異世界迷宮へ行ったなら   作:三星織苑

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247 単位

 

 

 

 

 

ハルバーの迷宮

四十七階層

 

 

 

 

 

 四十七階層に上がるとロクサーヌがスンスンと匂いを嗅ぎ始めた。

 程なくして、確認を終えると口を開く。

 

「現在、この階層を探索しているパーティーはいないようです」

 

 その言葉を聞き、セリーが頷きながら解説を行う。

 

「一階層ずつ魔物部屋を潰しているのでしょう。四十六階層が終われば次はここに進むはずです」

 

 なるほど。戦力を集中することで安全に探索できる階層を押し上げ、橋頭保を確保していくわけか。

 

 ……でも、一つ気になることがあるぞ。

 ギルドで確認できる探索終了宣言。これはその階層の魔物部屋を全て潰したという意味だ。

 しかし、これが出されるのは初心者が探索を行う低階層だけ。

 今の話を聞く限り、四十五階層以下の魔物部屋を潰しているだろうに、どうして探索終了宣言が出されないのだろう?

 

 その旨を尋ねると、ロクサーヌ師匠が答えてくださる。

 

「騎士団が本気で取り組み始めるのは四十五階層以降です。それまでは競い合うように先を急ぎ、一組でもボス部屋を突破すれば、当日のうちに他のパーティーの探索者を最高到達階層へ案内し、翌日は揃ってそこから開始します。そして四十五階層に到達したところで初めて、魔物部屋を潰す段階に入るのです」

 

 へー。騎士団はそんな攻略の仕方をしているのか。

 なら探索終了宣言を出せる階層となれば、四十五階層以降となるわけだ。

 だが、そこまで進んでしまえば横取りを警戒し、最高到達階層の報告すらしなくなる。

 

 いやでも、みんながみんな上の階層で戦えるわけじゃないよな?

 それにベイルの一階層では騎士団による探索が行われていたぞ?

 

 疑問を覚えていると、セリーが補足を入れる。

 

「領内に発生した迷宮は一刻も早く討伐しなければいけません。騎士団の精鋭は上を目指してどんどん進んでいきますし、精鋭以外も自分の力量にあった階層で間引き作戦に従事します。つまり低階層の探索を行うのは見習いか、極端に能力の低い者となるのです」

「そのせいで探索終了宣言が出るのに時間がかかるって話ですよねー」

 

 ミリアも頷きながら同意を示すと、ロクサーヌが話をまとめる。

 

「いずれにしましても、探索終了宣言は初心者救済の意味しかありません。これをあてにして魔物部屋に遭遇せずに上へ進んだ場合、いざ魔物部屋へ足を踏み入れたら全滅は免れないでしょう。それもあってギルドも探索終了宣言は低階層にしか行いません」

 

 一切の経験なく中階層以降でいきなり魔物部屋に入ったらと考えると恐ろしすぎるで……。

 しかも俺とは違い、デュランダルもオーバードライビングもボーナス呪文もないんだぞ? そいつらの頭上には間違いなく死兆星が輝いていることだろう。

 確かにロクサーヌの言う通りかもしれない。

 

 納得していると、ベスタも感心したような顔で呟きを漏らす。

 

「騎士団やギルドはそのようなことをしていたのですね」

 

 なー。全然知らんかったよなー。

 知識不足な俺たちだけど、また一つ賢くなったぞ。これからも少しずつ常識を学んでいこうぜ。

 

 少しお利口さんになったところで迷宮を後にする。

 

 

 

 

 

クーラタル

 

 

 

 

 

 ドロップアイテムの売却を済ませ、パンを購入するために街の中心へと移動したところ、店自体は閉まっていたものの店先にいたオネスタの姿が目に入った。

 

 おっ。ちょうどいい。ベスタの紹介をしておこう。

 

 彼女たちにその旨を告げ、金物屋に向かい歩き出す。

 

 

 

 ガチャガチャ音を立てているこちらに気が付き、オネスタが振り向いた。

 

「あら? こちらの娘は初めましてですよね?」

 

 見慣れない人物に戸惑ったのだろう。彼女はベスタの顔を見上げながら声を漏らす。

 

「ああ。今日から仲間に加わったベスタだ。ロクサーヌたち同様、彼女のことも気にかけてもらえると助かる」

 

 俺の言葉を聞き、オネスタの顔に噂好きなおばさんのような表情が浮かんだ。

 

「まあまあまあ。今日加わったのですか? ということは奴隷商人主催のオークションで落札したのですよね? 竜騎士でこれだけ美しい女性を落札できるなんて、本当にたいしたものです」

 

 彼女は俺たちの方に目を遣り、納得したように言葉を続ける。

 

「これだけ美しい奴隷を四人も揃えているのです。きっと上の方で稼いでいらっしゃるのでしょうね。アユムさんなら迷宮を討伐できるかもしれま――」

「はい! ご主人様はそう遠くないうちに迷宮討伐を成し遂げることでしょう!」

 

 すると、我が最愛の人はその美しい顔に渾身のドヤ顔を浮かべ、そう言い放つ。

 セリーとミリアの口元にもニヤリという笑みが浮かんでいた。

 

 四十八階層の途中まで描かれた地図をゲットしたことだし、この娘たちが浮かれる気持ちも分からんではない。

 ガチで近いうちに迷宮討伐できそうだもんな。

 

 しかし、ベスタだけは話の流れについてこれず、戸惑っているようだ。

 

 まあ、そんなことより彼女にもオネスタのことを紹介しておかなくては。

 

「ベスタ、こちらは俺たちが住んでいる六区の世話役であるオネスタさんだ。今後世話になることも多いだろう」

 

 ロクサーヌたちの言葉に苦笑しているオネスタのことを紹介すると、ベスタはぺこりと頭を下げる。

 

「ご迷惑をおかけすると思いますが、これからよろしくお願いします」

「いえいえ。こちらこそよろしくお願いしますね」

 

 挨拶を交わしたところで女性五人は世間話をし始めた。

 今までこんなに奴隷に対してよくしている主人を見たことがないだの、大切にしてもらえるから心配いらないというと、ベスタは素晴らしい肌着を与えられただの、美味しいものを食べさせてもらっただの、一生懸命語っている。

 

 どうやら想像以上にベスタは喜んでいたようだ。それがめちゃくちゃグッとくるよなぁ。

 

 さらにロクサーヌたちも加わり、話が盛り上がっている。

 

 ……楽しそうだし、パンは俺が一人で買いに行くか。

 

 

 

 パンを購入して金物屋の店先へ戻ると、彼女たちは井戸端会議の真っ最中。

 亭主元気で留守がいいというやつなのかね?

 

 俺が戻ったことに気が付くと、オネスタが話を締める。

 

「ベスタさん、何かあればいつでも声を掛けてください」

「はい。ありがとうございます」

 

 ベスタがぺこりと頭を下げると、ロクサーヌたちもお礼の言葉を口にしていた。

 

 よっしゃ。んじゃ帰るとしま――。あっ、待てよ?

 

「つかぬことを尋ねるが、そちらでまっすぐな定規は扱っているだろうか? こういう感じで平行に線を引いていきたいのだが」

 

 そう言いつつ罫線を引いていくジェスチャーをすると、彼女は頷きながら答える。

 

「直尺も取り扱っていますが、その用途だと差し金の方がよさそうですね」

 

 おー! 差し金があるのか! それならそっちの方が使いやすいな!

 よっしゃ! これで通帳や元帳が作れる!

 

「うむ。では、明日買いに来る」

「そのくらいなら、今でも大丈夫ですよ。どうぞ、お入りください」

 

 オネスタはそう言うと店の扉を開いた。

 

 ラッキー、助かったぜー。

 

 

 

 中に入り彼女の後について通路を進むと、物差しや差し金といった測定器が置かれている一角へ案内された。

 購入したパンをベスタが受け取ってくれたので、手に取って確認してみる。

 

 定規と差し金の背を合わせてみると、どちらも浮くことなくピタリと重なった。

 次に差し金の内側にもう一つ差し金を合わせたところ、こちらもまったく隙間がない。

 

 おいおい、これ完璧な直線と九十度の直角だぞ? 工作機器もなしにどうしてこんな精度が出せるんだ?

 

 鍛冶職人の技術に驚いていると、さらにおかしなことに気が付いた。

 

 この目盛りって一ミリ単位じゃないか? いったいどうなってるんだ?

 

 考え込んでいると、オネスタが話しかけてくる。

 

「三十センチでは短いですか? それ以上となると特注になってしまいますが」

 

 三十センチ!? いま三十センチと言ったか!?

 

 驚きを抑えつつ、確認のため問いかけてみた。

 

「いや大丈夫だ。それより目盛りの最小は一ミリか?」

「はい。さすがにうちの亭主でもそれ以下は無理です」

 

 マジかよ。本当に通じたぞ……。

 センチやミリといった単位を現す言葉はブラヒム語に翻訳されていたが、数値自体の変換は行われていなかった。

 

 さらに質問を続ける。

 

「秤の取り扱いはあるか?」

「はい。もちろん取り扱ってございます。分銅は一グラム単位からご用意していますよ」

 

 グラムは訳されていたものの、一は一のままで変換されていない。

 つまり、長さや重さの基準はメートル法と同じだ。

 やはり、この世界は間違いなく地球を基にデザインされている。

 

 

 

 考え込んでいると、オネスタが声を掛けてきた。

 

「秤の方もご案内いたしますか?」

 

 おっと。いかん、いかん。答えの出ない思索に耽っている場合じゃない。

 

 三十センチあれば十分だ。定規と差し金だけでいいだろう。

 

「いや。大丈夫だ。それではこれをもらおう」

「ありがとうございます。それではカウンターでお会計いたします」

 

 

 

 休日にわざわざ店を開けてくれたオネスタへ感謝と、ベスタのことを再度頼んで店を後にした。

 

 払い終え 感謝伝えて 店を出る

 アユ蔵 心の俳句

 

 まあ、例によって三割引を使ってしまったわけなのだが……。

 

 

 

 

 

クーラタル郊外

アユムの家

 

 

 

 

 

 購入したパンをキッチンに置き、木剣を準備するために二階へ上がる。

 ベスタの分は明日、家具屋へ行くときに武器屋によって購入しよう。今日は素手ってことで。

 

 四人はそのまま物置に移動するが、俺は定規と差し金を置くために自室へ入り、デスクにそれを置いたところで、ふと気になった。

 

 確かA4のコピー用紙は縦長の場合、横二百十ミリ、縦二百九十七ミリだったよな?

 

 鍵のかかるチェストからパイプファイルを取り出し、そこからコピー用紙を一枚抜き取る。

 そして、定規を紙に当てて確認したところ、サイズはジャスト二百十ミリに、二百九十七ミリ。

 つまりこの定規は寸分の狂いもなく確かな精度を備えているということだ。

 また、地球の一ミリとこの世界の一ミリは同じ長さだということも明らかになった。

 

 つか、九十日以上過ごしていて、今までよくこんなことに気付かずにいられたなぁ。

 

 自分に呆れていると、デスクの脇に置いている羊皮紙が目に入る。

 

 あれ? 今まで何気なく使ってたけど、これサイズ一緒じゃね?

 

 試しに羊皮紙とコピー用紙を重ねたところ、ピタリと一致した。

 

 マジか……。二十七年の間、毎日のように触れていたA4サイズだったってのに、全然気づいていなかったぞ……。

 我ながら観察眼が足りなさすぎるだろ……。

 

 若干へこみながら部屋を後にする。

 

 

 

 修業が始まって早々、俺とセリーはロクサーヌの攻撃でダメージを受け、地面に座り込んでしまった。

 だが、ミリアとベスタは今も果敢に挑んでいる。

 今日は木剣を用意していないため、ベスタは素手でロクサーヌを捕まえようとするものの、そのたびにやばそうなカウンターをもらっていた。

 しかし彼女はそれをもろともせず、今も元気にタンクを継続中。

 

 一方、ミリアは高性能な盾を手に入れたため、これまでとは異なりロクサーヌの裏を取るべく、ランダムな軌道で派手に動き回っている。

 だが悲しいかな、基礎能力と装備品に大きな差があるため、ロクサーヌ師匠は余裕の表情で二人の攻撃をあしらっており、まだまだ全力ではないことが丸分かりだ。

 

 ほんと、とんでもない娘さんだこと。

 ガチで世界一強いんだろうなぁ。

 

 そのまま見守っていると、二人は大いに粘ったものの、ダメージの蓄積によりベスタがダウンし、程なくしてミリアも庭に倒れ伏したのだった。

 

 

 

 ロクサーヌ師匠は俺たちに何度か全体手当てを施し、全快したところで先ほどの模擬戦についてのデブリーフィングに移る。

 

「ベスタが攻撃を引きつけ、その隙を狙うというのは悪くありません。ですが、ミリアは一人で先走りすぎです。ご主人様やセリーとの連携を意識し、さらに攻撃のバリエーションを増やすべきでしょう」

 

 増やしたところでそれを全部かわすくせに何を言うか。

 

 内心でそう呟いた瞬間、彼女がこちらへ視線を向けたのでビクッとなってしまう。

 

「いつも言っていることですが、ご主人様とセリーはもう少し立ち回りを意識してください。相手の頭がフッとなったら、体をハッと引く。腰がグッときたらスッと身をずらせばいいのです」

 

 それでどうせいっちゅうねん。

 

 俺とセリーだけではなく、今日加わったばかりのベスタはもちろん、ミリアまでもが戸惑いの色が隠せない。

 ほんと、この娘は常人とは違う世界で生きてんなぁ。

 

 

 

 その後、オーバーホエルミングを用いた修業を行ったものの、かなり厳しいことになってしまった。

 一対三でギリギリ成り立っていた戦闘だが、一対四になったことで完全に天秤があちらへ傾いたのだ。

 攻撃を当ててもベスタが倒れないため、その隙にロクサーヌとミリアのコンビネーションアタックを食らってしまう。

 そして、巧みな位置取りからのセリーによる牽制や妨害にも悩まされた。

 

 君ら俺と闘うときだけ強なってない? さっきと全然違うで?

 

 ……いや、ただ単に味方にロクサーヌがいるかどうかの差か。

 つまり俺と彼女の差はそれほど大きいということなのだろう。

 圧倒的なアドバンテージがあるというのにこの体たらく。我ながら情けない限りである。

 でもまあ、焦ったところですぐに強くなれるはずもなし。一歩一歩進んでいくしかない。小さなことからコツコツとだ。

 

 

 

 リビングで装備品のメンテナンスをしていると、ベスタが興奮で頬を染めながら声を上げる。

 

「目で追えないほどの速さで動くご主人様や、四人掛りの攻撃をかわし続けるロクサーヌさんはもちろん、お姉ちゃんの予想のつかない動きに、セリーさんの的確な牽制もすごかったです!」

 

 いや、君の耐久力も相当なものなんですが……。

 

 それを伝えると、ロクサーヌが表情を引き締めた。

 

「ご主人様のおっしゃる通り、ベスタの打たれ強さは特筆すべきものでした。迷宮探索においても必ずやパーティーに安定感をもたらしてくれるでしょう」

 

 その言葉に頷きながらセリーも続く。

 

「竜人族や竜騎士は守りに優れた特性がありますが、その中でもベスタの能力は群を抜いているのではないでしょうか。頼もしい限りです」

「ほんとそうですよねー。迷宮では魔物の攻撃を受けてもびくともしませんでしたし、ご主人様やお姉ちゃんの攻撃を何度も耐えてました。ベスタ、とってもすごかったよー」

 

 するとベスタの表情が今にも泣き出しそうなものへと変わる。

 

「こんなに褒めていただいたのは生まれて初めてです……。それにこんなすごいパーティーに入れるなんて思ってもいませんでした……。ありがとうございます……」

 

 どうやら俺たちの言葉は彼女の心に響いたらしい。感激スイッチが完全にオンになっているようだ。

 

 この娘は美人な上に相当なポテンシャルを秘めている。原作でもそうだったが、どうしてぞんざいな扱いを受けていたんだろう?

 胸の大きな竜人族の女性は不当な扱いを受けるらしいが、他の種族から見れば別に気にするほどのことじゃない。

 それに迷宮外に湧いた魔物を倒していたのなら、その能力にも気が付きそうなものだし、荷物の運搬などの労働をすれば腕力が突出しているのも丸分かりだ。

 それに気が付けば大切にしてもらえそうなもんなのになぁ。

 

 お姉さんモードになっている三人がベスタを褒めちぎっているのを見ながら、そんなことを考えていた。

 

 

 

 

 

田川 歩 男 18歳

冒険者Lv52 勇者Lv46 遊び人Lv57 魔道士Lv52 剣士Lv42

装備 サンダル 身代わりのミサンガ

 

BP振分 残BP:2

キャラクター再設定:1

フィフスジョブ:15

詠唱省略:3

必要経験値二十分の一:63

鑑定:1

ジョブ設定:1

ワープ:1

三十パーセント値引:63

 

所持金:2,454,263ナール

 

夏の休日

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