異世界迷宮へ行ったなら   作:三星織苑

257 / 300
255 口座振込

 

 

 

 

 

クーラタル郊外

アユムの家

 

 

 

 

 

 今日も体調が万全に整えられた状態で目が覚めた。

 それに加え、体に触れる滑らかでひんやりとした感触がたまらない。

 春の終わりくらいから少しずつ暑さを感じていたのだが、スリープウール製のマットレスと、天然の最高級抱き枕ベスタのおかげで、最高の目覚めとなっている。

 もう絶対に普通の寝具には戻れないだろう。

 

 そんなことを考えながら朝の支度を始めることにした。

 

 

 

 身だしなみを整え、大切な朝のルーティーンを行って、リビングで今日の予定について話し合う。

 

 早朝の探索を終えて朝食をとったら、まずは武器屋と防具屋を巡る。

 それが済んだら帝都の服屋で、ベスタの服や下着を購入しないとな。

 

 そう告げた途端、ミリアがその特徴的な虹彩をキラキラ輝かせ、勢い込んで声を上げた。

 

「今日は注文していたドレスの受取日ですからね! ご主人様! 私のドレス姿を楽しみにしててください!」

 

 はしゃいでいる様子が実に愛らしい。

 

「もちろん。可愛いミリアが綺麗なドレスを身に纏う姿を楽しみにしてるよ」

「えー。可愛いですかー? えへへ。そんなことを言われたら照れちゃいますねー」

 

 恥ずかしそうに身体と尻尾をクネクネ動かしているのが、あざと可愛くて実にいい。

 他の三人も彼女のことを微笑ましげに見守っていた。

 

 ベスタの服や下着についてはサイズがないかもしれないので、その場合は注文してもらうってことで。

 その間に、俺はルークを尋ねてスキル結晶の受け取りを済ませよう。

 他にも帝都の高級服屋でエプロンとドレス。それからアランの商館を訪ねてメイド服の依頼をするのを忘れないようにしないと。

 後はボーデのコハク商で、ベスタ用のネックレスを購入するのも忘れずに、だな。

 

 午前中は買い物だけで潰れるはずなので、迷宮探索の再開は午後からだ。

 早朝と午後だけでは待機部屋にたどり着かないだろうが、迷宮討伐まであと二階層。気合を入れて臨もう。

 

 ついでに四十九階層から出現する魔物について確認したところ、オイスターシェルとのことだった。

 牡蠣目当てに何度も狩っている相手なため、何の感慨も湧かない。今回も大量の牡蠣をゲットしてくれるわ。

 ボレーが残ったらベスタに使ってもらうということで。

 

 その旨を伝えると、彼女ははにかんだような笑みを浮かべて頷きを返す。

 

「はい。ありがとうございます」

 

 あー。可愛いんじゃー。

 

 

 

 ミーティングが終わったところで、五日に一度のお楽しみ、給与支給だ。

 厳かな口調でそれを告げる。

 

「ロクサーヌ、セリー、ミリア。今回も素晴らしい働きだった。その働きに報いるため、またベスタが加わったことも加味して昇給を決定した。ロクサーヌが二千八百ナール、セリーが二千七百ナール、ミリアが二千六百ナールだ。そしてベスタの給与額は二千五百ナールとする」

 

 それを告げた瞬間、リビングに驚きの声が響き渡った。

 そして先輩三人は笑みを浮かべ、口々に感謝の言葉を述べる。

 うん。喜んでもらえてよかった。昇給を行った甲斐があるというものだ。

 

 だが、ベスタは戸惑いの色を隠せない。

 

「あの、給与というのはもしかして、お給金がいただけるということなのですか?」

「そうだよ! ベスタは五日ごとに二千五百ナール! よかったね!」

 

 ミリアが問いに答えると、彼女の顔が驚きで染まった。

 

「えー!? 五日ごとに二千五百ですか!? そんな額のお給金をいただく奴隷なんて聞いたことがありません!?」

 

 我がパーティーはホワイトを標榜しておりますので。

 

 

 

 ベスタが落ち着きを取り戻したところで、給与を支給しようとしたのだが、先輩三人は現金支給ではなく、昨日作成した口座への振込を希望する。

 ベスタについても銀貨五枚のみを現金で受け取り、残りは口座に入れたいらしい。

 

 このファンタジー的な世界で、給与支給が現金手渡しではなく口座振込……。

 確か日本だと三億円事件を機に、現金支給から口座振込に移行していったんだよな?

 めちゃくちゃ未来に生きてんなぁ。

 

 通帳と元帳に記入が終わると、四人はその数字を嬉しそうに眺めている。

 気持ちはよく分かるぞ。お金が貯まっていくのが数字として確認できるのは嬉しいもんだ。

 現金を眺めて悦に入るのとは別の快感が味わえるため、きっと貯蓄の楽しさを覚えたことだろう。

 

 自室に戻り、鍵のかかるチェストに分けておいてある、彼女たちの預金用の巾着袋へしまっておいた。

 なにがあってもこの金に手を付けるわけにはいかないからな。こうやって別々に管理した方がいいだろう。

 いざ下ろしたいとなったときに、俺の手元に現金がなくて支払い不能なんて洒落にならない。

 我が田川銀行は信用第一。お客様の大切な資産を全力で守り抜くぞ。

 

 さて。それじゃあ、今日も迷宮に出勤するとしますかね。

 

 

 

 

 

ハルバーの迷宮

四十九階層

 

 

 

 

 

 ハルバーの迷宮四十九階層に到着すると、何とはなしにベスタへ視線を向けてしまう。

 俺だけではなく他の三人も同様だ。

 

 しかし、彼女は意味が分からないようで、キョトンとこちらを見つめ返す。

 

「ベスタ、どこに進むべきだと思う?」

 

 問いかけたところ、首をかしげながら答えた。

 

「どこに、ですか? えっと、申し訳ありません。私には分かりません」

 

 どうやら、毎回毎回進む方角が分かるわけではないらしい。

 それに自分がラッキーガールだという自覚にも乏しいようだ。

 まあ、そりゃそうだよな。奴隷の身の上で、自分は運がいいなんて思うはずがない。

 

 んじゃ、安心と信頼の右手法でいきますか。

 

「では、右の通路を進んでいこう。ロクサーヌ、いつものように頼む」

「かしこまりました」

 

 尻尾を振りながらウキウキした様子で歩き出したロクサーヌの後に続き、迷宮探索を開始する。

 

 

 

 魔物の群れに遭遇し、昨日と同様ガンマ線バーストをぶっ放したものの、魔物が倒れることはなかった。

 慌ててサンダーストームを使用したところ、エフェクトが消えると同時に魔物の体も空気に溶けていく。

 

 ワンパンは無理だったかぁ。

 まあしょうがない。それでもサンダーストームを一発追加するだけで済んでいる。

 殲滅速度は少しだけ落ちるが、十分許容範囲内だ。

 

 ドロップアイテムを回収し、再び通路を歩き出す。

 

 

 

 昨日に引き続き、この階層でもあちらこちらに魔物部屋が存在していた。

 幸いなことにメテオクラッシュとサンダーストーム二発で片付くため、安全に処理が可能だ。

 それもこれもドラウプニルの魔法攻撃力五倍の賜物である。

 おまけにレアドロップ率二倍によって、大量の牡蠣をもたらしてくださった。

 さすがボーナス装備品様。ありがたやー、ありがたやー。

 

 

 

「ご主人様、そろそろパン屋が開く時間です」

 

 やがて、ロクサーヌからいつもの言葉が聞こえてきたので、帰り支度を整えながらレベルの確認を行うと、遊び人が58、剣士が47に上がっている。

 

 よっしゃ。剣士ももちろんだが、遊び人のレベルが上がったのもデカい。

 62になれば総ボーナスポイントが160に到達し、シックススジョブを使えるようになるからな。

 そしたらレベル上げにブーストがかかるだろう。『ブーストポッド作動、エンジン臨界点へカウントスタート』ってやつだ。

 俺以外にもミリアの探索者が20、ベスタの竜騎士も18になっている。

 うん、うん。いいじゃない、いいじゃない。

 

 

 

 

 

クーラタル郊外

アユムの家

 

 

 

 

 

 食材を購入し自宅へ戻る。

 今回の食事当番はロクサーヌ、セリー、ベスタ。

 ベスタはちゃんとした料理が作れないということだったので、今後しばらくは常に食事当番に入ってもらうことにした。

 真面目だし、覚えもいい娘なので、すぐに優秀なコックとなってくれるに違いない。

 

 一方、俺は家の掃除を、ミリアはたらいに貯めたお湯で洗濯だ。

 さて、お家を綺麗にしますかね。

 

 

 

「ご主人様、朝食の用意ができました」

 

 トイレの掃除を済ませ、風呂場をピカピカに磨き上げていたところ、ロクサーヌが呼びに来た。

 

「ありがとう。じゃあ、行こうか」

 

 立ち上がり、手足を洗っていると、彼女は笑顔で口を開く。

 

「ふふ。ベスタは一生懸命料理に取り組んでいました。お口に合いましたら褒めてあげてください」

 

 へー。頑張ってくれたんだな。

 我が家に馴染もうとしてくれているのが、本当に嬉しい。

 それに、ロクサーヌも良いお姉さんをしている。不和の種もないようだし、アユム一安心。

 

「それじゃあ、楽しみにしようかな」

「はい。期待していてください」

 

 俺の言葉に対し、微笑みながら答える。

 あら、可愛い。

 

 

 

 ダイニングに移動すると、既にミリアも戻っており、セリー、ベスタと共に料理をテーブルに並べていた。

 準備が整ったところで各々席に着く。今回は右隣がベスタで、左隣がミリア。正面にはロクサーヌとセリーという席次だ。

 いつものようにスープを取り分け、食事の挨拶を行うと、右隣から視線がバシバシ突き刺さる。

 どうやら自分の作った料理に対し、俺がどんなリアクションをとるのか気になっているらしい。

 

 ……この包丁にまだ慣れていないのが一目で分かる、具材の形が不ぞろいな肉野菜炒め。おそらく、こいつがそうなのだろう。

 

 目の前に盛り付けられている皿から肉と野菜へフォークを突き刺し、口へ運ぶ。

 

 おっ。美味い。食材の美味さもあるのだろうが、油の量は適切だし、魚醬の塩梅も悪くない。

 

「うん。とっても美味しいよ」

「わ。本当ですか?」

 

 感想を漏らすと、ベスタの顔に童女のようなあどけない笑みが浮かんだ。

 

「これはベスタが作ったの?」

 

 分かりきったことをあえて尋ねたところ、彼女は大きく頷きを返す。

 

「はい。私が作りました」

「ちゃんとした料理をするのが初めてで、これだけ美味しいのはすごいよ。ベスタは料理上手なのかもしれないね」

「そんな、私はただ、ロクサーヌさんとセリーさんに教えてもらった通りに作っただけなので、料理上手だなんて、そんなことは……」

 

 俺の言葉を聞くと頬を朱に染め、恥ずかしそうに答える。

 めちゃくちゃ可愛い娘だなぁ。

 

 他の三人も照れているベスタに見込みがあるとか、とっても美味しいとか、声を掛けていた。

 田川家は今日も平和である。幸せだなぁ。

 

 

 

 美味しい朝食をいただき、歯磨きと洗い物を済ませてリビングへ移動する。

 今回、同じソファーに座るのはベスタだ。

 嫌がられはしないかと少し心配だったが、彼女はソファーに腰を下ろすと、慈母のような笑みを浮かべて俺を脚の間に招き入れ、その大きな体で抱きしめた。

 

 あぁ……。ベスタの温もりに包まれてる……。すごい安心感……。こんなの初めて……。

 

 身も心も彼女に委ね、母に抱かれる子供のように微睡に沈んでいく。

 

 

 

 食休みを堪能した後はクーラタル、ベイル、帝都の武器屋と防具屋を巡り、掘り出し物を探したのだが、当たり前のように六個の空振りでツーアウトを献上だ。

 例によってセリーが作った装備品の売却だけを済ませる。

 

 ベイルではアランの商館に立ち寄ってメイド服の注文をしておいた。

 大変ありがたいことに約束通りロハである。いずれ何かお礼をする必要があるだろう。

 ……まあ、それなら三割アップや三割引を使うなという話なのだが。

 

 

 

 

 

帝都

服屋

 

 

 

 

 

 帝都では先に大衆向けの服屋に立ち寄り、ベスタの衣類を購入する。

 服や靴下については何とかなったものの、下着については彼女にジャストフィットするものの取り扱いがないようだ。

 

 下着の注文で何度も世話になっている店員は困り顔で説明を行う。

 

「さすがにお客様のようなサイズを常時取り扱うことは不可能です。お求めになるのでしたら、今後もオーダーになるかと存じます」

 

 ガチで規格外だもんなぁ。

 こんなサイズはテレビや雑誌でだって見たことないもん。

 彼女の胸には夢や希望が詰まっているに違いない。

 

 他の娘たちとは事情が異なり、簡単に買い足すことが不可能なため、一気に十セット注文しておいた。

 ベスタは恐縮していたものの、ロクサーヌたちは『是非そうするべきだ』と賛同をしめす。

 実用性を考えると、贔屓だなんだという場面じゃないのだろう。

 

 注文と採寸が終わり支払いを行おうとしたところで、先輩三人が一言断り、ベスタを連れてカウンターから離れていった。

 

 あー、なるほど。ベスタの分はまだなかったし、そういうことね。

 

 

 

 支払額はなんと三万二千ナール超え。

 他の娘たちが購入したものと明らかに価格が異なっている。

 やはり体が大きい分、割高になってしまうのだろう。

 でもまあ、複数のインナーとアウター、靴下に加え、下着を十セット注文しているのだ。そう考えるとそこまで高くないと思わなくもない。

 まあ、俺の金銭感覚はとっくにぶっ壊れているため、あまりあてにならないのだが。

 

 支払いを済ませて待っていると、華やかな声が戻ってくる。

 彼女たちの顔には笑みが浮かび、似合っていたとか、絶対に気に入ってもらえるという言葉が聞こえた。

 そしてロクサーヌ、セリー、ミリアがお金を出し合い支払いを終え、それをベスタに差し出す。

 彼女は恭しく受け取り、大きく頭を下げた。

 

「ありがとうございます。とても嬉しいです」

 

 三人は優しい笑みを浮かべながらその様子を見つめている。

 

 いい光景だわぁ。今日も『いせはれ!』は絶賛オンエアーですな。

 

 

 

 

 

帝都

 

 

 

 

 

 帝都の高級服屋に移動している間、ミリアのテンションはマックス状態。

 上気した顔に弾むような足取り、尻尾はピンと立っており先端がずっとクネクネ揺れていた。

 ベスタを従え意気揚々と俺たちの前を歩きながら、どのようなドレスなのかを一生懸命説明している。

 

「とてもすごそうです。きっとお姉ちゃんに似合うのでしょうね」

 

 頷きながら聞いていたベスタが相槌を打つと、彼女は輝くような笑みで言葉を続けた。

 

「今日はベスタのドレスも注文するからね。私たちもアドバイスをするし、良い物にしよう!」

「私だけのドレス……。そんなすごいものをいただけるなんて、今でも信じられません……」

 

 思わずといった様子で漏れた呟きに対し、ミリアが答える。

 

「そうだよねー。ご主人様に購入してもらえて、私たちはとっても幸運だよ」

「はい。本当にその通りだと思います」

 

 満足感と少しの気恥ずかしさを覚えながらその言葉を聞いていると、ロクサーヌとセリーがからかうような笑みを浮かべてこちらを見つめていた。

 まったく。いつの間にそんな小悪魔になったのよ。

 

 ……いや、出会った直後から割とこんな感じだった気もするな。

 

 そんなことを考えながら、帝都の石畳を歩いていく。

 

 

 

 

 

田川 歩 男 18歳

冒険者Lv53 勇者Lv47 遊び人Lv58 魔道士Lv53 剣士Lv47

装備 オラクルビットローファー 身代わりのミサンガ

 

ロクサーヌ ♀ 16歳

巫女Lv32

装備 貫通のミセリコルデ セブンリーグブーツ 身代わりのミサンガ

 

セリー ♀ 16歳

鍛冶師Lv31

装備 駿馬の竜革靴 身代わりのミサンガ

 

ミリア ♀ 15歳

探索者Lv20

装備 強権のエストック 駿馬の竜革靴 身代わりのミサンガ

 

ベスタ ♀ 15歳

竜騎士Lv18

装備 強権のレイピア ダマスカス鋼の剣 皮の靴 身代わりのミサンガ

 

BP振分 残BP:0

キャラクター再設定:1

フィフスジョブ:15

必要経験値二十分の一:63

詠唱省略:3

鑑定:1

パーティージョブ設定:3

パーティー項目解除:1

ワープ:1

三十パーセント値引:63

 

所持金:2,486,680ナール

 

夏の2日目

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