異世界迷宮へ行ったなら   作:三星織苑

233 / 300
231 任命

 

 

 

 

 

ハルバーの迷宮

三十八階層

 

 

 

 

 

 午後からはハルバーの迷宮三十八階層の探索を再開だ。

 まるでラッセル車が雪をかき分けて進むかの如く、俺たちは通路をガンガン進んでいく。

 

 

 

 魔物の殲滅を続け、MP回復のために万能丸を口に放り込みながら、鑑定を自分へ向けて使用する。

 

田川 歩 男 18歳

遊び人Lv54 勇者Lv41 冒険者Lv50 魔道士Lv50 戦士Lv44

装備 ひもろぎのカッカラ ダマスカス鋼の盾 ズケット 頑強のアルバ 身代わりの竜革グローブ オラクルビットローファー よりしろのイアリング

 

 おっ。魔道士のレベルが50に到達している。それに戦士のレベルは2つも上がってるじゃないか。

 

 一応駄目元で結晶化促進を一段階下げ、ジョブ設定を付けて確認してみたものの、魔道士の上位ジョブは生えていない。うん、知ってた。

 

 だが続いて彼女たちのレベルを確認すると、遂に待ち望んでいたものが表示される。

 

ミリア ♀ 15歳

戦士Lv30

装備 強権のレイピア オラクル古代樹盾 耐火のダマスカス鋼額金 迅速の竜革ジャケット 頑強の竜革手甲 駿馬の竜革靴 身代わりのミサンガ

 

「よっしゃ! 戦士のレベルが30だ!」

 

 思わず上げた声に、即座に反応が返ってきた。

 

「私のレベルが上がったんですか!」

 

 驚いた顔のミリアに、微笑を浮かべたロクサーヌが穏やかに話しかける。

 

「ミリア、おめでとうございます。暗殺者となって、益々ご主人様のお役に立つことができますね」

「状態異常攻撃は強力な魔物にこそ効果を発揮するそうですし、今後はミリアの働きが重要になってきます。頑張ってください」

 

 二人の言葉に笑みを返しているミリアへ、俺も思いを伝える。

 

「ロクサーヌとセリーの言う通り、これからはミリアの石化攻撃を頼りにすることが多くなるだろう。期待しているぞ」

 

 すると、彼女の表情がさらに輝きを増した。

 

「はい! 私に任せてください!」

 

 おー、ミリアが燃えている。漫画ならきっと瞳に炎が描かれている場面だろう。

 

 

 

 落ち着いたところでパーティー項目解除とパーティージョブ設定を付け、ミリアのジョブ設定を開いた。

 

戦士Lv30 村人Lv5 農夫Lv1 探索者Lv1 薬草採取士Lv1 海賊Lv1 商人Lv1 剣士Lv1 錬金術師Lv1 騎士Lv1 暗殺者Lv1 海女Lv2

 

 よっしゃ! 騎士と暗殺者をゲットしている!

 探索中だから今すぐは無理だが、帰ったら騎士の任命スキルで俺を村長にしてもらおう。

 

 それにしても、商館で最後に戦士にして以来、彼女のジョブ設定画面を開くことがなかったせいで気が付かなかったが、薬草採取士と農夫、それに錬金術師もゲットしてたんだな。

 まあ、これらはロクサーヌも持っているし、農夫と薬草採取士はセリーにもある。

 

 ハーフハーブのドロップアイテムである麻黄を拾ったことで薬草採取士を、庭に植えているシェーマやハーブの収穫で農夫を、そして一緒に石鹸を作ったことで錬金術師を得たのだろう。

 

 しかし、セリーは村人のレベルが5になっていないため、初級ジョブを取得していない。

 この後はミリアのジョブを暗殺者に変更するのでレベルが1になるため、フィフスジョブは防御スキルであるメッキを使える錬金術師にする必要がある。

 それならついでにセリーにもメッキをかけて、村人のレベルを5に上げておくか。

 

 その旨を伝えたところ三人とも賛成してくれた。

 

 二人のジョブと俺のフィフスジョブを変更し、結晶化促進八倍を付けなおしたら探索再開っと。

 

 

 

 二回の戦闘を経たところでレベルを確認すると、ミリアの暗殺者が3に、セリーの村人が5に上がっている。

 三十八階層の魔物を獲得経験値二十倍で狩ってんだもんなぁ。そりゃこうなるわ。

 

 少し待ってもらい、ボーナスポイントを振り分けてセリーのジョブ設定を開く。

 

村人Lv5 農夫Lv1 探索者Lv10 薬草採取士Lv1 戦士Lv1 商人Lv1 剣士Lv1 錬金術師Lv1 巫女Lv1 鍛冶師Lv28

 

 オッケー、オッケー。今後使うことがあるのかは分からないが、初級ジョブをゲットしている。よきかな、よきかな。

 

 そんじゃ、セリーは鍛冶師に戻して探索を続けよう。

 

 

 

 その後、程なくして待機部屋へたどり着く。

 

 パームバウムのボスはカナリアカメリア。

 我が家でもお馴染み、カメリアオイルをドロップするありがたい魔物だ。それにレアドロップは装備品の素材である椿の樹皮。

 アイテム確保のためにボスマラソンをしたいところだが、今は上を目指している最中のため、先を急ぐことにする。

 クールタイムの問題があるため、魔法使いのスキルを変更するわけにはいかず、例によってダブルアタックで挑むことになってしまったが、三人がヘイトを完璧に取ってくれたおかげで、多少時間はかかったものの、艶々の葉っぱと鮮やかな花を持つ魔物をあっさり下すことに成功だ。

 

 そして、続く三十九階層から出現するのはラピッドラビット。

 小さい体に真っ赤な体毛。目で追うのが難しいほどの速度で迷宮を駆けまわる難敵となっている。

 耐性や弱点はないとのことなので、遊び人のスキルは中級火魔法のままでオッケー。

 ドロップアイテムは我が家の定番料理である唐揚げの材料、ウサギの肉。

 この機会にしっかり集めておこう。

 

 

 

 

 

ハルバーの迷宮

三十九階層

 

 

 

 

 

 ブリーフィングを終えて三十九階層へ上がり、通路を進んでいるとすぐに魔物と遭遇した。

 赤いウサギが二匹にヤシが二匹、そして白い芋虫とサンゴが一匹ずつ。

 

 開幕、ラピッドラビットが弾かれたように動き出し、壁や天井を利用した立体的な軌道でこちらへ迫ってくる。

 

 速い!

 

 しかし、ロクサーヌとミリアはその動きに一切惑わされることはなく、赤い弾丸を剣で叩き落とし、奴らと同じような軌道で攻撃を開始した。

 

 すげぇ……。とんでもない動きをしてるぞ……。

 でも考えてみれば、オーバーホエルミング中の俺に攻撃を当ててるんだもんなぁ。

 装備品によるアシストがあるとはいえ、本当にすごいお嬢様たちだ。

 

 二人のおかげで落ち着きを取り戻し、トリプルスペルを発動する。

 

 

 

 だが、魔法のエフェクトと一緒に消えたのはパームバウムとコラージュコーラルのみ。

 ラピッドラビットとホワイトキャタピラーは健在で、思わず舌打ちが漏れそうになってしまった。

 

 内心の苛立ちをグッと堪え、残りを片付けるためにバーンストームをシングルで放つ。

 

 ひもろぎのカッカラを構え、戦況を注視していると、炎を纏ったラピッドラビットの攻撃をさばいていたミリアが攻撃を食らった。

 

 不味い!

 

 慌ててメッキを貼り直すも、彼女は落ち着きを崩すことなく戦闘を継続している。

 やがて炎と共に魔物の体が空気に溶けるように消えていった。

 

 安堵の息を漏らし、今の戦闘について思索を巡らせる。

 

 火属性が弱点であるパームバウムとコラージュコーラルがワンターンで倒れ、火と土が弱点ではないラピッドラビットとホワイトキャタピラーが残っていた。

 これは火属性が弱点に刺さり、ダメージが増したことによるものだろう。

 

 バーンストーム二発ではなく、一つは別の魔法に変えてワンターンキルが可能か試したいところだが、ラピッドラビットとホワイトキャタピラーは弱点属性がないため、今すぐに検証というわけにはいかない。

 

 まあ、トリプルスペル一発で沈まなかったのは残念だが、魔法が一回増えただけ。このまま三十九階層の探索を続行だ。

 

 ドロップアイテムをしまい込み、再び通路を進む。

 

 

 

 いかにロクサーヌとミリアの戦闘能力が優れていようとも、ラピッドラビットの数が多いと、どうしても間を抜かれてしまい、俺とセリーが被弾してしまう。

 まあ、それでも美人巫女さんが即座に回復を入れてくれるため、大事には至らない。

 そして、ミリアは動きに慣れてきたのか、攻撃を食らうこともだいぶ少なくなっていた。

 才能の差がエグすぎる……。

 

 

 

 探索を続けていると、ロクサーヌからいつもの言葉が聞こえてきた。

 

「ご主人様、そろそろ夕方になります」

 

 一つ息を吐き出し確認を行うと、この短時間で錬金術師のレベルが31に到達している。

 30を超えたので念のために派生ジョブを取得していないか確認したものの、当然ながらなんにもなし。うん、知ってた。

 

 ロクサーヌとセリーのレベルに動きはないが、ミリアの暗殺者は14に到達している。

 ごくわずかな時間だったというのに、上がり方がハンパない。

 ほんと、文字通りのチート能力だわ。

 

 

 

 

 

クーラタル郊外

アユムの家

 

 

 

 

 

 修行を終え、装備品の手入れをしながら迷宮では試せなかったことを試してみることにした。

 

「ミリアが騎士のジョブを得たから、任命のスキルで村長になることが可能になった。まずは俺が三人を村長にするから、詠唱を確認してみてね」

 

 すると、セリーからちょっと待ったコールがかかる。

 

「あの、領主の許可なく村長に任命することは固く禁じられているはずです。それは不味いのではないでしょうか」

 

 彼女の顔には戸惑いだけではなく、ほんのわずかに怯えもにじんでいた。

 

 確か原作でも同じようなやり取りをしていた気がするぞ。

 まあ、封建社会で貴族の定めたルールを無視するのは怖いわな。

 

 だが、我らが一番奴隷さんは、大きな胸を張ってドヤ顔で言い放つ。

 

「ご主人様はそう遠くないうちに領主になるお方。何の心配もいりません」

 

 えーっと、たとえ将来領主になったとしても、今ルールを破っていい道理はないと思うんですが……。

 そして、ニコニコ笑いながらミリアもそれに続く。

 

「お姉ちゃんの言う通りです。秘密にしておけばきっと誰にもバレません。気にする必要はないと思いますよー」

 

 このネコミミ娘、とんでもないことを言いおる。

 

 それはともかく、原作ではセリーを騎士にしていたが特に問題は起こっていないし、これによって山賊のジョブがついたなんてこともなかった。

 

 ……いや? 待てよ? この世界は細かいところで原作と異なる部分がいくつもある。盗賊系のジョブがつく可能性もあるか?

 

 

 

「ご主人様、どうかなさったのですか?」

 

 考え込んでいると、ロクサーヌが不思議そうに問いかけてくる。

 

 そうだな。一人で悩んでいても結論なんて出ない。三人に相談してみよう。

 

 懸念事項を伝えたところ、彼女はキリっと表情を引き締めた。

 

「それでは、私で試してください。ご主人様のお役に立てるのでしたら、海賊のジョブがついたとしても本望です」

 

 ロクサーヌがそう言うや否や、セリーが大きな声を上げる。

 

「それは駄目です! 一番奴隷のロクサーヌさんが盗賊系のジョブを持っていては、ご主人様の外聞が悪くなってしまいます! 私で試してください!」

 

 あの……。当のご主人様は盗賊系のジョブを持っているんですが……。

 

 どちらで試すべきか話し合っている二人を眺めていると、小さな声が耳に届いた。

 

「……そうですよね。海賊のジョブを持っているなんて、外聞が悪いですよね」

 

 あー、うん、大丈夫。俺もそうだから。お揃いだから。全然気にすることないから。

 

 へこんでいるミリアの頭に手を伸ばし、慰めるようにそっと撫でていく。

 

 

 

 結局、『ご主人様が貴族に成り上がった際に、第一夫人となるロクサーヌさんが盗賊系のジョブを持っているのはよろしくない』という言葉が決め手となり、セリーが試すことになった。

 我が最愛の人は第一夫人という響きに感動し、すっかり浮かれている。

 まあ、それを喜んでもらえることは嬉しいんだけどね。

 

 

 

 フィフスジョブを騎士に変え、詠唱省略を外す。

 念のためアイテムボックスを空にしてもらったところで、セリーへ手のひらを向け、言葉を紡いだ。

 

「我が臣、セリーよ。汝の才覚と誠実な心を信じ、我が領地を託す。秩序を守り、民を導き、豊穣をもたらすのだ。ここに、汝を村長に任ず」

 

 特に意味はないのだが、それっぽい感じがして格好いいんじゃないだろうか?

 

「謹んで拝命いたします」

 

 おお? 呆れられるかと思ったのに、セリーもノリノリじゃん。

 

「うむ。では任命いたす」

 

 そして、真剣な表情でこちらを見つめている彼女へ向け、詠唱を開始する。

 

「天地統べる皇の、断り攻めてしろしめせ、任命」

 

 詠唱が済んだところで確認だ。

 

セリー ♀ 16歳

村長Lv1

装備 サンダル 身代わりのミサンガ

 

 よっしゃ! 村長になっているぞ!

 

 次にジョブ設定を確認してみたが、セリーの取得済みジョブに山賊は見当たらない。

 オッケー、オッケー。バッチリ、バッチリ。

 

「あー! セリーさんだけずるいです! ご主人様、私にもそれをお願いします!」

 

 声の聞こえてきた方に視線を向けたところ、うらやましそうにこちらを見つめるミリアと、ふくれっ面のロクサーヌが目に入った。

 

「そんな大切な儀式なのに順番を……。私が第一夫人なのに……」

 

 え? あ、その、ごめん。でも、ただのごっこ遊びだよ?

 

 機嫌を損ねたロクサーヌさんだったが、もっと厳かな儀式をするからとなだめすかし、まずは先ほどと同じ口上をミリアへ述べて、村長に任命する。

 

 そしてロクサーヌの番になると、彼女はススッと俺の前に進み出た。

 その表情はキリッとしているものの、全然興奮を隠しきれていない。

 

 めっちゃ期待されてる……。

 これは生半可なロールプレイじゃ納得してもらえないぞ……。

 

 えーっと……。

 よし、そうだな。

 

 ボーナスポイントを武器六に振り、出現したデュランダルを手に取って告げる。

 

「聖剣デュランダルに誓い、忠義の証を授けん。我が剣にして盾たる忠臣、ロクサーヌ。膝を折り、頭を垂れよ」

 

 その言葉に従い、彼女は俺の前で膝をついた。

 

「汝の徳は風の如く悪鬼を祓い、汝の志は陽光の如く人心を照らす。汝の才と忠誠は何物にも代えがたき我が至宝なり」

 

 デュランダルの腹で彼女の右肩を叩く。

 

「汝の武であらゆる悪意から民を守れ」

 

 続けて左肩を叩く。

 

「汝の智で正義を成し、秩序を示せ」

 

 そして、最後に聖剣を頭上に掲げた。

 

「立て、ロクサーヌよ」

 

 彼女はスッと立ち上がり、怖いくらい真剣な表情で俺を見据える。

 

「いまここに命ず。我が忠臣、ロクサーヌ。汝を村長に任ずる」

 

 その言葉を聞き、ロクサーヌは声高らかに答えた。

 

「謹んで拝命仕ります。この命を賭して民を慈しみ、地を愛し、主の御名を汚さぬよう励みましょう」

「うむ。我が信は常に汝と共にあろう」

 

 彼女の宣言に頷きを返し、呪文を唱える。

 

「天地統べる皇の、断り攻めてしろしめせ、任命」

 

 よし。オッケー、ロクサーヌも村長になってるな。

 

 任命ごっこがすべて終わったところで、デュランダルをポイントに還元し、彼女たちのジョブを元に戻した。

 

 んじゃ、次は俺を村長にしてもらいますかね。

 

 ジョブとボーナスポイントの振り分けを済ませ、ミリアに声を掛けようとしたが、ロクサーヌが瞳を潤ませて敬愛の表情を浮かべながらこちらを見つめている。

 

 えっと、あれはお芝居だよ? 分かってるよね?

 

 ガチなリアクションに戸惑っていると、彼女がヒシッと抱き着いてきた。

 

「私のことを信用してくださり、本当にありがとうございます! この命を賭してご主人様の領地と民をお守りいたします!」

 

 いや! ないから! 俺に領地や民はないから!

 この娘、どんだけ入り込んでんだよ!

 

 彼女の興奮が収まるまで、背中をそっと撫で続ける。

 

 

 

 ロクサーヌが落ち着きを取り戻したところで、セリーがジト目を向けていることに気が付いた。

 

「とても騎士が村長を任命する言葉とは思えません。まるで迷宮討伐を成し遂げた者へ爵位を授ける皇帝のようでした……」

 

 ただのロールプレイにそんなことを言われても……。

 

「ご主人様! 私にもお姉ちゃんにやったやつをお願いします!」

 

 君はもう村長になったでしょ。

 

 

 

 ロクサーヌに抱き着かれたまま、ミリアを騎士にして、俺も無事に村長のジョブを得ることができた。

 ちょっとした冗談だったのに、ロクサーヌの忠誠心に火を着けてしまったようだ。

 どうやらこういうのは遊びじゃ済まないらしい。今後はもう少し慎まないといけないな。アユム、反省。

 

 

 

 

 

田川 歩 男 18歳

村長Lv1 勇者Lv41 冒険者Lv50 魔道士Lv50 騎士Lv1

装備 サンダル 身代わりのミサンガ

 

BP振分 残BP: 22

キャラクター再設定:1

フォースジョブ:7

必要経験値二十分の一:63

鑑定:1

ワープ:1

ジョブ設定:1

詠唱省略:3

 

所持金:3,085,992ナール

 

春の82日目

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