異世界迷宮へ行ったなら   作:三星織苑

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266 滋養錠

 

 

 

 

 

ベリッサ南未開地域の迷宮

五十一階層

 

 

 

 

 

 本日も電波少年的迷宮生活のスタートだ。

 迷宮生活夏の十一日目。今日も今日とて、ひたすら魔物を狩るアユム。

 

 脳内でアホなナレーションを呟きながら探索を開始する。

 

 

 

「ご主人様、そろそろお昼になります」

 

 午前中の探索を続けていると、ロクサーヌからいつもの声が掛かった。

 

「分かった。では、午前中はここまでだな。次の待機部屋で終わりにしよう」

 

 待機部屋の魔物を片付け、ボーナスポイントを迷宮外仕様に変更して確認したところ、錬金術師のレベルが50になっている。

 

 おいおい。今日もレベル50に到達かよ。

 ここ数日、完全にフィーバータイムに入ってんなぁ。

 

 ジョブ設定を開くとはじめましてのジョブがお目見えだ。

 

技工士Lv1

効果 知力中上昇 器用小上昇 MP微上昇

スキル メッキ ギルド神殿設定

 

 これがセリーの言っていた技工士か。確かにギルド神殿設定というスキルがある。

 だけど、現物が手元にないせいで試すことができないんだよなぁ。

 

 もう一つのスキルはメッキ。貴重な防御スキルなので、これからも世話になることだろう。

 まあ、ワンポイントリリーフになるかもだけどさ。

 

 そして、効果の方は知力中上昇に器用小上昇、それからMP微上昇。

 スペルキャスターの俺とはかなり相性のいいジョブっぽい。

 こいつのレベル上げを行う際には魔法攻撃力を上げてくれるに違いない。

 

 それにしても、ギルド神殿か……。

 原作では各ギルドや騎士団に設置されているオブジェクトという扱いで、ドロップアイテムなんて設定はなかったはずだ。

 これはこの世界だけのシステムなんだろうか? それともマジで俺が転移した後に続巻が出たのかね?

 この世界へ来たことについては一片の後悔もないが、もし本当に続巻が出ているのならめちゃくちゃ読みたいぞー!

 

 

 

「考え込んでいますけど、どうかしたんですかー」

 

 思索に耽っていると、ミリアが不思議そうにこちらを見つめていた。

 彼女だけではなく、他の娘たちも訝しげに視線を向けている。

 

 おっと。いかん、いかん。帰り支度の途中だった。

 

「いや、錬金術師のレベルが50に到達してな。技工士のジョブを得たのだ」

 

 その瞬間、四人の顔に満開の花が咲き誇る。

 

「さすがご主人様! これでギルド神殿にジョブを設定することができますね!」

「冒険者や騎士は言うに及ばず、武者や剣豪、薬師に技工士のギルド神殿を作り出すことも可能だということになりますからね。本当にとんでもない能力です」

「そうですよねー。こんなことができるのは私たちのご主人様だけです!」

「はい。とてもすごいと思います」

 

 彼女たちは感情を爆発させ、すごいすごいの大合唱だ。

 

 ハハハ。褒めるな、褒めるな。調子に乗ってしまうではないか。

 

 

 

 四人におだてられ、このまま木登りの一つも披露しようかと思っていると、セリーの表情が引き締まる。

 そして、後輩二人に視線を向けると真剣な声色で話しかけた。

 

「このことは絶対に他者へ知られてはなりません。人前でみだりに話すことがないよう、注意してください。いいですね?」

 

 さらにロクサーヌも言葉を添える。

 

「セリーの言う通りです。ご主人様の秘密はどんなことがあっても知られるわけにはいきません」

 

 それを聞いた二人の顔に決意の色が浮かぶ。

 

「私が仲間になったときに言っていた、ご主人様の秘密がバレると私たちから引き離されて、どっかに連れていかれてしまうってやつですよね。そんなの絶対駄目です」

「はい。私たちの大切なご主人様なのです。いなくなるなんて嫌です。絶対に他の人の前では言いません」

 

 ミリアとベスタの言葉を聞き、ロクサーヌとセリーは満足そうに頷いていた。

 

 俺が何かを言う前に先輩たちが注意を促したな。

 頼りになるお姉さま方だこと。きっと山百合会で薔薇様を張れるに違いない。

 

 そんなことを考えながら帰り支度を整える。

 

 

 

 

 

ベリッサ南未開地域の迷宮五十一階層

ボス部屋

 

 

 

 

 

 昼食と食休みを済ませて迷宮に戻ると、すぐに目的地へとたどり着く。

 五十一階層のボスはセファロタス。ハルバーの迷宮で予習済みだったこともあり、あっさり片が付いた。

 ボス戦ではオーバードライビングだけではなく、バッシュアンドスマッシュのダブルアタックが解禁されるのだ。こんなところで足踏みするわけにはいかない。

 ボスキラーアユムの面目躍如といえるだろう。

 

 どうでもいいけど、バッシュアンドスマッシュって、ハックアンドスラッシュみたいだよね。迷宮探索を生業にしている俺には親和性が高い気がする。

 

 愚にもつかないことを考えながらボーナスポイントの振り分けを行っていると、フロアに高めで愛らしい声が響き渡る。

 

「ご主人様! 大変です! 甘草が落ちてました!」

 

 ミリアは瞳を輝かせながらこちらへ駆け寄り、手のひらに載った棒を差し出した。

 

 そっかー。甘草かー。それは大変だねー。

 

 あまりの愛らしさに思わず口元が緩んでしまう。

 

 ほんと、可愛い娘だなぁ。

 

 彼女の声を聞き、他の三人も大急ぎでこちらへ近づいてきた。

 

「これで甘草が二個揃ったのですよね! 薬師のジョブも得ていますので、滋養錠が作れるのですね!」

 

 ロクサーヌの言葉で、全員が期待のこもった眼差しをこちらに向ける。

 

 えっと、あの、期待に応えたいのは山々なんだけど、今はちょっと……。

 

「以前手に入れた甘草は物置で保管しているのだ。生薬生成を試すのは自宅に戻ってからだな」

 

 それを聞いた瞬間、四人の顔にガッカリしたような表情が浮かぶ。

 

 いまは武器商人のアイテムボックスを使っているため、入れられる数が冒険者の最大二千五百個から、最大九百個まで下がっているのだ。すぐに使わないものを入れておくわけにはいかない。

 まあ、五十二階層に上がってから、一旦自宅へ戻って生薬生成を試してもいいんだけど、わざわざそんなことをするのもなぁ。

 

「じゃあ、帰ってからのお楽しみにしましょー」

 

 ミリアが気を取り直したようにそう言うと、ベスタも控えめに微笑みながらそれに続く。

 

「はい。滋養錠を作るところが見られるなんて、本当に楽しみです」

「そうですね。帰ったら見ることができるのです。焦る必要はありません」

「これから何度も見られるはずですからね」

 

 ロクサーヌとセリーもそう言いながら頷いていた。

 

 確かに彼女たちの言う通りだ。今後嫌ってほど滋養錠をこさえることになるだろうしな。

 

 さて、そうと決まれば、次の階層へ進む準備をしないと。

 

 

 

 

 

クーラタル郊外

アユムの家

 

 

 

 

 

 食材の購入を済ませて自宅の玄関前に着いたところで、セリーから呟きが漏れた。

 

「パピルスがありませんね……。やはり今後はルーク氏をあてにできないようです……」

 

 奴も他の仲買人から突き上げを食らっていたようだし、今までのように片っ端から落札するというわけにはいかないのだろう。

 まだまだ欲しいスキル結晶は山ほどあるんだがなぁ。

 特にコボルトのスキル結晶はいくらあっても足りないくらいなのに、いったいどうすればいいんだ?

 自引きを狙うなんてのは現実的じゃないし、どうしたもんかねぇ。

 

 あ、いや。ゆくゆくは最上位種のスキル結晶を融合した装備品を揃えるつもりなんだ。

 それはオークションで狙って手に入れられるような代物じゃない。

 となれば、結局自引きするしかないということになる。

 

 それが少し早まっただけだと考えればいいのさ。

 ケセラセラ。なるとかなるなる、鳴沢唯ってなもんよ。

 

 鳴沢唯かぁ。同級生2。好きだったなぁ……。

 

 人生で初めて買ったパソコンはPC-9821。用途はもちろん同級生2をはじめ、エロゲがプレーしたいから。

 当時三十万近い金が吹っ飛んだし、我ながら正気じゃなかったわ。

 

 まあ、あいつのおかげで我が人生で一番の名作、YU-NOをプレーできたわけだし、全然後悔はないけどな。

 

 ……おっと。いつまでも玄関に留まっているわけにはいかない。

 

 思索を振り払い、扉を開く。

 

 

 

 食材をキッチンに置いたら、全員でぞろぞろと二階の物置へ向かう。

 彼女たちの表情は期待で輝いており、漫画なら間違いなく顔のそばにワクワクという効果音が描かれているに違いない。

 

 どうしよう。こんなに期待されてるのに、もし駄目だったらちょっとカッコ悪いぞ……。

 

 うん? つい数日前にもまったく同じようなことがあったなぁ。

 

 でもまあ、好奇心旺盛な表情がめちゃくちゃキュートだし、それに万金丹のときも問題なく成功している。あまり気にしないでおこう。

 

 

 

 物置部屋に移動し、シックススジョブの僧侶を薬師に入れ替え、アイテムボックスから甘草を取り出した。

 

 準備をしている間にロクサーヌがクローゼットに置いておいた甘草を取り出し、こちらへ差し出してくる。

 

「ご主人様、どうぞ」

「ありがとう。ロクサーヌ」

 

 それを受け取り、手のひらに載せた。

 

 二つの甘草。これで生成できるはず。

 

 物置部屋の緊張感は最高潮。まるでサーカスやミュージカルの開演のような雰囲気が漂っている。

 

 これだけ期待されているのだ。それに応えなければ主人としての威厳を失う。いっちょ、かましておかねば。

 

「レディース、エーンド、ジェントルメーン! 本日はミスターウォークのマジックショーにお集まりいただき、まことにありがとうございます! 今宵は我が魔術の神髄をとくとご覧ください。それではまいりましょう。まずはこのなんの変哲もない甘草。もちろん、種もしかけもございません。どうぞ、そこのイヌミミが愛らしいお嬢様、手に取ってご確認下さい」

「えっ? あっ。私ですか? えっと、はい……」

 

 ロクサーヌは戸惑いながら甘草を受け取り、確認している。

 

 一方、他の三人は何事かと目を大きく広げ、口をポカンと開けたままこちらをガン見中。

 

 どうやら相当なインパクトがあったようだ。うんうん。つかみはバッチリじゃない?

 

「あの、甘草に間違いないと思います」

 

 わけが分からないといった様子で差し出されたそれを受け取り告げた。

 

「美しいお嬢様。お手伝いいただきありがとうございました。さて、ご確認いただいたこの甘草。三つ数えたら別の物質へと変化します。さあ皆様、ここからは瞬き厳禁でお願いいたします。ではまいりましょう。スリー、ツー、ワン」

 

生薬生成

 

 言い終わるや否や、スキル名を念じると、手のひらから煙が上がる。

 そして、その煙が晴れると一粒の錠剤が姿を現した。

 

滋養錠

 

 オッケー! 成功だ!

 

「麗しいお嬢様方、どうぞご覧下さい。見事、甘草が滋養錠に変化いたしました。これがわたくし、ミスターウォークの超魔術。いかがだったでしょうか。お気に召していただけたら、どうか拍手をお願いいたします」

 

 そう告げた瞬間、物置部屋に拍手が響き渡った。

 

「さすがご主人様! すごいです!」

「とっても面白かったです! またやってください!」

「よく分かりませんでしたが、なんだかすごかったと思います!」

 

 大興奮のロクサーヌ、ミリア、ベスタとは異なり、セリーだけはジトッとした視線をこちらに向けている。

 そして、大きなため息を吐くと、問いかけてきた。

 

「今のは何だったのですか? あの口上にはどんな意味があるのですか? それにミスターウォークというのはご主人様のことなのですか? どうして別の名を名乗ったのですか?」

 

 そんなに質問攻めにされても……。

 特に意味はないし、楽しんでもらいたいなーっていう、俺のエンターテイナー的な一面が顔を出したといいますか……。

 えっと、面白くなかったですかね?

 

 その旨を尋ねたところ、絶賛三名、不評一名。

 

 口上も含めて純粋にエンターテインメントとして楽しんでいる三名に対し、そんなことをする理由が分からないとハッキリ告げる、小っちゃくて可愛らしいドワーフ娘。

 

 まったく。主人に一切忖度しないお嬢様である。

 まあ、それが頼もしい限りなのだが。

 

 いずれトランプマジックを披露しよう。

 一時期手品に凝って練習していたことがあるのだ。その腕前で度肝を抜いてやるんだからね。

 

 

 

 ロクサーヌたちのテンションが落ち着いたところで、滋養錠をアイテムボックスへしまうことにする。

 だが、セリーがそれを物憂げに見つめていることに気が付いた。

 

「どうかしたの?」

 

 問いかけてみると、彼女はためらいながら口を開く。

 

「私はそれを手に入れるために奴隷になったのだな、と考えていました。それがこんなにあっさり作り出されたことに、やるせないというか、納得できないというか、そういう思いが湧き出してきてしまって……。あっ、もちろんご主人様が作り出したこと自体に思うところがあるわけではありませんよ? そこは誤解なさらないでください」

 

 なるほどなぁ……。

 セリーが奴隷となった経緯は、一家の大黒柱だったお兄さんが迷宮で怪我をして、それを治すための薬を手に入れるためだ。

 家族の生活はお兄さんの稼ぎに依存していたため、幼い弟や妹が路頭に迷わないよう、彼女は自ら望んで奴隷となっている。

 そんな重い覚悟を持って手に入れようとした滋養錠が、こんなに簡単に手に入ったのを見て、複雑な気持ちにならないわけがない。

 

 すると、ロクサーヌが女神のような優しい笑みを浮かべ、セリーに話しかける。

 

「セリー。あなたの献身のおかげで家族は救われたことでしょう。その行いは決して間違っていません。それに、その決断のおかげで私たちはあなたに出会うことができました。そして、あなたもご主人様にお会いすることができました。あなたは正しい判断を下したのです。何も間違っていません」

 

 ミリアとベスタも微笑みながらそれに続く。

 

「そうです。私はセリーさんが一緒で嬉しいですよー」

「はい。私もお姉ちゃんたちと同じ気持ちです」

 

 ほんと、良い娘たちだよな。俺は世界一の幸せ者だ。

 

「セリーが奴隷になった経緯が不幸なものだったのは間違いない。でも、そのままずっと不幸でいなければいけないわけじゃないよね? ロクサーヌの言う通り、俺もセリーに出会えて幸せだし、君たちのことも幸せにするつもりだから。セリー、これからもよろしく」

 

 すると、彼女の顔にはにかんだような笑みが浮かぶ。

 

「私もご主人様やロクサーヌさん、そしてミリアとベスタと共に過ごすことができて、本当に幸せです。これからも末永く可愛がってください」

 

 そのあまりにもいじらしい表情と言葉に、心を鷲掴みにされてしまった。

 

 

 

 

 

田川 歩 男 18歳

遊び人Lv63 勇者Lv54 冒険者Lv58 魔道士Lv58 武器商人Lv35 薬師Lv1

装備 頑強のアルバ サンダル 身代わりのミサンガ

 

BP振分 残BP:29

キャラクター再設定:1

必要経験値二十分の一:63

シックススジョブ:31

詠唱省略:3

鑑定:1

ジョブ設定:1

ワープ:1

MP回復速度二十倍:31

 

所持金:3,708,278ナール

 

夏の11日目

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