早朝の探索が終わり、締めのボス戦を済ませたところで、ロクサーヌがデブリーフィングを行う。
「バトルマーメイドの攻撃を一度も食らいませんでしたね。それに魔法とスキルを発動させることもありませんでした。今後、ミリアはボス戦の訓練をナシにしましょう。その分をご主人様、セリー、ベスタに割り当てることにします」
どうやら彼女はロクサーヌの厳しい基準を、一発でクリアしたらしい。
ミリアは迅速の竜革ジャケットのスキルを使うことなく、バトルマーメイドの攻撃を回避しきってみせた。
しかも完璧なヘイト管理を行い、飛んで逃げられるようなこともなく、完封勝利。
基礎能力に差がありすぎやしませんかねぇ。
「分かりましたー」
内心でへこんでいると、彼女たちはにこやかに頷き合っていた。
そして、ロクサーヌは俺たちの顔を見回す。
「先ほどのミリアの動きを目標にしてください。分からないことがあれば私たちがアドバイスをします。全員魔物の攻撃を避けられるよう、頑張りましょう」
いや、まあ、うん……。できるだけ頑張ってみます……。
食材の買い出しを済ませて自宅へ戻り、彼女たちに朝食の支度を任せたら、そのままハルツ公の宮城へと飛ぶ。
すると、フィールドウォークの発着口であるエンブレムの真ん前に腰を下ろしていた、顔馴染みの騎士と目が合った。
「おや? アユム様ではありませんか」
彼は俺を見るなり、話しかけてくる。
「団長より、アユム様がお見えになりましたら、そのままお通しするように申しつかっております。閣下の執務室へお進みください」
……なるほど。公爵たちは俺が先行していることに気がついていたのだろう。
まあ、ゴスラーのパーティーに先んじて魔物部屋を潰しているんだ。そりゃ気がつくわな。
感謝を述べて、勝手知ったる廊下を歩き出す。
執務室に入ると、ハルツ公はニヤリと笑みを浮かべて問いかけてきた。
「余の城へ訪れたということは、そういうことであろうか?」
やっぱりなー。完全にお見通しだったわ、この人。
「はい。昨日、五十階層の待機部屋へ到達いたしました」
俺の言葉を聞き、ゴスラーが納得と困惑が混じったような表情を浮かべながら、口を開く。
「四十八階層の途中からは、ほとんどの魔物部屋が潰されていたため、アユム殿が先んじているとは思っていましたが、まさかこれほど差を付けられていたとは想像もしていませんでした」
そして、ハルツ公もそれに続く。
「四十八階層半ばまでの地図があったとはいえ、わずか十日余りで最上階の待機部屋へとたどり着くとはな。いや、余との約束がなくば、そのまま討伐を成し遂げていたであろう」
実際のところ、五十階層の待機部屋にたどり着いたのは夏の三日目。つまり彼らが考えているより、十日以上早いことになる。
こんなことが知られたら、その力の源泉を探ろうとするに違いない。
そして万が一、キャラクター再設定にまつわる能力、ジョブを自由に付け替えられることや、ワープでどんな所にでも侵入できるなんてことがばれたら、それこそ命を狙われるだろう。
ここはスルー一択だ。
曖昧な笑みでやり過ごしていると、公爵はさらにニヤニヤ笑いながら、興味深そうな視線を向ける。
「しかも、その方のパーティーには魔法使いがおらぬ上、メンバーも五人のみ。まこと、器の知れぬ男よ」
いえいえ。俺はどこにでもいる、普通の男。
旦那様の名前はアユム。奥様の名前はロクサーヌ。
ごく普通の二人は、ごく普通の恋をし、ごく普通の結婚をしました。
でも、ただ一つ違っていたのは、旦那様は……ほんの少しだけオタクだったのです。
そう。俺は人よりちょっとだけアニメや漫画が好きなだけの一般人。
だからそんな目で見ないでね?
「私には頼りになる仲間がおりますので。おそらく彼女たち以外のパーティーメンバーでは不可能だったでしょう」
「であるか……」
俺の言葉に、ハルツ公は顎に手を当て考え込んでいる。
「やはりスキルが五つ付いた、貫通のオリハルコン剣の力も大きかったのでしょうか?」
はあ? なんでそれを?
ゴスラーの突然の言葉に戸惑っていると、ハルツ公がくつくつと笑い声を漏らす。
「昨日、ルークより信じがたい逸品を手に入れたとの連絡があってな。聞くところによると、ある筋から交換によって入手したとのこと。しかも、併せてMP吸収の付いたひもろぎのカッカラも手に入れたというではないか」
「ええ。まさかそのように貴重な装備品をお持ちだったとは。タガワ家とはさぞや名のある家なのでしょう」
あの野郎……。出所を喋りやがったな。『ここだけの話』ってのは何だったんだ。
反省したかと思えば、舌の根の乾かぬうちにこれか。クソ野郎が。
俺の顔を見て、公爵の笑みが濃くなる。
「そうではない。あやつはアユム殿から手に入れたとは申しておらぬ。余らが予想していただけのこと。しかし、今の反応を見るに間違ってはおらぬようだ。よもや本当にその方の物だったとはな」
はあ!?
呆気に取られていると、ゴスラーが話し始めた。
「以前、閣下のパーティーや騎士団の者たちが待機部屋でアユム殿を見かけた際、オリハルコンの剣を装備していたとのことでした。そして尋常ではない速さでボスを撃破し、さらに地図があったとはいえ、翌日には四十八階層へ到達しているのは間違いありません。それを考えれば、自ずと持ち主の予想がつくというもの」
ハルツ公もそれに続く。
「春に行われたオークションにMP吸収が付いたひもろぎのカッカラが出品された折り、当家も参加したのだ。そのときはバラダム家の者に上をいかれてしまったが、よもや決闘でその方の手に渡っていたとは思わなんだ」
「ええ。まさかバラダム家があのような貴重な杖を普段使いしていたとは……」
ああ……。言われてみれば当然だ……。
一つ一つのピースを組み合わせていけば、簡単に答えを導き出せる。
完全にやらかした。
意識していなかったが、迂闊な行動が多かったよなぁ。
……いや。物は考えようだ。
彼らは俺たちの強さの一部は、装備品に由来するものだと思っている。
そう思われている分には、何の問題もない。
うん。結果オーライだと思っておこう。
自分を誤魔化すため、ポリアンナのように『よかった探し』をしていると、ハルツ公が問いかけてきた。
「しかし、スキルが五つの貫通のオリハルコン剣はその方の切り札であろう? そのように貴重な装備品を手放し、今後どのように迷宮攻略を行うつもりなのだ? よもやあれ以上の武器を持っているなどと申すのではあるまいな?」
あぶねー。かすってるよ。ニアピンだよ。
デュランダルについてはなるべく秘匿しておきたい。
それに実際のところ、今後はデュランダルに頼る場面は少なくなるだろう。
ここはある程度の情報を開示し、話の辻褄を合わせておくべきだ。
「仲買人たちとの交換で手に入れた武器は聖剣アスカロン。これには防御力貫通のスキルが付いております。これと腕力二倍の付いた腕装備、さらに攻撃力二倍のついたアクセサリー。これらを組み合わせれば、今まで以上にダメージを与えることも可能でしょう」
二人は口をポカンと開けて、こちらを見つめる。
やがて、ハルツ公は我を取り戻すと、腑に落ちないといった様子で問いかけてきた。
「固有名を持つ武器を迷宮で用いることについても正気を疑うところであるが、アユム殿、身代わりのミサンガはいかがいたす? 万が一があらば、命を失うのだぞ?」
「アクセサリーに付けられない以上、身代わりスキルは頭装備に付けています」
俺の答えを聞き、彼らはさらに呆け顔を晒す。
「スキルが発動すれば装備品は壊れてしまうのですよ? 安物のミサンガならともかく、頭装備を使い捨てにするのですか?」
「ゴスラーの申す通りよ。仮に使い捨てるとした場合、安い頭装備を使うのであろう? そのようなことをすれば防御力が大きく低下する。とても正気の沙汰とは思えん」
そ、そこまで言う?
合理性を考えるなら、アクセサリーは攻撃力や魔法攻撃力がアップするようなスキルを付けるべきだと思うんだけどなぁ。
……いや、そんな考えになるのは、今まで致命傷を負った経験がないからか。
防具に物理ダメージ削減や魔法ダメージ削減といったスキルを惜しげもなく付け、しかも俺の勇者やセリーの鍛冶師、そしてベスタの竜騎士には体力上昇のパーティー効果がある。
つまり、ちょっとやそっとの攻撃では身代わりスキルが発動することはない。
しかし、他の人が同じことをできるだろうか?
限られたジョブでやりくりしないといけないのに加え、勇者を取得するのはほぼ不可能。
ダメージ軽減系のスキルが付いた装備品を揃えるためには、大金を用意しなくてはならない。
身代わりスキルが発動する確率は、俺たちとは比べ物にならないだろう。
ミサンガ以外の高性能防具に身代わりスキルを付け、それが発動して壊れた場合、その金銭的なダメージはいかばかりか。
不本意ながら、正気を疑われるのも無理はない。
いや、本当に不本意だけどね?
とりあえず、それらしいことを言って誤魔化しておこう。
「その作戦が取れるのは、パーティーメンバーの能力によるところが大きいです。前線で敵の攻撃を回避し続けるロクサーヌとミリア。そしてセリーの鍛冶師とベスタの竜騎士が抜群の安定感をもたらしてくれています。そのおかげで、私はダメージを気にすることなく攻撃に専念できるのです。彼女たちがいなければ、このようなことを考えることはなかったでしょう」
「ふむ……」
それを聞いたハルツ公は顎に手を添え、何やら考え始めた。
程なくして、考えがまとまったのか、顔をこちらへ向ける。
「その方らの迷宮での戦闘を確認させてもらいたい。第三位階の試験の際は、余も立ち会うことにしよう」
え? 推薦者が試験に立ち会うのってオッケーなの?
思わずゴスラーを見遣ると、彼は呆れたように公爵を見つめていた。
そして、俺の視線に気がつき、説明を行う。
「入会試験については推薦者が立ち会うことはできませんが、昇格試験についてはその限りではありません。ただし、昇格試験であっても、推薦者が試験官になることはできません」
そりゃそうだわな。
でもまあ、問題がないならそれでいいさ。
「であれば、私に否やはございません」
公爵閣下の仰せのままに、ってね。
「うむ。では、そうだな……。試験は五日後に行えるよう手配しておくゆえ、夏の十九日目の同じ時間にパーティーメンバーと共に、ここへ参られよ」
前回もそうだったし、さらに言うと原作でもそうだったが、勝手に試験の日程を決めていいもんなのかね?
試験官の都合もあるだろうになぁ。
だからといって、『無理です』なんて言えるはずがないし、そもそも言うつもりもない。
「承知いたしました」
頭を下げて承諾させていただきましたとも。
自宅へ戻り、食事をとりながら先ほどのハルツ公とのやり取りを話す。
一通り話を聞いたところで、ロクサーヌが不敵な笑みを浮かべながら、口を開いた。
「五日後ですか。今すぐにでも討伐は可能ですが、仕方がありません。それまではベリッサ南の迷宮を探索しつつ、ボス戦の訓練を行いましょう」
セリーもその言葉に同意を示す。
「そうですね。ご主人様が持てる力の全てを発揮なさった場合、五十階層のボスでは相手にならないでしょう」
まあそうだな。彼女の言う通り、オーバードライビングからのクアドラプルアタックで完封することも可能だろう。
油断するわけにはいかないが、そうそう事故が起こるとは思えない。
「五日後が待ち遠しいですねー」
ミリアが花丸笑顔でそう言うと、ベスタも微笑みながら首肯した。
「はい。今から楽しみです」
うん。みんなもやる気十分だ。
いっちょ、迷宮討伐を成し遂げてやろうじゃないの。
田川 歩 男 18歳
遊び人Lv64 勇者Lv55 冒険者Lv59 魔道士Lv59 武器商人Lv45 僧侶Lv44
装備 サンダル 身代わりのミサンガ
ロクサーヌ ♀ 16歳
巫女Lv37
装備 サンダル 身代わりのミサンガ
セリー ♀ 16歳
鍛冶師Lv35
装備 サンダル 身代わりのミサンガ
ミリア ♀ 15歳
探索者Lv32
装備 サンダル 身代わりのミサンガ
ベスタ ♀ 15歳
竜騎士Lv30
装備 サンダル 身代わりのミサンガ
BP振分 残BP:31
キャラクター再設定:1
必要経験値二十分の一:63
シックススジョブ:31
詠唱省略:3
鑑定:1
ワープ:1
MP回復速度十倍:31
所持金:9,591,114ナール
夏の14日目