異世界迷宮へ行ったなら   作:三星織苑

263 / 300
261 候補地

 

 

 

 

 

クーラタル郊外

アユムの家

 

 

 

 

 

 セリーの報告が終わったところで、今度は俺たちが調べた迷宮についての報告だ。

 一人ずつ発表していくことになったのだが、その順番を決める手段はじゃんけんである。

 負けた者が一番初めに行うらしい。

 

 ついこの間教えたばかりだというのに、もうすっかり使いこなしていらっしゃる。

 

 別に一番でも二番でも全然構わないのだが、真剣勝負に情けは無用。持てる力を駆使して全力で勝ちにいく。

 

 逆手で指を組み、腕をグリンと回して顔の前に持ってくると、その隙間を覗き込んだ。

 

 ……見えた! 見えたぞ! 水の一滴! これはG! グーのGに違いない!

 

「あの、何をやっているのですか?」

 

 セリーの呆れたような声が聞こえてきた。

 

 ふっ。邪気眼を持たぬ者には分かるまい。

 

 準備が整ったところで、こちらを待っていた三人に視線を送る。

 ロクサーヌとミリアは好戦的な表情で頷き返し、ベスタの顔には困ったような曖昧な笑みが浮かぶ。

 

 それじゃあ、やろう。

 

「最初はグー、じゃんけんぽん!」

 

 固く握りしめた拳を突き出したところ、三人の手は見事に開かれている。

 

 うそ、だろ……。

 一人負け、だと……。

 

 あれはGではなく、勝利のVだったというのか。

 まさかドモンではなく、ウッソの方だったとは……。

 

 愕然としている俺をよそに、三人はそのまま勝負を続け、結局順番は俺、ベスタ、ロクサーヌ、ミリアとなった。

 

 運ゲーだとしても、毎回ベスタが勝つわけじゃないらしい。

 まあ、そりゃそうだ。

 

 

 

 勝負の前に行なったおまじないについて、話を聞きたそうにしているセリーには申し訳ないが、発表に移ることにする。

 というか、聞かれたところで意味なんてないし、説明のしようがない。

 

 さて、まずはトップバッターとしての役割を果たさねば。

 

 手元の羊皮紙に目を落とし、午前中に調べた候補を一つ一つ発表していく。

 

 しかし、恐怖のツッコミ女ことセリーが次々と異議を唱え、場所が不便だの、気候が良くないだの、土地が瘦せているだの、容赦なく指摘してくる。

 

 ……だって、ギルドの情報にはそんなの書かれてなかったんだもの。

 俺はこの世界に来て百日も経ってないんだぞ?

 地理を把握しているわけないじゃないですか……。

 

 片っ端から駄目出しを食らい、ここまで候補として残った迷宮の数はゼロ。

 

 俺の午前中の作業は何だったんだ……。

 

 内心でへこみまくりながら、最後の候補を発表する。

 こいつにはちょっと自信あり。今度こそ驚かせてやるぞ。

 

「えーっと、最後は帝国の南端、メリド侯爵領のベリッサという都市から、さらに南の未開地域に存在する迷宮。ここは八十五階層までの情報が記載されてたんだ。五十三階層でアニマルトラップが出現するのに加え、五十二階層の魔物はボトルマーメイドとなっている。今の俺たちにはちょうどいいんじゃないかな?」

 

 それを聞いたロクサーヌが闘志をみなぎらせたような表情で告げる。

 

「なるほど。ハルバーの迷宮を討伐するいい練習になりそうですね」

「そうですねー。事故がないようにあらかじめ練習しておいた方がいいですからねー」

 

 その言葉にミリアが同意を示すと、ベスタも小さく声を漏らした。

 

「メリド侯爵領ですか。竜人族の領主が治める地域ですよね。どこにあるのかまでは分かりませんでしたが、話には聞いたことがあります」

 

 この娘は奴隷の両親のもとに生まれたのだ。知らなくても無理はない。

 

 今までは即座に異議を唱えていたセリーだが、今回はあごに手を添え考え込んでいる。

 

「……悪くないかもしれません。温暖で暮らしやすく、農耕にも適しているでしょう。それにメリド侯爵領はほとんどの住人が竜人族のため、人が増えにくく、住民はそれほど多くありません。一長一短ありますが、ご主人様の秘密を守るのにも適していると思います」

 

 うん? 竜人族は増えにくいのか?

 

 浮かんだ疑問を尋ねたところ、セリーが頷きを返す。

 

「はい。人間族は別格として、その他の種族と比べても竜人族は性欲が低く、性交を行う数も極端に少ないのだそうです。そのため子供が生まれにくいという話です」

 

 え? マジ?

 俺は毎晩、ベスタのことを何度も求めている。

 もしかして、それは彼女にとって苦痛だったのだろうか……。

 

 そちらに視線を向けると、慈母のような微笑でこちらを見つめていた。

 

「私は毎晩ご主人様に可愛がっていただけて、幸せに満たされながら眠りについています。これからもたくさん可愛がっていただけますか?」

 

 好き! ベスタ超好き!

 可愛がるから! 一生可愛がるから!

 

 

 

 俺の方こそ幸せに満たされながらベスタと熱く見つめ合っていると、咳払いが聞こえてきた。

 

 あ、はい。ロクサーヌさん、贔屓は駄目ですよね。分かってます。全員平等に可愛がる努力をいたします。

 

 内心で言い訳をしていると、彼女は静かに首を横に振る。

 

 あ、違うんですね? えっと、平等に可愛がりつつも、ロクサーヌさんが一番大切だということについては、いささかも揺るぎません。

 

 すると、彼女は女神のような笑みを浮かべて首を縦に振った。

 

 なにこの娘……。エスパーなの?

 

 でもこんなに想ってもらえるなんて、幸せなことだよなぁ。

 

 

 

 続いてベスタの番になったが、セリーは彼女に対しても容赦なくツッコミを入れる。

 

 可哀想に。すっかり委縮しているじゃないのさ。

 奴隷として育っているため、異世界人の俺と同じくらい一般常識に疎いのだ。もう少しこう何というか、手心というか……。

 

 そんなことを考えていると、ベスタは表情をキリッと引き締める。

 

 おー。気合を入れなおした。芯が強い娘だこと。

 

「次は帝国北部の未開地域にある迷宮で、えっと、グリースタ男爵領のノルヴァンという町の先にあるみたいです。情報があるのは八十一階層までで、その階層から出現する魔物はヒューマントラップとなっています」

 

 ああ。アニマルトラップの上位種か。

 

「グリースタ男爵ですか……」

 

 それを聞いたセリーの顔に渋いものが浮かぶ。

 

 なに? これもアカン感じ?

 

「問題があるのですか?」

 

 ロクサーヌが尋ねると、彼女は渋面のまま言葉を紡いだ。

 

「グリースタ男爵はエルフで、領地はハルツ公爵領の隣に位置しています」

 

 あ、またエルフに対する敵愾心が湧き出てきたのね。

 まったく。困ったお嬢さんだなぁ。

 

「迷宮討伐や叙勲の際も有形無形、様々な支援を受けていたようです。また叙勲して間もない上に、領地もまだまだ小さく、現在も公爵家の庇護を受けているとのこと。そんな状態となれば、グリースタ男爵家が得たご主人様の情報はすぐに公爵様へ伝わるでしょう」

 

 どうやら種族差別的な感情ではなかったらしい。疑ってすまんかった。アユム、反省。

 

 色眼鏡で見たことについて猛省をしていると、ミリアがニコニコしながら告げる。

 

「私たちは公爵領にある迷宮に入ってるわけで、既にいろいろな情報が筒抜けになってると思います。そう大して変わらないでしょうし、心配しなくてもいいんじゃないですかー?」

 

 ああまあ、確かにそうだな。

 

 納得していると、セリーも毒気を抜かれたような表情を浮かべている。

 

「そうですね。考えすぎだったかもしれません」

 

 そう言うと、一つ頷き続きを口にした。

 

「それを除けば、グリースタ男爵領の先というのはかなり良い条件です。そこは肥沃な黒い土が広がっており、その土は農業にとても適していると聞きます。もし領土を得ることができたら、帝国の食糧庫としての役割を担えるかもしれません」

 

 肥沃な黒い土? チェルノーゼムみたいなもん?

 確かウクライナだかにあって、とんでもない量の食料を生み出してるんだっけ?

 

 セリーの言葉を受け、ロクサーヌの表情がまばゆい輝きを放つ。

 

「ご主人様が治めるに相応しい土地といえるでしょう! 文句なしの候補入りです。ベスタ、よく調べましたね」

 

 お褒めの言葉をいただき、ベスタの顔にはにかんだような笑みが浮かんでいた。

 

 うむ。実に可愛い。

 

 

 

 その後もいくつかの迷宮が提示されたものの、ベスタが調べた中で採用されたのは、結局グリースタ男爵領の先にある迷宮だけだった。

 俺も一つだし、おそろっちである。

 

 

 

 続いてはロクサーヌの登場だ。

 彼女も様々な迷宮を告げるが、恐れを知らない勇者であるセリーは、一番奴隷さんの提案であっても容赦なく切り捨てていく。

 

 割とロクサーヌを立てることが多いのに、こういった場面では遠慮をしないのな。

 でも、俺やロクサーヌに忖度して意見を曲げるようでは、参謀役としてかなり危うい。

 まあ、頼もしい限りである。

 

「では次です。帝国東部に位置するトラニア公爵領。海に面したその領地には海岸線に沿って、巨大な未開地域や放棄地が入り混じっています。さらに海の先には大小様々な島が点在し、それらにも高難易度の迷宮が存在しているという話です。それらすべてを討伐し、巨大な領土を築き上げてはいかがでしょうか?」

 

 彼女は爛々と輝く瞳をこちらへ向けていた。

 

 えっーと、話を聞く限り、その領地は常に外海に存在する迷宮から、侵略を受けているってことにならない?

 めっちゃハードモードっぽいんですが……。

 

 あまりのことに戦慄していると、ミリアから大きな声が上がる。

 

「いいですね! 海が近いとなれば魚も獲り放題ですよ! ご主人様、候補に加えるべきです!」

 

 えぇ……。

 

 彼女たちの言葉にセリーも頷いた。

 

「広大な土地と海を得られるのは悪くないと思います。それに島嶼部の迷宮をすべて討伐すればある程度の安全も確保できるでしょう」

 

 それが大変だと思うのですが……。

 

 そして、ベスタも微笑みながら口を開く。

 

「ご主人様なら大丈夫だと思います」

 

 私はだいじょばないと思うけどなぁ……。

 

 でもまあ、この世界はどこにいようと迷宮の脅威はすぐそばにある。

 もちろん脅威度の差はあるが、高階層の迷宮を討伐できるのなら、あとは虱潰しにそれを繰り返していくのみ。

 ことさらに恐れる必要はない。

 

 少々心配ではあるものの、候補としておこう。

 

 その後もロクサーヌのプレゼンは続いたが、結局採用は先の一つだけだった。

 彼女もおそろっちである。

 

 セリー先生、厳しすぎだよぉ。

 

 

 

 最後はミリアの登場だ。

 その可愛らしい丸顔に、ひまわりのような笑みを浮かべて声を上げる。

 

 彼女の提案もことごとく却下を食らっているが、セリーの話を聞くにすべて海に面している場所らしい。

 

 食欲全開やないか。ほんと、ブレないお嬢さんだこと。

 

 その後もセリーから鬼のような駄目出しを食らい、表情も少しシュンとしている。

 

 もうやめなよー。ミリアちゃん泣いてんじゃん。

 

 女子小学生のようなことを考えていると、ミリアはいきなり不敵な笑みを浮かべた。

 

 お? なんかあるのか?

 

「次で最後ですが、ここはとっておきです。帝国西部のホーホヴァイデ子爵領のカールトという町の先にある、数百年前に放棄された場所。ギルドには八十四階層までの情報があり、その階層から出現するのはレディバタフライとなってました。海に面してはいませんが、巨大な湖がいくつもあったと聞いたことがあります。ここはどうですかー?」

 

 へー。湖ねぇ……。って、やっぱ魚のことを考えてるじゃん!

 

 思わず内心でノリツッコミをしていると、セリーがあごに手を当てる。

 

「なるほど……。いいかもしれません。そのあたりは山岳地帯で、人が住んでいたころは畜産が盛んだったはずです。それに湖を利用した輸送や漁業もおこなわれていたとか。そこを得た場合、同じような産業を興すことが可能でしょう。ただ、ホーホヴァイデ子爵領も畜産が盛んなため、競合してしまうのが気になります」

 

 まあ、ライバルを歓迎するわけないもんな。

 そこは協業組合的なものを作って何とかならないだろうか?

 技術、販売網、ノウハウを共有し、共栄共存的なあれだ。

 ギルドがある世界なんだから、何とかなりそうだよな。

 

 そんなことを考えているうちに、こちらも賛成多数で候補入りとなった。

 そして、ミリアも俺たちと同じく採用は一つのみ。

 セリー先生の厳しさに驚くばかりである。

 

 

 

 とりあえず、候補は四つに絞られた。

 しかも、東南西北そろい踏み。一枚ずつだけど大四喜みたいなもんである。

 他にも探せば良さそうな所はあるのだろうが、八十階層を越えるのはまだまだ先の話だ。

 これらの探索をしつつ、並行して候補地を探すことにしよう。

 

 それに原作でグリニアを目指していた時に、案内役の男から狙い目だと教えてもらっていた、タリカウの南の島にあるという迷宮。

 これについてはパーティーにエルフがいないため、今は情報を聞き出すことすら難しい。

 ルティナが加入し、カッサンドラ婆さんからグリニア探索を任されるまで待つしかないだろう。

 

 さて、候補地にはどう行ったもんか……。

 

 冒険者ギルドで一番そこに近い町に移動できる冒険者を捕まえ、MP回復用の強壮剤を支給した上で、金に物を言わせるのが一番の近道だ。

 

 俺の出した候補地はメリド侯爵領ベリッサの先。ベスタはグリースタ男爵領ノルヴァンの先で、ミリアがホーホヴァイデ子爵領カールトの先と判明している。

 だが、ロクサーヌの挙げた候補地は無数の未開地域や放棄地があるとのことだった。

 

 これについてはどうすればいいんだ?

 

 その旨を尋ねたところ、ロクサーヌが答える。

 

「とりあえず、トラニア公爵領の領都であるモラシュを目指してはいかがでしょう。そこから倒すべき迷宮を選定すればいいと思います」

 

 ふむ。確かに高難易度の迷宮が無数にあるのなら、その方がいいか。

 

 ……よし。方針は定まった。

 今日の迷宮探索は休みにして、俺はこのままルート開拓に勤しもう。

 彼女たちは休日ってことで。

 

 それを伝えると、ご主人様が働いているのに休むわけにはいかないとのこと。

 普段は忙しくてできないような、大掃除をするらしい。

 

 本当に真面目で働き者の良い娘たちだよなぁ。

 

 

 

 装備を整えたところで、ロクサーヌたちとのパーティーを解除すると、常に感じていた彼女たちの気配が消失した。

 

 ……いつまでたってもこの感覚には慣れないなぁ。

 

 そんなことを考えながら一階へ下りると、玄関で一列に並ぶ四人の姿が。

 どうやら見送りをしてくれるらしい。

 

 この光景、ちょっと感動するぞ。

 

「じゃあ、いってくるよ」

 

 そう声を掛けると、彼女たちの声がピタリと重なった。

 

「いってらっしゃいませ、ご主人様」

 

 そして深く綺麗なお辞儀を披露する。

 

 なんて幸せな光景なんだろう。俺は間違いなく、世界一幸福な男だ。

 

 

 

 

 

田川 歩 男 18歳

冒険者Lv55 勇者Lv51 遊び人Lv60 魔道士Lv55 薬草採取士Lv45

装備 頑強の竜革鎧 倹約の硬革グローブ 竜燐の靴 身代わりのミサンガ

 

BP振分 残BP:5

キャラクター再設定:1

フィフスジョブ:15

必要経験値二十分の一:63

詠唱省略:3

鑑定:1

ジョブ設定:1

ワープ:1

MP回復速度二十倍:63

 

所持金:2,176,928ナール

 

夏の6日目

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