異世界迷宮へ行ったなら   作:三星織苑

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 朝のミーティングで、今後もベリッサ南未開地域の迷宮の攻略を続けることを確認する。

 たとえベリッサで嫌なことがあろうと、それはそれ。

 今後あの町に行かなければいいだけなので、何の問題もない。

 

 ベスタも含め、パーティーの総意である。

 

 もっとも、迷宮を討伐してあそこを拝領した場合、それが通じるのかは分からないのだが……。

 

 打ち合わせが終わると給与支給に移る。

 全員が口座振り込みを希望したため、通帳と帳簿にしっかりと記載しておいた。

 

 通帳を見つめて、子供のようにあどけなくはしゃいでいる様子が実に愛らしい。

 朝からいいものを見せてもらったなぁ。

 

 

 

 それが終わると念のためハルバーの迷宮に飛び、五十階層を確認してから、今度はベリッサ南未開地域の迷宮へ移動する。

 

 早朝の探索を終えると、再度ハルバーの迷宮五十階層を確認だ。

 

 ロクサーヌによればゴスラーのパーティーはまだここへ到着していないらしい。

 毎日この迷宮に出入りする姿を見せ、ゴスラーの進捗状況を確認しなくてはならないのは、かなりめんどくさい。

 しかし、彼らに先を越されるわけにはいかない上に、不自然だと思われないタイミングで、ハルツ公に五十階層の待機部屋を発見したと報告するためには、これを続けておかないと。

 

 

 

 朝食をとってのんびり過ごした後は、掘り出し物の装備品を求めてクーラタル、ベイル、帝都の武器屋と防具屋を巡ったが、今回もすべて空振りに終わり、セリーが作った装備品の売却だけを済ませる。

 

 そして、彼女たちが帝都の高級服屋でベスタのドレスの進捗状況を確認している間に、俺はスキル結晶を受け取るべく、クーラタルの商人ギルドへと飛ぶ。

 

 

 

 

 

クーラタル

商人ギルド

 

 

 

 

 

 商人ギルドへ移動し、いつものようにルークを呼び出す。

 程なくしてベレー帽のイカした男が近づいてくるが、その表情がどうにもさえない。

 

 ……相談したい件というのは、やはりポジティブな話じゃないようだ。

 

「アユム様、お待ちしておりました。それでは商談室へ移動いたしましょう」

 

 彼と共に廊下を歩くが、どことなく空気が重い。

 いやまあ、ただ単に悪い話があると想像しているせいなのかもしれないけどさ。

 

 商談室に到着し、ソファーに腰を下ろしたところでルークが切り出した。

 

「まずはスキル結晶の引き渡しを行いましょう」

 

 奴はそう言うとアイテムボックスを取り出し、ローテーブルの上に並べていく。

 

 コボルト、豚、トカゲ。うん。問題ナッシング。

 

 例によってギルド神殿を使った鑑定をスルーし、支払いを行う。

 そして、それをアイテムボックスにしまったところで、ルークは表情を引き締めた。

 

「伝言に記した、ご相談させていただきたいことについてなのですが、現在アユム様は数多くのスキル結晶に高値で買い注文を出していらっしゃいます」

 

 やっぱりその件かぁ……。

 

「ああ。そうだな」

 

 相槌を入れると、ルークはそのまま話を続ける。

 

「コボルト、ウサギ、ヤギ、芋虫につきましては、ほぼ春の間中買いを出している状態です」

 

 まあ、クーラタルに家を借りた春の三日目に買い注文を出したしなぁ。

 途中で他の仲買人と協定を結び、コボルトとヤギの調整は行ったが、一シーズン通して継続していることになる。

 

「いまクーラタルの商人ギルドでスキル結晶を手に入れようとすると、アユム様と競い合うことになり、どうしても値段が吊り上がってしまうのです。その状態が長く続いているため、他の仲買人より不満の声が上がるようになってまいりました」

 

 さすがに全てのスキル結晶を掻っ攫うってのはやりすぎだったかぁ……。

 

 別に相場を荒らすつもりはなかったが、結果的にそうなっちまってる。

 しょうがない、ここは自重しておこう。

 

「ふむ。こちらとしても仲買人と事を構えるのは本意ではない。品目を絞ることにしよう」

 

 それを聞き、ルークの顔に安堵が広がった。

 

 もしかしたら、こいつも突き上げを食らっていたのかもしれない。

 なんかすまんね。

 

 

 

 少し待ってもらい、買い注文を残す物について考えを巡らせる。

 

 最上位種のスキル結晶はマストだ。今後の戦力強化を考える上で絶対に外すことができない。

 それに通常のスキル結晶とは違い、元から高額での取引になるため苦情も出ないだろう。

 

 次に他のスキル結晶を強化するという特性上、コボルトのスキル結晶も必須だ。

 だが、それは他の者も同じことだし、恨みを買うという意味ではこれが一番のリスクとなる。

 すべてを狙うのではなく、ルークの判断で落札してもらうってことにしよう。

 

 他にどうしても入手しておきたいものとなると、芋虫、トロール、貝、スライム、カエル、鯉、サイクロプス、ハーブ、竜あたりか……。

 

 いや、多いな!

 

 どれも有用な物ばかりだし、そりゃ反感も買うわ。我ながら強欲すぎるだろ。

 

 うーん……。

 とりあえず、これもルークの判断でスルーしてもいいことにして、継続してもらおう。

 そうしておけば余計な反発を生むこともないはずだ。

 それに、今後は入手できる数が大幅に少なくなる。

 なので、定期的にではなく、一つ落札するごとに連絡をもらうってことで。

 

 その旨を伝えたところ、彼はトレードマークの胡散臭い笑みを浮かべ頷いた。

 

「それなら何の問題もございません。あらかじめ他の仲買人と調整を行い、問題のないもののみを落札することにいたします」

 

 おいこら。それは談合とかカルテルって言うんじゃないのか?

 ほんま、こいつは……。

 

 

 

 呆れていると、さらにルークはマルチ商法の勧誘員のような表情で話を続ける。

 

「最上位種のスキル結晶に買い注文を出していらっしゃるのです。アユム様は隻眼に伝手がおありだと存じます」

「まあそうだな」

 

 否定すると、『じゃあなんで買ってんの?』となるため、これについては肯定しておくしかない。

 

 こいつ、アスカばりに顔に『チャーンス』って書いてあるんだが……。

 

「高性能な装備品を製造し、最上位種のスキル結晶融合が可能な人材はとても貴重となっています。であれば――」

 

 そう言うと息継ぎを挟み、こちらの目をジッと見据える。

 

「窓口として信用のおける仲買人との付き合いは必須となるでしょう」

 

 お前さん、まさか自分がその信用のおける仲買人だと言うつもりなのかい?

 

「残念ながら様々な誤解があるようで、ドワーフは仲買人のことを信用してくださいません。本来、装備品やスキル結晶を製造するドワーフと、それらを取り扱う仲買人は共に手を取り、協力し合うべきなのですが、実に嘆かわしい限りです」

 

 顔に浮かぶ残念そうな表情は大袈裟そのもの。

 さらに芝居がかったように額に手を当て、首を横に振る。

 

 そのうさん臭さ全開の様子を見れば、ドワーフの気持ちも分からんでもない。

 というかお前ら、談合にカルテル、入札妨害と、なんでもござれやん。

 そりゃ、仲間になるのは躊躇するって。

 

「春の期間中、アユム様とはお互いに協力し合い、良い関係が築けたのではないかと考えます。それに加え先代の頃よりハルツ公爵様とお取引させていただいている実績がございます。いかがでしょう? 先方の隻眼にご紹介してはいただけませんか?」

 

 いやぁ……。

 うちの可愛い隻眼候補は、お前のことを敵認定してるからなぁ。

 それに今は隻眼じゃないですし、おすし。

 

「それなのだが、スキル結晶の融合を試してもらう条件が、あちらの情報を一切漏らさないというものなのだ。残念ながらどんなことがあろうと、先方に取り次ぐことはできない」

 

 その言葉に対し、彼はさらに食い下がる。

 

「もちろん、いきなり取り次いでもらおうなどとは考えておりません。まずは私の話を伝えていただき、それにメリットを感じていただければ、改めて直接お話しする機会を得たいのです」

 

 ルークはそう言うと、いかにそれが先方にとって有益か、どのくらいの利益を提供できるか、貴族との伝手を紹介できる等、怒涛の如く喋り出した。

 

 どうして俺は、存在しない架空の隻眼への伝言を頼まれているんだろう……。

 

 

 

「アユム様、お手数をおかけいたしますが、是非先方へ私の熱意をお伝えいただけると幸いです」

 

 長々と続いたマルチのセミナーを終え、にこやかな笑顔の勧誘員さんはそう言った。

 

「……ああ。話だけはしておこう」

「ありがとうございます。間違いなく双方にとって利益がある話なので、何卒よろしくお願いいたします」

 

 はいはい。俺の想像上の隻眼か、もしくは可愛くて有能な未来の隻眼候補に伝えておいてやるよ。

 

 ロビーへ戻り、ルークに見守られながら、フィールドウォークの呪文を唱える。

 

 

 

 

 

帝都

高級服屋

 

 

 

 

 

 商人ギルドから帝都の高級服屋へ戻ると、頬を上気させたベスタとそれを優しく見守る三人が、楽しそうに話をしていた。

 どうやらドレスの進捗状況は満足いくものだったらしい。

 

 こちらに気が付いたロクサーヌが話しかけてくる。

 

「ルーク氏の用件は問題ありませんでしたか?」

 

 問題があるかないかと言われれば問題しかないが、無事に片付いたし大丈夫だろう。

 

「ああ。何事もなく終わった」

 

 そう答えると、彼女の表情が綻んだ。

 あら、可愛い。

 

 そして、ニコニコ顔のベスタも話しかけてくる。

 

「とても綺麗な布でドレスを作ってもらっていました。あれを着ることができるなんて、本当に夢のようです。ご主人様、ありがとうございます」

 

 美人系なのにあどけない表情がたまらない。

 この娘もめちゃくちゃ可愛いよなぁ。

 

「喜んでもらえてよかった。完成まで何度か確認に来よう」

 

 そう伝えると、彼女の顔にはにかんだような笑みが浮かぶ。

 

「はい。とても嬉しいです」

 

 うむ。実にめんこい。

 

 

 

 

 

帝都

 

 

 

 

 

 白く舗装された帝都の通りを歩いていると、セリーが口を開いた。

 

「少し早いですが昼食をとって、午後は長めに探索を行うことにいたしませんか?」

 

 それを聞いたロクサーヌも表情を輝かせながら同意を示す。

 

「昨日と今朝の探索で分かる通り、ベリッサ南未開地域の迷宮の密度はかなりのものでした。きっといい訓練になるでしょう」

 

 魔物激湧きの五十階層をいい訓練って……。

 めっちゃいい笑顔だけど、言ってることがとんでもないぞ……。

 

 あまりの言葉にドン引きしてると、ミリアがそれに乗っかってくる。

 

「そうですよねー。昨日の午後と今朝の探索では、そんなにきつい感じはなかったですもんねー」

「はい。大丈夫だと思います」

 

 さらにベスタまでもがあちら側に回った。

 

 ほんと、いつもながらやる気に満ちあふれた娘さんたちだこと。

 

 でもまあ、早めに迷宮に入ることについて異論があるわけじゃないし、セリーの案を採用するとしよう。

 

 その旨を伝えると、それぞれ魅力の異なる花のような笑顔が咲き誇る。

 

 麗しい花々を堪能しながらも、脳裏に懸念事項が浮かんだ。

 

 ベリッサ南未開地域の迷宮は、エンカウント率がハンパない。

 そのせいで、万能丸の消費に拍車がかかってしまった。

 おそらくこのペースだと、十日は持たないだろう。

 

 五十階層でも余裕を持って戦えているのは、MP回復手段があるからこそ。

 それがなければ五人での探索なんて、無理・無茶・無謀の暴走戦士。

 そんなの絶対に許容するわけにはいかない。

 

 エンプティーランプが点灯した時点で、彼女たちに何を言われようとも方針転換をしよう。

 強権発動でクーラタルの迷宮四十六階層に変更し、ネペンテスを狩って、強壮剤の材料である陳皮を集める。

 

 これは絶対に譲るわけにはいかない。

 俺だって、何でもかんでも彼女たちの意見を肯定するわけではないのだ。

 たまには、四十五まで生きた大人としての威厳を示さないとな。

 

 そんなことを考えつつ、裏路地の壁にワープゲートを展開する。

 

 

 

 

 

クーラタル郊外

アユムの家

 

 

 

 

 

 食事をとり、ソファーでミリアの尻尾を刺激していると、セリーが尋ねてきた。

 

「ルーク氏の相談したいこととは、なんだったのですか?」

 

 あっ。その件があったか。

 

 ロクサーヌとベスタも興味深げにこちらへ顔を向け、俺の体にヒシっと抱き着いていたミリアも蕩け顔を上げる。

 

 相変わらず、尻尾やお尻をトントンすると、めちゃくちゃ色っぽい表情になるよなぁ。

 普段は天真爛漫な娘さんなだけに、そのギャップでドキッとしてしまう。

 

 とはいえ、真面目な話なので今は自重しておかねば。

 

 鋼の意思で自分を律し、商人ギルドでの出来事を話すことにした。

 

 

 

 一頻り話し終えると、不機嫌さを隠そうともせず、セリーが声を発する。

 

「普段は共謀して値段を吊り上げているくせに、いざ自分たちが安く買えないとなると、脅しをかけてでも落札を阻止しようとしてくるのです。本当に仲買人は信用なりません」

 

 ……別に脅されたわけではないんだが。

 

 仲買人側にも多分に問題はあるが、彼女の言葉を聞くに、ドワーフ側はドワーフ側でかなりの問題がありそうだよなぁ。

 

 どっちもどっちという言葉が脳内を駆け巡っていると、ベスタががっかりしたような表情で口を開く。

 

「ご主人様なら確実に融合を成功させられるのに、スキル結晶が手に入らなくなるなんて残念ですね」

 

 それを聞いたロクサーヌも呟きを漏らした。

 

「ご主人様の身を守るため、まだまだたくさんのスキル結晶が必要だったというのに……」

 

 セリーは二人の言葉を聞き、我が意を得たりとばかりに話を続ける。

 

「本来、オークションとは一番高値を受けたものが落札できる仕組みです。それなのに仲買人が自分たちの利益を確保するため、手練手管を弄して自分たちの都合がいいように、制度そのものを歪めています。上げ幅の制限や、その日最初の出品では全員が入札するまで、最低入札額で入札しなければならないなどといった暗黙の了解を作り出し、それに違反したものを全員で排除しているのです。これが不正行為といわず、何が不正行為でしょうか!」

 

 話しているうちに仲買人に対する不満が爆発したのか、セリーの声がどんどん大きくなっていく。

 

 強い、強い。圧が強いって。

 

 俺とロクサーヌ、それからベスタでなだめ、セリーはようやく落ち着きを取り戻す。

 

「……いろいろ思うところはありますが、仲買人を通さなければスキル結晶を落札することも難しいのも確かなのです。その辺は割り切って利用するしかありません」

 

 嘘だ。割り切るとか言っておきながら、この娘は何かあるたび絶対に不満を口にするぞ。

 間違いない。このカシオミニを賭けてもいい。

 カシオ配列派の俺が言うんだから確実だぞ。

 

 

 

 話が終わり、ミリアの髪とネコミミを撫でていたところで、ふと思い出した。

 

 そう言えば隻眼への伝言を預かっていたな。

 

 気は進まないものの、ルークの熱意をセリーに伝える。

 彼女は話が進むうちに、どんどん瞳の色が薄くなっていく。

 

「――ということみたいなんだけど、どうかな?」

 

 最後に問いかけたところ、雪女もかくやという冷たい声が耳に届いた。

 

「絶対に嫌です」

 

 ですよねー。

 

 

 

 

 

田川 歩 男 18歳

冒険者Lv55 勇者Lv51 遊び人Lv60 魔道士Lv55 薬草採取士Lv47

装備 サンダル 身代わりのミサンガ

 

BP振分 残BP:5

キャラクター再設定:1

フィフスジョブ:15

必要経験値二十分の一:63

詠唱省略:3

鑑定:1

ワープ:1

ジョブ設定:1

三十パーセント値引:63

 

所持金:3,504,189ナール

 

夏の7日目

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