異世界迷宮へ行ったなら   作:三星織苑

272 / 300
270 山脈

 

 

 

 

 

ベイル

 

 

 

 

 

「アラン殿。今回は本当に世話になった。感謝する」

 

 外まで見送りに来た彼にそう告げると、いつもの形式ばった礼を執る。

 

「こちらの方こそ盗賊襲撃の際にご助力を賜ったばかりか、貴重な奴隷をご売却いただき、誠にありがとうございました。アユム様、今後とも当館をお引き立てのほど、よろしくお願い申し上げます」

 

 いやぁ……。『今後とも』とか言われても、もう奴隷を購入することはないんだよなぁ……。

 金を使うのはルティナのメイド服を注文するくらいだろう。

 とはいえ、もしかしたらバラダム家との騒動のように、奴隷を売却することはあるかもしれない。

 そのときは、またここに売却するとしよう。

 

「うむ。機会があればよろしく頼む。では、俺たちはこれで失礼する」

 

 彼女たちに声を掛け、探索者ギルドへと足を向けた。

 

 

 

 

 

ベイル

探索者ギルド

 

 

 

 

 

「買い物と服の受け取りは私たちで済ませておきますので、ご主人様はルーク氏を訪ねた方がいいのではないでしょうか?」

 

 探索者ギルドへ入ったところでロクサーヌが話しかけてきた。

 

 うん? どういうことだ?

 

 突然の言葉に戸惑っていると、セリーが補足を入れる。

 

「明日の取引の際にはお互いに武器商人と防具商人を用意する必要があります。あらかじめ手配をしていた方がいいでしょう」

 

 あ、なるほど。そういうことね。

 

 表情を確認したところ、ミリアとベスタも驚いている様子はない。

 おそらく、ベスタが試着している間に話をしていたのだろう。

 

 確かに当日いきなり行ってルークが他の客の対応をしていたら面倒だ。

 それにルークとは別で武器商人にも声を掛ける必要があるし、今日のうちに手配しておくべきか。

 

「分かった。それじゃあ、君たちを帝都に送った後、俺はクーラタルの商人ギルドへ顔を出してくる」

 

 その言葉を聞き、彼女たちは笑顔で頷きを返す。

 四人ともめちゃくちゃ可愛いなぁ。

 

 おっと。愛の弾丸で撃ち抜かれている場合じゃない。大切なことを聞いておかないと。

 

「あれはちゃんと持っているか?」

 

 問いかけたところ、ロクサーヌ、セリー、ミリアが背後のリュックをポンと叩いた。

 

「はい。ちゃんとここに」

「外に出る際は常に携帯しています」

「何かあったら大変ですからねー」

 

 オッケー。

 まあ、滅多なことはないと思うが、あれがあれば万が一、貴族や富豪に絡まれても安心だ。

 

「不埒な輩に絡まれたら遠慮なく武器を抜け。なに、ハルツ公が後ろ盾となってくださるのだ。どうとでもなる」

 

 俺の言葉に三人は好戦的な笑みを浮かべながら、ギルドに良い子のお返事を響かせていた。

 

 もし不届き者に絡まれたら嬉々としてブチのめしそうだなぁ。

 

 しかし、ベスタだけは戸惑ったようにロクサーヌたちの様子を見つめている。

 

 魔物や盗賊の危機が身近にある世界なのに、この娘は全然擦れたところがない。

 できればこのままでいてほしいものである。

 まあ、好戦的になったとしても、それはそれで可愛いと思うけどね。

 

 そんなことを考えながらワープゲートを展開した。

 

 

 

 

 

クーラタル

商人ギルド

 

 

 

 

 

 ロクサーヌたちを帝都に送り、そのままクーラタルの商人ギルドへと飛ぶ。

 

 いつものように受付でルークを呼び出すと、程なくしてベレー帽のイケメンが申し訳なさそうな表情を貼り付けて近づいてきた。

 

「アユム様。スキル結晶の落札ができず、ご迷惑をかけております」

 

 うん? ああ、そういうことか。

 今まで通りなら今日がスキル結晶受け取りの日だったはずなのに、前日に連絡がなかったことで苦情を言いに来たとでも考えたのだろう。

 

「いや。まったくの別件だ。スキル結晶についてはそう簡単に落札できると思っていないので、ルークを責めるつもりはない」

 

 その言葉を聞き、彼の顔にいつもの胡散臭い笑みが戻る。

 

「そうでございましたか。スキル結晶については私の入札が警戒されており、落札がかなり難しい状況となっているため、それを聞いて安心いたしました。それではご用件をうかがいますので、商談室へご案内いたします」

 

 

 

 彼の後に続き廊下を歩きながら考える。

 

 ルークの入札が警戒されているのか……。

 うーん……。派手にやりすぎたのかもしれない。

 ほぼすべてのスキル結晶に、相場を大きく超える額で買い注文を出すなんて、バブル期の成金みたいなムーブをかましたんだ。

 ぶっちゃけ排斥運動が起こっても不思議じゃない。

 

 この世界は一人用のRPGのように、俺の都合で動いているわけじゃなく、一人一人違う意思を持っている人が暮らしている、紛れもない現実なのだ。

 調子に乗った真似をした場合、反感を買うのは自明の理だろう。

 もう少し考えて動くべきだったなぁ。

 

 まあ、後悔先に立たず。今後はよく考えてから行動することにしよう。

 

 思索を振り払い、歩みを進める。

 

 

 

「スキル結晶のことでないとなれば、本日はどういったご用件でしょうか?」

 

 いつもの商談室へ通され、向かい合わせのソファーに腰を下ろしたところでルークが切り出してきた。

 

「うむ。実は先ほどバラダム家の者たちに出くわしてな――」

 

 

 

 一頻り事情を伝えたところ、奴はあごに手を添えながら口を開く。

 

「……なるほど。少し前から我々防具商人や武器商人の間で噂になっていたのです」

「ほう?」

 

 視線で続きを促すと、ルークは話し始めた。

 

「バラダム家が近隣の武器屋と防具屋を回り、装備品を手に入れようとしたようなのです。ですが、彼らは支払い踏み倒しの常習犯。それに加え家も傾きサボーの圧力もなくなっています。恨みを買っていたこともあり、どこも販売しなかったとのこと」

「値段を上乗せすると言っても売らなかったのか?」

「それほど恨みを買っていたのでしょう。金銭の問題ではなく、面子の問題なのです」

 

 うわぁ……。さっきのスキル結晶の件もあって身につまされるわぁ。

 これを他山の石として、今後は自分の言動を見直そう……。

 

 内省している間も彼の話は続く。

 

 新たに製造してもらおうと鍛冶師や隻眼の伝手をあたったが、そちらでも踏み倒しを繰り返していたらしく、袖にされたらしい。

 オークションを狙ったものの、希望通りの出品が少なく、そのうえ仲買人連中にブロックされまくりで思うようにいかなかったようだ。

 

 驕れる者も久しからず、か。

 

 貴族に列せられたわけでもないのに、我が世の春を謳歌していたのだ。

 一度躓けば寄ってたかって袋叩きに合うのも当然だろう。

 これほど自業自得という言葉がピッタリなシチュエーションもそうはない。

 

 ……本当に俺も気を付けないとな。

 

 自分に言い聞かせながら、ルークに問いかける。

 

「それでどうだろう? 報酬は支払うので同席してもらえないか?」

 

 すると、奴はアルカイックスマイルをこちらへ向けた。

 

「もちろん問題ございません。また、アユム様から報酬をいただくこともございません。通常、鑑定料は買い手側が負担するものです」

 

 そういうもんなの?

 あ、でも、今まで購入した物を鑑定するときの料金は全部俺が負担してるし、売却したときの分は払っていない。

 なるほど。そういうことだったのか。

 

「それに、おそらく私の出番はないでしょう」

 

 うん? 鑑定しないのか? どういうことだ?

 

 俺が疑問を覚えたことに気が付いたのだろう。ルークが説明を行う。

 

「取引の流れは、売り手が装備品を提示し、買い手側が鑑定を行います。それで問題がなければ支払いを行い、取引成立となります」

 

 そうだな。俺も幾度となく行った取引の流れだ。

 

「ですが、取り扱う商品が多い場合、稀に取り違えが発生するのです。また、取引相手が盗賊やそれに協力する者の可能性もゼロではありません。そうなれば悪意を持ってすり替えを行うことも考えられます。それに備えて多数の装備品を扱う際には、売り手買い手ともに防具商人や武器商人を手配するのです」

 

 なるほど。鑑定がなければまったく同じ見た目なので、スキルの有無が判断できない。

 例えば、ひもろぎのスタッフだと思って出したのに、買い手側の武器商人がただのスタッフだと判定した場合、売り手側の武器商人が確かめるわけか。

 そうすることによって、取り違えがあったのか、それとも買い手側が誤魔化そうとしたのかがハッキリする。

 

「ですが、そのようなことが起こることはほとんどなく、売り手側の防具商人や武器商人の出番が来ることは本当に稀です。しかも売り手が、防具鑑定や武器鑑定に頼らないほどの目利きであり、さらに彼らを完膚なきまでに叩きのめしたアユム様なのです。今回はそのようなことは起こらないでしょう」

 

 そりゃそうだ。

 俺は鑑定で装備品の名称もスキルも確認できるため、取り違える可能性はゼロ。

 そして、それでも装備品を誤魔化そうとした場合、二回目の決闘のゴングを鳴らせばいい。

 そんなことになればバラダム家は今度こそ一家離散の憂き目にあうだろう。

 奴らもそこまで馬鹿じゃないはずだ。

 

「なるほど。心配は無用か」

「ええ。万が一そのようなことがあっても、防具は私が責任を持って鑑定いたします」

 

 ルークは腹に一物ありそうな笑みを浮かべながら頷きを返す。

 

 ……あんまり信用できないなぁ。

 

 

 

 胡乱な色が混じっているであろうを俺の視線などお構いなしに、奴は問いかけてきた。

 

「ところで、武器商人の当てはございますか?」

 

 そうそう。それだ。

 俺の知っている武器商人は、ヒルダとスキル結晶落札の協定を結んでいた男だけ。

 この二人だと……。

 

「一応、ヒルダにあたってみようかと考えているが、どうだろう?」

「ええ。問題はないかと。彼女に声を掛けてまいりますので、少々お待ちいただけますか?」

 

 ルークはそう言って席を立ち、部屋の外へ出ていった。

 先ほどこちらサイドの武器商人や防具商人の出番はないと聞いただけに、ぶっちゃけどっちでもいい。

 でもまあ、ヒルダが引き受けてくれたら話が早くて助かるか。

 

 

 

 キャラクター再設定を眺めながら時間を潰していると、程なくして扉が開き、ルークとヒルダが部屋に入ってきた。

 そして、ソファーへ腰を下ろすなり面白そうな表情を浮かべ、彼女が口を開く。

 

「アユム様がどのような取引を行うのか、興味がございます。是非私も同席させてください」

 

 セリーがあらかた道筋を付けた後だし、どのような取引といわれてもなぁ。

 

「うむ。それではよろしく頼む」

 

 言葉に答えると、ヒルダは質問を投げかけてくる。

 

「ところで、どのような装備品を売却なさるのですか?」

 

 どのような?

 ひもろぎのロッドと吸精のダマスカス鋼ステッキは確定として、さっき買ったスロなしはそのまま売却する。

 しかし、スロありについては何のスキル結晶を融合するのか決まっていない。

 

 うーん……。ここは適当に誤魔化すか。

 

 意識して不遜な表情を作る。

 

「明日の楽しみにしていてくれ。だが、それなりの品だとは言っておこう」

 

 それを聞いたヒルダとルークの顔に驚きが浮かんだ。

 しかし、そこは百戦錬磨の仲買人。すぐに表情を整え応じる。

 

「まあ。さすがオークションで固有名の付いた装備品を落札なさったお方。豪気なことです」

 

 ヒルダの言葉に頷きながら、ルークも続く。

 

「ええ。アユム様はお金やスキル結晶、それに装備品の取り扱いが豪胆で、本当に驚くばかりです」

 

 貴重な装備品の入手難易度が他の人とは比べ物にならないからなぁ。

 今だって、サイクロプスとコボルトのスキル結晶、それからオリハルコンの剣が二つずつある。

 つまり、激情のオリハルコン剣ならすぐに二本作れるわけだ。

 普通の人からすれば完全にチート野郎だよなぁ。

 

 

 

 その後、世間話とスキル結晶についての話を行う。

 残念ながらヒルダからも、ルークの入札が警戒されていると告げられた。

 特にコボルト、ウサギ、ヤギ、芋虫については、絶対に落札させないように動いているらしい。

 

「クーラタルの商人ギルドでは春の間、有用なスキル結晶がほとんど手に入らない状況でした。さすがに当面、それらをルークが落札することは難しいでしょう」

 

 クソが。完全に仲買人たちが手を組んで入札妨害をしてるじゃねーか。日本なら消費者庁案件だぞ。

 ……といっても、この世界にそんなもんないんだよなぁ。

 しかも、先ほどの話からも分かる通り、調子に乗った振る舞いをすれば、手痛いしっぺ返しを食らってしまう。

 張り合うようなことはせず、嵐が過ぎるのを待つしかない。

 

 人知を超えた力があろうと、大金を持っていようと、増長することなく生きていこう。

 人の営みの中で暮らすというのは、そういうことなのだから。

 

 ……ん? なんか今、スーパーヒーローの苦悩みたいなことを考えていなかったか?

 全然似合わねー!

 

 

 

 結局、ルークたちとは結構な時間、世間話に興じてしまった。

 なかでも最上位種のスキル結晶や、固有名の付いた装備品が出品される頻度が聞けたのは大きい。

 話によると、ハイコボルト以外の最上位種のスキル結晶は季節ごとに、多くても三、四個程度。少ないと一つも出品されることはないそうだ。

 俺が春の間にオークションで手に入れたのは、風琴アルガンと転移ヒツジ。オークション以外では慈母ヤギと魔眼トロール。かなりの成果といえるだろう。

 

 一方、固有名の付いた装備品については、出品される頻度は数十年に一度という話だった。

 四十五歳のヒルダでも、前回のセブンリーグブーツで二回目だったらしい。

 これをオークションで狙うのは無理ゲーだな。

 

 ロクサーヌたちを待たせてもいけないので、ある程度のところで暇を告げて商人ギルドを後にする。

 

 

 

 

 

帝都

 

 

 

 

 

 帝都の冒険者ギルドを出たところで、パーティー編成中の効果で感じた彼女たちのもとへと足を踏み出した。

 

 四人がいる方向は高級服屋。買い物と大衆服屋での受け取りは済ませたようだ。

 どうやら俺は長いことルークたちと話をしていたらしい。

 

 でもまあ、たまには主人を交えず羽を伸ばすのもいいだろう。

 鬼の居ぬ間に洗濯ってことで。

 

 そんなことを考えながら、白亜の通りを歩く。

 

 

 

 高級服屋が目に入り近づいていくと、扉が開き愛しい娘たちが姿を現した。

 そして、中でも一際大きな人影がものすごい勢いで駆け寄ってくる。

 

「ご主人様! こんなに楽なのに、とても動きやすいんです!」

 

 ベスタはそう言うと、手を広げ、俺の目の前でくるりと回った。

 そのまま一回転してこちらに体を向けたところ、その豊かな山脈は慣性の法則に逆らい、大きく揺れることなく彼女の動きに追従する。

 

 すごっ。え? マジ? いやいやいや。普段より大きくない? どういうこと?

 

 思わず目を奪われていると、微笑みながらロクサーヌが告げる。

 

「今までは小さな肌着で無理やり締め付けていたのです。体に合ったものを身に着け、また形を整えたため、このようになってしまいました」

 

 はぁー。よく分からないけど、いわゆる寄せて上げるというやつなんだろうか?

 さすがファンタジー素材を用いたブラジャー。そびえ立つ霊峰が揺れ動くことがないよう、しっかり支えているらしい。

 あの服屋は本当にすごい技術を持っているようだ。

 

 そして、セリーも近づいてきて、苦笑を浮かべながら口を開く。

 

「先ほどからずっとこの調子なのです。こんなに楽なのは胸が大きくなってから初めてなのだとか」

 

 さらに、ミリアが満面の笑みで声を発した。

 

「ベスタはずっとご主人様のおかげだと言ってましたよー」

 

 それを聞き、ベスタが声を上げる。

 

「はい! 本当にご主人様のおかげです! 見てください! こんなに楽なんです!」

 

 楽かどうかは見ただけじゃ分かりまへんがな。

 

 いやでも、本当にすごいな。

 グラビアアイドルですら見たことがないようなサイズだし、何なら漫画やアニメキャラでもなかなかお目にかかれないサイズだぞ。

 改めて見ても驚いてしまう。

 

 ……よくよく考えれば、漫画やアニメに登場したキャラクターだったわけなのだが、そんなことはまったく意識していなかった。

 違うところもたくさんあるし、共に過ごす大切な存在だと断言できる。

 いつの間にか、彼女たちを原作のキャラクターと重ねることもなくなってるもんなぁ。

 今となっては、大好きだった物語の大好きだった登場人物ではなく、ただただ愛しい女性たちだ。

 

 はしゃいでるベスタとそれを優しい表情で見つめている先輩たち。

 その姿を見ているだけで、胸の奥が温かくなってくる。

 

 うん。余計なことは考えずこれからも彼女たちを大切にしていこう。

 

 思索を振り払い、ロクサーヌたちと笑い合いながら、子供のように浮かれているベスタを愛でつつ、移動を開始する。

 

 

 

 

 

田川 歩 男 18歳

遊び人Lv63 勇者Lv54 冒険者Lv58 魔道士Lv58 武器商人Lv37

装備 オラクルビットローファー 身代わりのミサンガ

 

ロクサーヌ ♀ 16歳

巫女Lv37

装備 貫通のミセリコルデ セブンリーグブーツ 身代わりのミサンガ

 

セリー ♀ 16歳

鍛冶師Lv34

装備 駿馬の竜革靴 身代わりのミサンガ

 

ミリア ♀ 15歳

探索者Lv31

装備 強権のエストック 駿馬の竜革靴 身代わりのミサンガ

 

ベスタ ♀ 15歳

竜騎士Lv28

装備 強権のレイピア ダマスカス鋼の剣 皮の靴 身代わりのミサンガ

 

BP振分 残BP:14

キャラクター再設定:1

必要経験値二十分の一:63

フィフスジョブ:15

詠唱省略:3

鑑定:1

ワープ:1

買取価格三十パーセント上昇:63

 

所持金:3,478,665ナール

 

夏の12日目

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