喜びを分かち合ったところで、ボス戦の準備に取り掛かる。
スターティングラインナップは冒険者、勇者、武者、剣豪、剣士。
バッシュとスマッシュ、さらにスラッシュを組み合わせたトリプルアタックを放つことが可能な布陣。
剣豪のジョブは武者と並び、対ボス用決戦兵器。このスマッシュというスキルに期待させてもらおう。
次にミリアのジョブを暗殺者に変更してから、ボーナスポイントの振り分けに取り掛かる。
キャラクター再設定とフィフスジョブ、必要経験値二十分の一は動かせない。
もちろんトリプルアタックを使うためには詠唱省略もマストとなる。
さらにドラウプニルも装備する必要があるだろう。
結晶化促進を四倍に落としてっと。残りは4ポイント……。
よし。1ポイントは鑑定に、3ポイントはクリティカル率十パーセント上昇に振っておくか。
ポイントの振り分けと装備の変更を済ませて彼女たちに視線を移すと、ロクサーヌ、セリー、ミリアは各々の装備品を確認しながら、瞳に怪しい輝きを宿している。
一方、ベスタはやる気に満ちあふれているものの、剣呑な様子は見られない。
この娘にはこのままでいてもらいたいところだなぁ。
まあ、他の三人は他の三人でめちゃくちゃ魅力的なんだけどね。
あらためて彼女たちに心を鷲掴みにされながら、ブリーフィングに移る。
「セリー。この階層のボスについて教えてくれ」
「かしこまりました」
彼女は一つ頷くと、いつものように講義を行う。
「以前お話ししたことがあったかと思いますが、オイスターシェルのボスはスカラップシェル。扇状をした巨大な二枚貝です」
まんまホタテの形をしたでっかい貝なんだろうなぁ。
そんなことを考えている間もセリーの説明は続く。
「通常攻撃はクラムシェルやオイスターシェルとまったく同じで、その硬い殻による体当たりと挟み込み、それから水を吐き出す遠距離攻撃です。ただし、体当たりや挟み込みを食らった際は麻痺や毒ではなく、石化するので注意してください」
毒や麻痺も嫌だけど石化かぁ。
散々食らってきた中ではこいつがダントツで質が悪い。
自分の体が固まっていく感覚は頭がおかしくなりそうなほどだ。
それがボス戦ともなれば、何をかいわんや。絶対に食らわないようにしないと。
ビビっている俺とは違い、四人に怖気づいた様子は見えない。
というか、ロクサーヌとミリアはうっすら笑みを浮かべている。
度胸据わってんなぁ。
「スキル攻撃はまるで矢のような速さで飛んでくる突進。通常攻撃の体当たりとは比較にならない速度と威力で、食らってしまえば大ダメージは必至だそうです」
それってあれか? ホタテガイのジェット推進?
水中じゃないのにそんなこと可能なのか?
何を推進剤にしてるんだろう?
……竜や鯉が空を飛ぶ世界だし今更だったわ。
「弱点は土属性で、火と水に耐性を持っています。そして残すアイテムは通常ドロップがスカラップエキス。以前お伝えした、服用すると一度だけ火魔法の攻撃を防ぐアイテムですね」
確かこのスカラップエキスが火属性、グラディウスオイルが水属性、バットブラッドが風属性、コーラルパウダーが土属性の魔法を防いでくれるんだったか。
かなり役に立ちそうだし、いずれはこれらをアイテムボックスに用意しておき、常に全属性魔法バリア状態で過ごすことにしよう。
んで、魔法を食らったら張りなおすと。
それを伝えたところ、セリーの顔に残念そうな表情が浮かんだ。
「残念ながらすべての効果を同時に得ることはできません。例えばスカラップエキスを服用している状態で、グラディウスオイルを服用した場合、火魔法を防ぐ効果はなくなってしまいます。昔の偉い学者さんが調べたので間違いありません」
えー? 重ね掛けは無理なの?
俺はともかく、他の人は超ハードモードで迷宮探索に挑んでるんだから、それくらい認めてやれよー。
ほんま、鬼運営やで。
内心で運営に対する不満をこぼしていると、セリーが説明を続ける。
「スカラップシェルはレアアイテムを二種類持っています。一つ目は帆立。言わずと知れた高級食材でかなり美味しいそうですが、貴族や富豪でもない限り、まず口にすることはありません」
ふん。そのうち食べ放題ができるくらい狩ってやるわ。問題になるくらい乱獲してやるわ。
「そして、もう一つはスカラップパール。親指ほどの球状の宝石で、これはとても残り難く、スキル結晶よりも確率は低いといわれています。もし手に入れることができれば、白金貨は確実でしょう」
えっぐ……。白金貨て……。
「そんなものがあるのですね。すごいと思います」
セリーの言葉に俺もロクサーヌもミリアも絶句していると、待機部屋にのんびりとした声が響いた。
その瞬間、四人の視線が混じり合い、心が一つになる。
このラッキーガール、スカラップパールを手に入れるなんてことはないよね? さすがにないよね?
そう思いつつも、ワンチャンあるかもという考えが拭えない。
ロクサーヌたちの顔にもそう書かれていた。
いや、まさかね……。
思索を振り払ってブリーフィングを終え、気持ちを声に乗せる。
「ここを突破すれば最上階だ。気合を入れていこう」
それを聞いた四人の顔が輝きを増す。
「はい。ご主人様なら必ずや迷宮討伐を成し遂げるでしょう」
我が最愛の女性が信頼を口にした。
「剣豪のジョブを得てトリプルアタックの威力が増しているのです。何の問題もありません」
「ですねー。いつもと同じようにパパっと片付けちゃいましょー」
セリーとミリアも俺を信じ、何の心配もしていない。
「こんなにすごいご主人様の下で働けるなんて、私は本当に幸せです」
ベスタは嬉しそうに笑みを浮かべている。
……俺の方が気合を入れてもらったな。
彼女たちの信頼は確かに重い。だが、それ以上に胸を熱く焦がした。
よっしゃ! いっちょやったろーじゃないか!
「では、いこう」
フロアに大きな返事がこだまする。
ボス部屋に飛び込み、いつものように作戦を展開していく。
背後に回り込む途中で姿を現したのは、縦に直立している巨大なホタテガイが二匹と、同じく巨大な牡蠣が一匹。そしてその近くで浮遊する蝶。
戦闘を開始した彼女たちを合図に、ボーナスタイムを作り出す。
オーバードライビング
念じた瞬間、時の流れが引き延ばされ、俺だけの時間が開幕だ。
スローモーションで動いているすべてを置き去りにし、まずは上に逃げられると厄介なマダムバタフライを強襲する。
バッシュ
スマッシュ
スラッシュ
三つのスキルが重なり威力を増した剣が通り抜けると、その一撃でマダムバタフライは実体を失った。
オッケー! スマッシュの威力は十分だ! 初お披露目大成功!
その勢いのままオイスターシェルに躍りかかり、一撃で斬り伏せる。
それが済むと今度はセリー、ミリア、ベスタが相手取っている、スカラップシェルへとターゲットを変え一気に距離を詰めた。
息を止め、スキル名を念じながらひたすら剣を振るい続け、オーバードライビングの効果が切れる前にその場を離脱する。
その途端、世界が色を取り戻す。
呼吸を整えながらリキャストタイムが明けるのを待っていると、フロアに雷鳴のような音が轟いた。
思わずそちらに目を遣ったところ、ものすごい勢いでロクサーヌの周りを跳び回る巨大なホタテガイの姿が。
嘘だろ、おい。あの速さで方向転換してるぞ。あり得ないだろ。
呆気にとられたものの、そこは我がパーティーが誇る戦女神のロクサーヌ。
余裕の笑みを浮かべながら、それを難なくいなし続けている。
……そもそも、彼女ならスキル攻撃の発動を潰すなんて造作もない。
つまり、わざと発動させてどれほどのものなのか確認したのだろう。
あの楽しそうな顔。間違いない。
相変わらずとんでもないことを実行する娘さんだなぁ。
驚きはしたがロクサーヌの方は問題なさそうなので、もう一匹の処理を続行だ。
うっしゃー! 第二ラウンドいくぜー!
脳内に響くゴングと共に、オーバードライビングを発動した。
結局、危なげなくスカラップシェルを抑え込み、戦闘を終える。
タンクのベスタが攻撃を食らったものの、たいしたダメージは受けていないし、石化することもなかった。
完封勝利と言ってもいいくらいだ。
それに今回初投入となったスマッシュだが、威力は申し分ない。
おそらくバッシュと同じくらいの攻撃倍率なのだろう。今後も安心して運用できる。
最上階へ進むことに興奮している四人と共にドロップアイテムを拾い集めると、アイシャドーが一個にボレーが一個。そしてスカラップエキスが二個。
うん。まあ、そうだよな。
たとえベスタがラッキーガールだとしても、魔物を倒しているのは俺なんだから、そりゃそうだわ。
少しだけガッカリしながら、次の階層への準備を始める。
ジョブの変更の際に確認をすると、武者のレベルが7に。剣豪のレベルが5に上がっていた。
武者はともかく、剣豪は一匹で1ずつ上がった計算だ。
四十九階層のボスともなると、経験値もかなりの量になるのだろう。
そして次の階層からは、いずれ上げなければいけないと思いつつ、戦力強化を優先してきたせいでずっと後回しにしてきたこいつの出番となる。
日々、万能丸の生成でお世話になっているニクイ奴。
そう。薬草採取士大先生だ。
先生。今後ともよろしくおたの申しやす。
どうれ。田川の世話でもしてやろうかのう。
さすが先生。頼りにしてますぜ。
アホな脳内妄想を繰り広げながら、俺とミリアのジョブ変更を済ませ、装備品を持ち替える。
五十階層から出現するのはボトルマーメイドだという話は以前に聞いていたため、ブリーフィングは軽いおさらいで済ませた。
四人の表情は最上階への期待で輝いており、テンションも最高潮。
そんなことを言うつもりはないが、今日はここで帰ると言おうものならブーイングの嵐となるだろう。
一人一人視線を合わせ、頷きを交わした後に告げた。
「では、最上階へ挑むとしよう」
その直後、それぞれ特徴の異なる美しい声がピタリと重なり、フロアへ響いた。
五十階層でもベスタセンサーに反応はなかったため、右手法で進んでいく。
すると、間を置くことなく魔物と鉢合わせた。
ボトルマーメイドが五匹にオイスターシェルが一匹。
四人が戦闘を開始すると同時に、ガンマ線バーストとサンダーストームのダブルスペルを叩き込んだものの、魔物が倒れることはない。
思わず舌打ちが出そうになるが、それを堪えて追加のサンダーストームをお見舞いする。
幸いなことにその一発で片が付き、全ての魔物が靄となって空中に溶けていった。
「ふぅ」
戦闘が終了したところで、無意識のうちに口から安堵の息が漏れてしまう。
よっしゃ。ガンマ線バーストとサンダーストーム二発で倒せるなら、トリプルスペルを使えばワンターンキルが可能ということになる。
戦闘時間が短いということは、それだけ敵の攻撃を受ける機会が少ないということだ。
つまり身の安全に直結する。本当によかった。
考えを巡らせていると、弾んだ声が耳に届く。
「さすがご主人様! 五十階層の魔物をものともしませんでした!」
ロクサーヌは尻尾をブンブン振りながら、テンションマックスといった様子だ。
はいはい。さすごしゅ、ありがとさん。
「最上階の魔物すら……。本当にご主人様と共にいると一般的な感覚を失ってしまいそうです……」
一方、セリーは懊悩しているような表情を浮かべている。
おぜうさん 何を今更 そんなこと
アユ蔵 心の俳句
というか、君らも人のことを言えないくらい、大概だぞ?
「本当にご主人様の魔法はすごいですねー。この調子でボスも倒しちゃいましょー」
花丸笑顔でミリアがそう言うと、ベスタも微笑みながら頷いた。
「はい。ご主人様ならきっとボスも簡単に倒してしまうと思います」
まあ、対ボスについては自信があるぞ。
剣豪を得たことにより、遊び人のスキルをバッシュかスラッシュに変えれば、中級ジョブの攻撃スキルを三つ重ねることが可能となっている。
きっと最上階のボス戦で、真・トリプルアタックのお披露目となるだろう。
改めて迷宮討伐を成し遂げるべく、褌を締めなおして探索を再開だ。
その後はひたすら通路を進み、魔物部屋を潰して回る。
しかし、とうぜんのことながら待機部屋にたどり着くことはなく、その日の探索を終えることになった。
女性陣は残念そうにしているが、まあ当然の結果である。
帰り支度をしながらレベルを確認すると、魔道士が54。セリーの鍛冶師が32で、ミリアの探索者が23になっていた。
喜ばしいことではあるが、それはいったん置いておく。
度肝を抜かれたのは先ほど付け替えたばかりの薬草採取士。
それのレベルは、なんと驚異の27。
きっと魔物の経験値が多くなっているのと、階層が上がることで何らかの補正が働いているのだろう。
だが、それにしても短時間で27はすごすぎだ。
ワンチャン、生薬生成で緑豆が作れるようになっていないだろうか?
家に帰ったら試してみよう。
帰り支度が整ったところで、迷宮を後にする。
田川 歩 男 18歳
冒険者Lv54 勇者Lv49 遊び人Lv58 魔道士Lv54 薬草採取士Lv27
装備 頑強のアルバ 身代わりの竜革グローブ オラクルビットローファー よりしろのイアリング
BP振分 残BP:4
キャラクター再設定:1
フィフスジョブ:15
必要経験値二十分の一:63
詠唱省略:3
鑑定:1
ジョブ設定:1
ワープ:1
買取価格三十パーセント上昇:63
所持金:2,030,033ナール
夏の3日目