魔法を試すことをせず消費MPの確認すら怠っている。

 

 とんだ大馬鹿野郎だ。

 

 主人が死ぬと奴隷も殉死するのだ。

 間抜けなことをしでかしそのまま一人でくたばるなら自業自得だが、俺が死ぬとロクサーヌを巻き込んでしまう。

 それだけは絶対に許容できない。

 

 少なくとも回復なしにストーム系の魔法を数十発放てるようにならない限り魔物部屋への全体攻撃は厳禁だな。

 

 

 

「ふぅ」

 

 口からため息が漏れた。

 まだ迷宮探索の途中だ。あまり落ち込みすぎるのもよくない。

 幸い俺もロクサーヌも体に何の問題もないのだ。

 反省すべきところは反省してちゃんと次へ活かそう。

 

 

 

 ……しかし、しばらくはワンパンできる相手と戦うつもりだったが考え直さないといけないだろうか?

 何の緊張感もなくただただ魔法を撃ち続けるだけでは、いざ本格的な戦闘となったときに今度こそ致命的なミスを犯すかもしれない。

 ある程度、緊張感がある戦闘をして感覚を養うべきか?

 

 でもなぁ。この考えが蛮勇だという可能性だってある。なにせ命がかかっているのだ。迂闊な真似はできない。

 

 

 

「ご主人様。どうかされましたか?」

 

 俺が考え込んでいることが気になったのだろう。ロクサーヌが話しかけてきた。

 

「いや、先ほどの件があり魔法一発で終わる戦闘に慣れると危険ではないかと考えさせられたのだ。戦闘の感覚を身につけるにはどうしたらいいんだろうな」

「そうですね。手ごたえのある敵と戦っていれば自然と身についていくと思います」

 

 わーお。脳筋思考! どこの戦闘民族だ君は。

 いや、彼らだって戦闘をするだけじゃなくちゃんと修業もしていた。

 筋トレや組手もせず、いきなり実戦で鍛えようだなんてバトルジャンキーが過ぎる。

 

 ……ん? 組手?

 あ! ここに戦闘つよつよな娘さんがいるじゃん!

 そうだよ! ロクサーヌに訓練をつけてもらおう!

 

 説明を求めると頭がフッと動いたら体をハッと引くとか言い出しかねない。模擬戦をしてもらった方がいいだろう。

 防具をつけて木刀のような非装備品で攻撃すればそうそうダメージは通らないはず。それに手当てだってある。

 これは圧倒的な格上との戦闘経験が得られるぞ。

 

「ロクサーヌ、頼みがあるんだが」

「はい、なんでしょう」

「明日から俺と模擬戦をしてもらえないか?」

「模擬戦ですか?」

「ああ。お互い防具を身に着け装備品ではない木剣のようなもので攻撃し合う。その際スキルの使用は一切なしだ。その状態で君と模擬戦を行い格上との戦闘経験を積んでおきたい」

「そんな、私などご主人様に比べれば……」

 

 いやいやいや。いくらなんでも謙遜が過ぎる。

 俺なんてキャラクター再設定という下駄を履いていなければコボルトにだってボコボコにされるだろう。

 

「あれに頼らなければ俺などたいしたことはないのだ。しかし、いつまでもそんな状態に甘んじるつもりはないぞ? ロクサーヌの主人として恥ずかしくないくらいの地力をつけるため是非お願いしたい」

「ご主人様……」

 

 俺の目を見ていたロクサーヌは一度目を閉じ何かを考えている。

 

 そして、目を開くと鋭く引き締まった表情でこちらを見つめ決心したように口を開いた。

 

「かしこまりました。ご主人様のお役に立てるのでしたら模擬戦の相手を務めさせていただきます」

「ありがとう。これからよろしく頼む」

 

 迷宮探索と家事があるがネットやテレビ、漫画といった娯楽が一切無いんだ。模擬戦をする時間くらい作れるはずだ。

 

 

 

 俺にはミチオの剣道のように迷宮探索を続けていく上で自分の中に拠り所となるようなものが一切ない。

 この世界でロクサーヌと幸せに生きていくためには、泥縄式だろうが付け焼刃だろうが今から拠り所となるものを構築していくしかないだろう。

 ボコボコにされるだろうが模擬戦を頑張ろう。

 

 いや、模擬戦だといまいちテンションがあがらない。

 よし。これからは修業と言おう。

 

 オッス! オラアユム! いっちょやってみっか!

 

 

 

 修業という言葉の響きに浸っているとロクサーヌが俺のそばに近づいてきた。

 そして、顔を寄せ耳元で囁いた。

 

「模擬戦の際にオーバーホエルミングを使ったご主人様と戦わせていただけませんか?」

 

 その言葉を聞き思わず笑ってしまった。

 こやつめー。俺の修業にかこつけて手ごたえのある相手との戦闘を楽しむ気だな。

 いや、もしかしたらオーバーホエルミング状態の俺と戦うことで自分の戦闘訓練をするつもりなのかもしれない。

 まったく。本当に頼もしいお嬢さんだ。

 

「ああ。問題ない」

「ご主人様! ありがとうございます! とても楽しみです!」

 

 ロクサーヌは喜色満面で尻尾を揺らしている。

 

 おー。ガチで喜んでいるぞ。

 もしかしたら彼女は同格以上の相手と戦ったことがないのかもしれない。

 俺がどこまで満足させられるかはわからないが全力でやってみよう。

 ロクサーヌがオーバーホエルミングに対応できるようになれば今の回避能力に更に磨きがかかるだろう。まさに鬼に金棒だ。

 それに、オーバーホエルミングは俺の切り札なんだ。格上相手に使いどころを見極める訓練をしておくのは有意義なはず。

 

 

 

 彼女から強壮丸を返してもらいアイテムボックスに戻し、小部屋中に散らばったブランチを集めていく。

 

 アイテムボックスの中には二十一個が4スタック分。そして五個が1スタックで合計八十九個のブランチが入っている。

 昨日の夜に狩った分が十二個。今日、買い物途中でMP回復のために狩った分が三個。魔物部屋に行く前に狩った分が三十一個。差し引き四十三個。

 ってカルクのおかげで計算早っ!

 

 ここには四十三匹ものニードルウッドがいたのか……。

 ……よく無事で済んだな。

 

 いかんいかん。今はそんなことを考えている場合じゃない。

 

 ん? あれ? 1スタック二十一個? 探索者レベル21ってこと?

 急いで自分に鑑定をかけてみる。

 

田川 歩 男 18歳

探索者Lv21 英雄Lv18 魔法使いLv21 戦士Lv18 商人Lv2

装備 ロッド 皮の帽子 皮の鎧 皮のグローブ 皮の靴

 

 はぁ!?

 全てのジョブがそれぞれ1しか上がっていない。

 

 これはどういうことだ?

 

 普通に考えるならあれだけの数の魔物を経験値効率二百倍で狩っているのだ。少なくともレベルが1だった商人は10以上レベルアップしていてもおかしくないはず。

 

 ……昨日の狩りでおそらくレベルアップ時に経験値の繰り越しがないだろうことは把握できていた。

 ということは経験値を獲得するタイミングは一匹倒すごとではなく、戦闘終了後にまとめて獲得しているのだろうか?

 だから原作であった最初の盗賊戦ではレベルが1しか上がらなかったのか?

 

 うーん……。でもそんなことがあるのか?

 当たり前だが現実の世界にフィールド画面から戦闘画面への切り替えなんて存在しない。

 何をもって一度の戦闘ということになるんだ?

 

 いや、まてよ?

 今の戦闘では全体攻撃でまとめて片づけている。

 一回の攻撃で倒した魔物の経験値はまとめられて獲得するという可能性もありそうだな。

 

 よし。魔物が二匹以上出現する二階層以降で検証してみよう。

 ……あー。もったいなかったなぁ。僧侶のままにしておくんだった。

 

 

 

 気を取り直してキャラクター再設定からデュランダルを出しフィフスジョブを僧侶に戻す。

 ついでに余っているボーナスポイントは知力上昇に振っておく。

 

 準備が整ったところで彼女へ声をかけた。

 

「それじゃあMP回復を図るので案内を頼む」

「はい。おまかせください、ご主人様」

 

 

 

 

 

田川 歩 男 18歳

探索者Lv21 英雄Lv18 魔法使いLv21 戦士Lv18 僧侶Lv15

装備 聖剣デュランダル 皮の帽子 皮の鎧 皮のグローブ 皮の靴

 

BP振分 残BP:0

キャラクター再設定:1

フィフスジョブ:15

鑑定:1

必要経験値十分の一:31

詠唱省略:3

ワープ:1

ジョブ設定:1

武器六:63

知力上昇:3

 

所持金:399,283ナール

 

春の3日目

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