入口の方を見ていると、ボス部屋への扉が開き最前列のパーティーが中へ入っていく。
そっちが開くんかい。
内心でツッコミを入れていたところ、今度は入口の壁が音を立てて上がっていき、その向こうの人影が動き出す。
待機部屋に入ってきたのは聖騎士であるハルツ公に魔法使いのカシア、一緒にセルマー伯爵領の視察をした騎士のクラウスと冒険者のフィーネ。そして探索者の男性に巫女の女性。
ハルツ公は俺たちに気が付くと一瞬驚いたような表情を浮かべ、さらに訝しげにベスタへ視線を移した。
しかし、すぐに面白いものを発見したような表情を浮かべる。
いたずらっ子の顔だなぁ。完全にこっちをいじる気じゃん。
隣を見習いたまえ。あなたの奥方は『まあ』という感じで、愛らしい驚き顔を見せてくれているぞ。
彼はニヤニヤ笑いながらパーティーメンバーを引き連れ、こちらへ向かい歩き出す。
「よもや、四十五階層まで進んでおったとは。余らはギルドへの報告を四十四階層で止めておる。であれば、アユム殿は自力で四十四階層の入口から四十五階層の待機部屋へ至ったということ。その方は既に第二位階の条件を満たしておるのだな」
あっ。そういやそうだわ。
ロクサーヌの鼻のおかげで最短距離を進んだため、それについては考えが及んでいなかった。
「ええ。センマイは問題なく倒すことができましたし、四十五階層でも苦戦することはありませんでした。おそらくクーラタルの四十四階層でも問題はないでしょう」
「であるか。では総書記長にその旨を伝えておこう。そう遠くないうちに、第二位階の試験を受けることになるであろう」
「はい。お気遣いいただき、ありがとうございます」
公爵の提案に頭を下げて感謝を伝える。
ぶっちゃけ、第一位階と第二位階では会員資格の期限が有るか無いかの違いだけ。別にどっちでもいい気がするけどね。
それにしても、他のパーティーもいるってのに、帝国解放会に関する話をして問題ないんだろうか?
……いや、見たところ前に並んでいるパーティーは俺たちの会話を不審に思っている様子はない。
それに関係者以外の前で帝国解放会についての話をするほど、ハルツ公は迂闊ではないはずだ。
つまり、彼らも会員ということなのだろう。
そんなことを考えていると、公爵は話を続ける。
「竜騎士をパーティーに迎えたのだな。装備も整っておるようであるし、ますますアユム殿の活躍に期待が持てよう」
おっと。そうだった、ベスタのことを紹介しておかないと。
「紹介が遅れてしまい、申し訳ございません。彼女の名はベスタ。本日加入したばかりですが、竜騎士としてパーティーに安定感をもたらし、迷宮探索に貢献してくれています」
「ほう……」
ハルツ公は呟きを漏らすと彼女に視線を向け、上から下まで動かしている。
「ベスタ、こちらはハルツ公爵閣下と公爵夫人のカシア様だ」
「こっ……」
それを聞いたベスタは石化攻撃も食らっていないのに、ピシッと固まってしまった。
話を聞いていたとはいえ、この国において上位数人の地位にいる権力者へ紹介されたのだ。その衝撃は相当なものだろう。
ロクサーヌたちも同情したような表情で、彼女の様子を見守っている。
きっと、今日はこの娘の人生で一番驚いた日になるんだろうなぁ。
そんなベスタの様子を見ていたカシアが、いたずらっぽい笑みを浮かべながら口を開いた。
「頼りがいがありそうなだけではなく、ロクサーヌさんたちに劣らない美貌。ふふ。ルティナは大変ですね」
いたずらっ子の顔だなぁ。完全にこっちをいじる気じゃん。
隣を見習いたまえ。あなたのご夫君はシリアスな表情で考え事をしているぞ。
……この人たち完全に似たもの夫婦だ。からかい上手のハルツ夫妻だ。
やがてベスタが再起動すると、ハルツ公は真剣な眼差しをこちらへ向ける。
「アユム殿、その方はこの迷宮の討伐を考えておるのか?」
え? なにその質問。どう答えるのが正解なの?
虚を突かれたものの、好戦的な笑みを浮かべているロクサーヌ、セリー、ミリアの姿が目に入った。
本当に血の気の多い娘さんたちだこと。でもそんなところも可愛いんだよなぁ。
しかし、ベスタはそこまで覚悟が決まっていないらしく、ハルツ公の言葉に戸惑っているのが見て取れる。
これはこれで可愛いな。
そのうち三人に感化されるんだろうから、期間限定のピュアピュアベスタを堪能しておかないと。
それはともかく、確かに彼の言う通り俺たちの目標はそれだ。
迷宮討伐は横取り上等の早い者勝ち。別に隠すようなことじゃない。
「はい。機会があれば狙うつもりです」
「ほう」
「まあ」
俺の返事にハルツ公とカシアが声を漏らし、彼のパーティーメンバーだけではなく、俺たちの前に並んでいるルーカスという聖騎士のパーティーもこちらに視線を向ける。
一方、我がパーティーの先輩三人は我が意を得たりとばかりに満足そうに頷き、一番の後輩は驚きの表情を浮かべていた。
やがてハルツ公は口元に笑みを浮かべながら口を開く。
「四人パーティーで四十四階層の突破が可能な上、さらに竜騎士まで加わったのだ。大言ではあるまい」
ああ。ベスタは今日加入したと話しているし、まさか今日の今日で待機部屋にたどり着いていると思うはずがない。
四十四階層のボスを倒したのは数日前と考えているんだな。
「クラウス」
「はっ」
納得していると公爵が呼びかけを行い、騎士がかしこまりながら応じる。
「その方の持つ地図には、どこまで記されておる?」
「現在、団長のパーティーが攻略中の四十八階層の中ほどまでとなります」
「ふむ。ではそれをアユム殿へ渡すがよい」
「かしこまりました」
は? 何でそうなる? 何が起きてるんだ?
呆気に取られていると、クラウスがこちらに近づいてきた。
「アユム殿、どうぞお受け取りください」
え? いや、これ受け取っていいものなの? めちゃくちゃ不安になるのだが……。
ハルツ公の方をうかがうと、いたずらが成功したかのようにニヤニヤしており、隣のカシアもその美しいかんばせに小悪魔のような表情を浮かべている。
まったく。ほんと似たもの夫婦だね、あなたたち。
まあいいや。くれるってんならありがたくもらっておきますとも。
「ありがたく頂戴します」
感謝を述べて頭を下げると、公爵夫妻は満足げに頷いていた。
怒涛の展開に翻弄されっぱなしのベスタはともかく、三人娘はいまにも踊り出しそうなほど興奮しているのが丸分かりだ。
彼女たちがそうなるのも無理はない。我がパーティーにはボーナス呪文を含めたトリプルスペルと、それの連発を可能にする大量の万能丸がある。
この圧倒的な殲滅力に地図が加われば、すぐにでも四十八階層へたどり着けるだろう。
さらに四十八階層の途中まで描かれているらしいし、比較的簡単に待機部屋を見つけることも不可能ではない。
そうなれば残りは四十九階層と五十階層を残すのみ。ゴスラーより先に最上階のボスを倒せるのは確定的に明らか。
そんなことを考えていると、ハルツ公が表情を引き締め話しかけてきた。
「ゴスラーには五十階層の待機部屋を見つけてもすぐに討伐せぬよう伝えておくゆえ、アユム殿もそのように願いたい」
うん? どういうことだ?
俺の疑問を察したのか、彼は理由を説明してくれる。
「もしアユム殿がゴスラーに先んじて待機部屋を発見した場合、第三位階の試験を行うよう、帝国解放会へ申し入れるゆえな」
なるほど。迷宮討伐を果たしたら第三位階になるって話だったし、機会があるなら昇格させておこうって腹積もりか。
俺が第三位階になれば紹介した彼にも何らかのメリットがあるのだろう。
もっとも、純粋な厚意の割合が大きいと思うんだけどさ。
内心でそんな呟きを漏らしていると、公爵は話を続ける。
「ミリア嬢は探索者であろう? であれば試験官のパーティーを送り届けるのも問題なかろう」
あの……。ミリアが探索者だと言った覚えはないんですが……。
入会試験前に顔を合わせたときは暗殺者じゃなかったし、私は彼女のジョブを伝えてないんですけどねぇ。
でもまあ、迷宮討伐を目指すようなパーティーなら探索者は必須となる。
ハルツ公は俺が冒険者、ロクサーヌは巫女、セリーは鍛冶師だと思っているわけで、ミリアがその役目を担っていると考えるのも当然か。
……ぶっちゃけ、これはありだな。
ミリアが探索者だと思わせておけば、迷宮内をワープで移動しても不自然ではなくなる。
誰かの目の前で移動する際や、人に見られながら戦闘を行うとき、それからインテリジェンスカードのチェックをされる場合は彼女のジョブを変更すればいい。
アイテムボックスを空にしておけば即座に切り替え可能だから、何の問題もないだろう。
よっしゃ。対外的にはミリアは探索者ってことで。
考えがまとまったところでハルツ公の言葉に答える。
「そのようなことでしたらこちらに否やはございません。待機部屋を見つけ次第、ご報告に上がります」
俺の返事を聞き、彼はニヤリと笑みを浮かべた。
「ほう? 先行しているゴスラーを出し抜く算段があると見える。まこと、その方は底が知れぬ男よ」
「ええ。頼もしい仲間がおりますので」
相槌を打った瞬間、待機部屋に笑い声が響き渡る。
程なくしてボス部屋への扉が開き、聖騎士のルーカスが公爵へ一言断り、仲間と共に中へ入っていった。
それを見届け、扉の前へと進む。
時間もないだろうし、ブリーフィングをしておかないと。
こちらに話しかけたそうにしているハルツ公に断りを入れ、セリー先生のはちみつ授業を受講する。
キラービーのボスはクイーンビー。
例によって攻撃を食らうと毒を受け、毒消し丸や万能丸ではなかなか回復しないらしい。
スキル攻撃は卵産み。大量に産み落とした卵からキラービーやグラスビーが数限りなく増えていくという、悪夢のようなスキルだ。
空飛ぶ毒持ちが大量に湧くとか嫌すぎるぞ……。
さらにセリーは、私たちのパーティーにはあまり関係ありませんがと言いつつ、話を続ける。
弱点は風属性で、耐性はなし。
なるほど。魔法使いがいないってんなら、この情報にはそれほど意味はない。
ハルツ公たちに疑われないよう、先手を打ったのか。さすがセリー、さすセリだ。
実際、魔道士も遊び人も外しているので魔法攻撃は行えず、本当にあまり関係ないのだが。
そして厄介なのが、この階層からボスが二匹に加え、雑魚も二匹出現するようになること。
推定攻撃倍率十二倍のトリプルアタック・改を用い、雑魚を速攻で片付けてボスに集中ってことで。
たとえ四十五階層の魔物とはいえ、雑魚ならトリプルアタック・改でワンパン可能だろう。
セオリー通り、彼女たちが魔物のヘイトを取り、俺がバックスタブを入れていく作戦だ。
ロクサーヌ師匠は一人でボス一匹と雑魚二匹を受け持つとおっしゃっていた。
いやまあ、セブンリーグブーツがあるし、師匠は普段からそれを実践しておられるので、問題はないのだろう。
俺も気合を入れて殲滅しなければ。
残すアイテムは通常ドロップがミード。いわゆる蜂蜜酒ってやつだ。
ということはクイーンビーはミツバチなのだろうか?
あ、いや。キラービーから蜂蜜をドロップしていたし、その辺はあまり関係ないのかも。
それはともかく、俺は飲むわけにはいかないが、うちには酒好きなドワーフさんがいらっしゃるし、他の娘も飲むかもしれない。ある程度の数は確保しておこう。
一方、レアドロップは女王針。これは布系装備品の消耗素材となるらしい。こいつも売らずに確保だな。
ブリーフィングが終わると、ハルツ公が声を掛けてきた。
「その方らは念入りに打ち合わせを行うのだな」
念入りかなぁ? 必要な情報を共有しているだけな気がするが。
「ほかのパーティーについては分かりかねますが、私たちは普段からこのように打ち合わせを行っております」
「ふむ、たいしたものよ。上で戦うためにはそれが何より肝要となろう。その心がけを忘れぬようにな」
人によっては鬱陶しいとなるんだろうが、伊達に四十五年間生きてきたわけじゃない。こちらの身を案じての言葉だと理解できる。
ほんと、その気持ちがありがたいよなぁ。
「ご忠告、痛み入ります」
感謝を述べると、その後もあれやこれやと話し掛けてくる。
一方、公爵夫人様はうちのパーティーメンバーに、フィーネと巫女さんを加え女子会の真っ最中。
話に花を咲かせていた。
でもベスタはめちゃくちゃ緊張してるっぽい。
まあ、そうなるのも無理はないし、徐々に慣れてもらおう。
……そういえば、ネコミミさんもカシアと顔を合わせるのは初めてなのに、全然緊張している様子がないぞ?
いや、そもそもこの娘さんは初対面のハルツ公にも緊張していなかった。
めちゃめちゃ性格の差が出てんなぁ。
いつものように当たり障りのない会話をしていると、音を立ててボス部屋への扉が開く。
うっし。そんじゃ、いきますかね。
「公爵閣下。それでは、先に入らせていただきます」
「うむ。アユム殿のパーティーであれば滅多なことはなかろうが、気を付けるようにな」
「はい。お気遣いいただきありがとうございます」
パーティー五人で頭を下げ、ボス部屋へ踏み出した。
オーバードライビング
扉が閉まったところで即座にボーナスタイムを作り出し、大急ぎでポイント振りと装備品の変更を行う。
それが済んだらスローモーションで動き出したロクサーヌたちを横目に、床を蹴って移動を開始。
フロアの奥へ移動し、ボーナスタイムが終了すると共に部屋の中央から煙が上がり始める。
程なくして煙が晴れ、魔物の群れがその姿を現した。
クイーンビーLv45
クイーンビーLv45
ハチノスLv45
ハチノスLv45
おいおい! 女王蜂に蜂の巣なんて、ダジャレみたいな組み合わせじゃねーか!
内心でツッコミながらボーナスタイムを作り出し、一気に距離を詰める。
バッシュ
ラッシュ
スラッシュ
三つのスキルが乗った剣はハチノスの体を通過し、そのHPを一発で奪いつくす。
霧のようになっていく魔物には目もくれず、返す刀でもう一匹にもトリプルアタック・改を叩き込んだ。
よっしゃ、雑魚は片付いた! 次!
セリーとミリアが受け持っているクイーンビーに躍りかかり、必殺コンボをお見舞いする。
飛ばれると攻撃が届かなくなってしまうため、その妨害を心掛けながらリキャストタイムが明けるの待つ。
そして、リキャストタイムが明けたら、無酸素運動の再開だ。
キラービーの体が実体を失うと同時にボーナスタイムが終了し、奴の体が風に流されるように消えていく。
残った魔物に目を向けたところ、天井付近でロクサーヌと激しい攻撃の応酬だ。
といっても、彼女は攻撃をかわし続け、的確にカウンターを叩き込んでいる。
めちゃくちゃ良い笑顔でキラービーをぶちのめしてんなぁ。
攻撃中もチラチラ視界に入ってたけど、マジでとんでもないお嬢様だわ。
俺たちが必死に飛ばれないような立ち回りを心掛けている最中も、この娘は戦闘を楽しんでいたらしい。
そんなことを考えている間にミリアも空中を駆け、ロクサーヌと共に攻撃を開始した。
やがて息を合わせて剣を叩きつけると、クイーンビーの体が俺の目の前に落ちてくる。
ナイスアシスト! それじゃあ、俺もいくぜー!
今度は四対一でタコ殴りにし、反撃を一切許さずあっさり片付けたのだった。
田川 歩 男 18歳
冒険者Lv52 勇者Lv46 武者Lv5 戦士Lv50 剣士Lv42
装備 貫通のオリハルコン剣 身代わりの硬革帽子 頑強のアルバ 倹約の硬革グローブ オラクルビットローファー ドラウプニル
ロクサーヌ ♀ 16歳
巫女Lv32
装備 貫通のミセリコルデ 剛健のダマスカス鋼盾 オラクルティアラ 頑強の竜革ジャケット 剛腕の古代樹手甲 セブンリーグブーツ 身代わりのミサンガ
セリー ♀ 16歳
鍛冶師Lv30
装備 強権のダマスカス鋼槍 竜革の帽子 オラクル竜革ジャケット 頑強の古代樹手甲 駿馬の竜革靴 身代わりのミサンガ
ミリア ♀ 15歳
暗殺者Lv24
装備 強権のエストック オラクル古代樹盾 耐火のダマスカス鋼額金 迅速の竜革ジャケット 頑強の竜革手甲 駿馬の竜革靴 身代わりのミサンガ
ベスタ ♀ 15歳
竜騎士Lv11
装備 強権のレイピア ダマスカス鋼の剣 耐風のダマスカス鋼額金 ダマスカス鋼のプレートメイル ダマスカス鋼のガントレット オラクルダマスカス鋼グリーヴ 身代わりのミサンガ
BP振分 残BP:0
キャラクター再設定:1
フィフスジョブ:15
詠唱省略:3
必要経験値二十分の一:63
鑑定:1
結晶化促進四倍:3
ジョブ設定:1
アクセサリー六:63
所持金:2,447,449ナール
夏の休日