準備が整ったところでセリーに問いかける。
「ボスについて教えてくれ」
彼女は一つ頷くと、特徴的で愛らしい声で説明を始めた。
「かしこまりました。ハチノスのボスはセンマイ。巨大な体と鋭いツノを持ち、それを活かした攻撃を行います。魔法や状態異常攻撃は持たず、ハチノスとまったく同じで物理攻撃一辺倒ですが、パワーとスピードは段違いなのでなるべく攻撃を食らわないように気を付けましょう」
ふむ。それなら俺たちにとっては与しやすい相手だ。
我らが
きっと、攻撃をすべてかわしてやろうとか思っているのだろう。まったく、好戦的な娘たちだこと。
「スキル攻撃はチャージアタック。発動すると数秒間動きを止めて力を溜め、それを一気に解放して突進を行います。これは長い間経験を積み、高級な装備品で身を固めた者であっても致命傷を負うとのことなので、絶対に発動を阻止しなければなりません」
こっわ! 四十四階層でやっていい攻撃じゃないでしょ!
すると、ロクサーヌがドヤ顔で告げる。
「全員が詠唱中断の付いた武器を持っているのです。恐れる必要はありません」
「お姉ちゃんの言う通りです。全然問題ないです」
相槌を打つミリアに続き、ベスタも口を開いた。
「はい。大丈夫だと思います」
こら。大丈夫なわけないでしょうが。レベル1の身で何言ってんの。
錬金術師を外しているせいでメッキがかかっていないのだ。ボス部屋に入る前に、絶対に敵に近づかないよう、釘を刺しておかなければ。
三人の様子に頷きながらセリーは説明を続ける。
「残すアイテムは通常ドロップがレバー。普通の牛レバーに比べると臭みがなく、それでいて濃厚な旨味が楽しめるのだそうです。そしてレアドロップはハラミ。これは本当に美味しいらしく、一般に出回ることはまずありません。貴族や富豪しか口にすることはないと言われています」
これもか……。これも独占されているのか……。
……まあいい。いずれハラミだけの焼き肉パーティーでも開催してやるさ。
それにしてもレバーにハラミね。
ハチノスのドロップもハツだったし、ミノは皮しか残さない。
どうせならそのものずばりで、ミノ、ハチノス、センマイを残せばいいのにとか思っちゃうな。
そんなことを考えていると、セリーが締めに入る。
「センマイについての情報は以上です。いつものようにスキルを確実に潰し、私たちで敵を引きつけ、ご主人様が殲滅する。この形が最良でしょう」
まあ、オーバードライビングとトリプルアタックがあるのなら、それをしないのは縛りゲーみたいなもんだ。
「分かった。セリー、いつもありがとう」
感謝を伝えると、はにかんだような笑みを浮かべながら彼女は口を開く。
「お役に立てて嬉しいです」
ほんと、めちゃくちゃ可愛いわぁ。
さて、魔物の情報も確認したことだし、ベスタに釘を刺しておかないと。
「ベスタは竜騎士にジョブ変更したばかりでまだレベルが1だ。それに錬金術師を外したせいでメッキの効果もなくなっている。なので、今回の戦闘には参加せず、魔物から距離をとって見学をしていてほしい。いいな?」
彼女は一瞬不安そうな表情を浮かべたものの、静かに頷きを返す。
「……かしこまりました」
全然役に立っていないとか思ってるんだろうなぁ。
まあ、レベルが上がったらガンガン戦ってもらうことになるわけだし、すぐにそんなことは気にならなくなるだろう。
それじゃあ、ボスに挑むとしますかね。
彼女たちに声を掛け、ボス部屋へ続く扉に向けて歩き出す。
ボス部屋へ入り中央に煙が集まっていく間に、セオリーに従って俺は背後をとるために回り込み、ロクサーヌたちは中央に向かって駆けだしていく。
程なくして煙が晴れると、立派なツノを備えた二匹の牛が姿を現した。
センマイLv44
センマイLv44
ミノやハチノスとは違って胴が短いというようなこともなく、通常の牛のフォルムをしている。
そのせいで大柄に感じてしまい、迫力満点だ。
三人が戦闘を開始したのに合わせ、こちらも戦闘準備を整える。
オーバードライビング
スキルが発動し、周りの景色がスローモーションになったところで、ミリアとセリーが受け持っている方に近づき、トリプルアタックを叩き込む。
バッシュ
ラッシュ
スラッシュ
威力を増した攻撃をぶちかまし、そのまま足を止めてひたすらそれを繰り返していった。
そして、危なげなくボスの討伐が完了だ。
全員が詠唱中断の付いた武器を持ち、彼女たちが気を引いている後ろからオーバードライビングを使いながらトリプルアタックを入れ続けるだけの、安心安全の作業である。
四十四階層のボスがこんなにあっさり片付くなんて、我がパーティーは本当にボスに対して圧倒的なアドバンテージがあるなぁ。
そんなことを考えていると、ボス部屋に大きな声が響いた。
「すごすぎます! 目で追えないような速さで動いて、あっというまにボスを倒してしまうなんて! 信じられないような光景でした!」
ベスタの瞳はキラキラ輝いており、興奮のほどがうかがえる。
「ね? 言った通りボス戦の方がすごかったでしょ?」
ミリアがいたずらっぽい笑みを浮かべながら尋ねると、彼女は大きく頷いた。
「はい! 本当にお姉ちゃんが言った通りでした!」
それを聞いたロクサーヌがドヤ顔で告げる。
「ふふ。オーバードライビングを使用したご主人様の動きを見切れるものは、そう多くないでしょう」
ミリアも頷きながら同意を示した。
「はい。とんでもない動きですからねー」
オーバードライビングじゃなくてオーバーホエルミングだけど、その動きを見切ってる人たちに言われても説得力がないんですが……。
二人の言葉に腑に落ちないものを感じていたところ、セリーもジトっとした視線を向けている。
そうだよな。君らが言うなって思うよな。
ベスタが落ち着きを取り戻したところでドロップアイテムの確認だ。
レバー
ハラミ
床に転がっている肉を確認したところ、どうやらノーマルもレアもどちらもドロップしたらしい。
うちには広い庭があるからな。そのうちバーベキューと洒落込むのもいいかもしれない。
肉をアイテムボックスへしまい込み、次の階層の確認を行う。
「セリー、四十五階層から出現する魔物について教えてくれ」
質問を口にするとロクサーヌ、ミリア、ベスタの表情が引き締まり、視線をセリーに向ける。
そしてセリーは一つ頷き、話し始めた。
四十五階層から出現するのはキラービー。クーラタルの迷宮十五階層のボスとして戦ったことのある相手だ。
通常攻撃を受けても毒になる可能性があり、スキル攻撃を受けると確実に毒を食らう。
そして、弱点は風属性とのこと。
復習を終えたところで彼女は提案の言葉を口にする。
「四十五階層に出現する主な魔物はキラービー、ハチノス、ハントアント。頻度は低いですがパーンも出現します。すべて耐性のある属性はなく、弱点はキラービーの風と、ハントアントの水です。一番出現する数が多いのはキラービーなので風魔法をメインで使うべきでしょう」
ふむ……。
「遊び人のスキルを今のうちに入れ替えておいた方がいいか?」
質問したところ、彼女は少し考えてから答えた。
「一時間以内に次の階層へ移動するなんてことはないでしょうから、再度変更が可能になる時間を気にする必要はないと思います。風魔法にしてもいいのではないでしょうか」
なるほど。確かにそうだな。
別に今変更しても問題ないってことか。
それじゃあ、準備に取り掛かるとしよう。
ジョブの変更とボーナスポイントの振り分け、そして遊び人のスキルを変更したところで、彼女たちに声を掛ける。
「では、四十五階層へ移動しよう」
四人の意気込みとワクワクが伝わってくるような返事が重なった。
うん。まあ、やる気があるのはいいことだ。
四十五階層へ乗り込んだ瞬間、ロクサーヌの視線が鋭くなった。
彼女はしばらく匂いを確認すると、真剣な表情で告げる。
「ご主人様、この階層にハルツ公爵様やカシア様のパーティーがいらっしゃいます。他にも複数のパーティーが探索をしているようです」
はあ!? マジで!? ここが最高到達階層なのか!?
気になったので、ロクサーヌに尋ねてみる。
「ゴスラー殿のパーティーもいるのか?」
「いいえ。ゴスラー様のパーティーはいないようです」
それを聞いたセリーが頷きながら呟きを漏らす。
「カシア様は魔道士ではなく魔法使い。火力が足りず、ここより上の階層で戦うことが厳しいのかもしれません」
なるほど。ハルツ公のパーティーは迷宮討伐ではなく、経験値稼ぎをしながら間引き作戦に従事してるってことか。
「分かった。彼らは俺たちのパーティーに魔法使いがいないと思っているため、魔法を見られたら面倒なことになる。いつもより慎重に待機部屋を探すとしよう」
すると、ロクサーヌがドヤ顔で話しかけてきた。
「そのことなのですが、十五人以上がまとまっている場所があります。おそらくそこが待機部屋でしょう」
えー! そんなあっさり待機部屋が見つかったの!?
「本当にロクサーヌさんはすごいです」
「さすがお姉ちゃん! 頼りになります!」
「狼人族の鼻はすごいという話は聞いていましたが、これほどのものなのですね」
驚愕していると、三人も感心したように声を上げる。
ほんと、この娘はバグキャラが極まってんなぁ。
「さすがロクサーヌ、本当に頼りになる。それでは案内してもらえるか?」
「はい! お任せください!」
案内を頼むと、満面の笑みを浮かべ尻尾をブンブン振りながら通路を歩き出す。
可愛い娘だなぁ。
通路をズンズン進んでいき、エンカウントした魔物を蹴散らしていく。
しかし、予想通りにメテオクラッシュを二発では倒れない。
キラービーはウィンドストーム一発追加するだけで済むものの、他の魔物はもう一発魔法が必要になっている。
錬金術師レベル30オーバーの知力小上昇があってこれなのだ。他のジョブに変更したらさらに必要な魔法の数は増えるだろう。
いまから少し不安になってしまうぞ。
しばらく進んでいくと、ロクサーヌが警告を発した。
「もう少しで待機部屋です。ここからは魔法を使わない方がいいでしょう」
はっや。場所が分かってるとめちゃくちゃスムーズにいくよなぁ。
彼女たちに周囲を警戒してもらいつつ、ジョブとボーナスポイントの振り分けをボス戦仕様へ変更する。
ついでにレベルを確認したところ錬金術師が33、ベスタの竜騎士が11になっていた。
うん、うん。順調、順調。
装備品についてはどうするかなぁ……。
アルバやビットローファーについては以前ハルツ公に、物理ダメージ削減と魔法ダメージ削減のスキルが付いているため、俺が装備していると説明してあるから問題ない。
しかし、ズケットにはスロットがないためスキルが付けられず、万が一確認されるようなことがあれば言い訳ができない。
騎士団員に見られた場合、絶対に公爵へチクるよなぁ。
そして、そうなれば間違いなく不信感を抱かれるだろう。
おそらく確認されるようなことはないと思うが、ボス戦でズケットを身に着ける必要もないため、リスクは回避しておくべきだ。
それに手持ちの頭装備は身代わりの硬革帽子なので、今装備している身代わりの竜革グローブとスキルが重複する。こちらも倹約の硬革グローブに変更しておこう。
田川 歩 男 18歳
冒険者Lv52 勇者Lv46 武者Lv4 戦士Lv50 剣士Lv42
装備 貫通のオリハルコン剣 身代わりの硬革帽子 頑強のアルバ 倹約の硬革グローブ オラクルビットローファー よりしろのイアリング
オッケー、問題ナッシング。
ドラウプニルについてはボス部屋で装備変更ってことで。
知らない人ならともかく、ハルツ公爵家の関係者に見られると不味いだろうからな。
準備が整ったところで彼女たちと頷きを交わし合い、再び通路を歩き出す。
待機部屋へ入ると、扉の前にいた者たちが一斉に振り返り、こちらに視線を向けてきた。
人数は十二人で、全員エルフ。
間違いない。ハルツ公爵家の騎士団員だろう。
すると、その中の一人が話しかけてきた。
「アユム殿ではないですか。その節はお世話になりました」
うん? その節って、どの節だ? 全然覚えがないんだが……。
とりあえず確認っと。
ルーカス・ノルトベルク ♂ 44歳
聖騎士Lv32
装備 激情のオリハルコン剣 ミスリルの兜 頑強のオリハルコンプレートメイル 耐火のオリハルコン手甲 聖銀のグリーヴ 身代わりのミサンガ
うーん……。見たことあるような、ないような……。
まあ、いつものように適当に返事をしておこう。
「いや。俺の方こそ世話になった」
すると、彼は苦笑いを浮かべながら言葉を続ける。
「いえいえ。アユム殿に実力を発揮していただくことが叶わず、恥ずかしい限りです。ですが、我ら三人はあの敗北を糧にするため、迷宮探索に励み経験を積む所存です」
あー。模擬戦をした中にいた三人のうちの一人か。
確かにこんな人がいたような?
……まあ違うと言われれば、いなかったかもと思うくらいおぼろげだけど。
騎士団員たちと雑談をしながら順番を待っていると、不意にロクサーヌが匂いを確認しだした。
そして、こちらをジッと見つめる。
「ご主人様、公爵様がこちらへ向かっているようです」
うそー! ハルツ公がここに来んの!?
田川 歩 男 18歳
冒険者Lv52 勇者Lv46 武者Lv5 戦士Lv50 剣士Lv42
装備 貫通のオリハルコン剣 身代わりの硬革帽子 頑強のアルバ 倹約の硬革グローブ オラクルビットローファー よりしろのイアリング
BP振分 残BP:63
キャラクター再設定:1
フィフスジョブ:15
詠唱省略:3
必要経験値二十分の一:63
鑑定:1
結晶化促進四倍:3
ジョブ設定:1
所持金:2,447,449ナール
夏の休日