異世界迷宮へ行ったなら   作:三星織苑

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241 ホモ・アルテルムンドゥス

 

 

 

 

 

クーラタル郊外

アユムの家

 

 

 

 

 

 目を真っ赤にしながらも、嬉しそうにプリンアラモードを食べていたベスタに癒されながら食事を終える。

 

 その後、三人はベスタへ歯磨きの仕方を丁寧に教えていた。

 歯医者なんて存在しない世界だし、歯磨きは大切だ。

 ほんと、良い先輩たちである。

 

 その後、洗い物を済ませて彼女たちはリビングへ、俺は日本から持ち込んだものを取りに自室へと向かう。

 

 

 

 荷物を手にリビングに入ると、四人とも立ったままで待っていた。

 ソファーへ腰を下ろし、彼女たちも座るように促したところ、正面にロクサーヌとベスタが、そして左側のソファーにセリーとミリアが腰を下ろす。

 ベスタへの説明なので、この配置になるようあらかじめ話し合っていたのかもしれない。

 

 それじゃあ、始めますかね。

 

 ローテーブルの上にリュックを置き、日本から持ち込んだものを広げていく。

 そして、正面のベスタをまっすぐ見つめながら口を開いた。

 

「これから俺のことについて話していきたいと思う。信じられないようなことが多いと思うけど、最後まで聞いてほしい」

「はい。大丈夫だと思います。ご主人様はこの短い間に何度も優しくしてくださいました。そんなお方を信じるのは当然のことです」

 

 彼女は凛とした表情でそう答える。

 その様子を見て、ロクサーヌたちも満足そうに頷いていた。

 

 うん。マジで信じられないような話ではあるが、彼女も受け入れてくれそうだ。

 

 そう思いながら、静かに息を吸い込む。

 

「それじゃあ、まずは俺の暮らしていた世界の話からにしよう――」

 

 

 

 一通り俺についての話が終わると、ベスタはぽかんと口を開け、目を丸くしていた。

 驚きと混乱が入り混じったような表情は、まるで童女のようだ。

 

「……えっと、ご主人様は四十五歳だということですか? インテリジェンスカードでは十八歳でしたよね?」

 

 え? そこ?

 日本のことやそこから持ち込んだ物ではなく、俺の年齢が一番気になったの?

 

「この世界に来るまではそうだったんだけど、この世界に来たら何故か十八歳に若返っていたんだ」

 

 そう言うと、ロクサーヌが柔らかく微笑んだ。

 

「ふふ。四十五歳のご主人様も素敵でしょうが、十八歳なら長く一緒に過ごすことができますからね。そのようなことをした者には感謝しなければなりません」

 

 セリーとミリアも頷き、同意を示す。

 どんな目的があったにせよ、この世界へ転移させてくれた存在には感謝しかない。

 

 ベスタの顔には困惑の表情が張り付いているが、今度は原作について話すことにする。

 

 

 

 四度目ともなると、かなりスムーズに話をすることができた。

 ロクサーヌたちも要所要所で補足を入れてくれたおかげで、ベスタも徐々に理解していくのが分かる。

 驚きの表情を浮かべながらも、きちんと話を追えているようだ。

 

 やがて彼女は小さく息をつき、納得したように呟きを漏らす。

 

「なるほど……。皆さんが私のことを知っていたのは、そういうことだったのですね……」

「うん。俺たちは今日君と出会えることを知っていた。そして、それを楽しみにしてたんだ」

 

 俺の言葉に頷き、ロクサーヌがベスタに話しかけた。

 

「この後、ご主人様があなたを竜騎士にしてくださいます。私と一緒に前衛として、パーティーを支えていきましょう」

 

 ベスタは少しだけ不安そうに眉を下げた。

 

「私が竜騎士に……。本当になれるのでしょうか……」

 

 その言葉にセリーが穏やかな声で応じる。

 

「私も一日のうちに鍛冶師にしていただけました。絶対に大丈夫です。ご主人様を信じてください」

 

 その顔には愛らしい笑みと共に、俺への信頼が宿っていた。

 

 可愛い笑顔で可愛いこと言うよなぁ、この娘。

 ……毒を吐くときとのギャップよ。高低差ありすぎて耳キーンなるわ。

 

「ベスタ専用の装備品だって用意してあるんだよ。どれもすごいものばっかりだから、期待しててね」

「えっ!? 私専用の装備品があるのですか!?」

 

 ミリアの言葉に、ベスタが驚きの声を上げる。

 その素直な反応が見ていてほっこりしてしまう。

 

 この娘の装備品はガチですごいからなぁ。

 どうしてここまで偏るんだってくらい、偏りまくってしまった。

 制限なしも、制限ありも両方揃っていて、ぶっちゃけ俺を含めても一番すごいもん。

 

「食休みが終わったら試してみよう」

 

 そう言うと、ベスタの顔にぱっと光が差したような笑みが広がった。

 

「はい! ご主人様、ありがとうございます!」

 

 褐色の頬が興奮で赤く染まり、瞳がきらきらと輝いている。

 その笑顔は息を呑むほど愛らしい。

 美人系の顔立ちなのに無邪気さが混じっていて、まるで陽だまりのようだ。

 

 

 

 その後の四人は、転校生とそれを取り囲む女子生徒。

 華やかでにぎやかな声が部屋に響き、まるで明るさが増したかのようだ。

 それを眺めながら、ゆったりとした時間を過ごす。

 

 女の子たちがはしゃいでいるのって、なんでこんなに癒されるんだろう。

 おじさんの疲れた心に染み渡るぞ。そういうアニメが多いのも納得がいくわ。

 

 

 

 ソファーに背中を預けながら穏やかな空気を味わっていると、やがてロクサーヌがこちらへ顔を向ける。

 

「そろそろ時間ですね。ご主人様、ベスタの準備をしてまいります」

 

 おっ。もうそんな時間か。

 

「分かった。俺は自分の部屋で準備をしているから、用意ができたら声を掛けて」

「かしこまりました」

 

 ロクサーヌが笑みを浮かべながら答えると、ミリアが元気いっぱいの声を上げる。

 

「ベスタ、すごいものがあるんだよ! 一度味わったら、もうあれなしでは生きていけなくなるから!」

 

 セリーも頷きながら言葉を添えた。

 

「ええ。ご主人様のアイデアで作られた肌着なのですが、あなたには必須となるでしょう」

「えっと……」

 

 ベスタは三人の言葉を聞き、困惑の表情を浮かべている。

 

 まあ、この世界にはなかったものだし、想像がつかないのも当然だろう。

 しかし、今は動くたびにブルンバスト状態で正直かなり目の毒だ。

 早く着けてあげてくださいな。

 

 ミリアが嬉しそうにベスタの手を引き、部屋を出ていく。

 ロクサーヌとセリーも『失礼いたします』と一言添えて、それに続いた。

 笑い声が遠ざかり、リビングに静けさが戻る。

 

「さて、俺も準備をしますかね」

 

 そう呟きながらソファーから腰を上げ、軽く伸びをしてからリビングを後にした。

 

 

 

 部屋に戻ってすぐに準備が終わってしまう。

 必要なものはアイテムボックスとリュックに入っているため、装備品を身に着けるだけで済むのだ。

 

 ソファーに腰を下ろし、ふと顔を上げると額縁の中のロクサーヌと目が合った。

 彼女はまるで生きているかのように穏やかな微笑みを浮かべており、その視線を受けた瞬間、心臓がドクンと跳ねる。

 

 これ全然慣れないなぁ。綺麗すぎて毎回ドキドキするぞ……。

 

 気恥ずかしさを覚えながら女神と顔を見合わせていると、部屋にノックの音が響く。

 

「ご主人様、準備が整いました」

「分かった。俺もそっちに行くよ」

 

 ロクサーヌの声を聞いた瞬間、現実へと引き戻される。

 頬の熱を誤魔化すように軽く咳払いをして、立ち上がった。

 胸の鼓動を落ち着かせながら、扉の方へと歩き出す。

 

 

 

 扉を開けた瞬間、ベスタがぱっと顔を輝かせ、弾むように言葉を紡ぐ。

 

「ご主人様! こんなに胸が楽なのは初めてです! 少しきついですが、これは素晴らしいものです! 本当にありがとうございます!」

 

 え? きついの?

 マジで? スポブラタイプの一番大きいサイズを購入したって言ってたのに?

 

 三人の方を見ると、ロクサーヌもセリーもミリアも、そろって苦笑を浮かべていた。

 

「子供の頭が二つ入りそうなくらいの大きさだったんですけどねー」

 

 ミリアが肩をすくめると、ロクサーヌも続ける。

 

「一番大きいサイズでも小さかったようです。次に帝都へ行くときは、ベスタに合うものを注文した方がいいでしょう」

 

 ミリアだってグラビアアイドルのようなサイズだし、ロクサーヌにいたってはそのグラビアアイドルが裸足で逃げ出すレベルだぞ。

 そんな彼女たちがそこまで言うほどのサイズ……。

 

 おっと。いかん、いかん。意識が変な方へ向かってる。

 エッチなのはいけないと思います、だ。

 

「そうだね。明後日の買い物で注文しておこう」

 

 というか、服の方は大丈夫なんだろうか?

 一応、竜人族用のものを購入しているが、あれを見てしまうと少し不安になるぞ。

 最悪、駄目そうならそれもオーダーしよう。

 あと、キャミソールとエプロンの注文も忘れずに、だな。

 

 

 

 俺たちの話が一段落ついたところでセリーが少し同情を帯びた視線を向け、ベスタに語りかけた。

 

「竜人族でその胸のサイズだと苦労したでしょう」

 

 ベスタの表情に影が落ちる。

 視線を落とし、悲しげに唇を結んでいた。

 

「こんなみっともない胸ですから、今までいろいろなことを言われてきました。でも――」

 

 こちらを見つめるルビーのような瞳には、決意の光が灯っている。

 

「ご主人様がこんなに素晴らしいものを用意してくださったのです! その恩に報いるよう頑張ります!」

 

 おー。なんかめちゃくちゃ燃えているなぁ。

 でもその理由がブラジャーを与えられたからってのは、ニンともカンともでござるよ……。

 それに……。

 

「ベスタの胸は全然みっともなくないよ。見ているだけでドキドキするぐらい美しいし、物語によると竜人族の運動能力が高いのは、その気嚢があるかららしい」

「そうなのですか!? 気嚢にそのような働きがあるのですか!?」

 

 反応したのはベスタではなく、好奇心で瞳を輝かせたセリーさん。

 

「うん。気嚢は鳥類や一部の爬虫類が持つ呼吸器の構造で、それらの動物が持つ高い運動能力とか、飛翔能力に関わってるみたい。俺たち哺乳類は空気を吸って、吐き出すという出し入れ型だけど、それだと効率が悪いんだって。竜人族も持っている気嚢は常に新鮮な空気が肺を通過するから、それによって呼吸の効率が高まり、圧倒的な身体能力を発揮できるらしい」

 

 ミチオの受け売りだけどね。

 

 しかし、俺の披露したうんちくは不評だったようで、彼女たちの顔に渋いものが浮かんでいた。

 そして、たしなめるような声色でロクサーヌが口を開く。

 

「ご主人様、人と動物は違います。たとえ母乳で子供を育てるからといって、人を哺乳類に分類するのは暴論すぎます」

 

 あー……。まあ地球でだって長いこと、人は特別で動物とは違うと考えられていたし、人を哺乳類に定義したのは十八世紀のリンネ以降だ。

 この世界では、なかなか受け入れられないかもしれない。

 

 しかもこれについては種族差別主義者だと勘ぐられる可能性もある。

 原作で魚を生で食べるという話題になったとき、ミチオはロクサーヌから『獣人と獣は違う』とたしなめられていた。

 人間族ならともかく、獣人を哺乳類に分類することについては、どうしても忌避感を覚えてしまうのだろう。

 

 さらにセリーが眉を寄せながら尋ねてくる。

 

「それなら母乳で子供を育てない竜人族はどうなるのですか?」

 

 そうなんだよなぁ。

 確実に哺乳類ではないし、かといって鳥類や爬虫類でもない。

 竜人ってんなら竜盤類にでもなるのかね?

 

「俺のいた世界では人も動物の一部として扱われていたんだ。その常識からすると、脊椎動物のうち子供を母乳で育てる生物は、人も含め全て哺乳類に分類される。そして、それ以外の脊椎動物はその必要がないため乳頭を持たず、またそのほとんどが総排出腔で卵生のはずなんだ」

「セキツイドウブツ?」

 

 ベスタが首をかしげながら呟きを漏らした。

 あれ? ブラヒム語に翻訳されていない?

 ってことは、この世界ではまだ脊椎動物という概念そのものがないのか。

 

「えーっと、背骨があって、内骨格と中枢神経を備えた高等生物かな?」

 

 でいいんだっけ? あんまよく覚えてないけど、たぶんそうだったはず。

 

 脊椎動物の意味は理解したようだが、セリーは再び反論の言葉を口にする。

 

「ですが、竜人族には乳頭がありますし、卵生でもありません」

 

 まったくその通りで、ぐうの音も出ない。

 アニメ版のベスタには乳首が描かれていたし、ウェブ版と書籍版には彼女が総排出腔だという描写はなかった。

 というか、もしそうなら愛し合うことは不可能だろう。

 

 考え込んでいると、ミリアがシュバッと手を挙げる。

 

「ご主人様、ご主人様。その理屈で言うと、授乳をしない男の人に乳首があるのはおかしくないですか?」

 

 え? この娘さん、とんでもない角度から疑問をぶっこんできたぞ。

 

 だが、俺もかつてはチクニー道を極めんとしていた男。

 彼女と同じく、なぜ男に乳首があるのかという、哲学的で学術的な疑問を抱いたことがあるのだ。

 

 では哺乳類における胎児発生段階の性分化をテーマに、一席ぶってみるとしますか。

 

 受精直後は性別が未分化で、最初に共通の雌型の設計が行われること。

 乳首はこの時点で形成されるため、すべての胎児に共通して発現すること。

 その後、遺伝子やホルモンによって性分化が進み男性化が始まるので、男にも乳首がある、というわけだ。

 

 講演は終わったものの、ロクサーヌ、セリー、ベスタの顔には、人が触れてはいけない生命の禁忌を覗いたかのような表情が浮かんでいた。

 しかし、ネコミミさんだけは納得した様子で笑みを浮かべている。

 

「なるほど! ご主人様の乳首は最初につくられた名残りなんですね!」

 

 この娘さん、本当にスゲーなぁ……。

 あと、性分化を俺の乳首限定で語るのはやめておくれ……。

 

 

 

 ……とはいえ、地球とは物理法則が異なる部分も多いため、本当のところよく分からない。

 

 この世界において人と呼ばれる複数の生物種。

 系統が異なる動物が収斂進化の果てに似たような形質を獲得したのか、それとも元となる共通祖先から分岐したのか、はたまた何者かの意図によって創り出されたのか……。

 

 正直、人間族が遺伝学的にホモ・サピエンスと同一の生物なのかもだいぶ怪しいし、俺だって転移の際に体をいじられているため、そうじゃなくなっている可能性の方が高い。

 

 だが仮に、ホモ・サピエンスとは異なる、ホモ……。

 異世界人ってラテン語で何って言うんだ?

 ……いや、そもそもラテン語なんか勉強したことがないわ。

 

 まあともかく、仮にホモ・ナンチャラになっていたところでたいした問題はない。

 確かに地球との関係が断絶されてしまったような感じがするし、アイデンティティーの喪失といった感情がないわけではないが、俺の望みはこの娘たちと共に生きることだけ。

 他のことはそのおまけみたいなもんだ。

 

 

 

 考え込んでいると、こちらを見つめている四対の瞳に気が付いた。

 そして、目が合うと嬉しそうに微笑みを返してくれる。

 

 ほんと、幸せだなぁ。

 

 うん。アイデンティティーの喪失だの、人への進化の過程だの、インテリジェント・デザイン説の真偽だのに悩むのは、偉い学者さんにでも任せるさ。

 

 こうして彼女たちと共に過ごすことができるんだ。精一杯、人生を謳歌しようじゃないの。

 

 

 

 

 

田川 歩 男 18歳

冒険者Lv52 勇者Lv46 遊び人Lv57 魔道士Lv52 剣士Lv42

装備 サンダル 身代わりのミサンガ

 

BP振分 残BP:0

キャラクター再設定:1

フィフスジョブ:15

詠唱省略:3

必要経験値二十分の一:63

鑑定:1

ワープ:1

パーティージョブ設定:3

二十五パーセント値引:31

パーティー項目解除:1

MP回復速度十倍:31

 

所持金:2,447,449ナール

 

夏の休日

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