異世界迷宮へ行ったなら   作:三星織苑

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250 提案

 

 

 

 

 

クーラタル郊外

アユムの家

 

 

 

 

 

 すっきりとしたような満足感と、体調が最高に整えられているかのような万能感、そして肌にあたるひんやりとした感触。

 それらを味わいながらゆっくりと意識が浮上していく。

 

 昨夜は色魔の力も借り、四人それぞれに三回戦まで挑んでしまった。

 ベスタは初めてだったので負担をかけてしまっていないかと心配したものだが、そこはフィジカル最強の竜人族。まったく問題なく体を重ねてくれた。

 

 そして、いま俺の体にあたる清涼感。

 これが夏涼しくて冬に温かくなるという、竜人族の特性か。まさに天然の冷暖房装置だな。

 今後はベスタに抱き着きながら眠るのがデフォになる気がするぞ。

 

「おはようございます、ご主人様」

 

 そんなことを考えていたところ、愛しい人の声が聞こえてくる。

 

「おはよう。ロクサーヌ」

 

 挨拶を交わしていると、セリー、ミリアもそれに続き、最後にベスタの声が耳に届いた。

 

「ご主人様、おはようございます」

 

 お? もう目が覚めていたのか? 確か竜人族は朝に弱いって話だよな?

 

「おはよう、ベスタ。体調は問題ない?」

 

 問いかけたところ、彼女は感動が交じった声で答える。

 

「はい。これほど気持ちよく目が覚めたのは生まれて初めてです。このベッドは本当にすごいですね」

 

 あー。なるほど。そういうことね。確かに俺の体調も整えられているし、スリープウール製の寝具にはそういう効果もあるのかもしれない。

 それにお風呂で体を温めたことも無関係ではないだろう。まあなんにせよ、快眠できたのはいいことだ。

 

 少しだけ雑談をしてから彼女たちに声を掛ける。

 

「それじゃあ、今日も一日頑張ろう」

 

 それぞれ異なる魅力に満ちた声が重なり、一日の始まりを告げた。

 

 

 

 身だしなみを整えて洗顔、歯磨き、ヒゲ剃りを済ませる。

 今日はベスタがヒゲを剃ってくれたのだが、その手つきはスムーズそのもの。

 初めてだとは思えないほど滞りなく作業を終えた。

 正直、竜人族に対しては大きな体格ということもあり、おおざっぱで不器用だという印象があったが、どうやらそれは偏見だったらしい。

 そんなことを言うのなら、人間族は全員が全員、欲望が肥大化するエロエロ唐変木だということになってしまう。

 人間族にだって俺のような紳士もいるのだ。そんなもん人それぞれに違いない。

 人を色眼鏡で見るのはいかんよな。アユム、反省。

 

 準備が整ったところで大切な朝のルーティーン。

 一人ずつ思いのたけをぶつけ合うように舌に吸い付き、絡め合う。

 ファーストキスが昨日で、まだ数えるほどしかキスをしていないというのに、ベスタは激しく俺の舌を責めてきた。

 

 この娘さん、控えめでおとなしい性格の割に、こういう部分はめちゃくちゃ積極的で、翻弄されっぱなしだ。

 思わずこのまま寝室に戻りたくなってしまうぞ。

 

 その欲望を振り払い、ソファーに腰を下ろして本日のミーティングを開始する。

 

 まずは早朝の探索。

 そして、いつもの時間に自宅に戻り、昨晩の残りで朝食をとると告げたところで、一番奴隷さんからちょっと待ったコールが入った。

 どうやら、今後の席順について話しておきたいことがあるらしい。

 

「今までは席を固定していましたが、今後は食休みやお風呂と同じように、ローテーションで席を変えていきます」

 

 その言葉に他の三人も頷いている。どうやら、あらかじめ彼女たちの間で話し合いが持たれていたようだ。

 もちろん俺に否やなどあろうはずもない。その案を了承しましたとも。

 

 席順の話が済んだところで、朝食の準備をしている間と食休みの時間で通帳作りを行う旨を伝えておく。

 すると、ミリアが疑問の言葉を口にした。

 

「昨日もおっしゃっていましたが、ご主人様の国ではお金を預けるのに、つうちょう? というものが必要になるんですかー?」

 

 通帳レスの銀行も多いし、絶対ってことはないだろうけど、口座を持っているのに通帳がないってのは違和感があるんだよなぁ。俺は古い人間なんだろうか?

 

 それはともかく、入出金や残高の確認をするために用いると説明したところ、セリーが腑に落ちないといった様子で口を開く。

 

「証文では駄目なのですか? それに商売人ではない人がお金を預けるのですか? そもそもご主人様の国には商人ギルドも豪商ギルドもないのですよね? それならどこがお金を預かるのでしょう?」

 

 他の娘たちも興味津々といった様子でこちらを見つめている。

 

 そんなことを尋ねるってことは、この世界では銀行が成立していないってことか。

 

 詳しく聞いてみたところ、商人ギルドや豪商ギルドが利子を設定した上で、所属のギルド員からお金を預かり、また新しく商売を始める者へ融資も行っているらしい。

 

 セリーは可愛い顔に苦々しい表情を浮かべながら説明を続ける。

 

「預かったお金に対する利子と、貸し付けたお金に対する利子には著しい開きがあるとのこと。つまり、彼らは労働を行わず利ざやで暴利を貪っているのです。伊達に仲買人の元締めをしているわけではありません」

 

 金融業なら当然のことなんじゃ……。

 まったくこの娘は……。

 

 他にも商人や豪商はアイテムボックスを持たないため、送金や決済、手形の振出も行われているようだ。

 冒険者のフィールドウォークがあれば、ギルド間の帳簿を合わせて清算することも容易だろうし、悪事を働けばジョブが盗賊に変わり奴隷に落とされてしまうため、セキュリティー的にも問題ない気がする。

 

 一方、個人に対しての貸金業務は行なっておらず、そちらは商人ギルドや豪商ギルドによる許可制で、認可を受けた貸金業者が金利の上限が定められたうえで営業しているようだ。

 ただ、お金を預かるということはしていないらしい。

 原作セリーのエピソードで借金についての描写があったため、金貸しがいるのは予想がついていた。

 というか地球でも紀元前から貸金業があったわけだし、まあ当然のことだろう。

 

 なにはともあれ、通帳がなければ気分が出ないし、彼女たちにも通帳の残高を見てニヤニヤするという体験をしてもらおうじゃないの。

 

 話がまとまったところで次の話題に移る。

 

 食休みが済んだら武器屋で木剣、そして家具屋でベスタの鍵付きチェストと、風呂で使う用のスツールを購入しないといけない。

 んで、午前の部後半の迷宮探索と昼食の次は午後の部の探索を行い、修業、夕食、お風呂、寝室だな。

 

 一通り話をしたところで、セリーが静かに口を開いた。

 

「昨日の戦闘を見たところ、ミリアもベスタもメッキは必要ないと思います。フィフスジョブは剣士に戻してもいいのではないでしょうか?」

 

 とは言ってもなぁ。何があるか分からないし、俺としては錬金術師の方がいいと思うんだが……。

 他にも知力小上昇のパーティー効果がなくなると、必要な魔法の数も増えるだろう。

 ぶっちゃけ、戦闘中にMP回復を図るのはなぁ。

 

 その旨を伝えると、彼女はニヤリと笑い右手の人差し指をピンと立てる。

 

「そこで、一つ提案したいことがあります」

 

 お? 作戦立案か? なんだ、なんだ。

 

 俺だけでなく、ロクサーヌたちも身を乗り出したところで、彼女は話し始めた。

 

「魔法で戦闘する際、ご主人様はダマスカス鋼の盾を装備なさいます。そしてその盾にはスキルスロットが付いていたはずです。幸い手元には油脂植物とコボルトのスキル結晶がありますので、消費MP削減のスキルを付けてはいかがでしょうか? そうすれば回復なしにメテオクラッシュを三回放つことも可能になるはずです」

 

 ふむ……。確かにそれはアリかもしれない。

 

 体感的にメテオクラッシュ一発当たりの消費MPは、最大MPの半分ということは絶対にない。精々四割弱といったところだ。

 消費MP削減が加われば、間違いなく回復なしに三発撃てるようになるだろうし、他のストーム系の魔法を数発放つこともできるだろう。

 

 そして、錬金術師を外すかどうかはさておき、今のままで消費MP削減のスキルを使おうと思ったら、倹約の硬革グローブを装備することになる。

 となれば身代わりの竜革グローブを外さなくてはならない。

 その状態で身代わりスキルを求めるとなると、身代わりの竜革帽子や身代わりのミサンガを装備することになり、そうなればズケットかよりしろのイアリングを外すため、魔法攻撃力が大きく低下し本末転倒。

 

 他にも盾に付けるというのも頷けるポイントだ。

 彼女の言う通り、盾を使用するのは魔法戦闘を行うときのみで、消費MPを気にするのも同じく魔法戦闘を行う時だけ。

 デュランダルや貫通のオリハルコン剣が必要な場面では消費MP削減の出番はこない。

 

 なるほど。確かに理にかなっている。

 

 納得していると、リビングにロクサーヌの弾んだ声が響き渡った。

 

「セリー、素晴らしいアイデアです! メテオクラッシュを三発撃てるようになれば、さらに上へ進むこともできるでしょう! ご主人様、その意見を取り入れてはいかがでしょうか?」

 

 さらにミリアとベスタもその意見に同意を示す。

 

「もうメッキがなくても問題ないです。私もその方がいいと思いますよー」

「はい。大丈夫だと思います」

 

 おー。綺麗なコンボが繋がった。実にそれっぽい。

 

 まあそれはともかく、この案は利点がかなり多い。

 油脂植物のスキル結晶はハルツ公が狙っているため、なるべく温存しておきたいところだが、ここは勝負に出るべきだろう。

 ……よし。じゃあそのアイデアを採用ってことで。

 

「さすがセリー、良いアイデアを考えてくれたね。本当にありがとう。じゃあ、その意見を取り入れようか」

 

 感謝の言葉を伝えると、セリーの顔に満開の花が咲き誇る。

 

「はい! ご主人様のお役に立ててよかったです!」

 

 あら、可愛い。

 

 

 

 最後に四十七階層から登場する魔物についての確認をすると、ネペンテスとのことだった。

 滋養剤の材料となる半夏を残す、つぼ式食虫植物のあいつだ。

 火属性が弱点のため、メテオクラッシュの威力が上がるのがバッチグー。

 同じ階層に出現する可能性が高いのは、弱点が水で耐性が土のピックホッグ。弱点が風で耐性がないキラービー。そして弱点も耐性も持たないハチノス。

 このなかではピックホッグがメテオクラッシュのダメージ量を減らしてしまうため、それを補うために遊び人のスキルは中級水魔法のままにしておいた。

 

 ミーティングを終え、瞳を爛々と輝かせているお嬢様方と共にソファーから立ち上がる。

 

 さて、今日も一日がんばりまっしょい。

 

 

 

 自室で装備を整え、鍵のかかっているチェストからコボルトと油脂植物のスキル結晶を取り出し、アイテムボックスへ放り込む。

 

 こいつの力で最上階のボスまでたどり着けるといいんだが……。

 

 そんなことを考えながら玄関へと向かう。

 

 

 

 玄関へ着いたところでジョブとボーナスポイントの変更だ。

 ジョブについては冒険者、勇者、遊び人、魔道士のレギュラーメンバーは外せない。

 そしてフィフスジョブはセリーの提案通り剣士でいくことにする。

 もしミリアとベスタの被ダメが大きいようなら錬金術師にスクランブルを願うってことで。

 

 剣士のレベルも42に上がっているし、近いうちに中級ジョブの、えーっと、剣豪だっけ? それを得ることができるだろう。

 そしたら次は薬草採取士のレベルを上げるべきだな。

 俺たちも迷宮討伐が現実味を帯びてきたわけで、今後は高品質の回復薬が必要になってくるはずだ。

 それを自前で用意できれば探索も捗ることだろう。

 その後は博徒、色魔、僧侶あたりかな? まあ、そのときに考えればいい。

 

 ボーナスポイントもいつも通りの組み合わせ。

 キャラクター再設定で1、フィフスジョブで15、必要経験値二十分の一で63、詠唱省略で3、鑑定で1、結晶化促進四倍で3、獲得経験値二十倍で63、そしてワープで1、合計150ポイント。オッケー、ぴったしカンカン。

 迷宮に行ったらワープとメテオクラッシュを変更すれば完璧だ。カンペキペキだ。

 

 

 

 そうこうしているうちに華やかな声が近づいてくる。

 

「ご主人様、お待たせいたしました」

「大丈夫。全然待ってないよ」

 

 ロクサーヌの言葉に答えると、彼女たちの顔に笑みが浮かんだ。

 

 ん? なに、なに?

 

「どうかした?」

 

 問いかけたところ、クスクス笑いながらミリアが答える。

 

「装備品を身に着けているときに、ベスタがご主人様をお待たせするのはまずいんじゃないかって気にしていたんです。だからみんなでご主人様なら『大丈夫だよー』って言ってくれるって話してましたー」

 

 その言葉に続き、セリーが口を開く。

 

「はい。ご主人様はそのようなことで気分を害されたことなど、一度もありませんからね。私たちは本当に恵まれています」

「ベスタ、安心しましたか? 私たちのご主人様は世界で一番強くて、世界で一番優しいお方です。何も心配する必要はありません」

 

 いや、世界一強いのは君ですやん。

 それに俺は容赦なく盗賊を狩りまくっているし、三割引や三割アップを使いまくっているような男だぞ? どう考えても優しくはないと思うんだが……。

 

 内心でツッコミを入れていると、ベスタは控えめな笑みを浮かべながらロクサーヌに頷きを返した。

 

「はい。商館での暮らしや、話に聞いていた奴隷の待遇とはまったく違うので驚いてばかりですが、素晴らしいご主人様に購入していただけて、私は本当に幸せ者だと思います」

 

 それを聞いた一番奴隷さんは、『あなたは道理をよく弁えています』と言わんばかりの顔で満足そうに頷いている。

 

 この娘さん、また悪質な宗教の洗脳のようなことをしおってからに……。

 

 ……まあいいや、とりあえずスキル結晶の融合をしてもらおう。

 

 アイテムボックスからダマスカス鋼の盾と二つのスキル結晶を取り出し、セリーに差し出す。

 

「じゃあ、お願いね」

「はい。お任せ下さい」

 

 彼女は自信満々の表情でそれを受け取ると、右手に持った二つのスキル結晶を左手の盾に押し付けながら呪文の詠唱を開始した。

 

「今ぞ来ませる御心の、言祝ぐ蔭の天地の、スキル結晶融合」

 

 手元から目を焼きそうなほどの光が放たれ、やがてそれが収まるとそこには盾だけが残されている。

 

 いざ、鑑定。

 

倹約のダマスカス鋼盾 盾

スキル 消費MP削減

 

 おっしゃ! バッチリ、バッチリ!

 

「うん。倹約のダマスカス鋼盾だ。さすがセリーだね」

 

 盾を受け取りながらそう告げると、頭上から声が降ってくる。

 

「わぁ! これがスキル結晶の融合なのですね! こんなに簡単に成功させてしまうなんて、セリーさんは本当にすごいです!」

 

 見上げたところ、竜騎士さんは興奮で頬を朱に染めていた。

 それを聞いたセリーは照れたように答える。

 

「私がすごいのではありません。スキルスロットの有無を見分けることができる、ご主人様の能力があってこその成功です」

 

 謙遜しているセリーに対し、ロクサーヌとミリアも加わり、すごいすごいと称えていた。

 ほんと、仲のいい娘たちだなぁ。ご主人様は安心してみてられるよ。

 

 

 

 一頻りセリーの仕事を褒め称えたところで、ミリアがベスタにスツールへ腰を下ろすように告げ、グリーヴを装備させる。

 俺たちも足装備を変更したところで、ハルバーの迷宮へ出勤だ。

 

 

 

 

 

田川 歩 男 18歳

冒険者Lv52 勇者Lv46 遊び人Lv57 魔道士Lv52 剣士Lv42

装備 頑強のアルバ 身代わりの竜革グローブ オラクルビットローファー よりしろのイアリング

 

ロクサーヌ ♀ 16歳

巫女Lv32

装備 貫通のミセリコルデ 剛健のダマスカス鋼盾 オラクルティアラ 頑強の竜革ジャケット 剛腕の古代樹手甲 セブンリーグブーツ 身代わりのミサンガ

 

セリー ♀ 16歳

鍛冶師Lv30

装備 強権のダマスカス鋼槍 竜革の帽子 オラクル竜革ジャケット 頑強の古代樹手甲 駿馬の竜革靴 身代わりのミサンガ

 

ミリア ♀ 15歳

探索者Lv12

装備 強権のエストック オラクル古代樹盾 耐火のダマスカス鋼額金 迅速の竜革ジャケット 頑強の竜革手甲 駿馬の竜革靴 身代わりのミサンガ

 

ベスタ ♀ 15歳

竜騎士Lv12

装備 強権のレイピア ダマスカス鋼の剣 耐風のダマスカス鋼額金 ダマスカス鋼のプレートメイル ダマスカス鋼のガントレット オラクルダマスカス鋼グリーヴ 身代わりのミサンガ

 

BP振分 残BP:0

キャラクター再設定:1

フィフスジョブ:15

必要経験値二十分の一:63

詠唱省略:3

鑑定:1

結晶化促進四倍:3

獲得経験値二十倍:63

ワープ:1

 

所持金:2,454,263ナール

 

夏の1日目




コミック版12巻の予約が始まっていますね。
今から発売日が待ち遠しいです。
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