異世界迷宮へ行ったなら   作:三星織苑

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024 禊

 

 

 

 

 

ベイルの迷宮

一階層

 

 

 

 

 

「ご主人様、そろそろ夕方になります」

 

 ニードルウッドを三匹倒したところで時間切れとなってしまったようだ。

 まあ、長いこと買い物をしていたからな。しょうがない。

 

「まだ、MPが完全に回復していないので、あと一匹倒してから今日の探索を終わろう。魔物のところへ案内してくれ」

「かしこまりました」

 

 

 

 もう一匹を倒し終えるとなんとなくだが満タンになったような感覚があった。

 よし。これで今日の迷宮探索は終了だ。

 デュランダルとMP回復速度二十倍を入れ替えアイテムボックスからシミターを取り出して腰に差す。

 

「それじゃあベイルの冒険者ギルドへ行く前に寄り道をさせてくれ」

 

 迷宮の壁に向かい移動先を思い浮かべながらワープを念じる。

 

 

 

 

 

ソマーラの村

ビッカーの家

 

 

 

 

 

 ゲートを抜けると太陽が遠くの山へ沈みかけており全てをオレンジ色に染め上げていた。

 この二日間の密度が濃かったせいもあるのだろう。一日ちょっとしか経っていないというのに何やら感慨深い。

 

「ご主人様、ここは?」

 

 辺りを確認しながらロクサーヌが問いかける。

 見覚えのない景色なんだ。そりゃ気になるわ。

 

「世話になった人がいてな。礼を言いに来たのだ」

「お世話になった方にお礼を伝えるのは大切なことですからね。さすがご主人様です」

 

 さすがにそのさすごしゅには無理があるんじゃないだろうか、ロクサーヌよ。

 すぐ調子に乗ってしまう質なんだ。あまり俺を甘やかさないでくれ。

 でも、こんなかわいい娘に褒められるとつい浮かれてしまうんだよなぁ。

 

 

 

 夕方ならビッカーも元冒険者の男も家にいるはず。

 金を手に入れることができたんだ。早いところ負い目を解消しておきたい。

 それに負い目だけではなく恩だってある。

 

 転売で得た一万ナールがなければ、果たして昨日の段階でロッドを購入する選択肢を選ぶことはなかったはずだ。

 そして、ロッドがなければたった数時間の探索であれだけのレベルアップは叶わなかった。

 その場合、盗賊をスムーズに片付けることが出来ただろうか?

 

 三割引で得た差額は五千五百五十ナール。どちらが負担したのかは分からないが感謝の気持ちも込みでそれぞれに六千ナールずつ渡しておこう。

 

 

 

 開けられたままの入り口から中を覗いてみたところ、ビッカーは一昨日と同じように何かの作業をしている。

 

「ビッカー殿、昨日は世話になったな」

 

 入りながら声をかけると彼は驚いた様子で声を上げた。

 

「アユム様! お世話になったのはこちらの方です。一昨日は我が村をお救いいただき本当にありがとうございました」

「なに。俺の方こそ色々良くしてもらったからな。気にすることはない」

 

 ビッカーの感謝の言葉を聞きロクサーヌは目をキラキラと輝かせている。

 アランから聞いていた俺の武勇伝を思い出しているんだろうか?

 

「ところで本日はどうしてこちらへ?」

 

 女性を伴って現れたのが気になるのだろう。ロクサーヌをチラリと確認し問いかけてきた。

 

「昨日、ビッカー殿に売ってもらったレイピアとシミターが思いのほか役に立ってな。礼を伝えておこうと思ったのだ」

「こちらこそご購入いただきありがとうございます。アユム様のようなお方に使っていただいているのです。私どもの自慢になります」

 

 おおぅ……。すげー嬉しそうにしてる……。

 ほむらのレイピアを売っぱらったなんて口が裂けても言えんぞ。

 

 アイテムボックスから六千ナールを取り出し、笑顔でこちらを見ている彼へ差し出す。

 

「ビッカー殿、少ないが感謝の気持ちだ。納めてくれ」

「アユム様! それはいけません! 私は正当な取引をしただけです。そのお金を受け取る理由がありません」

 

 あれが正当な取引だったかはさておき、これはあくまでも俺の矜持の問題だ。

 受け取ってもらわなければこの先ずっと負い目を持ち続ける。

 

「いや。店で同じ物を手に入れようとした場合、かなり高額で購入することになっていただろう。それに、一度出した金を引っ込めるなど俺の誇りを傷つけることになる。そのまま受け取ってくれ」

 

 

 

 押し問答の末、何とかビッカーに金を受け取らせることに成功した。

 こいつ、商人だというのに拝金主義的なところがなく相当に良心的だ。

 小さい集落の中で阿漕な真似をすればすぐに村八分にあってしまうだろうし、コミュニティーにも軋轢を生む。

 村長のソマーラは良い人材に恵まれたもんだ。

 

「アユム様、本当にありがとうございます。あなたのような気高い精神の持ち主が迷宮討伐を成し遂げ、貴族に列せられるのを心待ちにしております」

 

 感激しすぎだろうよ。

 罪悪感を解消するための行動に対してそんなことを言われるとまた罪悪感が湧くんですが……。

 

 そして、満面笑顔で頷きながら彼に対しなかなか見どころがあるといった雰囲気を出しているそこのお嬢さん。君は少し落ち着こうか。

 

 

 

「それから、元冒険者の男にも感謝を伝えておきたいのだが怪我の具合はどうなのだ?」

「あの者でしたら購入した滋養錠で傷もすっかり癒え今日も農作業を行っておりました」

 

 よかった。

 俺がピンハネしたせいで薬の数が足りず怪我が悪化したなんてことが起こらなくて本当によかった。

 

「ではそちらの家を教えてもらえないか」

「それでしたら私がご案内いたしますので少々お待ちいただけますか」

 

 ビッカーは一度奥へ行くと女性を連れてすぐに戻ってくる。

 彼女は笑顔で俺たちに会釈をするとそのまま椅子へ腰かけた。

 

「それではまいりましょう」

 

 

 

 

 

ソマーラの村

 

 

 

 

 

 家を出て歩き始めるとビッカーが問いかけてくる。

 

「アユム様、先ほどから気になっていたのですがそちらの女性は?」

「ああ。彼女はロクサーヌ。俺の大切な女性だ。ロクサーヌ、この村の商人でビッカー殿だ」

 

 その言葉に恥ずかしそうな表情を浮かべ、ロクサーヌが答えた。

 

「ご主人様の一番奴隷。ロクサーヌと申します」

 

 マジで!? 君もう一番奴隷になってんの?

 というか原作でもそうだったけど、それ主人の許可はいらない感じ?

 いや、全然問題ないんだけどさ。

 

「この村で商人をしておりますビッカーと申します。しかし、これほど美しい奴隷をお持ちとは。さすがアユム様です」

 

 さすがビッカー! 見る目があるじゃないか!

 

「そうなのだ。彼女は美しいだけではなく気だても良く、狼人族なので鼻も利いて迷宮で魔物を見つけてくれる。さらに戦闘能力にも秀で、もはや離れることなど考えられない素晴らしい女性なのだ」

「あの、ご主人様。恥ずかしいです……」

 

 彼女の言葉を聞いてそちらを見ると恥ずかしそうな、それでいて嬉しそうな、複雑な表情を浮かべながら尻尾を揺らしていた。

 

 ……今、俺は惚気ていたのか?

 惚気たりイチャついたりするカップルが大嫌いだったこの俺がまさかこんな風になってしまうとは。

 今まで心の中で呪っていたカップルたちよ、本当にすまなかった。無意識にやってしまうものだったんだな。

 

 

 

「ビッカー殿と別れた後にアラン殿から紹介してもらってな」

「そうでしたか」

「そして、今日クーラタルで家を契約してきた。だが、ベイルの迷宮にも頻繁に入るつもりだ。町で見かけたら気軽に声をかけてくれ」

「はい。我が村としてもアユム様のような方とご縁が続くことを願っております」

 

 魔物や盗賊の脅威が身近にある世界だ。単独でそれらに対抗できる人物とは親交を結んでおきたいのだろう。

 

 ……問題なのは俺のそれは張りぼてだということなんだよなぁ。

 

 

 

 彼の案内でたどり着いたのはそれほど広くない平屋だった。

 村長や商人のような有力者だけが二階建てや三階建ての家に住んでいて、おそらくこれが標準的なこの村の住宅なのだろう。

 

「声をかけてまいりますので少々お待ちください」

 

 ビッカーがドアの前まで行きノックをしたところ、あのとき盗賊にやられそうになっていた元冒険者の男が出てきた。

 二人で何やら話すと男はいきなり笑顔になり家の中に入っていく。

 

 なんだ?

 

 程なくして彼は子供を抱きかかえたティリヒと一緒に家から出てきて俺たちの方へ歩いてくる。

 

「あんたがアユム様か。一昨日は助太刀をしてもらって本当に助かった。あんたがいなければ間違いなく俺は死んでいただろう。本当にありがとう」

 

 そう言って男が頭を下げると続けてティリヒも頭を下げた。

 

「気にしないでくれ。犠牲者が出なくて本当に良かった。助太刀した甲斐があったというものだ」

 

 その言葉で顔を上げて話を続ける。

 

「それに、俺の使っていた剣を買ってくれたんだろう? そのおかげで薬を買うことができてこの通りすっかり良くなった」

「それについてはこちらの方が礼を言わなければならないな。シミターもレイピアも素晴らしいものだった。手に入れることができて本当に助かった」

 

 マジでな。おそらくあの一万ナールちょっとがなければ家を手に入れるのにもっと苦労していたはずだ。

 

「俺の大切にしていた剣があんたのような人に使ってもらえるなんて一生の自慢になるよ」

 

 あー! 罪悪感を刺激されるー!

 さっさと金を渡してチャラにしなければ!

 

 ビッカーのときと同じようにアイテムボックスから六千ナールを出し彼に差し出す。

 

「もし店で同じものを手に入れようとしても、すぐに購入することはできなかっただろう。感謝の気持ちだ。納めてくれ」

「それはいけねぇ! 昨日薬を買ってきてもらったときに一万二千五百ナールのおつりを受け取ってるんだ。それ以上をもらうのは筋が違う」

 

 おいおい。ビッカー。お前が差額を負担した上に手数料も取っていないのか。

 なんだ、お前。聖人ってジョブにでも就いてるのか?

 

 それはともかく、俺の心の平穏のため何が何でも受け取ってもらう。

 

「あんたたちには幼い子供がいてなにかと物入りだろう。それに、俺を感謝の気持ちを示すこともできないようなみっともない男にしないでくれ」

「命を救ってもらった上にこんなことまでしてもらって本当にすまねぇ」

 

 彼は申し訳なさそうに硬貨を受け取ってくれ、隣のティリヒはもう一度頭を下げる。

 

 よし。これで貸し借りなしだ。

 これからも値引スキルや買取スキルは使っていくが、命がかかっているような人からピンハネをするような真似はやめておこう。

 

 

 

 さて、禊は済ませた。そろそろベイルへ戻るか。

 

「それじゃあ世話になったな。俺たちはこれで失礼する。ロクサーヌ、行こう」

「はい。ご主人様」

 

 挨拶を済ませ帰ろうとするとティリヒに抱きかかえられていた子供が突然騒ぎ出す。

 

 え? なに? なんなの?

 

「どうしたのだ?」

「いや。俺の命を救ってくれたことに礼を言っているんだ」

「なるほど」

「昨日から俺と女房でアユム様のことを話していたからか憧れを持っちまったみたいで……」

 

 自分の欲望のため盗賊を殺っただけなのに幼い子に憧れられるのはなんともいたたまれない。

 

 ガラじゃないし、かなり恥ずかしいがこの子の気持ちに応えるため少しばかり格好つけることにする。

 それに、こんな小さいのに感謝の気持ちを伝えようとするとはやるじゃないか。

 

 

 

「すまない、ビッカー殿。通訳を頼む」

 

 ティリヒに抱かれている男の子に目を合わせて話しかけた。

 

「お前の父親は盗賊から村を守るために命がけで戦った勇敢な男だ。お前もそのような男になれるよう祈っている」

 

 通訳をしたビッカーの言葉を聞きさらにテンションを上げ、目を輝かせながら理解できない言葉で騒いでいる。

 その様子を見ていた両親は目を潤ませてこちらへ頭を下げると、とんでもないことを告げてきた。

 

「アユム様、迷宮討伐を成し遂げ爵位と領地を賜ったら是非領民にしてもらいたい」

 

 おいおい。そんなこと言って大丈夫なのかよ。領主の関係者に聞かれたら問題になるんじゃないか?

 

 でも、原作の描写をみるに特に領民の移動に制限がかかっている様子がないんだよなぁ。

 まあ、フィールドウォークなんてものがある以上、移動の制限をしようとしたところで無駄なのかもしれない。

 

「では、そのときは頼む」

「ありがとう!」

 

 そう言うと男は右手を差し出してきた。

 

 

 

 握手を交わしたところで暇を告げる。

 

「では、今度こそ失礼しよう」

 

 彼らから離れ不審に思われないよう気を付けながらワープを行う。

 

 

 

 

 

ベイル

 

 

 

 

 

 ベイルの冒険者ギルドへ移動しブランチの売却とコーラルゼラチンの購入を済ませて外へ出る。

 

 通りを歩き始めたところでロクサーヌが嬉しそうな声で話しかけてきた。

 

「ご主人様がお救いになったという村があそこなのですね。商人の方もあのご家族もたいそう感謝をしていました。ふふ。ご主人様のことを迷宮討伐を成し遂げ貴族に列せられると言うなんて、彼らは見る目があります」

 

 それにしても、このお嬢さんだいぶ浮かれている。

 俺の成したことを我がことのように喜び誇っているのは照れくさいが嬉しいものだよなぁ。

 イカサマの上に成り立っている功績なのはなんともだけどさ。

 まあ、昨晩ロクサーヌに励ましてもらったんだ。あまり卑屈に考えないようにしよう。

 

 それに、ルティナを手に入れるつもりがある以上、いずれは貴族を目指すことになる。

 そのための心構えをしておくべきか。

 

「まあ、いずれはな」

「いえ。ご主人様ならすぐにでも成し遂げることでしょう」

 

 いやいやいや。ロクサーヌさんや。いくら何でもイケイケドンドンすぎじゃないですかねぇ。

 

 この世界の人は迷宮探索に対して安全意識が欠如しすぎだぞ。

 物理攻撃はカスダメ、魔法やスキルは詠唱が必要で使い勝手が悪い。これらのせいで一回の戦闘時間が長引き常にギリギリの戦闘をしているだろう。

 そんな状態でドンドン先へ進み続けるとか完全に狂人の所業としか思えん。

 

 うちのパーティーの迷宮探索における基本方針はいのちだいじにだ。

 この方針は何があっても変えるわけにはいかない。

 

「迷宮には安全を第一に考えて挑む。絶対にロクサーヌを失うわけにはいかないからな。余裕をもって攻略していこう」

「ご主人様……。私の身を案じてくださりありがとうございます」

 

 正直ロクサーヌを失うと俺はこの世界で生きていくことができないだろう。

 彼女のいない生活なんて想像もしたくない。

 出会う前なら何とか折り合いをつけて新たな人生を楽しめたんだろうが今となってはもう無理だ。

 

「迷宮討伐に挑むのはレベルを上げ、良い装備品を集め、頼りになる仲間を増やし、万全の態勢を整えてからになるな」

「……」

 

 ん?

 返事がなかったのでロクサーヌの方を見やると何やら不服そうな表情を浮かべている。

 

 ええっと?

 

 もしかして仲間を増やすというのが気に入らなかったんだろうか?

 無理無理無理。二人で迷宮討伐なんて絶対に無理だから。

 

 二人のままでいたいという気持ちはよくわかるしその気持ち自体は嬉しいんだが、迷宮討伐を成し遂げようとするなら絶対に頼りになる仲間が必要になる。

 そして、俺にとって頼りになる仲間とはセリー、ミリア、ベスタ、ルティナをおいて他にない。

 

「ロクサーヌ。たとえどんな人がパーティーに加わっても俺の一番はロクサーヌだ。絶対にそれが揺らぐことはない」

 

 そんなこたぁ、あたりきしゃりきのこんこんちきよ。

 こっちとら、君に会うために生まれ育った便利で豊かな世界を捨てているのだ。

 俺の思いを甘く見ないでもらおう。

 

「ご主人様! ありがとうございます!」

 

 俺の言葉を聞いた彼女の顔には大輪の笑みが咲き誇っていた。

 

 よかった。納得してもらえたようだ。

 

「これからも二人で。そして、これから増える仲間も一緒に迷宮攻略を頑張ろうな」

「はい! ご主人様!」

 

 

 

 

 

田川 歩 男 18歳

探索者Lv21 英雄Lv18 魔法使いLv21 戦士Lv18 僧侶Lv15

装備 シミター 皮の帽子 皮の鎧 皮のグローブ 皮の靴

 

BP振分 残BP:0

キャラクター再設定:1

フィフスジョブ:15

鑑定:1

必要経験値十分の一:31

詠唱省略:3

ワープ:1

ジョブ設定:1

MP回復速度二十倍:63

知力上昇:3

 

所持金:388,442ナール

 

春の3日目

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