異世界迷宮へ行ったなら   作:三星織苑

285 / 300
282 ダブルリーチ

 

 

 

 

 

クーラタル郊外

アユムの家

 

 

 

 

 

 目が覚めたら身支度を整え、いつものようにミーティングを行う。

 

 今日は帝都の美術店に依頼していた、献上用の豪華版トランプの受取日。

 朝食をとってから受け取りに行くとしよう。

 夏の十九日目は帝国解放会の昇格試験を受けるために、ボーデの宮城へ行くことになっているし、そのときに献上するってことで。

 献上する際は事前に面倒なやり取りが必要って話だったが、既に俺たちはツーカーの仲。

 いきなり渡しても問題はないはずだ。

 

 ……駄目かな?

 

 さらに今日からはボーナスポイントの振り分けを見直すことにする。

 これまでは魔物部屋を潰す際に売却益を考え、レアアイテムが残る確率が上がるよう、レアドロップ率二倍のスキルが付いたドラウプニルを装備していた。

 しかし昨日、白魔結晶を売却したことで、所持金は一千万ナールを超えている。

 それならアクセサリー六や、結晶化促進六十四倍を付けて金儲けに走るより、獲得経験値二十倍を付けてレベルアップを優先した方がいいだろう。

 ロクサーヌたちもその方がいいと言ってくれた。

 残った1ポイントはワープに振って、迷宮で結晶化促進に変更すればいいだろう。

 

 オーケー。この後の探索からはレベルアップが加速するぜー。

 

 

 

 

 

ベリッサ南未開地域の迷宮

五十三階層

 

 

 

 

 

 今日も今日とて、薄暗くて危険な迷宮に挑む我がパーティー。

 すっかりダンジョンシーカーが板についており、五十三階層の魔物といえども敵ではなく、一切障害にならない。

 

 我等が前に立ち塞がりし すべての愚かなるものに

 我と汝が力もて 等しく滅びを与えんことを

 

 なんて、呪文の一つも唱えたくなりますな。

 

 ロクサーヌからタイムアップの言葉が聞こえてきたため、バトルマーメイドとの戦闘訓練をしてからクーラタルへ戻ることにする。

 

 

 

 ボーナスポイントの振り分けをする際、ついでに鑑定を付けてレベルの確認だ。

 

田川 歩 男 18歳

遊び人Lv65 勇者Lv55 冒険者Lv60 魔道士Lv60 武器商人Lv49 僧侶Lv49

装備 聖剣アスカロン 身代わりの硬革帽子 頑強のアルバ 剛腕のミスリル鉄鋼 オラクルビットローファー よりしろのイアリング

 

 お? 魔道士のレベルが上がってる。

 それに武器商人と僧侶の両方ともリーチ中じゃん。ダブルリーチじゃん。

 

 ……全然関係ないけど、麻雀のダブルリーチって違和感のある役名だよな。

 

 そもそも、あと一手で上がる状態のことをリーチって言うのは、麻雀用語を発祥とする和製英語で、英語圏ではまったく伝わらないらしい。

 まあそれはともかく、リーチ自体の名称には何の違和感もないけど、第一巡でリーチを掛けることをダブルリーチって役名にするのはおかしくない?

 ファーストリーチとか、ポイントアップリーチってんなら分かるけど、ダブルリーチだと直感的なイメージと一致しない。

 ぶっちゃけ、リャンメン待ちとか、シャンポン待ちの方がそれっぽいもん。

 

 ……いや、マジで全然関係ないわ。

 

 まあ、次の探索からは結晶化促進ではなく鑑定を付けて、頻繁にレベルの確認をするとしよう。

 

 思いっきり明後日の方向へ脱線していった思考を引き戻し、ボスへと挑む。

 

 

 

 今回の釣り役はセリー。

 彼女も前回に比べてバトルマーメイドの攻撃を回避できるようになっていた。

 一度サシでやり合った上に、他の人の戦闘をじっくり観察している成果が出ているのだろう。

 ロクサーヌ師匠も駄目出しをしつつ、その点を褒めていらっしゃった。

 打たれ強い上に攻撃そのものを食らわないなんて、めちゃくちゃ頼もしい。

 セリーよ。共に訓練に励もうではないか。

 

 

 

 

 

帝都

美術店

 

 

 

 

 

 朝食と食休みを済ませて帝都の美術店へ飛ぶと、ガンギマリの目をした男が俺たちを出迎えた。

 

「お待ちしておりました! セリー様の絵は完成しております! ただいまお持ちいたしますので、どうぞご確認ください!」

 

 声でっか! やばっ、こいつ!

 

 静かな店内に大声を響かせたのは画家のドニ。

 全体的に疲れ切ったというか、魂を削ったというか、不健康そうな見た目にもかかわらず、その瞳を爛々と輝かせ、口は裂けているのかと言わんばかりに弧を描いている。

 

 おいおい。普段動じることのないロクサーヌすら引いてるぞ。

 

 呆気に取られていると、苦笑を浮かべながら店主のアンリが姿を現す。

 

「申し訳ありません。彼の言う通り、今回も早めに仕上げているのです。よろしければ本日の納品とさせていただきたく」

 

 ドニに視線を移すとバッチリ目が合い、恐ろしい笑みを浮かべながら大きく頷いた。

 

 前回もそうだったけど、十日も巻いてやがるぞ。マジでヤバいなこいつ……。

 

「早めに受け取れるのならありがたいくらいだ。もちろん異存はない」

 

 俺の言葉を受け、アンリはイカした仕草で礼を執る。

 

「ありがとうございます。それではご注文いただいたカードと共にお持ちいたします」

 

 そう言うと、ドニを促し奥の部屋へと入っていった。

 

 彼らの姿が見えなくなったところで、ロクサーヌが呟きを漏らす。

 

「なんと言いますか、相変わらず独特な雰囲気をお持ちのお方ですね……」

 

 セリーは頷きながらそれに続く。

 

「はい……。とても変わった人物です……」

 

 二人とも言葉を選んでんなぁ。

 

「えっと、でも腕は確かですし、今回も良い絵を描いたんじゃないでしょうか」

 

 ミリアは苦笑を浮かべながらフォローを入れている。

 

 彼女の言う通りだ。

 前回描いてもらったロクサーヌの絵は、それはそれはすごいものだった。

 自室に飾っているが、絵の中の彼女と目が合うたびにドキドキだ。どきどきポヤッチオだ。

 

「ええ。確かに実力はあるのですよね」

「そうですね。性格など問題にならないほどの能力でした」

 

 ロクサーヌとセリーは納得したように頷いている。

 

 あの、君たち? その言い方は奴の性格に難があるってド直球で言っているのと同じなんですが……。

 

 ロクサーヌ、セリー、ミリアは落ち着きを取り戻したものの、ベスタは未だ呆然としたご様子。

 

 インパクトのある男だもんなぁ。あんな奴を見たのは初めてだろうし、そうなるのも無理はない。

 まあ、あと数回依頼するわけだし、そのうち慣れるでしょう。

 

 

 

 やがて、ドニは布の掛けられた物を、アンリは綺麗な小箱を携え、店内に戻ってくる。

 そして、俺たちの前まで来ると、ドニは布を取り払った。

 

 中から現れたのはピンクのドレスに身を包み、はにかんだような笑みを浮かべる愛らしい妖精さん。

 まるで目の前に愛しい人がいるかのように、恥ずかしそうでありながらも喜びに満ちあふれた姿が、繊細なタッチで描かれている。

 セリーの魅力が、余すことなくキャンバスに切り取られていた。

 

 見惚れているのは俺だけではない。四人もキャンバスに釘付けとなっている。

 

 ……やはりこの男はすさまじい実力を持った画家だ。

 これだけすごい絵を描いてくれたし、トンチキな言動なんて問題にならない。

 いや。逆にそういう男だからこそ、突飛な行動をとるのだろう。

 まあ、今後も彼に依頼するってことで。

 

 アイテムボックスを開き、そこから金貨五枚を取り出した。

 前回の追加報酬は依頼額と同額の金貨三枚だったが、二回連続で素晴らしい絵を仕上げてもらったのだ。感謝の気持ちを込めて増額しておこう。

 

「今回も素晴らしい絵を仕上げてもらったことを感謝する。心ばかりだが受け取ってくれ」

 

 金貨を差し出しながらそう告げると、憑き物が落ちたかのようにドニの表情が緩む。

 

「こちらこそありがとうございます。まったく名の知られていない僕に依頼をいただけたこと、そして絵を褒めてくださるだけではなく、このように追加報酬までいただけるなんて、まるで夢のようです」

 

 金貨を受け取り嬉しそうにしているその様子は、初めて会ったときに感じた朴訥な青年そのものだ。

 

「それでは次はこのミリアを、そしてその次はこのベスタの絵を頼む」

 

 二人を手で示しながらそう言うと、ドニのテンションが再び跳ね上がる。

 

「ロクサーヌ様とセリー様も魂に訴えかけてくるような美しさですが、ミリア様とベスタ様も魂が揺さぶられ、創作意欲が無限に湧き出るような美を体現しておりますね! では早速、視野記憶を行いますので、別室へ移動しましょう!」

 

 えーっと、ロクサーヌの絵を受け取った時にも、まったく同じやり取りをした気がするんですが。

 実力があるのは確かなのに、本当にネジの外れた男だなぁ。

 

 衣装の準備がある上に、ドニには疲れが残っているため、視野記憶を使うのは明日にしてほしいと告げたところ、疲れを思い出したのか、電池が切れたように奴のテンションが一気に落ちる。

 そして、ゾンビのような足取りで店を出て行った。

 

 まったく同じやり取りを前回もした気がするぞ。

 ほんと、変わった男だこと。

 

 

 

「なんだかすごい人でしたね……」

 

 ドニが見えなくなったところでベスタが呟いた。

 

 そりゃ、初見だとそういう感想になるわな。

 

 彼女の言葉にロクサーヌたちも、思わずといった感じで頷いている。

 

 どうやら初見じゃなくてもそういう感想になるらしい。

 まあ、俺だって同じことを思っているしな。なんともクセの強い男だこと。

 

 そんなことを考えていると、アンリが仕切り直すように咳払いを行い、カウンターに載っている小箱のふたを取った。

 

「それでは次にこちらをご確認いただけますか?」

 

 そして、箱の中からカードを取り出し、扇状に広げていく。

 

 お? デザインが違う?

 

 自分たち用に注文したトランプは、中央に四種類それぞれのマークを、左上と右下に数字を配置しただけの簡易的なものだった。

 しかし、提示されたものは数字と同じ数のマークが描かれている。

 

 おいおい。どうなってるんだ? ジャック、クイーン、キングこそないものの、どこからどう見てもトランプの図柄だぞ?

 まさか偶然同じアイデアを思いついたのか? そんなことってある?

 

 あまりのことに考え込んでいると、アンリが不安げに問いかけてきた。

 

「デザインを変えてしまい、申し訳ございません。お気に召しませんでしたでしょうか?」

 

 おっと。物自体には満足しているんだ。誤解されては困る。

 

「いや。素晴らしい出来栄えに満足している。それに依頼する際、すべてそちらにまかせると言ったのだ。デザインを変更したことについても、とやかく言うつもりはない」

 

 それを聞き、彼の表情が緩んだ。

 

「ありがとうございます。お気に召していただけたようで、安心いたしました」

 

 そう言うと彼はカードを箱に詰め、布に包んでこちらに差し出した。

 受け取ったそれをリュックにしまい、いとまを告げる。

 

「では、これで失礼する。もしかしたら今後も依頼することがあるかもしれん。そのときはよろしく頼む」

「お待ちください」

 

 しかし、アンリはそれを遮り、決意に満ちた顔をこちらへ向けた。

 

「実は試作として作ったものがいくつかありまして、職人たちが独自に遊び方を考え、夢中になって楽しんでいるのです」

 

 うん?

 

 視線で続きを促すと、彼は話を続ける。

 

「このカードは帝国中で人気になるでしょう。どうか私どもに販売許可をいただけないでしょうか?」

 

 あー。そうきたかー。

 トランプはハルツ公にアイデアごと献上するつもりだったのに、困ったことになったぞ。

 

 ……いや、この世界に著作権保護の概念なんてない。

 それこそダマで販売すればいいだけなのに、こうやって筋を通してくれたんだ。交渉の余地はあるはず。

 

「それについてなのだが、このカードはそのアイデアや遊び方も含めて、さるお方に献上する予定なのだ」

「さるお方でございますか?」

「うむ。お名前を申し上げるわけにはいかないが、大変高貴なお方だとだけ言っておく」

「高貴なお方……」

 

 アンリの顔は完全に強張っており、余計な提案をしたことについての後悔が浮かんでいた。

 

「その際、こちらの店が素晴らしい技術を持っている旨を伝えておくので、確実とは言えないが、お声を掛けてくださるかもしれない。そのときは今回のように確かな仕事をしてくれると助かる」

 

 もしかしたらハルツ公とビジネスパートナーになった上で、ヒット商品を扱えるかもよ?

 バックが公爵となれば、大々的にパクられることもないだろうし、大きな利益が得られるかもな。

 もっとも、パブリッシャー兼デベロッパーではなく、デベロッパーとしての商売になるから利益も小さくなるんだろうけど。

 それに確実とは言い難いし、まあ期待せずに待ってくださいな。

 

「ありがとうございます。それではそのときを楽しみにしておくことにいたします」

 

 表情が明るくなったアンリに見送られながら、店を後にする。

 

 

 

 

 

クーラタル郊外

アユムの家

 

 

 

 

 

 一度自宅に戻って絵を置き、すぐに金物屋へと走る。

 まあ、走るといっても実際にはワープで移動して、そこから歩くんですけどね。

 

 そして、絵を飾る金具を購入したらそのままとんぼ返りだ。

 再び自宅に戻ったところで、ロクサーヌの肖像画の左隣に金具を取り付け、絵を設置する。

 

 ガラス窓から差し込む光が、ドレス姿の美女二人を柔らかく包み込んでいた。

 

 キャンバスの中の女神たちがこちらを見つめている。なんと幻想的な光景だろう。

 

「素晴らしい絵ですね……。本当の私とは全然違います……」

 

 心を鷲掴みにされていたところ、セリーの呟きが耳に届く。

 

 何をおっしゃるウサギさん。

 原作ほど卑屈じゃないが、うちのセリーも割と自己肯定感が低いよなぁ。

 

「セリー。確かにこの二つの絵はとても素晴らしい」

 

 そう言って彼女の方に両手を置く。

 

「でもね? 君やロクサーヌ本人の方が遥かに魅力的だ。見ているだけで心が震え、熱い情動が掻き立てられる。それは比べるようなものじゃないんだよ」

 

 ロクサーヌも微笑みを浮かべながら、口を開いた。

 

「セリーはとても愛らしくて魅力的ですよ。自信を持ってください」

 

 さらにミリアもそれに続く。

 

「私たちはご主人様が惚れ込んでいるほどの美女なのです! カシア様にだって負けてません!」

 

 この娘、すごいことを言うなぁ。相手は公爵夫人だって分かってんのかね?

 いやまあ、俺的にはその通りなんだけどさ。

 

 彼女の言葉に苦笑を浮かべながら、ベスタも言葉を重ねる。

 

「えっと、カシア様についてはさておき、セリーさんはとても綺麗で可愛いと思います」

 

 どうやら公爵夫人より自分たちの方が美しいとは言えなかったらしい。そりゃそうだ。

 

 驚いたように俺たちの言葉を聞いていたセリーだったが、徐々に表情が綻んでいく。

 

「ふふ。ありがとうございます。そうですね。ご主人様が魅力的だと感じてくださっているのです。それが答えですよね」

 

 彼女ははにかんだような笑みを浮かべ、こちらをまっすぐ見つめていた。

 

 あら、可愛い。

 

 

 

 

 

田川 歩 男 18歳

遊び人Lv65 勇者Lv55 冒険者Lv60 魔道士Lv60 武器商人Lv49 僧侶Lv49

装備 カッカラ 倹約のダマスカス鋼盾 ズケット 頑強のアルバ 身代わりの竜革グローブ オラクルビットローファー よりしろのイアリング

 

BP振分 残BP:0

キャラクター再設定:1

必要経験値二十分の一:63

シックススジョブ:31

詠唱省略:3

鑑定:1

ワープ:1

MP回復億度二十倍:63

 

所持金:10,617,672ナール

 

夏の15日目

  1. 目次
  2. 小説情報
  3. 縦書き
  4. しおりを挟む
  5. お気に入り登録
  6. 評価
  7. 感想
  8. ここすき
  9. 誤字
  10. よみあげ
  11. 閲覧設定

▲ページの一番上に飛ぶ
X(Twitter)で読了報告
感想を書く ※感想一覧
内容
0文字 10~5000文字
感想を書き込む前に 感想を投稿する際のガイドライン に違反していないか確認して下さい。
※展開予想はネタ潰しになるだけですので、感想欄ではご遠慮ください。