異世界迷宮へ行ったなら   作:三星織苑

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234 トランプ

 

 

 

 

 

帝都

釣具屋

 

 

 

 

 

 帝都にとんぼ返りをして、教えてもらった釣具屋へ向かう。

 中へ入ると、日焼けをした猫人族の男性商人が威勢のいい声を上げた。

 

「いらっしゃいませ」

 

 それが聞こえてくるや否や、ネコミミ美少女は表情を輝かせながら商品に向かって突撃していく。

 

 テンション高いなぁ。まるでお祭りに来た子供みたいだ。

 

 俺たちも展示された品々に目をやる。壁際には釣り竿が整然と並び、棚にはリールが展示されている。鉛の錘や針、糸玉までもが、整然と並ぶその様子は店のこだわりを感じずにはいられない。

 

 それにしても、地価が高いであろう帝都で、よく釣具屋なんてニッチな商売が成り立つよなぁ。

 原作のセリー曰く、貴族や有力者の趣味となっているらしいし、もしかしたらそういった者たちが大金を落とすのかもしれない。

 

 俺は海が近い所で生まれ育ったが、生粋のインドア派であるため、釣りをしたことも、しようと思ったこともなかった。

 まさか人生初の釣りが異世界とは、お釈迦様でも気が付くめぇ。

 

 見て回るうち、値段の差がやけに激しいことに気づいた。

 千ナールの竿と十万ナールの竿。何がどう違うんだ? 正直、まったく分からない。

 竿だけではなくリール、糸、錘、針。それらも結構な価格差がある。

 どれを買えばいいんだかさっぱりだ。ハァー、さっぱりさっぱり。

 

 自分では判断が付かないので、夢中で道具を見つめているミリアへ声を掛けた。

 

「どれを選べばいいか分かるか?」

 

 すると、彼女は振り返って笑顔を浮かべ、首を横に振る。

 

「私も釣りは初めてなので全然分かりません!」

 

 そっかぁ。全然分からないかぁ。

 

 あっけらかんとした様子に、俺たちの頬が自然と緩む。

 

 まあいいや。それなら店員に確認してみよう。

 

 

 

 初心者で海釣りをすることを伝えると、浅黒い店員が使用方法を細かく説明しながら丁寧に説明を始めた。

 

 餌の付け方や釣れるポイントの見極め方。漁業権と趣味の釣りとの関係。さらに、どこまでやると漁業権の侵害となるのかの線引き。漁獲制限の正当性や、魔物からどうやって漁場を守るかといった、俺たちにはあまり関係のない方向へ話が進んでいく。

 

 しかし、ミリアはそれを真剣に聞きながら、疑問があれば舌鋒鋭く質問を投げかけている。

 

 でもまあ、いつまでも漁業の未来についての公聴会に、耳を傾けているわけにもいかない。

 頃合いを見計らって割って入り、話題を初心者におすすめの釣り具へ戻した。

 

 

 

 竿と予備を含めた消耗品一式。それを収納する肩掛け用の帯が付いた箱。さらに木製の籠とタモ。

 ミリアと店員が吟味した二人分のそれらの金額は、三割引が効いて八千四百ナール。

 

 うーん……。正直、高いのか安いのかよく分からない。

 でもまあ、ミリアが嬉しそうにしているし、問題ないだろう。

 

 ネコミミ日焼け商人に感謝を伝え、店を後にした。

 

 

 

 

 

クーラタル郊外

アユムの家

 

 

 

 

 

 自宅に釣り道具を置いてハーフェンへ飛び、エルフである村長に釣りの許可を求める。

 すると、ワッペンが絶大な効果を発揮し、いつでも歓迎すると言ってくれただけではなく、網元の所まで案内された。

 その猫人族の網元もエンブレムを見るなり耳をピンと立てて驚き、好きに釣りをしてもいいと快諾。さらによく釣れるポイントまで教えてもらえた。

 ハルツ公爵家の威光がハンパねー。ありがたやー、ありがたやー。

 

 

 

 それが済むと金物屋で絵を飾るための金具を購入だ。

 念のため、壁に金具を取り付けてもいいかをオネスタさんに確認したところ、家は彼女たちが所有している物件であるため、まったく問題ないとのことだった。

 まあ、前の住人はとんでもないリフォームをしていたようだし、この程度なら気にならないのだろう。

 それに、家を借りる際に三割引が効いた理由も分かった。やはり彼女たちが所有している物件だったため、有効になっていたんだな。

 

 それが済むとお昼近くになっていたため、食材を購入して自宅へ戻る。

 彼女たちが昼食の支度をしている間に、俺は自室にこもってDIYだ。

 

 

 

 壁に金具を取り付け、丁寧に絵を掛けてからソファに腰を下ろして確認してみる。

 視線の先では慈しみに満ちた表情のロクサーヌが、まるで本当にそこにいるかのように微笑んでいた。

 

 部屋は華やかになったけど、これめちゃくちゃドキドキするなぁ。

 今後、自室でくつろげるのかしらん?

 

 そんなことを考えながら立ち上がり、部屋を後にした。

 

 

 

 美味しい昼食を堪能した後は、いつものようにリビングへ移動する。

 陽の光が窓から差し込み、穏やかな風にくすぐられながらソファーへ腰を下ろす。

 

 さて、今日の食休みはレクリエーションタイムだ。

 

 あらかじめローテーブルに置いていた小箱を開け、中からカードを取り出した。

 

「それじゃあ、さっそく手に入れたばかりのこいつで遊んでみよう」

 

 それを見て、笑顔のロクサーヌが弾んだ声を上げる。

 

「ご主人様の世界の遊戯なのですよね? どのようなものなのか楽しみです」

 

 彼女の愛らしい尻尾がパタパタと揺れていた。

 セリーとミリアも好奇心で表情を輝かせ、興味深そうにカードに視線を注ぐ。

 ほんと、可愛い娘たちだなぁ。

 

「それじゃあ、まずは簡単なゲームからにしよう。ババ抜きっていうんだけ――」

「お待ちください」

 

 遊び方を説明しようとしたところ、セリーからちょっと待ったコールが。

 

「いつでもルールが確認できるように書き留めておこうと思います。筆記用具を取ってまいりますので、少々お待ちください」

 

 いや、ただのゲームだぞ? そんなガチにならんでも……。

 

 そう言う間もなく、彼女は軽やかな足取りで部屋を出ていく。

 

 まあ、いいけどね。

 

 ウズウズしているロクサーヌとミリアにカードを手渡すと、二人は楽しそうに絵柄を見比べながら笑い合っていた。

 その光景を見つめながら、思索に耽る。

 

 ……ルールを書き留めるというのは、ありかもしれん。

 

 俺たちはごく短期間のうちに、二回もハルツ公爵家のエンブレムが刺繍されたワッペンの世話になっている。

 恩返しをしようと考えていたが、トランプのアイデアを譲るのはどうだ?

 明日はセリーの姿を視野記憶に留めてもらうため、帝都の美術店に行く必要がある。

 ついでにハルツ公へ献上する用の豪華版トランプの作成依頼しておこう。

 

 そして献上する際に、セリーに書いてもらったそれを羊皮紙に清書し、小冊子のようにして添えておく。

 うん。悪くない気がするぞ。気に入ってもらえるといいんだが……。

 

 

 

 筆記用具を持って戻ってきたセリーがソファーへ腰を下ろしたところで説明を行う。

 それを一通り聞くと彼女はペンを止め、呟きを漏らした。

 

「なるほど……。そのカードは一枚だけなのでペアを作れず、捨てることができないわけですか……。つまり、それをどうやって他の参加者に押し付けるのかが勝負の鍵だと……」

 

 おいおい、サラッと聞いただけで、完全にババ抜きの攻略法を把握してるぞ……。

 この娘も大概バグキャラだなぁ。

 

 すると、ミリアが首をかしげながら疑問を投げかけてきた。

 

「あの、この遊戯はどうして『おばあちゃん抜き』って言うんですか?」

 

 え? おばあちゃん抜き?

 

 ……ああ。自動翻訳君のせいか。

 

 それはともかく、ババ抜きの語源ねぇ……。

 確か元々はジョーカーを加えるんじゃなく、クイーンを一枚抜くからだったっけ?

 

 それを説明するものの、彼女たちは納得いかない様子だった。

 

「それなら、ルールが変わったときに名前を変えるべきではないのですか?」

 

 釈然としない表情でセリーが問いかけてくる。

 

 まあ、作ってもらったトランプはジャック、クイーン、キングの図柄じゃないし、実際のルールがジョーカーを加えるって形なんだから、そう思うのも当然だ。

 

「まあ、俺が生まれる遥か昔からあったものだし、そういうものだとしか思ってなかったんだ」

 

 腑に落ちない様子だったものの、彼女たちは飲み込むことにしたようだ。

 

 程なくして、セリーがルールを書き終える。

 

 おっしゃ。それじゃあ始めるとしますか。

 

 カードを切り、それぞれの前に一枚ずつ配っていき、全ていきわたったところで、説明をしながらペアになっているカードをローテーブルの上に捨てていく。

 全員がそれを済ませたところで、正面に座っているロクサーヌがこちらにカードを向けてきた。

 

「それでは、ご主人様からどうぞ」

 

 え? あ、はい。

 

 最初はデモンストレーションのようなものだ。流しながらプレーしていこう。

 差し出されたカードの中から真ん中を選んで手を伸ばす。

 

 だがそれを見た瞬間、声が漏れそうになってしまった。

 

 ババ!? 嘘だろ!

 

 ロクサーヌの顔をうかがうと、いたずらっぽい笑みを浮かべてクスクス笑っている。

 

 こやつ狙いおったな? 初手で自分の手札を引かせるように誘導したな?

 しかも、俺が説明しながらプレーすることを見越し、その際は何も考えずに真ん中を取るだろうと推察。そして、見事にそれを成功させたと。

 さすが百戦錬磨のロクサーヌ。あの回避能力は身体能力だけではなく、この読みの深さもあってこそか……。

 

 動揺しながらババを手札に加え、左サイドのソファーに座っているミリアにカードを向ける。

 

 すると、こちらを観察していたセリーがニヤリと口元を歪めた。

 

 ……気付かれたか。まあいい、俺のカードを引くのはミリアだ。何も問題ない。

 

 

 

「ご主人様! 私、また一番になっちゃいました!」

 

 ゲームが終わり、順位が確定するとミリアの声がリビングに響く。

 

 ……嘘だろ? これ、なんかやられてる?

 四回やって四回最下位だぞ? ほぼ運ゲーのババ抜きでそれはありえないだろ……。

 

 呆然としていると、輝くような表情のお嬢様方に次の勝負を強請られた。

 

 ……俺がこのまま負け続けるような男だとは思うなよ。

 リアルラックの差により敗北したものの、次は頭脳戦だ。セオリーを知っている分、こちらの方が有利なはず。

 

 彼女たちの顔を見回して告げる。

 

「次は別のゲームをやろう。神経衰弱って言って――」

 

 

 

 なぜだ! なぜ勝てない!

 

 あの後、神経衰弱、七並べ、大富豪、親なし簡易版のポーカーにブラックジャックと、様々なゲームで遊んだが、一度もトップに立つことはなかった。

 さすがに最下位固定ではないものの、圧倒的な最下位率を叩き出している。

 

 ……この娘たち強すぎん? 人としての能力と運命力に差がありすぎだろ。

 ルールを知っているというアドバンテージをいとも簡単に覆すんだが……。

 

 内心へこみまくっていると、彼女たちは話に花を咲かせ、絶賛『いせはれ!』中だ。

 頬を紅潮させながら、どれが面白かったかを楽しそうに言い合っている。

 

 ……こうなってはなりふり構ってられん。自分の持ち味を生かした勝負をしなくては。

 

「それじゃあ、今度は二人対戦のスピードってゲームをしてみよう」

 

 そう言うと、キラキラ輝く三対の瞳に見つめられる。

 そして、勢い込んでセリーが問いかけてきた。

 

「それはどのようなルールなのですか!」

 

 ロクサーヌとミリアの表情もワクワクでいっぱいだ。

 

 

 

 一頻り話を聞いたところで、ロクサーヌが声を漏らす。

 

「なるほど……。これまでの遊戯とは異なり、反射神経がものを言うのですね」

 

 その顔には絶対の自信がうかがえた。

 この娘は誰もが認める回避の申し子だ。目の前で繰り出される魔物の攻撃をいとも簡単に捌いてみせる。

 油断しているわけではないのだろうが、各自の能力を比較した場合、負けるはずがないと考えていても不思議はない。

 

 だが、あえて言おう。それは慢心というものだ。

 世の中、上には上がいると思い知らせてやらねば。

 

 いいぜ、ロクサーヌ。君が反射神経勝負で負けるはずがないと思っているのなら、まずは、その幻想をぶち殺す!

 

 ジョブ設定を開き、フィフスジョブを変更してから声を掛ける。

 

「それじゃあ、最初は俺とロクサーヌで試してみるね」

 

 ローテーブルを挟んで向かい合い、彼女が剣と槌のカードを希望したので、黒いカードを切ってそれを渡す。同じく俺もシャッフルされた赤い方のカードを受け取った。

 

「ふふ。こうやってご主人様と向かい合って遊戯を楽しむことができるなんて、本当に幸せです」

 

 可愛い笑顔だなぁ……。

 

 彼女の笑みに癒されつつ自分の山からカードを取り、手前に四枚配置する。

 向かいでは同様にロクサーヌも場札を配置していた。

 

 セリーとミリアの好奇心に満ちた瞳に見守られながら、ロクサーヌに告げる。

 

「準備はいい?」

「いつでもどうぞ」

 

 その言葉に頷きを返し、合図を出す。

 

「せーのっ!」

 

 次の瞬間、俺たちの声がピタリと重なった。

 

「スピードッ!」

 

オーバードライビング

 

 引き延ばされた時間の中、山札から取ったカードを台札として中央に置き、出せるものをガンガン出していく。

 そうこうしているうちに、スローモーションでロクサーヌの台札が設置された。

 

 オッケー! そっちもいける!

 

 出せるカードをすべて出したところで、ボーナスタイムが終了し、ロクサーヌが場札を手に取った。

 

 まだまだ!

 

オーバーホエルミング

 

 オーバードライビングのリキャストタイム対策で設定していた、英雄のオーバーホエルミングを使用し、再びボーナスタイムを作り出す。

 スローモーションで彼女が置くカードを確認し、こちらが出せるものがあればガンガンインターセプトを決めていく。

 

 

 

 程なくして、俺のカードがなくなった。

 

「よっしゃ! 勝った!」

 

 思わず声を上げると、正面のロクサーヌは戸惑った様子でローテーブルの上のカードに視線を移す。

 そして、ため息まじりに微笑を浮かべる。

 

「……お見事です」

「ありがとう」

 

 一矢報いたことで自己肯定感を回復させていると、めちゃくちゃ重たいため息が聞こえてきた。

 そちらへ視線を移すと、絶対零度の視線を向けている小さくて可愛らしい女性の姿が……。

 

「ご主人様……。オーバードライビングを使用しましたね? 卑怯なことをしないでください」

 

 呆れたような口調で、スキル使用を咎められる。

 

 いやでも、君らだって普段はそれも俺の能力の一部であり、後ろめたさを感じることはないって言ってるやん。それを実行しただけだぞ?

 

 内心で言い訳をしていると、困り顔のミリアも口を開く。

 

「えっと、ちょっと大人げない気がします……」

 

 あ、はい。ごめんなさい……。

 

 ……注意されるより、こっちの方がへこむなぁ。

 

 そして、ロクサーヌが表情を引き締める。

 

「ご主人様。確かにそれもご主人様のお力の一端。ですが、寿命を犠牲にする可能性があるはずです。ボス戦や修業、それに緊急時ならともかく、遊びで命を削るようなことはなさらないでください」

 

 彼女だけではなく、セリーとミリアも真剣な表情でこちらを見つめていた。

 

 三人の心配している様子を見て、喜びと同時に申し訳なさが浮かんでくる。

 

「ロクサーヌ、セリー、ミリア。ごめん。俺の思慮が足りなかった。これからは気を付けるようにするよ」

 

 俺の言葉聞いて、彼女たちの表情が緩む。

 

 この娘たちとずっと一緒に過ごしていきたいんだ。本当に気を付けないとな。

 

 猛省をしつつ、セリーとミリアの対決を見守る。

 

 

 

 

 

田川 歩 男 18歳

冒険者Lv50 勇者Lv42 遊び人Lv54 魔道士Lv50 英雄Lv50

装備 サンダル 身代わりのミサンガ

 

BP振分 残BP:0

キャラクター再設定:1

フィフスジョブ:15

必要経験値二十分の一:63

詠唱省略:3

鑑定:1

ワープ:1

ジョブ設定:1

三十パーセント値引:63

 

所持金:3,094,051ナール

 

春の84日目

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