異世界迷宮へ行ったなら   作:三星織苑

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279 進展

 

 

 

 

 

ベリッサ南未開地域の迷宮五十二階層

ボス部屋

 

 

 

 

 

 背後の扉が音を立ててしまったところで、安心と信頼の必勝パターンを投げ捨て、モクモクと煙が立ち込めるフロア中央へ、よーいドンとばかりに駆け出した。

 もちろん先頭はロクサーヌ。

 アスカロンを手に、セブンリーグブーツの効果で宙を駆けるその姿は、まさに戦女神。

 

 おいおい。今回はアタッカーな上に慣れない両手剣なんだから、君は背後を突かなきゃ駄目でしょうが。

 

 走りながらそんなことを考えていたところ、彼女はそのまま煙の中に突撃していく。

 

 ちょっ!? 何してんの!?

 

 想定外の行動に度肝を抜かれていると、煙幕の中からまるで時代劇の殺陣のように斬撃音が聞こえてきた。

 

 視界が利かないだろうに何の問題もなく立ち回っているらしい。

 

 やがて、煙が晴れるとボトルマーメイドが倒れており、その体は風に流されるように実体を失っていく。

 そしてロクサーヌはというと、ネペンテスへ攻撃を加えていた。

 

 あいかわらずとんでもないことをする娘だなぁ。

 

 そんなことを考えながら走っていると、バトルマーメイドの片割れが体をロクサーヌに向けようとしているのが目に入る。

 

 やらせるかよ!

 

 全力で駆け寄り、奴の体を蹴り抜いた。

 人の上半身と魚の下半身が、くの字に折れ曲がりながら吹っ飛び、そのまま地面に叩きつけられてゴロゴロ転がっていく。

 

 追撃をかけるべく横たわっている人魚に近寄り、手にした得物を振り下ろす。

 だが、防御力無視や防御力貫通のスキルが付いた武器とは違い、斬りつけた感覚はまるでバットでタイヤを叩いたかのように鈍いものだった。

 

 クソッ! 手ごたえがない!

 

 杖や木剣ならともかく、刃物で攻撃したというのに魔物の体を、いやHPを削っている気がしない。

 

 案の定、バトルマーメイドは跳ね起き、尾びれによる薙ぎ払い攻撃を行う。

 それをスウェーでかわし、再び強権のオリハルコン剣で斬りつけた。

 だが、やはり奴はダメージを一切感じさせることなく、右手に持ったナイフを構えこちらに迫る。

 

 俺は毎日、世界最強の戦士による薫陶を受けている男。そんなテレフォンパンチを食らうわけにはいかない。

 ナイフを持った右手を蹴り飛ばし、そのままの勢いで回転斬りを叩き込んだ。

 しかし、敵もさるもの。バトルマーメイドはその長い髪をたなびかせながら飛び退る。

 そしてクルッと回り、体の正面をこちらに向けると、魔法陣を展開し始めた。

 

 甘いっての!

 

 一気に距離を詰めながら、突きを放つ。

 奴の体に強権のオリハルコン剣が触れた瞬間、魔法陣はまるでビデオを巻き戻したかのように消えていった。

 

 こっちはスキルも魔法も縛られてんだよ! お互いステゴロでやろうや!

 

 内心で叫び声を上げながら、手にした得物を振りかぶる。

 

 

 

 バトルマーメイドとのタイマンは完全に膠着状態。

 ロクサーヌたちは雑魚ともう一匹のバトルマーメイドを片付け、離れたところからこの泥仕合を観戦していた。

 

 奴の攻撃を食らうことはあったものの、そのほとんどを回避している。

 一方、こちらの攻撃は当たりまくり。しかし、ダメージを受けている様子は皆無で、何の手ごたえもない。

 

 また、宙を飛んで天井付近に上がられると、俺は一切の攻撃手段を封じられてしまう。

 そうなると魔法やスキルを潰すことができず、それがそのまま飛んでくる。

 単体魔法は難なくかわすことができているが、必中の全体魔法は全て直撃だ。

 しかし、パラメーターと魔法ダメージ耐性装備のおかげで、深刻なダメージを受けることはなく、また攻撃を食らうたびにロクサーヌが回復を入れてくれるため、大きな問題にはならない。

 

 問題となるのはスキル攻撃の歌。全体攻撃のため、これが発動する度にパーティーの誰かが寝てしまう。

 その都度、彼女たちは警策を使い、お互いに睡眠状態を解除し合っていた。

 

 ……もちろん俺も何度もお世話になりましたとも。

 

 幸いなことに、バトルマーメイドは距離を取って飛び道具に徹するという、一種のハメ技に頼らず、積極的にナイフによる接近攻撃を挑んでくる。

 そのおかげで戦闘が成立しているといっても過言ではない。

 やはり魔物は生物的な思考能力や感情はなく、迷宮によって作られた、単純な命令を遂行しているだけの存在なのだろう。

 

 

 

 やがて、フロアに涼やかで艶に満ちた声が響いた。

 

「ご主人様、二十分が経過しました。魔物を倒しますね」

 

 そう言うと戦女神は凄まじい速さで宙を駆け、バトルマーメイドにアスカロンを叩きつける。

 そこからは息も吐かせぬ怒涛のコンボのスタートだ。

 たとえ奴が天井付近へと逃げようとも、彼女は天翔けるヴァルキリー。

 どこまでも追いかけ、執拗に攻撃を加え続けていく。

 

 それほど時を置かず、人魚はその体を霧のように散らしていった。

 

 

 

 戦闘を終えたロクサーヌは微笑みながら戻ってくる。

 

「通常攻撃と単体魔法はほとんどかわしていましたね。さすがご主人様」

 

 彼女の言葉に他の三人もニコニコ顔で同意を示す。

 

 まあ、ロクサーヌの動きと比べれば、ボトルマーメイドの動きなどたいしたことなかったしな。

 俺だってレベルアップと日々の修業により、成長しているのだよ。

 男子、三日会わざれば刮目して見よ、ってやつさ。

 

 内心で鼻を高くしていると、彼女は女神のような表情のままとんでもない課題を突きつけた。

 

「ですが、最上階のボスとして出現する場合、装備品に攻撃が当たれば壊れてしまいます。次回は全てかわすことを目標にしましょう」

 

 思わず見つめ返したところ、その表情はこゆるぎもしない。

 

 それを聞いたミリアは『オラワクワクすっぞ!』と言い出しそうな表情で口を開く。

 

「そうですよねー。装備品を破壊されないためにも、特訓しないとですよねー」

 

 おいおい。そりゃ、君らは回避ガチ勢の上にセブンリーグブーツと迅速の竜革ジャケットという、回避に適した装備品を身に着けるからいいさ。

 でも、俺たち三人はそのどちらも持ち合わせていないんだぞ?

 オーバードライビングを解禁するならともかく、素の状態では厳しいって。

 

 その旨を伝えたところ、ロクサーヌは表情を引き締めた。

 

「訓練で装備品の性能に頼ってしまえば成長の妨げとなります。ミリアのようになくてもかわせるのであればともかく、ご主人様、セリー、ベスタは装備品のアシストを受けるべきではないでしょう。もちろん本番ではその限りではありませんし、オーバードライビングも温存する必要はありません」

 

 ミリアもコクコク頷き、彼女の言葉に同意を示している。

 

「たとえご主人様のように動きが速くなる奥の手を持っていたり、セリーやベスタのように体が頑丈で魔物の攻撃を耐えられたとしても、魔物の攻撃をかわせるに越したことはありません。いずれは全員が一切ダメージを受けることなく、迷宮探索を行えることを目標にしましょう」

「お姉ちゃんの言う通りです。ご主人様がよく言っている、安全確保ってやつですよねー」

 

 本気だ……。この娘たち、本気で魔物の攻撃を食らわないパーティーを目指すつもりだ……。

 

 助けを求めようと他の二人に視線を向けるが、セリーとベスタは諦めたように苦笑を浮かべていた。

 

 マジか……。どうやら俺たちはとんでもない特訓を受けねばならないらしい……。

 

 

 

 

 

クーラタル郊外

アユムの家

 

 

 

 

 

 昼食を済ませ、リビングでのんびりとした時間を過ごす。

 セリーを後ろから抱きしめながら、彼女たちの会話を聞くともなく聞いていると、ふとあることに気がついた。

 

 そういや、彼女たちの資産格差の是正が必要だよなぁ。

 

 ロクサーヌとベスタは黄魔結晶をゲットしたおかげで、預金額はロクサーヌが十六万ナール、ベスタも十三万ナールを優に超える。

 一方、セリーとミリアはどちらも三万ナールにも届いていない。

 年利十パーセントの利息が付くため、現時点ですら年間一万ナール以上の差がある状態だ。

 いくらなんでも、これは不公平すぎるだろう。

 

 現在、バトルマーメイドとの戦闘は訓練となっているためドラウプニルを使用しておらず、獲得経験値二十倍にポイントを振っている。

 ぶっちゃけ、たとえボスが混じっていようと、たった四匹から得られる経験値なんてたかが知れているわけで、それなら結晶化促進六十四倍を付けて融合用の魔結晶を作る方がいいかもしれない。

 

 それに探索中に魔物部屋を潰す際も、レアドロ狙いでドラウプニルを装備している。

 こちらも結晶化促進に変更した方がいいかもな。

 

 

 

「ご主人様。考え事をなさっているようですが、どうかなさいましたか?」

 

 思索を巡らせていたところ、ロクサーヌの気遣うような声が聞こえてきた。

 顔を上げると彼女だけではなく、ミリアとベスタもこちらを見つめており、腕の中のセリーも振り返りながら見上げていた。

 

 ……そうだな。ちょうどいい機会だし、格差是正対策としての資金注入について相談してみよう。

 

「うん。少し前から考えていたことがあるんだけど、聞いてくれる?」

 

 四人が頷いたのを確認し、先ほどのアイデアについて話し始める。

 

 

 

 一通り話し終えたところで、ベスタが微笑みを浮かべながら口を開く。

 

「さすがご主人様。とても良いお考えだと思います」

 

 この娘は新参者の自分が大金をゲットしたことについて、引け目があったっぽいもんなぁ。

 

 ロクサーヌも頷きながら言葉を続けた。

 

「魔物を倒す役割もローテーションにしようと考えていましたが、釣り役をするとき以外は普段通りご主人様が倒した方がいいですね。このような事情であれば仕方がありません」

 

 え? そうだったの?

 てっきり釣り役以外のときは、いつも通りアタッカーをする気満々だったんだけど……。

 

 ロクサーヌの言葉に驚いていると、セリーがお腹に回されていた俺の腕にそっと手を添えた。

 

「そのようなことをしていただけるなんて思いもよりませんでした。ご主人様、ありがとうございます」

 

 その控えめで愛らしい表情は上目遣いなことも相まって、破壊力が抜群だ。

 シニカルな表情との落差でキュンキュンするぞ。

 

 そしてミリアは俺を目掛けてダイブを敢行。

 ひしっと首っ玉にしがみついた。

 

「ありがとうございます! ご主人様! 大好きです!」

 

 えっと、あの、うん……。俺も大好きだけど、なんだかちょっぴり腑に落ちないのはどうしてだろう?

 

 ロクサーヌとベスタは微笑みながら俺たちの様子を眺めている。

 

 タガワ家は今日も平和だなぁ。

 

 

 

 セリーとミリアが落ち着いたところで話を再開だ。

 

「緑魔結晶を作るために黒魔結晶が必要になるから、午後の探索をする前にどこかのギルドに寄って買っていこう」

 

 するとミリアがシュバッと手を挙げる。

 

「ご主人様! それなら私に任せてください!」

 

 そう言うや否や彼女は大きな声で呪文を唱え始めた。

 

「八百千五百のお宝を、収めし蔵の掛け金の、アイテムボックス、オープン!」

 

 そして、アイテムボックスから黒魔結晶を次々と取り出し、ローテーブルに並べていく。

 

「探索中に見つけた黒魔結晶は私の物にしていいと言ってもらったじゃないですか。融合するより、残しておいた方がいいんじゃないかなーって思って、保管しておいたんです。これを使ってください」

 

 へー。そうだったのか。

 黒魔結晶に貯まっている魔力は十未満。それなら融合するよりある程度手元に残しておいた方が役に立つかもしれない。

 現にこうやって役に立つときがきたわけだし、慧眼だったってわけだ。

 

「ありがとう、ミリア。めちゃくちゃ助かるよ」

 

 感謝を述べると、ミリアは照れ笑いを浮かべながら、ものすごいスピードで魔結晶を取り出していく。

 

 おいおい。多すぎない?

 

 俺の困惑をよそに、ロクサーヌたちはその様子を微笑ましげに見守っていた。

 

 

 

 そして、ミリアは保管していた分を全て出すと、期待のこもった視線をこちらに向ける。

 

 ……そんなに使わないんだけど、嬉しそうにしているし、要らないとは言えないよなぁ。

 

 まあ、あっても困るものじゃないし、ありがたく受け取っておこう。

 

「これだけあれば当分黒魔結晶を買う必要はなくなるね。ミリア、本当にありがとう」

 

 もう一度お礼を述べると、彼女の顔に満開の花が咲き誇る。

 健気でめちゃくちゃ可愛いわぁ。

 

 話し合いが終わったところで、時間までのんびり過ごすことにする。

 

 

 

 

 

ベリッサ南未開地域の迷宮五十二階層

ボス部屋

 

 

 

 

 

 午後の探索も恙なく終わり、夕方を告げるロクサーヌの声に従い、バトルマーメイドへ挑む。

 今回の釣り役はセリーだったのだが、やはり彼女も俺と同様、何度か攻撃を食らっていた。

 俺たちは誰かさんたちみたいな戦闘民族ではない。そんなのは当然の話だ。

 

 だが、ロクサーヌは戦闘終了後、セリーを褒めつつ、次回は全ての攻撃をかわすよう仰せであった。

 そういうのを無茶ぶりって言うんじゃないですかねぇ。

 

 セリーは顔を引きつらせながらも頷きを返している。

 

 分かる。気持ちはよーく分かる。

 おそらくベスタもこちらサイドだろうから、三人で力を合わせて頑張ろう。

 努力を続ければ、いずれ俺たちだって魔物の攻撃をひらりひらりとかわせるはずさ。たぶん、きっと、そうだといいなぁ……。

 

 そんなことを考えつつ、帰り支度を整える。

 

 

 

 

 

ハルバーの迷宮

五十階層

 

 

 

 

 

 ベリッサ南未開地域の迷宮からハルバーの迷宮五十階層へ移動すると、ロクサーヌの表情が一変した。

 顔を右側の通路に向け、真剣な面持ちで匂いを確認し始める。

 

 もしかして、もしかするのか?

 

 予感を覚えたのは俺だけではなく、他の三人も期待の表情で彼女の様子を見守っていた。

 

 そして、ロクサーヌは輝くような笑みを浮かべながらこちらへ振り返り、弾むような声を上げる。

 

「ご主人様! ゴスラー様のパーティーが五十階層に到達しています!」

 

 その瞬間、入口の小部屋が歓声に包まれた。

 

「これで最上階に挑むことができるのですね!」

 

 セリーが頬を朱に染めながら声を発すると、ミリアはシュッシュッとシャドーボクシングのように拳を交互に突き出しながらそれに続く。

 

「最上階のボスとの戦闘がいまから楽しみです!」

「はい! このパーティーならどんな相手だろうと敵ではありません!」

 

 普段は穏やかなベスタも興奮を隠せないようだ。

 

 ロクサーヌは三人の言葉に頷き、好戦的な笑みを浮かべていた。

 

「セリー、ミリア、ベスタ。これはご主人様が貴族へ列せられる第一歩です。気合を入れて事に臨んでください」

 

 その言葉を受け、三人は気合のこもった声を返す。

 

 おいおい。さすがにそれは気が早すぎでしょうよ。

 

 場の雰囲気に乗り損ない、その様子を呆然と眺めていると、ロクサーヌはこちらへ顔を向けた。

 

「ご主人様は必ずや大成を遂げることでしょう。私たちも全力でお支えいたしますので、どこまでも羽ばたいてください」

 

 え? いきなりそんなことを言われても……。

 

 四人の様子をうかがうと、最上階のボスとの戦闘、それから討伐後に対する高揚が見て取れた。

 彼女たちは爛々と輝く瞳をこちらに向け、俺の言葉を待っている。

 

 えっと、これはスルーしちゃ駄目な感じですよね?

 

 大きく息を吸い込み、頭の中のスイッチを入れる。

 

「ああ。ロクサーヌ、セリー、ミリア、ベスタ。全員で成り上がるぞ。準備はできているか?」

 

 それを聞いた四人の口から鬨の声が上がった。

 

 ……どうやら期待に応えることができたらしい。よかった、よかった。

 

 

 

 

 

クーラタル

 

 

 

 

 

 ドロップアイテムの売却、夕食の材料を買っている間も彼女たちの興奮は収まらず、まるで夢の中を歩いているような足取りだ。

 さすがに人目のある場所では自重していたが、郊外にある我が家を目指している今は、誰はばかることなく未来への展望を語り合っている。

 

 楽しそうで何より。

 まあ、たまには夢を語るのもいいんじゃないかな。

 

 話に花を咲かせているお嬢様方を見守りながら、自宅へと続く道を進む。

 

 

 

 

 

田川 歩 男 18歳

遊び人Lv64 勇者Lv55 冒険者Lv59 魔道士Lv59 武器商人Lv44 僧侶Lv43

装備 オラクルビットローファー 身代わりのミサンガ

 

BP振分 残BP:30

キャラクター再設定:1

必要経験値二十分の一:63

シックススジョブ:31

詠唱省略:3

鑑定:1

ジョブ設定:1

ワープ:1

MP回復速度十倍:31

 

所持金:9,591,114ナール

 

夏の13日目

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