異世界迷宮へ行ったなら   作:三星織苑

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027 入居

 

 

 

 

 

ベイル亭五階

ダブルルーム五一七号室

 

 

 

 

 

 ……んっ。すべすべで気持ちいい。腕に心地よい感触がある。

 

「ご主人様、おはようございます」

 

 目覚めてすぐにロクサーヌから挨拶してもらえるのは嬉しいなぁ。

 

「おはよう、ロクサーヌ。今日も一日よろしく」

「はい、こちらこそよろしくお願いします」

「今日の予定だが、一日中やることが詰まっているので迷宮探索はなしにしよう。明日からは一撃で倒れる魔物の上限を探るため、積極的に上を目指していく」

「はい! とてもいいことだと思います!」

 

 あらま。お嬢さんはご満悦のご様子だ。

 まあ、レベルアップのためには必要なことだしな。

 

「朝食を取ってチェックアウトを終えたら家へ行き掃除を始めよう。今後は靴のまま家に上がることはないので、徹底的に拭き掃除をする」

「はい。お任せください、ご主人様」

 

 家の中に靴のまま入るなんてありえない。

 今日苦労することで、今後掃除の手間も減るだろう。

 

「午前中は掃除をしながら家具が届くのを待ち、設置が終わったらクーラタルの町へ食品の買い出しに行こう」

「はい」

 

 基本的に今後は自分たちで用意しなければならないが、たまには外食をするのもいいかもな。

 今まで一度も経験がないデートというやつをやってみたい。

 

「買い出しが終わったら俺は一度クーラタルの迷宮に行き、今後ワープで移動できるようにしてくる。ロクサーヌにはそのまま掃除の続きを任せてもいいか?」

「はい。問題ありません。本来なら奴隷の私が一人ですることなのにご主人様のお手を煩わせてしまい申し訳ありません」

「いや。二人の生活なのだ。君だけに負担を押し付けるわけにはいかない。それに家事を早めに終わらせると、それだけ二人の時間を多く取れるだろ?」

「ご主人様……。本当にありがとうございます……」

 

 文明の利器の助けが大きかったとはいえ十五年以上も一人暮らしをしていたんだ。それくらいなんでもないさ。

 それにロクサーヌとの同居生活そのものを楽しみたい。

 いや。同居ではなく同棲だな。

 同棲。なんて甘美な響きだ。実にいい。

 

 

 

「俺が迷宮から戻ったら昨日お願いした修業をつけてもらいたい」

「はい。こちらこそよろしくお願いします」

「それと木剣はどこで買えるだろう?」

「武器屋で扱っています。装備品ではないので目立つところにはありませんでしたが、昨日行ったクーラタルと帝都の武器屋、どちらにも置いてありました」

 

 なるほど。アイテムではないから鑑定に引っかからず見落としていたのか。

 武器屋に行ったときには修業をしようなんて思ってなかったからなぁ。そりゃ注目もしないわ。

 

「それじゃあ食品の買い出しのときにそれも買おう」

「はい」

「これが終わったら食事の準備だな。申し訳ないが俺はやることがあるから今日はロクサーヌに任せてもいいか?」

「お任せください! ご主人様、ポトフはお好きですか? 私の得意料理なので是非召し上がっていただきたいです!」

 

 おー。気合が入っている。

 原作でもポトフが得意と言っていた。それもブーケガルニを使うような本格的なやつだ。

 ロクサーヌの手料理を食べることができるなんて幸せだなぁ。

 

「ポトフは好きだし、ロクサーヌのポトフを楽しみにしているな」

「はい!」

 

 彼女は両手を握りしめ大きな声で答えた。

 嬉しい。俺に食べてもらうために、こんなに気合を入れてくれているのが本当に嬉しい。

 

 

 

「食事と体を拭き終わったら俺のことについて話をしようと思う」

「はい。ご主人様のことについて教えてくださいね」

 

 ロクサーヌはニコニコと嬉しそうにしているが話を聞いたらこの笑顔が曇ってしまう可能性がある。

 

 本当は誰にも何も告げず、自分の中だけにしまい込んで墓場まで持っていく方がいいのかもしれない。

 

 しかし、この世界にとって俺は異物そのものだ。

 今後、他の人との間にギャップを感じるたび、耐え難い孤独感に襲われてしまうはずだ。

 そんなこと俺の精神で耐えられるはずがない。

 誰かに自分のことを認めてもらえなければ孤独感に押しつぶされてしまうだろう。

 

 全てを知った上で俺自身を受け入れてほしい。

 

 完全に俺の弱さゆえの我がままだ。

 ロクサーヌ。どうか受け入れてくれ……。

 

 

 

「その後はいよいよですね。ご主人様、今夜からいっぱい可愛がってくださいね」

「こちらこそよろしく頼むな」

 

 願わくはロクサーヌのこの笑顔が曇らんことを。

 

 

 

 身だしなみを整えて窓を開け、歯磨きを終えたところで大切な朝の習慣だ。

 抱きしめ合い口づけを交わし、そのあとは剃刀を当ててもらい手当てをかけた。

 

 装備品を身に着け部屋を見回す。

 

「忘れ物はないな」

「はい」

「たった二日間だったが今までの人生で一番幸せな時間を過ごした部屋だった」

「私もです。この二日間のことは一生忘れることはないでしょう」

 

 本当にそうだな。ここは生涯に渡って忘れることのない思い出の部屋だ。

 

 

 

 

 

ベイル

ベイル亭

 

 

 

 

 

 朝食を取り受付で鍵を返却する。

 

「二日間世話になった」

「こちらこそありがとう。うちは食事だけの利用もできるから近くに来ることがあったら是非立ち寄ってくれ」

「ああ。食事も美味かったからな。近くまで来た際には利用させてもらおう」

 

 別れを告げ、ベイル亭を後にした。

 

 

 

 

 

クーラタル郊外

アユムの家

 

 

 

 

 

 ワープゲートから出て自宅の玄関に設置してあったドアマットを踏みしめる。

 

 今日からここで生活をするんだな。

 宿をチェックアウトしたためか改めて実感が湧いてきた。

 

 アイテムボックスからサンダル二つ取り出し、一つをロクサーヌに差し出す。

 

「今日からは家の中ではこのサンダルか裸足で過ごすようにしよう」

「はい。分かりました」

 

 その場で皮の靴とサンダルを履き替える。

 まだ靴箱代わりのラックが届いていないため、彼女の皮の靴も一旦アイテムボックスにしまっておくことにした。

 

 

 

「それじゃあ、まずはバケツに水を入れるか。排水溝のある部屋にバケツと水がめ、それから洗濯用のたらいを持っていこう」

「はい」

 

 

 

 バスルームとして使う予定の部屋にそれらを並べ、その上に発動するようウォーターウォールを念じる。

 

ウォーターウォール

 

 狙い通り空中に展開された水の壁はそのまま形を保つ。

 そして、程なくして形が崩れて落下していった。

 水がめの中を確認してみるとそれぞれに十分な量の水が入っている。

 

「よし。問題ないな。今後水は俺がウォーターウォールで準備することにする」

「ご主人様、魔法で用意するのは大変ではないですか? 私なら大丈夫です」

 

 あかんあかん。ウォーターウォールだと十数秒で済むのに、遠くてポンプもない井戸から汲んでこさせるなんて鬼畜の所業だぞ。

 そんな無駄なことはさせられない。

 

「大丈夫だ。MPはデュランダルを使えばすぐに回復する。その時間を別なことに使う方がよっぽど有意義だからな。気にすることはない」

「ご主人様、ありがとうございます」

 

 彼女はとても嬉しそうな笑みを浮かべた。

 そりゃそうか。あんなことを言っても水汲みは重労働だ。この家から井戸までは相当離れており、めちゃくちゃきつそうだもんなぁ。

 

 

 

 水の入ったバケツと雑巾、それから箒とチリトリを持ち二階へ上がる。

 

「それじゃあ一部屋ずつ清掃していこう。全ての部屋が終わったら廊下、その次が階段で、その後は一階だ」

「はい」

「それでは寝室からやっていくので、まずはロクサーヌが箒で掃いてくれ。掃き終わった場所を俺が雑巾で拭いていく」

 

 そう告げると、表情をキッと引き締めたロクサーヌに諫められた。

 

「いけません。主人より楽な仕事をする奴隷なんていません。雑巾がけは私がしますので、ご主人様は箒の方をお願いします」

 

 ……キリっとした表情も美人さんだなぁ。

 

 ……おっと。いかんいかん。見惚れている場合じゃない。

 

「う、うむ。分かった。では、そのように頼む」

「はい。お任せください」

 

 すると、彼女の顔に笑顔が戻る。

 

 何も考えず適当に割り振ったせいでロクサーヌにお小言をいただいてしまった。

 でも、今後もついやっちゃいそうだよなぁ。

 

 

 

 とりあえず一番広い寝室からやっつけていこう。

 

 あっ。効果があるかは不明だがボーナスポイントをパラメーターに振っておいた方がいいかも。

 なにせ俺は鰯の頭教の敬虔な信者。プラセボ様のご利益を賜るかもしれんからな。

 

 MP回復速度二十倍と知力に振っていた分を体力に全振りだ。

 家具を運ぶときには腕力に付け替えてみよう。

 

 

 

 二階の全部屋が終わり、廊下に取り掛かったところで外から声が聞こえてくる。

 

 一階に降り外へ出ると積載量オーバーだろうという状態の二台の荷馬車を引いた二人の男が立っている。

 これ、お馬さんは大丈夫なん?

 

「ご購入の家具をお届けにあがりました」

「ありがとう。すまんが中に入れてもらえるか」

 

 二人組の男たちは荷馬車に掛けられていたロープと布を外し、テキパキと家具を中に運び込む。

 

「こちらでよろしいのですか? 部屋までお運びしますが?」

「いや。設置はこちらでやるから大丈夫だ。気を使ってもらって悪いな。それで、あとどのくらい残っているんだ?」

 

 彼らに確認してみると少し考えてから答える。

 

「そうですね、次で全て運び込めると思います」

「では、よろしく頼む」

 

 

 

 

 男たちは馬車に乗り込み、そのまま戻っていった。

 

「それじゃあ彼らが戻ってくる前に家具を設置しよう」

「はい」

 

 届いた家具を使っていない雑巾で拭いていく。

 今回届いたのはタンスが三つにクローゼットが六つ、鍵付きチェストとラックか。

 

 拭き終わったところで体力に振っていたボーナスポイントを腕力に付け替えた。

 

 少しばかり気になることがある。

 原作で家具を移動するとき、ミチオはワープを使っていない。

 コミック版やアニメ版の描写を見るにワープゲートは結構な面積があったように思える。

 それに、二メートルオーバーのベスタが屈むことなく通り抜けているのだ。家具が通らないということはないはずだ。

 

 おそらく、ワープやフィールドウォークは距離と重量、それから展開時間でMPの消費量が決まっているのだろう。

 今回やろうとしているワープを使った家具の移動は距離はないといってもいいだろう。そして、重量については俺たちの体重と家具の重さを足しても、六人パーティーの合計体重とそこまで変わらないはず。

 さらに、急いで通り抜け展開時間の短縮も図る。

 

 いけそうだよな?

 

 念のためアイテムボックスから強壮丸を取り出しロクサーヌに渡しておく。

 

「ワープを使って家具の設置をしてみようと思う。毎度のことで悪いが、もし俺が苦しみだしたらそれを飲ませてくれ」

「分かりました。お任せください、ご主人様」

 

 んじゃ、まずは寝室のクローゼットからいってみよう。

 クローゼットを斜めにし、天板側を彼女に支えてもらい、底板を一気に持ち上げ壁に向かい念じる。

 

ワープ

 

 大急ぎでゲートを潜り抜け、そのまま移動を続けるとすぐにロクサーヌもゲートから抜け出してきた。

 

 おっしゃ! 成功だ!

 MP消費も全然問題ない。これなら何度か続けられそうだ。

 

 腕力の効果があったのかはいまいちわからないが、念のためにMP回復速度二十倍へ付け替えておこう。

 

「思いのほか上手くいったな」

「こんなことができるなんて! ご主人様すごいです!」

 

 ロクサーヌさん大興奮である。

 いや、実際これは便利だわ。彼女が興奮するのもむべなるかな。

 

 強壮丸を返してもらってアイテムボックスへしまいながら考える。

 

 こんなに便利なのに何で他の人はやらないんだろう?

 

 

 

 ……ああ。実行可能な場面が限定的か。

 

 使用できるのは短距離かつ、そこまで重くない物。

 長距離に使えない以上、これを使って運送業というわけにはいかない。

 近距離ならドワーフや竜人族のような力の強い種族や、ある程度の人数がいれば事足りる。

 しかも、フィールドウォークの場合は遮蔽セメントがあればアウトで絨毯や衝立の設置が必要だ。

 それに、俺のように複数ジョブのパーティー効果で潤沢なMPもなければ、MP回復速度二十倍やデュランダルといった回復手段もない。

 

 実際に移動魔法を用いた運送業をやるとなるとハルツ公領の災害救助でやっていたように、アイテムボックスに入る物か手荷物程度が関の山だろう。

 

 ちょっとしたライフハック程度で取り立てて騒ぐほどのこともないってところか。

 

 それでも今後MPを盛りまくって中継地点を確保すればペルマスクの鏡を運ぶことも可能なはずだ。

 

 気を取り直して一階に戻り、家具を次々と運び込んでいく。

 ほどなくして全ての家具を設置し、再び掃除へ戻る。

 

 

 

 二階の廊下と階段を終え、一階のリビングを済ませダイニングに取り掛かっていると再び外から声が聞こえてきた。

 

 外へ出ると先ほどと同じように過積載の荷馬車が二台と二人の男が佇んでいる。

 

「これで全部だろうか?」

「はい。全てお持ちいたしました」

「すまないが先ほどと同じように中へ入れてもらえるか」

「承知しました」

 

 男たちは馬車に乗っていたダイニングテーブルセット、ベッドセット、ソファー、ローテーブル、すのこ、スツールを次々と運び込んでいく。

 

「以上になります。ご購入ありがとうございました」

「世話になったな。これで何か美味いものでも食べるといい」

 

 アイテムボックスから銀貨二枚を取り出し男たちに手渡す。

 

「よろしいのですか?」

 

 遠慮の言葉を発したものの、表情は期待に満ちている。

 

「ああ。ほんの気持ち程度だからな。遠慮なく納めてくれ」

「ありがとうございました」

 

 彼らは嬉しそうな笑みを浮かべ、もう一度礼を言うと馬車へ乗り去っていった。

 

 

 

 ロクサーヌの方を見るとキラキラした目でこちらを見ている。

 

「ご主人様は本当にご立派です!」

「いや。立派というほどでもないと思うが……」

 

 ベイル亭の従業員にチップを渡してないし誰にでも渡すわけじゃない。

 そこまで深い意味があったわけではなく、納品をしてもらった取引先に飲み物を渡す感覚でしただけのことなんだが……。

 

「そ、それじゃあ続きと行くか」

「はい!」

 

 

 

 バスルームで雑巾を濯ぐついでにすのことスツールを運んでおく。

 

「ご主人様、これは何に使うものなのですか?」

 

 いい質問ですね。ロクサーヌさん。

 

「まだ全て揃っていないので分からないだろうが、これはとても素晴らしい物なのだ。ちゃんと使えるようになったらきっとロクサーヌにも喜んでもらえるだろう。是非楽しみにしていてくれ」

「は、はい。楽しみにしていますね」

 

 え? なんで今ちょっと引いたん?

 

 ……いや。風呂に入ればその素晴らしさは絶対に伝わるだろう。

 

 

 

 雑巾を濯いで玄関まで戻り、残りの家具を拭いていく。

 全て拭き終わると先にダイニングの掃除まで終わらせ、先ほどと同じようにワープを使い家具を設置してした。

 一階で使うものは普通に運んでもいいはずだが、ついつい横着をしてしまう。

 人間、楽に慣れるといかんなぁ。

 

 家具の設置が終わり、一階の廊下とエントランスを拭き終えたところで、ひとまず今日の清掃は終了としよう。

 

「ロクサーヌ、お疲れ様。思ったより掃除が捗ったな。今日はここまでにしておこう。リビングと寝室に絨毯を敷き、壁にも貼り付けたら買い出しに行こう」

「お疲れ様です、ご主人様。美味しいポトフを召し上がっていただくために良い食材を選びますね!」

 

 本当にこの娘さんは可愛いなぁ。

 

 

 

 

 

田川 歩 男 18歳

探索者Lv21 英雄Lv18 魔法使いLv21 戦士Lv18 僧侶Lv15

装備 サンダル

 

BP振分 残BP:0

キャラクター再設定:1

フィフスジョブ:15

鑑定:1

必要経験値十分の一:31

詠唱省略:3

ワープ:1

ジョブ設定:1

腕力上昇:3

MP回復速度二十倍:63

 

 

所持金:388,192ナール

 

春の4日目

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