異世界迷宮へ行ったなら   作:三星織苑

250 / 300
248 ラック

 

 

 

 

 

クーラタル郊外

アユムの家

 

 

 

 

 

 主賓であるベスタに食事の支度をさせるわけにはいかないため、彼女は俺と一緒にバスルームへ移動して風呂焚きの見学だ。

 トリプルスペルを用いてサクッと湯沸かしを終えると、ぽかんと口を開けてバスタブを呆然と眺めている。

 

「……こんなにたくさんのお湯を見たのは初めてです」

 

 他の娘たちと同じことを言ってるぞ。

 まあ、給湯器なんてない世界なんだし、当然の感想だろう。

 

「魔法があるとこんなに簡単にお湯が作れるのですね。今まで魔法使いには縁がなかったので知りませんでした」

 

 いやぁ、それはどうだろう?

 複数ジョブで底上げされた知力とMPがあった俺でも、最初のうちは迷宮でMPを回復する必要があった。

 しかも、他の人にはデュランダルだってないわけだし、同じことは無理じゃないかなぁ。

 

「ご主人様は魔法を用いて雑魚を薙ぎ払われましたし、ボスについても信じられないような動きであっという間に倒していました。それに私やお姉ちゃんのジョブを簡単に変更した上に薬までお作りに。それだけではなく、あんなに美味しいお菓子まで……。本当になんでもおできになるのですね」

 

 何でもはできないわよ。できることだけ。

 

 いや、マジで。だって、オーバーホエルミングを使ってもロクサーヌやミリアの攻撃を食らうんやで?

 

 その旨を告げると彼女は納得したように頷いた。

 

「そうですね。先ほどロクサーヌさんとお姉ちゃんが、空中で戦っているところを見たときは本当に驚きました。今日はあの靴を上手く使いこなせませんでしたけど、いつかは私もあのように空中で戦えるようにならないといけません」

 

 おー。ベスタが燃えている。

 決意でキリっとした表情も可愛いなぁ。

 

 でも無理はしないでいいからね。あの二人は特別だから、気にする必要は全然ない。

 

「私は初年度奴隷なので、ご主人様に余計なご負担をかけてしまうでしょう。ですがその分を働きで返せるように頑張ります」

 

 そんなことを考えていたのか。

 セリーやミリアも初年度奴隷だけどそんなこと気にしている様子はなかったし、原作のベスタも別に気にしている様子はなかった。

 やはり他の娘たちと同じく、この娘も原作とは少し違う。

 俺の、俺だけのベスタだ。そのことが本当に嬉しくてたまらない。

 

「セリーもミリアも初年度奴隷だし、人頭税のことは気にしなくていいよ」

「えっ!? そうなのですか!? 初年度奴隷が三人もだなんて! 九万ナールもかかってしまいますよ!?」

 

 俺の言葉を聞くと、目を見開き大きな声を上げる。

 

 一人三万、三人で九万ナール。ルティナが増えたところで十二万ナール。今となってはたいした負担ではない。

 ぶっちゃけ、人頭税って稼げる人にとってはありがたい税制だよなぁ。

 

 俺は春の間だけで一千五百万ナール以上の所得が発生している。

 円にするとどのくらいの価値なのかはいまいち分からないが、日本でこれだけの収入を得た場合、六割近くを税金として持っていかれるに違いない。

 今までずっと税金はあるところから取るのが当然で、累進課税をもっと厳しくするべきだと思っていたし、社保の上限を撤廃するべきだと思っていた。

 しかし、いざ自分がこれだけの収入を得ると、人頭税という富の再配分をまるっきり無視した制度をありがたがっている。

 我ながらどうしようもない小人物だ。

 

 ……いずれ成り上がって自分の領地を得たら、民の暮らしやすい安心安全な領地にしよう。

 悪徳領主。ダメ。ゼッタイ。

 税金で私腹を肥やして贅沢をするなんてありえない。贅沢をするなら自分が稼いだ金で、だ。

 

 

 

 考え込んでいると、不思議そうにこちらを見ているベスタに気が付いた。

 

 おっと。いかんいかん。いつまでもバスルームにいるわけにはいかない。

 んじゃ、軽く説明してから移動しよう。

 

「お昼に説明した通り、我が家では毎日石鹸で体を洗って、お湯に浸かって温まるんだ。とっても気持ちいいから、きっとベスタも虜になると思うよ」

 

 すると、彼女は困ったような表情を浮かべる。

 

「そんな贅沢に慣れてしまったら、他では生きていけなくなりそうです」

 

 なにを言うんだこの娘さんは。

 

「絶対に君を手放すつもりはないから。他で生きることなんてありえないから」

 

 その言葉を聞き、彼女は安心したように微笑んだ。

 

「ありがとうございます。末永く可愛がってください」

「もちろん。年を取って腰が曲がってもみんなで仲良く暮らしていこう」

「はい。よろしくお願いします」

 

 ベスタは嬉しそうに頷きを返した。

 

 よかった。彼女もそれを望んでくれていることが伝わってくる。

 まさに『一生一緒にいてくれや』ってやつだ。

 

 

 

 作業を済ませたらリビングへ移動し、ベスタと向き合う形でソファーに腰を下ろした。

 夕食の支度がある程度終わったら、デザート担当大臣である俺はミリアと入れ替わりでキッチンに行くことになっている。

 それまではトランプで遊ぶことにしよう。

 

 ローテーブルに置いたある木箱からカードを取り出し、彼女に声を掛ける。

 

「ベスタ、これはトランプと言って、色々な遊び方ができるカードなんだ。ルールを説明するから、食事の支度ができるまでしばらく遊んでみない?」

 

 先輩たちが食事の支度をしている状況で遊ぶのが後ろめたいようで、彼女は遠慮をしていたが強引に説き伏せ説明を始めた。

 

 初心者狩りのようで多少の後ろめたさはあるが、ここで勝ち星を稼がせてもらおう。

 くっくっく。俺のキルスコアになるがいい。

 

 

 

 嘘だろ! 全敗なんてありえないじゃん!

 ババ抜き、神経衰弱、七並べ、ことごとく負けたんだけど!

 ほぼ運ゲーなのにおかしいだろ!

 

 いや、マジでどうなってるんだ?

 もしかしてマスクデータで運のパラメーターがあったりするの? 俺のそれはめちゃくちゃ低かったりする? ロクサーヌたちとの勝負でも負けが込んでいるのはそのせい?

 

 ……でも俺以上の幸せ者なんていないよな? この娘たちと共に過ごせるのだ。世界一幸運な男なのは確定的に明らか。

 だからといって、彼女たちがイカサマに手を出すはずはない。

 

 ……もしかして第六感的なものを働かせていたりする? まさかセブンセンシズに目覚めてたり? この娘さんたちは小宇宙(コスモ)を燃やしているのか?

 

 まあ冗談はともかく、運のパラメーターがないにしても、ベスタのリアルラックはかなり高い気がするな。

 緑魔結晶と青魔結晶を融合して黄魔結晶をゲットしているし、何故だか彼女の装備品ばっかり集まっていた。

 その結果、加入前からスロ四とスロ三のオリハルコンの剣、スロ三の聖銀の兜、頑強のオリハルコンプレートメイル、剛腕のミスリル手甲、スロ二のミスリルのグリーヴと、装備制限のある高性能な装備品がフルで待機中。

 この娘は生まれも育ちも奴隷というディスアドバンテージはあるものの、もしかしたらその豪運でひとかどの人物になるかもしれない。

 

 そんなことを考えていると、扉が開き部屋に明るい声がこだまする。

 

「ご主人様ー、準備はバッチリですよー。そろそろ交代しましょー」

 

 よっしゃ。俺の出番が来たようだな。

 

 ソファーから立ち上がろうとしたところで、オロオロしながらこちらを見つめているベスタと目が合った。

 

 あー。主人に勝ちまくったせいで機嫌を損ねたと考えてしまっているのだろう。

 ロクサーヌたちは俺の性格を知っているため、接待や忖度なしに全力で勝ちにくる。そこに一切の遠慮はないし、勝ったら目の前で喜びを爆発させる。

 でもこの娘は今日来たばっかだもんなぁ。

 

「初めてなのに強くてびっくりしたけど、とても楽しかったよ。これからもこんな風に遊ぼうね」

 

 声を掛けると、安心したのか表情が和らぐ。

 

「あ、はい。あの、私も楽しかったです。機会があればまたご主人様と遊戯を楽しみたいです」

 

 ベスタははにかんだような笑みを浮かべながらそう言った。

 

 控えめな感じがめちゃくちゃ可愛いんじゃー。

 

 キョトンとした表情で、俺たちのやり取りを見つめているミリアへ声を掛ける。

 

「じゃあ、俺はキッチンにいくから、ミリアはベスタとトランプで遊んでて」

 

 その言葉を聞き、満開のひまわりのような顔で答えた。

 

「はい! お任せください! お姉ちゃんとしてベスタにトランプの遊び方を教えてあげます!」

 

 はいはい。仲良く遊ぶんだよー。

 

 

 

 廊下には美味しそうな匂いが漂っており、彼女たちの気合のほどがうかがえる。

 本当に良い娘たちだよなぁ。

 

 そんなことを考えながらキッチンへ入ると、テーブルの上に御馳走が所狭しと並んでいた。

 唐揚げにトンカツ、赤身カツと白身フライ、ハンバーグやミートボール。

 他にも尾頭付きの塩焼き、かまぼこ、カルパッチョ、ツナサラダ。

 あとは各種サンドイッチ。

 

 これはすごいなぁ。まるで子供の夢が詰まったような光景だ。

 

 俺が入ってきたことに気が付き、ポトフを仕上げているロクサーヌとミートソースの煮詰めていたセリーが顔を向ける。

 

「晩にもご主人様のデザートが食べられるなんて本当に幸せです」

 

 女神の微笑みでロクサーヌがそう言うと、セリーが好奇心で瞳を輝かせながら問いかけてきた。

 

「どんなデザートなのですか?」

 

 ふふん。聞きたい? でもネタバレは厳禁なのだ。後の楽しみに取っておきたまえ。

 そんじゃあ、がんばんべーや。

 

 

 

 全ての料理が完成し、俺の方もデザートの準備を終える。

 ロクサーヌとセリーの顔には落胆というほどではないものの、少しだけ期待外れだったような色が見え隠れしていた。

 

 君たち? あいつらの実力を侮ってるね? あの二つ、いや三つのシナジーはすごいんだぞ?

 

 内心でそんなことを考えながら料理をダイニングへと運ぶ。

 

 

 

 準備ができたところで今日の主役を呼びに行くと、ものすごい勢いでカードをローテーブルに置いている二人の姿が目に入る。

 

 遊撃のミリアはともかく、ベスタに素早い印象はなかったなぁ。

 盾役というと鈍重なイメージがあるし、本人も控えめでおっとりしているから少し驚いた。

 

 一進一退の攻防を眺めていると、二人はどんどんカードを捨てていく。

 そして、同時に最後の一枚を捨てようとしたのだが、ミリアが捨てたのがわずかに早く、残念ながらベスタのカードはその上に置かれていた。

 

「負けてしまいました。やっぱりお姉ちゃんは強いです」

「ベスタもすごかったよ。ババ抜きは一度も勝てなかったし、神経衰弱のときは捲ってないカードをバンバン当てていったのにはびっくりしたもん」

 

 彼女たちは笑みを浮かべながらお互いの健闘をたたえている。

 

 ……ババ抜きで連勝したの? それに捲ってないカードを当てまくった?

 この娘のリアルラックはマジでヤバいかもしれん……。

 

 戦慄したものの、呼びに来たことを思い出しその旨を伝え、二人と共にリビングを後にする。

 

 

 

「美味しそうな食べ物がたくさん……。こんなの見たことないです……」

 

 ダイニングに入るとベスタが呆然としながら呟きを漏らした。

 

 その様子を微笑ましそうに見えていたロクサーヌが声を掛ける。

 

「ふふ。あなたがパーティーに加入した特別な日ですからね。お昼と同じく今日だけはご主人様の隣に座ってもいいですよ。さあ、遠慮なくどうぞ」

 

 いや、だからそれがこの娘にとって、喜ばしいことなのか分かんないじゃん。

 

 内心でツッコミを入れていると、花が綻ぶかのようにベスタの顔に笑みが浮かんでいく。

 

「ロクサーヌさん、セリーさん、お姉ちゃん。ありがとうございます」

 

 どうやら俺の隣に座れることを喜んでくれているらしい。

 まだ出会って数時間だというのに、そう思ってくれているのが本当に嬉しいわ。

 ベスタのことも大切にしたいという思いが、改めて湧き上がってくる。

 

 三人はニコニコしながらその言葉に頷きを返しているが、今日は特別だの、毎日ではないだの、私のときはそうじゃなかったなどと話している。

 

 確かに考えてみれば、今までずっと彼女たちは正面に座っていたもんなぁ。

 まあ、明日からは席が変わるという話だし、誰かが隣に座ってくれるのだろう。

 うん。楽しみだ。

 

 

 

 全員が席に着いたところでポトフを取り分け食事を開始したところで、俺たち四人は新入りさんに自分の一押しを薦める。

 俺はポトフでロクサーヌがトンカツ、セリーはミートスパでミリアが赤身カツ。

 

 彼女はそれらを実に美味そうに食べて感激した様子を見せるため、まるで孫が遊びに来た田舎のじいちゃんばあちゃんのように、あれもこれもと推し活が止まらなくなってしまった。

 しかし、いくら体格が大きかろうと入る量には限界があるし、俺たちだってそうだ。この後はデザート……、あれはデザートかな? ドリンクのような気もする……。

 

 ……まあいいや。とにかくこの後もあるから、お腹に余裕を残してもらわないと。

 結構な量が残ってしまうが、これらは明日の朝食に食べればいいさ。

 

 その旨を告げると、ベスタの瞳が期待で輝きを増す。

 

「夜もお菓子がいただけるのですか! こんなに幸せでいいのでしょうか。今朝の私が聞いたら絶対信じないと思います」

 

 めちゃくちゃ喜んでるなぁ。準備した甲斐があるってもんだ。

 三人もその様子を微笑ましそうに見つめていた。

 それじゃあ、準備をしてこようかね。

 

 席を立ち、背中に当たる視線をヒシヒシと感じながらダイニングを出る。

 

 

 

 キッチンへ移動し、まずは冷蔵庫からシュタルクセルツァーとコーラシロップを取り出し、五つのカップに注いでコーラを作成。

 お次はバニラアイスにご登場願い、コーラの海にダイブしてもらった。

 最後にキュピコグラッセを載せたら出来上がり。

 

「コーラフロートー」

 

 うん。実に見事。思わず昔のドラえもん風の声も出ようというものだ。

 

 コーラフロートとスプーンをトレーに載せてキッチンを出る。

 

 

 

 ダイニングへ戻ったところ、俺の持っている物を確認した先輩三人から歓声が上がった。

 

「コーラとアイスクリームの組み合わせ! そういうものもあるのですか!」

 

 ロクサーヌが驚いたような声を上げると、セリーとミリアも続く。

 

「その発想はなかったです! これは奇跡の組み合わせと言えるでしょう!」

「絶対美味しいですよね! 間違いありません!」

 

 ベスタは彼女たちのあまりのテンションに、少しだけ引いているようだった。

 まあ、絶対美味しいと思うから、期待してもろて。

 

 全員に行き渡ったところでスプーンを手に取って、カップの中に入れる。

 コーラとアイスの境界部分を掬い口へ運ぶと、シャリシャリした感触と濃厚なクリームの甘さに心を奪われた。

 それにバニラとコーラの風味が混じり合い、得も言われぬ美味しさが脳を刺激する。

 続けてキュピコグラッセとバニラアイスをまとめて口に入れると、酸味と甘味のハーモニーが全身を突き抜けた。

 

 素材の美味さによるところが大きいのだろうが、我ながら本当に良い仕事をするなぁ。

 もしかしたら俺の天職は喫茶店のマスターかもしれない。

 そのうち喫茶店店主というジョブが生えないかしらん?

 

 アホな妄想に浸っていると彼女たちからも次々に興奮の声が上がり、ベスタにいたってはお昼に続いて、再びの感涙だ。

 

「一日のうちにこんなに美味しいものをたくさん食べることができるなんて……。ご主人様、ロクサーヌさん、セリーさん、お姉ちゃん。本当にありがとうございます……」

 

 席を立って隣へ移動し、彼女の頭を撫でる。

 

「ベスタに喜んでもらえたようで嬉しいよ。準備した甲斐があった」

 

 対面に座っている三人も優しい表情でこちらを見つめていた。

 

「みんなで幸せに過ごせるように頑張るから、これからよろしくね」

 

 ベスタは小さく頷き呟きを漏らす。

 

「……はい。こちらこそよろしくお願いします」

 

 この娘たちはどんなことがあろうとも幸せにする。

 なにがあってもその決意だけは揺るがない。絶対にだ。

 

 

 

 

 

田川 歩 男 18歳

冒険者Lv52 勇者Lv46 遊び人Lv57 魔道士Lv52 剣士Lv42

装備 サンダル 身代わりのミサンガ

 

BP振分 残BP:2

キャラクター再設定:1

フィフスジョブ:15

詠唱省略:3

必要経験値二十分の一:63

鑑定:1

ジョブ設定:1

ワープ:1

三十パーセント値引:63

 

所持金:2,454,263ナール

 

夏の休日

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