武器をしまい、ジョブの変更とボーナスポイントの振り分けを済ませたら作戦会議を開始する。
三十八階層から出現する魔物はパームバーム。
セリーによると低階層のボスとして登場するときとは異なり、枝による攻撃に加えてごつごつした硬い実を飛ばしてくるとのこと。
スキル攻撃は粘性の高い油を放ち、これを食らうと動きに支障をきたすらしい。
火が弱点で水と土に耐性があるという話なので、メテオクラッシュによるダメージが増すのか、それとも減少するのかが気になるところだ。
とはいえ、こいつも前に戦ったことがあるので、それほど気負う必要はない。
そしてドロップアイテムは通常がパーム油で、レア枠が紡績油。
パーム油はともかく、装備品の素材となる紡績油は是非確保しておきたいところだ。
情報共有が済んだところで声を掛けた。
「では、三十八階層へ進もう」
フロアに良い子のお返事がこだまする。
やはりボーナス呪文は伊達ではなく、三十八階層へ上がったというのにワンターンキルで片が付いてしまった。
当然、彼女たちは三十九階層へ上がることを提案する。
ワンターンキルが可能だったのだ。もちろん俺に否やはない。
さすがに入口の探索者に頼んで四十五階層までのブクマ登録をしようという提案は却下したものの、近いうちにそこへたどり着けるだろう。
これはガチで迷宮討伐の横取りができるかもしれない。
まあ、どこかで足踏みする可能性もあるけどね。
片っ端から魔物を蹴散らし、テンションバリ上がりのお嬢様たちと共に、待機部屋を目指してひたすら通路を進んでいく。
時間を忘れて没頭していると、ロクサーヌの口からいつもの言葉が聞こえてくる。
「ご主人様。そろそろ夕方になります」
その瞬間、身体に入っていた力がスッと抜けていく。
我ながらとんでもない数の魔法を放ってたもんなぁ。そりゃ緊張の糸も切れるというものだ。
しかし、現代人とは感覚が異なるのか、三人はまだまだ元気いっぱいといった様子。
ほんと、すごいお嬢様たちだこと。
感心しながら杖と盾をアイテムボックスに放り込んでキャラクター再設定を開くと、ボーナスポイントが余っていた。
おっ。遊び人が上がったのか。
そのポイントを鑑定に振り、自分へ向けて使用する。
田川 歩 男 18歳
遊び人Lv54 勇者Lv40 冒険者Lv50 魔道士Lv49 戦士Lv41
装備 ズケット 頑強のアルバ 身代わりの竜革グローブ オラクルビットローファー よりしろのイアリング
おー! すごいことになってるじゃないか!
勇者と魔道士はお昼前に上がっていたが、冒険者は午後の探索で50に到達だ。それに戦士もこの調子でさっさと50にしておきたい。
ないだろうなと思いつつ、ジョブ設定にポイントを振って確認したが、やはり冒険者の上位ジョブが表示されることはなかった。
まあそうだわな。おそらく何らかの条件が設定されており、それを満たさなければ取得できないのだろう。
予想していたため落ち込むこともなく、そのまま三人のレベルを確認したところ、ロクサーヌの巫女が29になっていた。
オッケー、オッケー。『レベルアップおめでとうの歌』でも歌ってやりたいところだ。ついでに『ダンジョンのブルース』もだな。
彼女たちと喜びを分かち合い、迷宮を後にする。
ドロップアイテムの売却と買い物を済ませて自宅へ戻ると、扉にパピルスが挟まっていた。
すっかり慣れたもので、セリーとミリアが荷物を受け取り、手の空いたロクサーヌがパピルスを取る。
流れるような連携が実に素晴らしい。
感心していると、優しげで清涼な声が聞こえてきた。
「それでは読み上げますね。コボルトのスキル結晶が三つで、それぞれ五千二百ナール、五千四百ナール、五千五百ナール。それからヒツジのスキル結晶が四千二百ナール、つぼ式食虫植物のスキル結晶が五千七百ナール、海水魚のスキル結晶が五千五百ナール、スライムのスキル結晶が九千二百ナール。以上です」
おっしゃ! コボルトのスキル結晶が揃った! これで状態異常攻撃用の武器が作れるぞ!
でもまあ、ワンターンキル、いや二ターンキルが可能なうちは、魔物を石にする必要性も薄い。
ミリアが暗殺者になってもすぐに融合せず、一回の戦闘時間が長くなるまで保留しておこう。
あとはスライムのスキル結晶が手に入ったのもありがたい。物理ダメージが減らせるのは本当に助かるからな。
どれを何に融合するべきなのかを話しながら家に入る。
翌日もいつもと同じくミーティングからスタートだ。
今日の予定を確認する前に彼女たちへ伝えておきたいことがある。
まずは給与を支給してから、そのことについて話すことにしよう。
感謝を伝え給与を渡すと、ミリアの手持ちが一万ナールを超えたらしい。
両替をするか確認したところ、彼女は大喜びで部屋から銀貨を持ってきて、受け取った金貨をニコニコしながら眺めている。
金の輝きって人を魅了する力があるよなぁ。
金貨を巾着袋にしまうのを確認し、本題へ入る。
「ミリアが正式に加入してからもう十五日以上が過ぎた。戸惑うことも多かっただろうけど、色々頑張ってくれているね。いつもありがとう」
すると、彼女の顔にひまわりのような笑みが咲き誇った。
「私の方こそ、ありがとうございます! 魚を食べさせてもらえたり、綺麗な服を着せてもらったり、歩雲履で遊ばせてもらったり、とっても気持ちよくしてもらえたり、ご主人様のおかげで本当に幸せです!」
相変わらず即物的な娘さんだなぁ……。
いやまあ、それも可愛いけどさ。
その言葉にロクサーヌとセリーは苦笑を浮かべている。
仕切りなおすために咳払いを一つ。
「それで、もうすぐベスタも加入することだし、五日後の春の八十七日目は休日にしようと思うんだけど、どうかな?」
「お休みですか!? お姉ちゃんたちから話を聞いて楽しみにしてたんです! ご主人様と二人だけで過ごせるんですよね!?」
ミリアから大きな声が上がった。
その顔には満面の笑みが浮かび、心底楽しみにしている様子がうかがえる。
そして、慈愛に満ちた表情でロクサーヌが口を開いた。
「よかったですね、ミリア。ご主人様にたくさん可愛がってもらってくださいね」
セリーも微笑みながらそれに続く。
「とても素晴らしい体験になるはずです。楽しんでくださいね」
二人の言葉で笑顔の輝きが増し、大きく頷いて返事をする。
「ありがとうございます! たくさん可愛がってもらっちゃいます!」
えっと、はい。たくさん可愛がります。……でいいんだろうか?
彼女たちに何をして過ごすのかを確認したところ、ロクサーヌは帝都の散策、セリーは帝国解放会のロッジで調べものをしたいとのことだった。
ミリアにはハーフェンでの釣りを提案したが、それを聞いた彼女の顔に苦悶の色が浮かぶ。
「釣り……。有名な漁場での釣り……。美味しい魚……。でも、ご主人様に可愛がってもらえない……」
眉間にしわを寄せながら、ブツブツと呟きを漏らしている。
なんか、めちゃくちゃ葛藤しているんですが……。
というか、奴隷に落ちる原因となったほど魚が好きな娘なのに、それと同じくらい俺と共に寝所で過ごしたいらしい。
その様子を見て、かなりグッとくる。
知恵熱が出そうなほど悩んでいるミリアに、ロクサーヌが穏やかに話しかける。
「それなら午前中は釣りをして、午後からは自宅で過ごしてはどうですか?」
さらにセリーも付け加えた。
「海で釣りをするのでしたら、潮がかかってしまうでしょう。お風呂に入りながらのんびり過ごすのもいいかもしれません」
それを聞いたミリアの表情が一変し、輝きが戻る。
漫画なら頭の上で電球が光った場面だろう。
「お姉ちゃん、セリーさん、ありがとうございます! ご主人様、そうしていいですか!?」
「大丈夫だよ。それじゃあ、当日は楽しもうね」
「はい!」
あら、可愛い。
二人はそんな彼女の様子を微笑ましげに見つめていた。
休日のスケジュールを確認したら、今度は今日の予定を確認する。
早朝の探索を終えたら朝食と食休みをとり、その後はクーラタル、ベイル、帝都の武器屋を回ろう。
それが済んだら、次は高級服屋でミリアのドレスの進捗を確認だ。
きっと時間がかかるだろうから、その間に俺はスキル結晶の受け取りを済ませる。
その後、時間があるようなら迷宮へ、無理そうなら昼食の準備ってところか。
釣具屋は帝都にあるらしいが、注文していたトランプの受取日が明後日になっている。
釣り道具はそのときに購入するってことで。
同じ日にハーフェンへ行って、村長へ挨拶も済ませておくか。
んで、午後からはいつも通りっと。
ロクサーヌとセリーは特に意見はないようで、納得したように頷いていた。
ミリアは自分のドレスと、休日の釣りのことで頭がいっぱいなのか、夢見るような表情を浮かべている。
うん。喜んでもらえているようで何より。
早朝の探索を終えると勇者のレベルが41に、そして戦士のレベルが42になっている。
三十八階層の魔物をワンターンキルで狩っていくと、こんなエグイことになるのか……。
あー、もう。やっちまったなぁ。もっと早くこれを思いついていれば。
自分の間抜けっぷりに呆れてしまうが、それでもいまだ春の八十二日目。たいしたロスではないだろう。
あわてない、あわてない。一休み、一休み。
朝食と食休みを済ませたところで町へ繰り出した。
クーラタルの武器屋と防具屋は例によって収穫なしで終わり、続いてベイルへ移動する。
しかし、探索者ギルドを出たところでロクサーヌの表情が引き締まり、周囲の匂いを丹念に確認し始めた。
なんだ? 何かの匂いを感じたのか?
様子を見守っていると、やがて彼女の瞳に険しい光が灯り、鋭く一点を射抜く。
俺もそちらに視線を移したところ、アランの館が目に入った。
ん? 入口に何人かいるぞ?
気になったので、そいつらに鑑定をかけてみる。
「あっ」
その表示を見た瞬間、思わず声が漏れた。
アランの他に四人の男。
そのうち二人は以前俺が売り払ったバラダム家の冒険者と探索者。そしてもう二人は……。
ステン・バラダム ♂ 38歳
冒険者Lv67
装備 催眠のレイピア 鋼鉄の盾 硬革の帽子 竜革の鎧 竜革のグローブ 硬革の靴 身代わりのミサンガ
イヴァン・バラダム ♂ 52歳
豪商Lv57
装備 身代わりのミサンガ
あいつらバラダム家だ!
状況から察するに、身内を買い戻したのだろう。
しかし、魔法使いと巫女の姿は見当たらない。何か理由があるのか?
それにしても、あの冒険者はレベルの割にパッとしない装備品だなぁ。豪商に至っては身代わりのミサンガしか装備していないぞ。
もしかすると、クーラタルの店舗に売却されていたものや、オークションに出品されたものの中に、あいつらの装備品が含まれていたのかもしれない。
奴らの様子を観察していると、アランが例のお辞儀を行い、豪商の男と話を始める。
一方、冒険者と探索者は何かを察したように周囲を見回し始め、やがて俺たちに気付いて視線を向けてきた。
厄介ごとに巻き込まれる前に、さっさと引き返して帝都へ向かった方が無難だよな。
そう告げようとした矢先、セリーに機先を制される。
「このまま移動すれば逃げたと思われてしまいます。そうなればこちらを侮り、後々さらに厄介なことが起こるでしょう」
あ、はい。私の考えはお見通しってわけですね。
彼女たちの様子を確認したところ、完全に戦闘態勢へ移行してしまっている。
直接バラダム家を知らないミリアも経緯を聞いているため、殺る気満々マンドリルだ。
血の気の多い娘さんたちだなぁ。でもそんなところも可愛いんだな、これが。
緊迫した状況だってのに、場違いなことを考えていると、アランが俺たちに気付いた素振りを見せ、軽く目礼をしてそのまま館の中に戻っていく。
扉が閉まったところで冒険者や探索者はこちらを指差しながら、他の二人に何かを話し始めた。
何を話しているんだろう? もしかして泣きついてたりするのかね?
やがて話を終わると、奴らはこちらへズンズンと歩み寄ってくる。
そのまま待ち構えていると目の前まで立ち止まり、イヴァンという豪商が俺をジッと見据えてきた。
この男、豪商というジョブからは想像できないほど、剣呑な雰囲気を漂わせている。
岩のように無骨な顔つきに、頬に走る深い傷跡。苦み走った表情はまったく堅気に見えない。
まるでヤクザ映画のスクリーンから抜け出してきたかのような風貌で、盗賊系のジョブに就いていないのが不思議なくらいだ。
……いや、バラダム家の悪評を耳にしているせいで、妙なバイアスがかかっている可能性もあるけどさ。
それにしても、自他ともに認めるビビりの俺なのに、いかにも反社然とした男を前にしても、不思議と怖気づいてはいない。
思い返してみれば、ハルツ公が放つ威圧感の方が遥かに恐ろしかったし、そもそも隣には推定世界最強の娘さんがいる。
それに、最悪オーバードライビングを使えばどうとでもなるという余裕もあるのだろう。
これって慢心かな?
いやでも、正直こいつらに負ける気がしないんだよなぁ。
思考を巡らせていると、豪商の男が低く重たい声を発した。
「バラダム家の当主、イヴァン・バラダムだ」
あっ。こいつが当主なのか。ということは、あのドリルヘアーの親父さんってわけだ。
このたびはとんだことで、お察しします。
黒ずくめで襟足の長い警部補のようなセリフを思い浮かべていると、さらに言葉が続く。
「儂の身内が世話になったようだな」
えっと、舐められるわけにはいかないんだよな?
「なに、目の前を跳び回っていた鬱陶しい虫を叩き潰しただけだ。世話をしたというほどじゃない」
「ああ!? てめぇ、ふざけんじゃねぇぞ!」
ステンという冒険者が激高し、通りに声が広がった。
「やめろ」
イヴァンが静かに制するが、しかしステンは食い下がる。
「ですが!」
「やめろと言っている」
再びの制止に歯を噛み締めながらこちらを睨みつけ、渋々口を閉ざした。
場が静まったところで、イヴァンがゆっくりと口を開く。
「儂には夢があった。いつか貴族に成り上がるという夢がな」
はあ? なんか語り出したで、おい。
「人様に恨まれるようなことにも手を染め、少しずつ家を大きくしてきた」
やっぱバラダム家はまともな商家じゃなさそうだ。話を聞いているだけでもヤバい匂いしかしない。
「そんな折、姉の所にサボーが生まれたのだ。あれは幼い頃より手の付けられない乱暴者で、大人でも抑えられないほどの強さを備えていた」
えっと、俺たちは何を聞かされているんだろう……。
彼はこちらのことなど気にも留めず話を続ける。
「成人を迎える頃には、もはや敵う者などいなくなっていた。気付けばサボーの力を使い、儂はさらに強引な手段をとるようになっていた……」
そう言って大きなため息を漏らした。
過分な力に溺れると身を滅ぼす的なこと?
俺はサボーなんかとは比較にならないほどの力を与えられている。めちゃくちゃ身につまされるなぁ。
再びイヴァンが口を開く。
「家が大きくなり、またサボーの力を過信し、一族の者はどんどん増長していった。そして、儂はそれを止めることができなかった。その結果があれだ。バラダム家にはもう何の力も残ってはいない。もう一度そちらと事を構えたときは破滅するしかないだろう。決して報復など考えないので、どうか今回の件を収めてもらえないだろうか?」
彼はそう言って頭を下げた。
うん? つまりごめんしてってこと?
戸惑っていると、怒号が上がる。
「親父! どうしてお嬢とサボーの敵に頭を下げるんだ! こんな腰抜けなんざ決闘でやっちまえばいいだろ!」
まあ。お聞きになりまして? 田川様は腰抜けだそうですよ?
……うん。間違ってないわな。
「黙れ! この男は身代わりのミサンガを付けていたサボーを殺しているんだぞ! お前はバラダム家を潰すつもりか!」
当主の言葉に探索者が続く。
「俺たちはサボーがやられたところを目の前で見ました。その男は信じられないような速さで動き、瞬きをするほどの時間で首を飛ばしたんです」
そして、俺たちに絡んできた方の冒険者も説得に加わった。
「ええ。間違いありません。その男と決闘をすれば、バラダム家はこの世から消えてなくなるでしょう」
彼らは三人がかりでステンという男の説得を続けている。
ほんと、俺たちは何を見せられているんだろうねぇ……。
こちらサイドは完全に白けているが、何とか言いくるめることに成功し、再びイヴァンが話しかけてきた。
「見苦しいものを見せて申し訳ない。改めて頼む、今回の件を水に流してはもらえないだろうか?」
とは言ってもなぁ。
殊勝なことを抜かしているが、そもそものきっかけは逆恨みでロクサーヌの家を困窮させ、彼女を奴隷に落としたことだ。
そして、それだけでは飽き足らず、決闘を吹っ掛け俺の最愛の人を殺そうとしている。
「その前に確認だ」
ロクサーヌを示し、問いかけた。
「ロクサーヌには一切非がなかったというのに、あの女は嫉妬心や逆恨みで彼女の家を困窮させ、奴隷に落とした。お前はそのことに気付いていたな?」
俺の言葉に呟きを漏らす。
「……ああ。儂が甘やかしたせいであれはまったく我慢ができない娘になってしまった。その娘の家に追い込みをかけたいと言い出したときも、ちょっとしたことが気に障ったのだろうと予想は付いた」
ああ? ふざけるなよ?
「購入したのが俺だったから無事で済んだが、別のやつが購入していた場合、主人は決闘で始末され、ロクサーヌも死ぬほどつらい目に遭った末に殺されていたはずだ。お前らの手慣れたやり口を見るに、こういったことが今回だけとは考えられない。他にも同じようなことをやっているな? そんなクソみたいな家は一人残らず滅びるべきだとは思わないか?」
別に悪党退治や世直しをしようなんて気はさらさらない。
だが、こいつらはロクサーヌを殺そうとした。それだけで死刑執行書にサインをしたも同然だ。
俺の言葉を聞き、イヴァンは深く頭を下げる。
「すべては儂の功名心により生じたこと。うちには年端もいかない子供だっている。どうか儂の首だけで収めてもらいたい」
そんな殊勝な真似ができるなら、どうして最初からそうしなかったんだ。
限界まで追い詰められてから頭を下げたところで何の意味もない。
「ご主人様」
冷めた目で奴のつむじを眺めているとロクサーヌが声を発する。
「ご主人様のおかげでこの通り、何の問題もなく過ごすことができています。私のために怒ってくださることは嬉しいですが、族滅までは望んでいません」
強い意志の籠った瞳でそう言った。
「いいのか?」
「はい」
問いかけたところ、彼女はしっかりと頷きを返す。
敵に対しては容赦がないものの、心根の優しい女性だ。無関係な人まで始末するのは気が咎めるのかもしれない。
その言葉で奴らの表情が少しだけ明るくなった。
「ロクサーヌはこう言っているが、落とし前は付けてもらわなくてはならない。お前たちが困窮させた彼女の家にその損失分を賠償しろ。それがなされるなら手打ちを考えてやる」
絶対払えよ? こっちとら、二千万ナールを手に入れてることはお見通しだ。ないとは言わせねぇぞ。
というか千二百万ナールを出したのは俺だし……。
すると、イヴァンは深く頭を垂れる。
「恩に着る。必ず賠償すると家名に誓おう」
バラダムなんていうクソみたいな家名に誓われたところでなぁ……。
大きく息を吐き出し、考えを巡らせる。
これまで好き放題に生きてきた連中だ。信用なんかできるはずがない。
根切りにしないのなら、こちらへちょっかいをかけてこないよう牽制しておく必要があるだろう。手を出したら絶対にヤバいことになると思わせるような牽制が。
背負っていたリュックを下ろし、中に入っている物を手に取った。
面倒なことになったら躊躇なく使うように言われている。今がそのときだ。
「あの決闘騒動は馬鹿げた出来事だったが、そのおかげで得たものもある」
そう言いながら、奴らに手に持ったものを示す。
「ハルツ公爵閣下がご覧になっていたおかげで、知己を得ることができた。そのことだけは感謝してやるぜ?」
多少、時系列に齟齬があるものの、ハルツ公が決闘を見て感心していたのは本当だし、俺たちを見込んでくれたのだって嘘じゃない。このくらいなら誤差みたいなもんだ。
それを目にした瞬間、四人の表情が強張った。
「閣下は困ったことがあれば力になると仰り、このワッペンを預けてくださった。もしお前たちが約束を破り、俺や彼女たち、そしてその身内に手を出すようなことがあれば、おそれおおくもそれを公爵閣下へ報告させてもらう」
他力本願で情けない限りだが、彼女たちを守るためにはそんなことを言ってられない。
俺は虎の威を借ることに何の躊躇もない男。コンコン!
「わ、分かった。もちろん約束を破るつもりも、そちらに手を出すつもりもない」
イヴァンは握手を交わすと、青ざめた表情で他の奴らを促し、逃げるように探索者ギルドへと入っていった。
公爵家のご威光は絶大だなぁ。
ほんと、公爵閣下には足を向けて眠れないわ。
田川 歩 男 18歳
冒険者Lv50 勇者Lv41 遊び人Lv54 魔道士Lv49 戦士Lv42
装備 オラクルビットローファー 身代わりのミサンガ
BP振分 残BP:0
キャラクター再設定:1
フィフスジョブ:15
必要経験値二十分の一:63
詠唱省略:3
鑑定:1
ワープ:1
ジョブ設定:1
買取価格三十パーセント上昇:63
所持金:3,152,449ナール
春の82日目
いつも拙作をお読みいただき本当にありがとうございます。
投稿を始めてからもうすぐ二年になります。
更新を続けていられるのは、素晴らしい原作の魅力のおかげです。
そして、お読みいただいている皆様のUA、お気に入り、感想、評価、ここすきといった反応のおかげでモチベーションを維持できています。
そこで、感謝の気持ちではないですが、連続更新を行いたいと思います。
お楽しみいただければ幸いです。