早朝の探索をサクッと終え、美味しい食事をとった後は、休憩のためにリビングへ移動する。
廊下を歩くベスタの足は軽やかそのもの。まるでそのまま地面から離れてしまいそうなほどだ。
彼女は自宅に戻ってからずっとウキウキしており、注文した服の受け取りと買い物を楽しみにしていることがうかがえる。
浮かれポンチなベスタも可愛いわぁ。
実際にどんなリアクションをとってくれるのだろう?
こんなに喜んでいるのを見ていると、期待せずにはいられない。
ロクサーヌたちもその様子を微笑みながら見守っていた。
今回はベスタが俺と同じソファーに座る番なのだが、彼女はリビングに入るや否やソファーに腰を下ろし、満面の笑みでこちらを見ながら両手を広げる。
「ご主人様、どうぞ」
どうぞって言われても……。
それを見ていた先輩三人の顔に苦笑が浮かぶ。
ほんと、今までで一番浮かれてるぞ。
いやまあ、可愛いからいいけどさ。
求めに応じて彼女の脚の間に腰を下ろすと、ふわりと優しく抱き留められた。
背中におっきいのがあたってて、幸せな感触がダイレクトなんじゃぁ……。
とても成人したばかりだとは思えない包容感を味わいつつ、心穏やかにひと時の休憩を堪能する。
食休みを終え、クーラタルの武器屋と防具屋を回ってみたものの、当然のように掘り出し物が見つかることはなかった。
スロなしやスロ一の竜革装備やダマスカス装備、それにエストック等はあったものの、今更だよなぁ。
ルークとの調整の結果、スキル結晶入手の目途が立たなくなった。
そのため、適当な装備品にスキルを付けて売り払うというのも難しい。
まあ、無駄金を使うわけにはいかないし、スルー安定ってことで。
セリーの作った装備品の売却だけを済ませたところで、ベイルへ飛ぶ。
いつもの探索者ギルドへ移動し、外へ出ようとしたところで鋭い声が耳に届く。
「ご主人様、ギルドを出たところでバラダム家の者たちが待ち構えているようです」
はあ? バラダム家? 今更俺たちに何の用だ?
訝しく思いながら視線を向けると、ロクサーヌは既に臨戦態勢に入っている。
雰囲気は剣呑そのもの。いつでも腰の物を抜き放てると言わんばかりだ。
そして、セリーとミリアも表情を引き締め戦闘モードに移行中。
頼もしい娘たちだなぁ。
一方、ベスタは戸惑ったように彼女たちの顔をキョロキョロと確認していた。
俺もそっちサイドだ。一人じゃなくてよかったー。
あたふたとしているベスタの様子に仲間意識を覚えながら、ロクサーヌに尋ねる。
「人数は? それに当主もいるのか?」
「お待ちください」
彼女は短く答え、しばらくスンスンと匂いを確認してから再び口を開く。
「決闘の生き残りである冒険者と探索者、それから魔法使いと巫女の四名ですね。当主はいないようです」
うーん……。当主じゃないのか……。
正直、こいつらが俺たちに会いに来る理由が、全然思い当たらない。
それとも、偶然居合わせただけなのか?
ぶっちゃけ面倒だから、スルーして先に帝都を回りたくなるわぁ。
内心、日和りそうになっていると、キリっとした表情でミリアが告げる。
「襲い掛かってきたとしても、ご主人様のことは私たちが守ります。安心してください」
それを聞いたセリーも頷きながら続く。
「はい。あの程度の相手なら、ロクサーヌさんが翻弄している間に始末することができるでしょう」
おいおい。セリーさんや。好戦的すぎやしないかね?
その言葉に戦慄していると、ロクサーヌが大きく頷いた。
「ええ。たいした相手ではありませんでしたからね。攻撃を食らうことなどありえません」
このお嬢様、たいした自信である。
迷宮では常に複数の魔物の激しい攻撃をいなしているのだ。実績に裏打ちされた確かな自信と言えるだろう。
「えっと、あの、私もご主人様をお守りします!」
そしてベスタも表情を引き締め、そう言った。
こんなに想ってもらえるなんて、本当に嬉しいよなぁ。
彼女たちが誇れる主人であるために、日和見主義は返上しておくか。
こと対人戦に限れば、俺はこの世界でも上位に入るだろう。いざとなればオーバードライビングからの速攻で何とでもなる。
ビビらずにいこう。
……チート能力があっても最強だと断言できないのが情けない限りだ。
だって、ロクサーヌさんが強すぎるんですもの。
毎日の修業では一対多とはいえ、オーバーホエルミングを使ってるのにボッコボコにされてるからね?
というか、タイマンでも負ける自信しかないわ。
基本スペックに差がありすぎて、下駄を履いてもその差を覆せないんよ。理不尽すぎん?
そんなことを考えながら扉を潜る。
ギルドの外へ出ると、通りを挟んだ向かいからこちらを見つめているイヌミミの集団が、目に飛び込んできた。
男三人に女性一人。ロクサーヌが言った通り、決闘のときの奴らだ。
鑑定で確認したところ、冒険者がボリス、探索者がクロード、魔法使いがエリク、巫女がジェニー。うん。間違いない。
てか、あいつら苗字がないな。買い戻された後、自由民に戻さず奴隷のままにされてんのか? それとも庶民にしているのだろうか?
まあ、俺には関係ないからどっちでもいいんだけどさ。
四人はこちらを見ながらなにやら話し合っている。
いったいなにを話してるんですかねぇ。
多少気になるものの、どうせろくでもないことだろうし、さっさと自分たちの用件を済ませよう。
「では、アラン殿の商館を訪ねよう」
声を掛けると、ロクサーヌたちは臨戦態勢のまま小さく頷いた。
その油断のない様子が実に頼もしい。
何かあれば俺も即オーバードライビングを使うことにしよう。
緊張の糸をピンッと張り直し、商館へ向かって足を進める。
通りを横断し、そのまま商館に入ろうとすると、イヌミミさんたちはこちらをチラチラうかがいながら、ゴホンゴホンと咳払いを繰り返す。
なに? えへん虫? トローチでも欲しいの?
残念。持ち合わせがありません。それじゃあ、そういうことで。
わけの分からないアプローチを華麗にスルーして、そのまま奴らの前を通り過ぎる。
こっちには用なんてないんだ。何かあるなら、そっちから話しかけてきな。
「ちょ、ちょっと待ってくれ!」
商館の前まで移動し、ドアノッカーに手をかけようとしたところで、後ろから声を掛けられた。
あーあ。スルーできなかったかぁ。
振り返るとバラダム家御一行は、必死の形相で俺をガン見している。
他の三人はともかく、巫女さんは美人さんだからちょっとドキッとしちゃうよね。
性格が終わっているのを差し引いても、相当なもんだもん。
「ご主人様?」
そんなことを考えていたところ、可憐で美しいのにとんでもないプレッシャーを帯びた声が耳に届く。
いや、違うんです!
今まで生きてきて、女性にあんな視線を向けられたことがなかったから、ほんのちょっと動揺しただけなの!
好意を抱いたとか、彼女とどうこうなろうなんて一切考えてません!
それにほら、俺には君たちがいるわけだし、他に目移りすることは絶対ないですから!
内心で必死に弁明していると、声の主は首を横に振る。
あ、えっと、中でもロクサーヌは世界一大切で、世界一大好きな特別な女性だから! 本当だから! 嘘じゃないから!
その瞬間、彼女の顔に女神のような微笑みが浮かび、嬉しそうに頷きを返す。
どうやら正解だったらしい。
というか、前にもこんなことがあったよなぁ。
この娘はエスパーなんだろうか? もしそうだとしても、彼女ならなくはないと納得してしまう。
俺たちの様子を見て、セリーは呆れ、ミリアは苦笑を浮かべ、ベスタは戸惑いを隠せていない。
おかしいなぁ。シリアスな場面だったはずなのに、どうしてこんな空気になったんだろう……。
自問自答していると、冒険者の男が改めて口を開く。
「あんたに用があるんだ。少しだけ時間をもらえないか?」
その言葉に合わせて他の三人も大きく頷いた。
えー? どうせろくなことじゃないんでしょー? 嫌なんですけどー。
俺が乗り気じゃないのを察したのか、巫女さんがずいっと前に出る。
「あなたにとっても損はないことだと思います。話だけでも聞いてもらえませんか?」
彼女はそう言うと、上目遣いでこちらを見つめてきた。
俺に色仕掛けは効かないぞ?
確かに美人さんだとは思うし、ドキッともするが、うちの娘たちほどの威力はない。
それに君から、『今まで見たことがないような醜い男』と言われたことを忘れてないからね?
でも、ここで待ち構えていたってことは、今後もつきまとわれる可能性があるんだよなぁ。
……いや? そもそも、なんで俺たちがここにくるって知ってたんだろう?
その旨を尋ねたところ、魔法使いがアランの商館を示しながら答える。
「そこにいたときに、市が立つ日がくるたびに、あんたたちが探索者ギルドから出てくる姿を見ていたからな」
マジかぁ。もしかしたら他にもこんな風に俺たちの行動を把握している者がいるかもしれないなぁ。
とはいえ、そんなことを気にして外出を控えるというわけにもいかないし、まあ気にしないようにしよう。
こいつらの話を聞くか否か。どうしたもんかねぇ。
ロクサーヌの方をうかがうと、好戦的な表情で力強く頷きを返してきた。
きっと、何かあれば実力で何とでもなると思ってんだろう。
まあ、それについては俺も同意するんだけどさ。
セリー、ミリア、ベスタを見回すと、彼女たちも問題ないというように頷いている。
そんじゃ、とりあえず話だけでも聞いてみるか。
「で、用というのはなんだ?」
問いかけたところ、冒険者が話を切り出した。
「買い戻された後、俺たちは今までのように迷宮探索で家を支えることにしたんだ。しかし、あんたたちも知っての通り、今までの装備品はなくなってしまった」
うん。知ってる。というか俺がかっぱいだわけだし。
「他の装備品を用意しようと武器屋や防具屋を回ったんだが、うちの状況が伝わっているらしくてな。どこも売ってくれなかったのだ」
お前らサボーの力をバックに、今までさんざん支払いを踏み倒してきたらしいじゃねーか。そりゃ当然そうなるだろうよ。
それに、こいつらが何を言いたいのかわかり始めたぞ。マイレボリューションだ。
「それで、もしよければ俺たちの装備を買い戻させてはもらえないだろうか?」
いやいやいや。『お前たちの』じゃなくて、『俺の』な。既に所有権はこちらに移ってるから。
それに、買い戻すって言われても、スキル結晶を融合したものや売り払ったもの。絶対に手放すわけにはいかないものがあるんだよなぁ。
こちらが難色を示しているのを察し、冒険者は慌てて言葉を付け加える。
「もちろん、買取額には色を付けるつもりだ。旦那様にも許可をいただいているので何も問題ない」
うーん……。どうしたもんか……。
「ご主人様、ここは私にお任せいただけませんか?」
悩んでいると、セリーが声を上げる。
その目は怪しい光を灯し、口元はニヤリと歪んでいた。まったく。可愛い顔が台無しだ。
……いや。これはこれで可愛いな。
……それにしてもこの娘さん、いったい何を企んでいるんですかねぇ。
まあ、その悪徳商人ムーブが俺に向くことはないし、問題ないと言えば問題ない。
白紙委任状を渡しますとも。
「うむ。すべてセリーに任せる。好きにするといい」
それを聞くと彼女の表情が輝いた。
「はい! お任せください!」
ほんと、いったい何を企んでるんですかねぇ。
彼女は冒険者と相対し、ディールを開始するべく口火を切った。
「まず確認ですが、あなたたちが迷宮探索を再開するための装備品を求めているのでしたら、死亡した二人の装備品は対象外でいいですよね?」
セリーの言葉に奴らの顔が歪む。
どうやらあわよくばそちらも買い戻しておきたかったらしい。
でも、どちらの装備品にもスキルが付いていたり、装備制限のある高性能品だぞ?
おいそれと買い戻せる額じゃないだろう。
もしかしたら、俺たちが価値を把握していなかった場合、ワンチャン買い叩けると思っていたんじゃないだろうか?
「……ああ。それで問題ない」
冒険者が苦々しげに頷きを返すと、セリーはさらに続ける。
「ひもろぎのカッカラ、ズケット、ビットローファー、聖槍については私たちが使用しているため、手放すわけにはいきません。また、既に売り払ったものもあるため、すべてを買い戻せるとは思わないでください」
すると、奴らから悲鳴のような声が上がった。
「ちょっと待ってくれ! 他はともかくひもろぎのカッカラだけは何とかならないか!? あんたたちの中に魔法使いはいないんだろ!? なら使うことはないはずだ!」
「他については諦めも付きますが、聖槍だけは話が別です! あれは貴重なギルド神殿を使用して限定を施した逸品! どうしても買い戻す必要があるのです!」
魔法使いと巫女さんは必死の形相で訴えかけてくる。
それは悪手だと思うぞ?
ほら、見たことか。うちのちっさくて可愛いセラーがわっるい顔をしてんじゃん。
……どうでもいいけど、セラーのセリーって駄洒落みたいだよね。
益体もないことを考えている間も取引は続いていく。
「これらは既にご主人様の迷宮探索プランに組み込まれているのです。申し訳ありませんが、絶対に譲るわけにはいきません」
うん。彼女の言葉に嘘はない。
聖槍はともかく、他は実際に使ってるわけだし。
巫女さんが縋るようにセリーへ尋ねた。
「他は全て諦めますので、聖槍だけは何とかなりませんか?」
それにしてもこの娘、いい性格してんなぁ。
そしてセリーは彼女の言葉をにべもなく切って捨てる。
「無理です。聖槍については既に限定を解除してあります。あなたではもう持つことすらできないでしょう」
おいおい。臆面もなく真実じゃないことを言い放ちおったぞ。
まさに鬼。鬼の所業である。
「そんな……」
セリーの言葉を聞き、巫女さんは呆然とした様子で呟きを漏らしていた。
今は限定解除してないけど、遠くないうちにそうなることは確定してるし、完全に嘘だとは言い切れない。
諦めさせるための優しい方便という側面がないこともないんじゃないかな?
チラリとセリーの表情を確認したところ、小悪魔のような笑みを浮かべていた。
……うん。ないな。まあなんというか、ご愁傷様。
巫女さんが轟沈したところで、魔法使いが声を上げる。
「ひもろぎのカッカラは!? ひもろぎのカッカラはどうなんだ!?」
「無理です。ご主人様もいずれ魔法使いを迎えることでしょう。そのときに備え、手元に残しておかなくてはなりません」
すると、魔法使いは代替案を出す。
「それなら、こういうのはどうだ? あんたたちが魔法使いを迎えるまでの間、俺に貸し出すんだ。これなら貸出料も入るし、あんたたちにも損がないだろう?」
アホか。
決闘の前は散々横柄な態度をとり続けた挙句、俺のロクサーヌを辱めるとぬかしやがったんだぞ?
物の貸し借りが成立するほどの信用が、お前にあると思うのか。
「持ち逃げの危険がある上に、あなたたちが迷宮で死亡するかもしれないじゃないですか。諦めてください」
そうそう。セリーの言う通り。
俺だけではなく、ロクサーヌとミリア、それにベスタまでもが大きく頷いていた。
落ち込んでいる二人を前に、うちの頼りになるセラーは強気な笑みを浮かべながら悪魔のささやきを投げかける。
「その代わりと言っては何ですが、私たちの手元にはひもろぎのロッドと吸精のダマスカス鋼ステッキがあります。魔法使いと巫女が使うものとしてはうってつけではないでしょうか? 売り先は決まりかけてはいるのですが、色を付けるというのであればお譲りするのもやぶさかではありません」
はあ!? ひもろぎのロッドに吸精のダマスカス鋼ステッキ!? 手持ちにそんなもんないぞ!?
あっ、いや。待てよ?
スロット付きのロッドとダマスカス鋼のステッキはあるし、ヤギとはさみ式食虫植物、そしてコボルトのスキル結晶も二つ以上ある。
いつでもそれらを作り出すことが可能だ。
まさかこやつ、ここでドカンと儲けるつもりか!
驚いてセリーの顔を凝視していると、彼女はそれに気が付き、愛らしい表情でウインクを飛ばす。
ほんと、めちゃくちゃ可愛い娘だなぁ……。
彼女の魅力にやられている間に、あれよあれよと話が進んでいった。
他の装備品については倉庫を確認してみないと何が残っているか分からないということ。
融合を行ったものもあるので、それも責任をもって買い取ること。
価格は相場の一・五倍とすること。
そして明日の朝、クーラタルの商人ギルドでお互いにそれぞれの武器商人と防具商人を用意した上で、取引を行うこととなった。
「ご主人様、よろしいでしょうか?」
え? あ、うん。
「そうだな。問題ないだろう」
セリーの言葉に返事をすると、バラダム家御一行は安心したように息を吐き出した。
どうやらお互いにWin-Winの取引になるらしい。
どうしようもないクソ野郎どもだが、恨まれるよりはマシか。
彼らはもう一度感謝を述べると、探索者ギルドへ向かって歩き出す。
……あの魔法使い、ずっと俺の足下を見てたな。
なんでお前がビットローファーを履いてんだと思っていたのだろう。
何か聞かれたとしても、ハルツ公に対してしたのと同じ言い訳を繰り返すだけだから、何も問題ないさ。
彼らを見送ったところで、セリーが余裕のない表情で声を上げる。
「ご主人様! 急いでクーラタルに戻りましょう!」
うん? なんで?
田川 歩 男 18歳
遊び人Lv63 勇者Lv54 冒険者Lv58 魔道士Lv58 武器商人Lv37
装備 オラクルビットローファー 身代わりのミサンガ
BP振分 残BP:14
キャラクター再設定:1
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フィフスジョブ:15
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夏の12日目