異世界迷宮へ行ったなら   作:三星織苑

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228 トリプルスペル・改

 

 

 

 

 

ハルバーの迷宮

三十七階層

 

 

 

 

 

 午後の探索を行うために迷宮へ移動し、キャラクター再設定を開いてワープとメテオクラッシュを入れ替えた。

 準備が整えたところで三人に告げる。

 

「まずは実験をしてみようと思う」

「実験ですか!?」

 

 好奇心で瞳を輝かせながらセリーが声を上げた。

 その響きが石壁に反響し、迷宮の中なのに弾んだ雰囲気が広がっていく。

 ロクサーヌとミリアも興味深そうにこちらを見つめている。

 ほんと、可愛い娘たちだよなぁ。

 

 魔物部屋を潰す前に考えていたことを話すと、ロクサーヌが納得したように柔らかく口を開く。

 

「なるほど。確かにおっしゃる通り、そうすれば殲滅速度が上がるでしょう。さすがご主人様です」

「はい。これでドンドン先に進むことができますね」

 

 ミリアがはじけるような笑みを浮かべながらそう言った。

 その無邪気な笑顔につられ、口元にニチャリとした笑みが浮かびそうになる。

 だが、考え込んでいたセリーが呟きを漏らす。

 

「火属性と土属性に耐性があると与ダメージが減少するのですね……。でも魔道士の使う氷魔法は水属性と土属性ですが、両方の耐性を持っていないとダメージが軽減されることはありません。いったい、どうしてそんな違いが……」

 

 あっ。言われてみれば確かにそうだ。

 原作でもそうだったからと気にしていなかったが、どうして仕様が異なるんだ?

 

 考え込んでいると、セリーがさらに続ける。

 

「それに、土属性に耐性を持つスパイススパイダーはともかく、火属性が弱点で土属性に耐性があるコラージュコーラルに放った場合、どうなるのでしょうか?」

「そうだな……。弱点を突いたときのダメージ倍率と、耐性によるダメージ軽減率。その数値によるのだろう」

「ダメージ倍率にダメージ軽減率……。とてもしっくりくる言葉ですね」

 

 ゲーム用語だけどね。

 

 

 

 しばらくセリーと討論を交わしていると、待ちきれなくなったロクサーヌが声をかけてきた。

 

「ご主人様。考えるより、まずは実際に魔物で試してみませんか?」

 

 視線を向けると、ロクサーヌとミリアが揃って苦笑している。

 

 おっと。いかんいかん。彼女の言う通りだ。

 

「それもそうだな。よし、では探索を始めよう」

 

 三人の楽しそうな返事が響き、俺たちは通路へと歩を進めた。

 

 

 

 程なくして魔物に遭遇する。

 ホワイトキャタピラーが三匹にコラージュコーラル、スパイススパイダー、ビープシープが一匹ずつ。

 

 ケモミミーズが飛び出したのに合わせ、開幕トリプルスペルを叩き込んだ。

 

「メテオクラッシュ、バーンストーム、バーンストーム」

 

 リキャストタイムが明けたらすぐに次が撃てるよう、カッカラを構えたまま様子を見守る。

 エフェクトが魔物たちを飲み込み、轟音と光の嵐が通路を照らし出す。

 やがて爆炎が収まると辺りには静寂が戻り、奴らはアイテムを残して次々と消え去った。

 直後、通路にセリーの興奮した声が響く。

 

「スパイススパイダーもトリプルスペル一回で倒れました! 軽減されていてもバーンストーム二発分以上のダメージが出ているということでしょう! これはすごいことになりますよ!」

 

 彼女の言う通り、この事実はかなり大きい。今後の迷宮探索が格段に楽になるだろう。

 これはただのトリプルスペルではない。中級魔法二発にボーナス呪文を組み合わせたトリプルスペル・改だ!

 

 ロクサーヌにさすごしゅをいただき、ドロップアイテムを拾ってから、探索の本番を開始する。

 

 

 

 モチベーションに満ちあふれた三人と共に迷宮内をガンガン突き進んでいく。

 けものフレンズの二人が魔物の攻撃を完璧に防いでくれる上、ワンターンで片が付くため、完全に無双状態。

 ロクサーヌとミリアはトレーニングモードに切り替え、新しい動きを試したり、降り注ぐ隕石を回避しながら戦闘を行なっていた。

 だからといって慢心しているわけではなく、適度な緊張感を維持しつつ課題を持って取り組んでいるということは理解できる。

 ……やっぱ俺たちとは違う次元で生きてんなぁ。

 

 

 

 やがて、例によってロクサーヌが夕方を告げ、探索を切り上げることにした。

 レベルを確認すると、さっそくワンターンキルによる獲得経験値増加の効果が出たのか、勇者と冒険者のレベルが1ずつ上がっている。

 さらに盗賊のレベルは28に到達しており、きっと明日には博徒を取得できるだろう。

 そして三人のうち、セリーの鍛冶師が28になっている。

 

 おっしゃ。効率がかなり上がっているみたいだ。

 

 しかし、懸念がないわけではない。

 とにかく消費MPが多すぎて、万能丸の消費がエグイことになっている。

 それでも半年は持つだろうし、今すぐどうこうなるというわけではないが、何らかの対策が必要になるだろう。

 

 ……いや。今考えることじゃないな。

 

 思索を振り払い、レベルアップを彼女たちに報告して迷宮を後にした。

 

 

 

 

 

クーラタル郊外

アユムの家

 

 

 

 

 

 修業を終え、装備品のメンテナンスをしながら、頭の中ではMP消費量について思索を巡らせる。

 

 倹約の硬革グローブを使うとなれば、身代わりの竜革グローブを外さなくてはならない。

 そうなると、身代わりの硬革帽子を装備する必要が出てきて、ズケットを外すことになり、魔法攻撃力が下がってしまう。

 ズケットをそのままにする場合、別の装備に身代わりスキルを付けなくてはならない。

 しかし、いま俺が装備している防具の中で空きスロットがあるのはダマスカス鋼の盾だけだ。だがこれを装備するのは魔法戦闘をするときだけ。

 剣で戦うとなれば盾をしまうから、その際にズケットと身代わりの硬革帽子も変更するか?

 うーん……。やることが一つ増えるのは面倒だし、武器と違って交換を忘れる可能性だってある。交換を忘れたときに致命的なダメージを食らったら洒落にならない。

 

 となると、ダマスカス鋼の盾に消費MP削減のスキルを融合させるのが一番現実的か。

 幸い手元にコボルトと油脂植物のスキル結晶があるため、すぐにでも実行可能だ。

 

 ……しかしなぁ。油脂植物のスキル結晶はハルツ公が狙っているため、しばらく手に入ることはないはず。

 それをここで使っていいのか?

 

 でもなぁ……。いや、やっぱり、うーん……。

 

 

 

「ご主人様、何かお悩みですか?」

 

 MP管理について頭を悩ませていると、ロクサーヌが心配そうな眼差しを向けてきた。

 セリーとミリアも手を止め、こちらを見つめている。

 

 ……そうだな。彼女たちに相談してみよう。

 

 

 

 事情を説明すると、話を聞き終えたセリーが静かに頷き、自信に満ちた口調で答えた。

 

「なるほど。そういうことでしたか。確かに万能丸の消費量はかなりのものとなっていますが、憂慮するほどではありません。装備品に消費MP削減を付ける必要はないと思います」

 

 マジで? 付けなくていいの?

 

 俺たち三人の視線を受けながら、彼女は理路整然と説明を続ける。

 

「万能丸の消費量からすると、確実に夏の終わりまでは持ちます。そして、私たちの迷宮攻略のペースを考えれば、間違いなくそれまでに四十六階層へと到達しているでしょう」

 

 まあ、そうだな。夏の十日目前後に攻略されるはずのハルバーの迷宮を横取りする計画だ。

 仮に討伐が叶わなくても、夏の終わりには確実に四十六階層にはたどり着いているだろう。

 

「そして、クーラタルの迷宮四十六階層は、強壮剤の材料となる陳皮を残すアニマルトラップが出現します。強壮剤は万能丸以上にMPを回復することができますので、いま慌てて消費MP削減を融合する必要はありません」

 

 おお! 確かにそうだ! そこで大量に在庫を確保すればいいわけか!

 可愛い上に頭脳明晰! さすがセリー、さすセリだ!

 

「セリー、ありがとう。完全に見落としてたよ」

 

 その言葉に続き、ロクサーヌも口を開く。

 

「ふふ。セリー、ご主人様のお役に立てましたね」

「セリーさんは本当に頭がいいですねー」

 

 俺たちの称賛の声を聞き、彼女はくすぐったそうに小さく笑みを浮かべた。

 あら、可愛い。

 

 

 

 

 

ハルバーの迷宮

三十七階層

 

 

 

 

 

 翌日も魔物を薙ぎ倒しながら待機部屋を探していき、早朝の探索が終わった時点で昨日に続いて新たなジョブをゲットする。

 

博徒Lv1

効果 知力中上昇 器用中上昇

スキル クリティカル発生 状態異常耐性ダウン

 

 オッケー、オッケー。ミリアの暗殺者に先んじて博徒を手に入れることができた。

 状態異常攻撃のシナジーはバッチリだ。きっとバンバン魔物を石にしてくれることだろう。

 それにクリティカルが発生するようになるのもありがたい。

 素のクリティカル率がどんなものかは不明だが、三十パーセントまで引き上げた場合、えーっと……。

 

 助けてー! ポパーイ!

 任せろ、オリーブ!

 

 金管楽器の音楽をバックに、ほうれん草を食っている男とその恋人を脳内から追い出し、ロクサーヌたちに少しだけ待っててもらう。

 

 フィフスジョブの盗賊を商人と入れ替え、計算開始っと。

 

 えっと、発生確率を三十パーセントでトリプルスペルを放ったと仮定すると、一回もクリティカルが発生しない確率は、〇・七の三乗だから、三十四・三パーセント。

 ってことは一回以上クリティカルが発生する確率は六十五・七パーセントになるわけか。

 

 仮に素のクリティカル率が五パーセントだった場合、三十五パーセントまで引き上げられるわけで、えーっと、約七十二・五パーセントにまで上昇するってことだな。

 レベルアップによって素のクリティカル率が上がる可能性があるし、攻撃の回数が多ければ多いほど発生率は増していく。それにクリティカルが連続することだってあるだろう。

 実際にこれを使用するかは未定だが、キラーピアスを装備したアリーナみたいに、会心狙いの運用も可能になるはずだ。

 

 こいつぁ、とんでもないことになってきやがったぜー。

 

 もっとも、今は戦士のレベル上げを優先するべきだろうけどな。

 ミリアが暗殺者を取得していない上、状態異常攻撃が可能な武器をすぐには用意できない。

 それに戦士の上位ジョブである武者が持つ、バッシュというスキル。こいつがあればトリプルアタックの攻撃倍率がエグイことになるだろう。

 

 ほんと、楽しみでしょうがない。

 

 期待に胸を膨らませつつ、ワープゲートを展開する。

 

 

 

 

 

ハルバーの迷宮三十七階層

ボス待機部屋

 

 

 

 

 

 朝食を済ませて探索を開始すると、早々に待機部屋へたどり着いた。

 ジョブの設定とボーナスポイントの振り分けを素早く済ませ、ブリーフィングに移る。

 

「セリー、ホワイトキャタピラーのボスについて教えてくれ」

「かしこまりました」

 

 彼女は一つ頷くと、落ち着いた、それでいて癖のあるキュートな声で説明を始めた。

 

「ホワイトキャタピラーのボスはシルバーキャタピラー。ホワイトキャタピラーをそのまま強化したような魔物で、弱点も耐性もありません」

 

 ふむ。まあ、ボス戦では魔法ではなく物理攻撃を行うため弱点や耐性はあまり関係ない。

 

「攻撃魔法はありませんが、体当たりや薙ぎ払い、さらに人の体に張り付いた状態で行う噛みつきといった物理攻撃を仕掛けてきます。それらの攻撃を食らえば毒を受ける可能性があるため注意してください」

 

 魔法を使ってこないのはいいんだが、毒持ちなのは厄介だ。

 誰かが毒を受けたら、即座にフォローできる体制を整えておかないと。

 

 ……たぶん毒を受けるとしたら俺なんだろうなぁ。

 

「スキル攻撃はホワイトキャタピラーと同じく糸吐きですが、こちらはより強力になっており、ぐるぐる巻きにした上で消化液を用いて溶かそうとしてくるそうです。全員が糸に絡めとられると全滅は免れないでしょう」

 

 こっわ! 動けない状態にされて溶かされるなんて恐ろしすぎるだろ!

 

 思わず身震いすると、ロクサーヌがきりっとした表情で口を開く。

 

「ご主人様は私がお守りいたしますので、そのような攻撃を受けることなどありえません」

 

 ミリアも力強く頷いた。

 

「そうです。私もスキル攻撃を防ぎますから安心してください!」

 

 頼もしー! うちの娘たちがマジで頼もしー!

 

 感動している俺をよそに、セリーが冷静に説明を続ける。

 

「通常ドロップは銀の糸。これと芋虫系の最上位種であるゴールドキャタピラーが残す金の糸は、王侯貴族や富豪が身に着ける豪華絢爛な衣装に使用されています。そしてレアドロップはミスリルスレッド。こちらは服飾に用いるほか、装備品の素材にもなっています。以前、耳にしているはずなのでご存知ですよね?」

 

 あー。確かブラジャーの素材に使われてたんだっけ?

 でも、装備品としてはどんなものが作れるんだ?

 

 問いかけると、彼女は淀みなく答える。

 

「必要な数はかなり多いですが、ミスリルスレッドではローブにカズラ、それにズケットやサッシュといった装備品を製造することが可能です。それだけでなく、人魚の泡、染料となる花粉団子に鱗粉、紅殻や黒蛙の粘液。他にもパームバウムのレアドロップである紡績油といった消耗素材も必要になります」

 

 うそ!? マジで!? 装備品の素材になるって言ってなかったじゃん! 全部売っちまったぞ!

 

 俺の動揺に気付いたのか、セリーが補足を入れる。

 

「それほど量は必要ないので、それらを物置で大量に保管するわけにもいきません。それに、ミスリルスレッドが手に入るほどの強さなら、これらの素材も簡単に集められます」

 

 いやまあ、そうなんだろうけど……。

 

 ……今はミスリルスレッドを集めるためにボスマラソンをする余裕なんてないし、セリーの言う通り、必要になったら集めることにしよう。

 そのうち素材集めをして、装備品の更新だな。

 

 ブリーフィングを終え、ボス部屋へ続く扉に向かい歩き出した。

 

 

 

 

 

ハルバーの迷宮三十七階層

ボス部屋

 

 

 

 

 

 フロア中央で煙が渦を巻き、形を成すように濃くなっていく。

 それを横目にしながらボス戦の定石通り、大きく弧を描くように後方へ回り込む。

 

 やがて煙が晴れ、魔物の姿が現れた。

 

シルバーキャタピラーLv37

シルバーキャタピラーLv37

 

 全身が銀色に輝く巨大な芋虫。

 明らかにホワイトキャタピラーより大きく、メタリックな体表が鈍い輝きを放っている。

 モゾモゾと身をくねらせるたびに、金属同士が擦れ合うような耳障りな音がフロアに響いていた。

 

 おいおい、マジかよ。こいつ、芋虫のくせに硬そうな外殻を纏っているぞ……。

 

 俺が一瞬たじろいだところで、ロクサーヌが一足飛びに距離を詰め、銀色の芋虫にエストックを突き入れた。

 さらにセリーとミリアがもう一方を引き付ける。

 

 鋭い攻撃や華麗な回避。彼女たちが得物を振るうたび、フロアには甲高い金属音が響き渡り、それで我に返った。

 

 呆けているわけにはいかない! 俺もいくぞ!

 

オーバードライビング

 

 時の流れを置き去りにし、一気に間合いを詰めてダブルアタックを叩き込む。

 そのまま足を止め、立て続けに剣を振るい続けた。

 ボーナスタイムの終了を見極めてその場を離脱すると、セリーとミリアが果敢に攻撃を行いヘイトを稼ぐ。

 二人の連携が見事に決まり、それを嫌ったのかシルバーキャタピラーはその巨体を用いて薙ぎ払いを繰り出す。

 ミリアは余裕で躱し、セリーも間一髪で難を逃れた。

 奴は無数の足をワサワサと動かしながら、再び彼女たちの方へと体を向ける。

 

 おっしゃ! 俺のターン!

 

 もう一度オーバードライビングを発動し、猛然と斬撃を浴びせかけた。

 

 

 

 その後も余裕を保ちながら戦闘を続け、無事シルバーキャタピラーの討伐に成功だ。

 全員が詠唱中断の付いた武器を持っている上に、常時オーバードライビングを使用した攻撃。事故る要素など皆無で驚くほど安定している。

 四人パーティーでこれなのだ。ベスタとルティナが加わったら、いったいどうなるのかしらん?

 

 そんなことを考えながらドロップアイテムを回収するが、手の中にあるのは二つとも銀の糸。

 残念。ドラウプニルを装備しているのに両方ハズレだったか。

 

 ため息を吐いて、拾ったそれをアイテムボックスへ放り込む。

 

 

 

 

 

田川 歩 男 18歳

遊び人Lv53 勇者Lv39 冒険者Lv49 戦士Lv38 剣士Lv14

装備 貫通のオリハルコン剣 ズケット 頑強のアルバ 身代わりの竜革グローブ オラクルビットローファー ドラウプニル

 

BP振分 残BP:0

キャラクター再設定:1

フィフスジョブ:15

詠唱省略:3

必要経験値二十分の一:63

結晶化促進四倍:3

メテオクラッシュ:1

鑑定:1

ジョブ設定:1

アクセサリー六:63

 

所持金:3,101,309ナール

 

春の81日目

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