今日も今日とて、早朝から薄暗い迷宮に入る。
暗殺者のレベルが14になっているため、ミリアからもうメッキは必要ないと言われてしまった。
ほんと、この娘たちはすごいよなぁ。
もし俺だったら、まだまだメッキのお世話になるに違いない。
そんなわけで、またしても錬金術師はワンポイントリリーフとしての登板に終わった。
次にマウンドへ上がるのは、ベスタが仲間に加わったときだろう。
魔物を倒すのに二ターンが必要になったため、探索速度が少し落ち、さらに万能丸の消費量もわずかに増している。
そこまで気にするほどではないが、さらに先へ進んだときにどれほど影響が大きくなるのかが気がかりだ。
待機部屋にたどり着いたのは探索終了間際。
扉を潜った途端、ロクサーヌからそろそろ夕方が近いと告げられる。
……もしかしてギリギリまで粘ったの?
彼女たちの様子を見るに、一日一階層ずつ上げことを目標にしている節がある。
ありえなくはないよな?
ロクサーヌの方へ顔を向けたところ、視線がぶつかった。
彼女は小さく首を傾げ、女神のような微笑みを浮かべる。
……本当に綺麗で可愛い娘だなぁ
……いやいや、違う違う。このお嬢様、笑顔で誤魔化そうとしおったぞ。
この田川がそんなことで誤魔化されると思うてか!
まあ、そこまで気にするほどのことではないが、一言触れておかねば。
……可愛い笑顔には勝てなかったよ。
ロクサーヌだけではなく、セリーとミリアまで加わり、今の探索状況から考えるともっともっと上の方で戦うべきだと、逆に説得されてしまう。
おまけに入口脇にいる探索者へ頼んで、四十四階層までの各階へ案内してもらうべきだと以前の提案を蒸し返される始末。
それについては当然今回も却下したが、ロクサーヌによると時間をオーバーしているわけではないそうだ。
うん。それなら何の問題もない。
いや、むしろ迷宮探索に対するモチベーションが高くて、素晴らしいまであるな。
さすが自慢のパーティーメンバー。世界最高の女性たちだ。
……この娘たちに甘すぎだろうか?
まあ、俺が彼女たちに勝てるわけがない。今後もこんな関係が続くのだろう。
でも、それが幸せってやつだったりするのかもな。
普段は立ててくれるのに、決して信念は曲げない女性ってなんかいいよね。俺の癖にぶっ刺さるんだもん。
馬鹿なことを考えながらレベルを確認すると、勇者が42、戦士が46になっていた。
このペースでいけば、戦士はあと二、三日のうちに50へ到達するだろう。
そしたら、ボス戦のギアがもう一段階上がるはず。待ち遠しいですぞー。
続いてロクサーヌたちへ鑑定をかけた。
おお!? 三人とも上がってる!?
ロクサーヌの巫女が30、セリーの鍛冶師が29、そしてミリアの暗殺者が17。
うんうん。素晴らしいじゃ、あーりませんか。
彼女たちにその旨を伝えたところ、ロクサーヌの表情が綻んだ。
「実はもう少しでミセリコルデを扱えそうな感触があったのです。もしかすると、今日あたり制限を感じなくなるかもしれません」
うそっ!? マジで!?
その言葉に驚いていると、同じく驚愕の表情を浮かべたセリーが声を漏らす。
「制限付きの装備品を扱えるようになるためには、数十年もの経験を積む必要があると言われています……。意味の分からない存在であるご主人様はともかく、そんなに早く扱えるようになるなんて……。私なんてまったくオリハルコンの槍が扱える気がしないのに……」
おい、こら。なんで俺にバックスタブを入れたのさ。
それに、その娘は俺以上のバグキャラだぞ? 自分と比べても虚しくなるだけだ。
「さすがお姉ちゃん! 私も早くフランベルジュを扱えるよう、見習いたいと思います!」
何をどう見習えば、あんな風になれるんですかねぇ。
ロクサーヌからアドバイスを受けているミリアを横目に見ながら、ボス戦の準備を整える。
「セリー、ラピッドラビットのボスについて教えてくれ」
説明を求めると、セリーは小さく頷き真剣な眼差しで口を開いた。
「かしこまりました。ラピッドラビットのボスはファストラビット。額から鋭いツノを生やした、純白の長い毛を持つウサギです。攻撃方法はいたってシンプルで、視認するのが難しいほどの速度で繰り出されるツノによる突き刺し。攻撃はこれのみとなっています」
魔法どころか、他の物理攻撃すらしないのか。
いや、目で追うのが難しいほどのスピードで鋭利なツノを突き刺してくるのは殺意が高すぎる。恐ろしいで……。
「また、スキルは攻撃の速さと威力が上がるという、単純ゆえに強力なものとなっており、ひとたび発動すると常人では回避不可能なのだとか」
すると、ロクサーヌがワクワクを隠しきれない声を上げた。
その瞳は闘志に燃え、栗色の髪とイヌミミが淡く揺れる。
「ご主人様のオーバーホエルミングによる薫陶を受けているのです。相手にとって不足はありません。どの程度の速度なのか確かめてみましょう!」
花丸笑顔のミリアも勢いよく頷いた。
「はい! 修業の成果を見せないと、ですね!」
ご主人様はその薫陶を受けてないけどね。
内心でツッコミを入れていると、セリーがもの言いたげな表情でロクサーヌからミリア、そして俺へと視線を移す。
あの、セリーさん? 私とその二人を一緒にしないでほしいんですが……。
彼女は一つ息を吐き出し、説明を再開する。
……どうやら、彼女の中で俺たち三人は同じカテゴリーに分類されているらしい。俺は違うのにー。
「残すアイテムはアンゴラ。軽いのに絹のような光沢や肌触りを持ち、保温性や保湿性にも優れているのだそうです。そのため、アンゴラ製の服は大変高価で富豪や貴族といった者しか購入することはできないのだとか」
またか。またブルジョワジー共が富の独占をしているのか。実にけしからん。
「ファストラビットについては以上です」
俺の憤りなどお構いなしにセリーは話を締めくくった。
……まあいい。それじゃあ、ボスに挑むとしよう。
ボス部屋へと足を踏み入れ中央で煙が立ち上ったと同時に、セオリー通り背後へ回り込むべく大回りで移動を開始する。
そして煙が晴れると、まるで閃光のように二つの残像がきらめいた。
次の瞬間、ロクサーヌとミリアに打ち払われて地面に転がる、小さな白いモコモコが目に入る。
やばっ! 全然見えなかっ――。
「ぐっ」
何が起きたのか理解する間もなく、体に衝撃が走った。
攻撃を食らったのか!?
オーバードライビング
動揺を押し殺し、即座にボーナスタイムを作り出す。
周囲の動きが粘つくように遅くなり時間の流れが歪むなか、下手人を探して辺りを見回したところ、攻撃を受けて倒れ込んでいるセリーと追撃を入れようとしているウサギが目に入った。
クソが! やらせるかっての!
いかに素早さ特化のファストラビットといえど、この俺だけのスペシャルタイムにおいては他の魔物と大差ない。
スピード勝負で俺に勝とうなんざ、千年早ぇよ!
一気に距離を詰め、三つのスキルを宿した一撃を叩き込み、続けざまに二撃目、三撃目を振るう。
だが、当然一回のボーナスタイムでは仕留めることができないため、効果が切れる前にその小さい体を思いっきり蹴り飛ばし、距離を離した。
時の流れが元に戻ると、激しい音が耳を打つ。
思わずその音が聞こえてきた方へ視線を向けたところ、ロクサーヌがもう一匹のファストラビットと丁々発止の攻防を繰り広げていた。
彼女はとんでもない軌道で動きまわりながら剣を振るい、そのたびに刃音をフロアへ響かせている。
「はっ!」
そちらに気を取られていたが、間近で聞こえた裂帛の声と、硬いもの同士がぶつかる音で意識を引き戻された。
正面には剣を振り抜いた姿勢のミリア。
そして、彼女に打ち払われたと思われるファストラビットが床に転がり、それに槍を突き入れようとしているセリーの姿が目に入る。
オーバードライビング
気を抜いている場合じゃない。このまま一気に畳みかける!
結局、一匹当たり四回のオーバードライビングが必要だったものの、開幕で俺とセリーが受けた攻撃以外に被弾はなし。
ストップ&ゴーの無酸素運動を繰り返していたことによる、荒い呼吸を整えていると、ロクサーヌがドヤ顔で胸を張った。
「ファストラビットの動きは簡単に対応することができました。あんなに直線的な動きでは攻撃を当ててくれと言っているも同然です。やはりご主人様の足元にも及びません」
ミリアはその言葉に頷き、相槌を打つ。
「そうですねー。歩雲履とオーバーホエルミングを使っているときのご主人様は変幻自在な動きで、目で追うのも攻撃を入れるのも、とっても難しいですから」
思わずセリーと顔を見合わせる。
アイコンタクトで、『ファストラビットの動きに対応できる?』と問いかけてみたところ、彼女は諦観の表情を浮かべながら首を横に振る。
そうだよな。あんなもん、簡単に対処できるわけないよな。
実力差を痛感しながら、ドロップアイテムのアンゴラを回収していく。
セリーによれば、これもギルドではなく高級服屋の方が高く買い取ってもらえるらしい。
オーバードライビングやトリプルアタック、貫通のオリハルコン剣にドラウプニルと、チート盛り合わせ状態だったおかげであっさり片付いたが、普通ならとんでもない速度で攻撃してくる難敵だろう。そう簡単に集められるはずがない。
逆に他の人たちがどうやって倒しているのか、聞きたいくらいだ。
ともあれ、こいつは物置で保管しておこう。
戦いの余韻が残り熱気を帯びたような体をクールダウンするために、深呼吸を一つ行い、帰り支度を始める。
買い物を終えて自宅に戻り、食材をキッチンに置いたところで、興奮を隠しきれない様子のロクサーヌが口を開いた。
「ミセリコルデを装備できるか、確認してまいります!」
そのまま飛び出していこうとする彼女を制し、俺たちも一緒に移動する。
部屋に入るなり、ロクサーヌは早足でクローゼットに近づいていく。
その様子を見守っていると、芳醇な香りが鼻腔をくすぐった。
女の子の部屋ってどうしてこんなに良い匂いがするんだろう?
この香りを体に取り込むため、大きく深呼吸したい衝動に駆られる。
……我ながらめちゃくちゃキモイな。
いやまあ、恋人や異性の友達なんていたことがなかったし、妹たちに至っては俺のことを蛇蝎の如く嫌っていたため、絶対に部屋へ入れようとはしなかった。
俺が足を踏み入れたことのある女性の部屋はここだけで、他のデータなんかない。本当にそうなのかまったく分からないんだけどさ。
もしかすると、女性の部屋ではなくて、この娘たちの部屋だから良い匂いなのかもしれない。
益体もないことを考えているうちに、ロクサーヌはクローゼットを開け、ミセリコルデを取り出した。
しかし、興奮で輝いていた表情が一瞬で曇る。
……どうやら駄目だったらしい。
それでも一縷の望みをかけたのか、剣を鞘から抜き放ち、試すように軽く振っている。
やがて、鞘に戻すとがっかりしたように呟いた。
「まだ若干の重さを感じます……。これでは斬り払いが間に合わず、一瞬を争う場面では攻撃を食らってしまうかもしれません……」
若干? なら問題ない気がするんだけど………。
俺なんてデュランダルも貫通のオリハルコン剣も、若干どころじゃない重さを感じているぞ?
まあ、武器種や扱い方が違うから単純に比較することはできないんだろうが、こと戦闘に関しては本当に厳格な娘さんだ。
「若干ということなら、もう少しレベルが上がれば使えるようになるんじゃないかな。そしたらスキルを付けてロクサーヌ専用装備にチューニングしよう」
「私専用ですか!」
俺の言葉でロクサーヌの表情に輝きが戻る。
一方、好奇心を抑えきれない様子のセリーが瞳をきらめかせながら問いかけてきた。
「ロクサーヌさん専用の場合、どんなスキル構成にするのですか?」
二人だけではなく、ミリアも興味津々といった顔でこちらを見ている。
以前にも話し合いをしたことがあるが、ここらで仕様を決めておくべきだろう。
「そうだなぁ。とりあえず詠唱中断は必須だね。それに今後、高階層で戦うことを考えたら、全員の攻撃を強化する必要があるだろう。そのためには防御力貫通が欠かせない。あとは安全性を考えてHP吸収も欲しい」
腕力二倍は今装備している剛腕の古代樹手甲についているし、攻撃力二倍はアクセサリーにもつけられるため、武器に付けるのはなしだ。
ここまでは他の娘たちも同じような構成になるだろう。
「加えて回復職であるロクサーヌには、これ以外にも付けるべきスキルがいくつかある。回復量を増やすための知力二倍と魔法攻撃力二倍はアクセサリーに付けられるし、スロット数も足りないから却下。なので、回復魔法を使うためのMP吸収が候補に挙がる」
プランを聞いて、抑えが利かなくなったのか、ロクサーヌは興奮のまま大きな声を上げた。
「四つもスキルが付いた高性能武器を託していただけるなんて、想像もしていませんでした! これを使いこなし、ご主人様の前に立ち塞がる者はどんな相手だろうと私が打ち払ってみせます!」
そのクラスの武器があれば、本当にこの娘はどんな相手でも倒してしまいそうなんだけど……。
彼女の言葉に戦慄を覚えていると、セリーが頷きながら相槌を打つ。
「ロクサーヌさんの言う通りです。詠唱中断に防御力貫通、HP吸収にMP吸収が付いたミセリコルデなんて、いったいどれほどの価格になるのか想像もつきません」
さらに、勢い込んでミリアが尋ねてきた。
「ご主人様! ご主人様! 私のフランベルジュにはどんなスキルを付けるんですか!」
え? あ、うん。
いやでも、これについては候補が多すぎて決めかねてるんだよなぁ。
五スロット中、確定なのは石化添加に麻痺添加、そして詠唱中断。
他にも候補としてHP吸収に防御力貫通、さらに催眠や毒牙だろう。
自分の攻撃で体力が回復するため、戦闘が安定するHP吸収。
ダメージ量を増やし、シンプルに殲滅力を上げる防御力貫通。
状態異常攻撃の中では成功率が高く、敵の動きを止めて石化につなげやすくなる催眠。
そして、毒による殲滅を狙える毒牙。
うーん……。正直どれも捨てがたい。
その旨を伝え、彼女たちと議論を交わす。
まあ、この悩む時間こそが、一番楽しい時間だと言えるだろう。
田川 歩 男 18歳
冒険者Lv50 勇者Lv42 遊び人Lv54 戦士Lv46 剣士Lv14
装備 サンダル 身代わりのミサンガ
BP振分 残BP:0
キャラクター再設定:1
フィフスジョブ:15
必要経験値二十分の一:63
詠唱省略:3
鑑定:1
ワープ:1
ジョブ設定:1
三十パーセント値引:63
所持金:3,124,495ナール
春の83日目