食休みが済むとクーラタルの冒険者ギルドへ戻り、再び討伐候補となる迷宮の選定を行う。
五十階層以降でアニマルトラップが出現する迷宮は既に見つけているため、純粋に討伐候補としての迷宮に絞って検索だ。
「ご主人様、そろそろお昼になります」
時間を忘れて没頭していたところ、ロクサーヌからタイムアップを告げられる。
顔を上げると三人の自信に満ちあふれた表情が目に飛び込んできた。
どうやら手ごたえは十分らしい。
こちらもいくつかの候補を見つけたし、首尾は上々といったところか。
「では昼食の買出しをしながら家に戻ろう」
帰り支度を整え、椅子から立ち上がる。
食材の買出しを終えて自宅へ戻り三人に昼食の支度をお願いして、そのままセリーを迎えに帝国解放会のロッジへと飛ぶ。
すると、フィールドウォークの発着場に佇む、小さくて愛らしい女性の姿が目に映った。
周りを見てもセバスチャンや他の職員の姿は見えない。
まあ、常にここにいるわけにもいかないのだろう。
「待たせたか?」
その美少女に声を掛けると、こちらを見上げ可憐な笑みを浮かべながらかぶりを振った。
「大丈夫です。あらかじめ迎えにいらっしゃる時間を聞いていたので、それほど待つことはありませんでした」
……こうして改めて見ると、背は低いのに手足が長くてスタイルがいいし、顔自体は大人びていて美人系。本当に綺麗な女性だよなぁ。
そんなことを考えていたところ、その美人さんの口元が歪む。
「いろいろ収穫もありましたので、後ほどお伝えいたします」
セリーお得意のニヤリ顔だ。
どうやら、彼女の方も得るものが多かったらしい。
食後の報告会を楽しみにしていよう。
「では戻るか」
「はい」
念のためフィールドウォークの詠唱を行い、ゲートを開く。
食事が終わり、あと片づけを済ませてリビングへ移動する。
今回は今後の方針を決める大事な会議となるため、こちらのソファーに座る者はいなかった。
イチャイチャパラダイスがお預けなのは残念だが、まあしょうがない。
正面のソファーに座っているロクサーヌとセリーはもちろん、左側のソファーに腰を下ろしているミリアとベスタの顔も、期待で輝きを放っているかのように見える。
うむ。モチベーションはバッチリのようだ。
「それでは話し合いを始めようか。まずはセリーの調べた情報について教えてもらえる?」
彼女を見つめながら尋ねると、他の三人の視線もそこへ向かう。
「かしこまりました」
セリーは一つ頷くと話し始めた。
「それでは今回調べたことについてご報告いたします。まずは一つ目」
右手の人差し指をピンと立て、言葉を続ける。
「最上位種の素材から作られている、高性能な装備品のレシピを確認いたしました。帝国解放会で把握している分についてはすべて書き写してきましたので、私が隻眼になった暁には、それらの素材を用いて装備品を製造することが可能となります」
セリーの表情は自信で満ちあふれていた。
おお! すげー!
そんな装備品を手に入れようと思えば、普通はオークションとなるが、いつどこでどんな装備品が出品されるかはまったく不明。
狙って手に入れられる類のものではない。
それが、自前で作り出せるとなるのはマジでデカい。
ロクサーヌは女神のような微笑で、傍らに座るセリーに声を掛ける。
「そう遠くないうちに隻眼へ至るでしょうし、私たちの装備品がセリーの手によるものに置き換わる日も近いですね」
「セリーさん、私の装備品もお願いしますねー」
「自分たちの装備品を自分たちで作り出すなんて、本当にすごいと思います」
ロクサーヌに続き、ミリアとベスタも言葉を添えていた。
高性能な装備品を作り出すことができ、最上位種のスキル結晶を融合できる隻眼は超貴重な人材だ。
きっととんでもない額の収入を得ていることだろう。
そのような者が危険な迷宮に入るだろうか? そんなわけはない。
おそらく、パーティーに加入だけしてパワーレベリングをしながら、製造や融合を行っていると思われる。
セリーは迷宮で戦いながら鍛冶仕事をこなす、ハイブリッドな隻眼ってことになるのかもしれない。
とはいえ、鍛冶師のレベルは32。まだまだ先の話だし、鬼に笑われちまう。
いまは期待に留めておこう。
「セリー。そのときはお願いね」
「はい! お任せください!」
彼女は俺の言葉を聞くと、満面の笑みを浮かべた。
あら、可愛い。
最上位種のレシピについての確認が済んだので、二つ目について尋ねようとしたところ、ミリアに機先を制される。
「全部の装備品の作り方が分かったんですかー?」
その質問に対し、セリーは首を横に振った。
「あくまでも帝国解放会で把握しているものだけです。もしかしたらレシピを発見しても、その装備品を表に出さず秘匿している者がいるかもしれません」
うーん……。
ゲームみたいなシステムがある世界だが、装備品を製造する際に素材の組み合わせや、必要な個数が表示されることはない。
つまり、レシピの発見には膨大な数の組み合わせを確認していくという、気の遠くなる作業が求められる。
そんな苦労をして発見した成果なのだ。秘匿しようと考える者がいても不思議はない。
銭金や名誉より、自分が苦労してやっと手に入れたものを、他の人が簡単に入手することが嫌な人は絶対にいる。
というか、俺もそのタイプだし。
「確かにそうかもしれません」
ロクサーヌが頷きながら同意を示すと、セリーは言葉を続けた。
「それに、八十九階層以降のボスについては詳細が分からないため、どのような素材を残すのかも不明です。もし手に入れたら一つ一つ試していかなくてはなりません」
そんなことを言いつつも、彼女の表情は好奇心で輝いている。
初代皇帝がそうであったように、八十九階層以降で戦うことが可能なのは、オーバーホエルミングというチートスキルを持つものだけ。
そして、それ以上の能力を与えられている俺と、一騎当千の能力を持つ彼女たちなら、きっとその素材を手に入れることができるだろう。
誰も見たことのない素材で製造に挑む。まさに前人未到の大地を踏みしめるようなものだ。
しかも、それが可能なのはドワーフであるセリーだけ。
好奇心旺盛な彼女にはたまらないシチュエーションに違いない。
ロクサーヌ、ミリア、ベスタもその様子を微笑ましそうに見つめていた。
セリーは俺たちの視線に気が付くと、恥ずかしさを誤魔化すように咳払いを行い、右手の人差し指と中指を立てる。
「二つ目はギルド神殿の設定方法についてです」
ギルド神殿の設定?
頭の中にハテナマークが浮かび、そのまま質問をぶつけようとしたところ、首をかしげながらベスタが先に尋ねた。
「ギルド神殿の設定方法ですか?」
ロクサーヌも眉にしわを寄せながら、訝し気に言葉を漏らす。
「ギルド神殿は領主様が設置しているという話は聞いていますが、どうやって作り出しているのかについては見当もつきません」
「言われてみればそうですよね? 今まで気にしたことがなかったですけど、どうやってたんでしょう?」
ミリアは指鉄砲の形にした右手をあごに添えながら、疑問を口にした。
……どうでもいいが、相変わらずジェスチャーがコミカルな娘やなぁ。
生徒たちのリアクションが気に入ったのだろう。セリー先生は可愛らしい顔にニヤリと笑みを浮かべる。
「錬金術師の上位ジョブである技工士。そのジョブが持つギルド神殿設定のスキルを使用するのだそうです」
技工士にギルド神殿設定というスキル……。原作にはなかった要素だ……。
ただ出てきていないだけなのか、それともこの世界だけの設定なのか……。
いまとなっては確かめる術はない……。
考え込んでいると、彼女は説明を続ける。
「ギルド神殿にそのスキルを使用すると、一度だけ、どのジョブのギルド神殿にするのかを設定ができるのだそうです。探索者を指定すれば探索者用のギルド神殿になり、薬草採取士を指定すれば薬草採取士用のギルド神殿となります」
なるほど。各ギルドに設置されているギルド神殿は、それぞれ機能が違う。
例えば、そのギルドに対応したジョブに変更することができる機能は確定だ。
他にも騎士団に設置されているものなら、インテリジェンスカードの読み取りと賞金首だった場合にお金を吐き出す機能。
商人ギルドに設置されているものには、スキル結晶を読み取って、どの魔物のものなのかを表示する機能があるはず。
もしかしたら、探索者ギルドや冒険者ギルドのものは、アイテムを買取る機能が付いている可能性もなくはない。
思索を巡らせていたところ、ロクサーヌが納得したように口を開く。
「なるほど。そういう仕組みだったのですね」
セリーはその言葉に頷きを返す。
「はい。また、指定できるジョブは本人が持っているものだけとのことです」
えっ!? マジ!?
「ほんとに? それなら冒険者や魔道士になった後に、技工士になった人が何人もいるってこと?」
経験値効率四百倍の俺ならともかく、中級ジョブを二つも取得するなんて、無理ゲーじゃね?
さらに、派生ジョブや種族固有ジョブについては何をかいわんや。
俺の質問を受けたセリーは否定の言葉を口にする。
「そうではありません。ジョブを指定する他に、未指定というのも可能なのだそうです。その場合は使用者が所有しているジョブは関係なく、無作為に選ばれるのだとか」
それに対し、ミリアが疑問を呈した。
「それは漁師なんかもですかー?」
「ええ。種族固有ジョブのギルド神殿も出現するようです。しかも使用する技工士の種族に関係なく、どの種族固有ジョブも出ることがあるのだとか」
へー。なるほどなぁ。
「ただし、ジョブによって出現する頻度に偏りがあり、種族固有ジョブや上位のジョブはとても出にくいのだそうです。ギルド神殿一つにつき、ギルド神殿設定のスキルが使えるのは一度きり。やり直しはできません。過去には騎士団を設置するために、騎士のギルド神殿を狙って五つ試したものの、すべて探索者ギルドになったことがあったそうです」
うわぁ……。最上階のボスを倒してやっと手に入れたチケットでスカを引いたのか……。地獄じゃね?
ドン引きしていると、悪い笑みを浮かべながらセリーが続ける。
「ですが、ご主人様なら種族固有ジョブを除けば、いずれはすべてのジョブを指定することも可能となるでしょう。貴族たちは大金をかけ、貸しを作って融通し合っているようですが、私たちにその心配はありません」
あっ。確かにそうだわ。
現時点でも、えーっと、冒険者、武者、豪商、剣豪、魔道士と、五つの中級ジョブを指定することが可能となっている。
すると、ロクサーヌが表情を輝かせながら声を上げた。
「さすがご主人様! このようなことがおできになるなんてすごいです!」
ロクサーヌさんや。肝心な技工士のジョブを手に入れていないんだから、今はおできにならないのよ。
内心でツッコみを入れていると、セリーが締めに入る。
「設定後には形が球状から箱に変わりますが、装備品に融合することは可能となっていますので、失敗した物は装備品に限定をかけたり、それを解除するのに使われるのだそうです」
へー。無駄になるわけじゃないんだな。
まあそりゃそうか。もしそうなら、出やすいジョブのギルドが乱立していることだろう。
……でも、そういうことだったのか。道理でジョブによって設置されているギルドの数に差があるわけだ。
きっと、基本ジョブや初級ジョブについては、スキル使用者が指定して作り出したものだと思われる。
一方、中級ジョブや派生ジョブ、種族固有ジョブはランダムで出現したものなのだろう。
だからこそ、各町に設置されておらず、帝都やクーラタルといった大きな都市にのみ、ギルドが存在しているわけだ。
ただし、そうなると冒険者ギルドの数がどうにも合わない。
れっきとした中級ジョブなのに、各町に設置されている。
……もしかして、徹底的にパワーレベリングを行い、冒険者ギルドを設定できる人材を育てているのか?
それぞれの町や集落の距離が離れており、それを結ぶ道も安全とはいいがたいこの世界において、冒険者のフィールドウォークは貴重な移動インフラだ。
その冒険者へのジョブ変更が可能となる冒険者ギルドは、何としても確保しておかなければならない。
であれば、幼児期から徹底的にパワーレベリングを行い、そういった人材を計画的に育てる必要があるだろう。
ひょっとしたら、技工士を家業として世襲している家、なんてのもあったりしてな。
あるいは、単純に冒険者のギルド神殿は出現率が高く設定されている可能性もあるか。
まあいずれにせよ、この世界における冒険者の必要性や実際の数を考えるに、そう間違っていない気がする。
すごいすごいとはしゃいでいる彼女たちを見ながら、そんなことを考えていた。
田川 歩 男 18歳
冒険者Lv55 勇者Lv51 遊び人Lv60 魔道士Lv55 薬草採取士Lv45
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ロクサーヌ ♀ 16歳
巫女Lv34
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セリー ♀ 16歳
鍛冶師Lv32
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ミリア ♀ 15歳
探索者Lv26
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ベスタ ♀ 15歳
竜騎士Lv24
装備 サンダル 身代わりのミサンガ
BP振分 残BP:5
キャラクター再設定:1
フィフスジョブ:15
必要経験値二十分の一:63
詠唱省略:3
鑑定:1
ジョブ設定:1
ワープ:1
三十パーセント値引:63
所持金:2,176,928ナール
夏の6日目