異世界迷宮へ行ったなら   作:三星織苑

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ベリッサ南未開地域の迷宮五十二階層

ボス部屋

 

 

 

 

 

 ボス部屋に突入し、俺たちは必勝のセオリーに従い行動を開始する。

 

 フロアの奥へ回り込んだところで中央から上がっていた煙が晴れ、ボスとそのお伴が姿を現した。

 四匹とも上半身は人型で、下半身が魚の形状をしている。

 ワインボトルのような尖った頭に、赤茶けたザンバラ髪が二匹。こちらは見慣れたボトルマーメイド。

 そして、ロングストレートのピンク髪が二匹。こいつがバトルマーメイドなのだろう。

 頭の形状や肌の質感が人に近く、後ろ姿を見ただけでも、人魚と聞いて連想するような姿をしていることがよく分かる。

 

 そんなことを考えたところで、手前側にいた方がこちらへ振り返った。

 

 その姿を見た瞬間、思わず息を呑んでしまう。

 

 深海を思わせるようなアクアマリンの瞳に、高く通った鼻筋。

 血色のいい頬と艶やかな唇が映える、シャープなあごのライン。

 鎖骨の下には豊かなふくらみがあり、二枚の貝殻で覆われている。

 そして、おへそから下には神秘的な青っぽい鱗と尾びれ。

 

 人魚だ……。ガチもんの人魚だ……。

 

 呆然と見惚れていたところ、そいつは手に持ったナイフを構えてこちらへ迫る。

 

オーバードライビング

 

 反射的に時の流れを引き延ばした。

 

 あぶねー!

 

 どんなに巨乳美人に見えても相手は迷宮が作り出した魔物だ。油断するべきじゃない。

 気を引き締めて、戦闘開始といこう。

 

 向かってきているバトルマーメイドの脇を抜け、背中を向けているボトルマーメイドに躍りかかる。

 

バッシュ

スマッシュ

 

 一刀のもとに屠り、返す刀でもう一匹を斬り捨てた。

 お伴の処理を済ませると、ロクサーヌが俺に襲い掛かってきた個体へ攻撃を加えているのが目に入る。

 どうやら奴が振り返る前に動き出していたらしい。さすがロクサーヌ。さすロクだ。

 

 あちらは彼女に任せておけばいい。こちらはこちらでボスの片割れを片付けよう。

 

 セリー、ミリア、ベスタが抑え込んでいる人魚へバックスタブを叩き込む。

 

 

 

 ターゲットをサクッと片付けたところ、こちらの様子を把握していたのだろう、すぐにおかわりが降ってきた。

 さらにロクサーヌは叩き落としたバトルマーメイドの正面に降り立つと、その場から動かず繰り出される攻撃を回避し始める。

 

 あいかわらずとんでもない能力を見せつけるなぁ。

 

 隔絶した実力差を感じつつ、獲物を取り囲みタコ殴り開始である。

 

 

 

 ボス戦が恙なく終わり、ロクサーヌとミリアから受け取った物を手のひらで転がす。

 サイズは大きめのビー玉ほどで、例によって薄い膜のようなものに包まれている。

 

 これがラブローション……。思ったより小さいなぁ。

 

 AVでお馴染みの、あのボトルを想像していただけに、期待外れ感が否めない。

 今日すぐ使うってのは無理そうだ。

 明日以降、予行演習を兼ねて集めるとしよう。

 

 そんなことを考えていると、何やら妙な視線を感じる。

 そちらへ顔を向けたところ、呆れた表情でこちらを見上げている、小っちゃくて可愛いドワーフさんの姿が……。

 

 彼女は大きくため息を吐いてから話し出す。

 

「今回の戦闘では私とベスタが攻撃を受けています。これが最上階のボスだった場合、装備品を破壊されていました。どんな目的であろうと、バトルマーメイドとは再戦しておくべきでしょう」

 

 すまない。装備品が破壊される可能性より、ローションの方に気をとられて本当にすまない。

 ここは、『安全第一』と『いのちだいじに』に続く、新たなモットーを定めておかねば。

 

 迷宮探索は真剣に。

 

 今後は心を入れ替え、迷宮探索に臨む所存である。

 

「そうですね……。これほど貴重な装備品を破壊されてしまえば取り返しがつきません。ボス戦では装備品を身に付けない方がいいのでしょうか……」

 

 内省していたところ、ベスタの沈んだ声が聞こえてきた。

 

 おいおいおい。この娘はなんちゅうことを言うんだ。

 そんな無茶な真似を許すつもりはない。

 

「君たちが怪我を負うくらいなら、装備品などいくら壊れてもかまわない。ベスタ、絶対にそんなことはしないでくれ」

 

 俺の言葉に先輩三人は大きく頷いている。

 さらに、ミリアはベスタの背中をポンと叩くと、明るくも優しい声色で話し掛けた。

 

「ご主人様は私たちが傷つくことの方が嫌なんだよ。装備品を破壊されるのが気になるなら、一緒に回避の練習をしよう」

 

 それを聞き、ベスタの顔に笑みが戻る。

 

「はい。お姉ちゃん、ありがとうございます!」

 

 うむ。素晴らしい姉妹愛だ。ロザリオを渡してスールになってもおかしくない。『いせはれ!』はそっち方面の需要も満たしているのだろう。

 

 緩みそうになる口元を引き締めていると、セリーが呟きを漏らす。

 

「私も攻撃を食らわないように気を付けなければなりません。明日以降は立ち回りに注意しながらバトルマーメイドに挑むことにします」

 

 すると、ロクサーヌが微笑みながら彼女へ告げた。

 

「ふふ。それでは修業の際は手加減をせず、攻撃を増やすことにしましょう」

 

 えっ!? 手加減をしてたの!? 四対一で!?

 

 俺だけではなく、セリーとベスタも口をポカンと開けてロクサーヌを凝視している。

 彼女はその視線を気にも留めずに、続きを口にした。

 

「私たちのパーティーも五十階層を越え、迷宮討伐も視野に入っています。修業の強度を一段上げるちょうどいい機会かもしれません」

 

 一段上げる? 二段とか三段があるみたいな言い方なんだけど……。

 ……嘘でしょ?

 

 全員、呆然としながら女神のような笑みを浮かべているロクサーヌを見つめていた。

 

 ……どうやら、普段はあちら側のミリアも予想外だったようだ。

 さすがにこの娘もあそこまでむちゃくちゃではなかったらしい。

 そりゃそうだ。

 

 

 

 やがて、顔を引きつらせながらも、セリーがデブリーフィングを行う。

 

「ご主人様の攻撃力が圧倒的なため、いつもと同じようにあっさりと戦闘が終了してしまいましたが、これは問題かもしれません。普段ならボスを倒した後に時間調整を行いますが、最上階ではボスを倒した瞬間から迷宮の挙動が変わってしまいます。そうなれば、常識外れな速さで倒したことが明白となるでしょう」

 

 あー。言われてみればその通りだ。

 

「内部から魔物がいなくなり、迷宮に入ることもできなくなるんだったか」

 

 問いかけたところ、彼女は頷きを返しながら答える。

 

「はい。他にもすべての階層のボス部屋へ続く扉が開放されるほか、ダンジョンウォークを使用した場合、強制的に行き先が迷宮の入口に変更されてしまいます。そのため順番待ちが生じ、討伐直後はゲートが開くまでに時間がかかることがあるそうです」

 

 確か原作でもそんな描写があったな。

 ワープなら直接迷宮外へ移動できるかもしれないが、もしかしたら何らかの不具合を誘発するかもしれないと考え、ミチオは正規の手段であるダンジョンウォークで脱出していたはず。

 

 亜空間に取り残されるとか、正規の手段で迷宮を出ていないせいで他の迷宮に入れなくなる可能性がゼロとは言えない。

 メリットもないのに危険な博打に挑むなんて、ギャンブル狂いを通り越して、単なる狂人だ。

 俺もそれに倣うことにしよう。

 

 そんなことを考えていると、フロアに凛とした声が響き渡る。

 

「では、私が引き付けて時間を稼ぐことにしましょう。先ほど確認したバトルマーメイドの動きは、たいしたものではありませんでした。何も問題ありません」

 

 我がパーティーの武神にして回避の申し子、戦場のヴァルキリーことロクサーヌ師匠の顔には気負うところが一切なく、ただただ事実を述べる実直さと、隠し切れない自信のほどがうかがえた。

 

「お姉ちゃんはバトルマーメイドの攻撃を余裕であしらってましたからねー」

「はい。すごい動きで翻弄していたので、大丈夫だと思います」

 

 ミリアとベスタが同意を示すと、セリーもそれに続く。

 

「二十分も稼げば十分なはずです。ロクサーヌさんなら難なく回避し続けることでしょう」

 

 普段の修業では、四人からの攻撃をそれ以上の時間、かわし続けてるんだもんなぁ。

 

「では、ロクサーヌ。本番ではよろしく頼む」

「はい! お任せください!」

 

 頼られたのが嬉しかったのか、彼女の顔に満開の花が咲き誇る。

 うむ。実に愛らしい。

 

 

 

 その後、デブリーフィングを終え、五十三階層へと進む。

 残念ながら、この階層からはガンマ線バーストとサンダーストーム二発では魔物が倒れず、ワンターンキルとはいかなかった。

 しかし、出現する主な魔物は火が弱点のアニマルトラップとネペンテス。そして土が弱点のボトルマーメイド。

 サンダーストームではなく、バーンストームとダートストームに変更したところ、それがバッチリハマってワンターンキルを継続中。

 

 ただ確率は低いものの、四階層下のピックホッグが出現したときが問題となる。

 奴の弱点は水で、土に耐性を持つ。そう、ボトルマーメイドとまるっきり逆。

 この二種が同時に出現すると、絶対にどちらかは残ってしまう、というわけだ。

 とはいえ、ボール系の魔法を一発追加するだけで片付くため、慌てることはない。

 

 入手したばかりの陳皮で強壮剤を作りつつ魔物を倒すという、まるで釣った魚をバラして餌にするような真似を繰り返し、陳皮を集めていく。

 

 

 

 

 

クーラタル郊外

アユムの家

 

 

 

 

 

 ハルバーの迷宮五十階層の確認とドロップアイテムの売却、それから夕食の食材を購入してから自宅へ戻ったところ、玄関のドアにパピルスが挟まっていた。

 

 へー。午前中に会った後にスキル結晶を落札したのか。

 仲買人どもに目を付けられている状況では、有用なものは期待できないが、できればコボルトが欲しいなぁ。

 いや。最上位種のスキル結晶が手に入るなら、そっちの方がいいけどね?

 

 例によってロクサーヌは他の娘に荷物を預け、パピルスに手を伸ばす。

 だが、それを開いた途端、その表情が一変した。

 まるで戦闘中のように鋭い視線でパピルスをなぞってから、顔を上げる。

 

「ルーク氏からの伝言です。商人ギルドで夜まで待つので、なるべく早めに来てほしいと書いてあります」

「スキル結晶については?」

 

 問いかけたところ、彼女はかぶりを振って答えた。

 

「それについては何も書かれていません」

 

 つまり別件ってわけだ。いったい何の用なんだ?

 

 ハルツ公からの呼び出しの場合その旨を記載するはずだし、呼び出す場所も商人ギルドではなくボーデの宮城のはず。おそらくその線はないだろう。

 

 隻眼への伝手の件か?

 いや。それなら急いで来いなんて言うはずがない。

 

 まさか、仲買人連中が完全に敵に回り、スキル結晶の落札が難しくなったとか?

 もしそうなら、不味いことになるぞ……。

 

 思索を巡らせていると、セリーが顔をしかめながら口を開く。

 

「仲買人からの呼び出しなど、どうせろくなことではありません。かといって無視をすると不利益を被ることでしょう。業腹ですが応じるほかないと思います」

 

 あいかわらず仲買人に対する好感度は地面を這いずっているらしい。

 まったく。困った娘さんだこと。

 

 でもまあ、彼女の言う通り、行かなかった場合、どんな目に遭うか分からないし、用件がスキル結晶に関することだった場合、取り返しがつかない。

 しゃあない。行くとしますか。

 

「じゃあ、俺はこのまま商人ギルドへ顔を出してみる」

「はい。いってらっしゃいませ、ご主人様」

 

 ロクサーヌの言葉と共に、全員で美しい礼を執った。

 

 うむ。食材を抱えた、生活感あふれる見送りも実にいい。

 本当に俺は世界一の幸せ者だ。

 

 愛しい妻たちに見送られながらワープゲートを展開する。

 

 

 

 

 

クーラタル

商人ギルド

 

 

 

 

 

 受付に声を掛けると、すぐに廊下の向こうからこちらへ向かってくる、ルークの姿が目に入った。

 彼の表情は常と同じアルカイックスマイルではあるものの、遠目にもどことなく浮かれている様子がうかがえる。

 どうやら用件はネガティブなことではないらしい。

 ……まあ、あいつにとってはポジティブでも、俺にとってはネガティブな用件だという可能性もないわけじゃないのだが。

 

 そんなことを考えていると、胡散臭い笑みを顔に貼り付け、ルークが近づいてきた。

 

「お呼び立てしてしまい申し訳ありません」

「いや。今日の探索を終えたところだったからな。この後は特に予定もないので、気にすることはない」

 

 本当は修業、夕食、お風呂。そして、受けとったばかりのベスタのセクシーランジェリーやキャミソール姿を堪能したりと、予定は目白押しだったんですけどね!

 

「そう言っていただけると助かります」

 

 俺の内心など露知らず、奴は芝居がかった仕草で頭を下げる。

 

「それでは時間も遅いことですし、商談室へ移動しましょう」

 

 気になることや言いたいことは多々あるが、促されるままに歩き出した。

 

 

 

 午前中にも訪れた商談室の前まで移動し、ルークが扉を開く。

 すると、ホスト用のソファーに座る中年女性と、その左右に設置された椅子に腰を下ろしている二人の男性の姿が目に飛び込んできた。

 二脚の椅子については普段目にしたことがないので、わざわざ別の部屋から運んできたものと思われる。

 

 予想外の光景に驚いていたところ、中年女性がにこやかな笑みを浮かべソファーから立ち上がった。

 

「アユム様、お待ちしておりました」

 

 どうしてヒルダがいるんだ? 彼女も用件に関わっているのだろうか?

 

 さらに向かって左側の男が、弾むような声を発する。

 

「仲買人のダリウスと申します。先日は大変お世話になりました。おかげ様でかなりの手数料を得ることがかないました」

 

 あん? なんのこっちゃ?

 

 気になったのでとりあえず鑑定をかけてみた。

 

ダリウス・ベルノート 男 38歳

武器商人Lv19

装備 身代わりのミサンガ

 

 うーん……。武器商人ねぇ……。

 見たことあるような、ないような……。

 

 思い至っていないことを察したのだろう、すかさずルークがフォローを入れる。

 

「彼は先日、バラダム家のオークションを仕切っていた者です」

 

 あー! あの時の男か!

 確かに武器商人だったし、こんな顔だったような気がするぞ。

 

「こちらこそ世話になった。おかげで素晴らしい品を手に入れることができ、感謝している」

 

 そう伝えたところ、ダリウスという仲買人の顔に欲に塗れた笑みが浮かんだ。

 

「アユム様とは今後ともお付き合いをお願いしたく存じます」

 

 うわぁ……。めっちゃ嫌な笑い方をしてるぞ……。

 こんな顔をするなんて、いったいどのくらい儲けたんだろう?

 落札額の合計は二千万ナールを超えていたし、仮に落札価格の一割なら二百万ナール。五パーセントでも百万ナールだ。

 オークションを取り仕切るだけでそれだけの額が手に入ったのなら、そんな顔にもなるわな。

 

 ドン引きしていると、逆サイドのピンと立ったイヌミミを持つ男も話しかけてくる。

 

「同じく仲買人のカイルと申します。お噂はかねがね耳にしておりましたので、お会いできるのを楽しみにしておりました」

 

 ふむ。こいつは初めましてなのか。

 

カイル・グレイン ♂ 27歳

防具商人Lv4

装備 身代わりのミサンガ

 

 おそらく狼人族だよな?

 何気に人間族以外の仲買人を見たのは初めてかもしれない。

 まあ、種族固有ジョブが関わっているわけじゃないし、人間族じゃないとなれないなんてことはないわな。

 

「どんな噂が流れているのかは分からないが、よろしく頼む」

 

 なんで呼ばれたのかもよく分からないが、とりあえず社会人の嗜みとして挨拶を交わす。

 一頻り自己紹介を行い、俺はいつものソファーへ、ルークとヒルダはその正面へ、そしてダリウスとカイルは先ほどまで座っていた椅子へと再び腰を下ろした。

 

 

 

 正面に並ぶ四つの顔はどれもこれもニヤついており、どうにも猜疑心が拭えない。

 脳内にアラートが響き渡っているのを感じつつ、尋ねてみる。

 

「それで、今回はどんな用件で呼び出したんだ?」

 

 すると、真正面のルークが説明を始めた。

 

「本日の午前中、アユム様よりバラダム家との取引の件でお話をうかがったかと存じます」

「ああ。そうだな」

 

 相槌を打つと、彼は頷き話を続ける。

 

「その数時間後に彼らより、ある打診がありました」

「打診?」

「はい」

 

 ルークからアイコンタクトを受け、ダリウスが説明を引き継ぐ。

 

「バラダム家よりアユム様と取引を行うので、私とカイルに立ち会ってほしいとの要請があったのです」

 

 なるほど。こいつらはバラダム家側の武器商人と防具商人ってことか。

 

 さらにカイルが説明に加わる。

 

「ええ。そしてアユム様と取引を行うと聞き、その立会人はルークだろうと想像がついたため、彼へ声を掛けました」

 

 バラダム家の奴ら、俺の名前を出しやがったのか。

 俺たちの関係は仲買人連中に知れ渡っている。すぐにルークだと想像がついただろう。

 バラダム家め。個人情報保護に対する意識が低すぎるぞ。あらかじめ釘を刺しておくべきだった。

 

 ……まあ、反社そのものの連中だし、配慮を求めても無駄だったのだろうが。

 

 内心でため息を吐いていると、ダリウスが話を続ける。

 

「聞けばスキルの付いた装備品を売却するとのこと、であればバラダム家ではなく、私たちにお売りいただくわけにはまいりませんか?」

 

 はあ!? こいつは何を言ってんだ!?

 

 あまりの言葉に唖然としていたところ、にこやかでありながら腹に一物抱えていそうな笑顔でヒルダが口を開いた。

 

「アユム様は彼らが落札したMP吸収の付いたひもろぎのカッカラもお持ちだそうですね? 話によればパーティーに魔法使いはいないのだとか。であればそれを売却していただくことはできないでしょうか? もちろん売却額に色を付けるつもりですし、お望みであれば私どもの所有している装備品やスキル結晶をお譲りするのもやぶさかではございません」

 

 そして、いつも以上に信用のできない笑みでルークが告げる。

 

「もし可能であればサボー・バラダムから得たものや、アユム様がお持ちの貴重な装備品をお売りいただけないかと考えた次第なのです」

 

 こいつら、バラダム家の上前をはねようってのか?

 おいおいおい。これは完全にライン越えだ。

 顧客の情報を利用して利益を得るのは不正競争防止法に引っかかるぞ。

 たとえこの世界に公取委がなかったとしても、俺がそんな真似をするはずないじゃないのさ。

 お天道様に背くような生き方はごめん被る。

 

 ……日常的に三割アップや三割引を使っている男が何を言うか、と言われれば返す言葉もないのだが。

 ま、まあそれはそれとして、こいつら揃いも揃ってクソ野郎だ。

 

 

 

 おそらく俺の表情は白けきっているだろうに、奴らはこの取引が双方にとっていかに有益なものかを説明し始める。

 

 金銭だけではなく、俺が求めているスキル結晶、さらに装備品による交換を行うので、双方にメリットがあること。

 貴重な装備品を状況にあった形で交換することで、迷宮探索においての運用が有用なものとなること。

 ここだけの話なので、情報が漏れることはないことなど、四人掛かりで説得を行ってきた。

 

 しかし、何と言われようと、信用できない相手と取引を行うのはムリムリムリムリカタツムリ。

 いつこちらの情報を売るか、わかったもんじゃない。

 正直、ルークとの付き合いも改めようかと考えているくらいだ。

 

 断りを入れて席を立とうとしたところで、ヒルダに機先を制される。

 

「申し訳ございません。私どもは少々先走っていたようです。アユム様も現物を見ずに判断などできるはずもございません。まずはこちらの装備品をご覧いただくべきでした」

 

 そう言うと、彼女は呪文の詠唱を開始した。

 

 いや。いいっす。あなたたちとは取引をしないんで、結構です。

 

 どうでもいいと思いながらも、一応ヒルダが取り出した大きな剣に鑑定をかける。

 

聖剣アスカロン 両手剣

スキル 火炎剣 水流剣 烈風剣 岩砕剣 防御力無視 不壊

 

 ふえっ!?

 

 

 

 

 

田川 歩 男 18歳

遊び人Lv63 勇者Lv54 冒険者Lv58 魔道士Lv58 武器商人Lv40 僧侶Lv37

装備 オラクルビットローファー 身代わりのミサンガ

 

BP振分 残BP:30

キャラクター再設定:1

必要経験値二十分の一:63

シックススジョブ:31

詠唱省略:3

鑑定:1

ワープ:1

MP回復速度十倍:31

 

所持金:3,541,913ナール

 

夏の12日目

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