食休みを終えたところで武器屋に顔を出し、木剣を二本購入した。
これでベスタも修業の際、武器の振るい方を学ぶことができるだろう。
次は家具屋に寄ってスツールの買い足しとベスタの鍵付きチェストを購入だ。
例によって配達は明日の午前中とのことだったが、彼女はそれを普通に担ぎ上げ、このまま家まで運んでいけると宣った。
……とんでもないフィジカルモンスターやなぁ。
竜人族や竜騎士の補正もあるんだろうけど、明らかにこの娘自身のポテンシャルによるところが大きい気がするぞ……。
驚いている店員を促し、支払いを済ませて暇を告げ外へ出る。
ロクサーヌに頼んで人目に付かない所へ移動し、消費MP半減のスキルが付いた毘盧帽を頭に載せてゲートを開いたところ、明らかに高さが足りない。
二メーター以上の身長を持つベスタがチェストを担げば、その高さは三メーターを優に超える。そりゃ無理だろう。
「私が一緒に持ちます」
どうしたものかと思っているとセリーがベスタに声を掛けた。
「ありがとうございます」
彼女は控えめな笑みを浮かべ、チェストをヒョイッと寝かせた状態に持ち替える。
クソ重そうな家具をあんな軽々……。
おまけに身長差があるせいで重量が集中しているはずなのに、セリーもまったくそれを感じさせない涼しい顔をしている。
ドワーフと竜人族はいくらなんでも運営に愛されすぎじゃない? ネトゲならナーフ待ったなしだぞ。
不公平感を覚えつつ、一気にワープゲートを通り抜ける。
荷物の運搬が無事に済んだところで、今度はハルバーの迷宮四十八階層へ移動する。
食休みのときにセリーに確認したところ、この階層から出現するのはマダムバタフライ。風が弱点で火に耐性を持つあいつ。
遊び人のスキルには下級雷魔法をセットしているが、場合によっては風魔法に変更するべきだな。
そんなことを考えていると、匂いを確認していたロクサーヌがこちらへ顔を向ける。
「現在、この階層で探索を行っているのはゴスラー様のパーティーだけのようですね」
ふむ。ゴスラーは魔道士のレベルが60を超えている。おそらくハルツ公爵家で一番の腕っこきなのだろう。
なんとか彼らを出し抜きたいところだ。
ロクサーヌの言葉に続き、セリーも口を開く。
「地図によれば、この小部屋の正面にある通路を進んだものと思われます。途中まではそれに沿って進み、記載されていない箇所を探索しますか? それともまったく別のルートを進むべきでしょうか?」
うーん……。
そんなことを聞かれても、ぶっちゃけ判断なんてつかないぞ……。
俺はRPGのダンジョンで分岐を誤ってイベントが進みそうになり、もう一方へ戻ってアイテム回収をするといったことが多かった男。自分を一切信用できない。
「地図に従い正面へ進むか、それとも左右どちらかの通路を進むべきか……。君たちはどう思う?」
尋ねたところ、ロクサーヌは別の通路へ進むことを推し、セリーは地図通りに正面を探索、そしてミリアもセリーと同じく地図を利用した方がいいとのことだった。
最後にベスタに視線を向けると、彼女は少し考えてから意見を述べる。
「えっと、なんとなくですけど、左の通路を進んだ方がいい気がします」
その言葉を聞き、思わずロクサーヌ、セリー、ミリアと顔を見合わせてしまった。
彼女たちの表情からはベスタが黄魔結晶を作ったことと、じゃんけんで独り勝ちをしたことを思いだしていることがありありと伝わってくる。
かくいう俺もそれを思い出し、まさかという気持ちと、ワンチャンあるかもしれないという気持ちがせめぎ合う。
……左側が待機部屋に近かったらゴスラーたちを出し抜けるし、たとえ空振りでも地図のルートに戻るのはそう難しくない。
もう一度彼女たちの表情をうかがうと、先輩三人は大きく頷きを返し、後輩ちゃんはこちらの判断を待っている。
「では、左の通路を進んでみよう。ロクサーヌ、いつものように先行してくれ」
「お任せください」
我らが戦女神は力強く答え、意気揚々と通路を進み始めた。
道中、頻繁に魔物とエンカウントするものの、ガンマ線バーストの威力は凄まじく、四十八階層の魔物もワンパンで沈んでいく。
もしかしたらメテオクラッシュ三発以上の威力があるのではないだろうか?
原作の描写ではよく分からなかったが、おそらくそうに違いない。
ただし、メテオクラッシュ同様、MPあたりのダメージ量は通常の魔法に大きく劣るだろう。
湯水の如く万能丸を使用しているからこそ、成立している作戦だ。
万能丸が尽きる前に、疲労回復薬か万能薬の補充をしなければならない。
しばらく進むと、瞳をキラキラ輝かせながらロクサーヌが振り返る。
「ご主人様! この先に魔物部屋があるようです! 是非潰しておきましょう!」
もちろん彼女だけではなく、セリーとミリアも殺る気満々マンドリルだ。
本当に血の気の多い娘さんたちだなぁ。
しかし、ベスタだけはキョトンとした様子で彼女たちのことを眺めている。
うむ。可愛い。もちろん全員な。
何はともあれ、ガンマ線バーストならワンパンできるのは確定的に明らか。
また、数が多くて発動しなかった場合はMPを消費しないため、鬱状態になることもないだろう。
あらかじめ口に万能丸を含んでおき、MPが抜けたら即座に飲み込むってことで。
「分かった。準備をするから、少し待っていてくれ」
そう言うや否や、通路に歓声が響き渡った。
レベルアップ時に経験値の繰り越しはない仕様なので、獲得経験値二十倍を使うのはもったいない。
となると、レアドロップ率を上げるドラウプニルか、結晶化促進六十四倍で挑むべきだろう。
うーん……。マダムバタフライのレアドロップであるマスカラは売却額に期待が持てる。
それに、ピックホックの豚肩ロース肉も確保しておきたいところだ。
よし。ここはドラウプニルでいこう。
ボーナスポイントを振り分けて、よりしろのイアリングを外し、ドラウプニルを身に着けたところでふと気づく。
こいつには魔法攻撃力五倍のスキルが付いているよな?
それとオーバードライビングを組み合わせた上で、メテオクラッシュとサンダーストーム二発のトリプルスペルを放てば、ワンターンキルができるんじゃないか?
その旨を伝え、ただし二ターン目が必要になり、大量の魔物の攻撃を防がなくてはいけない可能性についても説明したところ、彼女たちはノリノリで賛成してくれる。
本当に頼もしい娘さんたちだこと。
口に万能丸を含みながら通路を進み、突き当りの壁へ近づいたところ、音を立てて壁が下がっていく。
ぽっかり開いた穴の向こうには多数の魔物がひしめいていた。
四人がバーサーカーのように小部屋へ飛び込んだと同時に、こちらもボーナスタイムを作り出し魔法名を念じる。
その瞬間、無数の隕石が降り注ぎ、激しい光がチカチカと点滅を繰り返す。
大量のMPが持っていかれたが、それでも問題になるほどではない。
万能丸を飲み込み、その様子を見つめていると、程なくしてエフェクトが終了し、それと共に魔物の姿も消えていく。
よっしゃ! 残った魔物はなし! 全滅だ!
興奮している四人と手分けしてドロップアイテムを回収し、探索を続けるべくジョブとボーナスポイントの振り分けを戻した。
「ご主人様、そろそろお昼になります」
ひたすら先を目指して進んでいると、ロクサーヌからいつもの言葉が聞こえてくる。
ふいー。午前中の探索は終了か。
あの後も何度か魔物部屋を発見し、そのたびに潰して回った。
ここは最高到達階層なのだ。しかもゴスラーたちとは別のルートをたどっているため、先駆者が魔物部屋を処理しているということはない。
最前線にはこんなに魔物部屋があったんだな。
他の人たちはキャラクター再設定もなしに、これに立ち向かっているということになる。
俺なら絶対無理だし、挑もうとすら思わない。
マジですごい勇気だわ。勇者のジョブはそういう人たちにこそふさわしい。
こんなチキンが持ってて、ほんとすんまそん。ごめんねごめんねー。あいとぅいまてーん。
馬鹿なことを考えながら次の小部屋へ移動し、戻り支度を整える。
レベルを確認したところ、俺の勇者と剣士、それからミリアの探索者とベスタの竜騎士が上がっていた。
うむ。実に順調。
満足感を覚えつつ、迷宮を後にした。
午後からも同じように待機部屋を探して迷宮内を進んでいく。
通路でエンカウントした魔物はガンマ線バーストの、発見した魔物部屋はトリプルスペル・改の餌食だ。
まったく苦戦することなく蹴散らしていると、待ち望んだ場所にたどり着いた。
マジかぁ……。
本当にこっち側に待機部屋があったぞ……。
俺だけではなく、ロクサーヌ、セリー、ミリアも呆然とした様子でフロアを見回している。
しかし、ベスタだけは自分のしたことに実感がないようで、それよりボス戦に対する緊張の方が大きいっぽい。
それに気づいた先輩三名も表情を改めた。
……そうだな。いまはボス戦に集中しないと。
「では、ボスに挑むとしよう」
そう告げると、ロクサーヌが頷きを返す。
「はい。少し早いですが、もうそろそろ夕方になります。今日の締めにちょうどいいでしょう」
四十八階層のボスが、ちょうどいいって……。
この娘の中では完全に通過点でしかないんだなぁ。
呆れ半分、感心半分といった心境でボス戦の準備に取り掛かる。
ジョブを変更する前にレベルを確認したところ、魔道士が53に、剣士が46になっていた。
剣士の上がりっぷりがエグイわ。
それにミリアの暗殺者が19、ベスタの竜騎士も17に到達している。
階層が上がったことによる獲得経験値の増加。
加えてガンマ線バーストを用いることでエフェクト時間の減少と、ワンパン可能なため戦闘時間そのものが短縮されている。
それらが合わさり、とんでもない効率を叩き出しているのだろう。
どこまで続くか分からないが、完全にボーナスステージ状態だ。
ジョブとボーナスポイント、それから遊び人のスキルをバッシュに変更し、さらに装備品をボス戦用へと変更したところでブリーフィングに入る。
「この階層のボスについて教えてくれ」
セリーに尋ねると、一つ頷き説明を開始した。
「かしこまりました。マダムバタフライのボスはレディバタフライ。自由自在に飛び回り、羽を振り回す物理攻撃を行います。これを食らえば高確率で麻痺してしまうので注意してください。また天井付近から単体、全体問わず風魔法攻撃を放ってきますので、これの対処はロクサーヌさんとミリアでお願いします」
話を向けられた二人の方をうかがうと、その顔には自信に満ちた笑みが浮かべている。
「ええ。詠唱を潰すように動くことにしましょう」
「はい! 私とお姉ちゃんに任せてください!」
普通のパーティーなら詠唱中断をぶち込む術がないんだろうが、彼女たちは天翔けるヴァルキリー。
レディバタフライなど何するものぞ、だ。
「スキル攻撃は誘惑。これを受けた者は敵と味方の区別がつかなくなり、仲間を攻撃してしまいます。正気を取り戻させるためには、警策による一撃が必要になるので、あらかじめ準備しておいた方がいいでしょう」
うそっ!? 混乱攻撃なんてあんの!?
「それは状態異常攻撃なのか!?」
思わず大声で問いかけたところ、セリーはかぶりを振って答える。
「昔の偉い学者さんが調べたところ、これを付与、もしくは防ぐスキル結晶はないようです。またハーブのスキル結晶による状態異常防御のスキルでも防ぐことはできないため、状態異常攻撃ではないと言われています」
……これはヤバいぞ。
もし俺が混乱してしまえば不味いことになる。
オーバードライビング状態でデュランダルを仲間に振るってしまうかもしれない。
そうなれば一巻の終わりだ。大切な人を手にかけてしまう……。
ガチで過去一危険な相手だ……。
あまりのことに動揺していたところ、フロアに凛とした声が響いた。
「問題ありません。ご主人様が誘惑を受けたとしても、私がすぐに正気を取り戻してみせます。ご安心ください」
顔を上げると自信に満ちた最愛の人の顔が目に入る。
その表情を見た瞬間、胸を締めつけていた不安が噓のように消えていく。
……そうだな。我がパーティーには世界最強の女性がいるのだ。
たとえ俺が仲間を攻撃しようとしたとしても、ロクサーヌなら絶対にそれを止めてくれる。そう信じることができる。
「ああ。そのときはよろしく頼む」
「はい! 私にお任せ下さい!」
本当に君は俺の女神だ。
ブリーフィングを一旦中断し、忘れないうちに警策を配っておく。
これを持たずにスキル攻撃を受ければ、とんでもないことになるからな。
感触を確かめるため、みんなで警策を振っていたところ、セリーとベスタがとんでもない風切り音を響かせている。
バレルゾーンを正確に捉えれば、メジャーでも年間三十本は軽く放り込みそうなスイングスピードだ。
……君たち? それはいったい、誰に振るう想定のスイングなんだい?
警策による攻撃ではダメージが入らないことを理解していても、こんなもんを見せられたら不安になるぞ……。
確認が終わり、それぞれのリュックに警策をしまったところで、ブリーフィングの続きに戻る。
ボス戦ではあまり関係ないが、レディバタフライの弱点は風で、耐性が火とのこと。
そして、通常ドロップがチークでレアドロップが口紅。
四人に使うか確認したところ、マダムバタフライのドロップと同じく、売却して資金にしてほしいと言われてしまった。
まあ、すっぴんでこれだけ美しいのだ。この娘たちには必要ないのだろう。
ブリーフィングが終了し、彼女たちの顔を見回すと、決意の炎が灯る四対の瞳に見つめ返された。
それぞれ違った魅力にあふれたその炎は、俺の心にも燃え移る。
よっしゃ。いっちょやったろうじゃないか。
ボス戦におけるセオリーを踏襲しつつ戦闘を開始すると、フロア中央から現れたのは、四匹の蝶の群れ。
羽にバシバシまつ毛の目が描かれているマダムバタフライに対し、レディバタフライは女性の顔そのものが描かれていた。
まるで貴婦人のような綺麗に巻かれた金髪に、垂れ眼がちで柔和な瞳。
血色の良い頬に挟まれた、上品で美しい色の唇が花を添えている。
一見、絵画のように見えるそれだが、その瞳はギョロギョロと動き、こちらの動きをうかがっているのが分かった。
怖いって! 蝶の羽に女性が描かれてるのも怖いけど、その目が動くなんて完全にホラーじゃん!
弱気の虫が顔を出しそうになるものの、意気軒昂で戦闘を開始した彼女たちを見て、貫通のオリハルコン剣のグリップをギュッと握りしめる。
俺もいったらー!
……などと気合を入れたのだが、魔法もスキルも一切許すことなく、あっさり撃破してしまった。
全員が詠唱中断の付いた武器を持っている上に、二発のバッシュとスラッシュによるトリプルアタックが凶悪すぎる。
ほんと、我ながらえげつない必殺技を開発したもんだ。
マダムバタフライが残したのは二匹とも通常ドロップのアイシャドウ。
一方、レディバタフライはというと、チークと口紅どちらも残っている。
例によって薄い膜のようなものに入っており、これを破いて化粧用のブラシで塗るらしい。
もう一度、彼女たちに使ってもいいと告げたが、再度固辞され売却して資金にするよう言われてしまった。
無理やり押し付けるようなことでもないため、その意見を受け入れる。
まあ化粧なんかしなくても、世界で五本の指に入る女性たちだからな。
帰り支度を整えながら、この後のことを考える。
今日はドロップアイテムの売却を行う際に、黄魔結晶も合わせて売却しなければならない。
黄魔結晶は魔物を十万匹以上倒してはじめて手に入る貴重な品だ。
しかし、そんな貴重な品を俺は春の間に二度も売却している。
一度目はベイルの探索者ギルド。二度目はクーラタルの冒険者ギルド。
この辺りに黒目黒髪の人間族はいないし、何よりアジア人的な彫りの浅い顔の人に出会ったためしがないので、覚えられている可能性が拭えない。
売却するなら、別のギルドにしておくのが無難だろう。
そうだな。ベイルの冒険者ギルドあたりにしておくか。
結論が出たところで思索を打ち切り、次の階層へと続く扉を潜る。
田川 歩 男 18歳
冒険者Lv53 勇者Lv47 遊び人Lv57 魔道士Lv53 剣士Lv46
装備 頑強のアルバ 身代わりの竜革グローブ オラクルビットローファー よりしろのイアリング
BP振分 残BP:0
キャラクター再設定:1
フィフスジョブ:15
必要経験値二十分の一:63
詠唱省略:3
鑑定:1
パーティージョブ設定:3
パーティー項目解除:1
ワープ:1
買取価格三十パーセント上昇:63
所持金:2,322,786ナール
夏の1日目