午後からは待機部屋を目指してひたすら迷宮を突き進む。
エンカウント率は尋常じゃないし、発見する魔物部屋の数も相当なものだ。
しかし、平気の平左でサーチアンドデストロイ。もはや完全に流れ作業である。
ただ一つだけ、懸念事項もないわけではない。
そう。万能丸の材料である麻黄の在庫が尽きそうになっている。
アニマルトラップが出現する五十三階層まで持つんだろうか? それだけが気がかりだ。
結局、その日のうちに待機部屋を発見することは叶わず、探索は終了となった。
翌日から俺たちは本腰を入れてベリッサ南未開地域の迷宮の探索に取り掛かる。
そのとんでもない蹂躙劇は、まるで阿修羅か夜叉のごとし。
今日の私は、阿修羅すら凌駕する存在だ!
九月二十日生まれのため、グラハムと同じ乙女座だからな。そりゃ阿修羅だって超えちゃうぜー。
悦に入りながら魔法をぶっ放していると、ロクサーヌが嬉しそうにこちらに視線を向ける。
「やはり、叙勲がかかっている未開地域の探索ともなると、ご主人様もより一層気合が入っていらっしゃいますね。普段の泰然として余裕に満ちたお姿も素敵ですけど、やはりキリっとしているお姿も、凛々しくて見惚れてしまいます」
……えっと、それはいったい誰の話なんですかねぇ。
チート能力のおかげで余裕はあるかもしれないけど、全然泰然となんかしてないぞ?
それに、凛々しくて見惚れるって……。
それはいくらなんでも無理があるでしょうよ……。
キラキラした瞳でこちらを見つめているロクサーヌに戸惑っていると、セリーは呆れたような表情を浮かべながら口を開く。
「人の好みは千差万別ですからね。まあ、これだけ有能なのですから、外見など些細なことです」
その言葉にミリアが頷いた。
「そうですよ。ご主人様は強くて、優しくて、美味しいものを食べさせてくれて、とっても気持ちよくしてくれますからねー。それだけで十分です」
「はい。お顔なんて関係ありません」
ベスタもそれに同意を示す。
君たち? それは俺がブサイクだと、ド直球で言ってるんですが……。
いやまあ、このツラをぶら下げて四十年以上生きてきたんだ。いまさらそんなことでは落ち込まないけどさ。
しかし、ロクサーヌはキョトンとした様子で三人のことを見つめている。
どうやらこの娘、本当に妙なフィルターがかかっているらしい。
最初からそうだったわけではないだろうから、一緒に過ごすうちに慣れて愛着でも湧いたんだろうか?
それが少しグッときた。
よっしゃ。彼女の言うように、気合を入れていきますかね。
と、勢い込んで探索を再開したところで、早々に薬草採取士のレベルが50に到達する。
四人に断りをいれ、すぐさま確認だ。
薬師Lv1
効果 知力中上昇 器用小上昇 精神微上昇
スキル 生薬生成
へー。生薬生成ねぇ。スキル名は同じなんだな。
まあ、アイテムボックス操作やインテリジェンスカード操作のように、同じ名称で効果が異なるスキルは他にもあるし、驚くほどのことじゃない。
それに知力中上昇は魔法を使う際の助けになってくれるだろう。
なにはともあれ、これで滋養錠や強壮錠、エリクシールも作れるようになったわけだ。
今後、高階層に挑むにあたり、高性能な回復薬を自前で用意できるのは本当にデカい。
早速試してみたいところだが、現在手元にあるそれらの材料は甘草が一つだけ。
滋養錠を生成するには甘草が二つ必要だということなので、残念ながら試みることはできない。
まあ、もしかしたらレベル制限があって作れないかもしれないけどね。
そのときはレベル上げを頑張るってことで。
さて、次に上げるジョブについては、錬金術師を推してみたい。
今までは単なるメッキ係でしかなかったが、錬金術師の中級ジョブである技工士にはギルド神殿設定というスキルがあるらしいし、早めに確認しておくべきだろう。
ってことで、錬金術師! キミにきめた!
ジョブを変更し、探索を再開だ。
中級ジョブを獲得した勢いのままに通路をガシガシ進み、その日の午後に待機部屋へたどり着いた。
ピックホッグのボスであるビッグホッグ。ハルバーの迷宮で予習済みであったため、危なげなく勝利をものにする。
昨日に引き続き、魔法を放ちつつ大名行列のように五十一階層を練り歩く。
幸いなことに魔道士や勇者、遊び人のレベルが上がっているのに加え、錬金術師の知力小上昇の効果も追加されたおかげで、倒すのに必要な魔法の数が増えるということはなかった。
五十一階層から出現する魔物はネペンテスであるが、こちらも予習済みのためサクサク狩り散らかす。
しかし、当然というべきか待機部屋を発見することはできずに探索を終えた。
何の成果も!! 得られませんでした!!
いや。ちゃんとレベルは上がっているし、ドロップアイテムの売却で懐も潤ってるけどね?
明けて夏の十日目。
朝食後の探索を行なっていると、ついにそのときが訪れた。
田川 歩 男 18歳
冒険者Lv57 勇者Lv53 遊び人Lv62 魔道士Lv57 錬金術師Lv46
装備 ひもろぎのカッカラ 倹約のダマスカス鋼盾 ズケット 頑強のアルバ 身代わりの竜革グローブ オラクルビットローファー よりしろのイアリング
「きたー! 遊び人62きたー! ヤベー!」
これでジョブを六つ付けることができる! これはスゲーことになるぞ!
突然、大声を上げたことで一瞬ビクッとしたものの、すぐに花が綻ぶように四人の顔が彩られた。
「さすがご主人様! 本当にすごいです!」
ロクサーヌからさすごしゅをいただいていると、ミリアとベスタも興奮したように続く。
「これで六つのジョブが使えるようになるんですね! ご主人様は世界最強じゃないですか!」
「はい! 本当にすごいと思います!」
いや、世界最強は間違いなく、君の右側にいる女性だと思います。
そして、セリーだけは困惑した様子で呟きをもらした。
「神話に出てくる複数のジョブを使う神々だって、そんな無茶苦茶なことはしていません。いったいご主人様はどこまで強くなるのでしょう……」
ボーナスポイントがゲットできるなら、どこまででも?
まだ夏の十日目。この世界に来て百日ちょっとなのに、既にエンドコンテンツに突入したかのような気持ちになっちまうな。
落ち着きを取り戻したところで女性陣に断りを入れ、ジョブ設定をみながら考えを巡らせる。
うーん……。何に振るべきだろうなぁ……。
色魔や博徒も捨てがたいが、現状では後回しにせざるを得ない。
やはり戦力強化を目指すなら、遊び人の上位ジョブを獲得できると思われる、三十六ジョブの取得を目指すべきだろう。
現在、特殊なものを除いて取得済みなのは、基本ジョブが農夫、探索者、薬草採取士、盗賊の四つ。
初級ジョブが戦士、商人、僧侶、剣士、魔法使い、錬金術師、神官の七つ。
中級ジョブが冒険者、薬師、武者、豪商、剣豪、魔道士の六つ
派生ジョブが武器商人、防具商人、奴隷商人、料理人、騎士、賞金稼ぎ、暗殺者、博徒、芸術家の九つ。
合計二十六ジョブ。あと十か……。
とりあえず、取得しやすそうな基本ジョブと初級ジョブからレベルを上げていこう。
この中だと、僧侶あたりだな。
考えがまとまったところで冒険者をファーストジョブから外すため、サードジョブを遊び人から探索者に変更して、アイテムボックスの中身を入れ替える。
……これ地味に面倒なんだよなぁ。またこのアイテムボックス入れ替え生活に逆戻りかぁ。
冒険者のアイテムボックスに入っていたものを、探索者の方へ移動させていると、ミリアが不思議そうに尋ねてきた。
「あのー、そんなに大変そうなんですから、アイテムボックスを持つ武器商人や防具商人を付けたほうがいいんじゃないですかー?」
え? ん? あっ……。言われてみれば確かにその通りだ……。
彼女の言葉に盲点を突かれ、目から鱗をボロンボロン落としていると、ベスタが感心したように口を開く。
「お姉ちゃんは本当にすごいですね」
彼女だけではなく、他の二人も感心したようにミリアを見つめていた。
ベスタの言う通り、ミリアはちょっと視点が違う意見を口にすることが多い気がする。
頭脳担当のセリーもこの後すぐに思いついていただろうし、落ち着いて考えれば俺もそれに思い至っていただろう。
でもなんというか、瞬発力や角度が違うっていう感じだ。これも原作とは違うミリアの個性なのかもしれない。
もっとも、原作ではブラヒム語を話すことができなったため、実際にそうなのかは不明なのだが。
思索を打ち切り、シックススジョブの再検討へ戻る。
結局、武器商人がレギュラー入りとなった。
しかもアイテムボックスを使用する関係上、六番ではなく五番である。クリーンナップである。
武器商人くんの今後に期待しつつ、アイテムを移し替えた。
それはいいとして、遊び人のレベルが62で、冒険者のレベルが57。
つまり、5ポイントをフリーにしておけば、すぐに入れ替えることも可能となる。
その場合、パーティーが解散してしまうことになるが、戦闘中に行うことはないだろうし、それほど大きな問題はないはずだ。
全ての作業が済んだところで、ジョブ設定をガンマ線バーストに入れ替える。
キャラクター再設定で1、シックススジョブで31、必要経験値二十分の一で63、詠唱短縮で1、獲得経験値二十倍で63、そしてガンマ線バーストが1で、合計160ポイント!
オッケー! バッチリ! 今後二軍で燻っていたジョブのレベル上げも捗るはず!
彼女たちの方へ視線を向けると、ワクワク顔でこちらを見つめていた。
あら、可愛い。どの花見ても綺麗だなぁ。
「では、再開しよう」
通路に個性豊かで華やかな声がこだまする。
しかし、最後の最後でもう一つのサプライズが発生した。
探索を終え、帰り支度を整えながら確認したところ、なんとミリアの探索者が30に到達していたのだ。
探索者はレベル30になると、いくつかの派生ジョブが取得できるため、一つの区切りといってもいいだろう。
とはいえ、武器商人、防具商人、奴隷商人は商人のレベルも30にする必要があるし、彼女が獲得していたのは料理人だけだったんだけどさ。
修業を終え、ソファーに腰を下ろしながら、みんなで仲良く装備品の手入れをしていたところ、セリーが呟きをもらす。
「オリハルコンの槍なのですが、もしかするともうすぐ装備できるようになるかもしれません」
おお! マジか!
「それは楽しみだね。そうなると武器だけじゃなくて、防具もそろえていかないと」
防具は命に関わるからな。この娘たちには防具をガチガチにしてもらい、生存率を上げておかねば。
でも、そう簡単には出回らないし、どうやって入手すればいいんだろう?
「あ、いえ。その、もしかしたら。もしかしたらです。ほんの少しだけ軽く感じただけなので、気のせいかもしれません」
俺の言葉に、セリーは慌て自らの発言を翻した。
すると、ロクサーヌが穏やかな表情で、手入れをしていたミセリコルデを示す。
「私もこのミセリコルデが装備できるかもしれないと最初に感じたのはそれでした。あなたと同じように気のせいだと思ったのですが、日を追うごとにどんどん軽くなっていったのです。あなたもきっと、そうなります。装備できる日はそう遠くないでしょう」
へー。そんな感じだったのか。
あの時、ロクサーヌはレベルが上がるたびに一喜一憂していた気がする。
「ロクサーヌさん、ありがとうございます」
セリーははにかんだような笑みを浮かべながら感謝の言葉を伝えていた。
その様子を見ていたミリアが羨ましそうに声を漏らす。
「ご主人様はちょっと違う枠だから置いとくとして、お姉ちゃんもセリーさんもいいなぁ。私も早くフランベルジュを使ってみたいです」
ちょいとお待ち。ミリアさんや。ちょっと違う枠ってのは、なんなんだい?
「そうですね。私もオリハルコンの剣がどんな感じなのか気になります」
すると、セリーが優しく微笑みながらベスタに話し掛ける。
「オリハルコンの剣だけではなく、ベスタは高性能な防具が全て揃っていますからね。頼もしい限りです」
さらにロクサーヌも柔らかく言葉を添えた。
「そうなれば、今以上にご主人様のお役に立てるはずです。これからも気を抜くことなく励むのですよ」
一番奴隷さんの訓示に対し、ベスタは表情を引き締める。
「はい。頑張ります」
先輩三人はその様子を満足そうに見守っていた。
いやぁ。うちはそういう職場じゃないんで、ゆるーい感じでいきましょうよ。
田川 歩 男 18歳
遊び人Lv62 勇者Lv53 冒険者Lv57 魔道士Lv57 武器商人Lv21
装備 サンダル 身代わりのミサンガ
ロクサーヌ ♀ 16歳
巫女Lv36
装備 サンダル 身代わりのミサンガ
セリー ♀ 16歳
鍛冶師Lv34
装備 サンダル 身代わりのミサンガ
ミリア ♀ 15歳
探索者Lv30
装備 サンダル 身代わりのミサンガ
ベスタ ♀ 15歳
竜騎士Lv27
装備 サンダル 身代わりのミサンガ
BP振分 残BP:12
キャラクター再設定:1
フィフスジョブ:15
必要経験値二十分の一:63
詠唱省略:3
鑑定:1
ワープ:1
ジョブ設定:1
MP回復速度二十倍:63
所持金:3,687,632ナール
夏の10日目