彼女たちと合流した時点で正午近くになっていたため、昼食をとるために自宅へ戻る。
この十日余りでベスタもすっかり料理に慣れたようで、食材の大きさが不揃いで誰が作ったか丸分かり、なんてこともなくなった。
教えられたことを素直に聞くし、物覚えも悪くない。この娘は本当に料理上手になるかもな。
美味しい料理を堪能した後は、二階から装備品とスキル結晶を回収し、リビングでバラダム家へ売却するものについての打ち合わせを行う。
スキル結晶と装備品をローテーブルに置き、セリーに告げる。
「じゃあ、お願い」
「はい。お任せください」
彼女は自信満々に頷くと、立て続けに詠唱を行い、あっという間に貴重な装備品を作り出した。
んじゃ、確認っと。
ひもろぎのロッド 杖
スキル 知力二倍 空き
吸精のダマスカス鋼ステッキ 杖
スキル MP吸収
オッケー。問題ナッシング。
視線の端でロクサーヌたちから褒められ、はにかんだような笑みを浮かべているセリーを捉えながら思索を巡らせる。
購入した物のうち、スロなしについてはそのまま売却すればいい。問題はスロありについて。
物置を確認したところ、スロットが一つの竜革の靴も保管してあった。
なので、えーっと、ダマスカス鋼の額金、竜革の帽子、竜革のグローブ、竜革の靴にスロットが付いているわけだ。
ひもろぎのロッドと吸精のダマスカス鋼ステッキをアイテムボックスにしまい、新たにスロット付きの装備品をローテーブルに並べていく。
彼女たちはその様子を興味深そうに見つめていた。
すべて出し終えたところで、残っているスキル結晶を伝えることにする。
「じゃあ、いま手元にあるスキル結晶を確認していくね。えーっと――」
「ご主人様、残りのスキル結晶なら把握していますので問題ありません」
アイテムボックスを見ながら鑑定結果を読み上げようとすると、ロクサーヌの清らかでありながら艶に満ちた声がそれを遮った。
顔を上げ、彼女たちの方へ視線を向けたところ、ロクサーヌ、セリー、ミリアだけでなく、ベスタまでもが何の気負いもなく頷いている。
マジで? 俺なんて有用な物以外はすぐに忘れるというのに、この娘たちはきっちり覚えてんの?
しかも、ベスタはいつスキル結晶の在庫を把握したんだ?
俺のいないところで、他の娘とそんな話をしていたのかね?
……それはいったん横に置いておこう。いまは何を融合するかについてだ。
話し合いの結果、二つ以上残っているヒツジ、サンゴ、人魚はすぐに決まった。
残り一つはアリと木人で悩んだものの、器用上昇は自分たちで使うことはないだろうということで、木人を融合することにする。
覚醒のダマスカス鋼額金 頭装備
スキル 睡眠防御
柔軟の竜革帽子 頭装備
スキル 石化防御
技工の竜革グローブ
スキル 器用上昇
防水の竜革靴
スキル 水防御
よし。オッケー。
これらに身代わりのミサンガを四つ加えて売却ってことで。
完成した装備品をしまっていたところ、セリーが話しかけてくる。
「ご主人様、この機会に私が使っている強権のダマスカス鋼槍を売却してはいかがでしょう?」
うん? 強権のダマスカス鋼槍を?
「どういうこと?」
問いかけたところ、彼女はこちらをジッと見つめながら説明を始めた。
「順調にいけば、近いうちにオリハルコンの槍が装備できるようになるでしょう。それまでは聖槍を使用すればいいですし、何でしたら先に聖槍へ詠唱中断を付け、ルティナが加入するまでは私が使うという手もあります。相場の一・五倍で売れる機会などそう多くはありません。この機会を逃さず、売却した方がいいかと」
なるほどなぁ。
セリーは一昨日、オリハルコンの槍が装備できそうな手ごたえがあると言っていた。
おそらく、もう少しレベルが上がれば問題なく装備可能となるだろう。
なら、高値で売りさばいておいた方がいいか。
「確かにセリーの言う通り、強権のダマスカス鋼槍も売却に回した方がいいかもね。明日の早朝までは君が使って、商人ギルドへ行く前に受け取ることにしよう」
彼女はその言葉に頷きを返す。
「はい。探索が終わったら聖槍と交換することにします」
となると、問題は先ほど彼女も言った通り、詠唱中断をどちらに付けるべきか、だ。
その旨を尋ねたところ、ミリアが自信満々の表情を浮かべながら答える。
「オリハルコンの槍にしましょう! 魔物の半分はお姉ちゃんが引き受けてくれるのです。セリーさんが装備できるようになるまでは、私とベスタで詠唱を潰します!」
それを受け、ベスタも大きく頷いた。
「はい! 私たちにお任せください!」
おー。ミリアもベスタも、気合が入ってるじゃん。
二人の様子を満足そうに見つめていたロクサーヌが口を開く。
「ご主人様、セリーならすぐにオリハルコンの槍を装備できるようになるはずです。そう長い間ではないはずなので、ここは二人に任せてはいかがでしょう」
セリーに視線を向けると、彼女も微笑みながら頷きを返す。
「ベスタが加入する前はミリアと私で対処していたのです。状況的にはあまり変わりません」
まあそうだな。
というか、人数自体も増えているわけで、楽になっているまである。
「分かった。それじゃあ、詠唱中断はオリハルコンの槍に付けることにしよう。ただ、融合は装備できるようになってからで」
ワンチャン、それまでにもっと良い装備品が手に入るかもしれないし、あらかじめ融合しておくのはなしだ。
「はい。それが合理的でしょう」
セリーが相槌を打つと、他の三人も同意を示した。
話がまとまり、のんびり過ごそうとしたところで、ふと気づく。
そういえば、アイテムボックスの肥やしになっている頑強の竜革鎧があったな。
俺のロールは基本的にスペルキャスター。
魔法攻撃力に寄与しない装備品を身に着けるわけにはいかない。
一応、予備として保管はしてはいるものの、今後出番が来ることはないだろう。
それに皮革系の鎧は男性用で、彼女たちが装備することも不可能。
これも売り払った方がいいかな?
四人にその旨を尋ねたところ、少し考えセリーが意見を述べる。
「頑強の竜革鎧を売却したことが公爵様に伝わった場合、どうしてアルバの方を装備しているのだと疑問を抱かれるかもしれません」
あー。それがあったか。
ハルツ公には、物理ダメージ削減のスキルが付いたので、アルバの方を身に着けていると説明している。
物理、魔法ともに、素の防御性能はアルバより竜革の鎧の方が上だ。
同じスキルが付いているなら、アルバのメリットは魔法攻撃力が上昇するだけ。魔法職や回復職以外が装備する意味はない。
それなのに頑強の竜革鎧を売却したことを知られてしまえば、どうしてそっちを装備しないんだと勘繰られるだろう。
うーん……。せっかくの機会だが、今回は見送るしかないか。
諦めかけていたその時、リビングに疑問の声が響いた。
「今日試しに融合したら成功したことにして、高く売れるから頑強の竜革鎧を売ったことにするんじゃ駄目なんですか?」
声の聞こえてきた方へ視線を向けると、ネコミミさんが首をかしげている。
……なるほど。
一・五倍で売却するチャンスだったため、融合を試み、それが成功したことにするわけか。
俺用の物理ダメージ削減が付いた装備品兼、魔法使いをパーティーに加えたときのためにアルバを残す。
そして、高額で売却できるため、頑強の竜革鎧を手放す、と。
……筋は通っている気がするが、どうなんだろう?
彼女たちに問いかけたところ、ロクサーヌが口を開く。
「公爵様はご主人様が常人とはかけ離れた思考をしていらっしゃることをご存じです。おそらく問題にはならないでしょう」
え? ロクサーヌ? それはどういう意味なの?
あまりの言葉に呆気に取られていると、ベスタも続く。
「そうですね。ご主人様なら、そういうわけの分からないことをしても不思議ではありません。それに、頑強の竜革鎧を売却したことが公爵様に伝わると決まっているわけではありませんからね」
ベ、ベスタ? そんな穏やかな表情でバックスタブを決めるなんて……。
さらにセリーが呟きを漏らす。
「そうですね……。普通の人が同じことをした場合、違和感を覚えるのでしょうが、ご主人様ならあり得ると公爵様も納得するはずです」
「はい。ご主人様ですからねー」
ミリアもニコニコしながら首肯した。
君らの中で俺はどんな奴になっているのさ……。聞くのが怖いんだけど……。
釈然としないものがありつつも、全会一致で頑強の竜革鎧を売却することが可決された。
午後の探索を行っていたところ、恐れていた事態が起きる。
小部屋の魔物を始末し、MP回復を行おうとしたところ、ついに万能丸の材料である麻黄の在庫が尽きたのだ。
うーん……。持たなかったかぁ。
次の五十三階層からは、強壮剤の材料となる陳皮を残すアニマルトラップが出現するというのに……。
残念だが仕方がない。
一度クーラタルの四十六階層で仕切り直すとしよう。
最後の一つで万能丸を生成してから、彼女たちにその旨を伝える。
しかし案の定、一番奴隷さんから物言いがついた。
「五十二階層の探索を始めてから二日が経過しています。もうすぐ待機部屋も見つかるでしょう。デュランダルでMP回復を行い、先を目指すべきではないでしょうか」
セリーもその言葉に同意を示す。
「ロクサーヌさんの言う通りです。間違いなく今日か明日のうちにたどり着くと思います。ここで探索を止めてしまうのはもったいないです」
そしてミリアとベスタもそれに続く。
「そうですよ。もうすぐ見つかるんじゃないですかー?」
「はい。皆さんの言う通りだと思います」
彼女たちの表情は、まるで一時間経ったからファミコンを止めろと言われた子供のようだ。
気持ちは分かる。
いいところまで進んだのにゲームを止めろと言われ、お袋に反発したことが何度もあるのだ。その気持ちはよーく分かる。
しかし、そんなことを許せば際限がなくなってしまうだろう。
あとちょっと、あとちょっとと、ズルズル延長していくに違いない。
まさか子供もいないというのに、あのときのお袋の気持ちを理解することになるとはなぁ。
主人として、断固たる決意で強権を発動しようとしたところ、ロクサーヌに機先を制された。
「それではこうしましょう。キリが悪いので、今日まではここを探索します。そして明日からは心機一転、クーラタルの四十六階層で頑張るのです」
彼女だけではなく、他の三人も真剣な表情でこちらを見つめている。
そんな期待に満ちた目で見られても……。
うーん……。でもまあ、確かにロクサーヌの言葉にも頷けるところがないわけではない。
俺のプランは安全確保に振り切りすぎていることも確かだ。
五十三階層にたどり着けばMP回復手段の心配がなくなるし、合理性だけで言えばあちらサイドに分があるのは間違いない。
それに、今日だけというのならそれほどのリスクもないだろう。よし。
「では、今日まではここで探索を続けよう。ただし、明日いこ――」
言葉の途中で歓声が上がり、続きが掻き消されてしまった。
……この娘たち、本当に明日からはクーラタルの方に移ってくれるんだろうか?
不安を覚えている俺を尻目に、彼女たちは真剣な表情で相談を始める。
「なるべく魔物を避けて案内しますが、残り時間はそれほど多くありません。このまま右の壁沿いに進むべきでしょうか?」
ロクサーヌが問いかけると、セリーは少し考えてそれに答えた。
「魔物を避けながらだと、壁伝いに進むことは難しいはずです。今まで通っていない通路を進めばいいと思います」
「そうですね。時間もないですし、それでいきましょう」
ミリアも同意を示したことで、三人は顔を合わせて頷きを交わす。
どうやらそういうことらしい。
俺に異論があるでなし。まあ、残り時間はそれに付き合うさ。
探索を再開するために万能丸を立て続けに服用し、MP回復を図っていると、ベスタが反対側の通路を指差し意見を述べる。
「あの、なんとなくですが、あちらに進んだ方がいい気がします。えっと、なんとなくなのですが……」
本人も確信が持てないのか、眉が下がり、自信がなさそうな表情だ。
しかし、ロクサーヌ、セリー、ミリアは一瞬アイコンタクトを交わし、声を上げる。
「では、そちらの通路にしましょうか」
「はい。時間が限られていますからね」
「ほらほら。ベスタも行こうよ」
三人はすぐに出発をするべく、ベスタを促し始めた。
おそらく、ベスタのラックにベットしたのだろう。
……どうやら、この娘さんたちは本気で、今日中に五十三階層へ行くつもりらしい。
安西先生ばりに、眼鏡をクイっとしながら『諦めたらそこで試合終了ですよ?』とか言いそうだ。
ほんと、すごいバイタリティだこと。
感心しながら彼女たちの様子を見つめていると、ロクサーヌが女神のような笑顔をこちらに向ける。
「さあ、ご主人様。急ぎましょう」
え? あ、はい。そうですね。
迂回できない魔物だけを倒しつつ、早足でひたすら通路を突き進む。
小部屋でルートを選択する際は、アイコンタクトと短い言葉で進むべき道を決定していた。
さらに全員、歩きながらも警戒は一切緩めない。
まさにワンチームという言葉に相応しい動きだ。俺以外……。
おいおい。ダメージディーラーとしての出番がほとんどないため、いらん子になってるぞ。
しかも、ルート選択のときすら相談もなく蚊帳の外。
なんか『ここでは誰も僕にパスをくれません』って感じだな……。
普段、ワンターンキルで魔物を倒していることに、思うところでもあるんだろうか?
すると、ロクサーヌが穏やかでありながら凛とした、白百合のような笑みをこちらへ向ける。
「ご主人様。私たちがすぐに待機部屋を見つけ出しますので、ご安心ください。それに魔物が現れたら対処をお願いしますね」
好き! ロクサーヌ、超好き!
他の三人も微笑みながらこちらを見つめていた。
「うむ。魔物は俺に任せて、君たちは探索に集中してくれたまえ!」
その美しい花々の様子に、俺の足取りも軽くなる。
我ながらチョロいと思わなくもないが、嬉しいものは嬉しいんだからしょうがない。
おいおい。本当に今日のうちにたどり着いちまったぞ……。
フロア中に歓声を響かせている四人を見ながら、呆然としてしまう。
いやもう、本当にすごいとしか言いようがない。
運命力とでもいうのだろうか? 俺なんかとはモノが違う。
安全第一という方針は揺るがないものの、今後はもう少し、彼女たちの意見に耳を傾けてもいいのかもしれない。
……ん? 今回もそうだったけど、割と今までもこの娘たちの意見に流されることが多い気がするぞ?
やっぱ俺ってチョロいんだなぁ……。
ジョブの変更とポイントの振り分けを済ませ、セリーからボスについての説明を受ける。
「ボトルマーメイドのボスはバトルマーメイド。空中を素早く泳ぎまわり、手に持ったナイフで攻撃してきます。また水魔法も多用するので注意してください」
バトルマーメイド! ラブローションを残すという、あのバトルマーメイド!
これは周回をする必要があるかもしれん!
しかし、フルマックスのテンションに冷水をぶっかけられる。
「ご主人様が何をお考えなのか想像がつくのですが、今は陳皮を入手するのが先決ではないでしょうか」
声の聞こえてきた方へ顔を向けると、絶対零度の視線でこちらを見つめるセリーの姿が……。
「そうですね。ハルバーの迷宮最上階の対策を練るのもいいですが、今はそれより陳皮を集めるべきです」
どうやらロクサーヌはセリーの言葉を聞き、俺が予行演習を考えていると思ったらしい。
「陳皮があれば、どんどん上に進むことができますからねー。そっちを優先するべきだと思います」
「はい。バトルマーメイドと戦う練習は後でもできますからね」
ミリアとベスタも同意を示す。
しかし、セリーの顔には『予行演習がしたいんじゃなくて、ローションが欲しいだけなんでしょう?』と書いてあった。
俺をそんな俗物と思うてか。まことに遺憾である。
「うむ。予行演習をしておきたいところだが、先に陳皮を集めることにしよう」
他の三人は良い子のお返事をしてくれたものの、セリーだけは胡乱な目を向け続けていた。
こやつ、完全に俺をエロガッパだと思っているぞ。失敬な。
気を取り直してブリーフィングに戻る。
弱点は土で、水に耐性を持つらしい。
スキル攻撃は聞いた者を眠りに誘う歌。スリープシープなどの単体に対する睡眠攻撃より確率は落ちるものの、パーティー全体に効果を発揮するそうだ。
正直、これはかなり怖い。
ボスならともかく、七十八階層以降で強力な攻撃を持つ魔物と一緒に出現した場合、全員眠らされて即死級の攻撃を食らう可能性だってある。
高階層に挑む際には、状態異常に対する耐性を整えておかなくてはならないだろう。
残すアイテム? 五十二階層のボスだから、貴重なアイテムに違いない?
うん。そうだね、ラブローションだね。
明日以降、全力で集めないといけないね。
ブリーフィングが終わり彼女たちの顔を見回すと、引き締められてはいるものの、そこには隠し切れない興奮の色が浮かんでいた。
まさに殺る気満々マンドリル。
「では、いくとしよう」
そう告げると、フロアに気合のこもった声がこだまする。
田川 歩 男 18歳
遊び人Lv63 勇者Lv54 冒険者Lv58 武者Lv7 武器商人Lv40 剣豪Lv5
装備 貫通のオリハルコン剣 ズケット 頑強のアルバ 身代わりの竜革グローブ オラクルビットローファー ドラウプニル
BP振分 残BP:0
キャラクター再設定:1
必要経験値二十分の一:63
シックススジョブ:31
詠唱省略:3
アクセサリー六:63
所持金:3,478,387ナール
夏の12日目